ようやく大学も夏休みに入り、更新を再開します。
楽しみにしてた方、お待たせしました!
ーーー残念だったわね。
ルシウスはファミレスから離れ、ホテルに向かって歩いていた。
既に日が落ち、あたりは電灯の光でぼんやりと見える程度で人通りは少なくなっている。
そんな道をのんびりと歩いている時にルシウスにのみ聞こえる声が頭に響く。
(ん、何が?)
ーーー交渉よ。決裂したじゃない。
(あぁ、あれね。気にしてないよ。分かっていたことだし)
ーーー決裂することが?
(うん)
ーーー「僕が司る」って言っていたときは本気のように聞こえたのだけど。
意外そうな声で彼女が言った。
(ゼノヴィアとイリナが僕に言われたからといって従ってくれるとは思えなかったから)
しかし、アーシアと出逢い、アーシアの心を知って、ルシウスはその頻度を落としていき、遂には任務でなくとも悪魔や堕天使を探していたというのに任務の要請がなければアーシアのところに居座るようになっていた。
それどころか、復讐対象に関わらない任務に関しては他の『神の使徒』に押し付けようとする始末。
そんな、女に堕落していくルシウスをゼノヴィアとイリナは引きずり、無理矢理連れて行くというのが離反するまでの半年のながれであった。
そのためか、最初の頃にはあった尊敬のまなざしが2人から感じることがなくなりルシウスは、失望されたかな、なんて思っている。
さらには何も言わずに離反し姿をくらませたのだから、いまさら従うはずがないとも。
事実、ゼノヴィアとイリナが従うことはなかった。
(だけど、目的は達成できた)
ーーーそうね、目的は達成されたわ。
ゼノヴィアとイリナに会う。
それも確かに目的の1つだ。
黒歌にもそう伝えて出てきたのだから。
それにルシウスは彼女らを嫌ってなどいない。
むしろその真っ直ぐさを好ましくさえ思う。
アーシアや黒歌がいなくともいずれ彼女らと過ごすことで教会離反前の状態まで時間はかかったとしても精神を持っていくことができただろう。
人を嫌うルシウスがそれほどまでに評価する人物は数えるほどで、もしゼノヴィアとイリナがそのように思っていることを知れば、飛び上がって喜ぶことだろう。
そんな感情を持っているのだから様子を見に行こうかくらい、思いもする。
だが、復讐の前に彼女らのことなど些細なこと。
アーシアは別であるが。
いま最も知りたいのは教会側と悪魔側の動きだ。
教会から増援が来るのか、他の『
悪魔たちはこの地を治めるリアス・グレモリーとその友人ソーナ・シトリーの眷属たちだけならばどれだけ動こうとも障害になることはない。
最近、赤龍帝が目覚めたなどと冥界でも天界でも騒がれているが、まだるのような脆弱な存在でしかない。
いるだけで鬱陶しい限りではあるが、それも障害にはなりえない。
虫ほどの力しかない脆弱な存在などに邪魔させるほどルシウスは弱くない。
しかし、悪魔たちの兄弟は別だ。
リアス・グレモリーとソーナ・シトリーの兄と姉は魔王ルシファーと魔王レヴィアタン。
もし、魔王やその眷属、それに準ずる者が現れた場合、どちらとも相手取ることになるやもしれない。
負けるとは言わないが、勝てるとも言えない。
まだ時期尚早だろう。
だが教会はこれ以上の援軍はよこさないし、リアス・グレモリーは不干渉だと言う。
おそらくソーナ・シトリーも同じだろう。
グレモリー眷属とシトリー眷属の4人は独自に動くようだが、虫以下の下級だ。
気にするほどではない。
例えその中に聖剣計画の生き残りがいようとも。
何度もルシウスに話しかけようと口を開いていたが、人などよりも悪魔を特に嫌うルシウスからすれば、そこまで身を落とした兄妹ルシエルとルシアの同志のことなど、計画を憎むルシウスにとっても同志だとしてももはや同志などではなく、敵以外の何者でもない。
木場祐斗自身もルシウスの態度からそれを悟ったようで、話かけようとはしても最後まで話しかけることはなかった。
(教会はゼノヴィアとイリナの2人。悪魔側は蟻がちらほらと動くのみ)
ーーー私たちの障害になりはしない。
(けど、バルパー・ガリレイと手を組んだ相手が少し面倒だ)
ーーー聖書に記されし古の堕落した天使。
(堕天使コカビエル。僕の復讐対象の可能性もあるけど、生憎と両親は堕天使コカビエルほどの大物に目をつけられるほどの悪魔祓いじゃなかった)
ルシウスの両親は一流の悪魔祓いではあったが、ルシウスのように
あくまで『一流』の、『超一流』ではなかったのだ。
それゆえに堕天使コカビエルのような聖書に記されるほどの大物に狙われる可能性は低かった。
事実ルシウスがあの日殺した堕天使の中に2対4翼の堕天使はいてもそれ以上の堕天使はおらず、上級クラスほどの力はなかった。
ルシウスの両親を殺すことができたのだって個々ではなく集団としての力によって成されたことで、個々でならば両親が負けることもなかったのである。
だが、集団とはいえ下級中級クラスの堕天使に負けたのだ。
その程度の悪魔祓いに堕天使コカビエルが目をつけるとは考えづらい。
そのためルシウスは堕天使コカビエルのことは復讐対象としてではなく、あくまでバルパー・ガリレイを殺すのを邪魔立てする小汚い鴉という認識だった。
ーーー確かに面倒な相手ではあるけれど、私のチカラを使えば簡単に殺せるわ。
(確かに、
ーーーそう。久々の戦闘だの思ったのだけど残念ね。
(大丈夫だよ。これから世界は
また彼女はそう、と言い残して頭に声が響かなくなる。
ルシウスは夜道の真ん中に立ち止まり月を見上げて右手を月を投げるかのように伸ばす。
「あぁ、待っていてくれバルパー・ガリレイ。もう直ぐ君を殺しに行くよ」
☆☆☆☆☆
「ただいま」
ホテルに帰るとまだ黒歌は帰ってきていなかった。
テーブルの上には「出かけてます」とメモが書かれた紙が貼られている。
ルシウスはソファに座り込み、ひと息つく。
思えばここ数ヶ月世界を飛び回っていたことから、今日ほどのんびりとした日を過ごしたのは久しぶりだった。
昨日も駒王町に来るまでは中国の密林で悪魔たちと戯れていた。
最も戯れていたのはルシウスだけで悪魔たちは必死に応戦していたのだが。
「はぁ……」
背もたれにもたれかかりだらりと脱力する。
そしてゆっくりの目を閉じていった。
どれだけ時間が経ったのだろう。
カチッ、カチッと時計の針の動く音が静まったその部屋に響く。
他の音といえばルシウスの口から漏れる吐息の音のみであった。
時計を見れば既に深夜0時をを越えて1時にさしかかろうというところ。
起き上がって部屋を見回してみればまだ黒歌の姿は見えず帰ってきていないらしかった。
意識が覚醒していくに伴って腹が減っていることに気づく。
(そういえばディナーを食べていなかったな)
ディナーのことを考えれば、余計にお腹が空いてきて冷蔵庫を開けて何かないかを探す。
飲み物はあれど食べ物はないことに苦笑いを浮かべると、ホテルのレストランへ向かうことにする。
まだやっているだろうかと思いながら立ち上がったところで、ここより北の方角より巨大な魔力反応を感知した。
窓から外を見れば天に浮かぶ巨大な魔方陣。
「ん、始まったか」
悪魔たちの用いる魔方陣とは違う人間の魔術によって生み出させる魔方陣。
どうやらバルパー・ガリレイとコカビエルが始めたらしかった。
魔方陣の場所へ意識を向ければ、かすかな魔力反応も複数存在するのがわかる。
既に戦いは始まっており、感知した中には不干渉だと言うリアス・グレモリーの魔力まで存在した。
けれどそこに魔王たちの魔力反応はない。
他にもゼノヴィアの魔力は感じるがイリナの魔力はそこより離れた遠く、住宅街の立ち並ぶ一般家庭の家にいるらしかった。
何をやっているんだとかつての部下に心の中で叱咤するが、ふと思えば人のことを言えないなと思えて、クスリと笑う。
ルシウスは窓を開けベランダへ出ると、ゆっくりと詠唱を開始した。
それはその身を神へと近づける聖なる句。
ルシウスの身体に白いラインが走り、そのラインから光が漏れ出す。
頭上、背中、両手足首に光の輪が浮かび上がり、瞳の色が碧から金へと変わる。
聖句を紡ぎ終えると、身体に走ったラインから光は漏れなくなり、ラインのあった場所には聖刻が刻まれ、身体の6箇所に浮かぶ光の輪から光のチカラが溢れんばかりに輝いていた。
『聖人』
教会によって幾度となく厳しい審査によって認められる殉職者たちのこと。
数十年から数百年かけて認められる聖人たちは皆崇敬の対象である。
ただし、ルシウスは違う。
ルシウスは人によって認められた聖人などではなく、
神の祝福をその身に受け、人を超越した存在。
身体に聖刻が刻まれ、肉体強度は純血悪魔と比べてもなんら劣らない。
天使と同じく身体に光の力が宿り、天使と違うのは羽が無いこと、背中、両手足首に光の輪が出ていることぐらいであり、その戦闘力は下級悪魔など歯牙にかけないほど。
ルシウスはその力を駆使し、『
いま『
つまりは現在存在する最も尊き、最も強き人間は
『ルシウス・ランスロット』
かの有名な伝説最強の騎士であるサー・ランスロットの子孫。
教会の切り札の1人であった現代の英雄なのだ。
戦闘回は次回となります。