時は西暦一九九〇年代初頭、季節は冬。
世紀末ブームに沸く日本の片隅に存在するフユキという名の地方都市にて、五〇年ぶりとなる大魔術儀式が開催されようとしていた。
その名を"聖杯戦争"という。
七人の魔術師が七騎のサーヴァントを召喚し、彼ら彼女らが戦いによって万能の願望機たる聖杯を奪い合うという、何ともマッポーめいたイクサである。
その本番を前に、開催地となるフユキの地より遠く離れたここアインツベルンの領地にて、サーヴァント召喚の儀が執り行われようとしていた。
寒々しい空気に満たされた石造りのチャーチ。
その中心に描かれた、何やら魔法めいたアトモスフィアを漂わせる陣図の前にて、何事かを唱える銀髪の美女が一人。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
透き通るような声で詠唱を続ける彼女の名は、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。
聖杯戦争を創りあげた御三家の一つ、アインツベルンが此度の聖杯戦争のマスターとして選んだ存在であった。
己の五体から魔力を漲らせ、詠唱するは召喚の呪文。
そして召喚陣の中心に存在するのは、必勝を期してアインツベルンが見つけ出したサーヴァント召喚の触媒たる"鞘"。
伝説に語られる、かの騎士王の所有物である。
本来ならば、ここでこうしてサーヴァント召喚を行う役目を任ぜられるのはアイリスフィールではなかった。
外部より優秀な人材を招き入れ、さらに最優のサーヴァントを召喚するというのが本来のアハト翁……アインツベルンのヘッド立案の策であったのだ。
おお、ブッダよ! なりふり構わず、何よりも聖杯重点に勝利を求める貪欲さの何と恐るべきことか!
だが、残念な事にアインツベルンの眼鏡に適う魔術師は見つからなかった。
単に優秀な魔術師ならいないでもないが、アインツベルンの内に引き込める魔術師となると実際少ない。
そのためアイリスフィール自身がマスターとなる事になってしまったものの、それはミニマム・インシデントにすぎない。
元よりアインツベルンは独立独歩の家柄。
外の魔術師から有能な人材を招き入れようというプラン自体が実際間違っていたのだと、そう結論づけられたわけだ。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―─――!」
アイリスフィールの詠唱の完成と同時に、目も眩まんばかりのストロボ光めいた眩い光が召喚陣より溢れだす。
思わず目を瞑った召喚者の前で、光の中から現出する人影が一体。
光が収まり、ようやく目を開いたアイリスフィールの前に立っていたのはドレスめいた意匠の甲冑を纏った、なんともファンタジーめいた出で立ちの少女騎士。
彼女は堂々たる態度で己を招いたマスターへと向き直り、その目を真っ直ぐに見つめながら口を開いた。
「────サーヴァント・セイバー。召喚に応え参上した。
問おう。貴女が私のマスターか」
穏やかであり、また可憐な声音ですらありながら、騎士王という肩書きに相応しいキングめいた重圧を秘めた問いかけがサーヴァントから発せられる。
その言葉に対し、己を鼓舞するように軽く息を吐き、英霊の視線を臆さず受け止めながら応える銀髪の美女。
「肯定するわ。私は貴女のマスターとなる魔術師、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。
此度の聖杯戦争における勝利をアインツベルンにもたらすため、貴女の力を貸していただけるかしら」
神話めいた世界の住人たる英霊を前にして、怯むことなく、また臆することもなく。
対等のパートナーシップを結びたいのだと無言の内に視線で語りつつ、堂々と魔術師は返答する。
魔術師のその態度、そして言葉を好ましいものを見るが如く僅かに雰囲気を緩ませ、騎士王は頷いた。
「承知した。これより我が剣は貴女と共にあり、運命は貴女と共にある。
ここに契約は完了した。
我が名はアルトリア・ペンドラゴン。今度ともよろしく」
────お手並拝見だ、可愛い騎士王さん。
本来ならば、そんな世紀王の弟分めいたアトモスフィアの声が響き渡るような気がしたが、とくにそういうことはなかった。