ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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第28話 播磨外道

 禁じられた森。ホグワーツのその森には多種多様な魔法生物たちが生きている。知能のあるものから、人語を介すものまで、実に様々なだ。

 そんな森を小柄な少女が一人、歩いていた。その存在は曖昧模糊としたものであり、果たして人間なのかどうかすら怪しい。

 

 幽鬼の類だと言われればそれを信じる手合いすらいるだろう。何を馬鹿なと一笑できる者は総じて彼女の本質を知らないからに他ならない。

 彼女の本質とはこうだ。何者にも協調せず、ただ一人、己のみで完結している存在。単独で全世界すらも敵に回すことすらも厭わず、それですら生き残って見せるという既知外の意志を持った存在。

 

 それだけの自負と凶兆を今、全開にした彼女は、それど同時に指で押せば崩れかねない儚さをも内包していた。生きながら死んでいると言っても間違いではない少女は、サルビア・リラータは森の奥へと行き着いた。

 

 まるでここが終着であり、ここから全てが始まるのだと言わんばかりに。そこはまるで蜘蛛の巣だった。いや、まさに蜘蛛の巣なのだろう。巨大な蜘蛛がそこにいた。

 

『ここに、ハグリッド以外の人間が来るとは』

 

 その存在はサルビアを見て、そう言った。サルビアの周りに子蜘蛛が集まってくる。久方ぶりの食事とでも言わんばかりに。

 

『何の用だ、人間』

「…………こいつで良いか」

『何?』

「光栄に思え、塵虫ども、この私がお前たちが持っていても無駄なものをもらってやる」

『何を言っている』

「死ねよ、塵虫が。ディフィンド・マキシマ」

 

 サルビアはただ、子蜘蛛の群れに杖を向けて呪文を放った。引き裂かれる子蜘蛛。縦に引き裂かれてバラバラになる。

 そして、それをサルビアは足蹴にした。踏みにじった。

 

「コンキタント・クルーシフィクシオ」

 

 漆黒が放たれる。直撃し、それは弾けて病が感染するように病が広がって行く。木々の合間からわずかに見える晴れ渡った空が黒く染まる。

 子蜘蛛たちが痙攣を起こしたように倒れていく。

 

『何をした!』

「ふん、塵などこの程度か」

 

 それを端から踏みつぶしていく。蜘蛛の体液の異臭が窪地に充満し始めていた。

 

『ヤメロ!』

「知るか塵屑」

 

 踏みつけ、叩き潰し、殺して、殺して、奪う。

 

 漆黒が直撃する。一際巨大な、この場のボスとも言うべき存在に。こいつらの親だろう存在に。なまじ知性がある分、子が蹂躙される姿など見たくないだろう。

 見れば、怒りを覚えるのは本能だ。人間と違って、こういう生物はやりやすい。恐怖を感じる前に怒りを感じてくれる。

 

「その程度か塵め、ボンバーダ・マキシマ!」

 

 砕く、砕く、砕く。子蜘蛛を砕き、怒りに任せて迫る巨大蜘蛛の足を砕いて叩き斬る。杖裁きは、彼らが怒りを感じるほどに鋭くなっていく。

 それにともなって、子蜘蛛は加速度的に倒れて死んでいく。彼女が逆十字の呪文を使うたびに漆黒が放たれ、それは感染症のように広がって行くのだ。

 

 それの結果は、すなわち輝きの略奪と病の交換。彼女に対して、負の感情を向ければ最後、奪われる。彼女が望むものを望むままに奪われる。

 当たらなければどうということはない? 直撃しなくとも感染症のようにある一定範囲までその呪文の効果は広がる。

 

 躱したところで効果範囲にいれば意味はなく、隠れたところで、隠れたものに直撃すれば球形に広がる効果範囲は壁越しだろうと効果を発揮する。

 逃げられるものかよ。逃げるには、サルビア以上の力で弾き返すか、閉心術で心を閉ざす以外にない。彼女に対して向ける感情を抱いたのを悟られないように隠す以外に方法はない。

 

「足りない、もっとだ、もっと……」

 

 うわごとのように呟きながら、彼女は森を進む。遭遇する生物全てにその凶行を見せつけて、逆さ磔にくべながら、彼女は森と突き進む。

 その一歩は、病人のそれから次第に軽いものへと変わって行った。呪文を使い習熟するにつれて奪える幅が大きくなる。病で失われた体力を人間以上の身体能力を持つ魔法生物から略奪することすら可能となる。

 

「おい、なにしちょる!」

 

 そこに猟銃を手にしたハグリッドがやってきた。腰には傘がある。森の異変を察知してやってきたのだろう。そんな彼は、サルビアを見て、首をかしげた。

 

「サルビア?」

 

 彼には目の前の少女がサルビアには見えなかったのだ。何かの体液で全身が汚れている。血でもかぶったかのように淡い髪は赤い液体がこびりついている。

 眼はぎらぎらと獲物を探す狼のようにぎらついていて、いつもの彼女の面影などどこにもない。鬼の形相とはこういうことを言うのだろう。

 

 明らかに尋常の様子ではない。ハグリッドはシリウス・ブラックに何かされたのではないかと、心配した。

 

「大丈夫か! え? おい」

 

 駆け寄って、その肩に触れようとて弾かれた。ありえないほどの力で。サルビアにこれほどの力はあっただろうか。ますますもって尋常ではない。

 ダンブルドアに報告しなければならない。そう思った時には、

 

「オブリビエイト!」

 

 ハグリッドの意識は白一色に染まった。

 サルビアはハグリッドの記憶を弄繰り回す。自分に都合のいいように、利用するために。それでいてダンブルドアに気が付かれないように細心の注意を払う。

 

 来るべき戦いの為に。巨大塵でも糞塵屑にとっては大切な教員であり森番だ。そうこの男には価値があるのだ。ダンブルドアにとっての人質として。

 

「せいぜい利用されろ巨大塵。お前の価値なんて、これ以外にはないのよ。私の価値に比べたら、塵芥に等しいのだから」

 

 そのまま巨大塵を放置して再び彼女は森を徘徊する。目につくもの、ありとあらゆるものを病に侵し、生命力を、寿命を、そいつが持つ身体能力や特殊な力、魔法力まで全てを奪う。

 呪文をつかえば使うほど精度が増していく。ありとあらゆるものを奪い、病を押し付ける。地獄の苦痛の中にあることは変わらない。

 

 だが、身体は動く。何よりも強くなっていく。塵屑どもから奪えるものは呪文の精度の上昇と共に増えていった。

 足りない。それでもまだ足りない。ありとあらゆるものを奪い尽くしても、病を押し付け続けてもこの身に宿る呪いの如き病巣は未だ消えてなくならない。

 

 ケンタウロスの群れを全滅させたところで、もういいかと、彼女は呟いた。

 

「行くか……ああ、その前に、蟲、お前にご褒美をあげる」

「ご、御主人、さま? ――ああああああ―――」

 

 容赦なく呪文を当ててやる。調教して従順にしたが、こいつは恐怖で従っていただけだ。そして、蟲は常にサルビアを憐れに思っていた。

 優しいことだ。忌々しいぞ、塵蟲が。だが、その魔法は役に立つ。使ってやるよ、喜べ。四肢を奪い、脳髄を奪い、ありとあらゆるものを奪い、最後に妖精が使う独自の魔法を奪った。これでサルビアは、杖を使わずとも呪文を使えるようになったのだ。

 

 これより、マグル界へと向かう。無論、奪うものは決まっている。

 異端とされているが、治療の方法としては至極単純なことをやりに行くのである。そう補填だ。奪う呪文があるのだから簡単に行える。

 

 目が悪い。ならば目を奪う。胃が悪い、ならば胃を奪う。脳髄ならば無論、然り。補填する。魔法族とて価値はないが、魔法族以下のマグルに価値などあるはずもない。

 ならばせめて治療に使ってやるのが慈悲というものだろう。だから、まずはどこかの都市へと移動した。どこかなど知らないし、興味もない。

 

「おい、君、大丈夫か?」

 

 血などの得体のしれない体液を体中に付けたぼろぼろの少女がいきなり現れれば警官も来るだろう。その警官は、何かを言っている。塵屑の言葉などもとから聞こえるわけもない。

 そんなもの聞こえない。多分にその言葉に含まれているのは憐れみだ。ぼろぼろであるし、傷も多い。周りの人間も同じ風に思っているようだ。

 

「コンキタント・クルーシフィクシオ」

 

 まずは警官の向けて、呪文を放つ。漆黒に警官が吹き飛ばされ、病のように広がって行く。それと同時に倒れていく。

 呪文を放つと同時に奪い、病を病を押し付ける。全ての人間は耐えられずに地面へと倒れ伏していく。都市のど真ん中が、平和であった日常の光景は一瞬にして地獄絵図へと変り果てる。

 

 その真ん中にいるサルビアは塵屑を見るような目でそれを見下ろしていた。まったくと言ってよいほど無意味であったからだ。

 

 身体は動くようになる。目が見えるようになる。だが、病魔が進行はとまらない。生命力を奪えば、病魔に即座に削り取られる。

 ああ、どうしてこの世の者らはこうも役に立たないのか。

 

「貴様ら、私よりも遥かに生きられる身なのだろうが!」

 

 役に立たない。どいつもこいつも役に立たない塵屑蒙昧ばかり。なぜこうも塵屑以下の存在でしかないのか。

 

 呪わしい。苛立たしい。サルビアは、ただただ増悪する。自分にお前らほどの時間があれば、森羅万象全てを容易く掴み取って見せるというのに。

 

 羨ましい、寄越せ、寄越せ、寄越せ――。

 

 当然のように、真昼間にそんな大事件を引き起こせば魔法省が動く。それも当然だ。闇祓いが来る。だからどうした?

 押し寄せる無知蒙昧な阿呆どもなどものの数ではない。数多の魔法生物から奪っている。動体視力、筋力、速度、柔軟性。

 

 そして、何より、

 

「私の瞳を見たな?」

 

 それだけで闇祓いたちは石化していく。量産したバジリスクから奪った瞳。実に有用だ。効力は落ちているが目を合わせれば最後、石化するのだ。

 あとは砕いてやればいい。そんな悪行を見て、激昂すればもはやこちらのものだった。そうなるようにしているのだから当然なのだ。

 

 情もわかる。人の性の動き、心の動きなど手に取るように全て把握している。ゆえに、自分の行動、言動が何を引き起こすかなども承知の上だ。

 その上で、行動している。もう時間はない。奪っても奪ってもわずかにしか伸びない寿命。足りないのだ。だからこそ、奪い続ける。

 

「エクスペリアームズ!」

 

 一人の風船ガムのように明るいピンク色のツンツンしたショートヘアでハート形の輪郭をした闇祓いの呪文によって杖が吹き飛ばされる。

 

「よくやった!」

 

 そこに禿げた長身の黒人もまた杖を向けたままやってくる。目を合わせようとはしないし、警戒は最大限だった。常に最速で呪文をを使えるようにしているし、どんなことに呪文が来ても反応できるようにしていた。

 例え、死の呪文だろうとも回避したし、広範囲に影響を及ぼす魔法だろうとも防御できる。それだけの腕前はあった。実に一流の闇祓いだ。

 

――だからどうした。

 

「ガッ――」

 

 次の瞬間には、黒人が吹き飛ばされていた。サルビアが殴りつけたのだ。ケンタウロス群れからの脚力と筋力を奪っている。

 この身は既に人の領域にはない。だからこそ、人の目で追いつけるわけがないのだ。呪文を警戒していた。しかし、まさか殴られるとは思ってもいなかったようでクリーンヒットして黒人は壁にめり込むことになった。

 

 素晴らしいが無論弊害はある。強度が違うのだ。病に侵された身体は、先ほどの衝撃に耐えられず粉々だった。だからどうした? なくなれば取り換えればいいだけのことだ。

 そこらで転がっている闇祓いの腕を奪い取って、交換する。素材はいくらでもあるのだ、使い潰すことになんら躊躇いはない。

 

 壁に激突させた黒人を地面へと倒し踏みつける。その際、内臓を踏み抜いたが、まあいいだろう。そうすればお仲間という馬鹿げた絆などを大事にしている屑どもは激昂する。

 

「やめなさ――」

「あなたも磔になりなさいよ」

 

 それでも呪文を躱したのは見事だった。躱して更には対抗に魔法を放ってくる。盾の呪文でその魔法を防ぎ、再び呪文を放つ。

 流石は闇祓いと言ったところか。

 

「なら、これはどうだ」

 

 呪文ではなく、黒人の腕を引きちぎって投げた。それには相手もぎょっとしていた。その隙に、踏み込む。武術などはマグルから奪い取った。圧倒的な筋力によってスピードは十分。

 その技術を使って接近し、

 

「終わりよ、塵」

 

 至近距離で逆さ磔にしてやった。

 

「ガアアアアアアア――――」

 

 魔女が悲鳴を上げて倒れる。奪って奪って奪い尽くしてやる。奪ったものは実にすばらしいものだった。

 

「変身能力ね。実に良いわ、あなた少しくらいは役に立つ塵のようじゃない」

 

 踏みつけにした名も知らぬ塵屑を褒めてやる。ほら、泣いて喜べよ。肺癌の末期症状程度でギャーギャー騒いでいる魔女の顔面を踏みつけ、踏みつぶしながらその能力を確かめる。

 自由自在に身体を変身させることができた。これによって、身体を補強する。変身術を行使しては終息呪文に弱いが、これは呪文ではないので効かない。

 

「さて、このくらいでいいか」

 

 一つの都市を潰した。目撃者もすべて処理した。ホグワーツ近郊にある山間部の小さな都市だったから、山を崩崩してすべて地面の下に埋めてやる。

 

 その結果、完治にはほど遠いが、それでも以前よりも格段に動けるようになった。呪文の精度も去年の比ではない。

 使えば使うほど習熟する。闇祓いどもから才能も奪い取ったので、更に習熟は加速する。

 

「これでよし。そろそろ、糞塵屑を潰しましょ」

 

 サルビアは杖を回収し寄り道をしてから、ホグワーツの大広間へと姿現しした――。

 




もはや語ることなし。
奪い、押し付け、邪魔者を潰す。
逆十字が世界に牙を剥く。
蹂躙の開始。

メタルギアを買ったので、どこかで更新ストップするかも知れませんがご了承下さい。

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