ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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幕間

 ホグワーツ城。いつもの活気はそこにはない。夏期休暇ということもあって、いつも楽しげな声をあげる生徒たちはいない。知識の探求を求めて図書館へ通う学徒はいない。ポルターガイストのピーブスはいつも通り、騒ぐばかりだが、がらんと城の中に響くばかりだ。

 そんなホグワーツ城。途方もなく醜い大きな石の怪物(ガーゴイル)像。合言葉を唱えて、その背後の壁から螺旋階段を昇って行くと部屋が存在していた。

 

 眩暈を覚えるほどに輝く樫の扉。ノッカーはグリフィンドールをかたどったもの。おそらくは一目見ただけで気が付くだろう。

 アルバス・ダンブルドアの住まい。校長室。ここがそれだとすぐに気が付くだろう。閉じられた扉の向こう。そこには確かに、今世紀最大にして最高の魔法使いがいる。

 

 中に入れば、美しい円形の部屋であろうことがわかる。おかしな道具や小さな物音で満ち溢れており、紡錘形の華奢な脚がついたテーブルの上には、奇妙な銀の道具がたちならんで煙を吐いていた。

 壁には歴代校長の写真がかかっているが、全員が全員すやすやと睡眠中であった。大きな鉤爪脚の机もあり、その棚の後ろにはみすぼらしい組み分け帽子が乗っている。

 

 ダンブルドアはそこにいた。自らの住処にて、羽ペンを動かす。彼が今行っているのは治療呪文の開発であった。不治の病ですら完治させる。ありとあらゆる死病を快復させる。そんな呪文を彼は創りだそうとしていた。

 

「…………」

 

 うまくはいっていない。リラータの家系に巣食う病魔の呪い。あれをどうにかするには、並みの呪文では不可能だ。考えることは山ほどある。

 ありとあらゆる病を同時併発的に身に宿すリラータの家系。それを治療するのはかなりの難易度だ。あの賢者の石ですら根治は出来ないと一目サルビアの状態を見て悟った。ゆえに、彼は彼女が数年を生き延びられるだけの命の水を確保して石を破壊した。

 

 間違ったのではないか。そんな思いは確かにある。しかし、それ以上にヴォルデモートの再来を許すわけには行かないのだ。

 かつて、ただ一人で魔法界を闇のどん底へと陥れた魔法使い。その再来をダンブルドアは許すわけにはいかないのだ。

 

 たとえ、一人の少女の救いを奪う事になっても。万が一にでもヴォルデモート復活の手段を残してはおけない。 このような己は地獄へ落ちるだろう。おそらくは、彼女の手で。だが、その前に彼女を救う。

 そのために、ダンブルドアはありとあらゆる書物をこの夏の間読みふけっていた。イギリス、ドイツ、フランス、ロシア、そして日本。

 

 ありとあらゆる場所に伝わる魔法の文献を読み漁っていた。一つ、日本の書物の中に秘匿された術式に関する記述を見つけた。それもマグルの読み物の中に。

 しかし、その術式について知ることは叶わなかった。それでも良い。諦めない限りは探し続け、新しい呪文を創り上げる。

 

 彼女の病を晴らす魔法を作り上げるのだ。ただ癒すだけではいけない。再発、病魔を完全に取り除き健康体にしなければならない。

 その上で、過剰に回復させても成らない。過剰な回復はそれだけで毒となる。それでサルビアが死んでしまっては元も子もないだろう。

 

 無論、彼女を回復させられたとして、己は死ぬだろう。もしそうなって死ぬとなっても問題はない。彼女という傑物は完全な状態で残るのだ。彼女の性格上、ヴォルデモートに恭順することはない。

 むしろ、ヴォルデモートを倒してくれるだろう。ダンブルドアを正面から殺せるのであればヴォルデモートも殺せる。まず間違いなく。

 

 つまり、ダンブルドアの考えはこうだ。サルビアを絶望へと叩き落とし、憎しみを己に集めて自分を殺させるように仕向ける。

 その上で治療し万全の状態にしてからヴォルデモートにぶつける。そして、ヴォルデモートを倒す。その手はずはセブルスに任せることにした。彼ならばやってくれるだろう。

 

 これはあくまで保険だ。ヴォルデモートの不死の秘密を解き明かし、それで滅ぼせたのであれば良し。もしそうならなかった場合。ハリーとサルビア。二人を切り札として利用するのだ。

 愛する者たちを利用することは心苦しい。しかし、魔法界、ひいては世界の為だ。そのためならば、己は何でもしよう。

 

「もう一つ、保険をかけておくかのう」

 

 そう言って彼は一人の男を呼び出す。セブルス・スネイプ。魔法薬学の教諭であり、ダンブルドアが信頼する魔法使いの一人であった。

 

「如何なようですかな校長」

「ああ、セブルス。実は頼みがあってのう。治療薬を作ってほしいのじゃ」

「治療薬ですか。どこか悪くされたのですかな」

「いいや、違うのじゃセブルス。わしではない。リラータじゃ」

 

 その言葉にセブルスは、目を細めた。彼もまたリラータの事を知っている。なぜならば、サルビア・リラータの父と彼は同じ寮の先輩と後輩の関係であったからだ。

 監督生でありながら監督生に向いていないことこの上ない学生であった。幽鬼のような男であり、ただ近くにいるだけで全てを不安にさせる男であったと記憶している。

 

 セブルスが彼の真実を知ったのは死喰い人時代だ。ある偶然から再開し、リラータの秘密を知った。死病に犯され半死半生のまま生き続けていた憐れな男のことを。

 そして、その憐れな男を愛した憐れな女のことをセブルスは思い出していた。

 

「なるほど。そういうことですか。しかし、あれを治すとなると非常に難しいですぞ」

「わかっておる。じゃが、やらねばならぬのじゃ」

 

 魔法界の未来の為に――。

 

 




短いですが幕間と、報告を。

とりあえず、ダンブルドアが今更なことをやっております。

二巻ですが少しばかり投稿が遅くなりそうです。申し訳ありません。執筆する時間が取れないというのもありますが、少しスランプに落ちいった感じなのでちょっと小説とか読みながらリハビリしてきます。

いつになるか明記できないのですが、最低でも九月には始めたいと思っているのでゆっくりとお待ちくださると幸いです。


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