ダンスパーティに出るからには当然のように相手が必要だ。相手がいないと話にならないと言ってもいい。
そういうわけでロンがモテ期に突入した。いきなり脈絡がないが、全てが全て脈絡がないわけではない。
ダンスパーティーは、パートナーがいないと話にならない。さて、そこでパートナーは誰が良いか。
女として目指す相手は一番が良いだろう。顔が良いことにこしたことはないだろうが、ここで最も重視されるのは人気だ。
さて、そこでロンのモテ期に繋がるのだが、ロンは魔法を組み立ててうまくドラゴンを倒した。顔は普通であるが、彼のかっこいい姿というのはそれなりに広がっている。
むしろ、最初情けない顔で逃げ回っていた姿からの見事な逆転勝利。その姿は相当にかっこよかったらしい。サルビアにまったくと言ってよいほど理解できなかったが。
「大変ね、代表選手は」
さて、そんな他人行儀に言ってるが、サルビアはサルビアで大変である。なにせ、容姿が良い。儚げな深窓の令嬢然とした姿は男子ならば誰でも気にせずにはいられない。
その全てをサルビアは一刀両断する。塵屑と踊る気はない。
だが、それでも来る相手は途切れない。特に三年生以下の少年少女はそれはもう必死だった。四年生から上の学年に該当する生徒のみがパーティに出られるとあってのだ。
そりゃ必死にもなるだろう。彼ら彼女らが出るにはパーティーへの参加資格がある生徒とペアを組まなければならないのだから。
「さて、どうしたものかしら」
できればパートナーなしで行きたいところであるが、自分の美貌がそれを許さない。適当な相手でもいればいいが、そう思いながら廊下をあるいていると、
「おい」
ふと、聞き慣れない声に呼び止められる。
「何かしら。ビクトール・クラムさん?」
そこにいたのはビクトール・クラムだった。
ダームストロングの代表選手が何をしにきたのだろうか。
「どうか、ヴぉくと踊ってはくれないだろうか。そして、それ以上も」
それは実質的な男女交際の申し込みだったのだろう。
「なぜ?」
「聞いた、あのロン君を勝利に導いたのは君だと」
「それが理由?」
美貌、頭脳。そこら辺が理由か。あるいは、猫を被ったこの皮にでも引かれたのだろうこの阿呆は。
しかし、面倒くさい。
サルビアは誰もが憧れるヒーローからのダンスの申し込みとそこから付随する男女交際の申し込みを面倒くさいと斬って捨てる。
ここは断る一択。
「断るわ」
「なぜ? もう誰かとパートナーに?」
さて、ここで否定すれば面倒くさい追及になるだろう。
ゆえに誰か適当な奴を指名するのがこの面倒くさい塵屑をさっさとどこかへやれるのだが、生憎と適当な相手というのは中々難しい。
まったく役に立たない屑だと思っていると、そこにちょうどよくマルフォイが通りかかった。
――いいタイミングだ、塵。
「ええ、そうよ。そこの彼」
「フォイ!?」
いきなり指名されたマルフォイは変な声を上げるが、サルビアはお構いなく彼の腕を組む。そして耳元で、
「合わせなさい」
そう呟いた。
マルフォイはサルビアの手駒だ。ゆえに、命令に服従する。
「ああ、そうさ。そういうことだから、彼女を誘うのはやめてもらおうか」
ここぞとばかりにその嫌味な顔にドヤ顔を張り付けるマルフォイ。こういうことをさせると本当に適役だ。役に立たない屑ではあるが。
「そうか。わかった。もう一つの方の話は考えてもらっても?」
「考えるだけなら」
「ならば良い」
そう言ってクラムは去って行った。
「それじゃ」
「はい!」
サルビアも即座にマルフォイに口止めして去って行った。
「…………なんで――」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ねえ、ロンはどこへ行ったのかしら」
ここ数日の訓練をさぼっている。寒くなってきて暖炉の前から動きたくないというのに、わざわざ時間をとってやっているというのに
それどころか、サルビアを避けている節もある。ハリーとハーマイオニーには普通なので、サルビアだけ避けられている形だ。
「君、何かしたの?」
「何もしてないわよ」
ハリーが心外なことを言うので否定しておく。心当たりはない。特に何かをした覚えもない。
いや、心当たりと言えばクラムにダンスパーティーに誘われたあの日以降ロンを見た覚えがない。
「…………」
もしかしたらアレを見られていたのか。
見られていたと仮定して、どこまで見られたのか。どこから見ていたのか。最悪を想定して最初から最後までだとすると、面倒だった。
思春期男子の心情を想像して面倒くささに溜め息を吐くたくもなる。
「何かあるの?」
そんなサルビアの心情をどことなく察したハリーがそう聞いてくる。
「ないわよ。そんなことよりあなたはダンスの相手は見つかったのかしら?」
「ええっと」
「見つかっていないのならさっさと見つけなさい。気心がしれた相手の方が楽よ。ハーマイオニーとか誘っておきなさい」
「君は?」
「私を誘うならパートナーの足を踏まない程度に上達してからね」
「うっ」
何せ、塵屑《ハリー》はやる気がないために全然上達しない。ロンはマクゴナガルが付きっ切りで指導しているから実は彼よりも上だ。
まあ五十歩百歩であるが。辛うじて人に見せられるレベル。ただ、下手すると足を踏まれるかもしれない
というか誘うな塵屑。なぜ、至高の存在足るサルビア・リラータがハリー・ポッター如きとダンスを踊らなければならないのか。
「それに、躍るならあなたじゃないわね」
「じゃあ、誰?」
「教えないわ。ただ、これはご褒美というところよ。それにあなたなら私じゃなくても大丈夫でしょう」
遠回しにあいつが他の奴と言ったら心配だと言っている。
それを言外に察したハリーは、
「そっか。それなら僕はハーマイオニーを誘うよ」
そう言った。少しだけ笑顔だ。ただそれをサルビアは気色わるいと思った。
「そう。じゃあ、さっさと行ってきなさい」
「わかった」
サルビアはそれからロンを探すこととする。取るに足らない塵屑であるが、駒として使うと決めた以上役に立ってもらう。
そのためにサボることなど許さない。
「さて、面倒だけど探しましょうか」
魔法を使いロンの位置を特定する。この程度雑作もなく、
「ロン・ウィーズリー」
「さ、サルビア」
「私がわざわざ割いてあげた時間を無駄にするとはどういうつもりかしら」
「き、君には関係ないだろ!」
そう言って彼は逃げ出した。
「そう、そう言うつもりなの」
しかし、どこにいても位置を特定できるサルビアに呆気なくロンは追い詰められた。誰も使っていない古教室。
話をするには話しやすい場所だろう
「…………」
「さて、話は聞かせてもらえるんでしょうね。どうして私を避けるのかしら」
「……君には関係ないだろ」
「大有りなのよ。まあ、おおむね理由はわかっているわ。どうせ、私のダンスのパートナーについてでしょう?」
「…………」
ほら、わかりやすい。この屑はなんてわかりやすいのだろうか。
露骨に表情の変わったロン。それでは正解ですと言っているようなものだ。まあいい。わかりやすい塵屑と使いやすい塵屑は嫌いではない。
度し難いのは使いにくい上に使えない塵屑だ。害悪とすら言える。存在していることすら許容したくないほどだ。
だが、この塵屑《ロン》は有用性を証明した。ならば使ってやる。
「……そうだよ。君はマルフォイと行くんだろ」
「そうね。そうだとして、なんで、あなたは私を避けるのかしら」
「それは…………。君がスリザリンとつるむから」
「そう。まあいいわ。あなたが短慮なのは知っているもの」
「なんだよそれ!」
「私はね、マルフォイとなんてダンスパーティーなんて行かないわよ」
「へ? そうなの?!」
「あれはあなたの勘違い。ビクトール・クラムの誘いを蹴るために仕方なくよ。そうでもなきゃなんであのマルフォイと一緒に躍らなければいけないのかしら」
いつもと変わらぬサルビアの鋭い言いようにロンは思わず笑ってしまった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「はは、そうだよね」
そう彼女がマルフォイと踊るはずがない。自分が一番わかっていることだというのに何をしていたんだと今更になっておかしくなったのだ。
「そっか」
「そういうことよ」
「って、ちょっとまって? それなら君は誰と行くんだい?」
「まだ誰とも。決めていないわ」
「うそだろ!?」
あのサルビア・リラータがダンスの相手が決まっていない? そんなことがありえるのか? きっと引く手あまたに違いないのに。
だって彼女はとてもきれいだ。
「本当よ。色々とお誘いはあるけれど、全部断ったわ」
「どうして?」
「行く気がしないわね。そもそも親しくない相手ばかりだし」
確かにそう考えると、サルビアは入学してから自分たち以外の誰かと親しげにしているのをみたことがない。社交性がないわけじゃないから、そういう性質なのだ。
それよりもだ、それならばどうだろうか。誘ってもいいのだろうか。とロンは考える。
彼女の言い分ならば親しい相手ならば一緒に言ってくれるはずである。つまりはハリーかロンだ。
「な、ならさ、ぼ、僕と……僕と踊ってくれないか」
精一杯、ロンはそう言った。
「……ええ、良いわよ。ご褒美として、あなたと踊ってあげるわ」
上から目線であったが、それが彼女だ。そんな物言いの彼女が躍ってくれる。それだけでなんでも出来そうな気がした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
深海のような深き場所。ある意味でそこは礼拝堂であった。ただし、ただの礼拝堂ではない。和洋折衷というように、ありとあらゆる宗派が混じり合い、元がなんだったかすら不鮮明に混沌としている。
かつてはカクレと呼ばれたキリシタンたちの礼拝堂であった場所。キリシタンを排斥する動きによって、カクレざるえなかった彼らによって変化させられた神々たちのなれの果てがここだった。
立ち寄りがたい場所だ。神聖な場所ではあるが、それと同時に深い恨みに淀んだ場所だった。誰かと話をする場所でも祈りをささげるような場所でもない。そんなことは断じて言えない場所だった。
そこにヴォルデモートとピーター・ペディグリューはいた。
「首尾はどうだ、ペディグリュー。いや、ナイアと呼んだ方がいいか」
「お好きに我が主。ぼくにとっては、名前なんて数あるうちの一つでしかないんだよ。そういう存在なのさ、ぼくは」
椅子に座るヴォルデモートにいつも通りの調子でナイアは答える。
「しっかりと闇の魔法を教えてますよ」
「そうだ、しっかりと教えるのだ。いずれ救済へと至るためにな。そのためにまずはしっかりと学生に教えなければな」
闇の陣営は大きく弱体化した。それもこれもかつて自らが敗れたせいである。ならばこそ、その増強こそが急務。
だが、かつてと同じではまた負ける。
ゆえにかつてと同じでは駄目なのだ。死喰い人を集め、軍団を編成することではダンブルドアには勝てない。
そう魔法界を落とす最大の障害であるダンブルドアは闇の魔法使いにとって天敵である。
どのように実力のある闇の魔法使いであろうともダンブルドアは勝つだろう。彼はそのような相手と戦い続けてきたのだから。
だが、弱点がないわけではない。彼は闇の魔法使いを相手にするのは得意だろう。しかし、ならばそれ以外をぶつけたらどうなのか。
そう例えば――彼が愛するものだとか。
「愛も情もわかる。人間の性に属するありとあらゆるもの全てを知っている」
ゆえに、ダンブルドアの弱点もまた承知している。
「愛だ。愛ゆえに、俺様は敗れたのだ」
愛に負けたのならば、愛でもって勝つのが常道。
「そして、
この世界は眩すぎる。死と生の狭間の眠りの中で見た魔法界の崩壊は、まばゆい輝きのせいで起きるのだ。
そう全てが正しいと思っていた純潔が滅ぼすのだ自らを。ゆえに、己の闇に身をゆだねることが救いだ。正しさも悪も全てを呑みこんだ闇こそが救済である。
己が与える病こそが救済となるのだ。誰もが苦痛を知ることで、彼女のような美しい輝きを持つことだろう。それが見たいのだ。
「誰もが、あの娘のように輝けるのだと俺様は信じている」
漆黒の輝きをこそ愛している。
暗い闇の底で、変革した闇の帝王が人類の救済を願うのだ。
ご褒美の正体はダンスの相手でした。良かったね、ロン。
さて、次回待望のダンスパーティー。
サルビア加入によって色々と変わっています。
ヴォルデモートは着実に勇者のみちと逆十字の血を受けて色々とやっております。
さあ、救済はすぐそこだとかそのうち言うんじゃないかなぁ。