ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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第35話 来校

 10月30日。ハロウィーンの前日である今日の夕方にはボーバトンとダームストラングの二校が来校することになっている。

 それに伴って生徒は城の前に立ちわざわざ二校を出迎えをしなければならない。欠片の興味もないサルビアとしては城の中でゆっくりしておきたいところなのだが、ハリーたちが行くと言った以上残るわけにもいかない。

 

 ダンブルドアを殺すための駒としてハリーたちを利用するのは確定事項。あの贔屓爺には効果的だハリー・ポッターとかいう駒は。

 だからこそ、仲良くしておく必要がある。未だ、ハリーたちはダンブルドアとサルビアの関係を知らない。この関係を知った時、少しでもこちらに味方させて盾にするためにも好感度は今まで通り稼がなければならないという面倒くさいことこの上ない状況なわけだ。

 

 泣き落としでもしてやれば、あいつらはサルビアを裏切れない。善人というのは、得てして操りやすいものなのだ。その善性こそが、奴らの弱点なのだから。

 善人の中でも狡猾な者には注意が必要だ。ダブルドアがその典型。あの男、善人ではあるが目的の為ならば一を斬り捨てることができる。

 

 そうでなければ、サルビアは今頃アズカバンか、死んでいる。

 

「まあいいわ。せいぜい利用されてあげましょう」

 

 その代わり、必ず報いを受けさせてやる。

 

 そんなことを思いながら大広間に行くと、勉強ができるだけの屑(ハーマイオニー)塵屑(ハリー)まるで役に立た無い塵(ロン)(ネビル)やロンの兄である双子(名前も覚えてい無い塵屑)に小さなバッジを見せながら熱く語っているところに遭遇した。

 

「あ、サルビア! ちょうどいいところに来たわね!」

 

 猛烈に嫌な予感がしたので素知らぬふりをして寮に戻ろうとしたが、塵屑(ハーマイオニー)は目ざとくサルビアを見つけた。そのめざとさをもう1年前に発揮していれば利用してやったものを。

 

 と思いながらしぶしぶ、そこへ行く。ハリーたちは助かったというような顔。どうやらまた面倒ごとらしい。

 

「なに?」

「サルビアにも是非入会してほしいのよ」

 

 そう言ってバッジを突きつけてくるハーマイオニー。バッジにはS・P・E・Wと書かれている。サルビアの灰色の脳髄をもってしても何のことだか分からない。

 というかこれは明らかに造語というか頭文字だ。これだけの情報で何かを察せというのが無理だろう。そもそも、かけらも興味のない塵屑どもの集まりだ。察するつもりもない。

 

 ただし、厄介ごとの種だということは否応でもわかる。

 

「あなたは、まともだと思っていたのだけれど、類は友を呼ぶということなのかしら」

「失礼ね、ちゃんとした活動よ。S・P・E・W、屋敷しもべ妖精福祉振興協会。サルビアは知っているかしら、魔法使いの家やホグワーツで働いている多くの屋敷しもべ妖精たちはお給料も年金も休暇も福利厚生も何も与えられないで奴隷のように強制労働されているのよ。S・P・E・Wはそんな不遇で不当な扱いを受けている屋敷しもべ妖精たちにちゃんとした労働基準に条件と与えられるべき正当な報酬を保証するの。将来的には法律を改正して彼らにも一定の権利と主張が与えられるようにするのが目標よ!」

 

 ああ、こいつは頭の良い馬鹿なのだとサルビアは理解した。やはり塵屑であることに変わりはないらしい。そして、そんな活動に巻き込ま無いでほしい。

 そんな益のないことをやってなにが楽しいのだ。自慰なら一人で勝手にやってろ。他人ーー私を巻き込むな塵。と、そう言えればなんと楽か。言えるわけがない。仮にも彼らの親友で通っているのだから。これだから塵どもの相手は疲れるのだ。

 

 そもそも、

 

「……そんな活動をしている組織なんて聞いたこともないけれど?」

「当然よ! 私が最近設立したんだから。メンバーは今のところ数人しかいないけれど、これからどんどん増やしていくわ。ちなみにハリーが書記担当でロンが財務担当となっているわ。あなたが入ってくれれば百人力だと思うの」

 

 ああ、本当この馬鹿な塵屑どもは手に負えない。屋敷しもべ妖精の権利の保証? 労働には正当な対価を? それは良いことなんだろうさ、お前の中ではな。

 勝手にやってろ、こっち巻き込むなよ塵屑。そんなことのために貴重な時間を割かれてたまるものかよ。

 

 下手なことをすれば死病への回帰が約束されてなければ、ここで殺しているところだ。全くもって度し難い。ゆえに、ここは正論で打倒してやることにする。

 

「悪いけど、断るわ」

 

 そう言うと、ハーマイオニーは心底信じられないというような顔をしている。ハリーたちの顔を窺ってみたが、ハーマイオニー以外の人は当然のような顔をしていた。ネビルだけはオロオロとしているが内心では同感だろう。

 そもそもこんな無意味な活動に参加したがる奴はいないだろう。こんな、無意味で無駄で、お節介でしかない善意の押し付けなど自慰以外のなにものでもない。

 

 いや、自慰の方がまだマシだろう。一人で完結する分誰にも迷惑がかからないのだから。そもそもだ、どうせこの塵も虐げられているかわいそうな屋敷しもべ妖精を見下して、そんな彼らを助ける自分は素晴らしいとか悦に入っているに決まっているのだ。

 無償の善意? そんなもの他者が相手を見下して悦にいることへの言い訳でしかないだろう。不愉快極まりない。まさにハーマイオニーの目はサルビアを見下していたダンブルドアと同じ目だ。

 

 不愉快極まりない。

 

 そんなサルビアの感情に気がつかずただただハーマイオニーは自らの主張を述べる。

 

「ど、どうして!? 屋敷しもべ妖精はあたりまえのように奴隷として強制労働されているのよ?! 何にも思わないの!?」

「思わないわ。屋敷しもべ妖精という種族はね、主人に忠実で無休無償で奉仕することが名誉であり、自由になることや労働代償を求めることは不名誉と思う本能を持っているの。私たちとは根本から違う生き物なのよ」

 

 塵の主張は鳥に飛ぶな、魚に泳ぐなと言っているのと同じことだ。なぜそれがわからないのだ、この塵は。所詮、塵は塵でしかないということか。

 こんな塵と仲良しごっこをしなければならないのが腹立たしい。それもこれもダンブルドアの糞のせいだ。あれがいなければ今頃は、こんな場所からさっさと去っていたというのに。

 

「おかしいわ。私達は労働すればそれに見合った報酬を受け取るのが当然でしょ? 違う?」

「違わないわね。私たちにとっては」

「同じことよ。私たちと同じように彼らも働いているのなら正当な報酬が払われるべきじゃないかしら。彼らは誰よりも働いているのよ!」

 

 そうなのだろうな、お前の中ではな。痴れるのならば自分だけにしろ。自分だけの世界で悪趣味なフルートを奏でて、下劣な太鼓でリズムを刻んでいるが良い。

 盲目白痴に痴れるのは勝手だが、それにこちらを巻き込むな。

 

 もしダンブルドアの枷がなければ今頃ここで磔の呪文をかけているところだ。

 

「それはあなたの理論よ。屋敷しもべ妖精にはなんら関係がないわ。あなたにはこう言う方が良いかしら。あなたは勉強のしすぎだから、あなたの受けられる授業を減らしますって言われたら? 嫌でしょう。反論なんて聞かないわ、嫌か、嫌じゃないかで答えなさい」

「……いやよ。そんなの私の勝手でしょっていうわ」

「あなたがやろうとしていることはね、あなたにそういうのをやるのと同じことなのよ」

「でも」

「でもじゃないわ、同じことなのよ。あなたは屋敷しもべ妖精がかわいそうだからと見下して、だから助けなきゃって言って悦にいっているだけよ。見下してるんじゃないわよ。あんたに私たち(じゃくしゃ)のなにがわかるっていうのかしら。大丈夫? 手を貸そうか? は、見下して見下して悦に言っているだけだろうが、そんなの自慰だろ。お前らの自慰に私を付き合わせるなよ」

 

 有無を言わせず言い切る。こう言ってやれば、他人を慈しんでいますとか言っている奴らはなにも言えなくなる。

 不愉快なのは、弱者を演じなければいけないところだが、まあ良いだろう、見下している塵を誰になにも言われずに潰せるということで我慢しておいてやる。

 

「そ、そういうつもりじゃ」

「そういうつもりじゃなくても、言われる側にはそう感じられるのよ」

 

 病弱なのはみんな知っている。そういうことを言われるとなにも言えなくなる。それは何よりも確かな真だからだ。彼女が背負ってきたものをハリーたちはなにも知らない。

 だから、善意だと思ってやってきたことが、彼女がどう感じるのか、同じ境遇の誰かがどう感じるのかを考えたことはなかったのだ。善意が悪意に変わることを知らなかった。

 

「だから、私をそんな活動に誘わないで。あなたが個人で勝手にやる分にはなにも言わないわ。あなた個人でやる分には応援してあげるから。失敗することもまた学習よ」

「サルビア……」

「はあ、言いすぎたわ」

「ううん、ごめん、私全然わかってなかったわ。とりあえず一人でやってみる。ハリーも、ロンもごめんなさい」

「い、いいよ。うん、何かあれば僕もハリーも手伝うしさ」

「そうだよ」

「そうそう、よく言うだろなにもしないよりぶつかって砕けろってね」

「それダメじゃね?」

 

 フレッドとジョージがそう言って笑いが出る。場が和む。とりあえず、この件はハーマイオニーが一人でやってみることになった。そのうち現実を見て諦めるだろう。

 サルビアはそれには加わらず憂鬱なお出迎えの時間を待つのであった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「こんばんは、紳士淑女の諸君。そしてホグワーツへようこそ、客人の皆さん」

 

 夕方、ボーバトンとダームストラングの二校がホグワーツへと到着した。

 

 ボーバトンは、大きな館ほどもある馬車を天馬に引かれながら空を飛んで来校してみせた。生徒は水色の薄い絹のようなローブを着ており、ボーバトンがある地域と気候が違うためか非常に寒そうにしている。寒さを紛らわせる魔法を使っていない時点で程度が知れる。

 校長であるでかすぎる塵屑(オリンベ・マクシーム)は女だが、巨人の血でも引いているのかホグワーツで最も大きなでかいだけの塵屑(ハグリッド)と同等かそれ以上の体格をしており非常に邪魔だった。

 

 ダームストラングは巨大な船で湖から現れた。ボーバトンとは逆に分厚そうな毛皮のマントを纏い、寒さを感じていないかのようにその屈強な身体を誇示していた。むさ苦しい。目に入るな目が汚れる。

 校長は、かつてヴォルデモートの部下でもあったらしいイゴール・カルカロフ。細い体格をした男性で先の縮れた山羊髭をしている姿はまったくもってまともそうで拍子抜けだ。

 

 今は、彼らのために歓迎会を開くため大広間に入っている。ボーバトンはレイブンクロー、ダームストロングはスリザリンの席に座っている。

 

「ボーバトン、そしてダームストラングの皆さんの来校を心より歓迎しましょうぞ。本校での滞在が皆さんにとって有意義かつ快適で楽しいものになることを、わしは希望しておる」

 

 ダンブルドアの言葉に何人かのボーバトンの女生徒が声を押し殺しながら笑う声が聞こえる。こちらも笑いたいくらいなのだが、羨ましい限りだ。

 無論、その笑いを聞いた塵どもは、険悪な視線をボーバトンの女子生徒に向けている。そのほかは、単に綺麗な女子に向ける不快な視線だ。

 

 挨拶が終わると同時に大量の料理がテーブルの上に現れる。来校した二校のことも考えられており、それぞれの学校がある国の料理が振舞われていた。

 そのおかげでイギリスの料理がまずいことがはっきりとわかった。今までは味を感じなかったので良かったが、まともになってみて一番の弊害がこれだ。

 

 今回は特にひどい。うまいもの、まずいものを食って初めてわかる自国の料理のひどさ。朝食はまだましだが、それ以外がひどいとは知識では知っていったが実感するとなおひどいことがよくわかる。

 よくもまあ、こんなものを毎日食べられるものだと塵屑どもに呆れた。

 

 そんなテーブルの上から料理がなくなったところでダンブルドアが立ち上がり、対抗試合について話し出す。

 三大魔法学校対抗試合の開催に尽力したという人物たちの紹介から入った。一人はルード・バグマン。もう一人は魔法省の国際魔法協力部部長のバーテミウス・クラウチ。日本の魔法界から交流にやってきた石神静摩。

 

 この三人と各学校の校長六人で審査委員会に加わるとのこと。ほかのやつらが魔法使いっぽい姿をしているなか黒スーツのマグルのような石神静摩はひどく浮いていたが、何が楽しいのかずっと笑みを浮かべていた。

 そして、試合について話し終えたあと、大きな荒削りの木のゴブレットがもってこられる。青い炎が灯ったそれを炎のゴブレットとダンブルドアはいった。これで代表選手を決めるのだと。




盲打ちの被害を食らう哀れなやつは今まで役に立ってない塵屑です。

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