ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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第33話 三大魔法学校対抗試合

 ホグワーツ特急。四年目となると慣れたもので、いつもの四人で一つのコンパートメントを占領する。ネビルたちも隣のコンパートメントにいる。

 

「凄かったよねクィディッチ・ワールドカップ」

 

 あれからどれだけ経っても興奮は冷めない。ああいうスポーツを直接見るといったことも中々なかったハリーが初めてプロの試合を見た。

 学生の試合も凄いが、プロの試合はもっとすごい。それを実感したのだ。

 

「だよな!」

「まったく男子って。ねえ、サルビア」

「まあ、良いんじゃない」

 

 ハーマイオニーは呆れ気味だが、サルビアは至って気にした様子はない。多少は機嫌がなおったのだろうか。いつもと同じように教科書を読んでいる。

 相変わらず教科書は面白いと思えないハリーからすれば本当に脱帽だ。

 

「そう言えば、今年はどんな人が防衛術の先生になるのかしら」

「ルーピン先生、良い人だったのに」

「だよなー。いきなり辞めちゃうなんて」

「仕方ないわ。彼、人狼だったのよ。まあ、いい先生であったとは思うわ」

 

 サルビアの言葉に同意する。人狼であったことを差し引いても一番いい先生だったとハリーは思っている。なにせ、今までの防衛術の先生はろくな奴らはいなかった。

 ヴォルデモートを後頭部で匿っていたハゲターバン。口だけのイケメンっぽい何か。

 これらと比べるとルーピン先生がいかにまともで素晴らしい先生であったか。今ならば、如何に彼が素晴らしかったかについて苦手なレポートでも数メートル分は書けるだろう。

 

「だよね。今年も良い人が来ると良いけど」

 

 どんな人が来るのか。それもまた楽しみになりつつあるような、不安にしかならなくなりつつある。出来れば普通の人が着てくれると嬉しいとハリーは思う。

 まあ、駄目なら駄目でサルビアに習えばいいのだ。彼女は本当にどんな魔法も知っているし、頼みこめばなんだかんだ言いながら教えてくれるのだから。

 

「なにか食べるかい」

 

 そうこうしている間に車内販売。いつものように、大量のお菓子やらを買って、みんなで食べる。

 

「ねえ、それもちょうだい」

「あれ、珍しいね。サルビアが他のも食べようとするなんて」

 

 少なくともハリーが知っている中では、最初に大鍋ケーキを少しだけ切ったあとはまったく口をつけようとはしなかった。

 それが今日は、大鍋ケーキだけじゃなくて、カボチャのパイだとか、蛙チョコレートあとかに手を付けているし、他にも食べていた。

 

「何? 私が食べると悪いの?」

「いや、そうじゃないけど」

 

 ただ珍しかった。それだけだ。

 

「うん、ごめん。はい」

「ありがと。別に気にしてないわ。ちょっとだけ食べられるようになった。それだけよ」

 

 彼女は身体が弱いようだ。それはうすうす知ってるし、体力もなかった。その彼女が少しだけ良くなったのなら嬉しいとハリーは思う。

 

「そうなんだ。じゃあ、これも食べてみる?」

 

 ロンが出すのは見慣れたバーティ・ボッツの百味ビーンズ。それもよくわからない色をした奴だ。明らかに不味そうなの確定な奴。

 

「遠慮するわ」

 

 当然サルビアが食べるわけもない。そもそもそんな地雷な感じのビーンズを食べるのは相当の馬鹿かかなりお腹が空いているやつくらいだ。

 

「いや、たぶん美味しいって」

「それなら、あなたが食べなさいよロン・ウィーズリー? そうしたら、食べてあげるわ。ほら、貸しなさい。半分でも良いから食べさせてあげるわ」

 

 あ、これは駄目だとハリーは思った。もう四年も付き合ってきた仲である。親友と言ってもいいだろう。なんども困難と戦ってきた。

 だから、わかる。これは確実に機嫌を損ねたと。

 

「え、いや、うん、うぇ、鼻くそ味だ」

「そう、で、それを私に食べさせようとしたと」

 

 コンパートメントの空気が氷点下まで下がったかのように感じた。その空気を破壊したのは、

 

「おーおー、ジャリども元気しちょったか」

「へ?」

「あれ?」

「なんで」

「…………」

 

 いつぞやの石神静摩がそこにいた。

 

「なんぞ、鳩が豆鉄砲くらったみたいに。なにをそんなに驚いちょる」

「いや、なんで、あんたがここにいるわけ」

 

 一番最初に我に返ったサルビアが聞いてくれる。

 

「俺もホグワーツに行くからよ。俺は、日本の魔法界を背負っちょる男よ。ダンブルドアに親善を申し込んでみたらちょうどよく良い感じの行事があるっちゅうからのォ。俺らにも一枚かませろっちゅうこっちゃ」

 

 この人はいったい何を言っているのだろうか。

 

 四人で顔を見合わせる。

 

「なんぞ、なんもきいちょらんか。なら、楽しみにしとれよジャリども」

「ふぅん」

 

 サルビアは何かに気が付いたのだろうか。

 

「さて、俺は行くわ」

 

 それから特になにもせずに静摩はコンパートメントを出て行った。彼はいったいなんなのか、何があるのか話し合いつつ、時間は過ぎて行った。

 久しぶりのホグワーツ。帰って来たのだ。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 あのよくわからない男が言っていることはおそらく――とサルビアは考えながら食事に手を付ける。ホグワーツの食事は美味しかった。

 今まで味を感じたことなどなかったが、美味いという感覚を初めて感じた。甘さ、辛さ、苦み、酸っぱさ。それらが普通に感じられる。

 

 栄養補給の最低限以外にも食べる気になった。うまいのだ。初めて感じる料理の味は、サルビアにとって極上の阿片のようであった。

 

「今日は一杯食べるんだね」

 

 うるさい、黙れ、塵屑(ハリー)。味わうのに忙しいんだこっちは。

 

「そうね」

 

 次は、何を食べてみようか。あれも食べてみたいとは思う。こんな味を感じていたのか、塵屑どもの分際でこんな味を感じていたとは許しがたい。

 そもそもハリーの声を始めて真っ当に聞いた。雑音しか聞こえなかった他者の声を普通に認識できる。鼓膜が破れていないから。聴覚が正常だから。

 

 これが健常者の感覚。願って、願って、ようやく手に入れたもの。与えられたものでなければ素直に喜べたというのに。

 それがあのダンブルドアだというのが喜べない要因だ。ふざけるなよ。上から見下してさぞいい気分だろうな。いつかそこから引きずりおろしてやる。

 

――とりあえず、そんなことよりデザートが甘くておいしいから、もう一つ寄越せ屑ども。

 

「さて諸君。よく食べよく飲み、はち切れんばかりに満腹となったことじゃろう」

 

 新入生の組み分けが終わり、夕食最後のデザートがなくなったところで教職員テーブルの中央に座るダンブルドアが立ち上がった。

 

「満腹になった君らがベッドに潜りたいという気持ちは十分に分かるが、いま少しだけ耳を傾けてもらいたい。まずは管理人のフィルチさんからのお知らせじゃ。学校内への持込禁止の品が新たに追加された。禁止品のリストはフィルチさんの事務所で閲覧可能なので、見たいと思う生徒は確認するように」

 

 その後も例年通りに禁じられた森への立ち入り禁止とホグズミード村についての諸注意が伝えられる。もとよりサルビアにとっては関係のない話だ。

 それよりも秘密の部屋を失ったのが痛い。自由になれる空間を新たに探さねばならないだろう。バジリスクとも連絡を取らねばならない。

 

 ここに来て蛇語で語りかけてきたのだ。あの爬虫類はどうやらまだ生きているようだった。あのダンブルドアの追撃を逃げ切るとはできる奴だ。

 褒美として名前でも付けてやろう。そう思う程度には生き残ったのはいいことだ。ユニコーンどもはもう用済みだが、バジリスクはこれから使える。

 

 まさか生き残っているとは思ってもいなかったが生き残っているのならば最後まで使ってやる。問題はどこで接触するかだ。

 ふと、サルビアが思考から戻ると、生徒たちがざわめいていた。ダンブルドアが発した言葉のせいだ。

 

――今学期の寮対抗クィディッチ試合の中止。

 

 サルビアとしてはもろ手を挙げて喜ぶべき事態だったが、周りが許さない。

 

 各寮のクィディッチ・メンバーが唖然としている。当然反発の声が上がりそうになる生徒を手で制したダンブルドア。

 

 クィディッチを中止にする理由を説明しようとしたとき、突如として大広間の扉が音をたてて開いた。笑顔を浮かべた金髪の男だった。

 

「はぁーい、みんなー。僕が新しい闇の魔術に対する防衛術のせんせいの、ナイア・ルシファーでぇーっす」

 

 いきなり現れた男に唖然とする。ダンブルドアが言うには本当に彼が新しい防衛術の先生だという。それなりに優秀とのことだが、あまり聞き覚えのない名前だった。

 仕方がないのだろう。闇の魔術に対する防衛術の先生は長続きしないから来たのがこの男だけだったというオチに決まっている。

 

 

「さて、新しい先生の紹介が済んだところで、先ほども言いかけていたのじゃが、これから数ヶ月に渡り我が校では心躍るイベントが開催される。この開催を発表するのはわしとしても大いに喜ばしい」

 

 そこで一息いれたダンブルドア校長は再度口を開く。

 

「今年、ホグワーツにて三大魔法学校対抗試合(トライウィザートトーナメント)を行う!」

 

 刹那、大広間が先ほど以上の騒ぎに包まれる。

 

 大魔法学校対抗試合とは、ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの三校から代表選手が一人選出されて三つの競技を競い合う親善試合のことだ。

 今まで行われてこなかったのは、競技の最中に夥しい数の死者が出ることによって競技そのものが中止にされていたため。しかし、今年は日本から来た男の提案により日本魔法界との親善も兼ねて開催することになったという。

 

「ボーバトンとダームストラングの校長が代表選手最終候補生を連れて十月にホグワーツへと来校される。生憎と日本の方は代表選手として参加はなされないが、日本魔法界の代表としてシズマ・イシガミさんが来ておる」

「よーよー、俺よ。俺が石神静摩よ」

 

 あの男が言っていたのはこれか。

 

「その後、ハロウィーンの日に三校の代表選手が選ばれるのじゃ。そして、見事優勝した暁には優勝杯と栄誉、さらに選手個人には一千ガリオンの賞金が与えられる」

 

 誰もがその大金に胸を躍らせる。しかし――。

 

「いかに我々が予防措置を取ろうとも試合の種目は難しく危険であることから立候補できる生徒に基準を設けることにした。その基準は年齢制限であり、十七歳以上の者にしか参加資格を与えないというものじゃ。参加資格を持たぬ者が参加できぬようにわし自らが目を光らせることとなる」

 

 ダンブルドアの言う参加資格に一部の生徒が強く反発していたが話は進み、ボーバトンとダームストラングや来校した際の注意事項などを話したあと解散となる。

 大広間から出て寮へと戻る間では、あちらこちらから不満の声が上がっている。中には十一月中旬に十七歳になる人がいるらしく、どうにかして参加できないか話し合っているのもいた。

 

 サルビアはというと、さっさと寮に戻って寝ることにした。そして、全員が寝静まった頃、

 

「さて、行きましょうか」

 

 どこまで動いてよいかを確かめる為に、まずは閲覧禁止の棚へと向かった――。

 




これより炎のゴブレット編。

もちろん、盲打ちが黙っているわけがないよね。ゴブレットとか見たらあいつが何するかわかるよね!
はい、フラグです。

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