第63話 落日
ホグワーツを出るというのは、実に清々しい気分にしてくれた。塵屑どもに合せずとも済むというのは実に実に気分がいいとサルビアは思い自然と笑顔になる。
だが、あるものが視界に入った途端にその笑顔も消え去り憤怒のそれに変わる。サルビアの視界に入ったのは一羽の鳥だ。
美しい鳥。この世のものとは思えぬほどに美しい鳥の名は不死鳥。忌々しくも不死というものを体現し、生まれ変わりながら永劫を生き続ける火の鳥だ。
ダンブルドアが寄越した監視役なのは一目でわかるが、鬱陶しいことこの上ない。その上、気高いのか、誇り高いのか、それともサルビアなんかに触らせたくないのか、羽根も触らせてくれない。
だからサルビアはこの鳥が心底嫌いだった。いっそ連れて来たセージに食わせてしまおうかとも思うのだが、そんなことをして悲願の健康を奪われでもしたらたまったものではない。
さっさとヴォルデモートを倒し、首輪を外して真の自由を満喫して生きるのだ。そのためにもこの不死鳥のフォークスは殺せない。
それにもったいないとも思ってしまうのだ。不死鳥だ。その不死の秘密はぜひとも知りたいもの。それを応用して自らに適応できれば自らは不死になれる。
面倒なのは、生まれ変わりによって赤ん坊からスタートということだが、そこはどうにか変えればいいだろう。無理ならセージにでも世話をさせればいい。
そんなことを考えながら、どうやったらその秘密を調べる為にフォークスを触れるだろうか考える。そんなサルビアの思考を知ってか知らずか地下を掘り進んででもサルビアについて行っているセージはというと蛇では感じ得ない悪寒のようなものを感じていた。
(――――!!)
それが何かはわからないが、もう少し頑張って役にたとうと決意し、セージはひたすら地下を掘り進みサルビアへとついて行くのであった。
「さて、勇んで出てきたは良いけど……」
まずは情報がほしい。ヴォルデモートが復活したという情報は
だが、一年生の時、ヴォルデモートがひっそりと生きていることを知った。生きているのなら、つまり死んでいないのであれば復活する手段などいくらでもある。
そう闇の知識にそれはある。ゆえに、ヴォルデモートは少なからず復活しているか、復活しかけていると考える。
問題はその居場所だ。どこへ向かえばいいのか。まずはそれを知る必要がある。ゆえに、向かうのはまず自らの屋敷だった。そこにあるひとつの知識を求めてそこへ向かう。
だが、今現在ここにひとつ問題が残っていた。
「どうしてここにいるのかしら」
反響音を飛ばしてその存在を捉える。否、そんなことすらする必要などなかったが、それでも必要なプロセス。相手もまた同じことができるゆえに発見されたということがわかる。
だから、今見つけたという
「ば、バレてた?」
物陰から現れたのはロン・ウィーズリーだった。ホグワーツを出て来た時からついてきていることはわかったが、気にする存在でもないために放っておいたがセージが鬱陶しく指摘してくるので仕方なくかまってやることにしたのだ。
「ええ、 バレてるわよ。バレバレよ。それで、私に何か用かしら」
「どこに行くのかと思って」
心配でついてきたと彼は言った。何を言っているんだこいつはと呆れる。心配? 思い上がりも甚だしい。他のごみよりも多少利用価値が出て来ただけの分際で何を言っているのだろうかこいつは。
だが、ヴォルデモートを相手にするにあたって負けるつもりはないが、もし復活しているのであれば彼のしもべである死喰い人が邪魔ではある。
路傍の石如きにかかずる気もない。ならば、こいつに相手をさせるのもいいのではないだろうか。名案であるが、こいつにそこまでやれる力はない。
盾にすらならない塵屑、星屑の分際で、栄光に唾はきあらゆる全てを零落させる狼になった気でいる。事実才能はあるのだ。
この男、どういうわけか衰え呪文に関してはありえないくらいに秀でている。他が軒並み駄目なくせに、衰え呪文その一点においてはすさまじい精度と威力を持っているのだ。
そして、本気になったときの発想と思い切りの良さは、塵屑の中でもかなりマシな方。手ごまにするなら
だが、それならまだ
能力値に不足はなく、あらゆる面で優秀というまさしく秀才だ。それでいて吸収する意欲も高い。
――まあ、私ひとりで充分だけど。
だが、すべてはそこに行きつく。サルビア・リラータに不可能はなく、彼女以上の存在など存在しない。その自負は何があろうとも変わることはない。
あらゆる面で横道にそれたこともあるが、生きると言う至上命題も達成できるだろう。初志を貫徹する。そのために、今糞の要請を受けて糞《ヴォルデモート》を殺しに行くのだから。
「まあいいわ。どこに行くかはこれから決める。それより……そこにいるもうひとり」
「フォイ!?」
「マルフォイ!?」
「こんなところで何をしているのかしら」
「そこのウィーズリーと同じさ。君たちが出ていくのが見えたからね。良いのか、校則違反だぞ」
「校長の許可はとっているし、そもそも私が出ていくのは校長からの依頼よ。ヴォルデモートを殺しに行くの」
「な、なんだってー!?」
ロンとマルフォイが驚愕に染まる。何をそんなに驚いているのだろうかこの塵屑はと思う。
「だ、だって、例のあの人だよ、例の!」
一瞬にしてロンの体を恐怖が突き抜けていく。実際に相対したことなどないが、風聞は聞き及んでいる。魔法界の住人で闇の帝王の所業を知らぬものなどいはしない。
彼の残した爪痕は今もなお、多くの人々の心に残っているのだから。誰もが畏れる闇の魔法使い。強大な魔法使いだ。学生がかなうはずのない相手。
しかし、だ。その闇の栄光を思い、それをもし零落させることができたならどんなに気分がいいだろうか。そう無意識下の思考の奥底に眠る暗い願望が胎動する。
「か、勝てるわけないだろ!」
声をあげるマルフォイ。
「ええそうね、だから?」
「え、だ、だから?」
「ええ、だから何? それはおまえが倒せないだけでしょう。逆らう気すらない、むしろ尻尾を振る犬の分際で、何を言っているのかしら。いっそ滑稽ね。。この私に不可能なことなどないわ。でもそうね、面倒くさいことにはかわらないし、二人にはついてきてもらおうかしら」
拒否権などない。いいから役にたてよ。おまえたちの価値などそれしかないのだから――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ハリー!! 起きてハリー!」
「――――ちょ!? ハーマイオニー!? ここは男子部屋だよ!?」
夢の中で三校対試合を勝ち抜き、ヴォルデモートの復活セドリックの死というショッキングな光景を目にしてグロッキーになっているハリーであったが、ハーマイオニーの存在を認識してその全てはどっかへ吹っ飛んだ。
「そんなことはどうでもいいのよ!」
いや、どうでもよくないだろうというハリーの反論は彼女の剣幕に吹っ飛ばされる。なにかよっぽどのことがあったのかもしれない。
「何があったの?」
「サルビアがいなくなったのよ!」
「なんだって!?」
「荷物が全部なくなってるの」
それはつまり荷物をもってどこかにいったということだ。なんで、どうしてと思う前に、まずはロンを起こしてとハリーが思ってロンのベッドを見る。
「ロン?」
そこにはロンの姿もなかった。ついでに言えば荷物もない。
「ロンもどこかに行っちゃた?!」
ハリーとハーマイオニーは着替えて談話室で話している。二人がどこへ行ったのかを。しかしいくら考えてもなにも答えは出ない。
同時期の失踪。二人でどこかへ行ったのだと思うがいったいなにがあったのだろうか。何かしら不測の事態? それならば話してくれないのはおかしい。
では、もっと何か別のことがあったのだ。それを考える。サルビアとロンが二人してどこかへ行く用事。つまり先生に頼まれて何かをしているということではないか。
だとするとマクゴナガル先生ではないと直感で思う。マクゴナガル先生ならは少なくとも友人のハリーとハーマイオニーに何も伝えないということはないだろう。
おそらく全員呼び出されて話をされたはずだ。そうなると別の先生ということになるが、マクゴナガル先生が抜けると、必然的に一人の人物が想起された。
アルバス・ダンブルドア。このホグワーツの校長であり最高権力者。彼ならば、隠れて二人に何かを依頼するのではないか。
そんな漠然とした予感があった。あくまで推測、暴論ではあるが、それ以外にないようにどういうわけか思えた。
「だから、ダンブルドア先生のところに行こう」
「驚いたわ。あなたならまず探しに行くんだと思っていたわ」
「酷い……」
まあ、確かに昔の自分ならばいなくなった時点で探しに行っていたかもしれない。だが、それでは駄目だと夢界で気が付いたのだ。
「とりあえず行こう」
朝は早いがダンブルドア先生ならば悪い顔はしないだろう。だから、まずはマクゴナガル先生のところに行って先生がいるかどうかを聞くことにした。
「ダンブルドア校長なら、先ほどロンドンへ発ちました。魔法省から呼び出しを受けたのです」
「魔法省から?」
「ええ。そんなことよりこのような早朝に校長に会いたいとは何かあったのですか?」
話していいだろうかとハーマイオニーとアイコンタクトして、ハーマイオニーが頷いたのでマクゴナガル先生に話す。
「なんですって……」
マクゴナガル先生はひどく驚いた様子だった。彼女も知らないということはやはりダンブルドア校長が関わっている可能性が高いだろうと思う。
ひとまずお礼とこれからどうするかを任せることにして、職員室をあとにした。
「…………」
「何考えているか当ててあげましょうか、ハリー?」
「どうぞ?」
「僕は、探しに行く、でしょ」
「うん。行こうと思う。何か嫌な予感がするんだ」
傷が痛んだ。夢の中でも何度もあった。ヴォルデモート卿との絆の証だというそれ。ゆえに何かがあるのだとハリーは感じ取っていたのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ダンブルアは魔法省に来ていた。呼び出されたためであるが、魔法省は驚くほど閑散としていた。
「これは……」
嫌な予感がダンブルドアによぎる。杖を取り出し備えようとした瞬間、コーネリウス・ファッジ魔法大臣が現れる。
「おおお、待っていたぞ」
「コーネリウス、ずいぶんと閑散としておるがこれは」
「ああ、幾分と立て込んでいてね。今日呼んだのはちょっとした話があってね」
「話?」
嫌な予感が増大していく。明らかにおかしい。だが、大っぴらに何かするわけにもいかない。そのため、ダンブルドアはおとなしく彼について行く。しかしいつでも杖を抜けるように備えていた。
「ここだ」
案内されたのは黒塗りの扉の前。さあ、と促され中に入ると暗い広間が彼を迎える。警戒して杖を抜いた、その時、現れたのは男だった。
そう誰もが知る男だ。誰もが知る誰もが畏れた男。そう――。
「トム……」
「ああ、そうだ。トム・リドル。帰ってきたと言おうかダンブルドア。そして、さようならだ――」
ダンブルドアは彼を認識した瞬間に動いていたが、それよりも早く、まるで人外のような速度で杖が振るわれ、
「アバダ・ケタブラ――」
緑の閃光がダンブルドアを貫いた。
「さて、魔法省は既に掌握した、これより世界を掌握するぞ」
彼の言葉に、死喰い人が無言で立ち上がる。
この日、静かに世界は闇に覆われ始めた――。
随分と遅くなってしまった。お久しぶりですです。
これより世界が闇でおおわれる。光の尊さを教えるために、盧生にして盧生にあらず、あらゆる人類の嫌悪を集める反盧生がその牙を剥く。
サルビアは、ハリーは、果たしてどうするのか。
ダンブルドアが何もできずに退場。そりゃ戟法の迅使われて杖を振られたらいかに速く反応しても負けます。
だが、まだまだ彼には役立ってもらわねば。