ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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第8話 クィディッチ

 トロール騒動が収束すると、校内はクィディッチシーズン真っ盛り。皆が皆、グリフィンドールとスリザリンの今期初試合を楽しみにしていた。サルビア以外は。

 

(はあ、なんであんな野蛮かつ危険極まりない試合なんてやりたがるんだろう。馬っ鹿じゃないの? それともマゾなの? 理解に苦しむわ)

 

 スポーツなど糞食らえ。とくに命の危険があるスポーツなど滅べ。そんな風に思っていても、興味津々な屑どもに合わせなければいけない。ハリーたちとはそれなりの付き合いでこの前のトロール騒ぎでより一層仲良くなった。計画通りだが忌々しい。

 また、なにやらもう無茶はしないよとかハリーが謝ってきた。なんのことだろう。身に覚えがなさすぎる。それよりもここからどうたきつけるかだ。

 

 そんなことを三人といながらサルビアは考えていた。四人でいることが半ば当たり前と化しているため、そばには三人組がいる。ハリーは来る試合の為にクィディッチ今昔を読みふけっているし、ロンとハーマイオニーも今更不安になっているバカを励ましていた。

 

(それはいいのよ。ええ、まったく。問題はなんで、こんな寒い中庭でやるのかってことよ。良いじゃない。談話室で。あったかい暖炉の前で。寒い、死ぬ。風邪ひいたら、貴様ら呪い殺してやる)

 

 ローブのうえに更に色々と重ね着しまくって手袋に帽子もしているというのにまったく暖かくならない。寒い。寒さは敵だ。寒くなると病が酷くなる。体の節々が痛む。

 いつもはまったく感じないくせに寒さだけ敏感に感じさせるわいた自分の脳みそが憎らしかった。

 

 そんな恨みつらみを呪詛の如く内心で吐き出しているとスネイプが通り掛かった。片足を引き摺っているのを見て、サルビアは眉をひそめる。観察したところ、何かの咬み傷だ。自然にできたものではない。

 ましてやあのスネイプである。何かの間違いで怪我をするなど考えられない。これでも教員のことはホグワーツに来てからも調べていたのだ。なにが得意なのかを徹底的に調べ尽くした。

 

 だから、スネイプが怪我を負っているのは怪しい。何かある。咬み傷。情報の中で連想されるのはあの三頭犬だ。もしかして、賢者の石を狙っているのはスネイプか。まあ、どうでもいい。

 どうせならこいつに囮にでもなってもらおう。ハリーはスネイプを快く思っていない。ならば、その心理を利用してスネイプが賢者の石を狙っている。そんな風に言えば、容易く守りにいくだろう。

 

 そんなことをサルビアが考えていることなどスネイプは気が付かず、ハリーの持っているクィディッチ今昔という本に目を留めた。

 

「ポッター、図書館の本は校外に持ち出してはならん。よこしなさい。グリフィンドール5点減点」

 

 あからさまな理不尽である。そんな規則はあっただろうか。まあいい、好都合だ。ハリーなどは騒いでいるので同意してやるが、それ以上はしない。

 とりかえすと息巻いている。勝手にしろ。私は忙しい。それより、早く中にはいろう。寒い。早く、早く。

 

 ようやく戻る気になった三人と談話室に戻る。そして、談話室の暖炉の前のあったかい場所をサルビアは独占しつつ、宿題をやっているロンとハーマイオニーと共にさっき飛び出していったハリーが職員室から戻って来るのを待っていた。サルビアはとっくの昔に宿題なんてものは終わらせているので問題はない。

 問題と言えばハリーだ。あの屑はスネイプから本を取り戻しにいったのだ。なぜ、あのバカは減点されに行くのだろうか。バカなのか。ああ、屑には変わりないか。

 そうこうしている内にハリーは戻って来た。

 

「大変だよ!」

 

 血相変えているところを見るとなにやら大変な話を聞いたらしい。ハリーは職員室で起きた事を話した。なにやらスネイプが三頭犬が守っているものを狙っているという。でかしたぞ屑!

 ハリーとロンはスネイプが三頭犬の守っているものを狙っているのだと結論づける。いいぞ。真実はともかく、疑ってくれるならば万々歳だ。手間が省ける。

 

 ハーマイオニーは仮にも教師であるスネイプが、そんなことをする筈はないと懐疑的だが、知ったことか。真実などどうでもいい。ハリーがどう感じるかだ。

 

 ハリーも、スネイプも役に立てよ。お前たちの価値などそれ以外にあるはずがないだろうが。それより暖炉の前あったかい。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 そんなこんなでクィディッチの試合当日。前に送られてきたニンバス2000を手に緊張した面持ちでハリーは飛んでいる。サルビアたちも応援のために競技場へやってきたのだが、ロンが盛大に遅れたために空いている席がない。

 忌々しげにサルビアはロンを睨んでいるが、ロンは気がつかずハリーの応援に必死だ。死ねよ。更にハグリッドまでいる。狭い。どっかいけよ。なぜわざわざ詰まっている場所に入って来るんだ糞が。

 

 ホイッスルと共に試合が開始される。サルビアは寝ることにした。どうせ誰も見ていない。隣のロンやハーマイオニーも興味もなく疲れるので、目を閉じて眠っているとなにやら騒がしい。点を入れた時も騒がしいがそんなことじゃない。

 

「どうしたの?」

「スネイプよ! 箒に呪文をかけてる!」

 

 なにそれ? どういうこと? と受け取った双眼鏡で見て見ると確かにスネイプは呪文をかけているようだった。しかし、あのスネイプがこんな大観衆の前でそんなことをするだろうか。

 あのスネイプならば誰にも気がつかれずにやるに違いない。まあいいか。真実などどうでもいい。これでハーマイオニーもスネイプを疑ってくれるだろう。

 

「本当ね。呪文をかけてる」

「どうすればいいんだ!」

 

 騒がないでよ(ロン)、うるさい。役立たずは黙ってろ。黙れないなら死ね。時間の無駄だ。

 

「私に任せて!」

 

 さすが優秀な屑だ。私が何かせずともどうにかしてくれるらしい。いいぞ、役に立て。

 ハーマイオニーはスネイプの背後に回り、そのローブに火をつけた。そのおかげで、その周りにいた数人が驚いて倒れて、結果としてハリーは箒のコントロールを取り戻し急降下を始めた。

 

 どうやらスニッチを見つけたようだ。そして、箒から落ちる。なにやら苦しそうだ、と思ったら口でキャッチしたらしい。そのおかげでグリフィンドールは勝利。大歓声だ。スリザリンからはブーイングの嵐だが。

 その後、ハグリッドの家で祝勝会を兼ねて、スネイプが箒に呪文をかけていたことをハリーたちは話していた。

 

「バカな。何でスネイプがハリーの箒に魔法なんかかけるなくちゃならない。有り得ない有り得ない」

 

 ハグリッドは懐疑的だ。黙れよ。

 

「知らないけど、ハロウィーンの時に頭が3つある犬に近づいた」

「なぜ、フラッフィーを知ってる?」

「フラッフィー」

「あの犬に名前があるの?」

 

 ほう、つまりあの犬は貴様のか。まあいい。あの犬の弱点を知るやつがこんな間抜けであったのは僥倖だ。この手の輩はなんの気なしに弱点をばらすに決まっている。

 この男はそういう男だ。好きな物、欲しい物で懐柔して更に酔わせておけばばらすに決まってる。いいぞ、愚図は嫌いだが、役に立つ間抜けは嫌いではない。

 

「あるともさ。俺の犬だ。去年パブであったアイルランド人から買った。ダンブルドアに貸して学校の――」

「何?」

「――おっと、いけねぇ。これ以上聞かんでくれ。なんにも聞くな。重大な秘密なんだ」

 

 チッ、口は滑らせないか。デカブツのくせに。そこまで喋ったのなら喋れよ屑が。

 

「でも、ハグリッド。フラッフィーが守ってるものをスネイプが狙ってるんだよ?」

「バカ言え。スネイプ教授はホグワーツの先生だぞ」

「先生だろうとなんだろうと、呪文をかけてれば一目でわかるわ。本で読んだもの。目を逸らしちゃいけないの。スネイプは瞬きもしなかったわ」

「私も見たわ」

 

 いいぞ、スネイプ、貴様は役に立っているぞ。

 

「いいか、よく聞け、四人とも。関わっちゃいかん事に首をつっこんどる。危険だ。あの犬と先生方が守っている物に関われるのは、ダンブルドアとニコラス・フラメルだけだ」

 

 口を滑らせたなバカめ!

 サルビアはハグリッドの言葉に瞳を輝かせる。この塵屑馬鹿はいま、言ってはいけないことを言ってしまった。絶好の餌をハリーに与えてしまったのだ。

 

「ニコラス・フラメル?」

「あぁ、しまった。口が滑ってしまった。言うてはいかんかったな。もう帰ってくれ。頼む。俺がこれ以上なにも言わないうちに」

 

 そう言ってハグリッドに追い出されてしまう。ハリーたちは納得のいかない顔だったが、サルビアは満面の笑顔だった。邪魔なだけの大男が役に立つ塵へ格上げだ。

 いいぞ、その調子で役に立て。

 

「ニコラス・フラメル、何者なんだ?」

 

 答えてやろう愚図ども。最高に機嫌がいいサルビアは、嬉々としてハリーの問いに答えてやる。ニコラス・フラメルなどリラータの家系では常識だ。

 賢者の石を作り出した人物。その製法をしる人物。600年以上も生きているという不老不死の人間。リラータの家系は彼を追い続けている。賢者の石の製法を探るために。

 

 だが、結果は失敗。見つからず野垂れ死んだ先祖()ども多数だ。今度ばかりはそうもいかない。賢者の石は近くにある。あとは、ダンブルドアを出し抜き盗み出すまでだ。

 

「ニコラス・フラメルは賢者の石を作り出した人よ」

「賢者の石?」

「ええ、賢者の石。恐るべき力を秘めた伝説の物体で、いかなる金属をも黄金に変え、命の水を生み出す。これを飲めば不老不死となる。そう言われてる石よ」

「不老不死?」

 

 黙ってろ(ロン)

 

「死なないってことよ」

「それくらい知ってるよ!」

 

 なら聞くな屑。

 

「フラッフィーが守ってるのはこれじゃないかしら。あなたたちのいう仕掛け扉の下にあるのは賢者の石と私は思うわ」

「そうだとしたら、まずいかもしれないわね」

 

 ハーマイオニーがサルビアの話を聞いてそう呟く。ハリーとロンは頭にクエスチョンマークを浮かべている。

 

「いい? さっきハグリッドは、あの犬と教員方が守っているものはって言ったわ」

「そうだっけ?」

「さあ?」

 

 ハグリッドの言葉を全て覚えているわけもない男性陣はまったくぴんと来ない。ハーマイオニーは呆れてため息を吐いたが、気をとりなおして説明してやる。

 こいつらが馬鹿なことはわかりきっているとでも言わんばかりだ。無論、そんな言外の言葉が伝わるのはサルビアだけでハリーたちには決して伝わらないのだが。

 

「言っていたのよ。ハグリッドは確かに。そもそも、犬だけが守っているわけないでしょ? ホグワーツの教員方全員が守っているのよ。その中にはスネイプもいるはずよ」

 

 さすがにそこまで言われたらハリーもロンもまずいことがどういうことかわかったようだった。

 

「じゃ、じゃあ!? スネイプは石の守りについて知っているってこと!?」

 

 ロンがこれでもかと驚く。

 

「そういうことになるわね」

「まずいよ。それならいつでも奴は石を取れるじゃないか」

「いいえ、それはないと思うわ。だって、今も石は奪われてないじゃない」

 

 確かに、守りについて知っているのならすぐに奪うはずだ。だというのに、今も、あの守りが破られた形跡はない。そもそも、石が盗まれればダンブルドアが動くはずである。

 それがないということは今も石は無事であるということ。

 

「たぶん、フラッフィーだ」

 

 その理由は意外にもハリーが気がついたようだ。

 

「スネイプはあのトロールの事件の時、きっと石を取るつもりだったんだよ。だけど、フラッフィーに阻まれた」

「あの傷はそういうこと……」

 

 サルビアは笑いをこらえるのに必死だった。ここまでうまくいくとは思いもしなかった。ハリーたちは賢者の石について知った。スネイプがそれを狙っていると勘違いすらしてくれた。それも自発的にだ。

 手間が大幅に省けた。スネイプとハグリッド。お前たちは役に立っているぞ。これからもせいぜい役に立なさいよ。

 

 そのまま賢者の石について教師に相談しようともハリーたちが言い出したので、証拠がないとサルビアが言って止めた。今のままではハグリッドと同じように誰も信じない。

 だから、クリスマス休暇に入るのでその間に調べように言った。

 

「証拠か。僕たちに見つけられるかなぁ」

 

 ロンが不安そうに言う。ハーマイオニー、サルビアの二人は休暇中は家に帰ってしまう。必然、予定が変更になってしまったロンと、帰る気のないハリーが調べることになる。

 

「大丈夫。2人ならやれるわ。がんばってね」

 

 発破をかけるようにサルビアが言う。

 

「そ、そうかなぁ」

 

 てれってれのロン。なんて扱いやすいんだこの屑は。そう内心で馬鹿にしながらサルビアは、ハリーに向き直る。

 

「あと、これだけは約束してね。無茶だけはしないで」

 

 お前は、私の為に生かされているんだから、無茶をやって死ぬなよ。別にこいつがどうなろうと関係ないが、役割を果たす前に死なれては困るのだ。

 

「う、うん、わかったよ」

 

 こうして、クリスマス休暇中、ハリーとロンの証拠集めが始まるのであった。

 




中々ハリー視点が出来なくて、少し悲しいテイクです。

あとサルビアがいることによってニコラス・フラメルについて知るのが早くなってます。
それにより、色々と前倒しになるかもしれませんが、サルビアとハーマイオニーが帰るので、クリスマス休暇後まで色々と待つことに。

次回はクリスマス休暇。
では、また次回。

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