時間という時間はあっという間で、ダンスパーティー当日となる。
今まではクリスマスの日となると殆どの生徒が実家へ帰省してホグワーツに残るのはほんの僅かであったところが、今年は一大イベントがあるということもあり逆に殆どの生徒が残っていた。
サルビアもその一人だった。仕方のないこととはいえど、塵屑とダンスパーティーに参加せねばならない。そのためのドレスローブも一応は用意している。
黒いドレスローブ。飾り気のないものでウエスト部分がすっきりしていて、裾に向かってスカートがふわっと広がるデザインのドレスである。それに同色のロンググローブ。
黒い色は肌や髪の色の薄いサルビアを良く際立たせるし、何より黒は女を大人に見せる。ウエスト部分も高めにしてありヒールも高め。
成長期の男子と比べて、当然だがサルビアは格段に背が低い。今の今まで病魔に侵されていたのだから仕方ない。これからその遅れも取り戻せるだろうが今はまだ全然である。
少しばかり身長も伸びてはいるものの標準とは言い難い。だというのに
塵屑が笑われるのはまあいいとして、自らが笑われるのは我慢ならない。だが、身長はどうにもならない。変身術でも行使すればいいのかもしれないが、あからさまだとバレる。
ただでさえダンブルドアに目をつけられているのだから、大人しくしておくべきだろう。まだ時が来るまでは。
だからこんな面倒な努力をしている。
さて衣装が出来上がればあとは中身になる。
「化粧は、した方がいいのかしら?」
化粧という名の変身術は得意であるが、今回は自前で行ける。そういえば、自前で化粧なんぞしたことがないことにサルビアは今気が付いた。
それが与える効果などは知っているが、あまり過剰にしすぎても駄目だ。しかし、パーティー。ある程度はしておいた方がいいだろう。
何より自分の美貌には自身がある。あまり過剰にせずここは素材で勝負する方がいい。ロン・ウィーズリーが裏切らないようにするために籠絡する。
その為の努力である。まったく面倒くさいが効果は期待できる。
「ん、薄めにしておきましょうか。あまり過剰にしすぎてもみっともないだけだわ」
化粧も施し、髪も結い上げる。いつもは無造作にしている髪であるがゆるふわのものを結い上げれば、また印象は変わる。
「アクセサリは、ないから良いか」
アクセサリなどには金が回らなかった。相変わらずの貧乏。だからこそ最低限度の装備で素材勝負である。
素材勝負ならば誰にも負ける気などしないサルビアなので問題ないだろう。自らは誰よりも美少女である。病の消えたサルビア・リラータに勝てる女などいない。
「サルビア、準備できた?」
全ての準備が終わったところでハーマイオニーがやってきた。彼女も普段とは違いボサボサの髪を整えて結い上げている。
立ち振る舞いもいつもの雑な感じはなく、そのままでいれば優雅なお嬢様のような気品さすら窺えるようであった。
「見違えたわねハーマイオニー」
「ありがとうサルビアも綺麗よ」
「そう、慣れないからよくわからないわ」
「私もよ。あとは何かネックレスとかあればいいと思うのだけれど」
「ないわ」
ハーマイオニーもサルビアの家が貧しいことは知っている。制服は特に買い替えていないし――背が伸びてないというのもある――嗜好品の類は本ばかりで流行りのものなど特に何も持っていない。
だからこそこういう時もあまりそういうものはないのだろうなとハーマイオニーは思っていたので、
「ならこれをつけて、サルビア」
銀のネックレス。花のあしらわれたそれ。花びらには魔法がかけられていて見るたびに色が変わる。
「クリスマスプレゼントよ。あなたの名前の花をあしらってみたの。あまりないものだから時間がかかっちゃって、魔法もかけるのにも手間取ったけれどついさっき完成してたの。間に合ってよかったわ」
彼女からのクリスマスプレゼントがなかった理由はこれか。何か裏でごそごそやっていたのは知っていたがまさかこんなことをしていたのかとサルビアは呆れる。
サルビア・リラータ。あまり花としては綺麗ではないがそこは細工師が見事にやってのけたのだろう。綺麗なものになっている。
装飾も過多ではなく、花一つで魔法で色が変わるようになっているのみ。サルビアの嗜好を良く理解していると言える。
「ありがとう。ならつけてくれるかしら」
実に
「うん、これで良いわ。似合ってるわよ」
「そう?」
確かに装飾のない中で唯一の装飾である。映える。
「そうよ」
「そう」
「それじゃ行きましょ」
グリフィンドールの談話室で男子二人が来るのを待つ。しかし、約束の時間になっても二人は現れない。
「どうしたのかしら? ハリー?」
ハーマイオニーがハリーを呼ぶ。
「ご、ごめん、ロンが――」
クシャクシャな癖毛をなんとかなでつけようと努力をしたらしいハリーがドレスローブ姿であらわれる。いつもの姿からは想像できないほど紳士のように見えるが、中身がともなわなければ意味がないだろう。
そんな彼はサルビアとハーマイオニーを見て固まってしまった。
「どうしたの?」
「あ、いや、えっと二人がとっても綺麗だったから」
「そう、ありがとう。それよりロンはどうしたのかしら」
「えっと、ドレスローブが」
「ドレスローブ? わかったわ、入らせてもらうけど大丈夫?」
「うん、僕とロンが最後だから」
事情を察したサルビアは、ハリーの脇を通って男子部屋へと入る。すると何かと格闘しているロンがいた。
「何をしているのかしら」
「さ、サルビア」
「まあ、見たらわかるわ。少し待っていなさい」
サルビアはロンから古ぼけたドレスローブをひったくる。それからまじまじとそれを見た。時代遅れの女物のようなヒラヒラのローブ。
どう考えても古着だ。サルビアも貧乏だがロンの家も貧乏である。ただ、1人分で良いサルビアと比べて何人ものドレスローブを用意しなければいけなかったウィーズリー家に余裕などない。
だからロンは古着。代表選手にえらばれると知っていれば何とかしただろうが、どうにもならなかった。手紙で送った時はおばさんは卒倒したとか言っていたのでここまで気が回らなかったようである。
双子曰く、何か贈り物を考えているようで金を貯めているらしいのでこれまで回せる金はなかったようだ。
しかし、これでは困る。サルビアと踊るのである。格闘のあとが見えるのはなんとかしようといた努力の結果だろう。
どうにもなっていないしみすぼらしいままだ。
「まったく。手がかかる」
そう言いながらサルビアはドレスローブに魔法をかけた。簡単な魔法を用いて新品のようなドレスローブへと仕立て直してやる。
「はい、これで良い?」
「あ、ありがとう」
「さっさと着替えなさい。時間が迫っているわ」
そう言ってサルビアはさっさと部屋を出た。
しばらくしてロンがやってくる。髪もなでつけて、サルビアに仕立て直されたローブを着ている。あの古臭いドレスローブを着るよりははるかにましな状態だ。
「馬子にも衣装ね」
「酷いな」
「さあ、行きましょうか。手を取ってくれるのでしょう? ジェントル?」
芝居がかったしぐさで手を差し出してやる。
「えっと?」
しかし、ロンは理解できなかったようだ。後ろでハリーとハーマイオニーが笑っていた。
「……ここは乗ってきなさいよ」
「あ、ごめん!」
慌ててサルビアの手を取るロン。こんなので大丈夫なのか。先が思いやられるサルビアであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
他の代表選手が集まっている扉横へと向かうとどうやらロンとサルビアが最後だったようだ。
「全員集まりましたね。それでは、準備が整うまで皆さんはここで待機していてください」
ロンを確認したいつもと違いドレスを身に纏った淑女なマクゴナガルが、一言で言い切ると大広間へと入っていった。
そのあとロンは代表選手たちを見ている。ふらふらと視線は彷徨ってフラー・デラクールへと向かう。
クィディッチのレイブンクロー・チームのキャプテンのロジャー・デイビースとダンスパーティーにやってきた彼女は率直に言って魔性だ。
男を虜にするヴィーラの血もあるが、何より彼女自身が綺麗なのだ。思春期まっただ中の男子がほだされるのも当然な相手。
「さて、ロン大丈夫かしら?」
「え、あ、え? なにが?」
「見惚れてるところ悪いのだけれど、そろそろ時間よ」
マクゴナガルが大広間から出てくる。
「さあ、準備はいいですか? まずは代表選手たちのダンスからです。良いですね?」
くれぐれも失敗しないようにと言外にロンが言われて、大広間の扉が開く。
それから順番に大広間へと入っていく。
大広間は普段とはその景色が異なっていた。氷と雪の城のような幻想的な空間へと変貌している。生徒が左右に分かれ、その間に出来た道を代表選手たちが進んでいく。
審査員の座るテーブルへと近づき代表選手とそのパートナーも空いている席に座る。近くにいたクラウチがロンに話しかけていた。兄のパーシーが役に立つだとかそんな感じの事を話していた。
テーブルには一人ひとりの前に小さなメニュー表が置かれているのでサルビアはロンを無視してそれを見る。ダンブルドアがメニューに書かれている料理を言うと目の前の皿に料理が現れたので、サルビアも食べたいものを注文していく。
「おいしいわね」
またむかつくことに美味しい料理だ。この手のパーティーは美味いが、今日は尚更気合いが入っているように思える。
そんな料理を食べると良いところでダンスの時間となる。
マクゴナガルの言葉と共に、代表選手たちがステージに上がる。誰も彼もがその煌びやかさに声をあげたものだ。
そんな中、ロンは緊張していた。
「ロン、腰に手を」
「あ、うん」
「落ち着きなさい。無理なときはリードしてあげるわ。だから――」
「い、いや、僕が、ちゃんとリードするよ」
「そう、なら深呼吸して。大丈夫よ」
「わかった」
曲が始まれば、ぎこちないながらもロンは動く。最初こそそうであったが曲が進むにつれて練習のとおりに動けるようになってきた。
サルビアがリードしなくても勝手にリードする。加減などわかっていない為、全然ダメなリードだが見られるくらいには踊れていた。
一曲終われば他の者たちも踊りだす。
皆の中で踊る中、ロンは幸せを感じていた。
「はは」
「なに笑っているのよ」
「え、そう? うん、楽しくて」
「そう」
「サルビアは楽しい?」
「……どうかしらね」
「素直に言えばいいのに」
「誰が素直じゃないのよ」
そんな風に踊りながら言い合う。楽しい時間だった。ロン・ウィーズリーがずっとこのままでいたいと思うほどに。
誰も彼もがダンスパーティーを楽しんでいる。ハリーにハーマイオニー、ダンブルドアにマクゴナガル。ハグリッドにマクシーム。その他大勢が一夜の夢を楽しんでいた。
そんな楽しい時間が過ぎるのは早い。
優雅なダンスミュージックが途切れたかと思えば、とんでもない大音量で大広間中にシャウトが響き渡った。
「イェエエエエエエイ! お上品なダンスに飽きたら、刺激的なダンスもね!」
それぞれが楽器を振り回しながら現れたのは、妖女シスターズの面々だ。楽団の指揮をしていたフリットウィックが放り投げられ、熱狂的な歓声が響く。
今までの優雅なダンスはどこへやら。熱狂的で滅茶苦茶なダンスが始まった。もう何が何だかわけがわからない。
そんな騒音にサルビアは早々に庭へと退散していた。
「何が楽しいのかしらアレ」
「サルビアはそう言うよね」
「やあ、ロン。楽しんでる?」
そこにハリーたちもやってくる。
「うん、まあまあかな。サルビアがあの騒音の中にいられるかって」
「ははサルビアなら言いそう」
「そうね。サルビア、ああいううるさそうなの苦手そうだし」
「うるさいわね」
楽しい夜だった。パーティーが解散するまで疲れ果てるまで踊り続ける。一夜の楽しい楽しいダンスパーティーは、誰も彼もが疲れて寮の部屋で寝るまで続いた――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「服従してもらうねー」
「なん――」
光があれば影がある。
闇が蠢き胎動する。
ダンブルドアですら気が付かぬ闇。なぜならば、暗躍こそが彼の本領。
ダンブルドアの牙城の中で、廃神、日本における神祇省にて役に立たぬとまでされた神のその最上位。
災厄とまで称される第八等廃神が静かに蠢いていく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして、第二の課題当日。
「サルビア、どうしたんだろう?」
ハリーとハーマイオニーはいつまでも来ない友人を観客席で待っていた。ハーマイオニーが言うには部屋にはいないという。
しかし、観客席にもその姿は見えない。
「わからないわ。何かあったのかしら」
サルビアを欠いたまま、試練は始まる。
暗い湖の底で、試練は始まるのだ――。
さあ、第二の試練を始めよう。
パーティーは終わりだ。
これより第二の試練を始める。
それはお前にとっての最悪。
お前自身が失いたくないと思っているもの。
鼠が狼になるか。
それとも鼠のまま死ぬのか。
湖の底で、第二の試練が始まる。
もしもその手を掴みたいのであれば
さあ、逆襲《ヴェンデッタ》を始めよう。
予告風の何か。
というわけで第二の試練開始です。サルビアのおかげで恋愛模様が変わったりしておりますね。
というか病がなくなってからただの美少女になりつつある。なんとかしないといけないと愉悦神様が言っている。
まあ、それは良いとして。
五巻の構想ですが、ハリーが明晰夢見るくらいで特にやることがない。まだ平和が続きそうです。何かネタはないものか。
ヴォルもまだ動かないし、防衛術はナイア先生が続投するしなんて平和なんでしょうね。
その分書くことがあまりない。
ダンブルドアも動いてはいるんですが、如何せん秘密の部屋スルーのおかげで分霊箱を複数作ったという考えに至るフラグが足りない。
さて、お辞儀卿絶対殺すマンのダンブルドアはお辞儀卿を倒すことができるのか。