ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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第52話 オログ=ハイ

 時はハロウィーン。大広間は派手に飾り付けられ、いくつものジャック・オー・ランタンが広間を照らし、テーブルの上にはカボチャを贅沢に使った料理がズラリと並んでいりることだろう。

 しかし、ハリーとロンは女子トイレの前にいた。

 

「ハーマイオニー、おーい。ほら、ロン、早く謝って」

「ごめんよ、そんなつもりで言ったんじゃないんだ」

「そうなんだだから」

「きゃああああああ――」

 

 その瞬間、女子トイレから悲鳴が上がった。間違いなくハーマイオニーのもの。ハリーとロンは顔を見合わせて、女子トイレへと飛び込んだ。

 

「うそ、だろ……」

 

 ロンがそこにいたものを見て絶句している。

 ハリーもまた絶句していた。

 

「なに、こいつ」

 

 そこで見たのは、その身を鎧兜や巨大な剣で武装したトロールだった。だが、トロールにはない知性をその瞳に感じ取る。

 

「オログ=ハイだ、なんで、こんなところにいるんだよぉ」

 

 ロンの震えた涙声が響き渡る。

 

 オログ=ハイ。凶暴な山トロールの上位種であり、本来なら深い山奥に生息しており、人里には出てこない。一説によればトロールを統べるものだとも言われている。

 一年目はただのトロールだったはず。なんでこんなものが? と混乱していると、

 

「落ち着け。たかだか知性が宿って武装をして、武術の心得があるだけだろう。ここにはありとあらゆる可能性があるのだから、こういうこともある」

 

 ヘルがそう言ってハリーの肩を叩く。

 

「無理なようなら私がどうにかしてやっても良いが」

「良いよ、僕がやる」

 

 友達が目の前で襲われている。なら助けにいかないといけない。ハリー・ポッターは、相手がなんだろうと助けに行く。

 一年生の時の自分に出来て今の自分に出来なはずなどないのだから。

 

 壁を突き破り侵入してきたそいつに対して、ハリーは駆けだした。そこに夢は使用しない。なぜならばハリーは夢を同時に使うことなどできない。

 一つの夢を使うのが今は精一杯。ゆえに、ハリーはここでは夢を使わなかった。使う夢は決めている。

 

 解法。夢を解く夢。その中でも破壊の為の崩。

 

 恐ろしい。けれど、友達がピンチだ。ならば行かない理由などなかった。ロンがハリーを止める声が響く。

 それに大丈夫だと言ってやって、ハリーは夢を杖へと装填する。

 

 使用する呪文は、射撃呪文(フリペンド)。単純なエネルギーを飛ばすだけの呪文。攻撃性がある射撃呪文である。

 それに対して解法を使用すればどうなるか。答えは単純な威力の向上として現れる。それだけでなく直撃したものを破壊するという結果をもたらした。

 

 直撃したのは鎧。鋼鉄の鎧がただのフリペンドの呪文で砕け散る。

 

「ロン!!」

 

 そして、ハリーは叫ぶ。

 

「今すぐ、ハーマイオニーを連れて逃げるんだ!」

「む、無理だよ」

「やるんだ! 僕がこいつを足止めしておくから」

「だ、だって」

「君ならやれるはずだよ。だって君はドラゴンにだって立ち向かえるんだから!」

「――……わかった」

 

 ロンは頷いた。なぜだかわからない。けれど、ハリーの言葉は強く誰よりもそれを信じているようだった。だったら、負けていられない。

 

「ハーマイオニー!!」

 

 ロンはオログ=ハイの横を走って抜けようとかけていく。当然、通さない。

 

「やらせるか!」

 

 更にもう一度フリペンドを放つ。強靭な肉体を持つオログ=ハイの皮膚を普通の呪文では抜けないだろう。だが、解法の崩を用いた呪文ならば届く。

 

『GUOOOOOOO――』

「流石だよ、ロン」

 

 迷わず走って行った。ハリーもまた負けられないとオログ=ハイの前に立っている。相手は完全にハリーを敵と認識した。

 鎧が壊された、腕に傷を受けた。だが、未だ身体は動く。であれば、ハリーを叩き潰さんとその武器を振るう。それは巨大な剣。

 

 オログ=ハイの動きはトロールというある種鈍重であるという固定概念を打ち砕くほどに俊敏であった。

 それも当然だろう。彼ははその名の通りトロールの上位種。その体型が最も理想として生まれた。であれば、その速度が鈍重であるわけなどないのだ。

 

 咄嗟にハリーは夢を行使する。身体能力を強化する夢。戟法と呼ばれる夢で、パワー型の(ごう)とスピード型の(じん)のうち迅を使用し自らの速度をあげてオログ=ハイの攻撃を躱す。

 躱し方も戦い方もナイア先生から習っている。

 

「エクスペリアームス!!」

 

 使用するのは単純な魔法。武装解除。直撃した呪文はその魔法としての魔法(リフジン)の結果を出力する。すなわち、武装解除の名の通り剣が吹き飛び壁へと突き刺さる。

 オログ=ハイは、それでも向かってくる。武器を失った。だからどうしたと言わんばかりに向かってくる。それだけで人間の脅威になることを彼は知っているのだ。

 

 それだけにハリーは明確に感じとった。死という感覚を。莫大な圧力。死の圧力が降り注ぐ。明確な死。死。死。死。

 緑に彩られた死。恐ろしい。怖い。誰かの悲鳴が頭に響く。それでも、確かなものがある。

 

 逃げたら、ハーマイオニーとロンが危ない。それにヘルよりは怖くない。

 

「それに怖いからって、逃げられないんだ」

 

 死は恐ろしいものだ。ヘルがそう言っていた。だからと言って目を背けてはいけない。人はいつか必ず死ぬ。どんな存在だっていつかは必ず死んでしまう。

 だから目を背けずにただ精一杯、胸を張って生きる。いつかやってくる死を恐れず、堂々と向き合って今を笑えるように。

 

「ハリー!!」

「ハリー逃げて!!」

 

 ロンとハーマイオニーの声が聞こえる。突っ込んでくるオログ=ハイは恐ろしい。怖い。

 でも、友達がいるんだ。夢かもしれないだなんてことはハリーの頭の中から抜け落ちている。今あるのは友達を助けるということだけ。

 

「インペディメンタ!!」

 

 呪文を受けたオログ=ハイの動きが停滞する。

 

「スポンジファイ!!」

 

 衰え呪文によってオログ=ハイの筋力が衰えていく。

 

「ステューピファイ!!!」

 

 夢を飛ばす夢、咒法の射によって強化された失神呪文が自在に飛翔しオログ=ハイの瞳を貫く。衰え呪文によって衰えたオログ=ハイはその呪文に耐えられない。

 前のめりハリーの前に倒れ伏す。11歳の少年によってトロールの上位種が倒された瞬間だった。

 

 それと同時にマクゴナガル先生たちが女子トイレになだれ込んで来た。破壊された女子トイレ、倒れ伏すオログ=ハイの前に立つ杖を抜いたハリー。それに近づいているロンとハーマイオニー。

 さて、ここから連想されることはなんでしょう。あまり多くはない。むしろ少ない。少なくとも、信じられないだろうがこの光景を見て無事な三人と倒れているオログ=ハイを見れば真実に辿り着くのは簡単だ。

 

「一体全体、どういうおつもりですかッ!」

 

 マクゴナガルの第一声がこれだった。少なくとも褒められることはないだろうと思っていたので、ハリーからしたら想像通りなのだが、露骨にびくりとするのはロンとハーマイオニーだ。まさかこんな剣幕にさらされるとは思ってもいなかったらしい。

 

「野生のオログ=ハイと逃げずに対決するなど正気の沙汰ではありません。殺されなかっただけ運が良かったのですよ!」

「あ、いえ、あの、トイレにいたらいきなり襲ってきて。彼らがいなかったら、私死んでました」

「なぜ、トイレにいたのですミス・グレンジャー、今日はハロウィーンパーティーですよ」

 

 ハーマイオニーにマクゴナガル先生の剣幕が向く。震える手でロンが手をあげる。

 

「あ、あの、ぼ、僕が悪いんです。僕がハーマイオニーに悪口を言って、泣かせてしまったから。それで謝りに来たら悲鳴が聞こえて慌てて飛び込んだんです。ハリーがいなかったら僕も死んでました」

「ミスター・ウィーズリー。レディに涙させるなど紳士としてあるまじき行為です。それが彼女を危険にさらしました。グリフィンドールから十点減点です。今後は、紳士としての己を忘れてはいけませんよ。さて、ミスター・ポッター。見るからにあなたがこれを一人でやったのですか?」

 

 マクゴナガル先生が場を見ながら言った。入ってきたときの状況からしてハリーが戦っていたのは間違いない。それを問う。

 

「えっと、はい」

 

 ハリーは嘘をつくことなくそう言った。先生に嘘をついてもすぐにバレるだろうし、この剣幕の中で嘘をつけるならそいつは人間じゃないだろう。

 

「優秀だとは思っていましたが、これほどとは。しかし、あまりに軽率です。更に十点減点です」

「すみません、先生。でも、友達が危ない時に何もしないなんて僕にはできません」

「……まったく。しかし、野生のオログ=ハイを相手にして無傷で倒せる一年生などいないでしょう。この様子を見るに見事な魔法だったようです。それに対して五十点、グリフィンドールに差し上げましょう。ですが、これで調子に乗って危険に自ら飛び込むようなことをしないように良いですね。三人ともですよ」

「「「はい、マクゴナガル先生」」」

「よろしい。では、寮に戻る前に、マダム・ポンフリーのところで怪我がないか調べてチョコレートをもらってから寮にお戻りなさい。良いですね? さあ、お行きなさい」

 

 言われた通りマダム・ポンフリーの所に行って怪我がないかを確かめて三人で寮に戻る。

 

「ハリー、君ってすごいね」

「ロンこそ」

「僕なんて、君に言われてなかった何もできなかったよ」

「いいえ、二人とも凄いわ。私なんて叫んでることしかできなかったもの」

「……ハーマイオニー、ごめんよ。あんなこと言ってさ」

「良いのよ。だって、助けに来てくれたんですもの。2人ともかっこよかったわよ」

 

 三人で笑いあう。また友達になれた。ここにサルビアがいないことに、ハリーは寂しさを感じた。

 それから、ふとロンが疑問を口にする。

 

「それにしてもなんでこんなところにオログ=ハイなんて入ってきたんだろう」

 

 オログ=ハイは山奥のトロールの集落に生息している。滅多な事では人里には出てこないとロンは言う。だから、こんなところに入り込むのはおかしい。

 誰かが連れてきたのではないかという話になる。

 

「たぶんクィレルだよ」

「でも、おかしいわ。どうしてホグワーツの教員がそんな危険な生物を校内に引き込むの?」

「そうだぜハリー。あのクィレル、さっきオログ=ハイが先生たちに縛られて気絶しているのにびびって気絶してたぜ?」

「この前、三頭犬を見たの覚えてる?」

 

 階段が動いたせいで、ロンがこっちだと言ってハリーとハーマイオニーが止める間もなく廊下を突き進み。フィルチの猫のおかげでまた三頭犬がいる部屋に突っ込む羽目になったのだ。

 あんな衝撃な体験そうそう忘れられるわけがないので、ロンもハーマイオニーも頷く。

 

「ハグリッドはグリンゴッツの金庫から何かを出してきた。学校の用事で中身は秘密だって。それをクィレルが狙っているんだよ」

「あの三頭犬が守っているのはそれってことね。そうだとしてもなんで狙うの?」

「…………」

 

 ハリーは考える。このまま話て信じてくれるだろうかと。

 

「話さんのか? 親友とは包み隠さず互いのことを話すほどの間柄なのだろう。おまえにとって彼らは親友なのだろう。ならば話してみたらどうだ」

「……そうだね」

 

 ハリーは話すことを決めた。ロンとハーマイオニーならきっと信じてくれると信じて。

 

「賢者の石があるからだよ」

「賢者の石?」

 

 なにそれ? とロンはハテナマークをあげる。

 

「賢者の石、賢者の石、賢者の石……。思い出したわ! 恐るべき力を秘めた伝説の物体で、いかなる金属をも黄金に変え、命の水を生み出す。これを飲めば不老不死となる。そう言われてる石よ」

「不老不死?」

「死なないってことだよロン」

「それくらい知ってるよ! そうじゃなくて、なんでクィレルが不老不死になる石なんて欲しがるんだってこと」

「クィレルはターバンの下にヴォル――例のあの人を宿してるんだ」

「ウソ……」

「まじ?」

「ああ、僕の額の傷がクィレルを見た時傷んだんだ。だから、なんとなくわかったって感じなんだけど。きっと彼を復活させようとしてるんだ」

 

 嘘は言っていない。現実ではスネイプを見て痛くなったと思っていたけれど、よくよく考えればクィレルがいたからなんだと今では思っている。

 

「信じられないよね、こんな話」

「……にわかには信じられないけど、ハリー、私信じるわ。あなたが嘘を言うとは思えないし。こんな嘘を言って人を騙す人が私をあんなに一生懸命助けてくれるとは思えないもの」

「ぼ、僕も。こんな嘘言っても意味ないしね」

「ありがとう、二人とも」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「サルビアあああああああ」

「いい加減離して!!」

 

 ようやくホグワーツに行ける日。ようやく離れられるというのに、腰に抱き着いてくるな。

 ふくろうを買ってくれたことだけは評価してやるが、それ以外で触るな気持ち悪いんだよ。

 

「あらあら、仲がいいのねぇ」

「うおおお、一年も会えないんだぞ」

「もう、あなた、いい加減サルビア離れしないと。これからサルビアは大人になって行くんですよ? いつかは私たちの下からも羽ばたいていくんですから」

「でもおおおおおおお」

「離せえええええ――」

 

 今日もリラータ家は平和です。

 




トロール戦が意外にもながくなったのでもう一話。次こそは賢者の石編終了して秘密の部屋編へ。
現実の描写も次回に回そう、そうしよう。

トロールが上位種に変化。トールキンですねはい。
邯鄲の夢補正があるので、その分レベルアップしている敵たち。原作通りと言ったなあれは嘘だ。
同じことやっても邯鄲ハリーなら余裕ですので多少はレベルをあげてます。
三千体のバジリスクとか出そうかな。

トム「一匹? いいや、三千体だ――」

あかん……。

ではでは。

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