ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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途中までは、正史ルートと変わりません。

また、割とご都合主義的です。

サルビアに優しい世界です。

それでも良い方はどうぞ。


if ありえたかもしれない歴史 賢者の石編

 サルビアはその瞬間、駆け出していた。一目散に賢者の石へと走り、それを手に収める。

 

「やった! ついに、ついにやった!」

 

 手に入れた賢者の石を。その石からは水が滴っている。これが命の水。もう我慢できそうになかった。それに口をつける。効果は、劇的だった。

 

「あ、ああ――」

 

 飲めば飲むほど、

 

「身体が軽くなる!」

 

 身体に巣食う病魔が消えていくのがわかる。ダムが崩壊するように、ありとあらゆる全てを飲み込むように、身体の中の病巣が小さくなり、弱まっていくのを感じる。

 

「空気の味がする!」

 

 めちゃくちゃだった感覚が正常なそれになる。感じたことのない感覚も多いが、もっとも感動的だったのはいつも地獄の炎としか思えなかった空気が、

 

「空気が、うまい!!」

 

 美味しかったことだった。これが、これが健常者の世界!

 

「ああ、ああああ! これが、これが死病(絶望)の消える感覚か!」

 

 快楽による絶頂とすら思えるほどの恍惚。なんという幸福感。これが、幸せか。これが幸福というものか。これが、世界か。めちゃくちゃだった真っ黒な世界に色がついていく。

 匂いが鮮明に感じられる。音が聞こえる。世界とはこんなにもうるさかったのか。不快感すら感じかねないほどの音の本流。今まで感じたことのないそれだが、もはやそれすらも感動を与えるものでしかなかった。

 

 これこそが、生。死を乗り越えた生の喜び。せきを切って涙が流れ出す。感涙。これぞ感嘆の涙。おそらくは世界でもっとも感動に打ち震えた涙だ。

 彼女以上に、感動を感じたものなどいるはずがないだろう。恍惚、絶頂。おそらくは、人生において最良の時間だ。

 

「私は、今、生きている!」

 

 もっと、もっとだ。賢者の石。もっと命の水をよこせ! じれったいほどゆっくりと溢れだす水を一滴ずつ飲んでいく。その度に、ゆっくりと、ゆっくりと病が癒されていくのを感じる。

 その感動は何者も理解できないだろう。彼女と同一の存在以外に理解すらできないはずだ。それは、今の状況すら忘れさせるほどの快楽であり、感動だったのだ。

 

「何をしておる。サルビアよ」

「――!?」

 

 ゆえに、見逃す。己に時間がないことを。普段の彼女ならば余裕で気がついただろう。だが、気がつかなかった。人生において、初の快楽、快感、感動に打ち震えていた彼女は気がつくことはなかった。

 もし気がついていれば、先に脱出していれば、この結果はなかっただろう。だが、彼女もまた11歳の少女であった。目の前の誘惑に抗うことはできなかったのだ。

 

 今まで耐えてきた反動とも言える。耐えてきたからこそ、健常者になるという誘惑に耐えきれなかったのだ。

 

「だ、ダンブルドア、こう、ちょう、なぜ」

 

 しまったという表情。だが、もう遅い。運命は決した見つかった時点で、終わりだ。

 

「ハリーが心配でのう。急いで戻ってきたのじゃ。ルシウスに止められたが、それも断ってのう」

「そ、そうでしたか」

「そうじゃ。そういうわけでのう。その石を渡してくれんかの」

「石を、どうするのですか?」

「ヴォルデモートがまだ生きておるとわかった以上、悪用されないように砕くつもりじゃよ」

 

 ふざけるな。砕くだと? 渡せるわけがないだろうが!

 

 渡せるはずがない。ならばどうする? 勝負する? それは馬鹿のやることだ。今世紀最大最強にして最高の魔法使いと謳われるこの男を前にしてただの11歳の少女が勝てるはずがないだろう。

 しかもサルビアは病魔に犯された状態だ。この状態で勝負しろ? 馬鹿も休み休み言え。最強のラスボスを前にして1レベルでしかも、初期装備縛りをしているようなものだぞ。

 

「君の事情はわかっておるつもりじゃ。君と似た者をわしは知っておる。あの時は、助けられんかった。じゃが、今度こそ助けたいと思っておる」

「…………」

 

 やるしかない。やるしかない。やるしかないのだ。幸い、相手は油断している。不意を突けばいけるかもしれない。

 可能性は低い。限りなく0だ。だが、諦めろと? ふざけるな。諦めるはずがない。サルビア・リラータは、諦めたことなどない。杖を引き抜き、呪文を唱えようとする。

 

「――!」

「エクスぺリアームズ。やはりこうなるのか。残念じゃよ。本当は、したくないのじゃが。少しばかり我慢しておくれ。フィニート・インカーターテム」

 

 しかし、驚異的な速度で振るわれたダンブルドアの杖。一瞬にして杖はサルビアの手を離れ、そして、化けの皮がはがされた。変身術が解ける。少女の肉体は、木乃伊のような干からびたそれに変わる。

 サルビアにとって変身術さえ解かれなければどうにかする手段はあった。石を呑み込む。自らの身体を盾に使い、ハリーをたたき起こし泣き落としをする。

 

 ああ、いくらでも手段あった。だというのに、ダンブルドアは一手目から最善手を打ってきた。そう、肝心要。サルビアの弱点となる変身術。それをまず剥がしたのだ、杖を飛ばしたうえで。

 こうなってしまえばそこに残るのはただの重篤患者ただ一人。

 

 多少マシになった程度。未だ、病魔はその肉体の中で未だ増殖を続けているのだ。完全なる治療にはまだ命の水を飲まなければならない。

 その前に化けの皮を剥がされればもはや、彼女に何かできる力など残されてはいないのだ。

 

「ごはぁっ――――」

 

 自重で足がへし折れた。膝が明後日の方向にへし曲がり筋肉は折れた骨によってぐちゃぐちゃにかき回され皮膚は引き裂け破れ、はじけ飛ぶ。

 地面に倒れればそれだけで全身の骨が砕け散った。内臓に飛び散り、刺さり喀血する。その動作を行うだけで全身がねじ曲がり腹膜を突き破って内臓が外へと飛び出す。

 

 それでも賢者の石を握り続けていた。だが、賢者の石の重さで指の骨が折れ、更には腕の骨すら折れる。賢者の石がその指から零れ落ちていく。

 希望が、救いが、その手から零れ落ちていく。

 

「ぁぁぁあぁあああぁあぁあぁぁあ!」

 

 手を伸ばす。無理矢理に。全ての痛み。全ての苦痛。へし折れた腕など知るか。そんなもの意志でねじ伏せて手を伸ばした。賢者の石へと。

 声をあげたことで、口が裂け脳の血管が切れる。構わない。目が圧力で爆裂する。構わない。自重で伸ばした腕がへし折れる。構わない! 神経がちぎれる。構わない!! 構わない構わない構わない!!!

 

 ただ手を伸ばした。もはやその手が原型すら留めておらず。もはやその眼が赤い石以外に移さなくなっても。耳が聞こえなくなっても。

 もうこれ以外にないのだ。実際に効果を示した。劇的な。もうない、これ以外に救いなんてない。だから、手を伸ばした。

 

――諦めない。諦めない諦めない。諦めない!!!

 

 不屈の意志。強い意志に運命は応えてくれる。その手は、確かに掴んだ――落ちていた(・・・・・)、ハリーの杖を!

 

「アバダ・――」

「エクスペリアームス!」

 

 そして、その杖を真っ直ぐにハリーに向けて、死の呪文を使おうとした。即座に武装解除の呪文によって弾き飛ばされる。

 ハリーを護る為に少しだけ強くかけられた呪文によって飛ばされ、サルビアの身体もまた吹き飛ぶ。それによって腕が引きちぎれかけ僅かな血管と肉と神経で繋がっているのみになってしまった。

 

「ああああああ!?」

 

 声をあげる。今まで痛みで声をあげたことのない彼女が。

 

「しまった! 大丈夫――」

 

 流石のダンブルドアも咄嗟とはやりすぎてしまったと思った。だから、すぐに心配して駆け寄ってしまったのだ。杖を下げて。とんだ善人だ。

 心配? 憐れんでいるだけだろうが!

 

「私を、憐れんだな」

 

 ダンブルドアの目と鼻の先に杖があった。彼女の杖。そう、サルビアはわざと吹き飛ばされたのだ。わざと吹き飛ばされ引きちぎれかけて少しだけ長くなった腕を無理矢理に意思の力で動かして杖を拾い、その杖をダンブルドアに向けたのだ。

 こうなってしまえば、彼女の方が早い。

 

「クルシーオ!!!」

 

 閃光と共に磔の呪文が効果を発揮する。直撃を受けたダンブルドア。何の防備もない。そう何の防備もないのだ。いや、受けたところで痛みを与える程度だと思っていた。

 己の意志力ならば耐えられる。そう思っていた。だが、

 

「ぐ――おおおおおお!?」

 

 感じたのは、磔の呪文とは思えないほどの苦痛だった。まるで、全身が病巣になったかのようだった。痛みが、全身を苛む。

 ありとあらゆる闇の魔法使いがこの呪文を使ってきた。だが、これは別格だとダンブルドアは痛みの中で思った。

 

 ありえないほどの苦痛。これがサルビア・リラータが常時抱えている痛みだとでもいうのか。

 

 全身の骨が折れているような気がした。脳の血管がはじけ飛んだ気がした。皮膚の下を蟲がはい回り内臓を食い破り腹の中を闊歩しているように感じた。

 鼓膜でも吹き飛んだのか、音が遠いようにも感じた。皮膚が泡立ち血管が破裂し、身体がぐしゃぐしゃのミンチになっているかのように感じた。

 

 燃えている。凍っている。砕けている。ありとあらゆる責め苦はもはや痛みを感じる以前に痛みがないという矛盾。

 だが、確実に磔の呪文は効果を発揮している。精神にすら痛みを与えるほどの威力。世界最高の威力と言っても過言ではない。

 

 それでも辛うじて意識が残っていたのはダンブルドアだったからか。いいや違う。この痛みですらサルビア・リラータが抱えている痛みを希釈したものでしかないからだ。

 つまり、彼女は常にこれ以上の痛みを感じて笑っているのだ。数百倍、数万倍、あるいは数億倍に希釈した痛みですら発狂しかねないほどの痛み。

 

 これでは生きているより死んだ方がましだとすら思える痛み。なんということだ。それを少女が受けるとは、なんたる憐れな。

 

「私を、見下すなよ、塵が!! 貴様は私が永遠に利用してやる。せいぜい役に立てよ塵屑が!! クルーシオ、インペリオ!」

 

 最高の磔の呪文によってダンブルドアの意思を砕く。打ち砕く。そして、何もない心の防壁も抵抗しようとする意思すらも痛みの前に木端微塵に粉砕される。

 ゆえに、抵抗すらできず服従の呪文を受けてしまった。ダンブルドアは、彼女の忠実な奴隷になってしまったのだ。

 

「あ、あははははっはははははははは!!!!!」

 

 サルビアは賢者の石を引き寄せ、命の水をすする。治癒の呪文をかける。そのたびに、身体が治癒していく。啜れば啜るほど、身体の死病(絶望)が消えていく。

 実感する、勝ったのだ。己は勝利した。運命に。乗り越えたのだ宿業を。

 

「おい、塵屑。お前はハリーと私を連れて、ここから脱出しろ。賢者の石は砕いたとして報告しろ。そして、いつも通りに校長職を続けていろ」

「はい……」

 

 そして、ダンブルドアに連れられてハリーと共にサルビアは脱出を果たす。その後は、マダム・ポンフリーによって医務室に入院させられたが問題なく退院できた。

 学年末試験も無事トップの成績で終え、ついでにグリフィンドールが優勝カップを手にした。柄にもなくハリーたちと共にお祭り騒ぎに興じてしまったのは人生の汚点だ。

 

 そうして彼女はホグワーツから屋敷へと戻ってきた。その裏手には墓がある。墓石に刻まれた名は塵屑(父親)の名だ。

 

「どうだ、見ろ! 私は勝った! お前が出来なかったことをしてやったぞ! あははははははははは!」

 

 その前で見せびらかせるように再び賢者の石に、命の水に口を付けるのだ。一口飲むごとに、身体が治って行く。健常な状態とはこんなにも素晴らしいものなのか。

 

「空気が旨い!」

 

 地獄の劫火、排煙。猛毒でしかなかった空気が美味い。朝の清々しい空気とは、こうも素晴らしいものなのか。世界が輝いている。

 木々の匂いに、草木の囁きに、ただただ涙を流すほどに、彼女は嬉しさを感じた。日光が温かい。もはや皮膚がんを発生させるだけの冷たい光が今や祝福のように温かい。

 

「身体が軽い!」

 

 今ならば何でもできる。もはや、このサルビア・リラータを止める者は何もいないのだ。変身術を解く。その下にあったのは、変身術を使っていた時と何ら変わらない美しい姿だった――。

 




はい、ご都合主義のサルビア完全勝利ルート。

たぶん、ダンブルドアだったら杖を突きつけられた状態からでもなんとかできそうな気がします。
しかし、この世界線はサルビアに優しい世界線なのでクルーシオを喰らってしまいます。
人類最高のクルーシオを喰らったダンブルドア。あの四四八ですら、玻璃爛宮くらったら倒れるのだから、当然のように立ってられません。
そこでもう一発クルーシオを打ちこんで、服従の呪文を使って服従させれば、サルビアが賢者の石を持っていることをばらす人間はいなくなり、更にはダンブルドアの後ろ盾すらも手に入れられる。

最高の勝ちルート。あとは ゆっくり根治を目指すだけ。

分岐点は、サルビアが何に手を伸ばすか。

生に縋り、賢者の石に手を伸ばせばそこで負けます。

勝利の為に、杖に手を伸ばせば、そこから逆転できる可能性のあるルートに入ります。

はい、割と無理矢理ですね。すみません。

次回の更新ですが11日か、12日です。正確な日は言えません。私がどんな状態になっているかわからないので。
更新されたらそこから二巻開始で、よろしくお願いします。

では、また次回。

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