ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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第54話 二年目

 ハリーは夢を見る。

 それはまた新たな始まり。

 

 ハリーはダーズリー一家にて新しい部屋を手に入れていた。理由は単純。昨年度の終わりにハリーはダドリーを脅した。そのおかげで、ダーズリー一家はハリーの機嫌を損なわないようにしているというわけだ。

 現在はそこへ向かっている。階段を静かにゆっくりと幽霊の用に昇っている最中だ。そして、部屋の前で、立ち止まる。

 

 扉を開ければ誰もいない部屋だ。手紙はない。今日は12歳の誕生日だというのに。

 

「…………」

「どうした寂しそうだな」

「うん、手紙が来ないんだ」

 

 ロンとハーマイオニーに出した手紙が来ない。ハーマイオニーには電話もかけてみたが通話中で通じなかったのだ。

 何かあったのだろうか。現実とは違う展開。ここからが本番なのだろうとヘルは言う。

 

 夢であろうとロンとハーマイオニーは大切な友達だ。例え夢であろうと2人になにかあったのではないかと不安になる。

 

「ふむ、おまえは友人に見捨てられたのではないかと不安なわけか」

「違うよ。何かあったんじゃないかって思って」

 

 三人の絆は本物だった。たとえ一年だけの短い付き合いでも、夏の間に切れてしまうほど脆くはない。そう信じている。

 

「しかし、おまえには今、それよりも心配するべきことがあるだろう」

 

 穴あけドリルの製造会社「グランニングズ社」の社長であるバーノン叔父さんは現在、本人いわく超重要なお仕事の真っ最中なのだ。

 どこかの金持ちの建築業者――メイソン夫妻が現在やってきているわけなのだ。ハリーの役割というのは単純明快。何もせずいないフリ。

 

 だからこうやって部屋にやってきたわけなのだが――、

 そこにいたのはハリーが今まで一度も見た事がないとっても小柄な生き物だった。いや、どういう生物かだけは一度ハーマイオニーに耳にタコができるくらい聞かされたことがある。

 

 屋敷しもべ妖精だ。小さく醜い人型の魔法生物。茶色い顔にテニスボールくらいの大きな目が二つついている。顔が割れて見えるほどに大きな口があって、コウモリのような長い耳が揺れている。

 細く短い手足に長い指をしているそんな彼らは特定の魔法使いを自身の主人として、その主人や家族に一生涯仕え、日常の家事や雑用などの労働奉仕を行うのだ。

 

 そんな屋敷しもべ妖精は甲高い声で、

 

「ハリー・ポッター!」

 

 と叫びかと見まがうような声を出す。

 

「ちょ、やめてよ」

 

 下まで聞こえたに違いないとハリーは危惧する。そうなればバーノン叔父さんがどうなるか予測できたからだ。しかし屋敷しもべ妖精はまったく気にしたようすなどなく、謝ることすらせずハリーに、

 

「ドビーめはずっとあなた様にお目にかかりたかった。とっても光栄です」

 

 そう言った。

 

「そ、そうなんだ。君は、何をしに来たんだい?」

「ドビーめは。ハリー・ポッター。あなたに警告をしに参りました」

「……警告?」

 

 予想外の言葉だった。なにかの使いかと思えば、警告。何を言われるのかハリーには想像ができない。警告と言われても誰かに何かされるような覚えは、あるが、こんなマグルの所に堂々と攻めて来られるような奴の心当たりはない。

 ヴォルデモートは撃退した。ゆえに、復活して出てくるなどありえないだろう。

 

「そうです、ハリー・ポッター。あなたはホグワーツに戻ってはいけません。あそこは危険です」

「何が危険なんだい」

「…………」

 

 しかしドビーは黙り込む。

 

「言えないのかい?」

「申し訳ございませんハリー・ポッター。それは言えないのです。こうして私がここに来ていること自体いけないことだというのに」

 

 そう言うと、ドビーは立ち上がり、

 

「ドビーは悪い子! トビーは悪い子!!」

 

 突然、自分の頭を壁に打ち付け始めた。

 

「や、やめて! 静かにして。どうしたんだ」

「ドビーは自分で自分を叱らねばならないのです」

「やめてよ。今は、お願いだから」

「……はい。ですが、ハリー・ポッター。あなたは偉大なお方」

「偉大? 僕が?」

 

 そう言われるのは確かに嬉しい。でも、僕のどこが偉大なのだろうかとハリーは思う。サルビアに勝っているところは一つもないというのに。

 偉大というのなら彼女の方が偉大なのだ。

 

「いえ、いいえ。あなたは偉大なお方です。ハリー・ポッターは謙虚で威張らない方で名前を呼んではいけないあの人に勝った事をおっしゃらない。

 ハリー・ポッターは勇猛果敢! もう何度も危機を切り抜けていらっしゃった! それでもドビーはハリー・ポッターは学校に戻ってはならないというのでございます」

「どうして。ドビー、言ってくれなくちゃわからないよ」

「ハリー・ポッターは偉大なお方失うわけには参りません。だから安全な場所にいないといけない。ホグワーツに戻れば死ぬほど危険な目に遭うでしょう。危険な罠が仕掛けられているのです」

「世にも恐ろしい事って? 誰がそんな罠を?」

 

 ハリーがそう訊くとドビーは喉を絞められるような奇妙な声を上げ壁に頭を打ちつけ始める。慌てて止める。

 

「わかった、わかったから静かにしてくれ」

 

 ハリーは考える。

 罠とはなんだろうか。最も危険な罠。危険。頭に浮かぶのはヴォルデモート。しかし、彼は今、動けないはずだ。ならば別の誰かが何かを起こそうとしているのではないだろうか。

 

「さて、最有力候補はヴォルデモートとかいう奴だったか。しかし、それは昨年おまえが倒した。つまり、今回は奴の仕業ではないということだ。あまり時間もないし、その騒がしいのを騒がしいままにするのはおまえの為にならんだろうから、さっさと結論を出してしまうとしよう。おまえが思う中で、おまえに害をなしそうな奴はいるか」

「…………」

 

 ヴォルデモート以外でという条件をつけると、一番最初に浮かぶのはマルフォイだった。

 

「ふむ、あの少年か。しかし、あの少年がおまえを危機に陥れるのは不可能だろう。控え目に言ってあれは全然だめだからな」

「…………」

 

 何があるにしても、とにかく警戒はしておく必要があるだろう。今のままではどうやったって真相はわかるはずなどないのだから。

 

「ハリー・ポッター?」

「ああ、うん、聞いてるよ。でも、どんなに危険があったって、僕は帰らなくちゃいけないんだ。僕が危険にさらされるのは良い。でも、友達がいるんだよ」

「ああ、なんと偉大なお方。御自分のことだけでなくご友人のことも心配なさるとは。だからこそ、そんなあなただからこそ、ドビーめはあなた様への手紙をとめてでも、あなたをホグワーツに戻りたくないと思わせようとしたのでございます」

「なんだって?」

 

 こいつは今何を言った? 僕への手紙を止めた?

 

「君が、僕への手紙をとめてたの?」

「はいドビーめはここに持っております」

 

 ハリーの手の届かない位置へとするりと移動したドビーは着ている枕カバーの中から手紙の束を引っ張り出した。それは確かにハリー宛の手紙だった。ロンやハーマイオニーからの。

 

「ご友人に忘れられたと思えばホグワーツに戻りたくなくなるかと思ったのです」

「……返して、それは僕の手紙だ」

 

 寸前で怒りをこらえる。なぜならば、

 

「ホグワーツに戻らないと約束してくださればお返しします」

「返せよ!」

「ハリー・ポッター。それではドビーはこうする他ありません」

 

 そう言って扉をあけ放ちドビーが廊下に出ようとした瞬間――

 

「――――」

 

 ヘルの拳がドビーへと突き刺さった。

 

「ふむ、ハリーでは殴れんだろうから代わりに殴っておいた。この手合いは話を聞かない上に、このままいかせてはハリーにとって最悪だろうからな。誰でも怒られるのはいやだろう。なに、安心しろ夢は使っていないし、軽く殴った。ん? おい、ちょっと待て、ハリー何を引いている」

「あ、いや、えっと」

 

 ドビーは廊下から一気に部屋の中に戻った。そして、絨毯の上でびくんびくんしている。なんというか、一瞬で怒りが冷めたほどだ。あれを見たら怒る気にはなれない。

 あれで軽く? 本当に女の人なのだろうか。なんかありえない音が出ていた気がする。ズゴンとか。そんな感じの。

 

「おい、待て目を背けるな。軽くだ。ほら、軽く。力もさほど入れていないし、夢も使っていない」

 

 そういって軽く腕を振るのだが、凄い風切音が鳴っている。風圧、というか拳圧が凄まじい。暴風じゃないかと思うほどだ。

 そして、その轟音は一階に聞こえているわけで。

 

「ダドリーがテレビをつけっぱなしにしたようですな。しようがないやんちゃ坊主で!」

 

 そんなバーノン叔父さんの大声が聞こえてきた。ハリーは慌てて扉を閉めてベッドの下にドビーを押し込んだ。

 それと同時にバーノン叔父さんが部屋に入ってくる。

 

「お前はいったい何をしているんだ!!」

「な、なにも。さっき、屋根で猫が喧嘩してたんだ」

「良いな、とにかく静かにしていろ。ちょっとでも音を出してみろ、ちょっとでも。二度と部屋から出さんからな!!」

 

 そう小声で叫ぶという無駄なすご技を発揮してバーノン叔父さんは部屋を出て行った。階段を下りて行ったのを確認してハリーはドビーをベッド下から引きずり出す。

 気絶しているようなので手紙を回収して洋服ダンスの中に入れておく。

 

「白目剥いちゃってる」

「私は、軽く殴ったんだ」

 

 彼女の中の軽くが全然軽くないことが判明した瞬間だった。

 

「とりあえず、どうしよう」

「気絶しているのならそこらに捨ててきたらどうだ?」

「それは」

 

 流石に酷いような気がする。確かに手紙をとめられたのは最悪だけれど、それでもその根本はハリーを思ってのことなのだ。

 

「とりあえず、起きるまで待とう。それまでにはきっとお客さんも帰っているよ」

 

 結果、その通りになった。ドビーはまったく起きる気配はなく、メイソン夫妻が帰ったのとほとんど同時にドビーは目を覚ました。

 しかも都合が良いことに、どうやら商談がまとまったらしく、ダーズリー一家は一家総出でメイソン夫妻を見送りに行ったらしい。

 

 なぜだか、メイソン夫妻の車がパンクしていたのだ。だから、ダーズリー一家はこれ幸いとばかりに彼らを見送りに行った。

 好都合極まりないが、ありがたいことではあった。しばらくは騒いでも問題ないのだ。

 

「ドビーめはいったい」

「やあ、起きたかい?」

「ハリー・ポッター! 手紙がない!?」

「手紙は返してもらったよ」

「そんな、ハリー・ポッター、危険なのです。ホグワーツに戻っては」

「わかってるよ。たぶん、きっと死ぬかもしれないほど危険なんだと思う」

「では……」

「でも、それでも僕は戻らないと」

 

 ハリーは言い切った。断固として。

 

「そうですか」

 

 ならばここではドビーにすることはない。家の住人はどこかへ言っている。彼らに対して何かを働きかけることはできない。

 家を汚すことは他人の家とはいえど屋敷しもべ妖精としてのプライドが許さない。それにもう遅い時間だ。これ以上時間をかけてしまえば主人に何を言われるかわからない。

 

「ハリー・ポッター、ドビーめは諦めません。あなたを守る」

 

 そう言ってドビーは指を鳴らす。すると彼の姿は音と共に消え失せた。

 

 それからハリーは手紙を見る。そこには泊まりにおいでよという内容の手紙がダース単位であった。全てロンからの手紙だ。

 ハリーはすぐに泊まりたい、迎えに来てほしいという手紙を書いて、解法の崩を用いヘドウィグの籠の鍵を壊して外へと出す。

 

「すぐに手紙を届けてほしいんだ」

 

 了解というようにヘドウィグが一鳴きする。手紙を加えるとヘドウィグは夜空へと飛び出して行った。

 数日後、返事は来ない。ちゃんと届いただろうか? そう思っているとダーズリー家のチャイムが鳴らされる。

 

「誰だ、休みの日に」

 

 バーノン叔父さんが扉を開けると、

 

「どうも、こちらにハリー・ポッターという子はいるかな?」

 

 そう見知らぬ男がそう言った。よれたスーツのようなものを着ては言るがどこかうさんくさいとバーノン叔父さんは感じたようだった。

 

「そんな奴はいない。誰だお前は」

「ああ、私はアーサー・ウィーズリー。あー、ハリー・ポッター君の御学友の父です。ずっと挨拶に参りたいと思っていたんですよ。お噂はかねがね。やり手なんですってね。いや、実に羨ましい」

 

 そういう褒め言葉を聞いて、バーノン叔父さんは露骨にいい気分になる。褒められて悪い気はしないだろう。しかし、ハリーの学友ということはまのつくアレであるということに気が付いた。

 

「おい、出ていけ。うちに入るなよ」

「いえいえ、そういうわけにはいかないのですよ。うちの息子がそちらのハリー・ポッター君と約束をしていましてね。どうでしょう? うちに泊まりに来るということになっているのですが。約束を破りますと、あー、ちょっと大変なことになります」

 

 大変な事と聞いて顔を青ざめさせたり、紅くしたりと忙しいバーノン叔父さん。

 

「どうです? 食費も全てうちでもちますし、夏休みの残りの間だけで良いのです」

「あいつは――」

 

 バーノン叔父さんが何か言おうとしたとき、

 

「良いじゃないですかバーノン」

「ペチュニア、なんで」

「周りの噂ですよ。近所に言われるんです。眼鏡のお子さん、友達はいないのかって? 家からあまり出ませんし」

「む」

 

 ほのかに悪い噂があるとペチュニア叔母さんに聞かされて、バーノン叔父さんは少しだけ思案する。

 

「ほら、どうやら車で来ているようですし、ここは送り出してあげた方がご近所さんにとっては良い噂になりますし。なにより、うるさいのがいなくなりますよ」

「それもそうか。おい、ハリー・ポッター!」

 

 ハリーは呼ばれて部屋から出ていくと、玄関に見知らぬ男の人がいた。長身で細身の赤毛の男の人だ。どことなくロンに似ているような気がしないでもない。

 

「お前の客だ。さっさと準備をして出ていけ」

「え?」

「やあやあ、ハリー。僕はアーサー・ウィーズリー。ロンの父親だよ」

「ロンの?」

「君をむかえに来た。さあ、行こう」

 

 そう言って彼は表の車を指さす。ロンが手を振っていた。

 ひそかに準備をしていたので特に時間もかからずハリーは荷物をウィーズリーおじさんの車に詰め込むことが出来た。

 

「忘れ物はないかい?」

「はい」

「良し、じゃあ行こう!」

 

 車は走りだす。

 

「ハリー、大丈夫だった?」

 

 車が走り出してからロンがそう言った。

 

「うん、なんとかね」

「僕、またあいつらが君に手紙を渡してないんだと思ってた」

「違うよ。ちょっとね。それよりもこの車、どうしたの?」

「パパのさ。マグルっぽくしてみた方がいいと思って。でも、とってもすごいんだ」

「すごい?」

 

 その答えは誰もいない郊外に出た時にわかった。

 車が浮かび上がったのだ。

 

「すごい」

 

 箒で空を飛ぶとはまた違う感覚だった。

 

「私が魔法をかけたんだ」

 

 ウィーズリーおじさんはそう言う。

 

「さあ、うちはすぐだよ」

 

 すぐと言いつつ数時間は走り続け日が暮れる頃ようやくハリーたちはウィーズリー家に辿り着いた。

 南部海岸沿いのオッタリー・セント・キャッチポール村から少しだけ離れた場所にある隠れ穴。それがロンたち家族の家だった。

 

 




秘密の部屋編開始。
ドビーは、わりと好きなキャラですが、どうしてこう私の小説だと酷い目に遭うのか。あ、好きなキャラだからだ。これもまた我が愛です。

さて、二年目は、本作でやれなかったところを描写しつつ、現実も描写しつつということでかなり長いことになりそうな予感。
七巻の内容一巻、二話くらいでいけるかなと思っていた過去の私を殴りたい。
さて、五年目はいったいどれだけの話数になるのやら。

まあ、好き勝手やらせていただきます。
ではまた次回。

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