堕落の聖人〜最強のはぐれ悪魔祓い〜   作:赤嶺

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ひっそりと……


第7話

第7話

 

時は駒王学園にリアスたちグレモリー眷属が、騎士木場祐斗が聖剣計画の真実を知った時まで遡る。

 

聖剣計画とはバルパー・ガリレイが進めた狂った計画である。

 

元々は聖剣を信者たちが誰でも使えるようにと発足された計画であった。

 

その計画の立案者こそバルパー・ガリレイ。

 

バルパー・ガリレイは幼い頃から聖剣、その中でもとりわけエクスカリバーが大好きな少年であった。

 

しかし、バルパー少年には聖剣を扱う才能はなく、その反動でより一層エクスカリバーへの憧れが募る日々。

 

そんなとき聖剣計画の承認が下りたときバルパー・ガリレイは歓喜した。

 

もし、この計画が成功すれば自分が、自分ができなくとも自分と同じく聖剣への憧れを持つ信者たちが誰でも聖剣を扱うことができるようになるのだから。

 

剣を扱う才能や神器(セイクリッド・ギア)を持つ孤児たちを集め、実験は進められたが、やはり最初はうまくいかなかった。

 

計画を進めるにつれて増えていく孤児たち。

 

気がつけば計画が始まって数年が過ぎていた。

 

計画はある程度進み、聖剣を扱うにはある因子が必要であることがわかった。

 

しかしその因子を集められた孤児たちは因子を多少宿してはいても聖剣エクスカリバーを扱えるほどの因子の量ではなかった。

 

あと少しで到達しそうな孤児はいた。

 

1人は最年少で悪魔祓い(エクソシスト)になり、あと数年で特務機関イスカリオテのメンバーになるのではないかと言われる少年の妹の少女。

 

聖剣系の神器を宿しており、その神器は単純威力はエクスカリバーに劣ってはいてもその相手次第ではどの聖剣よりも強力なものになるだろうとされる。

 

1人は孤児の中で最年長の青年。

 

神器は宿していないが剣の才能が素晴らしく、剣の教官からも高評価をもらっていた。

 

1人は見た目が優れた少年。

 

魔剣系の神器を宿しており、聖剣よりも魔剣に愛されている子どもではあるが、他の孤児と比べると因子は多かった。

 

そこでふと、ある考えが浮かんだ。

 

孤児たちの因子を抜き出し、3人に注ぐことはできないかと。

 

孤児たち全員の因子を集め、その3人に注ぎ込めばその3人の因子量はエクスカリバーを扱うことのできるだろう想定因子量に到達する。

 

因子を抜いてしまえば抜かれた孤児は死んでしまうだろうというのが、バルパーたち関係者の考えであったが計画は継続した。

 

自分たちの因子を使って仲間の中から3人もの聖剣使いが生まれるのだ。

 

きっと誇りに思うだろう。

 

現在はバルパーたちの研究をもとに死ぬことなく因子を抜き取り、聖剣使いを量産させているとのことだが、因子の抜き取りはその当時初めての試みであった。

 

そのためリスクが大きかったのだ。

 

しかしそれを承知で計画を継続、決行した。

 

結果は木場祐斗を見れば分かる。

 

成功と、失敗だ。

 

因子を抜き取ることは成功。

 

因子を注ぐ過程で聖剣系の神器を宿した少女の神器が変化、暴走した。

 

そこで計画は一時凍結。

 

教会上層部にその計画の全容を開示するよう要求され、それにより聖剣計画は無期限凍結が決まった。

 

それに伴い責任者であるバルパーをはじめとする計画関係者は投獄もしくは追放が決定。

 

バルパーは投獄されることになった。

 

それに対しバルパーは投獄されるまでの猶予期間の間に数人の部下を引き連れて聖剣計画の実験データを強奪し、行方をくらませた。

 

それから数年。

 

聖剣計画はついに実り、その完成形たるフリード・セルゼンが誕生したのだ。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

木場祐斗にとって同士たちは家族であった。

 

親の顔も知らない祐斗にとって同士たちは初めてできた家族であった。

 

教会での暮らしはとてもではないが幸せと呼べることはなく、辛いものだった。

 

来る日も来る日も実験で。

 

聖剣エクスカリバーが使えるようになれば当然、剣術は必要だろうと剣術も身体に刻み込まれて。

 

剣術の訓練では血を吐いたこともあった。

 

そんな辛い日には決まって同士たちと夢を語り合った。

 

自分たちを拾ってくれた主に恩返しがしたいと訓練に励む子がいた。

 

自分たちのような孤児を出さないために戦うと笑った子がいた。

 

弟の、兄の力になりたいと兄弟と同じ悪魔祓いを目指す兄妹がいた。

 

祐斗はいつの日かそんな彼らに憧れた。

 

自分には何もない。

 

ただ、みんなと一緒に過ごせればそれで良いと思っていた。

 

あの忌わしい惨劇が起こる前までは。

 

その惨劇を生み出した張本人が目の前にいる。

 

それだけで足が、腕が、身体が疼き早く殺せと急かす。

 

「これはキミたちから抽出した最後の結晶だ。これは私からの手向けだ、これから他の被験者たちのいるあの世へ行くキミへのな」

 

バルパーが手の中で転がしていた結晶を投げ捨てる。

 

いま祐斗にとって命よりも大切な、同志たちの因子(命の結晶)

 

祐斗の足元には孤児たちから搾り取った最後の因子の結晶が転がっている。

 

それを震える手でそっと拾い上げた。

 

手のひらの上に乗った因子の結晶は淡く輝き、ほのかに暖かい。

 

知らず祐斗の目尻からは雫が頬を流れる。

 

流れた雫は結晶を濡らし、結晶の光が強くなる。

 

気がつけば祐斗の周りには無数の人形の光が集っていた。

 

その中にルシウスに似た少女の姿も。

 

そして───

 

『───僕たちの心はいつだって』

 

「───ひとつだ。」

 

因子の結晶より現れた孤児の被験者たち同士は光となって祐斗に降り注ぐ。

 

その光景は見る者を癒し、聖者の再臨を思い浮かべるさせることだろう。

 

信徒であるアーシアとゼノヴィアはその光景に祈りを捧げ、光を苦手とする悪魔たちグレモリー眷属でさえ涙を流す。

 

そんなときだ。

 

天を覆う学校全体を包んだ外に被害を出さないための大結界が破られたのは。

 

月にヒビが入るかのように月を写した結界点を中心に亀裂が走り、ガラスが割れたような音が結界内に響く。

 

やがて結界全体に亀裂が走り、そこには元から何もなかったように消失した。

 

「そんな……ッ!?」

 

「何が起きたんだ!?」

 

大結界の消失にリアスは呆然と、一誠は何が起きたかわからずあたりを見回す。

 

コカビエルは新たな敵の出現かと大声をあげて笑う。

 

「がッ?!」

 

突如として上がった声に皆が目を向けると、バルパーの左胸に赤黒い何かが突き刺さっていた。

 

赤黒い何かの先端にはドクンドクンと脈を打つ肉塊。

 

その脈打つかのような動きはどこか心臓を彷彿とさせる。

 

否、それは真に心臓である。

 

先端に刺さっているわけでも付いているのでもない。

 

握られているのだ。

 

左胸に赤黒い何かは刺さっているのではない。

 

まさに生えているのだ。

 

手が。

 

腕が。

 

人の腕が。

 

そして───

 

何かが潰れる音がした。

 

───握りつぶされた。

 

潰された心臓から滴る血はバルパーを、その周りを赤黒く染め上げる。

 

バルパーはその光景をかすれる視界の中で見ることしかできず、倒れていく。

 

倒れるのに伴い左胸から生えた腕は引き抜かれ、バルパーが完全に倒れこむ前にもう1度振るわれた。

 

その腕が振るわれた際に舞った血の線上にはバルパーの首元があり、そこを通過すると同時に血しぶきが赤い花のように咲いた。

 

胴と別れた首は宙を舞い、さらに切断面から吹き出す血があたりを地で染め上げていく。

 

その光景に皆が息を呑み、そんな血なまぐさいことに慣れていない一誠は吐き気を催した。

 

バルパーが倒れた先に見えたのは純白の法衣を纏った男。

 

それはつい数時間前に言葉を交わした男。

 

けれどその姿は異なっていた。

 

頭上、背中、両手足首に光の輪が浮かび、碧かった瞳は煌煌と黄金に染まっている。

 

その神々しい瞳に写すのは虫ケラを潰したかのような侮蔑の色。

 

人を殺したというのにそのような目をする男に一誠は身体が震えた。

 

───これで、終わりだ。(ルシエル)の、(ルシア)の復讐は、終わった。

 

聖人(ホ・ハギオス)、ルシウス・ランスロットの姿がそこにあった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

汚物の血がべっとりとついた右手を宙に振るう。

 

血は周りを赤く染め、手の血はうっすらと残るのみ。

 

手に残った血をルシウスは不愉快そうに睨むも、空から高笑いが聞こえそちらに視線だけを移す。

 

「ハハハハハッ!まさか、まさかここで貴様と相見えようとはな、聖人!」

 

コカビエルはルシウスの登場に嬉々として言葉を放つ。

 

「サーゼクスが来るまでの余興にでもなればと、バルパーたちの好きにさせていたが思わぬ来客だ。死した神はどうやら俺に入れ込んでいると見える」

 

何気なく口にした言葉にゼノヴィアやグレモリー眷属はコカビエルを見張った。

 

「死した、神……っ!?」

 

「そうか、知らないのか。神も魔王と同じく先の三つ巴の戦争で死んだのだ」

 

「な、何を馬鹿なことを言っている……?主が死んだだと?では、私たちが捧げてきた信仰はなんだったのだ!?」

 

ゼノヴィアは激昂してコカビエルへ叫ぶ。

 

そんな馬鹿げた話はあるかと、そもそも主が死んだとほざいているのは誰だ?

 

敵であるコカビエルだ。

 

ならば誰が信じられようか。

 

目の端には自身と同様に崩れたアーシアの姿が見えた。

 

彼女は悪魔になってもまだ主への信仰を捨てていなかったのだな、と混乱する思考の中でぼんやりと浮かぶ。

 

もう1人、元とはいえ信徒がいたはずだとその者へと視線をずらせばそこにいるのは想像したような姿ではなかった。

 

彼の先ほどの行動になんら思うところはない。

 

これまで散々部下だった頃に見てきていたし、それを見てなお彼に憧れた。

 

悪魔や堕天使を相手にしていない時は自堕落ではあったが、毎日教会へ赴き主へ亡き兄妹の冥福を祈っていた姿に。

 

主の怨敵たる悪魔と堕天使を前にした時に畏怖を抱かせる姿に。

 

ゼノヴィアは憧れた。

 

真に主を敬神しているが故の行為だと、そう思っていたからだ。

 

だが、見てみるがいい。

 

ルシウスは神の死に、その意味に動じてはおらず唯々コカビエルを見据えるのみ。

 

その様にゼノヴィアは腹に沸き立つものがあった。

 

「何故、何故だルシウス!?何故そんなに平然としていられる!?主が、私たちが信仰していた主がすでに死んでいると知って!?」

 

気がつけば声を上げていた。

 

何故だと。

 

ルシウスのその態度に。

 

ルシウスは目線はそのままコカビエルへ向けたままゼノヴィアの疑問に答えた。

 

「……神の死など、疾うに知っていた(・・・・・・・・)

 

コカビエルより齎された神の不在に動じてなくとも何らおかしなことはない。

 

既に(・・)に知っていることに何故動じる必要があるか。

 

「……そもそも、()は神など信じていない」

 

ルシウスから発された言葉にゼノヴィアは息を呑んだ。

 

知っていた?

 

主が、既にいないことを?

 

そして、

 

主を信じていなかった?

 

ゼノヴィアには理解できなかった。

 

聖人とは主に認められし聖なる(ともがら)であったはず。

 

それなら信仰していないなどあり得るはずがない。

 

いや、そもそも聖人が生まれていることすら可笑しな話だ。

 

聖人とは主に愛されし子(・・・・・・・)

 

その存在は神の意志によって生まれ、神の劔となる者。

 

熾天使(セラフ)にもその存在を作り出すことができない神の御技。

 

それが聖人である。

 

であるならば聖人がいまこの世界に存在などするはずがない。

 

ルシウスという聖人の存在が主が生きているという何よりの証となるはずだ。

 

しかしコカビエルは死んでいるという。

 

更には聖人本人であるルシウスまでもそれを認めたのだ。

 

ならばルシウスはなんだ?

 

聖人では無い別の何かなのか?

 

格上の存在であるコカビエルとの交戦を踏まえての慣れない土地での任務、油断を許さない数時間にも及ぶ戦闘と逃走、格上の存在へ解放した制御しきれない諸刃の剣デュランダルの使用、そしてここにきて己の支柱であった信仰、その主の死。

 

立て続けに起こる出来事にゼノヴィアは考えが混濁していく。

 

だから、ゼノヴィアは聞き逃した。

 

──アーシアを失ったその日から。

 

ルシウスのその声を。

 

 

 

 

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