問題児が幻想入りするそうですよ?   作:ふぐの刺身

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第二話

 戌の刻、午後八時。

 秋になり短くなって来た日は完全に沈み、人口的な明かりのない夜空は星々が瞬いている。

 鈴虫の鳴き声をBGMにしつつ、霊夢と十六夜は食卓を囲んでいた。

 ちゃぶ台には貧しい食料ながら十六夜が工夫して作った品目が並べられていた。

 

「……さて、幻想郷の説明だっけ?」

 

 霊夢は料理をつつき、そちらから目を離さないまま十六夜に言う。

 

「ああ、そうだな。霧雨から簡単に説明は受けたんだが」

 

「そうね。ここは普通の世界から「結界」によって隔絶された場所。外の世界で忘れられたものが辿り着く場所よ」

 

 最初に霊夢が手を付けたのはホウレン草の胡麻和えだ。しっかりと味がしみ込んでいて、柔かなかみごたえがある。

 

「つまり、幻想郷は普通の世界と同じ世界にあるのか?異世界ってわけじゃないんだな?」

 

「ええ、ここは外の世界と地続きにあるわ。認識を操作する結界が張られているから、普通なら「ここに幻想郷がある」って分からないけどね」

 

「ふむ。するとお前が言ってた紫って奴が姿を現さないのは、力を使い果たして回復してるかもな」

「どういうことかしら?」

 

 箸を止めることなく十六夜の方を疑問そうに見る。

 

「俺が元いた世界『箱庭』は、第三観測宇宙と呼ばれるところなんだが、簡単に言えば異世界だな。普通の世界と箱庭を繋ぐには相当な力が必要になる」

 

「ふぅん、スキマ妖怪の紫でも厳しいのね……。てか、あんた本当にすごいところから来てるのね」

 

「まあな」

 

 十六夜も自分の作った料理に手を付け始める。数秒、二人の食事する音だけが響くと、ふと思い出したように十六夜が口を開いた。

 

「そういえば、幻想郷では霧雨みたいな異能持ち普通なのか?」

 

 昼の魔理沙の飛行を思い出して、十六夜が霊夢に聞いた。霊夢は相変らず箸を止めることなく答える。

 

「ええ。魔法やら神様やら、外の世界で忘れられて、信じられなくなったものが沢山あるわ。なんだったら観光したら?家事さえやってくれればそれでいいから。地獄やら冥界やら、色んなところが揃ってるわよ」

 

「マジでか、それは面白そうだ」

 

「あ、道案内と護衛は魔理沙に頼んでちょうだい。あんたもどうやら異能持ちのようだけど、ここも中々に危険よ。最悪、魔理沙を盾にして逃げて来ていいから」

 

 サラリと魔理沙が泣きそうなことを言う霊夢。

 『危険』という単語を聞いて、十六夜の目に怪しい光が灯る。

 

「どうせ修行の途中だ。強い奴に喧嘩売ってくのもいいかもしれねえな」

 

「別にいいけど、私に迷惑かけないようにしてよね」

 

 物騒な会話をしながら、彼らの夕食は進んでいった。

 

 

 

 翌日、朝。

 霊夢が寝床から出ると、既に十六夜は掃除を始めていた。朝食はただでさえ食料が少ないので、霊夢から作るなと言われている。

 

「あら、早いじゃない」

 

 起きてきた霊夢は、ちゃぶ台を囲むように腰を下ろす。

 

「今日から観光に行く予定だからな。さっさと家事は済ませとく」

 

「そうなの。だったら私は掃除が終わるまでに魔理沙を呼んで来てあげるわ」

 

 上機嫌な博麗の巫女。彼女からすれば優秀な家事当番を手に入れた気分なのだろう。--が、彼女は知らない。逆廻十六夜は優秀だが、それ以上に問題児であることを。

 霊夢は縁側で草履を履き、魔理沙の家に向かって飛び立った。

 博麗神社に十六夜一人が残される。

 朝食を作り終わると、暇を持て余していた彼の耳に、可愛らしい少女の声が響いた。

 

「おーい!霊夢いるかー!」

 

 倉庫の方からである。十六夜は彼女が今不在であることを伝えようとそちらの方へ足を運んだ。

 

「ん?誰だお前?」

 

 頭から一対の角が生えた、見た目八歳くらいの少女が十六夜を見て首をかしげる。

 十六夜は簡単に自己紹介を済ませ、少女がここに来た理由を聞く。

 

「--そんなわけで、今あいつはいないんだが。どうした?」

 

「いやな。今みんな龍騒動で騒いでる奴が多いから、今なら宴会ができるんじゃないかと思って」

 

 どうやら十六夜がここに来る前に何か事件のようなものが合ったようで、その騒ぎに乗じて宴会をしようと言う魂胆らしい。

 十六夜は昨日確認した米びつを思い出す。ほぼ空っぽと言っても差し支えなかった。他の食材も同様だ。宴会を開こうにも、今の博麗神社では限界があるだろう。

 十六夜は少し考えるように顎に手を当て、数秒後ポンと手を打つ。

 

「いい事思いついた。俺に喧嘩で勝ったら宴会を開いてやるぞ」

 

 その条件に宴会好きの少女ーー伊吹萃香は顔を輝かせる。

 

「いいのか人間?並の力では、鬼には勝てないぞ?」

 

「もちろんだ。本気で来い」

 

 萃香は嬉しそうに、手に持っていた大きな瓢箪を脇に置いた。どうやら本気で行くらしい。

 

「ルールは、先に降参した方が負けでいいか?」

 

「ああ!望むところだ!」

 

 萃香が元気よく返事するのを聞くと、十六夜はポケットからサウザントアイズ発行の硬貨を取り出した。

 

「じゃ、これが地面に着いたら勝負開始ってことで」

 

「おう!」

 

 小気味のよい音を立ててコインが宙を舞う。空中でクルクルと回るコインは二人の視線を集め、落下した。

 次の瞬間、二人の怪物はぶつかり合った。

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