月面着陸から七十年前
西暦2012年の冬、深夜。
雪が舞うドイツ北部の都市ヴィルヘルムスハーフェンのドイツ連邦海軍の軍港に一隻のフリゲート艦が入港した。
ドイツ連邦海軍が誇るゼクセン級フリゲートだ。
だが、その船体は古い傷で激しく損傷している。
今から一年前、海に突如と現れた人類の敵、深夜凄艦。
やつらは、わずか人間から車ほどの大きさで軍艦としての性能を持ち人類は必死に戦ったがわずか一年で制海権を失った。
ドイツ連邦海軍も殆どの戦力を失ったがこのフリゲート艦は数少ない生き残りであった。
その船の様子を戦車兵クラウス・バウマンは港に配備されているレオパルド戦車の中から不可思議な物を見るように見つめていた。
クラウスだけではない。今この港に居る者全員がそうだった。
この日、ヴィルヘルムスハーフェンでは戒厳令がしかれ町は外出が一切禁止された。海軍の施設には何故かクラウス達陸軍の戦車部隊が召集されていた。
しかも、その戦車の砲口は味方の船――ゼクセン級フリゲートに向けられている。
別にクーデターが起きたとか船がテロリストに乗っ取られたとかそういう訳ではない。
上官に理由を聞いても答えようとしない。上官の態度から何かを隠しているのは明らかだった。
だが、クラウスはそれ以上詮索はしなかった。
そんな事を考えていると戦車の操縦士であるヨーデルがタバコをふかしながらクラウスの方を向いた。
「なぁ……一体何だと思う?」
ヨーデルは暗視カメラの画面に映るフリゲートを指差してクラウスに聞いてきた。
「噂じゃあ、こないだの北海の核攻撃が関係してるんじゃないかって言われてるな」
クラウスはここに来る前に基地で聞いた噂話を話した。
だが、噂といっても核攻撃については本当だ。
一週間前、北海に敵の泊地があることを知ったイギリスは核攻撃をおこなった。
おかげで一時的に深海凄艦の数は激減したが現在は元の状況に戻りつつある。
「生きた深海凄艦でも捕まえたのかもな」
クラウスは冗談混じりに言った。
それに対してヨーデルは笑った。
「それはないだろ。今まで色んな国がやったらしいけど全部失敗だったじゃないか」
「だな」
そんな事を話していると車内に無線が入った。
≪戦闘指揮車より全戦車隊、戦闘体勢に移行せよ。目標はゼクセン級フリゲートのタラップから降りてくる一団だ。攻撃命令が出るまで待て≫
「「了解」」
クラウスとヨーデルは無線を送り返すと、クラウスは砲弾をいつでも撃てる様に準備を。ヨーデルは車体の最終調整をした。
「来たぞ……」
暗視カメラにゼクセン級フリゲート横につけられたタラップがアップで映し出され、ついにこの戦車の標的が姿を表した。
その標的の周りには防護服を着た味方の兵士達が銃を標的に突きつけている。
それを見たクラウスとヨーデルは顔を真っ青にした。
「お、おい、何だよあれ……」
「嘘だろ……」
そこに居たのは年端もいかない少女達だった。
それも十人や二十人ではない。
続々と艦内から降りてくる様子を見ると少なくとも百人以上はいる。
その表情は皆、不安と恐怖に歪んでいる。
今年、軍に配属されたばかりのクラウス達には強烈だった。
「……ガス室行きだったりしてな」
その様子を見ながら青ざめた表情でヨーデルはブラックジョークを言い始めた。だがこの状況でクラウスは笑う気になれなかった。
何故なら今、クラウス達は少女達に砲を向けている。
新兵だからかもしれないが人に対して一度も武器を向けた事のないクラウスの脳裏にかつて学校の歴史の授業で習ったある出来事が過った。
その歴史は恐らく全世界の人間が知っているだろう事。
時は1940年代、ドイツ人を“たぶらかした”ドイツ国家社会主義党、通称ナチス。
かれらはドイツ人を騙し独裁政権を成立させ欧州各国に宣戦布告した。
その目的はアーリア人以外の“劣等人種”をヨーロッパの地から抹殺し東方生存権、または千年帝国と呼ばれるアーリア人だけの永遠の楽園を作ろうとした。
馬鹿げた話だ。馬鹿げた話だがそんな訳のわからない夢物語のために数千万人が死んだというのだから笑えない。
ナチスはその計画を実行すべく占領した国中からユダヤ人と呼ばれる彼らが劣等民俗と呼ぶ民俗をかき集め強制収容所で虐殺をした。
その強制収容所に連行されるユダヤ人の有名な写真がある。
その写真は中央に両手を上げ恐怖に顔を歪めた少年がいて、その周りにナチスの兵士達が銃を少年や女性達に向けている写真だ。
そして今、それに似た光景がクラウスの前に広がっているヨーデルもそう思っているはずだ。
船から降りる少女達に銃を向ける兵士達、それに怯える少女達。
ホロコーストとまでは言わないが、これではあの写真と同じだとクラウスは思った。
クラウスは怖かった。
自分達はとんでもないことに巻き込まれてしまったのではないかと。
「それにしても見てみろよ。あいつら変な服装してるな……何かのコスプレみたいだ」
そんな中、ヨーデルは突然、変なことを言い始めた
クラウスは目を凝らして画面を見つめた。ヨーデルの言う通り確かに露出度の高い服を来ている者が何人かいた。
そうして、しばらくたち、攻撃命令がこないまま少女達の一団は全員、艦から降りた。
少女達は港の広い場所に一度集められ、そのあといくつかのグループに別れバスに乗せられていった――。
でもクラウス達はまだ知らない。
彼女らの正体が後に言う艦娘だと言う事を。
そして、これがドイツにおける艦娘との最悪のファーストコンタクトになるという事を。
彼女らの事をクラウス達一階の兵士と国民が正式に知るのは数ヵ月後の事である――。
西暦2082年、月面裏。
「ん……ここは……どこなのです?」
電は何かの振動で目を覚ました。
ガタガタと時より揺れている。
まだボーとした頭で横を見ると灰色の月面の景色がものすごい勢いで動いていた。
逆の方を見るとガスマスクをして、皮膚の露出部分を黒い革の様なもので覆ったプリンツ・オイゲンらしい娘がバイクに股がっていた。
その時、電の頭は混乱していたが今の自分の状況は理解した。
どうやら今、電はバイクのサイドカーに乗せられているようだった。
もう一度、辺りを見回すとバイクが走っているのは普通の月面ではなくきちんと舗装された道路で、横にはいくつも街灯があり暗い道を照らしている。
バイクがさらに進むとビルくらいはありそうな巨大なタンクや大型トラック、電車までが走っている場所に差し掛かった。
とても月面とは思えない光景だ。
電を乗せたバイクはさらに進み坂道を上りそして下り始めた。
そこは一種のクレーターのような場所で、地面がかなりえぐれたようになっていた。
そして遂に、電の前に恐らく最終目的地だろう巨大なおぞましい形をした建造物が姿を表した。
丘の上からだと、かろうじてその全貌が分かる。
その建物は――いや、その巨大要塞は巨大なハーケンクロイツだった――。
その頃、電が向かっている月面要塞内部の学校の教室ではハーケンクロイツの腕章をしたドイツの駆逐艦や潜水艦の艦娘達が雛壇状の席に直席し授業が始まろうとしていた。
教室の壁はコンクリートがむき出しで前の方には黒板と長方形の大きな教壇が置かれその上には積み上げられた厚い本の山や地球儀が置かれている。
その教室の扉の前にイタリアの艦娘、戦艦ローマが立っていた。
ローマは教室の扉を開けると教壇に立った。
すると生徒達は一糸乱れずに立ち上がた。
「「ジークハイル!月面艦娘少女団伍長!ローマ殿!」」
生徒達は右手を斜め上にビシッと伸ばし教室に入ってきたローマにナチス式敬礼をした。
もちろん、そのローマの腕にもハーケンクロイツの腕章が付いている。
「ハイル・ヒトラー!ビバ・ドゥーチェ!」
それに対しローマもナチス式敬礼で答えた。
「まだ若き艦娘諸君、着席してください」
ローマは席に座るよう指示を出し皆、静かに席についた。
しかし、潜水艦の艦娘が一人座ろうとしなかった。
「U869、着席と言ったはずよ?」
ローマが注意するとU869は胸を張った。
「本日は月面旗艦閣下の誕生日です!よって、こう言うべきです!ハイル・ビスマルク!」
U869の発言にローマは微笑んで頷いた。
「素晴らしい。あとで成績に加点しておきましょう」
ローマがそう言うとU869は誇らしげに着席した。
「諸君、本日は大変、非ナチス・ファシズム敵な授業をおこなう」
ローマは地球儀を生徒達に見えるように持ち上げた。
「我々が地球に帰還した暁には、これらの知識を元に全艦娘、全人類を救済するのだ。そのためには我々自身の事も知っておく必要がある……我々の故郷は?レーベレヒトマース」
ローマは生徒達を見回すとレーベレヒトマースを指名した。
「地球です」
レーベレヒトマースは席から立ち上がり迷いなく答えた。
「もっと詳しく。マックスシュルツ」
「我が大ドイツ国もしくは盟友イタリアです」
次に指名されたマックスシュルツも起立し堂々と答えた。
「よろしい。地球をあとにしたのは?U-511」
「に、2012、年、です」
U511は弱冠不安げに起立し答えたが間違うことなく正解した。
「それでは、たどり着いたさきは?」
ローマは不適に笑みを浮かべ生徒全員に答えるよう両腕を広げてジェスチャーを出した。
「「ダークサイド・ムーン!(月の裏側)」」
生徒達の一糸乱れぬ回答にローマ笑みを浮かべた。
「すばらしい」
満足した様子のローマは黒板に貼っている世界地図を出した。
地図は大きく分けて赤と青と黄色そして灰色の四色で塗られている。
ロシアと中国は赤、北アメリカは青、その他はドイツとイタリアは灰色で、それ以外は黄色で塗り固まれている。
「ここに住んでいるのは、どんな人かしら?」
ローマはアメリカを指し棒でたたいた。
「「資本主義者どもです!」」
「それじゃあここは?」
赤い部分を指し棒で指す。
「「ボルシェヴィキどもです!」」
「それじゃあ……それ以外に住む者は?」
「「劣等人種!!」」
「大変よろしい」
ローマは頷きそう言うと指し棒をドイツとイタリアにトントンと軽く指した。
その表情には先ほどまでの笑みはなく真剣その物になっていた。
生徒達にも緊張感が走る。
「次は祖国の現状について……誰かわかる娘はいるかしら?」
マックスシュルツは静かに手をあげた。
ローマは答えるよう片手でジェスチャーを出した。
「我らの偉大なる祖国の国民は劣等人種どもによって洗脳されています」
マックスシュルツは少し暗い雰囲気で言った。
「よろしい。マックスシュルツの言う通り我らの祖国の国民達は劣等人種どもに洗脳され、そこに居る我らの同胞達も酷い扱いを受けています。我ら艦娘は偉大な国家であるドイツ、イタリアにしか存在しません。そして地球は深海凄艦によって海を支配されています……」
ローマもどこか悲しい表情で生徒達に説明をした。
「でも……私達はいずれ祖国へと帰る!」
ローマは声のトーンを荒く上げた。
「そして、支配民族のくせに憎きボルシェヴィキや資本主義者どもの犬と化した国民や我らの同胞達を救済し最後には我々支配種族たる艦娘が全地球を浄化する!愚かな劣等人種どもを、この宇宙から一掃するのだ!ジークハイル!!」
ローマは右手を高く上げた。
「「ジークハイル!!ジークハイル!!ジークハイル!!」」
ローマの力強い言葉に感銘を受けた生徒達は皆一斉に立ち上がりローマと同じ様に右手を高く上げて叫んだ。
この生徒達は皆、地球を知らない。
最初に月に移住した第一世代が開発したドッグで建造された正真正銘の月面艦娘なのだ。
ローマも十数年前にそこで建造され地球に関する知識が認められ地球学者として教師になったが地球には一度も行った事がなかった――。
電を乗せたバイクは巨大な格納庫のような場所にやって来た。
そこには古めかしい大型クレーンや大きな機械が沢山置かれていた。
そのなかにはオカルト番組に出てきそうな50メートルはある円盤も置かれている。
電はこの異様な光景に首をキョロキョロと動した。
それでも電にはこれらが一体何をする物なのか見当もつかなかった。
そしてバイクは広い円形状のヘリポートのような場所にやって来た。
そこには十数人の人が隊列を組んでいた。
電は直感でこの人達が皆、ドイツの艦娘だと思った。
駆逐艦や潜水艦、巡洋艦か重巡洋艦だと思われる艦娘だ。
ガスマスクをしている娘達以外は皆、顔を出していたが一度も見たことのない娘ばかりだった。
唯一分かるのは彼女達の腕につけられたハーケンクロイツの腕章だけ。
電にはなぜ月面にドイツの艦娘達がいるのか。なぜこんな要塞があるのか。なぜ滅んだはずのナチスの腕章をつけているのか。そして何故、如月ちゃんは死ななければならなかったのか……。
電の頭の中に疑問がグルグルと回った。
するとバイクはそこにキキーッと音を立て停車した――。
投稿が遅れて大変申し訳ございません。
実は一ヶ月前にいくつか書き上げていたのですが読んでてしっくりこなかったので書き直すのに時間がかかりました。
今後もこのようなことがあると思いますがよろしくお願いします。
書いてて途中で気がつきました。
映画のストーリーにそって書いたら(もちろん工夫はしますが)自分の技量の差もあって元々B級な作品が、もっとB級になってしまうという事に……。