ロックハートがバレンタインに大広間でハートを降らせるという暴挙をやってのけてから、数週間。
四人で新しい科目リストに舐めるように目を通して、選択科目に印をつけていく。
「サルビアは、決めた?」
「ええ、決めたわよ」
流石は優等生。もう受けるのは決めてしまったようだった。ハーマイオニーと同じく、誰からの助言もなく決めてしまえるのは本当に凄いと思う。
ハリーやロンなど、如何に難しくない教科を受けるかに重点をおいて――無論それを外に出すことはなく――パーシーに助言を求めた。
「そうだね、ハリー。自分の将来を考えるんだ。どっちに進みたいかを明確にすることで、受ける授業を決めることさ。招来を考えるのに早すぎるということはない。
そうだね、迷っているなら占い術を勧めたいね。もし、マグルと身近に接触するような仕事を考えているのならマグル学は必須だよ。マグル学なんかを選ぶのは軟弱だっていう人もいるだろうけど、僕の個人的意見では、魔法使いたるもの、魔法社会以外のことを完璧に理解しておくべきだと思う。
それから、兄のチャーリーは外で何かをするのが好きなタイプだったから、魔法生物飼育学を取った。自分の強みを生かすことだよ、ハリー」
強み。自分の強みとはなんだろうか。本当に得意なのは、クィディッチ以外に思い浮かぶことはない。考えてもわからない。
だからパーシーに話を聞いたあと、ハリーはサルビアにも助言をもらうことにした。ハーマイオニーには聞かない。彼女は全部受けろとかいうに違いない。
その点サルビアはそういうことは言わないから良い。
「そういうわけなんだけど、何を受けるべきかな?」
「……なんで、私に聞くの。パーシーに聞いていたじゃない」
「聞いたけど」
結局強みがわからないのであまり参考にならなかった。今から将来を考えても想像がつかない。
「はあ、マグル学は、魔法界の視点からマグルの文化を考察する授業。占い学は未来を予見する方法を学び、実践する授業よ。数占い学もあるけど、数秘的だから、あなた向きではないわね。
あなたは、マグルの事に詳しいからマグル学でも良いとは思うけれど、考察とか苦手でしょ? なら、占い学を取るべきね。
魔法生物飼育学は、魔法生物の飼育法、生態を学べるわ。古代ルーン文字学もあるけど、あなたが文学なんて嗜むとは思えないから、取るなら占い学と魔法生物飼育学じゃないかしら」
「うん、そうするよ。ありがとう」
ちょうどロンとも同じ選択科目だ。どうせ考えてもわからないし、サルビアもそう言っている。どうせなら友達がいた方が楽しいに違いない。
後悔するにしても、仲間がいればそれほど後悔せずに済むだろうという判断だった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
クィディッチ。糞スポーツ。いい加減、観戦など面倒くさいのだが、全校生徒が行くとあっては行かないわけにもいかない。
病欠などしたいがそう頻繁に病欠など使えるわけもなく。そもそも
仮病ではないが、重病を出すわけにもいかないのだ。そうなってしまえば医務室にしばれつけられて自由がなくなる。
せっかく、子供ユニコーンが育ってきて、可愛らしくなんと懐いてくれたのだから医務室などという牢獄に入るわけにはいかないのだ。
そういうわけで、仮病も使えず、サルビアはグリフィンドール対ハッフルパフを観戦する羽目になった。それも。
「ねえ、どっちが勝つと思う?」
あのルーナ・ラブグッドと。
「状況次第」
「グリフィンドールを応援しないの?」
「あなたは、なんで、ここにいるのかしら」
レイブンクローのくせに、わざわざグリフィンドールのサルビアの隣に座るという意味不明なことをやっている。
「ここの方が見やすいからね」
「…………」
そうは言うが、彼女は手に持っている雑誌をさかさまにしたまま読んでいる。試合など一片たりとも見ていない。どの口が見やすいというのだろうか。
あれか? 雑誌が見やすいという意味か? わかりきっていたことだが、ルーナは相変わらず常人では及びもつかない法則の中を生きているらしい。
普通に雑誌を読んでいるだけならば問題ない。そう思っていれば、
「どうして、変身してるの?」
これだ。
「必要にかられて」
「そうなんだ。ほら、このページを見て」
――変身術の健康被害
どうでもいいページを見せて来る。健康被害など知ったことか。それ以上にやばいことになっているんだから、今更な話だ。
問題は、こいつがどういうつもりかだ。
「何を考えている」
「何を? 一杯考えてるよ。ナーグルとか、しわしわ角スノーカックのこととか。夢の世界のこととか。そこではなんでも出来るのよ。楽しいんだからン」
「そうじゃなくて――」
「夢の中じゃ、捕まえられるのにここにはいない。しわしわ角スノーカック、どこにいるのかな。あなた知ってる?」
――…………。
殴りたい。盛大に殴ってやりたいが大衆の前だ。それも出来ない。
「はあ」
握った拳を落とす。いい加減こいつを警戒しなくていいんじゃないかと思えてきた。思考があっちこっち言って論理的ではない。
空想的で、不安定。だというのに、サルビアの変身術を見破る直感を持つ。だというのに、追求せずに、何もしない。
何を考えているのかが一切読めない。何がしたいのだこいつは。いや、それすらも考えていないのか。
「あんたも頭が固いネ」
「…………」
「あと、怖いよあんた。真っ黒、真っ黒。すっごくまっくろ。ハリーたちとは全然違うネ。でも、同じ。たぶん、色が違うだけ」
核心的なことを言ったかと思えば、
「ヘリオパスってご存知?」
すぐに別の場所へ飛んで行く。ふわふわと、ふわふわと。掴ませない。掌の上に乗せようとも、抜け出すだろう。
むしろ、こいつが仏の方か。これの裏は誰にも取れない。漠然とした、感覚をサルビアは感じる。
最悪だ。それでいて、何もしていないから、手を出すわけにも行かない。この女は常に、人の目がある場所でサルビアに接触するのだ。
まるで、サルビアが人の目がある場所では何もできないのをしっているかのように。
「終わった。勝ったね。じゃあ、帰るよ」
グリフィンドールが勝利した。彼女は雑誌を丸めてそそくさと立ち上がる。そして、彼女の姿は人ごみの中に消えていった。
爬虫類に襲わせるか。そこまで考えたところで、周囲に誰もいなくなっていることに気が付いた。そして、
「サルビア」
「ダンブルドア校長」
「これを、スネイプ先生からじゃ」
そうして渡されるのは、一本の小瓶だ。見たこともない魔法薬。毒か?
「治療薬じゃ。強力な。禁じられたものじゃよ。君の為に去年から作らせて、ようやく完成したものじゃ。完治にはいたらんかもしれんが、生きながらえることが出来る」
熟成に半年以上もかかる治療薬。だが、
「いらん」
サルビアは受け取る気がなかった。
「施しなどいらん。私は、私でなんとかする。見下すなよ」
「そうか」
「ごはっ――――」
無理矢理に飲まされた。重い身体が少し軽くなる。呼吸が楽になる。頭痛が、弱まって思考の淀みが抜けていく。
効果はあった。それゆえに、感じるのは、怒りだった。
「待っておれ。わしは、君を見捨てない」
そう言って彼は立ち去った。
「ふざけるなよ。どこまで、私を愚弄する気だ、塵がァ!!」
殺す。必ず殺してやる。増悪は強まる。どこまでも、どこまでも。
「やあ、リラータ嬢、顔色が悪いようだが、大丈夫かい? 困っているなら、私に相談すると良い。なにせ、私は――」
「うるさい、消えろ。私は機嫌が悪い」
「――り、リラータ嬢? ど、どうしたのかね。いつもと様子が違うようだ。なにかあったのなら私が――」
ただでさえ機嫌の悪いサルビアにロックハートは火に油だった。
「消えろと言ったんだよ。目障りなんだよ塵がァ! 私の前にうろつくな、何もできない蛆蟲にも劣る無能がァ!!! コンキタント・クルーシフィクシオ!!」
誰かにタイミング悪くやって来させられたロックハートにサルビアの新呪文は直撃し、彼は医務室へと運ばれることになった。
重篤な白血病、脳腫瘍、心臓病、その他数百を超えるありとあらゆる病魔に侵されていて再起不能と診断され、彼は教職を止めることになってしまった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そうして、時は過ぎて行った。一年とは長いようで早いもの。グリフィンドールは無事にまた寮杯を獲得することができた。
二年連続の快挙だ。それもこれもハリーのクィディッチでの活躍と他の先生たちにハーマイオニーとサルビアが点をもらい続けたおかげだ。
事件らしい事件もなく、この年は過ぎて行った。事件と言えばハグリッドが森のユニコーンの番がいなくなったと言っていたが結局見つかることはなかった。それだけだ。
ああ、もう一つあった。なんとあのパーシーに彼女が出来ていたのだ。ジニーとサルビアは知っていたらしい。フレッドとジョージが誕生日プレゼントを早くもらったような顔でにやにやとしていたので、きっとからかいに行くのだろう。
それくらいで、去年のように明らかな危険はなく、平和な一年であった。それゆえに、ハリーは帰るとなればまた憂鬱にもなる。
ただ、良いこともあった。
「来年はロックハートと付き合わなくていいってことだよ」
「本当、それだけは救いだよな」
帰りのホグワーツ特急の中で、ハリーとロンはそのことで喝采して喜ぶ。無事に一年を乗り切って不祥事もなかった彼は突然病気になって辞めることになったのだ。
「なんでよ? 彼最高だったじゃない。残念だわ」
相変わらずのロックハート信者であるところのハーマイオニーは残念と言う。この一年、彼の下で何が学べたというのか。何もだ。何一つ学べていないだろうになぜそうも奴を最高と思えるのか。
ハリーにはまったくわからないというのに、女子信者は残念と騒ぐばかりだ。ロックハートがやったことなど闇の魔術に対する防衛術に関しての自学自習の習慣をつけさせたことくらいだ。
ハリーやロンですら真面目にサルビアを拝み倒して教えてもらう習慣が付いたほどだ。そのおかげで、期末試験はそれなりの点数を取れた。
相変わらずトップはサルビアとハーマイオニーだ。
「ハリーこっちむいて!」
ぱしゃり。
コリンの癖も治っていない。来年から大丈夫だろうか。そう思わずにはいられなかった。
「もう、やめなさいよ」
それをたしなめるジニー。いつの間にか慣れたおかげで、そんな役割に落ち着いたらしい。ありがたいことだった。
「しわしわ角スノーカックって知ってるかしら?」
「いや、知らないけど」
そのおかげで友人が増えた。ジニーの友人だというルーナ・ラブグッド。彼女は、控えめに言って、すごく、変だ。
サルビアとは既に知り合いだったらしいが、彼女が無視をし続ける理由がハリーは数時間の間で分かって来ていた。
可愛らしい少女であるが、変わり者だ。ザ・クィブラーなる雑誌を見せつけて来ては、しわしわ角スノーカックなる生物について聞いてくる。
ロン曰く、そんな生物いるわけないよ、である。サルビアなども、無視するのが得策と言っていたが、ハリーはどうにも彼女を無視するのは難しかった。
「今年は何もなかったわね」
「そうだね」
「去年は、賢者の石の事件があったんでしょう?」
ルーナはそう聞いてきた。
「そうだね」
毎年毎年何かあったら困るから、なくてよかったと思おうばかりだ。
「おかしいな」
「何が?」
「私、ぜったい何かあると思ってたのに。きっとナーグルのせいよ。あっ、あなたのクィディッチの試合、楽しかったわ。来年も楽しみにしてる」
「あ、ありがとう」
「ねえ、日記帳はどうしたの?」
ルーナは次はサルビアへと向かう。ころころと話す対象が変わり、話す内容もふわふわしている。まるで、気ままに飛ぶ風船だ。
「ないわよ」
何か察したのだろうか。ルーナはそれ以上何も言わずに雑誌に戻った。ハリーにはどういうことかまったくわからない。
「日記?」
「気にしないで」
「そう?」
「ええ、そう。それより、もうすぐ着くけれどやり残したことはないかしら?」
「ああ、そうだ」
そう言われて、ハリーは急いで紙に番号を走り書く。三回同じ番号を書いて、それを破いてサルビア、ロン、ハーマイオニーに渡す。
「これ、電話番号って言うんだ。良かったらかけてほしいんだ。夏休みの間ダドリーしか話し相手がいないのは辛すぎるから」
「わかった。必ずかけるよ」
「ロン、かけるときはホグワーツだとか、魔法使いだとか言わないようにしましょ」
「なんでさ?」
「話に聞く限り、ハリーのおじさんもおばさんも、その――ねえ」
どう言っていいのか曖昧にハーマイオニーは笑みを作った。
「うん、そうして。たぶん、魔法とか言っちゃうとおじさんキレて電話を投げちゃうよ」
そう言いながら、四人はロンドンへと戻る柵を越える。ダーズリーおじさんを見つけて、ハリーはげんなりする。
「それじゃあね」
柵を越えて、サルビアが一人さきに帰って行く。ふと、その背に、燃える何かを見えた気がした――。
これにて秘密の部屋編終了。
秘密の部屋が秘密の部屋のまま終了し、ハリーがバジリスクと戦わずに終わった為経験値が減少。
ダンブルドアの行為によってブチギレてロックハートご褒美(死病)を貰う。いままでつくしてくれたからサルビアちゃんからの極上のご褒美です。
さて、アズカバンの囚人編ですが、とりあえず一週間前後くらいの休みを挟んだあと更新して行こうかなと。
たぶん、原作がなくなった二巻と違って三巻はまだ原作が残るかもしれない。
ただし、マルフォイが大人しくなってしまう為、必然的にバックビークが生き残ることになりそう。
まあ、どうなるかは未定ですが、ではまた次回。