Fate/zeroニンジャもの   作:ふにゃ子

19 / 20
その19

 

 

 雨足が強まりつつある深夜のフユキ。

 降りしきる冷たい低濃度重金属酸性雨がバイオアスファルトを叩き、陰鬱な冷気で夜闇を染める。

 

 ここ、ミヤマタウン超高級住宅地区の治安状態は実際良い。

 社会的カチグミの家々が軒を連ねるこのエリアではマッポの重点警備が常に為され、ヨタモノやパンクスなどは容赦なく排除される。

 それは聖杯戦争の期間中であったとしても、変わることはない。

 カネと権力、そして治安機構の盾に守られた平和な住宅地区なのだ。

 社会的カチグミが雨の降りしきる深夜に好きこのんで出歩く事など実際少なく、あるのは道路を走る深夜パトロールのマッポカーの姿のみ。

 

 そんな人気のない、死人の街めいた静寂に包まれたミヤマタウンの一角に、常ならぬ火の手が上がっていた。

 墜落したマグロ・ツェッペリンが無惨な姿で突き刺さり、どこにどう引火したものやら、あちらこちらからサラマンダーの舌めいた炎が姿を覗かせる遠坂邸。

 その邸宅の敷地内、残骸がそこかしこに飛び散り、戦場跡めいた惨状の前庭で対峙しあう、二騎のサーヴァントの姿があった。

 黒い葉脈めいたオーラをまとわせた竹ヤリを手にしたバーサーカー。

 そして不可視の聖剣を手に、待ちの構えのセイバーだ。

 

 その二人から少し離れた場所には、立て看板のくくりつけられた電柱を盾めいて使い、二人のイクサを見守る銀髪の美女の姿がある。

 手にはバンガサ。

 

 これは一般的なPVC加工バンガサとは異なり、伝統的手法で造られたトラディショナル・バンガサだ。

 日本の実用的な工芸品であり、主に富裕層に愛用者が多い。

 フレーム部分はバイオバンブー。鋼鉄の四倍の強度を誇るこのバイオ植物は、オーガニックバンブーの優しい手触りに限りなく近い質感を有する。

 そのフレーム上に強度に優れたバイオ和紙が幾重にも張り合わせられ、バイオパーシモンエキスと対腐食性ワックスによる入念なコーティング処理を施されている。

 これら全ての工程が職人の手作業によって行われているトラディショナル・バンガサは、一種の美術工芸品としての価値をも有するのだ。実際高価な。

 一般流通品のPVC加工バンガサと比較した場合、その価格は数百倍にも達するとさえ言われる。

 

 それほど高価な品を、彼女は気軽に普段使いしている。

 アインツベルンの財力の程が、このような些細な事柄からも窺い知れていた。

 

 冷たい雨を弾くトラディショナル・バンガサを手に、己のパートナーを見守るアイリスフィール。心配めいたアトモスフィアだ。

 

 不思議なことに、セイバーは妙に腰が引けているというか、戦意の薄いアトモスフィアだ。一体どうしたのだろうか?

 それに対してバーサーカーは戦意に満ち満ちている。

 聖剣を脇に構えてすり足で間合いをはかるセイバーへと、決断的速度で突撃する狂戦士!

 

 

「A――urrrrrrッ!」

 

 

 竹ヤリをしごきつつの正面から突進!

 その穂先がセイバーの間合いに入り込んだ瞬間、不可視の聖剣が横殴りに唸る!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 CHUR!

 おお、見よ! 竹ヤリの穂先が二インチほど切り詰められている!

 騎士王のワザマエと、その腕に見合う聖剣のケミストリーが生み出す圧倒的切断力が、宝具化した竹ヤリをも切り詰めたのか!

 恐るべき武器破壊術! タツジン!

 だがしかし、切っ先の鋭さが失われても竹ヤリは竹ザオ・ボーとなるだけで無力化はされぬ! 鈍器としては通用するのだ!

 

 

「A――urrrrrrッ!」

 

「イヤーッ!」

 

 

 バーサーカーはさらに踏み込み、セイバーの喉元目掛けて竹ザオを突き込む!

 セイバーは体を開いて狙いを外させつつ、装甲の厚いガントレットでパーリング防御! 無傷!

 しかしツナミめいて続く狂戦士の攻め! 竹ザオを横殴りに回転させ、ヤリで言うところの石突き側が側頭部を狙って迫る!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 セイバーは仰け反り回避! 同時に片手振りの聖剣がすくい上げるような軌道でバーサーカーの胸元目掛け迫る!

 バーサーカーは回避を……いや、違う!

 

 

「A――urrrrrr────ッ!」

 

 

 なんたることか! バーサーカーは守りを捨てて踏み込む!

 セイバーの手にする聖剣は、いわゆるツーハンデッド・カタナブレードツルギに近い両手持ちかつ両刃の西洋剣である。

 一般的な数打ち品とは実際比べ物にならぬほど斬れ味、打撃力ともに優れた大業物ではあるが、ライトセイバーめいて触れただけで抵抗なく相手を斬り裂くほどのデタラメさはない。

 つまり片手振りで体重も乗せていない状態では、よほどの弱敵相手でなければ必殺には至らない!

 それを見極めての踏み込みか! 野獣の本能めいた狂戦士のサーヴァント判断力!

 

 体をナナメに開き、不可視の聖剣の刃渡りを完全に見切ったかのように、ギリギリで致命傷を避けつつの踏み込み!

 漆黒の甲冑をバターめいて裂く聖剣ブレード! しかし体にはかすり傷のみ!

 セイバーはバランスを崩しており回避も防御も困難! 狂戦士の竹ザオ片手突きが胸甲に命中!

 お互いほぼ同時のカウンターヒット!

 

 

「A――urrrrrrッ!」

 

「ンアーッ!」

 

 

 血飛沫をあげて仰け反る狂戦士! 皮一枚とはいえ出血は意外に派手だ!

 カウンターの一撃以上には欲張らず、バーサーカーは一旦バックステップ!

 理性を無くしているにも関わらずクレバーな戦いぶりである。戦士の本能めいたものの為せる業か。

 

 そして胸甲への一撃を受けノックバックするセイバー! 飛び退るように大きく後退!

 たたらを踏みつつバランスを立て直し、踏みとどまる。

 

 

「A──uurrrr────……」

 

 

 アイドリング音めいた唸り声をあげつつ竹ザオを地面に捨て、新たな竹ヤリを手に取る狂戦士。

 胸甲に亀裂が走りわずかな手傷を負ってはいるものの、動きには支障なし。

 目庇からジゴクめいた眼光を輝かせ、戦意に満ちた視線を騎士王へと向け、身構える!

 

 一方の騎士王は武器にも鎧にも異常なし。

 被弾の瞬間、彼女はリアクティブアーマーめいて魔力放出を行い大きく後退することで、ダメージを最小限に留めたのだ。タツジン!

 

 だがしかし、不可視の剣を紙一重で回避するなど、常識的に考えればあり得ない選択だ。

 闘争本能めいたものを軸に戦っているならば、尚の事大げさな回避ムーブメントをとるはず。

 だというのに、何故バーサーカーは相手の得物の間合いを初めから識っているかのように避けられたのか?

 

 観戦中のアイリスフィールのニューロンを疑問が満たす。

 その一方で、何やら確信めいたものを得たアトモスフィアのセイバー。

 

 

「今の見切り……、やはり貴方は」

 

「A――urrrrrr────ッ!」

 

 

 問い掛けめいたセイバーの呼び掛けをバーサーカーは無視!

 再び竹ヤリを構えての決断的速度で突撃!

 

 

「っく、イヤーッ!」

 

「A――urrrrrrッ!」

 

 

 その穂先がセイバーの間合いに入り込んだ瞬間、不可視の聖剣が横殴りに唸る!

 CHUR!

 おお、見よ! 竹ヤリの穂先が二インチほど切り詰められている!

 バーサーカーは武器の破損に構わずさらに踏み込み、セイバーの喉元目掛けて竹ザオを突き込む!

 先ほどの焼き増しめいたシチュエーション!

 

 異なるのは、すでに後退に移っていたセイバー!

 すり足回避ムーブメントで若干開いた間合いが、バーサーカーの踏み込みを無意味にしたのだ。

 見事な見切り! タツジン!

 

 身を沈めるように打点を外させたセイバーの頬を竹ザオが掠め、彼女の白い皮膚を裂くもダメージは無し。

 そしてカウンターの斬撃が狂戦士へと向かう!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 ナムサン! これは平安時代の剣豪ミヤモト・マサシも心得ていたとされる暗黒カラテ技のカウンター技法、ゴノ・セン!

 剣の英霊であるセイバーが、生前の修練とイクサの中で得た経験により体得したキシドーのワザマエ! タツジン!

 

 先手を取って竹ザオを刺突したバーサーカーは、回避ムーブメントに移ろうにもワンアクション遅れてしまい避けられない! 肉斬骨断!

 仰け反り回避を試みるバーサーカー! しかしセイバーのサーヴァント直感力は回避ムーブメントを看破している!

 聖剣の切っ先が漆黒のクロスヘルムを斬り裂いた!

 

 

「Ar――urrr────……ッ」

 

 

 裂かれた顔面装甲を手で押さえつつバックステップするバーサーカー! 漏れ聞こえる苦しげな唸り声!

 絶好の追撃チャンス!

 しかし聖剣を振りぬいた姿勢のまま、彫像めいて動かぬ騎士王。

 

 

「やはり……やはり、貴方は────」

 

 

 戦意を失ったかのようにだらりと剣を下げ、対峙する相手へと話しかけるセイバー。

 竹ザオを投げ捨て、最後の竹ヤリを手に取るバーサーカー。

 

 

「何故……何故です、どうしてそのような姿に! 他ならぬ貴方が、何故!」

 

 

 泣き出しそうな表情で、血を吐くような悲鳴めいた声音で呼びかけるセイバー。

 唸りつつ、兜を取り去り投げ捨てるバーサーカー。

 その下から現れた顔は……おお、ブッダよ!

 かつての美丈夫ぶりを狂気めいた殺意で塗り潰した、黒雲めいたオーラに霞むオウガめいた形相のその騎士の貌は!

 

 

「答えてください! サー・ランスロット!」

 

「Arrrrrrrrthurrrrrrrrrrr──────ッ!!」

 

 

 返答は、殺意と戦意に満ちたジゴクめいた踏み込みだった。

 

 決断的速度の踏み込み! 先程までの二回と比べてもさらにハヤイ!

 骨肉に染み付いたキシドーが迫り来る殺気のこもった竹ヤリに反応し、無意識めいてセイバーの体を動かす!

 カウンターの斬り払い!

 

 

「イ……イヤーッ!」

 

「A――urrrrrrッ!」

 

「ンアーッ!」

 

 

 両者が交錯! 一瞬の後に吹き飛んだのは……セイバーだ!

 キリモミ回転して宙を舞い、バイオ石塀を突き破る! 一体何が起こったのか!

 

 アイリスフィールのホムンクルス動体視力では補足しきれなかったが、この場にサーヴァントか、あるいはニンジャが居れば容易に理解できただろう。

 交錯の瞬間、バーサーカーは竹ヤリをセイバーの聖剣へ打ち込むと同時に、サイドキックによる同時攻撃を敢行したのだ。

 盾めいて使い捨てられた竹ヤリは僅かな時間で真っ二つに破壊されたが、ワンセコンドでもバーサーカーのサーヴァント瞬発力には十分過ぎる!

 そして意識を戦闘に集中しきれていなかったセイバーが、咄嗟の回避をしくじったのも無理からぬ事!

 当たり前だ! 竹ヤリにせよサイドキックにせよ、どちらかといえばニンジャ、あるいはベトコンのカラテ!

 騎士の中の騎士と謳われた男が、そんなカラテで攻めてくれば調子を狂わされるのも当然めいた帰結!

 

 ここまで武器としてきた竹ヤリではなく、初手から蹴りによる不意打ちめいた一撃を選択する奇策。

 ここまでの二度の竹ヤリ突撃は布石だったのか?

 否、そうではない。

 今のバーサーカーに、先を見据えての戦術思考などは存在しない。あるのは本能めいた目の前のイクサへの対処能力のみ、要するに行き当たりばったりだ。

 だがしかし、狂気に陥って尚も健在なナイト判断力が、単分子ワイヤーめいて僅かなセイバーに付け入る隙を見極めさせた!

 カラテ状況判断! まさにタツジン!

 

 瓦礫を押し退けつつ立ち上がるセイバー。

 手傷は実際浅い。バーサーカーが無手のカラテの専門家でなかった事と、プレートアーマーの装甲が分厚くなっている部分にケリを受けたのが幸いした。

 もし仮にバーサーカーが騎士でなくニンジャであったならば、胴体を鎧もろともサイドキックで貫かれていた可能性も否めぬが。

 

 これはセイバーの幸運パラメータの効果か?

 アイリスフィールをマスターとする現在のセイバーの幸運値は現在のところBはある。実際平凡めいているが、低くはない。その恩恵だろうか?

 否だ。これはブッダハンドの加護めいたフロックなどではない。

 被弾の瞬間にダメージを最小限とするべく動き、身に着けている武具の全てを最大限に活かそうとするのはキシドーの基礎の基礎。

 これも一つのフーリンカザンのあらわれ!

 ブリテンにもニンジャ文化の痕跡は、僅かながらに伝来していたのだ!

 

 立ち上がったセイバーだが、狂戦士との会敵前までその躰に満ちていた烈火めいた闘気は萎え果て、もはや熾き火めいた有様。

 肉体へのダメージは微小ながら、精神的ダメージめいたものを受けているようだ。

 

 

「サー・ランスロット……」

 

 

 どう声を掛ければ良いのか、騎士王本人にもわからぬらしい困惑めいたアトモスフィア。

 彼女の視界の中で、纏っていた重金属汚染雲めいて黒いオーラを解除し、漆黒の騎士甲冑を晒すバーサーカー。

 手にしていた割れバンブーを投げ捨てる。

 

 おお、見よ!

 渦巻く魔力がその手の中に凝集し、剣めいた形状を形作っていくではないか!

 これはバスタード・カタナブレードツルギか? グラディウスか? はたまた何らかの魔術やジツの作用で生み出されるカラテエネルギーソードか?

 

 否! そのどれでもない!

 現出したのは装飾を廃した質実剛健なる拵え! LED街灯の輝きを受けて尚、夜闇よりも昏い漆黒の刃!

 ジゴクめいた魔力が磁気嵐めいて吹き荒れ、フユキの夜闇を蹂躙する! コワイ!

 

 バーサーカーがツルギを手にした瞬間、セイバーのサーヴァント観察力は眼前に立つ狂戦士のカラテが一段上昇したことを見て取った。

 この現象をセイバーは識っている。他ならぬ、アルトリア・ペンドラゴンが見誤ろうはずもない。

 数えきれぬ程のイクサ場を轡を並べて駆け抜けた戦友のキシドーに、主君が気付けぬはずもない。

 それはかつてブリテンのグランドマスター級ナイト集団たるナイツ・オブ・ラウンドテーブル最強の騎士とも謳われ、騎士王の常勝を支え続けた最高の騎士の佩剣!

 

 

「その剣は……"無毀なる湖光/アロンダイト"……」

 

 

 今セイバーの手の中に存在する星の鍛えし聖剣とも並び称せられる、精霊の鍛えし神秘の結晶!

 竜殺しの属性をも有する、騎士ランスロットの代名詞めいた無毀なる剛剣が姿を現したのだ!

 押し殺されてはいるものの、微かな震えがその名を呼ぶセイバーの声音の裏にあった。

 

 だがセイバーの動揺は、自分にとって天敵めいた性能を持つ宝具に対しての怖れから生まれたものではない。

 

 

「サー・ランスロット、貴方は、それほどまでに私が……私が憎かったのですか」

 

「A――urrrrrr────……ッ」

 

 

 騎士王の問い掛けに応えはせず、地鳴りめいた唸り声と共に魔剣を構えるバーサーカー。

 魔力不足の気配などない、十全のコンディション。一部の隙もないキシドー剣術戦闘の構え。

 そして、おぞましいまでの狂気めいた殺意が魔剣に満ちる!

 

 

「A――urrrrrrッ!」

 

 

 迫るバーサーカー! 蹂躙者めいた威圧的アトモスフィア!

 対峙するセイバーは……おお、どうしたというのか!

 聖剣を構えることすらせず棒立ち! その細首へと魔剣の刃が迫る! 危うし!

 

 KABOOOOOOM!

 

 その瞬間、バーサーカーの背に爆発の華が咲いた! 一体なんだ!?

 バーサーカーはバランスを崩し、一旦セイバーからローリング回避で距離を取る!

 

 

「■■■■────ッ!?」

 

 

 振り向いた狂戦士の目に入ったのは……おお、何たることか!

 赤く輝くLED旋回警告灯! 重装甲のビークル!

 そして押し寄せる、ケンドー装甲パワードスーツ姿のマッポソルジャー達!

 

 

「ゴヨーだ! ゴヨーだ!」「ゴヨーだ! ゴヨーだ!」

「ゴヨーだ! ゴヨーだ!」「ゴヨーだ! ゴヨーだ!」

 

 

 ソルジャー達はカーボン防盾とサイバーサスマタを古代ローマ兵めいて構えつつ駆け足前進!

 モータルならばエスケープラビットめいて逃げ出すほどのデモンズウォールめいた威圧感! コワイ!

 

 後列にはガトリングガンやロケットランチャーを担いだ重装パワードスーツ兵の姿もある! 先ほどの爆発はこれか!

 

 

「大量殺人事件のゲシュニンの一名、不確定名ブラックアーマー=サンを目視確認重点!」

 

「速やかに投降せよ! 貴様には裁判を受ける権利とベンゴシを呼ぶ権利がある!」

 

 

 威圧的宣言!

 ナムアミブッダ! これは紛れもなくフユキ市警の緊急事態即応部隊、サイバネ・キドータイ!

 全員がサイバネ強化手術を施され、ケンドーやジュードーを習得し、無数のハイテク武装を身につけた恐るべき殺し屋部隊のエントリー!

 インダストリ! テクノロジ! そしてカラテだ!

 

 

「アイエエエ!? な、なんでマッポがこんな早く!? ナンデ!?」

 

 

 驚愕するアイリスフィール!

 フユキ教会と臓器癒着めいた協力関係にある市議会からの圧力で、聖杯戦争参加者へのマッポの追求が妨害されている事は周知の事実である。

 だがしかし、バーサーカー陣営がマグロ・ツェッペリンをハイジャックし特攻するなどという無茶をやらかした!

 これはあまりにもヒドイ! 無法の極み! ブッダも怒る!

 神秘の隠蔽というニシキノボリを掲げつつも、一般人への過剰な迷惑を控えるのが通常の奥ゆかしい魔術師だが、今回の一件はあまりにもヒドイ過ぎた!

 

 フユキの治安が他地域よりも安定している事の理由の一つに、マッポの職業意識の高さがある。

 汚職発生件数は全国平均のわずか一〇%程度に留まり、ワイロもほとんど通用しない。

 それらは、自分が正しい側にいるのだという心のワダカマリの無さ、ひいてはマッポ同士の連帯感の強さを産む。

 そんな同僚を虐殺した謎の凶悪犯、パーカーニンジャとブラックアーマーを重点警戒するのは当然めいた話であった。

 報告書が上層部により改ざんされ、真実は隠蔽されていても、口コミと個人用IRCネットワーク上で情報は共有できる!

 

 

「投降の意志なし! 射殺重点!」

 

「ヨロコンデー!」

 

 

 サスマタ重装サイバネ・キドータイ兵の頭越しに、ビークルの屋根上に立つサイバネ・キドータイ兵のガトリングガンが火を噴いた!

 BLATATATATATATAT!!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 ドラゴンブレスめいた猛烈な掃射! 神秘のこもらぬ攻撃では英霊にダメージを与えるには至らないが、とりあえずノックバックはする!

 騎士王へ致命的な隙を晒しかねない状態になることを、バーサーカーのカラテ本能が許容するわけがない!

 

 振り向いたバーサーカーの手にする魔剣がイナヅマめいて閃く!

 ブンシン・ジツめいて刀身が霞み幾本にも見えるほどの連続斬り払い!

 だがしかし、ガトリングガンを構えたガンナー装甲兵がさらに一人増加! もはや爆撃めいた轟音としか聞き取れぬほどの集中砲火!

 BLATATATATATATAT!!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 ブンシン・ジツめいて刀身が霞み幾本にも見えるほどの連続斬り払い! 全弾回避!

 だがしかし、ガトリングガンを構えたガンナー装甲兵がさらに一人増加! これでガンナーは三人! もはや爆撃めいた轟音としか聞き取れぬほどの集中砲火!

 BLATATATATATATAT!!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 ブンシン・ジツめいて刀身が霞み幾本にも見えるほどの連続斬り払い! 全弾回避……いや!

 一発の銃弾が肩アーマーを掠めた! 直撃には至らずも被弾!

 ナムサン! 三対一では英霊の敏捷性を以てしても体術のみでの全弾回避は実際難しいのか!

 だがしかし、下手に離脱ムーブメントを試みれば、スコールめいて降り注ぐ銃弾でノックバックし最悪転倒は必至!

 

 斬り払いに専念しつつもセイバーへの警戒を狂戦士は絶やしていない。

 騎士王に戦意めいた気配がないことに気付いていないのか、それとも理解するだけの知性が残っていないのかはわからぬ。

 ガトリングガンを捌きつつセイバーの聖剣をも警戒しなければならぬバーサーカーは賭けに出られない!

 

 サイバネマッポの一人が物陰に隠れたアイリスフィールと、バーサーカーと対峙するセイバーを視認した。

 

 

「不確定名ブラックアーマー=サンが襲っていたと思われる市民を目視確認!」

 

「こんな夜中に何者だ、ヤクザか?」

 

「豊満な銀髪の美女と……平坦な金髪の美少女です! いずれも外国人です!」

 

「観光客か! 速やかに安全確保!」

 

「ヨロコンデー!」

 

 

 動きを封じられたバーサーカーへとサイバネマッポが壁めいた包囲網のサークルを縮める!

 アイリスフィールの前にカーボン防盾をかざしつつ滑りこむ重装サイバネマッポ!

 

 

「大丈夫ですか、お怪我はありませんか」

 

「ア……アッハイ、でも私は、その、ええと」

 

 

 ケンドー装甲パワードスーツ越しの視線を受け、咄嗟に言い訳が出ないアイリスフィール。ケンドーヘルメットのマビサシが実際威圧的な。

 魔術師のイクサをモータルに明かすことは禁忌めいた事柄だ。神秘の秘匿という意味においてこの状況は実際マズいのだが、記憶操作しようにも人数が多すぎる。

 うまい言い訳も思いつかず、まごつくアイリスフィール。どうしたものか。

 

 

「すぐ安全な場所までお連れします!」

 

「ちょ……ちょっと待って! セイバー!」

 

 

 バブルイーターめいて己のパートナーを見るアイリスフィール。

 不可視の聖剣をだらりとぶら下げ、ガトリングガンの集中砲火をさばき続けるバーサーカーの姿をじっと見つめている。先ほどまでと同じだ。

 そんなアイリスフィールの行動を、連れを心配してのものであると勘違いするマッポ。誤解!

 

 

「お連れのセイバー=サンもすぐに保護します! 実際安全です!」

 

 

 後続のマッポにアイリスフィールを任せ、同僚と共にサイバネ・キドータイ兵は再び前進!

 ガトリングガンの集中射撃が続く中、カーボン防盾を構えて決断的に進む!

 セイバーとバーサーカーの間に割り込み防御姿勢! ジゴクめいた眼光をそちらへ向ける狂戦士!

 

 

「お怪我はありませんか!」

 

「あれれ、この娘ヨロイを着てるぞ。ナンデ?」

 

「こういうファッションが流行っている国もあるんだろう、それよりすぐに保護を……アバーッ!?」

 

 

 突然の悲鳴! しぶく血シブキ!

 ナムサン! ケンドー装甲ヘルメットとケンドー装甲服の間に存在するわずかな継ぎ目にバイオバンブーが突き刺さっている! 何だこれは!?

 セイバーのサーヴァント動体視力は捉えた! バーサーカーは己の足下に転がっていたバイオバンブーの破片を、斬り払いの合間に蹴り飛ばした瞬間を!

 並ぶカーボン防盾の防壁の隙間から決断的速度で飛来した破片は、過たずマッポの首を貫いたのだ! タツジン!

 

 セイバーの金糸の髪へとブラッドオレンジジュースめいた液体が降り注ぐ。

 呆然とした様子で倒れるマッポを見つめていたセイバーが、我に返りバーサーカーへと吠えた。

 

 

「サー・ランスロット! やめてください! 私だけを狙えばよいではないですか!」

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 セイバーの制止など知らぬとばかりに、狂戦士は倒れたマッポへスライディング接近! 見よ、斬り払いムーブメントを維持したまま移動している! 実際器用な!

 首から鮮血を吹き上げているマッポをケリで打ち上げ、魔剣の刀身でパワードスーツを貫きホールド! ミートシールド!

 あまりに凄惨な防御法に、思わずといった風情でガトリングガンの射撃が停止! ムゴイ!

 

 

「ザ、ザッケンナコラー!」

 

「コバヤシ=サンを放せッコラー!」

 

「■■■■────ッ!」

 

「グワーッ!」「グワーッ!」

 

 

 狂戦士のサイドキックがカーボン防盾もろともマッポを吹き飛ばす! サーヴァント脚力でのケリは無手のカラテの使い手でなくとも実際ヤバイ!

 セイバーとバーサーカーの視線が一瞬交差!

 バーサーカーがジゴクめいた殺気と共に唸り声をあげ、セイバーへと一歩踏み出しかける。

 その瞬間、盾めいてかざされていたマッポにガトリングガンの銃弾が連続着弾!

 

 

「あのセイバー=サンとやらにブラックアーマー=サンを近づけさせるな! 撃て! 撃つんだ!」

 

「ヨ、ヨロコンデー!」

 

 

 LAN直結制御されたガトリングガンによる精密連射! セイバーにはかすりもせず、バーサーカーだけに鋼鉄の雨が降り注ぐ!

 

 

「アバババババ、アバーッ!」

 

 

 防弾装甲服と腕に固定されたカーボン防盾の恩恵か、即死せず銃弾を受けるコバヤシ! 絶え間なくあがる悲鳴! ムゴイ!

 

 

「■■■■────……ッ」

 

 

 苛立たしげな唸りと共にセイバーから飛び退り距離を取るバーサーカー。

 ミートシールドから魔剣を引きぬき、ボロクズめいたその骸を盾めいて構えて決断的速度で突進! 狙うはガトリングガン射手!

 

 

「来るぞ! 防御陣形!」

 

「ヨロコンデー!」

 

 

 指揮官の号令一下、カーボン防盾を城壁めいて構えサスマタを突き出すサイバネ・キドータイ!

 古代ローマのファランクス陣形を思わせるカメめいた守りの構え!

 だがしかし!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 バーサーカーはコバヤシの骸を打ち捨て、さらに速度を増して突撃!

 魔剣がサスマタの穂先を草刈りめいて薙ぎ払い一掃! タツジン!

 

 

「アイエエエエ!?」

 

 

 狂戦士はグリップだけとなったサスマタ林をすりぬけ、カーボン防盾へとショルダースラム!

 

 

「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」

 

 

 一撃で三人ものサイバネ・キドータイ兵が吹き飛ぶ! ゴウランガ! なんと恐るべきサーヴァント筋力か!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 突き出されるカーボン防盾! シールドアタックでの包囲攻撃だ!

 だがしかし、サーヴァント脚力による跳躍で狂戦士は包囲の輪を飛び越える! オメーン・ライダーめいた身軽さ!

 

 BLATATATATATATAT!!

 

 空中のバーサーカー目掛けてガトリングガンが火を噴くも、銃弾を斬り払いつつ跳躍の勢いでゴリオシ接近!

 ガトリングガン兵は咄嗟に銃身を盾めいて持ち上げる!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

「グワ、アバーッ!」

 

 

 ALAS!

 魔剣の一撃がガトリングガンもろともサイバネ・キドータイ兵を両断! 即死!

 だがしかし、これでフレンドリーファイアの心配は無くなったために残り二人のガトリングガン兵の銃火が狂戦士へと向く!

 

 KRAAASH!

 

 おお、見よ! バーサーカーは魔剣を振るってビークルの防弾装甲ルーフを力任せに切り取り、蹴り飛ばした!

 

 

「グワーッ!」

 

 

 サーヴァント脚力により打ち出された屋根パーツを喰らい吹き飛ぶガトリングガン兵!

 バーサーカーはケリの反動で後退して地上へ降り立ち、手近なサイバネ・キドータイ兵へと連続斬撃!

 斬首! 胸を横薙ぎ! 腰から両断! 両足切断!

 

 

「アバババ、アバーッ!」

 

 

 即死!

 その首を左手で掴みとり、ガトリングガン兵へと投げる!

 ガトリングガン兵は同僚の死体を咄嗟に屈伸回避! なかなかのカラテ!

 しかしその隙にバーサーカーはビークルへと接近!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 咆哮と共に振るわれた魔剣がビークルをスライス両断!

 KABOOOOOM! ビークルが爆発!

 

 

「グワーッ!」「グワーッ!」「アババーッ!」

 

 

 爆風に打ちのめされるサイバネ・キドータイ兵! 車上のガトリングガン兵は即死!

 バーサーカーは、セイバーとのイクサを邪魔立てしたオジャマ・インセクトを撃滅するべく、決断的速度で負傷者だらけの集団へと突撃する!

 危うし!

 

 

「"風王鉄槌/ストライク・エア"! イヤーッ!」

 

 

 BOOM!

 だがしかし、疾走する漆黒の騎士の体を打ち据える不可視の一撃! ハンマーめいた突風がバーサーカーを横殴りに吹き飛ばしインタラプト!

 空中でトンボを切って体勢を立て直し、着地するバーサーカー! その着地硬直に重ねるように踏み込む影!

 

 

「イヤーッ!」

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 キャバァーン! 白と黒、二本のツルギが打ち合わされ火花が飛ぶ!

 両者の闘気が物理的圧力すら伴ってサイバネ・キドータイ兵たちを打ちのめした! ゴウランガ!

 

 

「ニ、ニンポだ! ニンポを使ったぞ!」

 

「それじゃあの娘はまさか……ニンジャか!?」

 

「コワイ! 実際カワイイなのにコワイ!」

 

 

 パニックを起こしかけるサイバネ・キドータイ兵たち。ニンジャに対する本能的恐怖心の発露!

 インタラプト者が誰なのか、もはや語る必要もないだろう。

 戦意を薄れさせ、立ち竦んでいたはずの騎士王アルトリア・ペンドラゴンその人である!

 バイオナイルワニのアギトめいて、ぎちりと噛み合う不可視の聖剣と狂戦士の魔剣!

 

 

「……サー・ランスロット。貴方が私を恨み、憎み、この首を取ろうとするのはわかります。

 望まぬ裏切りに踏み込ませてしまった。戦友と言いながら、貴方の心を汲むことができなかった。

 それだけの過ちを────罪を、私は犯してしまったのだから」

 

「A──urrrr……ッ」

 

 

 ザンゲめいたセイバーの言葉を受けて、低く唸るバーサーカー。

 かつての朋友から視線を横に逸らし、一分経ったかどうかという僅かな時間でツキジめいた有様となった路上を見る騎士王。

 ネギトロめいた死骸、死骸、また死骸。すべて、バーサーカーの凶刃にかかった被害者だ。

 生存者達も無傷ではない。

 爆風に打ちのめされ起き上がることすらできず倒れたマッポ。ショルダースラムで腕を折られたマッポ。ケリで内臓破裂でも起こしたか、のた打ち回り血を吐くマッポ。

 惨憺たるマッポーめいた光景。

 

 セイバーは視線を狂戦士へと戻す。その瞳には、先程まで薄れていた闘志が戻っている。

 

 

「────だが、このような暴虐を、見過ごしにはできません。

 無辜の民を傷つけ、平和に暮らすことを望む人々を脅かす振る舞いを、捨て置くことはできない!

 私の過ちが貴方を魔道へと堕としたのならば、その責はこの私一人が負うべきもののはず!

 いくらでも恨んでくれていい、ですが……それでも私は────貴方を、討つ!」

 

 

 向き合った騎士王からの清冽な闘気! 一直線に向けられる攻撃的アトモスフィア!

 霊体ニューロンからあふれた激情が、血涙となって瞳から零れ落ちる!

 

 

「Arrrrrrrrthurrrrrrrrrrr──────ッ!!」

 

「イイィヤアアァァ──────ッ!」

 

 

 ジゴクめいた咆哮と共に、狂戦士が疾走!

 騎士王もジェット噴射めいた魔力放出で加速し疾走!

 

 両者が再度激突!

 本来の姿を現した白金の聖剣と、かつての輝きを失った漆黒の魔剣が激しくぶつかり合う!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

「イヤーッ!」

 

 

 狂戦士の横薙ぎ魔剣をセイバーは聖剣で受け止め、同時に全力で魔力放出!

 完全静止状態から瞬時にトップスピード近くにまで至れるのが彼女のスキルの効果の一つ!

 自らの斬撃が停止した瞬間のカウンターに、バーサーカーはたまらず魔剣を弾かれた!

 しかしそのまま無防備にはならず、弾かれる動きを利用してブリッジで聖剣を回避! タツジン!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

「イヤーッ!」

 

 

 バーサーカーはブリッジから足を跳ね上げサマーソルトキック!

 彼はニンジャでもカラテマスターでもないために、これはあくまでモンキーめいたモノマネ・ムーブメントに過ぎないが意表をつくには十分!

 しかしセイバーは直感スキルによりこれを読んでいた! 蹴り足の軌道をかいくぐるように飛び込みローリング回避!

 

 ローリングの回転中に薙ぎ払いめいた軌道の斬撃が飛ぶ!

 これは苦し紛れのものではない、かつて彼女が生きていた時代、このように回避ムーブメント中の斬撃で敵兵や馬の脚を斬る騎士もブリテンにはいたのだ。

 サマーソルトキックの軸として地についているバーサーカーの腕目掛け、死神のカマめいてスルドイ斬撃が迫る!

 

 だがしかし、理性を失おうとも骨肉にまで染み付いたキシドー判断力は消えぬ!

 バーサーカーは……叩きつけた! 軸としていた腕とは逆の手に握られた魔剣を、バイオアスファルトの大地に!

 

 CRASH!

 

 砕けるバイオアスファルト!

 反動で体が浮き上がり、サマーソルトキックの逆上がり回転の運動エネルギーによって大きく後退! タツジン!

 

 両者ともに起き上がり、ツルギを手に油断なくキシドーを構え合う。

 漂うサツバツめいたアトモスフィア。

 

 つま先が掠めたか、セイバーの頬から赤い筋が流れ、顎からバイオアスファルトへと滴った。

 一方でバーサーカーは手傷なし。

 これは今の両者のカラテに存在する厳然たる力量差の象徴めいたものだ。

 アロンダイトを抜刀し全パラメータとカラテ練度を引き上げたランスロット相手に、エクスカリバーによるチャンバラ戦闘はいかにも不利。

 ここに魔剣の対竜種効果まで加われば、オウガにハンマー、ニンジャにヌンチャクめいた組み合わせ。このまま行けばセイバーの勝ち目は実際少ない。

 

 だがしかし、セイバーはエクスカリバーの真名解放を行えない。

 どこに人が住んでいるやら把握しきれない住宅地で、しかもサイバネ・キドータイ兵が周囲に居る状況で撃てば巻き添えは避けがたいからだ。

 仮に神秘の秘匿を投げ捨てたとしても、騎士王の信条的に真名解放できぬシチュエーション。

 このままではジリー・プアーか!

 

 戦闘の余波でへし折られた片腕を押さえつつ、モータルの理解を遥かに超える超絶的練度でのカラテ戦闘を呆然と見つめていたサイバネ・キドータイ隊長が、一時の静寂を受けて我に返った。

 あのニンジャめいた不確定名ブラックアーマーにはサイバネ・キドータイの戦力ですら通用しなかったが、あの西洋剣カラテ使いの少女のワザマエを借りれば何とかなるかもしれぬ!

 隊長は己がムラハチにされかねぬ恥や外聞よりも、無力な市民に牙をむくであろう脅威の排除を重点!

 

 

「か、観光客のセイバー=サンを援護だ! 援護重て……」

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!?」

 

 

 隊長の背後に忍び寄った銀髪の美女が手にする針金の束が、ハリセンめいてその頭部を殴打!

 朦朧とする隊長の顔を両手でつかみ、パワードスーツのマビサシ越しに至近距離から目を合わせるアイリスフィール!

 彼女の真紅の瞳が漢字サーチライトめいて強く発光! コワイ! 魔術の催眠光線か!

 

 

「あなた達が遭遇した凶悪犯はニンジャ。保護しかけた観光客もニンジャ。

 ニンジャとニンジャが争い始めたので、あなた達はやむなく撤退した。

 これはしょうがない事なの、実際仕方ないことなの。そうでしょ?」

 

「アバッ、アババッ!?」

 

 

 隊長の瞳が生クリームを注がれたソバヌードルめいて混濁!

 ナムアミダブツ! これは記憶操作の魔術だ!

 魔力を充填した針金束による朦朧化打撃を加え、間髪を入れずにサイミン・ジツめいた魔術行使! ワザマエ!

 すべてをニンジャの仕業として押し付ける、悪辣非道な魔術師の所業! なんたる欺瞞か! 天狗とてここまではしない!

 

 

「おかしいと思うかしら、あなた? そんなことないわ、実際すごく自然よ。

 今の戦力でニンジャに関わってはいけないわ、すぐに署に戻って部隊を再編しないと実際いけないわ。そうでしょ?」

 

「アバババ、ハイヨロコンデー……」

 

「じゃあ、今何をしたらいいかわかるわね?」

 

「部隊を撤退……させます! アバー」

 

 

 繰り返される威圧的な刷り込みに、サイバネ・キドータイ隊長の意識はついに塗り潰された!

 アイリスフィールは手を離すと同時に物陰へと身を隠した。

 

 意識を操作できたのは隊長のみであり、他の隊員たちは今なお体勢を立て直そうとしている。

 見つかれば保護され、セイバーとバーサーカーのイクサから引き離されかねない。

 それは実際アイリスフィールにとって許容できないことだ。

 パートナーのイクサからルーザー・ドッグめいて逃げ出す振る舞いなど、彼女の心が許さない。ホムンクルスとて機械ではないのだ。

 

 

「総員撤退だ! 撤退重点!」

 

「何を言ってるんですか隊長!」

 

「我々はまだ戦えます!」

 

「観光客のセイバー=サンが我々の代わりに戦ってくれているんですよ隊長! 見捨てるんですか!?」

 

 

 口々に返ってくるのは不満めいた言葉ばかり。

 市民の安全と平和を脅かし、同僚の命を奪った残虐非道なる殺人鬼を前にしても、彼らの戦意は萎えてはいなかった。

 恐怖はあれど、実際高いプロ意識がそれを表に出すことを許さないのだ。

 

 だが、そんな勇敢な彼らを退かせるべく、アイリスフィールの催眠魔術によって都合のいい思考を刷り込まれた隊長が声を掛けた。

 

 

「あれは……ニンジャだ! どちらもニンジャだ!」

 

「アイエエエエ、ニンジャ!?」

 

「そんな、ニンジャ!? 本当に!?」

 

「コワイ!」

 

 

 隊員達から悲鳴が漏れる!

 いかに命知らずのサイバネ・キドータイ兵とて、DNA下に刻み込まれたニンジャへの本能的恐怖心を完全に克服することは実際難しい。

 名状しがたき神話級幻想種めいた存在であるセイバーを、そしてバーサーカーをニンジャと認識し、彼らの心の奥底に抑えこまれていた生物的本能が起き上がったのだ!

 だがしかし、それでも我先に逃亡しようとする者などは一人としていない。

 フユキ市警が誇るサイバネ・キドータイに、そのような腰抜けはいないからだ。

 モータルとてニンジャ相手に好き放題される者ばかりではない。ニンジャリアリティ・ショックを己の精神力のみで耐え、命懸けで戦おうとする人間も実際多くはないが存在する。

 

 だが再び、隊長がダメ押しめいて宣言!

 

 

「現有戦力ではあの凶悪ヨロイニンジャに対処できない! 善意の民間協力ニンジャが奴を足止めしている今しか撤退の機会はない!

 被害が拡大する前に一旦撤退し、部隊を再編する! 撤退やむなし! これは義務の放棄ではない!」

 

「ヨ、ヨロコンデー……!」

 

 

 不平はあれど、隊長の指示に従って撤退し始めるサイバネ・キドータイ。

 ケンドー装甲フルヘルムに隠された隊長の瞳が、魔術によってナルトめいて狂わされている事に気づいた部下は一人としていない。重装備が仇となった。

 傷ついたソルジャー達が肩を貸しあい、支えあって重装甲ビークルへと戻っていく光景を見送り、アイリスフィールはほっと一息をつく。

 

 サーヴァント同士のイクサにモータルが巻き込まれればネギトロめいた骸と化す事は必定である。

 セイバーのインタラプトが間に合ったのも実際幸運なことなのだ。

 ブッダも三度殴られれば怒るというコトワザもあるように、幸運なことはそう何度も続かない。

 

 マスターとして、己のサーヴァントが存分にワザマエを発揮できる場を作ることもまた、アイリスフィールの仕事であると言える。

 だが戦意を取り戻したとしても今のセイバーは実際不利であった。

 

 バーサーカーの方はともかく、セイバーは周囲に他人が居る状況で大暴れすることはできない。

 必ず剣筋が鈍り、カラテが散漫となるだろう。巻き添え度外視で戦闘重点するバーサーカー相手で、それは実際致命的な。

 だからギャンブルめいた隙をついての魔術行使で、彼らを何とか追い払う算段をつけたのだ。

 

 だが、傷ついた彼らの撤退速度は実際カメめいて遅い。

 手札を制限されたセイバーが押し切られるのが先か、彼らが去るのが先か、実際ゴジュッポ=ヒャッポな。

 もう一押し、何かが必要だ。イマジナリーブッダハンドめいた、彼女の背を押すイクサの手助けが。

 

 アイリスフィールは修道女めいた姿勢で手を組み、目を閉じて強く祈った。

 

 

「お願い、セイバー……"負けないで!"」

 

 

 真摯な祈りを受けて、彼女の手に刻み込まれたレイジュ・タトゥーが強く発光!

 通常このような大雑把な願いでは、テンションが上がるとかスシを食べたような気力の充実とか、その程度の恩恵しか得られない。

 だがしかし、セイバーとバーサーカーの因縁めいた何かに気づいているアイリスフィールには、これ以上の事はできない。

 

 アイリスフィールは、セイバーとバーサーカーの間にあるのであろう因縁について詳しく知らぬ。

 自分から語ろうとしていない過去についてしつこく問うのは、マスターであったとしても実際奥ゆかしくない。

 

 だがしかし、アーサー王の伝説を識る者ならば、ランスロットという名に気付けぬ訳などない。

 そして、何やらただならぬ感情をセイバーがバーサーカーへと抱いていることも。

 恋や愛だのといったものではあるまいが、それは実際とてもとても強いなにかだ。絆めいて。

 このイクサはただの聖杯戦争参加者同士としてのイクサではない、彼女の過去とのイクサでもあるのだ。

 ならばアイリスフィールが為すべき役目はパートナーとして、ただ彼女の背を支えること。

 

 モータル達が逃れられるよう、セイバーが受け身のイクサで時間稼ぎ重点するための手助けとして、アイリスフィールは令呪の一角を使用することを決断した。

 あとは、ただパートナーを信じ抜くのみ!

 

 アイリスフィールは目を開き、セイバーとバーサーカーのイクサを再び見守りはじめた。

 

 

「Arrrrrrrrthurrrrrrrrrrr──────ッ!!」

 

「イイィヤアアァァ──────ッ!」

 

 

 両者は疾走し、再び激突!

 アイリスフィールの目にはとても補足しきれぬ、閃光めいた剣戟の閃き!

 ツルギの軌跡が残した残像が、無数の光の帯めいて見えるほどにハヤイすぎる!

 目まぐるしく交差する白の騎士王と漆黒の騎士!

 絡み合う二匹のバイオコブラめいて離れぬキシドー剣術の近接応酬!

 

 

「イヤーッ!」

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 セイバーの聖剣が横薙ぎ斬!

 バーサーカーの魔剣が振り下ろし斬!

 そうなるように誂えられた歯車めいて噛み合い、火花を散らし打ち合わされる二振りの宝具!

 

 

「イヤーッ!」

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 セイバーの聖剣が斬り上げ斬!

 バーサーカーの魔剣が片手横薙ぎ斬!

 再び激突! いずれも退かぬ! 互角のチャンバラ!

 ブレードとブレードが打ち合った瞬間、両者のグリーブがバイオアスファルトへとめり込むほどのパワー!

 サーヴァント筋力に耐え切れる大業物でなくば、手にしたツルギが先にへし折れていたであろう!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

「イヤーッ!」

 

 

 鋼と鋼の激突で生じたセンコめいた火花を目眩ましに、黒騎士の鉄拳が振るわれる!

 真っ向から向き合いながらのアンブッシュめいた攻め手!

 だがしかし騎士王は焦ることなく、重装甲のガントレットを裏拳めいて振るい、軌道を逸らしてインタラプト! タツジン!

 

 

「イヤーッ!」

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 お返しとばかりにグリーブに包まれたセイバーの足が荒々しく踏み出され、バーサーカーのつま先を狙う! 踏みつけでのバインド拘束攻撃か!

 バーサーカーはすり足で打点を外させ、魔剣片手突きカウンター!

 セイバーは喉元目掛けて迫るイナヅマめいて鋭い突きを皮一枚で回避!

 

 二人の間に生まれた、この拮抗状態を疑わしく思う者もいるかもしれぬ。

 カラテ練度の差、パラメーターの差、そして対竜効果を有するアロンダイト。

 どれ一つとっても騎士のイクサで致命的となりうるショウジ戸めいた差が、セイバーとバーサーカーの間にはあるはずだった。

 それこそ一方的に打ちのめされてもおかしくないほどに。

 

 その差を埋めたのは、アイリスフィールの発動した令呪。

 敗北から逃れさせるという受け身めいた守護の祈りが、一時的にセイバーの竜種属性を欺瞞し、アロンダイトに十全の力を発揮させぬようにしていた。

 ピンポイントでセイバー最大の弱点をカバーすることで"敗北"から遠ざけたのだ! なんたる高機能ぶりか!

 

 そして祖国と、その地に住まう民を護る為に研鑽され続けてきたセイバーのキシドーと、令呪に込められた守護の祈りが引き起こした想像以上のケミストリー!

 騎士王のイクサとは相手を殺し、討ち果たすためのイクサではない。

 誰かを背にして護るイクサこそが騎士王の本分であり、セイバーの王道なのだ!

 

 だがしかし、タイトロープめいたこのイクサの拮抗を保たせている最大のファクターは、アロンダイト封じの令呪ジャミングでもカラテ上昇の令呪エンハンスでもない。

 それはセイバーが生前より培い、練磨し続けてきた、キシドーの歴史そのもの!

 

 

「■■■■────ッ!」

 

「イヤーッ!」

 

 

 バーサーカーの両手袈裟斬りを、身をナナメに低く沈めて内側に入り込み紙一重回避! 切っ先が掠めたスカートアーマーが大きく裂けるもダメージはなし!

 至近距離に入り込んだセイバーがカウンターめいて放つのは、肩から背中にかけてを叩きつける当て身!

 剣を握ったままでの打撃技! これは暗黒カラテ技、ボディチェックの亜種か!

 バーサーカーは咄嗟にショルダースラムを放ち相殺! ワザマエ!

 

 騎士王アルトリア・ペンドラゴンと騎士ランスロットは、お互いの背を預け合い、轡を並べて数えきれぬイクサを駆け抜けた戦友である。

 同じイクサをくぐり抜け、実戦という名の鍛冶場で鍛えあげられた円卓騎士のキシドーが、お互い噛み合うのは当然めいた帰結であった。

 

 先ほどの乱闘めいた踏みつけは、バーバリアンめいて荒い気性の持ち主と知られたサー・ベイリンめいたカラテ!

 不意打ちの鉄拳は詐術師めいて性悪であったサー・ケイのカラテか! セイバーは実際幾度も彼のイタズラ・アンブッシュに苦しめられた!

 そしてランスロットが放ったイナヅマめいた片手刺突は、正気を失ってなお彼のワザマエに記憶の残滓を残すサー・ボールスのカラテ!

 

 不意打ちめいて切られた手札は、オリジナルには及ばずとも、いずれも戦友や強敵たちがかつて振るったキシドーのワザ!

 互いの振るう技は全てが既知のもの! それが相手の意表を突こうとする類の奇策であったとしても、礎となるカラテを正しく理解すれば全てが視えるのだ。

 ならば次に繰り出してくる最善手は、手に取るように理解できる!

 

 

「イヤーッ!」

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 セイバーの踏み込み斬りを、バーサーカーは体を開きつつアクロバットめいてエビぞり回避!

 反撃としてバーサーカーが放った、下方よりすくい上げるような軌道の片手薙ぎにセイバーは……僅かに首を傾けたのみ!

 不完全な姿勢から放たれた斬撃は実際狙いが甘く、軌道上に取り残されたブロンドヘアがわずかに斬られ飛ぶのみ! なんたる見切りか! タツジン!

 

 アルトリアの直感スキルは今この瞬間も最大稼働し、ランスロットのカラテを先読みし続けている。

 かつて最期のイクサで、己と同じ顔の騎士と戦った時ですら、これほどに冴え渡るカラテ先読み能力を示したことはなかっただろう。

 

 それはとりもなおさず、ランスロットがアーサー王の無二の戦友であった証拠に他ならぬ。

 仮に目を閉じ耳を塞ごうとも、セイバーの見切りには何の変化も生まれはしないであろう。

 狂気に陥ろうと消えぬ練武の冴えが、絶世の武技が、逆にセイバーの見切りを容易くさせている。

 今もアルトリアの霊体ニューロンには、いかなる名画も及ばぬほどにはっきりと、かつて焼き付けられた湖の騎士のキシドーが浮かび上がっているのだから!

 

 

「イヤーッ!」

 

「■■■■────ッ!」

 

 

 断崖絶壁でボン・ダンスを踊るが如き、ギリギリのところで拮抗し合ったキシドーのせめぎ合い!

 アイリスフィールの目には到底捉えきれぬ、神代のキシドーの演舞めいた殺戮旋風の応酬が止まることなく続き、さらに激しさを増していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

 

 一方その頃、遠坂邸内では。

 

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

 

 邸内下層階に存在する厨房内にはびこる、異形の妖蟲たち。

 その妖蟲を群体めいてより集め、肉体を構成するおぞましきニンジャ。

 

 そして群体ニンジャを決断的カラテで滅多打ちにする、宵闇色のロングコート姿のニンジャあり。

 相手の反撃をカラテで封殺し、逃亡を許さず、徹底的に攻め立てている。

 

 カラテが唸るたびに妖蟲が爆ぜ潰れ、クズ肉と化して床に飛び散る。

 床面を蠢く小妖蟲が仲間のクズ肉を喰らって、本体を気休めめいて僅かばかりに回復させてはいるもののジリー・プアーそのもの。

 英雄王のために取り寄せられたオーガニックスシは既になく、ヒムロ内に保存されていたコメ、ツケモノ、ショーユ、ミソなども全て尽きた。

 いかに雁夜のニンジャ消化力とニンジャ生命力がゴキブリめいて優れていても、腹が減っては回復できぬ。

 

 何故か先程からバーサーカーにバキュームめいて魔力を吸い上げられているが、それによる消耗など大したことはない。

 体を構築するニンジャ妖蟲の中には、当然ながら刻印虫めいたものも存在する。間桐の魔術を参考に生み出したニンジャ妖蟲が、間桐の妖蟲と似通っているのは当然の話だ。

 

 彼らは、宿主の肉体を喰らって魔力を生産するおぞましき能力を有している。人間だったころの雁夜は大いに苦しめられ、また体内を食い荒らされもした。

 だが、今の雁夜の肉体は妖蟲そのもの。つまり刻印虫が喰らうのも、また蟲。

 ニンジャ再生力とユニーク・ジツが複合した今の雁夜にとって、刻印虫の捕食行為などツメキリかアカスリめいた消耗でしかない。

 血中カラテが尽きぬ限り、ジツでいくらでも補充は効く。

 共食いめいた工程で人間の内臓一揃い分程度の体積が消費されようと、眼前のニンジャのカラテで削られる分に比べれば微々たる量なのだ。

 

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

(正面からの反撃は不可能に近い! 何か……何か方法はないか! 脱出しなくては!)

 

 

 打たれつつも脱出のための状況判断を続ける雁夜。

 ニンジャ思考力がコマめいてフル回転し、ニューロン内で火花を散らす。

 その頭部にチョップ突きが炸裂し、鼻から上が四散! 妖蟲群体擬似ニューロンの活動がダメージで阻害され、思考が霞む!

 再生はすぐに始まるが、ダメージ皆無とはいかぬ。

 

 跳躍して逃れるのはどうか?

 ダメだ。先ほど試したが、ほんの一フィートすら飛び上がれずインタラプトされ地面とベーゼを交わす羽目となった。

 

 体を四散させてバラバラに逃げるのはどうか?

 ダメだ。体積が減ればカラテも低下し、あの近代兵器めいたスリケンで焼かれてしまう。先ほど一部切り離したボディも炸裂スリケンで薙ぎ払われた。

 床面に小型妖蟲を展開する試みも続けているが、踏み込みの足から生まれるカラテ衝撃波や、合間合間に投擲される炸裂スリケンで定期的に掃除されている。

 

 今度は時臣=サン対策の麻痺毒バタフライによるアンブッシュを試す。

 全身を襲うカラテへと必死で防御を固めつつ、上空にただよう極彩色の麻痺毒バタフライを操作し、鱗粉をまき散らさせる。

 夜雨に溶けた鱗粉が毒々しい緑の雨となり、破壊された屋根の亀裂から屋内へと入り込むのだ。

 降り注ぎかける緑色の雨……しかし!

 

 

「なんだ、汚らしいぞ」

 

 

 不快げに片眉を上げた黄金のサーヴァントが、どこからともなく取り出した大ウチワを一振り。

 ハリケーンめいた突風がバタフライ群をズタズタに引き裂きつつ吹き飛ばした。

 

 

「と、時臣=サンのサーヴァント……! おのれ!」

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 

 一瞬の気の緩みにカラテが滑り込み、横殴りのカラテフックで右胸が粉砕! ウカツ!

 眼前のニンジャはもちろん、上層階から偉そうに見下ろしているサーヴァントにも通じなかった。

 これもダメだ。

 

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

 

 脱出経路は無し!

 ここまでのカラテ差ではどうしようもない!

 しかも階上のサーヴァントも脅威的なカラテを有した敵であり、仮に眼前のニンジャを倒せても連戦で圧殺されるのは必至!

 

 バーサーカーを呼び寄せようにも、気配からして彼は新手の敵を食い止めているのだろう。

 雁夜はバーサーカーに、時臣を殺すにあたって邪魔となるサーヴァントを足止めするよう命じた。

 だから第三サーヴァントを食い止めているのだろう。そしてアーチャーの足止めに手が回らなくなり、フリーハンドとなった。

 これは計算外のインシデントだ。

 雁夜のニューロンに、まだ見ぬ第三サーヴァントへの八つ当たりめいた怒りが沸き起こる。

 誰だか知らぬが何たる邪魔者!

 

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

 

 もしもこの場に狂戦士を召喚しようものなら、新手の敵もここに襲来するのは実際確実。

 最悪の場合アーチャーまでも参戦し、二対三の不利なイクサに突入することになりかねない。

 恐らくアーチャーは、自分のマスターへの救援を優先し、バーサーカーを第三サーヴァントに押し付けてきたのだろう。

 威風堂々たる姿に似合わず巧妙な策士だ。ニンジャめいて汚い。

 

 となれば、今ああして階上にいるのもアンブッシュを警戒してのことか。

 余裕めいて観戦に回っているようにも思えるが、ただのポーズ、格好つけの可能性は高かろう。常識的に考えて。

 理由はともかくとして、あの黄金のサーヴァントが手出しをしてこないのは、計算外のインシデントが続いている現状では雁夜にとって実際幸運であった。

 

 状況は依然としてジリー・プアー。

 妖蟲生産による自己再生プロセスは、人間のそれで言えば新陳代謝めいたもの。どれほど打たれていようと、何とか維持はできる。死なぬ限り。

 だがしかし、攻撃的にジツを発動するには再生を停止して妖蟲を攻撃に振り向けるか、あるいはジツを一気に展開するだけのコンセントレーションが必要となる。

 そして無情なるメイガススレイヤーが、そのような時間を与えてくれる道理もなし。

 再生を止めれば一気呵成に全身をクズ肉めいて粉砕されて死亡! しかしこのまま受け続けてもいずれはカラテが尽きて死亡!

 どうする間桐雁夜! このまま追い詰められてデッドエンドか!

 

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 

 メイガススレイヤーのマチェーテめいたチョップが弧を描き、雁夜の右腕を肘から切断!

 吹き飛ぶ右手の甲に刻まれた、レイジュ・タトゥーが雁夜の視界に入った。

 

 

(……! そうだ! これだ!)

 

「イヤーッ!」

 

 

 気合の声と共に、傷口から常に倍する勢いで妖蟲が噴出し、筋肉繊維めいて収縮! 腕を再構築!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 メイガススレイヤーは当然のようにカラテチョップで切断攻撃!

 しかし硬質な激突音と共に、チョップが阻まれた! これは一体!?

 

 

「ヌウーッ!?」

 

 

 メイガススレイヤーのチョップを食い止めたのは、腕の表面を覆う黒鉄色の曲面装甲だ!

 雁夜は再生プロセスをカラテ増幅し、甲虫めいた外殻を形成!

 これは数度は腕を再構築できるほどのカラテエネルギーを注がれて作り出された、鋼鉄めいた強度の重装甲ヨロイである。

 曲面の装甲がメイガススレイヤーのカラテチョップを受け、ひび割れつつも耐えたのだ! カタイ!

 

 だが一撃のチョップで断てぬならば、百撃のチョップで断てばよい!

 メイガススレイヤーのチョップが倍速再生めいて加速! 秒間数十発にも及ぶほどの決断的連打が雁夜を襲う!

 

 

「イイィヤアアァ─────ッ!」

 

「グワ、グワーッ!」

 

 

 CRASH!

 重装甲化した腕でカラテチョップに耐えようと試みるも、あまりの連打速度に装甲は一息に粉砕! そのまま腕まで切断! ナムアミダブツ!

 またもや失策か?

 

 いや、違う。

 雁夜が貴重なカラテスタミナを消耗してでも作りたかったのは────時間だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ死なぬか……ずいぶんと粘るな。これほどのカラテ差を見せつけられながらなんとも生き汚い。

 少々飽きてきたぞ」

 

 

 ギルガメッシュが退屈めいてつぶやいた。

 彼は大ヤリを杖めいて使い、リラックスしたアトモスフィアで階下を眺めつつ、先ほど使用した大ウチワ宝具を普通のウチワめいて使い、自分を扇いでいる。

 英雄王の視線の先には、ジゴクめいたカラテの猛攻に晒され、自己再生一辺倒となっている群体ニンジャの姿があった。

 先程から代わり映えのしないイクサ模様だ。実際退屈な。

 とはいえ群体ニンジャは弱りつつあり、このまま行けば遠からずオタッシャするだろう。英雄王のサーヴァント分析力は実際正確であった。

 

 

「ハァーッ、ハァーッ……!」

 

 

 同じ部屋の片隅に、ニンジャのイクサに構う余裕もない人間が一人。

 ズタズタになった残骸めいたスーツ、切り飛ばされた腕、足裏から膝まで裂けた脚、外から見てもわかる複数箇所の骨折。

 なんとも痛々しい姿の遠坂時臣である。

 

 彼は今、荒い息を吐きつつ、必死めいたアトモスフィアで治癒魔術を行使している。

 光る純白のコールタールとでも形容する他ない奇怪な修復材で負傷部位を埋められてはいるものの、これは宝具により生成された魔力的マテリアルだ。

 痛みや出血は収まっているものの、怪我自体が無くなったわけではない。

 幸いなことにこの白タールは治癒魔術の触媒めいた性質があるらしく、ダメージで朦朧としている今の時臣でも自己治癒の進みは実際順調であった。

 サーヴァントからの扱いは実際あまりに適当すぎるものだったが、文句を言っている暇はない。

 

 と、そんな具合に魔術行使重点していた時臣の死角で、ギルガメッシュに粉砕されて転がる雁夜の足の破片が、不気味に蠢動しはじめた。

 皮膚下を糸状のなにかが蠢き、メチャクチャに断裂した筋組織や血管、骨が剥き出しとなった切断面へと移動してゆく。

 外部へと這い出たその正体は……おお、やはり間桐式魔術の産物めいた妖蟲だ!

 

 雁夜が血中カラテを消費して創りだした時間は、吹き飛んだ足に残った蟲を遠隔操作するためのコンセントレーション時間を得るためのもの!

 数は少なく力も弱いが、狙う相手次第では役割は果たせる。

 

 狙いは瀕死の重傷を負った、遠坂時臣だ!

 滑るようにオーガニック木材の床を這いずり、アサシンめいて時臣の無防備な首筋目掛けて迫る妖蟲。

 

 治療行為重点している時臣は……気付けない!

 おお……おお、ナムアミダブツ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アバ、グワーッ!」

 

 

 背後から轟く、ボイスアクター・ショー・ハヤミめいた悲鳴に、ギルガメッシュは訝しげに眉を顰めた。

 確かに遠坂時臣は重症であり、先ほどまでもうめき声めいた声が漏れ聞こえてはいた。魔術行使の反動めいた苦痛の声もあげていた。

 

 だがしかし、これは何かが違う。

 彼のサーヴァント直感力と、多くの人間を見てきた古代ウルク流の人物鑑定眼が異変を察知した!

 大ヤリを引きぬき、戦闘態勢を整えつつ踵を返したギルガメッシュの目に飛び込んできたのは、立ち上がった遠坂時臣の姿。

 切断されていた腕も、ドライド・アジめいて開かれていた脚も、見た目上は無傷に近い状態にまで修復されている。

 

 ……おかしい! これは実際妙だ!

 治癒魔術が三十六分の一めいた会心の効果を発揮したとしても、ここまで修復するにはかなりの魔力が必要なはず!

 それに、いかに治癒の宝具とのシナジー効果が発揮されて傷が塞がったとしても、立ち上がれるほどのスタミナなど実際皆無なはずだ!

 

 英雄王は嘲るような笑みを口許に浮かべつつ声をかけた。

 

 

「成程……溺れた犬を囲んで棒で叩くというわけか。確かに時臣めは狙いやすい獲物であったろうな。

 だが、この我をアンブッシュできるとでも思ったか? サンシタめが」

 

 

 ギルガメッシュのサーヴァント分析力は、時臣の体に起きている異変を正確に見抜いていた!

 

 皮膚を貫いてか、あるいは傷の開口部か、あるいはどこかの粘膜からか。

 体内へと侵入した妖蟲は、弱っていた時臣の魔術的抵抗を乗り越え、彼のニューロンの致命的な部分へと侵入したのだろう。

 彼の目には光はなく、意識が途絶していることは明らかであった。

 

 神経系を掌握された今の時臣は、あのニンジャが放った妖蟲のジョルリ人形めいた状態にある!

 

 ぎくしゃくとしたズンビーめいた動きで足を踏み出す時臣に、無造作にヤリを突きつけるギルガメッシュ。

 

 

「マスターの体に入り込めば反撃できぬ……とでも考えたか。

 サンシタらしい浅はかさな思いつきよな、悔やみながら死ぬるがいい」

 

 

 無情なる宣言!

 この暴君が、いかに己のマスターとはいえサンシタに操られるほどのブザマを見せた時臣に容赦をするはずもないのだ!

 サツバツ!

 

 言い終わるや否や、英雄王の背後の空間がぐにゃりと歪みポータルめいた宝物庫への回廊が口を開き、宝具の切っ先が姿を見せ始める。

 "ゲート・オブ・バビロン"による惨殺処刑の先触れか。

 

 だが、時臣の体を操るニンジャは慌てることなく時臣の右腕を突き出す。

 そこに刻まれているのは……レイジュ・タトゥー!

 

 

「──ぬ! 貴様、よもや────」

 

 

 ギルガメッシュの表情に驚愕の色が浮かぶ!

 速やかに眼前の寄生ニンジャを処刑すべく攻撃へと移る!

 だがしかし、ゲート・オブ・バビロンの宝具が発射態勢を完了するよりも早く、英雄王が手にした大ヤリが投げ放たれるよりも早く、令呪が起動!

 

 

「────"動くな"!!」 

 

「グワッ……!」

 

 

 時臣の腕に刻まれた令呪が一画消費され、同時にリンクを経由してギルガメッシュへと強制力が発揮された!

 ニンジャの狙いはメイガススレイヤーやギルガメッシュへのアンブッシュではない。

 時臣の肉体を操り、時臣の令呪を使い、時臣のサーヴァントを掌握することこそが真の狙いか!

 

 投擲姿勢のまま、ブッダデーモン像めいて硬直するギルガメッシュ!

 令呪によるノロイめいた強制力は、いかに英雄王とて抗うのは実際難しい!

 だが、他ならぬ世界最古の暴君を原型とするアバターがそうそう大人しくしているわけもない。

 体は動かずとも、発射態勢に入りつつあった"ゲート・オブ・バビロン"をそのまま使用するのは容易い!

 ジゴクめいた殺意を視線に乗せ、霊体ニューロンからの指令で己の宝具をコントロールする!

 

 だがしかし!

 

 

「"俺に敵対するな!"」

 

「ヌウウーッ!」

 

 

 ニンジャは時臣の令呪をさらに一画消費!

 再び令呪の強制力がギルガメッシュを縛る!

 時臣の令呪を使っての強制的支配権が、英雄王の霊体を呪縛するのだ!

 発射態勢に入りつつあった宝具はケムリめいて雲散霧消!

 

 

「く、ちょこざいな策を────!」

 

 

 憤怒に染まる英雄王のニューロン!

 だがしかし、状況はフリーフォールめいて群体ニンジャ側に傾いている!

 イクサ場では決着がつくまで何が起こるかわからない。

 焼いたスシに水をかけても戻らない以上、最後の最後まで慢心するべきではなかったのだ!

 王の慢心カラテにつけこまれた! ウカツ!

 

 残るレイジュ・タトゥーは時臣のものが一画、雁夜のものが三画!

 アーチャーを呪縛し操るには十分な数か!

 邪悪なるニンジャは遠坂時臣の体内で嗜虐的な笑みを浮かべ、勝利の気配にニューロン内で勝鬨を上げた。

 

 

(どうだ! 見たか時臣=サン! 何が魔術師だ、何がサーヴァントだ、何がニンジャだ!

 ざまを見ろ! ここで終わりだ、すぐに全員まとめてサンズ・リバーを渡らせてやる!

 このいけ好かない金ぴかサーヴァントとバーサーカーが揃えば、あのニンジャもすぐにオタッシャだ!

 先に桜ちゃんのところへ行っていろ! すぐに葵=サンと凛ちゃんも送ってやる!

 俺の勝ちだ! 俺の!)

 

 

 ニューロン内で邪悪な哄笑をあげる間桐雁夜!

 もはや彼の精神は、彼に憑依したベルゼブ・ニンジャのソウルと完全に融合してしまっているのか!

 神経系を侵した妖蟲が時臣の表情筋を操り、ジゴクめいて悪魔じみた表情を浮かべさせた!

 

 おお……ナムアミダブツ……! ナムアミダブツ……!

 

 

 

 




ちょっと誤字修正。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。