同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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 館山での祭りのイベントも最終日。一部艦娘は最後のイベに参加。残りは一般人に同化して祭りを最後まで楽しむ。閉会式、那珂は眼前に座る提督ら大人勢の背中を見、物思いに耽る。


祭りの終わり

 祭りも最終日。この日は15時に本部庁舎前広場で閉幕式が行われる。それまで艦娘達は基本自由時間だ。とはいえこの祭りの主役は艦娘と海上自衛隊。最終日も艦娘が出演するミニイベントは残っている。神奈川第一から数名は、この日もミニイベントのため指示された会場に赴いて働いていた。

 

 規模の関係上、主体は神奈川第一だが、名目上は神奈川第一と鎮守府Aの共催という形のため、あるミニイベントに鎮守府Aからも参加を求められていた。

 提督代理の妙高は内々に聞いていたその話を、朝食の席で打ち明ける。すると那珂たちはワイワイと騒ぎ立つ。妙高はイベントの内容と艦娘たちの性格を踏まえて、鎮守府Aからの参加者を選出した。

 その指示されたメンツ以外の艦娘は自由時間となったため、さらに賑やかに朝食終了間際の空気を色立たせた。

 

 

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 一部を除いて思い思いに自由時間を過ごす艦娘たち。少女たちとは別行動になる妙高は閉会式の参加のためやってくる西脇提督と連絡を取り村瀬提督らと打ち合わせに、明石は艤装を持ち帰るための準備に追われることになった。

 そうして時間は過ぎ、閉会式を迎えた。館山基地の広場の一角に設営された会場、その関係者スペースには、村瀬提督と鹿島の後ろに神奈川第一艦娘たちが、西脇提督と妙高の後ろには那珂たち鎮守府Aの艦娘たちが並んで座っている。

 

「妙高さん、今回は代理ご苦労様です。」

「いえいえ。大変良い経験が出来ました。しっかりとうちの箔を売り込んでおきましたから。」

「ハハ。さすがだわ。頼りにしてます。それに黒崎先生もお疲れ様です。いかがでした?」

「私なんて……何のお役に立てなくて申し訳ございません。私も艦娘になっていたら何かできたんでしょうけど。」

「いえいえ、そんなことないですよ。先生がいたから時雨たちも安心できたんでしょうし、いてくれるだけで安心できる存在って、大事なんじゃないですかね。」

「西脇さん……フフッ。ありがとうございます。」

 

 那珂は大人三人の会話をすぐ後ろで聞いていた。自身の隣には五月雨が座っている。彼らの会話をこの少女も聞いているはずだが、どう感じているのか。

 理沙のことは正直まだ全然わからない。しかし彼女の従姉だという妙高のことはある程度わかっている。那珂は提督と妙高に、夫婦のような雰囲気を感じた。さすがにこんな大人の女性が相手だったら、川内はもちろん自分も敵わない。しかしそもそもライバル視したい存在ではない。

 実感しているのは、わずかに感じさせる仲睦まじい雰囲気が、いつかそんな雰囲気を自分も誰かと作り出して過ごしていけるのだろうかという漠然とした思いを抱かせるものであるということ。なんとなく自身の心という水面をパシャパシャと波立たせる。

 

 誓ったじゃないか。自分は西脇提督に仕事の面だけで協力し、助け喜ばせてあげると。自分の好きは違う。提督の好きの方向も違う。提督の好きが向かう先についてはあの日の夜にわかっている。

 そして今朝話していて気づいたことがある。川内も提督を意識し始めている。艦娘になって、彼女の見聞や認識が広まったおかげだろう。普通に高校生活を送っていたらありえなかった世界や人物との出会い。自分だってそれをこの数ヶ月間で存分に味わって今ここにいる。

 きっと趣味の以外の面でも、いずれ川内は提督にとって、そして鎮守府にとっても欠かせぬ存在になる気がする。そうなった時、自分はどうなる?どうするべきか。

 まさかライバルが五十鈴と川内の二人になるとは思わなかった。いや、全く考えていなかったわけではない。なんとなく察することができる気配はあったし、実力としても将来性があるのは認めたい。なにより自分が招き入れた後輩であり、大切な艦娘仲間なのだ。

 川内の想いの矛先と相手の想いが繋がる道筋が見つかった今、その可能性の芽を摘んでしまうのは本意ではない。大人しく自分は下がり、二人を陰ながら応援しよう。

 そして自分は、忘れかけていた目的を思い出し目指すのだ。自分らしくあるために、注力の方向性を正したい。

 

 

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 その他諸々の思いにふけっていた那珂はしばらくして提督や五月雨に肩を叩かれた。

「……おい、那珂?」

「那珂さん? 終わりましたよ?」

「ふぇ!?」

 那珂が見上げると、そこには自身を心配げに見つめる二人の姿があった。プラス、背後からは後輩たちの視線も感じた。

「な、なに?」

「何って……もう閉会式も終わったぞ。退場だよ退場。ホラ皆行くぞ。」

「あ、あぁ~~~そ、そっか。アハハ。あたし~眠かったのかなぁ。ボーッとしてたよ。アハハハ~!」

 提督のツッコミを受けてアタフタしつつ、那珂は後頭部をポリポリ掻いて立ち上がる。周囲はガヤガヤとして、すでに立ち上がって席を離れはじめている。

 ひとしきり周囲を見渡した直後、背後からツッコミが入った。

「那珂さんってば、どうしたんすか?終わるからって気抜いてません?」

 そうツッコんできたのは川内である。那珂は背後に振り向き川内に取り繕う。

「おぅ! 川内ちゃんに言われちゃったよぅ……あたしだって疲れてぇ、緊張してぇ、ぼーっとすることあるんだよ。」

 おどけながらそう口にすると、周囲からケラケラと砕けた笑いが咲く。

 五月雨が、村雨が、他の艦娘たちが那珂を見て笑い、そして自身も眠かっただの、早く帰りたいだの自由な愚痴を漏らし始める。

 それを見た提督や妙高ら大人勢は微笑みながら軽くため息をつき、少女たちに告げた。

 

「わかったわかった。後はお世話になった方々に軽く挨拶するだけだから、もう一踏ん張り頼むよ。」

「りょーかーい! ねぇねぇてーとくさん。帰りにお土産屋寄ってね~。ママたちにお土産買っていきたいっぽい!」

 夕立の提案に時雨らはウンウンと頷いて懇願の視線を提督に向ける。その視線に提督は照れながら頷き、夕立の頭を撫でることで駆逐艦勢をなだめた。

 

 

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 閉会式後、西脇提督は那珂たち艦娘を連れて館山基地の本部庁舎の会議室にいた。すでに見慣れた大部屋だ。数人の海曹が簡単に長机を並べて会場づくりを進めている。ガヤガヤと聞こえる声は何重奏にもなって会議室に響き渡る。那珂たちだけの声ではない。そこには神奈川第一鎮守府の艦娘らもいるからだ。

 ほどなくして、館山基地の幕僚長ら幹部や海佐たちが姿を現した。つまるところ、本当に必要な関係者が一同に会したことになる。

 ある海佐の宣言で始まったのは、閉会式のときよりも砕けた、関係者同士の簡単な懇親会だった。

 

 この日中に鎮守府に帰るのを目的としているため、西脇提督は海佐や幕僚長たちから勧められる酒をなんとかかわし、代わりにノンアルコールビールで酒盛りの嵐を食らっていた。

 那珂たちや神奈川第一の霧島ら艦娘は、ジュースやお茶とお菓子を手に持ちしとやかに、一部は子供であるがゆえにはっちゃけておしゃべりをしている。中には合コンばりにイケメン海尉・海曹に詰め寄っている者もいた。

 

 

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 簡単な、と言いながら懇親会は1時間ほど続き、17時30分手前で幕僚長の合図のもと、懇親会は幕を閉じた。

 

「それでは西脇君。我々もこれで失礼する。鎮守府までそちらも長いだろうから、道中気をつけて。」

「あ、はい。お心遣い感謝致します。そちらこそお気をつけて。また、何かありましたらご連絡致します。」

 

 提督同士の別れ際の挨拶がかわされているその近くでは、艦娘たちも別れの挨拶に続く終いのおしゃべりをしていた。

「ねぇねぇ川内。」

「川内さーん!」

 川内に体でも口頭でもタックルしてきたのは暁・雷をはじめとする神奈川第一の駆逐艦たちだ。

「おうよ。また会おうね。」

「うん。昨日の遊びの約束果たせなかったから、また会いたいわ。」

「あ、そういやそうだったねぇ。昨日は仕方ない。うん。さすがのあたしもそう思うわ。その代わり今度プライベートで遊ぼ。」

「うん!」

 そう暁と川内が見つめ合って話していると、雷が割り込んだ。

「暁だけなんか仲いいのずるいわ。今度はあたしたちも川内さんと一緒にしたいわ。いいでしょ?」

 暁と雷につづいて電も要望を口にする。

「はぅ……私も一緒にお仕事や遊びたいのです。響ちゃんもそうでしょ?」

「……そうだね。私は別行動だったからね。」

 初めて合う響という艦娘に川内は若干身構えたが、おとなしめに口を動かしてすぐに黙ってしまったその少女を見て、なんとなく同僚を彷彿とさせたので、緊張感をすぐに解いて応対をした。

「えっと、響さんだっけ。あたしは軽巡洋艦川内。まぁそっちにも川内はいるらしいからちょっと紛らわしいとは思うけど、よろしくね。」

「え、うん。あの、よろしく……。」

 そう一言挨拶を述べると口を噤む響。会話が続きそうにないので川内も黙るしかない。それを見た雷が会話の主導権を握るべく話題を変えてきた。

 

「ところで川内さん。あたしたち4人は第六駆逐隊っていうチームになるらしいの。知ってた?」

「え? あ~、うん知ってるよ。軍艦のほうの編成ネタでしょ? そんなのゲームで軍艦覚えた人なら朝飯前だよ。」

 やや鼻息を荒げてネタを口から発した雷は、川内のあっさりとした応対に口を膨らませた。

「ブー。な~んだつまんないの。日本史の授業でもやらないそうな話だったから自慢したかったのに。」

「自慢したかったなんて、雷はまだまだ子供ね~。私達来年高校生なんだから、自慢なんて大人げないわよ。」

 暁がややふんぞり返りながら雷をなだめる。その脇で川内はプッと吹き出し、暁から眉をひそめた怪訝な問いかけと視線をもらった。

「な、なによ?何かおかしいこと言った?」

「いやいや。何も。ダダこねたりぐずって泣き出すのも、来年高校生のすることじゃないよな~って疑問に思っただけよ。」

「ムッ。それあたしに言ってるの!? あたし見て言ってるよねそれ!?」

 暁はすぐに顔を真赤にして川内に詰め寄り責め立てる。しかし暁は自分以外の四人の様を見てさらにアタフタとする。

 当の川内はいなし方をすでに掴んでいるため、暁の文句を全く意に介さないでケラケラ笑うのみ。そのやり取りを見ていた雷はニンマリと苦笑の顔を向け、電は若干アタフタしながらも口の端は吊り上げて笑みを浮かべ、そして響はわずかにうつむいて口を手で抑えて笑いをこらえている。完全に暁のからかい包囲網がその場に出来上がり、場の雰囲気を賑やかにさせていた。

 

 

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 那珂は五十鈴とともに、懇親会の最後まで神奈川第一の天龍たちとともにいた。そのため、懇親会の締めの挨拶とそれぞれの別れの挨拶はすぐさま向き合って始めた。

「またな、那珂さん、五十鈴さん。」

「うん。また会おうね、天龍ちゃん!」

「またね、天龍さん。」

 別れの悲しみなどこの場の三人も周囲の艦娘にも無く、ただただ和気藹々としたおしゃべりの延長が続くのみだ。

 天龍が鹿島らから呼ばれて去る前、那珂は天龍から一つの提案を聞いた。

 

「そだ。あそこにいる暁たちが言ってたんだけどさ、そっちと演習試合したいっつうんだよ。」

「演習試合?」

「そう。あたしとしてもその意見に賛成。一度那珂さんたちと拳ならぬ砲をまじえてみたいから、パパにキチンと頼み込むつもり。どうかな、ノってくれない?」

 那珂と五十鈴は顔を見合わせ、すぐに天龍に向き直して返答をした。

「おっけぃ。ど~んと来いってやつですよ。」

「私もいいわよ。うちの西脇に進言しておくわ。」

「うん。頼むぜ。それじゃあな。また会おうぜ。」

 

 二人の快い返事を聞いた天龍はニカッと口を大きく開けて笑顔になり、一言発して二人から離れていく。那珂と五十鈴は彼女の背中を、会議室から見えなくなるまで見続けていた。

 

 

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「お~い、那珂、五十鈴。それから川内!こっちに集まれ~!」

「「「はい。」」」

 

 提督に呼ばれた那珂たちは会議室の一角にいる提督を中心に揃った。

「みんな、挨拶は終わったな。それじゃあ帰るぞ。」

「はーい!」

「はぁ~やっとかぁ。もうお腹空いて空いて。」

「川内さん……さっきまで結構食べていたじゃないですか……。」

「何言ってんの神通。こんなの軽食だよ。ねぇ、夕立ちゃん。」

「っぽ~い!」

「あぁもう。ゆうもノッちゃって!」

 いつもの流れ通り、神通と時雨の心配なぞどこ吹く風の川内と夕立。笑いが漏れる那珂たち鎮守府Aの一行は最後に、会場に残っていた海上自衛隊の面々に深々とお辞儀をして退出し、基地を後にした。

 

 そのまま手ぶらで帰るつもりはない那珂たちはお土産センターに寄ることを忘れない。提督にせがんで駅前のお土産センターに立ち寄らせる。数十分経ってから車に乗り込んだ那珂たちの側には、大量のお土産品が車中のいたるスペースを専有していた。

 

 鎮守府までの2時間近く、艦娘たちは車に揺られながら思い出深いこの2~3日を思い返し、帰路に着くのだった。

 

 


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