Fate/zeroニンジャもの   作:ふにゃ子

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その20

 

 

 激しいイクサのアトモスフィアが充満する遠坂邸より離れた、フユキ旧市街に存在する打ち捨てられた元退廃ホテルの廃墟。

 マキモノの置かれたチャブを囲み、あれこれと語り合う五人の男女の姿があった。

 言わずと知れたライダー陣営の二人とランサー陣営の三人である。

 

 ウェイバーの画力は実際平凡なもので、おおまかな特徴までは掴めたものの細部については不安が残る描き上がりであり、いささかアテにしづらいものだった。

 最後にマキモノを確認したソラウにも、これでは実際解りづらいと突っ込まれる程度に。

 

 それ故に、彼らは追加でさらに念入りな情報交換重点していた。

 うっかり相手を間違えて襲撃しました、では済まぬ。

 ブッダですら三度殴られれば怒るのだから、普通の人間や英霊なら一度で怒るだろう。当然めいた話だ。

 

 

「フーム、おおよそは把握できた。このような感じか」

 

 

 ヤバイ級魔術師ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの背負ったバイオヒョータンの口に差し込まれたバイオコルク栓が内側から押し上げられ、外れる。

 中から溢れ出てきたのは彼の魔術礼装たる"月霊髄液"であった。

 生物めいて蠢く水銀塊が、見る見るうちに人型を形作っていく。

 ウェイバーからの情報提供を元に、ニューロン内に浮かんだパーカーめいた服装の男と全身甲冑の戦士の姿を投影した水銀フィギュアを横目でちらりと見るケイネス。

 

 

「どうかね、ウェイバー=サン」

 

「実際かなり似てます。あとパーカーの男はこう、何というか……覆面か、仮面みたいなものをつけてました。

 形は、エエット……」

 

 

 身振り手振りを交えての説明を受けて、水銀フィギュアを成形しなおすケイネス。

 陰鬱な表情を浮かべた男の顔を、ワイヤーめいた無数の何かが覆ったような風情の装飾が包む。

 

 

「このようなアンバイかね」

 

「はい、遥かにいいです。実際よく似てます」

 

「フゥーム……ガスマスクなどではないな……。察するに、メンポか。

 であるならば、ニンジャである可能性が実際さらに高まると言えよう」

 

 

 渋い表情で唸りつつ、チャブに置かれた型押し成形バイオアナゴスシを二貫取り、口へ放り込むケイネス。

 魔術の行使には魔力を消費する。魔力とはすなわち生命力に繋がるものであり、スタミナであり、ひいてはカラテだ。

 完全栄養食品であるスシが魔術師の食料としても適していることは、至極当然の話である。

 欲を言えばオーガニックマグロが欲しいところだが、まあアナゴでもよい。

 西洋出身の魔術師は生魚への抵抗を持つ者も多く、そういう者達はタマゴスシや加熱アナゴスシなどで妥協してしまうのだが、ケイネスはその例には入らない。

 デビルフィッシュスシでさえ食べられるのだ。実際ゲテモノ食いな。

 

 スシを咀嚼する主へと、ランサーが口を開いた。

 

 

「ケイネス殿、その無軌道な行為に及んだマスターがニンジャであったとして、それは魔術師だった場合よりも大きな脅威になるのでしょうか?」

 

「うむ、なると断言してもよかろう。

 丁度良い機会だ、ニンジャというものについてかいつまんで講義させてもらうとしよう」

 

 

 ケイネスは居住まいを正すと、静かな口調で彼の知りうる限りのニンジャの歴史と、その神話について語った。

 

 ケイネスはニンジャ神話研究の第一人者であり、この日本においてニンジャという存在がどれほど畏怖されているのかを識っている。

 ニンジャとは、平安時代の日本をカラテによって支配した半神的存在である。

 それゆえにか日本人が神話として認識している物語の中には、ニンジャ真実を語っているものが実際とてもとても多い。

 これは世界的に見ても稀なほどのニンジャ濃度であり、日本がニンジャ発祥の地であるとされる最大の理由でもある。

 

 シチフク・ゴッズに属する一柱の神のモチーフが、大地の精髄を喰らう恐るべき神話級ニンジャであるダイコク・ニンジャだったこと。

 ブッダの教えに登場する不動明王のモチーフが、神話級ニンジャたるアカラ・ニンジャにあること。

 平安時代の日本において四聖獣と呼ばれていたのが現在知られる朱雀、白虎、玄武、青龍ではなく、ドラゴン、ゴリラ、タコ、イーグルであったこと。

 これらは隠蔽されたニンジャ真実の一端にすぎない。

 

 確かに全ては巧妙に隠蔽され、欺瞞的カバーストーリーに覆い隠されていた。

 

 だがケイネスは諦めることなく数多くの歴史書や資料を精査し、さらには歴史的建造物や古代遺跡に足を運び続けた。

 個人収集家と交渉して蔵書を買い付け、国立博物館の収蔵庫に眠るボロクズめいたパピルスを読み解いた。

 時には休暇を利用してエジプトで熱砂をふみこえ、シベリアで凍土をさまよい、熱帯雨林の奥に埋もれていると噂されるニンジャ文明のルインを探し歩いた。

 世界中に遺されたニンジャ神話の痕跡を集め、砂粒をハシで集めるような積み重ねの末に、無数のピースからモザイクめいてニンジャの真実を浮かび上がらせたのだ。

 

 ケイネスは、己がこれまでに調べたニンジャの真実を、ニュービー向けにわかりやすく噛み砕いて懇切丁寧に語って聞かせた。

 このような作業は時計塔で講師を務める彼にとっては実際チャメシ・インシデントな。

 

 神妙に話を聞いていた一同だったが、ケイネスの話が続くにつれて訝しげな表情が浮かび、疑問めいたアトモスフィアが満ちてくる。

 

 

「だが、今の世にニンジャは存在しないとされている。

 何故か?

 数千年前の事だ……平安時代の末期、当時世界を支配していたとされるニンジャ達は、キンカク・テンプルで謎のハラキリ・リチュアルを行い、歴史からその姿を消した。

 その後の時代においてもまれにニンジャの姿は目撃されているが、それはニンジャ神話の舞台である平安時代と比べれば格段に少ない。

 歴史の表舞台からニンジャが退場し、人間の時代が到来したというわけだな」

 

「うーむ、数千年前となると、余の治世のころよりもさらに古代ということか?」

 

 

 顎髭を擦りつつ首を傾げるライダーに、ケイネスは頷いて返した。

 

 

「如何にも、その通り。

 これは一例に過ぎないが、古代ローマ文明の成立には、古代ニンジャ文明よりの影響が色濃く見られると言われている。

 ……例えば古代ローマカラテだ」

 

「ふむ? 古代ローマカラテといえば、余の心得ておるカラテ流派ではないか」

 

「なんと」

 

 

 七割の驚き、三割の感心という表情でライダーを見るケイネス。

 

 

「さすがはその名も高き征服王、ニンジャでなくとも古代ローマカラテを扱えるとは……。

 だが、それならば話は早い。

 古代ローマカラテの基本回避ムーブメント、ブリッジを思い出していただきたい」

 

「うむ、使い勝手のよい回避法よな。

 上体さえ動けば馬上ですら扱える柔軟性があるゆえ、余も、余の戦友たちも大いにイクサ場で活用したものだ」

 

 

 何やら頷き合うライダーとケイネスを、胡乱げに見つめるソラウ。

 

 

「……ねえ、ランサー。

 その……古代のイクサだと、ブリッジで攻撃を避けるっていうのは普通のことだったの?

 ちょっと想像しづらいんだけど……」

 

「は、ブリッジ動作での矢躱しなどは珍しい動きではなかったと記憶しております。

 赤枝の騎士でも、よほど鈍重な体躯の者以外は全員が可能だったかと」

 

「そ……そうなの!?」

 

「無論、ブリッジとて完全な回避ムーブメントではございません。避けきれぬ攻め手というものも無論ございます」

 

「今でも現代カラテの流派やイアイドー、あとパンキドーなんかで使われてますよ。センセイの奥さん」

 

「アイエエ!?」

 

 

 のけぞり驚愕するソラウ。

 衝撃のカラテ真実に目を剥いたが、周囲の四人は全く動じていない。

 

 ランサーは己の命を奪い去った巨大な体躯を誇るミュータントボアを思い返し、遠い目をした。

 ヤツには紙一重でブリッジ回避してもなお、軽鎧の胸元を深く抉り裂かれたものだ。

 

 

「魔術師や、お主の婚約者にも案外かわいいところがあるようだの」

 

「ソラウ=サンはカラテ者ではないからな。

 現代では本腰を入れてカラテを学んでいる者も実際少ないし、知らぬとしても無理はない」

 

「時代は変わるものだな。余の生きた時代ではブリッジ回避を知らぬ魔術師など存在せなんだ」

 

「変わらぬものなどこの世にないよ、ライダー=サン。ショッギョ・ムッジョだ」

 

「うむ……まことに然り」

 

 

 ライダーの持つオチョコにサケを注ぐケイネス。

 オチョコを静かに傾けるライダー。

 過ぎ去った古代の世界を知るがゆえの、モデストめいてしめやかなアトモスフィア。

 

 

「アイエエエ……歴史のテストに出なかったわよぉ、そんなの……」

 

 

 ソラウは頭を抱えてしまった。知恵熱めいて。

 

 

「この古代ローマカラテのブリッジ回避動作が、古代ローマ式のアーチ状建築などに大きな影響を与えた事は、研究者にとっては周知の事実だ。

 そして、その源は古代ニンジャ文明に端を発する……積み上げられたカラテ巧者たちの歴史が古代ローマカラテ文明期に結実し、花開いたというわけだ。

 合理的な回避ムーブメントの強靭さが建築物にも通ずる部分があると考えた、当時の建築家も……あるいはニンジャだったのかもしれん」

 

「うーむ、しかし生前にニンジャとやらを見聞きした記憶はないのだがなあ……噂すら聞いたことがないぞ」

 

「ケイネス殿、いくらなんでも荒唐無稽に過ぎるのでは」

 

「そんな事はないぞ。

 いいかね、現代に伝わる神話や伝承、あるいは民話や俗話などの影には必ずニンジャの姿がある。

 即ち、平安時代以降も少数のニンジャがモータルの歴史の裏側に、フィクサーめいてその手を伸ばしていたことの証左といえよう。

 人間が世界の支配者となったのも、はるか古の世界を支配した幻想種……すなわちニンジャの勢力が、大きくその力と数を減じたことに端を発する」

 

「民話に俗話のう……例えばどんな話があるのだ」

 

「うむ……そうだな。

 ここ日本は、古代ニンジャ文明発祥の地であるとされるだけのことはあり、ニンジャのイクサをモチーフとした昔話が実際多い。

 いくつか代表的なものを挙げると────」

 

 

 様々な暗喩めいた隠蔽を施され、民間伝承に隠されたニンジャ真実についてもケイネスは実際詳しい。

 彼は、ニンジャ真実の隠された民間伝承について静かに語って聞かせた。

 

 亀の手によって海中に監禁されたウラシマ・ニンジャの物語は、児童向けアレンジめいて毒抜きされ、今では子供向けのお伽話にまでなっている。

 お伽話では、豊満なオト=ヒメに籠絡され酒池肉林を味わい尽くした挙句にタマテ・ミミックにかかり老人化するノロイをかけられたとされる。

 実際には老人となるまで、数十年にわたり監禁され、拷問を受け続けたのだろう。なんたる残酷!

 

 幼少より山中で獣相手にカラテを鍛え続けたキントキ・ニンジャも有名だ。後に彼はサムライに仕官し、豪族仕えのニンジャ・シテンノの一員となった。立身出世だ。

 彼は主君やシテンノ筆頭たるロープ・ニンジャらと共に悪名高いオウガの群れを虐殺した。

 これはお伽話で語られている内容とも実際変わりない。彼やシテンノがニンジャであるという点を除けば、だが。

 

 敵を体内から惨たらしく殺すジツを使ったとされるイッスン・ニンジャも、体格そのものが小さかったとすり替えられ、コミカルな物語に欺瞞されている。

 本来のイッスン・ニンジャは恐るべき暗殺者であり、困難なニンジャクエストを達成した報酬として願うままの望みを叶えることを許されたのだという。

 真実の彼は実際稀有なことに、愛に生きる一本気なニンジャであった。主君の娘の一人を妻に娶る以上を望まなかったという。ニンジャにしては実際奥ゆかしい。

 

 ブル・ヘイケとベンケ・ニンジャの戦いとユウジョウの物語なども実際有名だろう。

 最初は敵としてカラテを競い合ったこの二人は、後に固く強固な絆で結ばれ、たった二人で嵐渦巻く海峡にて万軍と対峙したと語り継がれている。

 現代では天狗に鍛えられたサムライとボンズ・ソルジャーであったとされているが、ありふれたボンズがそれほどのカラテ者であろうはずもない。

 当然めいてニンジャなのだ。

 

 平安時代のオンミョー魔術師であるフジワラノ・チカタが使役したとされる四匹のオウガもまた、全員がニンジャだ。間違いない。

 鋼のように強靭な肉体はカラテ巧者の証である。ムテキ・アティチュードの可能性も高い。

 風や水を操るニンジャも存在したのは、賢明なるニンジャ研究者にとっては周知の事実であろう。

 スイトン・ジツやソニックカラテ。あるいは風や水そのものではなく、似た何かを使うニンジャである可能性すらある。

 素性のはっきりしない四匹目に至ってはいわずもがな。

 己のカラテ、ジツ、そして正体すら隠し通した恐るべき隠形カラテのニンジャだったのだろう。

 

 このように日本の童話や寓話には、隠蔽されてはいるものの、実際多いニンジャの姿がある。

 彼らのことをニンジャであると認識はしておらずとも、ニンジャ真実がモザイクパターンめいて織り込まれた物語は、日本人の心象風景の一部めいて実際色濃く残っている。

 とりもなおさず、それは平安時代以降も日本にニンジャが存在していたことを示す証拠なのだ。

 

 彼らがニンジャであることがあからさまにされず、民話や童話、あるいは寓話としてオブラートめいて覆い隠された理由を推測することも容易い。

 魔術師的常識に例えるならば、ニンジャの脅威とは神話級幻想種のイメージにほど近い。

 

 仮にサーヴァントとしてモタロが召喚され岡山県民の前に現れたならば、良くて失禁、下手をすれば発狂は免れぬであろうことは、誰にでも想像のつく話である。

 現代においても岡山県民はモタロを信仰し、彼の偉業を今に伝えるモタロ・ランドは一大観光地として世界に知られている。

 カッパドキアめいた峻険な山々や、ミヤモト・マサシの生誕地としてだけ有名なわけではない。

 だが、モタロ・ランドに来訪する観光客たちは、モタロが現実に存在したと認識しているか?

 

 ……否だ。

 彼らが知るモタロは、児童向け文学書に登場する正義のサムライであり、邪悪なオウガ・クランの根城を討滅した想像上のヒーローでしかない。

 あくまでもフィクション、モチーフとなった過去のサムライは居ても、それは決してモタロそのものではないと認識されている。

 欺瞞! 欺瞞! 全てが欺瞞だ!

 

 ニンジャとは、そういう神話的登場人物めいたものだ。

 決して現実に存在したと心から信じる者はいない……。

 信じて理解してしまえば、昨日までの常識が粉微塵に打ち砕かれ、その精神を大黒柱めいて支える礎が失われてしまうと、モータル達は本能で理解しているのだ。

 

 

「時の流れという名の無慈悲な掃除屋の手によって歴史の痕跡は薄れ、彼らを恐れた時の権力者により抹消され、ニンジャの真実は忘れ去られた。

 だがニンジャの真実が忘れ去られ、大衆化したカトゥーンの中にのみ存在するフィクションの住人であると思い込まれている今の時代でも、ニンジャへの畏怖めいた感情は未だ残っている。

 人間という種の遺伝子そのものに、神秘的なニンジャイコンが遺されているのだ。ニューロンの奥深く、その深層にな。

 例え多くのモータルが生まれてから死ぬまでの間、ニンジャと実際に出会うことなどなくとも、それは消えぬ」

 

「それでは件のマスターは、ニンジャへの畏怖を利用しよううとした……つまりニンジャではないのでは?」

 

 

 ランサーの疑問めいた問いに、ふむ、と呟きケイネスは軽く目を伏せた。

 組んだ腕を解き、チャブにおかれたオチョコを取ってサケを飲み、一息ついて話を再開する。

 

 

「確かに私が調べた限り、今の時代にニンジャのカラテとジツを伝えるドージョーは存在していない。

 件のマスターも、身体強化魔術にカラテ、あるいはイアイドーのワザマエを組み合わせた偽ニンジャであるという推測もできぬではない。

 情況証拠だけ見れば、その可能性は実際否定できん。

 サーヴァントに迫るほどの体術を見せたと言っても、カラテに優れた魔術師ならば全く再現不可能というわけではない。

 私も小耳にウワサを挟んだ程度だが、封印指定の執行者の中にはボックスカラテを武器に死徒などを狩るカラテマスターも居るというしな」

 

「では、偽物であると」

 

 

 だがしかし、ケイネスはランサーへと首を左右に振る。

 彼のニューロンにチリチリと危機感を呼び起こす、虫の知らせめいた何かがあった。ニンジャ直感力の持ち主でなくとも、ヤバイ級魔術師のシックスセンスは実際侮れぬ。

 非論理的な話であるが、ニンジャかぶれの魔術師などではないという、直感めいた確信がケイネスにはあったのだ。証拠はないが。

 

 

「論理的に説明はできないが、私はそのニンジャめいたマスターが本物のニンジャであると考えている。

 確証があるわけではない……ニンジャ研究者としてのカン、とでも言う他ないが」

 

「さすがセンセイ」

 

「むむむ……御意」

 

「どうもはっきりせん理由だな。頭からまったく否定できるわけではないとはいえ……」

 

「ケイネス、あなた疲れてるのよ」

 

 

 肯定したのは、これまで時計塔でケイネスのニンジャ学講義を受けてきたウェイバーのみ。

 ランサーは渋いマンダリンを口に詰め込まれたような名状しがたい表情を浮かべて口を濁し、ライダーも首をひねるばかり。ソラウからは容赦無いツッコミが飛んできた。

 四方八方からの口舌の刃。十字砲火めいたそれを受けても、ケイネスに怯んだ様子はない。

 ニンジャ研究というのはゲテモノ学問だ。このような冷たい扱いを受けることは多い。

 いかに名にし負うヤバイ級魔術師ロード・エルメロイとて、ニンジャ研究者としては実際こんなものだ。

 ヤナギ・ウィンドめいて受け流しつつサケを軽く呷り、スシをつまんだ。

 

 と、その時である!

 外に面した窓側の方角より、爆風めいて吹き寄せる魔力の波動!

 瞬く間に戦場めいてはりつめる室内の空気!

 

 二振りのヤリを構えたランサーは、窓際へと瞬間移動めいた速度で移動し魔力の生じた方向を警戒重点。

 モズめいて鋭い眼光を光らせ、索敵を開始した。

 

 周囲のビルの屋上には、コフィンめいて錆びた金属の箱がいくつも並んでいる。冷暖房の室外機だろうか。

 その多くは既に稼働しておらず墓標めいた姿を晒すのみだが、アンブッシュの盾とするには必要十分。

 電装系がイカれているのか、瞬きめいて明滅するネオンノボリ看板の毒々しい光が照らしだすビル街には多くの物陰が存在し、索敵を容易ならざるものとさせていた。

 窓ガラスの失われた廃ビルの部屋もまた警戒すべきポイントか。

 ランサーは己のサーヴァント野伏力を全開に、油断ならぬ眼差しで魔力の発生源を、そしてそれ以外のインシデントをも警戒した。

 

 少なくとも、見える範囲では外部に敵影なし。

 

 

「このサツバツめいた魔力の波動……宝具の発動、それも使い手はかなり攻撃的な性質とみえる」

 

「であろうな」

 

 

 呟きめいて漏れたケイネスの分析に、頷き返すライダー。 

 そしてウェイバーは魔力に満ちた攻撃的なアトモスフィアに、ミヤマタウンで遭遇した狂戦士の気配を確かに感じ取った!

 

 

「センセイ、この宝具を使ったのはたぶんバーサーカーです!」

 

「何だと? 間違いないのか、ウェイバー=サン」

 

「この魔力の感じ、ミヤマタウンで遭遇した時のアイツと実際よく似てます!」

 

「確かに。あのパーカー男が従えておったサーヴァントの気配と瓜二つよ」

 

「フゥーム……。他陣営とイクサを始めたのか、それとも誘いか」

 

 

 険しい眼差しでフユキの闇深い夜空を見つめ、思案するケイネス。

 

 

「余が見た限り、あの主従には戦略と呼べるほど深い考えはなさそうに思えたな。

 遭遇戦か、あるいはあやつの言っておったサクラチャンとやらの仇を見つけ襲いかかったかが妥当であろう」

 

「ぼくもそう思います。正気には見えませんでしたし」

 

 

 ライダーの予想に同意するウェイバー。

 ランサーとソラウは無言。ケイネスの判断を待っているようだ。

 

 

「……平安時代の哲学剣士ミヤモト・マサシ曰く、負けを待って無駄死に。

 これは古き日本の時代を生きた……恐らくはアンタイニンジャ知識をも有するのであろう賢人の言だ。

 ニンジャ相手に待ちのイクサは実際無謀。攻め込むが上策か」

 

「よし、決まりだな。足は余が用意するとしよう、屋上から出るぞ」

 

 

 頷き合い、退廃ホテル屋上へと向かうライダー&ランサー同盟組。

 目指すは宝具めいた気配の生まれた、ミヤマタウン超高級住宅地区だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠坂邸の上層階にて、彫像めいて動けぬ英雄王を前に邪悪な笑みを浮かべる寄生ニンジャ。

 令呪で縛られたギルガメッシュを前に勝ち誇り、勝利の気配に酔いしれる。

 

 だが、もしここにニンジャ研究者の方々がおいでになられれば気付かれるであろうが、最終的な勝利を収めていないというのに勝ち誇るのはウカツの極み!

 自分が呪縛したサーヴァントと、まるで同じ過ちを犯しているのだ。

 

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

 

 厨房内でメイガススレイヤーが、雁夜のメインボディを攻める!

 左右のカラテパンチで頭部と左肩を破砕し、カラテローキックで大腿部から右脚を切断!

 これらの工程を、なんとこのニンジャは一呼吸ぶんの時間でこなす! 恐るべきカラテ速度! ハヤイ!

 続けてカトン・スリケンを切断面に投擲!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 カブーム! 焼夷弾めいた火炎が群体ニンジャを焼く!

 

 

「グワーッ!」

 

 

 激しい炎が切断面から這い出しかけた妖蟲を焼き尽くし、再生プロセスを一時阻害!

 カラテ猛攻で下層に存在する雁夜のメインボディを削り動きを止めさせたメイガススレイヤーは、一旦カラテの手を止めて階上へと視線を向ける。

 彼は当然めいてニンジャ直感力で上層階の異変を感知していた。実際スルドイ。

 あのブッダめいて強そうな金色のサーヴァントを、令呪とかいうまじないで奪ったとすれば魔術師ニンジャの脅威度は大幅上昇間違いなし。

 彼はどうするのか?

 

 並のニンジャならば、勝ち目のないイクサになりかねぬ気配を感じ、万一の事態を避けるべく逃げの手を打った可能性もあるだろう。

 だがしかし、ここにいるのは魔術師の天敵!

 恐るべき魔術師殺戮ニンジャ、メイガススレイヤーなのだ!

 

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 

 炭化部分を切り離して再生を開始した群体ニンジャにカラテを叩きこんで動きを止め、メイガススレイヤーは上層階を睨む。

 階下から見えるのは、彫像めいて硬直した金色のサーヴァントの姿のみ。

 

 魔力めいたアトモスフィアの動きから考えて、群体ニンジャの分体は、あの負傷していた魔術師へのパラサイティングを試み、成功したのだと思われる。

 そしてレイジュ・オーダーにより、あの悪趣味な金ヨロイの制御権を、今まさに奪おうとしているのだ。

 メイガススレイヤーのニンジャ看破力!

 

 金色のヨロイを身につけた、なんとも偉そうなアトモスフィアからしてサーヴァントがかなりの強者である事は恐らく間違いない。

 カラテもなかなかのようだ。

 となれば、状況は一刻を争う!

 

 

(状況判断だ。優先順位は……)

 

「スゥーッ、ハァーッ……!」

 

 

 ニューロン回転を維持しつつ、メイガススレイヤーは深くチャドー呼吸。

 血中カラテを練り上げ、全身に漲らせる。

 

 

(リスク度外視で階上の魔術師ニンジャ寄生体を討ち、サーヴァントとの挟撃を防ぐが上策!)

 

「……イイィヤアアァ────ッ!」

 

 

 メイガススレイヤーの姿が加速しブレる!

 二倍? 違う、そんな普段使いの倍率ではない。

 三倍? まだまだ足りない。

 四倍? その程度では間に合わぬ!

 

 極度のジツ集中によって、それはメイガススレイヤーの背をブッダハンドめいて押し、時間の流れを追い越させ、遥かに早く動かせしめる!

 宵闇色のコートの下で縄めいた筋肉が盛り上がる!

 

 

「イイィヤアアァ────ッ!」

 

 

 えぐり込むような突きが雁夜の胸に炸裂し貫通……しない!

 おお、見よ! 衝撃が波紋めいて群体ニンジャの肉体に伝播する!

 メイガススレイヤーは結果を見届けることはせず、決断的速度で跳躍!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 平常時の十六倍に迫る、圧倒的速度の跳躍で上層階へ瞬間移動めいて到達!

 金色のサーヴァントの背中と、レイジュ・タトゥーを光らせ、スローモーに口を開こうとする魔術師の姿が視界に映った!

 ニューロン速度さえ加速した今のメイガススレイヤーには、全てがあまりに遅く見える!

 

 再び状況判断だ! サーヴァント支配権の奪取を阻止し、敵魔術師ニンジャを確実に仕留めるには!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 レイジュ・タトゥー目掛け、骨めいた質感のエネルギースリケンが……アンタイメイガス・スリケンが飛ぶ!

 ここで加速終了! 着地!

 同時にエネルギースリケンが着弾!

 赤熱した鋼にチョコバーを押し付けたかのようにスリケンは命中するや溶け崩れ、スリケンを構成していたカラテ粒子が体内へと浸透!

 魔力の結晶めいたレイジュ・タトゥー内に入り込んだ反魔力カラテ粒子が、充満する魔力と暴力的ケミストリーを起こす!

 

 キャバァーン!

 ガラスめいた破砕音と共に時臣ボディの右手に刻まれた令呪が閃光を発して割れ砕け、続けて右肩から先が大爆発!

 

 カブーム!

 

 

「グワ、アバーッ!?」

 

 

 時臣の声帯を震わせて寄生ニンジャ妖蟲が断末魔めいた悲鳴をあげ、吹き飛んだ!

 おお、ナムサン!

 発動寸前であった遠坂時臣の腕に宿る三画目の令呪に反魔力カラテ粒子が流れ込み、令呪自体がダイナマイトと化したのだ!

 ダメージは甚大! 遠坂時臣の生存を度外視した容赦なさ!

 ギルガメッシュだけが無情なのではなかった! こちらもヒドイ!

 

 そして階下では!

 

 

「グ……グワーッ!? な、何がアバーッ!」

 

 

 膝から崩れ落ちる雁夜のメインボディ!

 群体化が解け、その肉体はズタズタに破壊された、人間にほど近いニンジャのそれに戻っている!

 これは一体なんだ!?

 

 賢明なる読者諸兄はすでにご存知のように、先日の言峰綺礼とのカラテ勝負において、メイガススレイヤーはコッポ・ドーの技法を用いて勝利した。

 そこからもわかるように、彼はコッポ・ドーに精通したカラテ者であり、魔術師殺しの為に極めて優れた殺人技を体得している。

 そのカラテはそこらのサンシタニンジャとは次元の違う領域にあると言い切っても過言ではない。

 カラテの修行すら積んでおらず、ニンジャ身体能力とジツによる部分強化に頼り切りの雁夜とは別次元の住人めいたカラテ練度。

 

 今、彼が見せた突きはコッポ・ドーのヒサツ・ワザの一つ!

 古代ニンジャ文明の時代、アビセ・キックと並び称せられたコッポ殺人奥技、トオシ・ブローだ!

 

 

「ゴボーッ! オゴーッ!」

 

 

 滝めいて大量の吐瀉物を吐き出し、のたうちまわるベルゼブ・ニンジャ憑依者。

 ジツを発動するためのカラテが練れない! なんだこれは! 雁夜のニューロンを混乱が染め上げる!

 

 突きによって打ち込まれたコッポ衝撃波は群体めいた蟲の全てへと伝わり、神秘的なエフェクトでジツの原動力たるニンジャソウルのパワ経路を断絶せしめた。

 これは呼吸器系破壊を狙った禁じ手、ビヨンボ・バスターとは別ベクトルでの内部破壊カラテ。

 コッポ突きからの衝撃が相手の肉体を突き抜け、内部からの破壊とカラテ弱体効果を同時にもたらす恐るべきヒサツ・ワザ!

 

 これがコンポ・ニンジャが創始したとされる殺人カラテ流派、コッポ・ドーだ!

 いかに神話級ニンジャソウルがディセンションしようと、元々の肉体がノーカラテでは耐えられる道理もなし!

 

 トオシ・ブローを撃ちこむべき急所を雁夜が晒してしまったのも、ここまでのカラテ猛攻が原因であった。

 ノーカラテゆえに全てをジツに頼るしかない以上、その防御ムーブメントは実際ニュービーめいてブザマ。

 カラテに長けぬニンジャは時として、隠すべき弱みを逆にあからさまにしてしまう。

 露骨な防御の意識が、相対する敵に弱点を教えてしまうのだ。

 メイガススレイヤーほどのカラテ巧者が、それを見過ごすわけもない。

 

 加えてとどめとなったのは先程の状況判断。

 状況を打破するための代償として用いたカラテスタミナの消耗がジツの精度を一気に下げ、それが故に致命的な隙を晒してしまった。

 群体ニンジャの最大の強みは、精妙な妖蟲変化ジツによる急所の存在しない不死身ぶりであるが、それもジツの精度次第。

 ジツの制御を緩ませ、急所をあからさまにしてしまえば、いかに不死身めいたニンジャでも殺されるのは当然の話なのだ!

 

 

「ヌウウーッ……!」

 

 

 がくりと膝をつくメイガススレイヤー。

 

 とはいえ、これほどのジツを用いてメイガススレイヤー自身が無事では済むわけもない。

 時の流れを己のカラテでかき分けラッセル車めいて進み世界の条理を覆す恐るべきジツは、その反動で使い手自身の肉体を強く蝕む。

 使わずに済むなら使わずに勝ちたい、メイガススレイヤーにとっても禁じ手めいた切り札のジツであった。

 

 膝をついた姿勢のメイガススレイヤーの全身から、破裂した水風船めいて鮮血がしぶく!

 反動ダメージが襲ってきたのだ! 苦しむメイガススレイヤー!

 

 彼の皮膚、筋組織、内臓はジツの反動で内部からボロボロに破壊されていた。

 ニンジャ耐久力の持ち主であったとしても、優れたカラテを有していなければ即座に爆発四散しかねぬほどの衝撃が五臓六腑を打ち据える!

 

 メイガススレイヤーはアグラ・メディテーションの姿勢を……取れぬ!

 脚が動かぬのだ! 大腿筋がズタズタに断裂していては無理からぬ!

 やむなく膝立ち姿勢でチャドー呼吸を開始!

 

 

「ス……スゥーッ、ハァーッ……! スゥーッ! ハァーッ!」

 

 

 チャドー呼吸での自己回復を図るメイガススレイヤーに、時臣の体を使ってジゴクめいた視線を向ける寄生ニンジャ。

 キョートのホーリーアニマル、シカの幼生体めいて震える脚で立ち上がる!

 魔力ではなくジツでの寄生操作を行なっていたがゆえに、レイジュ・タトゥーは吹き飛んだものの被害はそこで止まり、即死には至らなかったのだ!

 

 もしも間桐雁夜が一人前の魔術師であったならば、ジツによる寄生侵食により時臣の魔術回路や魔術刻印までも利用しようと試みていただろう。

 仮に魔術回路がまともに働いていれば、アンタイメイガス・スリケンで全身木っ端微塵に吹き飛び爆発四散していたのは確実!

 人間の頃の雁夜が、半人前の粗製めいた魔術師であったことが逆に有利に働いたか!

 

 

「メ……メイガススレイヤー=サンだと……! おのれー……ッ!」

 

 

 ニンジャ反応速度ですら捉えることすら出来ぬほどの超スピードによって、向かい合った状態からアンブッシュめいた一撃を受け、動揺と憤怒で雁夜のニューロンが染まる。

 ニンジャのイクサにおいて、敵であると認識している存在からの攻撃を感じ取れぬなどというのは通常ありえない。

 弾丸すら見てから避けられるニンジャ反応速度をはるかに凌ぐスピードは、ニンジャやサーヴァントでもそうそう出せるものではないのだ。

 

 怒りの呻きをあげた妖蟲ニンジャは、無事だった時臣の手で足元に転がっていた宝石ボーを拾い上げ投擲の構えを取りかける。

 しかし何故か引き戻し、その先端を自分の腹に押し当てた。

 

 これは妖蟲の意志ではない!

 

 

(……雁夜=サン、私の体を弄ぶのはここまでにしてもらおう……)

 

「ヌウーッ!?」

 

 

 咄嗟に投げ捨てようとするも、一瞬遅い!

 宝石ボー先端にあしらわれた大粒のルビーの内部に光が灯るや、膨れ上がり火球と化した!

 

 KABOOOOOOOOM!!

 

 

「グワアアーッ!」

 

 

 おお……ナムサン!

 時臣の肉体は腹部から爆炎で炭化破砕されて両断!

 

 時臣の脳髄にまで侵食の手を伸ばしていた妖蟲の、イマジナリーニューロンへと響いた声。

 掠れ、弱っていても、他ならぬ雁夜が聞き間違えるわけもない、実際耳慣れた声だ。

 

 

「時臣=サンだと! バカな……!」

 

 

 この場を賢明なる魔術研究者が目撃していたならば理解できたことだろう。

 確かに遠坂時臣の意識は、ニンジャの手によってローカルコトダマ空間内に押し込められていた。

 瀕死の時臣の抵抗力ではニンジャにあらがう術はない。スマキめいた有様で、己の肉体が操られる様を見続けるしかなかった。屈辱!

 

 だがしかし、メイガススレイヤーからのダメージによりジツが緩んだことを、遠坂時臣の抑えこまれた自我は感知したのだ。

 彼は己の肉体の支配権を取り戻すべく、ニューロンからLAN直結による秘匿ハッキングめいた干渉を開始。

 

 そして遠坂に代々受け継がれた魔術刻印の後押し。

 持ち主を活かそうとする魔術的リジェネレイション・エフェクトが彼自身の肉体を取り戻させるべく作用した。

 それはまさに、これまでに積み上げられてきた遠坂の歴史そのものの手助け。

 

 先ほどのアンタイメイガス・スリケンの被害を抑えた雁夜の行動が、こちらでは時臣の生命線を繋いだ。

 サイオー・ホースのコトワザの通り、何が幸いするかはヒョウタンを振ってみなければわからぬ。

 同じ穴から雁夜が得たのはタヌキで、時臣が得たのはフェレットであった。

 

 平安時代の哲学者ミヤモト・マサシに曰く、ネズミは二度噛めばライオンをも倒す。

 ニンジャがモータルに抱く無意識めいた侮りこそが、間桐雁夜の足をすくった!

 

 魔術師の執念! 遠坂に受け継がれた歴史!

 そしてモータルの意地の勝利だ!

 

 それは実際、死にゆく肉体に最期に残った、時臣の残留思念めいた足掻きだったのかもしれないが。

 四散した時臣の肉体からちぎれ飛んだ、その魔術刻印の刻まれた右腕が、くるくると回転しつつ宙を舞い────

 

 

「────"天の鎖/エルキドゥ"よ」

 

 

 空中で、虚空から伸びた鎖に絡みつかれ、静止した。インタラプト!

 無骨な鎖がシルク糸めいてやわらかなタッチで千切れた腕を捕縛する様は、まごうことなき神秘の発露めいたなにか。

 

 

「……フン、大した意地よな。

 心折れずに抗ったその様、褒めてつかわすぞ」

 

 

 寄生した時臣の肉体の中で、妖蟲は感じ取った!

 己へと向けられた、神代の英雄の視線を!

 未だその肉体は彫像めいて動かぬが、ジゴクめいた憤怒と殺意を乗せたギルガメッシュの眼差しを!

 

 

「クズ虫風情が、下賎な魔術風情で、天に仰ぎ見るべきこの我に、ここまでの無礼を働くとはな……」

 

 

 落ち着いた口調のようではあるが、その憤怒のオーラはゲヘナの獄炎すら凌ごうかという激しさ。

 英雄王のジゴクめいた威圧的アトモスフィアが、世界のすべてを塗り潰さんばかりに広がると雁夜は錯覚した。コワイ!

 激怒の焔を宿す真紅の眼光が、寄生ニンジャを射抜く!

 

 

「もはや──貴様の肉片一つすら! この世には残らぬと心得よ!!」

 

 

 ギルガメッシュの決断的宣言!

 言葉と共に溢れだした魔力が、物理的圧力すら伴い、陽炎めいて大気を歪める!

 

 何故動けるのだ! 雁夜のニューロンを混乱が満たす!

 驚愕の中、ニンジャ観察力がレイジュ・オーダーの呪縛が解けていることを見て取った。

 

 雁夜はニンジャ分析力で理解した!

 

 先ほどの令呪バインドがギルガメッシュを呪縛できたのは、雁夜がまだ生きていた時臣の肉体を乗っ取り、操作権を強奪してリンクを利用したからこそ。

 単体では人間形態すら取れぬ寄生ニンジャの端末妖蟲が、一人の個人と言えようはずもない。

 人間で言えば手首から先だけで動いているだけのようなものなのだ。

 そしてギルガメッシュ自身、名すら知らぬサンシタニンジャではなく、己のマスターへと攻撃するという意識で宝具を展開していた。

 実際ひどいがサイオー・ホースな。

 

 そんな英雄王に対しての"俺に敵対するな"というレイジュ・タトゥーによる命令を下せば、それが時臣の肉体を主語とした命令として機能するのは当然めいた話!

 時臣の肉体への攻撃禁止命令として認識されたレイジュ・オーダーは、メイガススレイヤーの一撃で時臣の肉体が死んだことで解けてしまった!

 今のギルガメッシュには、もはや令呪の枷はなし! オール・ウェポンズ・フリー!

 

 令呪システムを元々構築したのが、間桐の魔術師であったことは周知の事実であろう。

 もしもこの寄生が魔術的プロセスを用いたものであったなら、あるいは令呪は融通を効かせたかもしれない。

 かのヤバイ級魔術師である間桐の怪翁の手がけたシステムならば、その程度のファジーなインターフェース機能はあっても実際おかしくない。

 だがしかし、雁夜が頼みにしたのはニンジャのジツだった。

 令呪システムは魔術師および人間向けのものであって、ニンジャ仕様のシステムではない!

 バグフィックス不足なのだ!

 

 これは確かに偶然めいた結果だったが、その結果だけを見れば雁夜にとって全てが不利めいた方向へと働いているのは明らか。

 最後の最後まで、やはり雁夜を苦しめるのは間桐の魔術なのか!

 

 英雄王の空間すら歪ませんばかりの激怒を乗せて、魔力残量など知らぬとばかりに無数の宝具が現出する!

 

 

「────開け、"王の財宝/ゲート・オブ・バビロン"」

 

 

 神秘的なルーンカタカナを刀身に刻まれたツーハンデッド・ツルギブレードカタナが!

 仏具めいた形状で激しい雷をまとうドッコが!

 杖なのか剣なのかはっきりしない拵えで、燃えさかる炎をまとった棒状の宝具が!

 

 おお……ナムアミダブツ! なんたる威圧的なアトモスフィア!

 雁夜の視界を埋め尽くす夜空の星々めいて輝く神秘の結晶の全てが神代の武具であり、ニンジャすら殺しうる必殺の宝具なのだ! ゴウランガ!

 魔術的知識量はさほどない寄生ニンジャ妖蟲の分体雁夜でも、宙に浮かぶ宝具群の脅威度はニンジャ観察力で理解できる!

 

 もはや時臣に寄生した雁夜の分身体はネズミ袋!

 

 侮蔑的な視線で、恐怖に身を凍らせる寄生ニンジャを見据える英雄王。

 ブッダデーモンですら失禁しかねぬほどのサツバツめいた殺気が吹き寄せる!

 

 

「生き腐れのウジ虫ニンジャめが────疾く消え失せよ!」

 

「ア……アイ……アイエエ……」

 

 

 迫り来る神秘の暴威に、雁夜の口からニンジャとなる前の彼めいた、人間めいた悲鳴が漏れる。

 モータルを蹂躙する力を持つニンジャでも、世界最古の英雄王の前ではモータル同然の雑種扱いとなるのか!

 回避も防御も脱出も許さぬ、決断的速度で無数の宝具が発射された!

 

 

「アイエーエエエエエエエエ!!」

 

 

 KRA-TOOOOOOOOOOOM!!

 

 

 次々に炸裂する宝具が、トーフめいて遠坂邸の上層階を吹き飛ばす!

 ついでに時臣の体に寄生したニンジャも木っ端微塵に粉砕!

 どちらが本来の目的なのか、これではわかったものではない。バーサーカーもかくやという怒りの宝具掃射!

 

 

「スゥーッ! ハァーッ! スゥーッ! ハァーッ……」

 

 

 神代の武具が絨毯爆撃めいて降り注ぐ中で、深く静かにチャドー呼吸を続けるメイガススレイヤー。

 いつの間にやら膝立ち姿勢からアグラ・メディテーションに移行している。

 出血はすでにカラテで止まり、チャドー呼吸で増幅されたニンジャ回復力によって、肉体内部に受けていたダメージも治癒していく。

 

 賢明なるニンジャ研究者諸兄には周知の事実であるかもしれないが、ここでチャドーについて簡単にご説明させていただこう。

 チャドーとは、歴史の闇に葬られた伝説的暗殺拳である。

 そしてチャドー呼吸とは、神話級ニンジャが開祖とされるこの流派の柱めいた基本動作だ。

 深く静かなその呼吸法はニンジャの生命力を活性化させ、カラテを強め、精神統一をも助ける。

 

 傷ついたメイガススレイヤーの肉体はチャドーの呼吸によって、今この瞬間も急速に回復している。

 これが鍛えぬかれたニンジャのカラテだ。恐るべし。

 

 なお、現代に伝わるチャドーは真のチャドーから、荒事めいた要素を取り除き、レイギサホーの流派として独立したものである。

 公家めいたノーブルな社会的地位にある者達が、時として政治的イクサの場とするチャノユもまた、チャドーの一部だ。

 チャノユを心得ぬ政治家や企業家は侮られ、時にはムラハチとされ地位や名誉、財産すら失うこともあるという。

 

 チャドーというものが、そのような心理戦的要素をも含む総合的カラテ体系であったのかは、現代においては定かではない。

 あるいはチャドーの真実を覆い隠すために用意された仮面めいた要素だったそれが、真のチャドーが失伝したことにより独り歩きをするようになり、肥大化したのかもしれない。

 ニンジャ学の研究者ではないメイガススレイヤーには、そこまで細かい事はわからぬが。

 

 

「スゥーッ! ハァーッ! スゥーッ! ハァーッ……!」

 

 

 深いストロークのチャドー呼吸を維持していたメイガススレイヤーが、かっと目を見開きつつ立ち上がる。

 ジゴクめいた焔を宿し、昏い殺気で底光りする眼光が、裂けた床から階下を見下ろす。

 

 敵ニンジャの姿はなし。

 

 トオシ・ブローによるダメージを耐え、逃亡を図ったのか。

 メイガススレイヤーのニンジャ感知力が、じょじょに遠ざかりつつあるニンジャソウルの気配を逃さずキャッチした。

 敵も隠れようとはしているのだろうが、ニンジャ野伏力の差がある。

 

 

「魔術師ニンジャ……決して逃さぬ。この手で殺す」

 

 

 メイガススレイヤーはジゴクめいて呟き、足を前へと踏み出した。

 踏み出された足にカラテがこもり、ニンジャ脚力で決断的に跳躍!

 

 

「イヤーッ!」

 

 

 カラテシャウトと共にジャンプし、階下に降り立つ。着地後、ニンジャソウルの痕跡を探るように一瞬視線を巡らせたのち、疾風めいて駆け出す!

 メイガススレイヤーのニンジャ感覚には、カタツムリの這い跡めいたニンジャソウルの痕跡が視えている。

 ハウンドめいて追跡を開始した。

 

 その駆け去る背中をちらりと横目で捉え、そのまま見送る英雄王。

 ジゴクめいた怒りのアトモスフィアはほとんどそのままだが、ひと暴れして落ち着いたのか周囲が見えているようだ。

 

 

「フン、我に退出のアイサツの一つもなしとは礼儀を知らぬ奴よ。

 ……ま、あの不愉快なニンジャを始末しに向かった点は評価に値するか」

 

 

 宝具の掃射を止め、忌々しげに鼻を鳴らすギルガメッシュ。

 サンシタと見下していたニンジャに思わぬ不意打ちを喰らったことが腹立たしいのであろう。

 そのため、メイガススレイヤーの無礼な退出よりも群体ニンジャを抹殺しに向かったことを評価したようだ。

 

 怒りに任せて宝具の掃射を食らった遠坂邸の上層階は、根こそぎ薙ぎ払われて雨ざらしと成り果てている。

 時臣の遺体は片腕以外、欠片すら残っていない。寄生ニンジャもろとも消し飛んだようだ。

 

 天の鎖に絡め取られていた時臣の腕を解放し、空中でキャッチング。

 ギルガメッシュは遺された時臣の腕を、そこに刻まれた魔術刻印を観察した。

 屋根がなくなった為にしめやかに汚染雨が降り注ぐも、いつの間にやら展開されていた雨避け宝具に弾かれ、魔術師の骸を汚すことはない。

 

 魔術刻印が妖蟲の侵入を阻んだのか、この腕だけは完全に純粋な遠坂時臣の遺体であった。

 あるいは時間さえかければ魔術刻印すら乗っ取れたのかもしれないが、全てはアフターカーニバルな。

 これもモータルの意地めいたものの勝利だろうか。

 

 いかに負傷していたとはいえサンシタ風情のアンブッシュを受けるとは情けないにも程がある。

 だがニンジャに見せた最期の意地に免じてブザマは許そうと、英雄王はニューロン内で慈悲めいて呟いた。

 

 

「確か……この国では、死者は先祖代々の墓とやらに入ることが民族的な風習であり、名誉となるのだったな」

 

 

 これは日本における伝統的かつ宗教的なリチュアルである。

 アンタイブディストなどの稀な例外を除き、大抵の死んだ日本人はボンズのチャントを受け、荼毘に付されることを望む。

 フユキ市でも年に一度、不法滞在者や身元不明者などの死亡者のミタマを一括で弔うイベントがリュードー・テンプルで催されている。

 日本という土地に染み付いた風習めいたものであり、カワヤの使い方やフスマの開閉作法などと同じ一般常識である。

 

 当然、聖杯からの基本インストール知識にも含まれていた。

 

 ぐにゃりと英雄王の背後の空間が歪み、そこから一枚のカーペットが排出され、そのまま床から四フィートほどの高度に滞空した。

 これは空飛ぶじゅうたんの原型宝具だ。

 魔術師のみならずソロモン・ニンジャやアラジン・ニンジャなども使ったとされる、神代においては比較的ありふれた由緒正しき伝統的移動ツールである。

 英雄王は他にも飛行宝具を所有しているが、このようなチープな宝具のほうが消費魔力量も実際少ない。

 

 身をかがめることもせず、軽い跳躍でじゅうたんに飛び乗るギルガメッシュ。

 傲然と仁王立ちする主を乗せ、じゅうたんは重力を感じさせぬ滑るような動きで上昇し、フユキの夜空へと舞い上がった。

 

 バリアーめいた雨避け宝具に弾かれる汚染雨の向こうに、遠坂邸敷地内でジゴクめいたイクサを繰り広げる二騎のサーヴァントが見える。

 サーヴァント動体視力で捉えられるギリギリの速度で二振りのツルギが振るわれ、センコめいた火花が散り、気合のこもったカラテシャウトが雨音越しにかすかに届いていた。

 

 

「あの狂戦士め、己の飼い主の危機に気付いてもおらぬのか?

 イクサぶりは良かろうとも、やはり狂犬は狂犬よな」

 

 

 フン、と呆れ混じりの息をついてじゅうたんを飛ばすギルガメッシュ。

 街の上空を行く途中、雄牛二頭立ての空飛ぶ戦車とすれ違ったが、気にもとめずに飛び去った。

 

 なにやら背後から呼び止めるような声が聞こえた気もしたが、止まる道理はない。

 王の中の王たるギルガメッシュが、些末事にかかずらう事などあり得ぬ。

 王の行軍を止めたければそれなりのレイギサホーを心得た上で、平身低頭して願うのが筋である。

 

 二度同じ声がかかれば仕置きのムチめいて宝具の一発でもくれてやる腹積もりであったが、二度目の静止は聞こえなかった。

 いかに世界最古の暴君とて、己の分をわきまえた雑種に対してまで暴虐を見せることはないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、なんとも無愛想な奴よのう」

 

 

 見る見るうちに小さくなっていくじゅうたんを、肩越しに振り向いて見送るライダー。

 呼び止めてはみたものの、聞こえなかったらしく無視されてしまったのだ。

 いささか残念めいた表情を浮かべている。

 

 だが、他の者はそれどころではない。

 恐ろしく強大な神秘の気配をまとったサーヴァントとのエンカウントに動じるなと言っても無理な話である。

 ランサーは構えていた二振りの魔槍をおろし、臨戦態勢を解いた。

 

 

「ケイネス殿、あれは確かアーチャーのサーヴァントでは」

 

「うむ、確かに。

 使い魔ネットワークで見た、アサシンを始末したアーチャーのサーヴァントそのものだったな」

 

「ねえケイネス、追いかけなくてもいいの?

 あの金ぴかがサーヴァントなら、放っておくこともないんじゃないかしら」

 

 

 問うソラウに首を左右に振って答えるケイネス。

 

 

「バーサーカーとのイクサに敗れて逃走しているのか、それとも何の関係もないのかはわからんが、今ここで追う必要性はあるまい。

 先ほどの魔力の気配も、あれが飛んできた方向にまだ残っている。そちら重点な」

 

「然り。敗軍の兵を追うよりも、バーサーカーを優先したほうがよかろう」

 

「負けて逃げてる感じはしなかったような……ウーン」

 

 

 首を傾げ、疑問めいた言葉を漏らすウェイバー。

 

 

「今は気にしても仕方あるまい、状況判断だ。優先順位はモータルを虐殺したサーヴァントと魔術師に絞ったほうがよい」

 

「アッハイ」

 

 

 ハコ乗りめいた姿勢で前を睨んでいたランサーが、槍兵の鋭いサーヴァント視力で目的地を捉えた。

 

 

「ケイネス殿、見えて参りました。風体までは見えませぬが、誰か戦っているようです」

 

 

 ランサーの声を受けて前に向き直る一同。

 行く手に見えてきたのは、閑静な超高級住宅地区の中で一際目立つ屋敷だ。

 瀟洒な邸宅であっただろうそれは廃墟めいて半壊し、そこかしこから火の手があがっている。実際無惨な。

 

 その立地を見て、ケイネスが何かを思い出そうとするように眉をひそめ、考え込んだ。

 

 

「あの場所は……確か……フユキのセカンドオーナー、遠坂の屋敷か?」

 

「トオサカっていうと、確かこのフユキに聖杯戦争をこしらえた御三家だったわね」

 

「うむ、その通りだソラウ=サン。

 しかし遠坂のサーヴァントは、確かあのアーチャーであったと思ったが……となるとバーサーカーは何と戦っているのだ?」

 

 

 首をひねるケイネス。

 

 

「消去法で行けばキャスターか、あるいはセイバーのいずれかだな。

 ま、何にせよ踏み込んでみれば手っ取り早く判明するであろうさ」

 

「大雑把だなあ」

 

 

 口許に太い笑みを浮かべて言い放つライダーに、やや呆れ顔のウェイバー。

 自分のパートナーの豪快なやり方にも慣れてきているらしく、文句までは至らない。

 

 定員ギリギリといった風情の戦車を牽き、頼もしく宙を駆ける雄牛。

 稲光をまとった神威の車輪に同乗した二陣営は、遠坂邸を目指し、フユキの夜空を駆けていった。

 

 

 

 

 

 


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