ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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第62話 第一試練・夢

 三年目。夢においての三年目は、現実とは大きな違いはさほどない。いや、あった。何者かによるホグワーツ襲撃がなかった。

 あとはマルフォイが余計なことをしてバックビークを処刑しようとした。

 それから、シリウス・ブラックが無実で、本当はロンのネズミのスキャバーズ――ピーター・ペディグリューが犯人だったということ。シリウスがハリーの名付け親だということを知った。

 

「ねえ、ヘル。なんとか、ならなかったのかな」

 

 ハーマイオニーの逆転時計を使ってバックビークとともにシリウスを逃がした。

 飛び去っていく彼を見ながら、ハリーはヘルへと話しかけていた。

 

「さて、何が正しいのかはわからないが、おまえは今日失われるはずだった二つの命を救った。これは事実だ。ハリー、おまえは命を救ったんだ。彼らが生きて、素晴らしい時を生きる時間を作った。私は、誇っても良いと思う」

「うん、そうだね」

 

 シリウスとバックビークの命を救えた。夢だけど、大切なことを知れた三年目だったといえた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 その日は、ホグズミードへと皆が出かけていた。フクロウ試験に向けての勉強の一時の疲れを癒やすために許可がある生徒はみなホグズミードへと向かっていた。

 サルビアは相変わらず居残り組である。

 

「…………」

「…………」

 

 寒さがやってきたホグワーツ。サルビアは暖炉の隣といういつものぬくぬくポイントに居座っていると隣にハリーが座ってきた。

 この数か月で、彼は何かが変わったかのようである。まるで数年、年齢が先行でもしているんじゃないかと思うほどだ。

 

「なに」

「なんでもないよ。ちょっとね」

「そう」

 

 最近、ハリーはサルビアの隣に来ることが多い。過剰なほどだ。うっとうしくてかなわないが今考えるべきことはない。

 至上命題はすでに解消してしまっている。この隣にいるハリーとかいう塵を守る限りダンブルドアは何もしてこない。

 そうつまるところ、目的が今のところないのである。ふくろう試験など何もしなくても問題ない。サルビア・リラータが普通レベルの魔法使い試験で躓くなどありえないのだ。

 

 ただし、相変わらず眠りたくない日々だ。眠ればうっとうしい何かがやってくるのだ。入れ代わり立ち替わり、何かがやってくる。

 

「…………」

「どこいくの?」

「別に、散歩よ」

「……わかった」

 

 前ならついてくるとか言っただろうが、ハリーはそういわなかった。これも大きな変化といえる。

 

 サルビアが向かったのは必要の部屋だ。

 

「おい、セージ」

 

 呼べはすぐにバジリスクのセージはやってくる。

 

「何かあったか――そうか」

 

 何もない。今年もホグワーツは平和だという。

 

「サルビア」

「なんの用だ、ダンブルドア」

「もはや隠しもせんのぅ」

 

 必要の部屋の中にダンブルドアが立っていた。

 

「まさかまだバジリスクが生き残っておったとはのう」

 

 ちらりとセージを見てすぐに視線を逸らすダンブルドア。セージは警戒するようにダンブルドアを睨み付けている。

 

「不本意だけど私のペットよ」

「生徒のペットであれば、何もできんのぅ」

「白々しい、目的を話しなさいよ」

「そうじゃ。先日、夢を見てのぅ」

「世間話ならよそでしなさい」

「これこれ、話は最後まで聞かんか。どうにもなヴォルデモートが何かをしておるようなのじゃ」

 

 それがどうしたとサルビアは思う。ヴォルデモート如きがサルビア・リラータに及ぶわけもない。足りないものなどないのだから。

 

「それで、何が言いたい」

「ヴォルデモート卿がどこにおるか探り、それを滅ぼすことなどサルビアには容易かろう」

「ふん、くだらない挑発だな。良いだろう。ヴォルデモート、私が滅ぼしてやる。だが、その暁には、わかっているな」

「ああ、わしの命でもなんでもくれてやるわ。本当にヴォルデモートが滅ぼせたのであればな」

「出来ないはずがないだろう。このサルビア・リラータに。私に足りないものなどないのだから」

 

 そして、この日、サルビア・リラータはホグワーツから姿を消した――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 四年目。大きな違いは石神静摩という人間がいないということと、ハリーが代表選手に選ばれたことだった。まさか自分が選ばれるなどとは思いもせずに

 

 試練の日。第一の試練がドラゴンであることは、代表選手の間では周知の事実だ。

 昨夜あの場に一人連れて来られなかったセドリックにもそれとなく伝えられている。

 試練ではライバルとはいえどホグワーツの代表である。彼が一方的に不利なることはハリーも望まない。ロンがそうであったように。

 

 そんなことよりも酷いことがある。

 杖調べの日に行われたリータ・スキーターによる代表選手の取材の記事だ。その記事は取材を行った四日後に発行された。

 

 内容はとにかく酷い。そうとしか言いようがないようなものであった。無論、記事に関して何も嘘は言っていない。

 ある意味では聞いたことを聞いたまま載せていると言っても過言ではない。ただその規模が遥かに巨大になっているだけである。

 

 彼女の記事はとにかく巨大だった。嘘はついていない。ただし、巨大に誇張している。

 どれほど些細なことであろうともそれが主張の主題、彼の本心であると巧みに記事にしてみせたのだ。

 

 代表選手全員にそれが当てはまるが、特にハリーを出汁にしてダンブルドアやバグマン、クラウチなどの審査員にして企画者たちへの攻撃が記事の九割九分九厘を閉めていた。

 一人だけ下級生であり、ハリーが迂闊にもできることなら参加したかったという発言を利用してあることないこと書いて、そこからダンブルドアへの責任の追及へ。

 責任問題を全ての者に広げてから、まったく別の話題を巧みに混ぜてダンブルドアを絶妙に批評。そこで自分の著書を宣伝することも忘れないマスゴミの鑑だった。

 

 何とかするには見返すしかないだろう。やる気は十分だ。ロンがやった。なら自分もと。

 

「ふぅ」

 

 それでも緊張に押しつぶされそうだった。緊張を紛らわせようと周りを見ている。

 フラー・デラクールは『魅了呪文』がうまく目に当たりますようにとぶつぶつ祈っており、クラムは腕を組んで目を閉じていて、セドリックは杖の確認をしていた。

 

 皆がそれぞれのことに集中しているのを見て、ハリーはより若干焦る。うまくいくとは思っているが、どうなるかはわからないのだ。

 

「ハリー、いる?」

「大丈夫?」

 

 そんな時だ、背後から声がする。ここはテントだ。誰かが外で名前を呼んだ。

 テントの隙間からはロンとハーマイオニーの姿があった。

 

「ロン、ハーマイオニー」

「心配で見に来たの、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ」

 

 心配そうなハーマイオニーに向けて気丈に答えてみるが、顔色も微妙に悪く大丈夫には見えない。

 ハーマイオニーは、それに何かを言いかけて、

 

「ハリー、頑張ってくれよな。ドラゴンになんて、負けるな」

「ああ」

 

 ハリーはロンと二人でドラゴンを見に行った。あの時と同じに。

 いつの間にか脚の震えは止まっている。きっとやれる。やるだけのことはやった。友達が見てくれている。ならきっと大丈夫だ。

 

「素敵ざんすわ」

 

 その瞬間、冷や水がかけられた。

 そこにいたのは、リータ・スキーター。

 

 その登場に三人は表情を険しくする。彼女の本性、彼女がやったこと。それは余さず知っている。

 だからこそ、この場で一番見たくなかった女だ。

 

「帰れよ!」

「あらん……別にいいざんしょ、誰もが知りたいことを広めること。それこそがあたくしの使命ザマス。だから、色々と取材させて――」

 

 そう言おうとした瞬間、圧力がリータ・スキーターを襲う。

 目の前にいつの間にかビクトール・クラムが立っている。鍛えられた体躯はリータ・スキーターを見下ろしている。

 

 怒りという名の圧力が彼女を襲う。

 

「ここヴぁ選手関係者以外、立ち入り禁止のはずだ。友達は例外だがな。出ていけ。不愉快だ」

 

 鋼の肉体には鋼の精神が宿る。圧倒的なまでの覇気。

 しかし、それをうけてなおリータ・スキーターは不敵な笑みを浮かべている。学生にはやられないそんな大人としての自負だろうか。

 

 それも良いだろう。だが、

 

「ダンブルドアを呼ぶぞ」

「――チッ」

 

 クラムの言葉にリータ・スキーターは露骨に舌打ちした。

 ダンブルドアにバレるとまずいのだろう。彼ならば、子供の心を護るためという理由で一切の取材を認めず出入り禁止を言い渡すことくらいやる。

 

 それは彼女の望むところではない。彼女は引き際を知っている。肩をすくめて、彼女は退散した。

 それと入れ違いにやってきたのは、ダンブルドアとクラウチだ。

 

「選手諸君。競技内容を発表する」

 

 ダンブルドアがそう宣言する。ハリーとハーマイオニーの存在は黙認するようだった。

 

「選手諸君らには、まずこの袋の中にあるミニチュア模型を手に取ってもらう。それが君たちの戦う相手じゃ」

 

 ダンブルドアの言葉と共に、クラウチが持っている袋がフラー・デラクールの前に差し出される。

 

「レディファーストだ」

 

 開けられた袋の口からはなにやら小さな鳴き声が聞こえ細い煙がゆらゆらとあがっている。

 何が入っているのか想像したくない。ミニチュアなのだろうが、魔法使いのミニチュアなんてものが大人しいわけないのである。

 

 それを察してフラー・デラクールは少し笑顔を引きつらせながらも、なんとか余裕の表情を取り繕い袋にその手を滑り入れる。

 

 手を袋から出せば小さなドラゴンがその手の平に乗っていた。

 それは緑色の鱗を持つ竜。吼え声はどこか音楽的でもあり、時折吐く炎は細く噴射するように吐いていた。

 

「ウェールズ・グリーン普通種。臆病な種だが、今回もそうとは限らんぞ」

 

 クラウチが脅し文句のような言葉を残す。それから次にセドリックへと袋を差し出す。

 セドリックも少しばかり顔が引きつり気味ではあったが、それでも堂々と袋に手を突っ込み、ミニチュアドラゴンを引っ張り出した。

 

 現れたのはシルバーブルーの鱗。ミニチュアが小さく吐いた炎は、青く美しいものだった。

 

「スウェーデン・ショート‐スナウト種。美しい炎に見とれていると焼かれるぞ」

 

 クラウチは次に、クラムのもとへ近づいて袋を差し出した。

 

「チャイニーズ・ファイヤボール種。まさに東洋の神秘だな」

 

 奇妙な形をした深紅の鱗を持つドラゴンが、クラムの手の平の上でとぐろを巻いていた。鱗は深紅で、目は飛び出して、獅子鼻。

 まるで蛇のようだが、長い胴体のところどころに生えた手足と黄金に輝く角が竜種であることを主張している。吐く炎はキノコ型。

 

 だが、とうのクラム本人は短く鼻を鳴らしただけだ。ただ黙って自分の元居た場所へ戻る。 

 何が在ろうとも勝つのは己だという強い自負が感じられる。

 

「さあ、最後だ」

 

 といっても残り一匹。そして、最後の一匹をハリーは知っている。

 

「ハンガリー・ホーンテール種だ。一番凶暴だ」

 

 ハンガリー・ホーンテール。その名の通り、ハンガリーを原産地とするドラゴンであり鱗は黒く、目は黄色、角はブロンズ色のドラゴンである。

 炎は最大15mまで吐けることが知られており、尾からブロンズ色の棘が生えている。

 

 奇しくもロンも戦った相手。

 

「――――」

 

 相手にとって不足はない。むしろ望むところだった。

 

「僕だってやれるんだ」

 

 ロンのように真正面から戦っても良い。けれど、ハリーはハリーらしくやるつもりだった。得意分野。つまり、箒での勝負だ。

 

「競技内容はこうじゃ。各々その手の中にいるドラゴンが守る金の卵を手に入れること。

 無論、彼奴らとてタマゴを奪われそうになれば抵抗くらいする。それを潜り抜けて出し抜いて、どれほど鮮やかに金の卵を手中にできるかが問われる競技なのじゃ」

 

 知っていた。だから対策も十分だ。

 

「諸君らの無事と健闘を祈る。大砲が鳴ったら呼ばれた者から行っ」

 

――ズドン。

 

 気の早い誰かが大砲を鳴らしたようだ。ダンブルドアの話を遮るかのように大砲が鳴った。

 大音量と共に観客となった生徒たちの歓声があがる。

 

 肩を竦めたダンブルドアは、

 

「最初はフラー・デラクール嬢からじゃ」

 

 いよいよとなったフラーの顔色は悪い。彼女は何度かロケットの中の写真に祈ると、意を決した顔でテントから出て行った。

 それから何やら歓声が響いたり悲鳴が響いたりしながら、試合は進んでいく。セドリック、クラムと続きついにハリーの番が来る。

 

「良し、勝つぞ」

 

 そう息巻いて、会場へとである。

 そして、ホーンテールを見た。

 

『GRAAAAAAAAAA――――!!!!』

 

 咆哮がハリーを直撃する。黄色の瞳がハリーを射ぬく。

 

 呼吸が止まる。恐怖で。

 息を吸っても、吐いても、空気が肺に入って行かない。苦しさを感じる。息をするという生物が普遍的に行う呼吸が止まって、苦しくない生き物はいない。

 視界が、歪む。我知らず喘いで、強烈な眩暈がハリーを襲う。

 

 それを頭を振って振り払う。

 

 ――負けるもんか!!

 

「アクシオ!!」

 

 ハリーは己の箒を呼んだ――。

 




おそくなって申し訳ない。いろいろとあったり、色々とやったいりしてました。

ハリーによるホーンテール戦。まあ、映画通りなんで省略などしつつ第二試練、第三試練とやっていきつつお辞儀と相対です。

そして、サルビアはホグワーツを去ってヴォルデモートを倒しに行くそうです。

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