ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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第21話 クリスマスの日常

 十二月ともなればホグワーツは雪景色に包まれる。九月に植え替えをしたマンドレイクは順調に育っており、薬草学では、そのマフラー掛けをさせられた。

 それでもサルビアにとっては温室の中は天国とも言えた。授業終わりにまた、外を歩くなど正気の沙汰ではない。結局歩くことになった。灰色の雪が吹雪いている中の行軍。死にそうだった。

 

 クリスマス休暇までもう少し。休暇が近づくとあって生徒たちはそわそわとしている。しかし、サルビアは不機嫌であった。

 いつもならこんな塵屑どもの吹き溜まりから出られると思うと気分が良くなるのだが、今年は帰れそうにないのだ。

 

 なぜならば、ユニコーンの世話がある。雌が近いうちに出産を迎えるのだ。それの世話は流石にバジリスクだけでは不可能だ。

 面倒なことこの上ないがこんなところで死なれては困るで、世話をしなければならない。生息環境を如何に禁じられた森に似せようとも、あそこは禁じられた森ではない地下だ。

 

 どのように魔法で幾ら似せようとも限界はある。何が起きるかわからないので、自分の手で世話をする必要があるのだ。あと、何よりユニコーンの子供見たい。

 塵屑と共に残る羽目になるので、機嫌が悪いわけである。それだけではなく、現在進行形で起きている状況も機嫌の悪さに拍車をかけていた。

 

 あの塵屑デブ(ネビル)がすっ転んで、滑って転がって雪だるまになったのだ。サルビアを巻き込んで。それはもう大惨事であった。

 雪と泥でべちゃべちゃのぐちょぐちょであるし、何よりネビルがサルビアの上で止まってしまった。また押しつぶしているし、押しつぶされているのである。

 

「ちょ、っと!」

「う、うああああ、ご、ごご、ごめん!」

「ぐえ――」

 

 ネビルは慌てて立とうとするが、氷ついた地面に滑ってうまく立てないばかりかサルビアを更に押しつぶしてしまう。

 なんかもうやばいくらいにやばい。憐れなほどにネビルは顔を青くしていた。スネイプの前でもそんな青い顔はしていなかったのに、もはや死人に見えるほどに青い。

 

「ネビル! サルビア!」

「ほら、しっかりしなよ。まったくドジだなぁ」

「泥だらけね、待ってて」

 

 そこにやってくるのはハリー、ロン、ハーマイオニー。ハリーとロンが二人でネビルを立たせてサルビアを助け出す。

 ハーマイオニーは、雪と泥塗れのネビルとサルビアに洗浄呪文をかけて洗浄した。ただ、考えてほしかったのはこの場所だった。

 

「ありが、と――くしゅっ」

 

 猛吹雪の中でやるなよ塵が。寒い、死ぬ。

 

「早く戻りましょ。次はマクゴナガル先生の変身術だから」

「遅れると地図に変えられちゃうよ」

 

 暖炉に行けぬままサルビアは変身術を受ける羽目になった。塵屑デブあとで必ず殺す。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 変身術の授業を終えて、昼休み。ハリーが昼食を摂っていると、サルビアのところにネビルがやって来ていた。

 

「何かしら?」

 

 その時のネビルの様子は猛獣を前にした時のようであった。何がそんなに恐ろしいのだろうか。ハリーにはまったくわからない。

 

「あ、あの、その」

「はっきりしてほしいんだけど、何?」

「さ、ささ、さっきは、そのごめん」

「それならさっさと言いなさいよ。良いわ。別に気にしていないから」

 

 ネビルはそのままそそくさと去って行った。脱兎のごとくとはああいうことを言うのだろう。

 

 

「サルビア、ネビルに何かしたの?」

 

 あの怖がり方は尋常ではない。だから、ハリーは気になったので聞いてみた。

 

「別に。何もしてないわ」

「それにしちゃあ、ネビルの奴君の事怖がりすぎじゃね?」

 

 隣からロンもそう言う。

 

「そうね、なぜかしら」

 

 ハーマイオニーも気になっているようだ。サルビアはわからないという。四人で頭を捻ってもネビルがあれほど怯えている理由がまったくわからなかった。

 

「本人に聞いてみましょうよ。いつまでもあんな調子じゃ、困るでしょ?」

「――やあやあ、どうしたんだい君たち」

「げ――」

 

 そんな風に話していると、面倒くさいのがやって来た。

 

「ロックハート先生!」

「ええ、そうですよミス・グレンジャー。それで? 何か困りごとでも? 私で良ければ相談に乗りますよ」

 

 キランッ、と歯を無駄に輝かせてロックハートはそう言う。ハリーとしては、そんなことよりさっさとどっかに行ってほしかった。

 ロンにしても同じ気持ちなのだろう。ハリーに向けて非常に苦々しげな表情をしている。サルビアなど、本を取り出して読書を始める始末だ。

 

 そんな三人とは対照的な反応なのがハーマイオニー。彼女だけは尊敬のまなざしを向けているし、嬉しそうだ。何でそんな風に思えるのかわからない。

 

「ネビルがサルビアを見て怯えていて」

「ふむふむ、なるほど」

 

 ロックハートは、ははん、全部わかりましたよとでも言わんばかりのドヤ顔をする。無駄に輝く歯。ハリは正直、嫌な予感を感じた。

 

「大丈夫ですよ。男は、誰しもそういう時期があります。私だって、そう。そういう時期がありました。でも大丈夫! 時間が解決しますよ。そうです。その時のことを書いた、私の自伝をあげましょう。サイン入りですよ、ほら」

「ありがとうございます!」

 

 いったいどこに入れているのだろうか。自伝を取り出し、更にそれにサインしてハーマイオニーに手渡す。

 

「君たちにもあげよう。内緒だよ?」

 

 大広間の真ん中でやっているのに内緒とはどういうことなのか。

 

「あの、いりません」

「ハリー。ああ、ハリー。遠慮するもんじゃあない。このくらい、私にとってはどうということはないのさ。自分たちだけもらうというのが、心苦しいのならお友達のぶんもあげよう。さあ、受け取りなさい」

 

 そう言っていらないのに、もっと渡してきた。全部直筆のサイン入りだ。

 

「それじゃあ、私は行こう。これから、マクゴナガル先生と変身術についての話をしに行かなくては」

 

 良いことをした、という顔で彼は去って行った。とりあえず、いらないので、自伝はそのあたりに放置しておく。どうせ、欲しい誰かが持っていくだろう。

 それからマクゴナガル先生にエールを送った。あんなのに付き合わされるマクゴナガル先生が哀れでしかたがない。

 

「良いものもらっちゃったわ」

「良いもの!? ハーマイオニーやっぱり君ってどうかしてるぜ」

「ロン。彼の自伝なのよ? 読んで損があるはずないじゃない」

 

 どうしてそこまでロックハートに夢中になれるのだろう。まったくわからない。ロンと顔を見合わせる。ロンも同じ思いのようだった――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 とうとう学期が終わり、降り積もった雪と同じく、ホグワーツを静寂が包み込んでいた。多くの学生が実家に帰っている。

 その中にはハーマイオニーも含まれていた。ロンはというと、両親と一緒にエジプトに行くよりはホグワーツに残った方が楽しいと踏んだのだろう。フレッド、ジョージ、ジニーと共に学校に残った。パーシーは彼らが残ることが不安そうであったが、実家に戻った。

 

 ハリーは当然のように残る。何が楽しくてクリスマスにダーズリーの所に戻らねばならないのか。あんなところに好き好んで帰れるのはよほどの変人に違いない。

 クリスマスになればプレゼントも寄越さないような家なのだ。いや、プレゼントとも言えない爪楊枝と夏も帰ってくるなと書いたメモが送られて来たか。

 

 そんなものはとっくの昔に暖炉に放り込んだ。それ以外のプレゼントは普通に嬉しいものばかりだ。ハグリッドは糖蜜ヌガーを缶一杯送ってくれた。

 ロンはお気に色のクィディッチ・チームの面白いことがあれこれ書いてある「キャノンズと飛ぼう」という本をくれた。ハーマイオニーはデラックスな鷲羽のペンと勉強しなさいというメモ紙。

 

 メモ紙の方はとりあえずみなかったことにする。ダーズリーの時のように捨てることはないが、見ることがないように丁寧に鞄の奥底に放り込んでおく。

 サルビアからは、彼女が呪文をかけたという獅子の石像をもらった。それぞれに性格が付けてあるらしく、ハリーのは大人しいが勇敢で、ロンのは言うことを聞かない悪戯好き。貰ってからもう何度もロンは指を噛まれている。

 

 ウィーズリーおばさんからは去年と同じくセーターとプラムケーキ。セーターは温かく早速着た。ロンにもサルビアにも手編みのセーターが送られており、サルビアは嬉しそうに着ていた。

 寒がりなので、温かいセーターはかなり嬉しいらしい。

 

「さあ、クリスマスパーティーに行こう」

「楽しみだな」

「ええ」

 

 ハーマイオニーがいないのは残念だが、三人は大広間に向かう。豪華絢爛な飾り付けが成された大広間。霜に輝くクリスマスツリーが何本も立ち並び、柊と寄生木の小枝が天井を縫うように飾られている。

 魔法の天井からは温かく乾いた雪が降り注ぎ、その中でダンブルドアがお気に入りのクリスマスキャロルを二、三曲指揮していた。

 

 ハグリッドなどはエッグノッグをゴブレットでがぶ飲みして大声を超大声に進化させている。うるさいほどであるが、とても楽しそうだった。

 フレッドとジョージはお目付け役がいないのを良いことに悪戯を敢行。盛大におお騒がせを巻き起こして笑いの渦をつくりあげていた。

 

 少しおかしいのは、いつもならスリザリンのテーブルからこれみよがしにハリーたちの新しいセーターの悪口を言うマルフォイがいるはずだが、今日は大人しかったことくらいだ。

 大人しいなら大人しいで不気味ではあるが、何か言われるよりは良いので気にも留めずクリスマスの豪勢な食事に舌鼓を打つ。

 

「ふぅ、ごちそうさま」

「もういいの?」

「もっと食べなよ」

 

 相変わらずあまり食べないサルビア。ハリーとロンはもう三皿目のクリスマス・プディングを食べ終えて四皿目に行こうとしているというのに彼女はたった一皿で終了だ。

 

「さっき死ぬほど砂糖かけて食べたか大丈夫よ。それほど食べられないの」

「身体弱いんだっけ」

「そうよ。とぉーっても弱いの。だから、走らせるのだけはやめてね」

「ごめん」

 

 悠長に構えていたりして、授業に遅刻しそうになって散々走らせてしまった。来年はそういうことがないようにしたいと思う。たぶん無理だけど。

 そんな感じにクリスマスパーティーは楽しいまま終了した――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 塵屑どもとくだらないクリスマス・パーティーに参加したあと、夜、誰もが眠り切った頃、サルビアは役に立つ蟲(ドビー)を使って秘密の部屋に来ていた。

 

「塵屑どもが浮かれやがって」

 

 クリスマスだからどうした。なぜ、わざわざ塵屑の為にプレゼントなるものを用意しなければならないのか。向こうから貰った物はセーターと、羽根ペン、その他だ。

 もらってしまった以上返さないわけにはいかない。返さなければ関係に悪影響が出る。まったく人間関係など面倒くさいことこの上ない。

 

「まあいいわ」

 

 あれには、盗聴魔法、位置探知などの魔法がかけてある。サルビアに不利益になる行動をとろうとした瞬間、あの石像は牙を剥くのだ。

 そして、所有者を殺して死体を持ち帰ってくる。一応、何かあった際の守りの呪文もかけてあるので、サルビアがいなくとも石像が塵屑たちを守るだろう。

 

 つまりは監視役だ。石像をどこかに置いておいてもこっそりと所有者についてくるのである。ただでプレゼントなど渡すものかよ。

 

「そんなことよりも、始まりそうね」

 

 めでたいことに、どうやら出産が始まったらしいのだ。無事に生まれて増やせば前以上にユニコーンの血が利用できる。

 もっと延命できるだろう。時間さえあれば、新しい魔法を完成させることが出来る。生きることが出来るのだ。そして、力をつけて糞塵屑(ダンブルドア)を殺す。

 

 いや、殺すのはあとは。永遠の屈辱に落としてやる。ただでは殺さない。隷属させ、従属させ、馬車馬のようにこき使ってぼろ雑巾のようになってから殺してやる。

 

「役に立てよ。お前が、生かされているのは、ただそれだけの為だ」

 

 糞塵屑にそれ以外の価値などありはしない。

 

「う、うまれました!」

 

 その時、役に立つ蟲がユニコ―ンが生まれたことを伝えてくる。急いで、地下の森に向かう。確かに、新たな命がそこに生まれていた。

 小さくも、確かなユニコーン。とても可愛らしい。一応、魔法で検査してみたが無事だった。問題はない。健康そのもの。

 

 地下であることが影響した様子はない。だが、今後、影響が出ないともいえない。血の効果も養殖したものと天然もので何か違いがあるかも比べなければならない。

 しかし、これは大きな一歩だ。作り上げた森に一杯に育てば浴びるように使っても良いだろう。

 

「いいぞ、役に立て、お前たちの価値はただそれだけだ」

 

 そして、その夜、なんて名前を付けようか一晩中悩んだサルビアなのであった――。

 

 




ネビル、またサルビアを潰す。そして、逃げる。
ネビルが猫かぶりサルビアを見て逃げるのはきちんと理由があります。

クリスマス。ロックハートから実は全校生徒にサイン色紙が配られてますがファン以外は即座に捨てました。
サルビアは焼却処分しました。

ハリー視点でサルビアのクリスマスプレゼント見ると、危ない時に助けてくれるお守りなんですよね。うん、サルビアの評価があがるね(白目)

そして、ユニコーン第一子誕生。名前募集中。

次回はクィディッチ。
ルーナ「あなたって怖いもの」
ダンブルドア「サルビアお薬の時間じゃ」
サルビア、ロックハートにご褒美。
第二部完

な感じです。
では、また次回。

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