「それじゃあ、例のあの人があの森の中に潜んでるっていうの?」
処罰で禁じられた森から帰った後ハリーはハーマイオニー、ロン、サルビアに森であったことを話した。
「でも弱っててユニコーンの血で生きてるか。筋は通りそうね」
「たぶん、スネイプが石を欲しがっていたのは自分のためじゃなかったんだ。ヴォルデモートのためなんだよ。あの石があればヴォルデモートは力を取り戻せる。そして、復活するんだ」
「そうね、彼も死喰い人だって、そういう噂があるらしいから、そうかもしれないわね」
サルビアの言葉でハリーたちの疑念は確信を帯びていく。
「で、でも復活したらあいつは君の事……殺す気だと思う?」
「たぶんチャンスがあれば昨日、殺す気だったと思う」
「うぅ、そんな時に僕、自分の心配してたなんて」
「ちょっと待って。大事なこと忘れてない? この世で唯一人ヴォルデモートが恐れているのは誰? アルバス・ダンブルドアよ。ダンブルドア先生がいる限りハリーは大丈夫。あなたには指一本触れさせやしないわよ」
ハーマイオニーの言葉で少しだけ安心する。
「あら? でも、今日、ロンドンに発ったって私聞いたわよ?」
「え?」
「あの、マクゴナガル先生、質問にいいですか? 今、ダンブルドア先生はおらっしゃられないですよね?」
ふと、歩いてきていたマクゴナガル先生にサルビアが聞く。
「ええ、そうですよ。ミス・リラータ。魔法省から緊急の呼び出しがあって先ほどロンドンへと発ちました。どこでその話を?」
「いえ、今朝噂で」
「なるほど。質問は以上ですか? ならこんなところにいないで今日は天気がいいので、外で遊んでいらっしゃい」
そう言ってマクゴナガルは歩いて行った。
「まずいよ! どうしてさっきマクゴナガル先生に賢者の石について言わせてくれなかったの!」
ハリーはマクゴナガルに賢者の石が狙われていることを言おうとした。
「それで言ったとして、マクゴナガル先生が信じると思う? 信じたとしても私たちに何か言うはずもないわ」
「でも、ダンブルドアはいない。きっと、スネイプは石を取りに行くよ」
そして、例のあの人は復活してハリーを殺しにくるだろう。
「それなら、私たちでやりましょう。スネイプより先に石を手にいれるの」
「そうか!」
スネイプより先に手に入れて守る。それが一番だ。誰も動いてくれないのなら自分たちで動くしかない。サルビアの提案が一番の名案ではないかと、ハリーは思った。
「待って! 危険よ。やっぱり、ここは先生に報告すべきだわ」
「それじゃあ、スネイプに石を取られてもいいのかよ」
反対するハーマイオニーにロンが強く言う。
「そうじゃないけど……」
「今夜だ。きっとスネイプも動く。スネイプよりも先に石を手にいれよう」
「……わかったわ。あなた、一度言い出したら聞かないんだもの」
「珍しい、ハーマイオニーなら学年末試験の方が大事って言いそうなのに」
ロンが驚いたようにいう。確かにそうだ。
「そうね、でもまだ日にちはあるし。それに、あなたたちだけを行かせてもし死んだりしたら目覚めが悪いもの」
「そっか。でも、あの頭が三つある犬はどうするの?」
「……」
そうだ。あの三頭犬、フラッフィーが守っている扉をくぐらなければ賢者の石を手にいれることはできない。ハグリッドからおとなしくさせる方法を聞ければいいが、さすがのハグリッドも教えてはくれないだろう。
と、そこでハグリッドについて考えた時、ハリーはふいにあることに気が付いた。まるで天啓とも言えるひらめきだった。明らかにおかしなことがあったのだ。
「話がうますぎる。……ねえ、普通、ドラゴンを欲しがってるハグリッドの前にちょうど、それを持っている人が現れる確率ってどれくらい?」
「いきなりどうしたの?」
ハーマイオニーが怪訝な顔をする。
「どれくらい? 結構高い?」
「いいえ、限りなく低いと思うわよ? というか、普通ないわよ」
ドラゴンは希少な動物である。それを普通持ち歩く人間なんていない。しかも、それが欲しがっている人間の前にたまたま、偶然もって現れるなど奇跡に近い確率だろう。
「そうだよ。普通、ドラゴンの卵を持ち歩いてる人なんていないよ。早く気付けばよかった! きっとその人物がスネイプだよ」
「もしかして、そういうこと?」
ハーマイオニーは気がついたようだ。
「? どういうこと? ドラゴンの卵をハグリッドに渡したのがスネイプだとして、それがなんか関係あるの?」
ロンは一切わかっていなかった。
「いいかいロン、スネイプはドラゴンが欲しくてたまらないハグリッドにドラゴンの卵をもって近づいた。そして、その時にフラッフィーをおとなしくさせる方法を聞いたに違いないよ!」
「でも、待って? さすがのハグリッドも初対面の相手にそんなこと言わないんじゃない?」
ハーマイオニーのいうとおり確かにそうだ。
「あら、そう? 私はその可能性、結構高いと思うわよ? だって、ハグリッドは、私たちに色々とバラしてるじゃない。お酒でも飲んで欲しいドラゴンの卵を手に入れて上機嫌な時に、ぽろっと漏らす可能性もあると思うわ」
サルビアの援護にハーマイオニーも確かに、と納得したように頷いた。やっぱりそう思っていたんだ。そう思いながら、ハグリッドが本当にそこまで馬鹿なことをしてないことを祈りながら彼のいる小屋へと急いだ。
ハグリッドは小屋の前で笛を吹いている。駆け寄って、
「ハグリッド! ドラゴンの卵をくれたのはどんな人だった?」
ハリーは単刀直入にそう聞いた。
「いきなりどうした?」
「いいから! どんな人だった?」
「さぁな、フードを被ってて顔は見てねぇ」
明らかに怪しい人物だ。
「でもその人と話はしたんだよね?」
「まぁな。どんな動物を世話してるかって聞かれてフラッフィーに比べりゃドラゴンなんか楽なもんだって言ってやった」
「フラッフィーに興味持ってた?」
「そりゃ興味持つに決まってんだろう。頭が3つある犬なんてそういねぇ、魔法界でもな。で、言ってやったんだ。なだめるコツさえ知ってりゃどんな怪物も怖かねぇ。フラッフィーの場合はちょいと音楽をきかせりゃねんねしちまう」
間違いない。そのローブの男こそスネイプだ。そうハリーは確信した。しかもまずいことにハグリッドはフラッフィーをおとなしくさせる方法まで漏らしてしまった。
「いけね、秘密だった、あ、おい!」
四人は頷きあって駆け出す。今夜だ。今夜実行する。寮まで走って戻った。
「あ、サルビアを置いてきちゃった」
なにやら勢いで走ってしまったが、寮に戻って彼女がいないことに気がついた。彼女は運動ができない。勉強や魔法はハーマイオニーとともに学年でトップクラスなのに、走ったり運動したりができないのだ。
ロンなどは最初完璧じゃないかと嫌味を言ったほどだが、運動が苦手なのがわかると手のひら返しである。というか、運動ができないというよりは病弱らしく体力もない。授業間の移動などいつも死にそうなところを見てときめいたとかなんとか。
「は、はしら、ない、で……」
案の定、寮にサルビアがたどり着いた時、彼女は死にそうであった。
「ご、ごめん」
「大丈夫?」
心配するのはロンだ。
「み、みず」
「今持ってくるよ」
率先して動くロン。なんだか召使のようだ、と思ったのはここだけの話。
「それよりも今夜だ。必ず石を守ろう」
賢者の石を守るのだ。そう深く決意した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
深夜。生徒が全員寝静まった頃。学年末試験に備えて徹夜している生徒も、睡魔に負けて寝落ちしている頃だ。ハリーたちはこっそりと寮を抜け出した。
四人で透明マントを被り3階の右側の廊下の奥へと向かう。ハーマイオニーの呪文で開錠する。中に入ると気がついたフラッフィーが唸り声を上げる。
「行くわよ」
横笛の綺麗な音色が流れる。こんな状況だというのに思わず聞き入ってしまうほどに美しい横笛の音色。それを奏でるサルビアもいつもよりもどこか綺麗に見えた。
儚げな少女が横笛で美しい旋律を奏でる姿にハリーも、ロンも、あのハーマイオニーですら釘付けだ。フラッフィーは最初の旋律が流れてきたところですでに眠りについている。
サルビアはさっさとしなさいよと言わんばかりに顎で指示してきてようやく我に返ったハリーたちはフラッフィーの足をどかして仕掛け扉を開ける。
そこにあるのは暗い闇だ。
「僕が先に行く。合図したら降りてきて」
「わかったわ」
「気をつけてねハリー」
頷いてハリーは飛び込んだ。なんらかの植物がクッションになって助かった。
「大丈夫!」
そう声をかければロンとハーマイオニーも飛び込んでくる。少し遅れてサルビアも飛び込んできた。
「ーー痛たた」
「この植物のおかげで助かったね」
そうロンが入った瞬間、四人に植物が絡みついてくる。もがけばもがくほどそれはきつく絡みついてくる。
「悪魔の罠よ! じっとしててそうしたら大丈夫よ!」
ハーマイオニーが叫ぶ。それとともにハーマイオニーがじっとすると飲み込まれるように下へと落ちていった。元からじっとしていたサルビアもまた同じく。
それを見て、ロンは慌てるが、ハリーはハーマイオニーを信じて動かないでいる。すると、確かにするりと下へと降りることができた。
「ハリー!? ハーマイオニー!? サルビア!? ーー」
その内口を塞がれたらしい。
「ロンはじっとしてないの!?」
「してないみたい」
「もう! えっと、悪魔の罠、悪魔の罠! そうよ苦手なものは太陽の光! ルーマス・ソレム!」
ハーマイオニーの杖から太陽の光が出現しそれとともにロンが上から落ちてきた。
「ぐえっ」
ちょうどサルビアの真上に。カエルが潰れたような音を出したサルビア。大丈夫だろうか。
「うぅ、わ、わぁああ!? ご、ごめん!」
「……ううん、い、いいわ」
「行こう」
先へ進もう。奥へと続いていく緩やかな下り坂を進んでいくと、何やら奥の方から羽音のようなものと何か金属の擦れ合うような音が聞こえて来る。
一応、警戒しながら進むと、そこはとても広い空間だった。天井はとても高い。そして、箒が一本浮いていた。それだけでなく、鍵が飛んでいるのだ。
「アロホモラ!」
ロンが向こう側にあった扉に呪文を唱えるが効果はない。
「どれが本物の鍵なのかしら?」
「古いのね。たぶん」
「錆びてたりして」
「あれだ!」
ハリーは見つけた。古くて大きく、錆びている鍵。羽の片方が折れているらしく飛び方がぎこちない。あれを箒で取ればいいだけだ。
「簡単すぎる」
そう100年ぶりの最年少シーカーたるハリーならば簡単だ。そう思い、箒を手にした瞬間ーー
「うわっ!?」
鍵たちが一斉に動き出した。先ほどまでの緩慢な動きはどこへ行ったのか。おそろくべき速度で飛行を開始し、ハリーを妨害すべく集まってきた。
「簡単じゃなさそう」
「あんなに高いと呪文も届かないし」
ハリーに任せるしかない。三人の期待通り、ハリーは鍵をとった。それを投げ渡し即座に部屋を出て、扉を閉める。扉の向こう側で鍵鳥が刺さる音が響いた。
次の部屋は暗かった。何やら像がいっぱい置いてある。ハリーはそれに見覚えを感じていた。それはロンもだった。部屋の中央まできた時、明かりがつく。
白と黒の像。そして、白と黒の盤面。
「もしかして、これって……」
「ああ、チェスの盤の上だ」
ロンが断言する。もしかしてこれでチェスでもしろというのか。白の駒の向こう側に扉がある。そちらに行こうとすれば相手の駒が道をふさいだ。
「やるしかない。ハリー、君はビショップ、ハーマイオニーはクイーン側のルーク。サルビアは、キングの位置。僕は、ナイトだ」
四人の中で一番チェスが得意だったロンが指し手となりナイトの位置へ。他の三人も彼の指示に従ってボードの上に立つと、ゲームは始められた。
ハリーたちが傷つかないように指示を出しつつ、ロンはゲームを進めていく。まさにこのチェスは魔法使いのチェスと同じであった。駒同士が争い、取られた敵の駒を粉砕する。
驚くべきはハリーたちを傷つけないために、彼らに悪振られた四つの駒を動かせない状況で打っているということ。相手は相当に強い。ハリーでもそれくらいはわかる。
だというのに、ロンは一切引かず、気付けばゲームは終盤に差し掛かっていたのだ。その技量にハリーは舌をまく。残りの駒の数も少なくなっており、これなら後何手かで黒が勝てる。
だが、その時、ハリーは気がついた。クリスマス休暇中ロンと魔法使いのチェスをした。そのおかげで気がつけた。
「ちょっと、待って」
「気がついたかい、ハリー。そうだよ。次の手で僕はクイーンに取られる。そうしたら、君が、チェックメイトだ」
「どういうこと?」
わからないハーマイオニーだけが聞いてくる。
「自分が犠牲になるつもりなんだ! ダメだロン! 他に方法があるはずだ!」
「ダメよロン!」
「スネイプに石を取られてもいいのか! ハリー、進むのは君なんだ。僕じゃない。石を頼んだよ!」
そう言って彼はナイトを動かしクイーンに盤外まで弾き出された。その犠牲を無駄にせず、ハリーが動きチェックメイト。ハリーとハーマイオニーは即座にロンへと駆け寄った。
どうやら無事だ。気絶しているだけらしい。
「行こう。ロンの犠牲を無駄にしないために」
ハリーたちは進む決意をした。サルビアは応急処置の呪文を使ったので問題はないだろう。今のがマクゴナガルの試練だとしたら残りはクィレルとスネイプ。
クィレルの試練は突破されたままになっていた。そこを通過し次の部屋に入ると背後の扉が紫色の炎で塞がれ、前方にある出口もまた黒い炎に遮られてしまった。
どうやら何か仕掛けを解かない限り、進むことも戻ることも叶わないようである。部屋にある大小様々な七つの小瓶が置かれたテーブルへと近づいた。
「二人とも、これを見て」
ハーマイオニーが巻き紙を見付けた。
『前には危険 後ろは安全
君が見つけさえすれば二つが君を救う
七つのうちの一つだけが君を前進させる
別の一つで退却の道が開けるその人に
二つはイラクサ酒
残る三つは殺人者 列にまぎれて隠れてる
長々居たくないならば どれかを選んでみるがよい
君が選ぶのに役に立つ 四つのヒントを差し上げよう
まず第一のヒントだが どんなにずるく隠れても
毒入り瓶のある場所は いつもイラクサ酒の左
第二のヒントは両端の 二つの瓶は種類が違う
君が前進したいなら 二つのどちらも友ではない
第三のヒントは見たとおり 七つの瓶は大きさが違う
小人も巨人もどちらにも 死の毒薬は入ってない
第四のヒントは双子の薬 ちょっと見た目は違っても
左端から二番目と 右の端から二番目の 瓶の中身は同じ味』
そう、書き記されていた。七つある小瓶の内の三つが毒薬でうち二つがお酒、残り一つは先に進め、最後の一つは前の部屋に戻れる。つまりはそういうことだ。
「凄いわ。これは魔法じゃなくて論理の問題よ!」
魔法ではない。杖を振ることも呪文を唱える必要もない。この問題は頭を使わなければ解けないのだ。スネイプの試練である。どう考えてもこの問題はスネイプのものだ。
そして、ここには頭を使うのが得意な者が二人もいる。二人が頭を突き合わせて考えると、いともたやすくその答えは出た。
「ハリー、あなたは進んで」
「なら、ハーマイオニーは戻ってロンを救助して」
「でも、それじゃあサルビアが」
残ることになってしまう。
「いいのよ。もう体力の限界だし。ここでゆっくり救助でも待たせてもらうわ」
「わかった」
そうして、ハリーは進み、ハーマイオニーは戻り、サルビアは残った。そして、ハリーはある男と対面するーー。
全編ハリー視点。サルビアの内心をご想像下さい。
しかし、サルビアのおかげで、学年末試験の前に賢者の石を取りに行くことになってしまった。
ロンはさりげなくサルビアをキングに配置している。動かなくていい場所に笑。
役に立っていますね。しかし、そうは思われてなさそう。
次回は最終局面ですね。果たして賢者の石を手に入れることは出来るのか。ダンブルドは、果たしてどのような行動をとるのか。
次回もよろしくお願いします。