インフィニット・ストラトス ~ULTRA~ 作:サイレント・レイ
――― A組教室 ―――
教師からの買い出しを終えて引き渡しと報告を済ませた剣一が何故かスポーツバッグを2つも抱えて戻ってきたのは昼休みの時であったが、教室には女子達がいない代わりに男子達はぐったりと机に伏せっていた。
「…ああ、剣一か」
「お~い、大丈夫か?」
どうやら彼等は剣一がいない授業でしごかれた上に女子達の嫌がらせでこうなっている様だったが、もう1つ理由としてあった。
「…やっぱり今日も駄目だったのか?」
「ああ…アイツ等無駄話してやがった…」
別にそう言う校則が有る訳ではないのだが、困った事に整備科では食堂で食事を取るのは最初は女子からで、男子はその後からじゃないと駄目だとの決まりがあったのだ。
だが嫌がらせをし続ける女子達が何もしない訳がなく、大抵の場合は終了時間まで居座る、時間内に引き渡しても食事が残っていないか彼等の目の前で食事を床にぶちまける等明らかに行き過ぎた行為をやらかしていた。
しかもIS学園の購買部は基本的に昼にしか食品を取り扱っておらず、酷い時には此の最後の頼みである購買部の食品までもを女子に押さえられてしまうので、出前も取れない男子達は一日水道水だけで絶食せざるをえない時があり、此の為に体調を崩す男子が少なからずいた。
「……やれやれ…」
自分は外で食べてきたとは言え、毎度の女子達の悪行に溜め息を吐いた剣一はスポーツバッグを2つ共机の上に置くと各々のチャックを開いた。
「…ほら、買ってきたぞ」
でスポーツバッグの中に目一杯入った菓子パンを一目見た大悟達が急に声を上げて立ち上がり、それを見た他の男子達も次々に続いたので、瞬く間に男子達が群がって菓子パンを取り合っていた。
但し此の現状下から妙な絆が出来ているので、争奪戦が起こらず取り損ねた者達にもちゃんと分け与えていて、更に買ってきた剣一に全員がお礼を言いながら金を払っていた為に剣一の机には百円玉の山が出来つつあったす。
最もA組は此れで何とか本日の飢えをしのぐ事が出来たが、他の組の男子達はそうではないのか、他組の男子達が空になったスポーツバッグかA組男子達のどちらかを廊下から恨めしそうに見つめていた。
「………」
「…諦めろ。 俺だって申し訳ないと思うんだ。
それに俺達だって夜の分にありつけないんだ」
そんな他の組の男子達に申し訳なさそうにしていた剣一に大悟が諭していた。
「……何時まで続くんだよ、此の地獄…」
授業自体は辛いと聞かれれば辛い方だが、それはあくまでも乗り越えられる範囲内で、それが逆に楽しさを生む時があるのだが、男卑女尊の世界情勢を具現化したような女子達のやりたい放題の変えようの無い環境に誰もがヘキヘキしていた。
――― 整備科・男子寮 ―――
午後の授業を無事(?)に終えた剣一達男子生徒達は疲労に加えて夕食にありつけなかった事からの空腹を紛らわす為に各々のベッドの上で延びていた。
因みに整備科と普通科の女子寮は2人1組になっているのだが、男子寮は女子のと同じ面積の部屋で4人1組になっている上、高級ホテル並の豪華な造りになっているのに反して二段ベッド2つ、更に勉強机を4つ置いている為に少し狭さを感じさせる質素な造りとなっていた。
只、此の事は男子達は女子寮に行かない(連れ込まれない)限り知らない事であったし、何より女子達が基本手出し出来ない所であった事から“住めば都”状態となっていた。
「…お~い、出たぞ!」
だがそんな状態であったが、風呂上がりで上半身裸でタオルを首に掛けた他校の男子の伝令に全員が一斉に飛び起きた。
因みに入浴が唯一の楽しみとなっていて風呂好きになる男子が相次いでいた。
勿論、1日の楽しみがやって来た以上は行かない訳がなく、現に剣一達は素早く着替えやタオルを取り出して準備を終えようとしていたが…
「…あ~言い辛いんだけど……早田は呼び出しを受けているぞ」
…剣一だけは悲しい呼び出しが伝えられた。
「……悪いが普通科の山田先生が来て欲しいそうだ」
「…気にしないで良い。
何時もの事だ」
此れも整備科に良くある事だが普通科の教師達もIS乗りであり、当然彼女達も鍛練の必要があって、それを部活動も終わった後の夜間に行う為に故障に備えて整備科の生徒が呼び出される事が時折あった。
只、此れに関しては女子達は普通科編入への売り込みとして積極的に行っているのだが、普通科の教師達も整備科女子の悪行を色々聞いているので此れも基本的に男子が行く事になっていた。
此れには普通科女子に接触する切っ掛けとしようと張り切る男子(稀に普通科の女子生徒ではなく教師を狙う強者がいたが…)が相次いでいたが、此の事での嫉妬から女子達の嫌がらせが益々エスカレートしていたし、呼び出される方も呼び出される方で流石に0時以降の日付けが変わっての終了こそ無いが、教師によっては長時間付き合わされ入浴出来ない処か復習予習(宿題や課題等はお詫びの形で免除になる)の時間が無くなって学業に大打撃を受けてしまう事になった。
「……今日もシャワーか…」
しかも剣一は摩耶に気に入られてしまって土日以外毎日指名されていた……少なくとも外部にはそう見えていた…
別に此の事は良くある事で寧ろ整備科生徒達はそうなろうと基本的に必死で……当然ながら神憑り的に人気の織斑千冬になれば激戦区であり、仮に指名された男子がいたら、その者は女子達に暗殺されるとの噂が有ったが、幸か不幸か呼び出し処か千冬関連のそう言う話や噂は一切聞こえてこなかった。
「……はぁ…」
「まぁ、頑張ってくれ」
とは言え、受難である事には変わりなく、大きな溜め息を吐いた剣一に親友達は慰めの言葉を掛けながら彼の肩を次々に叩いていた。
――― 射撃場 ―――
一夏が早朝から箒と特訓(と言うより扱き)をしていたのと同様、その一夏の対戦相手であるセシリア・オルコットもまた決闘に向けての自主練を結構な時間まで行っていた。
「…ふん!!」
しかも遠くの的を狙撃しているセシリアの周囲には多数のドローンが結構な速さで不規則に飛び回っていて、更にそのドローンに装備されたエアガンが彼女目掛けて放たれていた。
勿論、セシリアはドローン郡の銃撃を回避するだけでなく逆にドローンの的を狙い撃ち、更に本来の標的である狙撃用の的が不規則な揺れ幅で左右に揺れているにも関わらずに惑わされる事なく次々に撃ち抜いていた。
しかもセシリアは自機ブルー・ティアーズを纏わずに此の自主練をし続け、1発でも被弾したら的とドローンをより早くして一からやり直し続けていた。
当然理不尽な感じをさせる特訓で時折自分に悔しそうにしていたが、ほぼ最高速の速さになっていたドローンと狙撃用の的を全て撃ち落としてやっと終わった様であった。
何せ射撃場にはセシリアの汗の水溜まりが多数あるだけでなく、壊れたドローンが結構転がっていた。
「……まだまだ駄目ね…」
だがセシリアは回収した的を確認し、小数であったが中央から離れた場所が撃ち抜かれている的を見て悔しそうにしていた。
「……っ!? もうこんな時間でしたか」
どうもセシリアはもう1度やり直そうと思っていたらしいが、時計を見て結構な時間帯になっていた上に緊張が切れた事から疲労感が思い出した様に吹き出たので、今日は此れにて終了とした。
只、あと1回はやれると言われればやれそうなのだが、入学試験を首席合格しただけあって、セシリアは復習予習に支障が出ると判断した様だった。
だが帰る前に自分の自主練が気付かれるのが嫌だったのか、的やドローンを片付けると念入りに床を拭いていた。
最も彼女には壊れたドローンに関してはどうする事も出来ない為に唾が悪そうに見つめた後に一端脇に置いて、最後に念の為にもう1度床を拭いた(そんなにバレるのが嫌なのか?)セシリアは台車に全部乗せて引き上げようとしたが…
「……?」
「…今夜もお疲れ様です」
…射撃場から出ようとした直後に近くの練習場から自分達の担任の摩耶が男子を連れて出てきたのを見つけて思わず戻って潜んでしまった。
その男子を一夏と思い、自分に勝つ為に教師に師事してもらっていたと思い込んだか、よく見たら男子は一夏ではなかった。
「……あの制服は…交流生?
確か…早田、剣一って人でしたわよね?」
しかも男子が他校の制服であった上に登校初日に見かけた事もあって剣一であるのを察した。
因みに普通科の一部の腐った女子の間で摩耶達教師がが男子生徒を連れ込んで夜間限定マッサージをしているとの噂があったが、残念(?)だがセシリアにはそんな趣味を持ち合わせていなかった上、教師が夜間に自主練をしてその為に整備科の者を呼び寄せる事を知っていたからそれだと判断した。
此の為にセシリアはその剣一に壊れたドローンの修理を頼もうかと一瞬思ったが、汗だくの摩耶が立ち去った後も暫く手を膝に着けながら屈んで息を乱した疲労困憊の汗だく状態であった剣一が立ち去るまで自分でも分からないまま潜んでいた。
それに何処か違和感を感じさせる剣一が誰かに似ている気がしたセシリアは暫く首を傾げ続けていた…
――― 整備場 ―――
摩耶と剣一に続いてセシリアが引き上げたのとほぼ同時刻、生徒用のISである打鉄が多数保管されている整備場にて、不気味さを感じさせる程に真っ暗な此の部屋を複数の整備科女子達が懐中電灯を片手に打鉄の1つに近付いて来ていた。
「…ねぇ、本当にやるの?」
「此処まで来て何言ってるの!」
「此のままだと普通科への転入が消えちゃうのよ!」
何処の組のかは分からないが、どうやら昼間の授業で男子に負けた女子の一部が腹いせに打鉄の細工をしに来た様だった。
「……さてと、明日のは動力系のだから足にはいかない筈だから…」
「やめようよ!
こんなのって危ないよ!」
明らかに装着者に危険が及ぶ細工に元々乗り気ではなかった1人が止めようと叫んでいたが、残念ながら他の者達はそれに不快感をしめすだけであった。
で1人が打鉄の脚部を開いてペンチで配線の一つを切断しようとしたが…
「あらあら、こんな時間に何をやっているのかしらね」
…その直前に整備場の灯りが着いた為に慌てて入り口に一斉に振り向くとそこに教師が腕を組ながら壁に凭れていた。
しかも不味い事に彼女達が行おうとしていた悪行を見抜いていたか何処か不気味に笑っている教師に女子生徒達はギョッとしていた。
「…で貴女達は何をしようとしていのかしら?」
「……あ、いえ、その…」
「わ、私達は、今日の授業で忘れ物をしたので、それを取りに来たのです」
「とてもそうだとは思えないんだけど?」
教師に下手すぎる嘘を見抜かれてしまった女子生徒達は“どうしよう?”と目線を合わせていた。
「ねえ、先生、私達には国家代表の先輩がいるので、出来れば先輩に確認してもらうと良いのですが?」
だが自分達には国家代表の上級生が背後にいてくれた事を思い出してそれに頼ろうとしていた。
勿論、それが彼女達整備科女子の教師達にも通用する無敵の免罪符であったのだが、何故か教師は只笑っているだけだった。
「まぁ、私にはそんな事どうでも良いんだけど。
只、私は貴女達に用があるのよ」
此の時間帯は教師達は基本的ジャージでいるのに此の教師は不自然な黒い背広姿である事を、そして教師が整備場の全てを閉鎖した事に女子生徒達は気付くべきだった。
最も例え気付いたとしても彼女達にはどうする事も出来なかったと思われるが…
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剣一
「…いよいよ俺が纏う時なのか?」
その前に一夏vsセシリアです。