呼ばるる異名は黄金騎士   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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本戦

時間は少しだけ遡る

 

シノンがインする数十分前、ガンゲイルオンラインの世界に改めてギンガも降り立っていた

夜景の景色がよく見えるその場所で、色々なモニターがバレットオブバレッツの宣伝を繰り返している

 

「…デスガンが活動を始めたのは、BOB第二回の後。二回の犯行全て、民衆の中で行われてる」

<恐らく、それまでは目立たぬよう自己の強化に励んでいた可能性があるだろう>

 

ザルバと短い会話を繰り返しつつ、参加者の名前が羅列された画面を見やる

まぁ当然ながら馬鹿正直に〝デスガン〟なんて名前で登録はしていなかったので、その一覧にデスガンの名前はなかった

しかし奴にとってバレットオブバレッツは最高の舞台のはずだから、必ず参加しているはずだ

 

「…可能なら、すぐさまにデスガンのアバターを見つけて、斬ることが出来ればな」

 

それが最優先の目標だ

上手くいければいいと思うが、流石に難しいだろう

とりあえず登録とか色々手続きがあるだろうから、そろそろ移動しなければ

 

 

「シノン、せっかくだから色々聞いてもいいかい」

 

諸々の登録を終えて気持でも落ち着けようとしたシノンの耳に、ギンガの声が入ってきた

シノンは心底不愉快だと言わんばかりな表情を隠すでもなく、ギンガへと顔を向けると

 

「…まだ私に教えてもらおうっていうの」

「率直に言えばそうだね。こういうのって経験者に教えてもらった方が手っ取り早いっていうかなんていうか」

 

ここまでくると逆に清々しいとさえ思って来る

シノンはたっぷり空気を吸い込んで非常にわかりやすく大きなため息を吐くと

 

「まぁいいわ。この際だから最後まで付き合ってあげる」

「ありがとう、寛大な心に感謝を」

「一ミリも感謝してそうな声じゃないんだけど」

 

文句を言いながらシノンはそのまま地下一階の酒場ゾーンまで案内すると、するりと奥のブース席に座り、手慣れた様子で飲み物を注文するとテーブル中央に穴が開き、そこから黒い液体が満たされたグラスが現れた

いちいちNPCが聞いてくるSAOとかと比べると素っ気ないが、GGOの雰囲気ならこれで問題はなさそうだ

よく店内を見ると光量も最低なのか、道が分かる程度の明るさしかなく、各テーブルに座っているプレイヤーの顔は近づかないと判別できないだろう

 

「で、一応確認だけど本戦のバトルロイヤルはおんなじマップに三十人がランダム配置されて、出会い頭に撃ち合って、最後の一人になったやつの優勝、ってことでいいんだよね」

「軽く流して読んだよ。でもやっぱりここは素直に経験者から聞いた方が詳しく理解できるって思ったからさ」

「ド直球ねぇホント」

 

ずずず、とアイスコーヒーをストローで少し飲んだあと、シノンは言葉を続ける

 

「基本的には、さっきアンタが言った通り、三十人の遭遇戦。同一マップで開始位置はランダムだけど、どのプレイヤーも千メートルは離れてるから、始まっていきなり目の前にいるなんてことはないわ」

「なんか最初の行に書かれてたね。まぁ銃でドンパチするゲームだから、それくらいの広さは必要か」

 

確か本戦フィールドは十キロの円形で、山あり谷あり砂漠ありの混合フィールドで、時間帯も午後からだから装備による有利不利もなし、とかあったような気がする

まぁギンガは剣一本とリボルバー一丁しかないから有利も不利もクソもないんだが

 

「けど円形十キロの中、下手すれば出会わない可能性もあるんじゃないの?」

「だから、参加者には〝サテライトスキャン端末〟ってアイテムが自動配布されるのよ」

「サテライトスキャン端末?」

「十五分に一回、上空を監視する衛星が通過するっていう設定。その時全員の端末に、マップ内の全プレイヤーの位置が送信されるのよ。その時の輝点に触れれば名前も表示されるおまけ付き」

「なるほど。芋砂はできないわけだ」

 

一か所に潜伏し続けることは不可能ということも分かった

とどのつまり纏めると

 

「まぁ早い話動き回ってサーチアンドデストロイを繰り返せばいいわけだね」

「…まぁおおむねそれで問題ないわ」

 

言い方にイラッときたのかシノンはアイスコーヒーを飲み干してグラスをテーブルに置く

 

「それじゃあもういいかしら? 他に何か聞きたいことは?」

「そう、だな。…じゃあ遠慮なく…」

 

ギンガは自分の前にウィンドウを表示させると参加者の一覧を表示させてそれをシノンの前へと持っていく

行動の真意が分からないシノンは?マークを浮かべながら首を傾げている

 

「今回参加している人たちで、シノン、知らない名前は何個ある?」

「…はぁ?」

「変なこと聞いてるのは承知してる。けど教えてくれ、大事なことなんだ」

 

真剣な声色、表情を見てシノンはそれでも首を傾げつつ、名前の一覧を眼で追いながら答えてくれた

 

「…大会も三回目だから、だいたいの人とは顔見知りね。それでも真新しい名前の人は、アンタを覗くと三人」

「名前は?」

「んっと…〝銃士X〟と〝ペイルライダー〟…それで…これは〝スティーブン〟かな」

 

彼女が読み上げた名前を、ギンガもウィンドウ上で確認する

銃士Xは日本語で、ペイルライダーとやらとスティーブンとやらは英語表記だ

…それにしても〝Pale Rider〟に、〝Sterben〟

Pale Riderはともかく、Sterbenにはなんか引っ掛かりを感じる

スペルミスか何かか? 

まぁそれはともかくとして、今さっきシノンが挙げてくれたこの三人のうち、どれか一人がデスガンである可能性が高い

流石にそのままデスガンなり死銃なりをネームにすると色々問題があるだろうし、だからといって本当のネームを流布してしまうとデスガンのイメージもぼやける

ゆえに今日まで本名を伏せ続けてきたし、シノンだって知らないはずだ

さてどいつがデスガンだ? と考え込みそうになるギンガの耳と視界に、こっちをジトっと見てくるシノンが映った

彼女はわかりやすくテーブルを指で叩いて、視線が自分の方に向くと口を開いた

 

「…それで。これは一体どういうこと? 急に知らない名前教えろだなんて。もしかしてこれも作戦の一環?」

「作戦とかじゃない。…言ってしまえば、因縁だよ。昔のね」

「…因縁?」

「あぁ。俺は昨日の待機ドームの時に、昔同じゲームをしてたそいつに声をかけられた。そいつは必ず本戦に出てくる…今ネームを呼んでもらったうちの誰かがそいつなんだ」

「…友達、だったとか?」

「いいや逆だ。そいつと俺は敵同士で、昔殺し合ったと思うんだ。その時のネームは思い出せないけどね。恥ずかしいことに」

 

とはいえシノンに全部理解してもらえるとは思ってない

あくまでもこの因縁は自分だけのもので、本来ならばたとえライバルといえど同じゲームを遊ぶ仲間でもあるからだ

 

「───殺し、合った。───それは、プレイスタイルの違い、とか、トラブって仲違いした、とか、そういうゲーム上の?」

「いいや。文字通り命懸けのやつさ。…そいつが入ってたギルドは、超えちゃならない一線を越えた。和解もあり得なかった、だから───剣でケリをつけるしかなかった」

 

だから、とギンガは言葉を続ける

 

「その時の因縁を、ここで終わらせる」

 

これは一つの区切りのようなものだ

斬ることで守れる命もあるだろう

 

「…変なこと言ってごめん。忘れてくれ」

「───ギンガ、もしかしたら貴方は、〝あのゲーム〟に───」

 

不意に問いかけられた言葉は、酒場の騒ぎと喧騒に紛れて消える

彼女は顔を伏せ

 

「…ごめん。聞いちゃいけないことだったわね」

「いいよ。気にしてない」

 

彼女の謝罪にギンガは笑みと共に返す

自身の経歴を明かすつもりはないが、何となくシノンも察しただろう

敵、という言葉の意味、そして殺し合いという言葉に含まれる真意を

 

「…でも、それと私との勝負はまた別の話よ」

「え」

 

彼女は自分を忌避するとかでもなく、その身を乗り出してギンガの瞳を見つめてきた

その瞳の光にどこか、助けを求めるような光が見えたような気もする

 

「───そろそろ待機ドームに移動しないと。ウォームアップとか準備する時間がなくなっちゃうわ」

「…あぁ、そうだね」

 

気づけば時間は午後七時

開催まであと一時間となっていた

二人は席を立ち酒場の隅にあるエレベータまで向かうと下行きのボタンを押す

エレベータが動いている時、またシノンが口を開いた

 

「貴方にも事情があることは理解したわ。けどさっきも言ったけど、私との勝負は別よ。予選決勝での借りは必ず返すわ。だから…私以外の奴に撃たれたら承知しないから」

「…わかったよ」

 

ギンガは小さく返事する

そもそもこのGGOにインしたのは死銃の凶行を止めること

確かに最初は依頼ということでもあったけど、もはやそんな言葉では片づけられないものとなってしまった

冷静に考えればシノンというスナイパーとの戦いは避けて斬っていかないといかないといけないのだが、そんな不義理なことはもうできない

 

「それじゃあ幸運を祈るよ」

「そっくり言葉を返してやるわ」

 

 

待機ドームに来たギンガは、MMOストリームに表示される映像を尻目に、一人思案していた

盛り上がりはすさまじいもので、待機ドームにいるにもかかわらず、その熱気が伝わってくるようだ

 

<賑わってるな>

 

小さい声でザルバが呟く

「だな」と短く返事を返しながら、ギンガは先ほどシノンに教えてもらった三人の名前を思い出す

ペイルライダーに銃士X、そしてスティーブン…しかしなんでだろう、どうにもこの三人目のスティーブンがいやに引っかかる

Sterben…本当にスティーブンと入力するのならeでなくuなんじゃないのだろうか

…もしかして英語じゃあない、とかだろうか

 

<さー! カウントダウン、いっくよー!!>

 

不意にMMOストリームに登場している女性アバターがそんなことを言って来る

戦いまでもうすぐのようだ

これ以上考えても何も出てこない、とりあえず今は戦いに集中しよう

 

 

戦いが始まってもう三十分

とりあえず道すがら向かってくる奴は斬って捨てたギンガは周囲を警戒しつつ、岩陰に身を隠し、サテライトスキャン端末で表示された各プレイヤーの居場所を確認する

 

「…ダインってプレイヤーがペイルライダーに追われてるな。そんでこのデカい岩山で立てこもってるのがリッチーってやつかな」

<近づいてくる奴を迎撃するスタイルか。悪くはないが、こういう戦いでは悪手ともいえるな>

 

試合終了まで弾薬が持てばいいが

というか邪魔だから通りすがり斬りに行くか、万が一死銃との戦いで横やりを入れられちゃたまったもんじゃない

 

「シノンもダインらの近くにいるな。…下手したらペイルライダーが撃たれかねないな」

<どうする? シノンに頼んでいったん待ってもらうか?>

「休戦申し込んでもいいかもしれない。とりあえず、リッチ―とやらを斬ってそのまま向かおう」

 

スキャン端末をしまうと、ギンガは岩陰から飛び出すとまっすぐその岩山へと向かっていく

当然ターゲットにされるが、自分に当たる弾丸を選別し斬り払いながら確実に迫っていき、こちらを狙う重機関銃に向けて魔戒剣を投擲した

まっすぐ鋭くナイフのように飛んでいった魔戒剣は重機関銃に突き刺さり、使い物にならなくなり動揺していた間に顔面にリボルバーを数発撃ちこんで撃破だ

ぐったり倒れたリッチーとやらに<DEAD>の文字列が表示されるのを確認すると、シノンがいた方向へと視線を向けた

 

「さて。交渉してくれるかな」

<どうだろうな>

 

とりあえず岩山から駆け足で降りつつ、シノンが狙撃しそうなポイントをマップを思い浮かべて考える

そしていそうな場所に当たりをつけるとギンガはそのまま駆け出し始めた

 

 

何か所か探し走ると、やがて橋を見渡せる岩場にシノンの姿を見つけた

寝そべってヘカートを覗き込んでいる姿は様になっている

もっとも本来は真剣勝負なのでこの場で斬っても問題はないのだが───

 

「───!! 誰!?」

 

やがて気配を察したのかサイドアームである短機関銃をこちらに構える

ギンガは両手をあげつつ一歩一歩進んでいった

 

「シノン。俺俺」

「…何しに来たの。アンタ、今は戦場だってこと忘れたの?」

「今だけは忘れてくれないかな。戦場だったなら、君はもう死んでる」

 

斬る気になればいつでも斬れた、と遠回しに言うとシノンはバツの悪い顔をしながらサイドアームをしまうと、改めてヘカートのサイトを覗き込んだ

 

「それで。何の用なの? …っていうか、貴方リッチーの下あたりにいたと思うけど…どうやって来たの?」

「走ってきた。ついでにリッチーってのも斬ってきたよ。横やり入れられんのやだからさ」

「さらっととんでもないこと言うわね…」

「そんで一個提案。今から起こる向こうの遭遇戦、ケリがつくまで静観させてくれ」

「…はぁ? どういう意味?」

「ペイルライダーってのが気になるんだ。あいつがどう戦うのかをね」

 

そう言ってギンガはシノンの隣に腰を掛けながらおもむろに双眼鏡を取り出すと巻き起ころうとしてる遭遇戦を見るべく覗き込む

 

「…ちょっとは警戒しなさいよ」

 

やがて橋の向こうから一人のプレイヤーが歩いてくる

白い迷彩柄のスーツに、シールド付きのヘルメットを被った長身のプレイヤー

武装は右手にぶら下がる…あれはショットガンだろうか

橋の反対側で伏せていたダインもペイルライダーの佇まいを怪訝に思いながらも持っているアサルトライフルを発射するが、ペイルライダーは巧みな身体捌きで弾丸を回避していく

橋を支えるワイヤーロープにとび捕まり、そして柱へするすると移動していく

 

「装備の重量を抑えて三次元機動力をブーストしてるんだわ」

「加えて、アクロバットの動きも高いな」

<なかなか強いな、アイツは>

 

口々に評価を言いながらやがて戦い自体はペイルライダーのショットガンがダインにヒットしまずダインが膝をつく

そしてトドメにその顔面に改めてショットガンをゼロ距離でファイアし、DEAD、ダインは敗北しペイルライダーが勝者となった

 

「───」

 

あの男がデスガンの中身、か?

あんなスタイリッシュな戦い方をしてたやついただろうか、無論ゲームが違うから戦闘スタイル自体も変わっているという線もなくはないが

 

「撃つわよ、アイツ」

「あぁ。構わない…待って」

「え?───あっ」

 

引き金を絞ろうとしたシノンを静止する

なぜ静止したかというと、ペイルライダーの方に異変があったからだ

どこかからの狙撃がペイルライダーの右肩にヒットし、彼が右側に倒れ込んだからだ

 

「サイレンサー付きの狙撃か? …シノン、ペイルライダーになんかエフェクトもないか?」

「エフェクト? ───ッ!? 電磁スタン弾…!?」

 

ギンガに言われスコープの倍率をあげて確認したシノンが呟いた

 

「何それ」

「文字通り、ヒットさせた相手を高電圧を生み出して対象を麻痺させる特殊弾よ。バカ高いから対人戦でなんて使う奴はいない、大型Mob専用の弾丸よ…」

 

そんなものがあるのか

まぁモンスターもいるみたいだからそういうのもあるのか…と思った時、もう一人、プレイヤーが増えていたことにギンガが気づいた

橋を支える鉄柱の影からゆらりと、その姿を現した

黒いぼろのマントを着込んだ、真っ黒いプレイヤーだ

 

「───いつからあそこに」

 

無意識のうちに呟いたであろうシノンの言葉

状況的にペイルライダーを撃ちぬいたのはあの黒マントで間違いなさそうだ

次第にぬるりと黒マントが動く

歩いていくうちに、そいつが持っていたメインアームが顔を見せた

 

「…サイレント・アサシン…!?」

「なんだいそれ」

「サイレンサー前提の高性能狙撃銃…GGOに存在するっていう噂は聞いてたけど、実物は初めて見たわ…あれを使いこなせるやつがいるなんて…!」

 

シノンが驚愕の声をあげているとは珍しい

言葉から察するに扱いが難しい類の得物なのだろう

やがて黒マントはペイルライダーの近くにやってきて、徐にハンドガンを取り出した

そう、〝ハンドガン〟だ

どこにでもありそうな、そんなデザインの

 

「ハンドガンでトドメを刺すの…?」

 

シノンの戸惑いとは裏腹に、黒マントはなぜか十字を切るようなジェスチャーを

 

「シノン、撃って」

「え? ど、どっちを…?」

「黒マントの方だ、今なら狙い撃てるはずだ、早く!」

「え、ちょ、え…?

「アイツが引き金を引く前に!!」

 

今なら恐らく見つかってないから当たるはずだ

そんなギンガの胸中を知ってか知らずか、黒マントのハンドガンは今も倒れてるペイルライダーを狙っていた───




まさかこんなに早く遭遇するとはな
だが見つかっていないはずの狙撃なら早期決着の可能性が狙えるはずだ
───しかし、この妙な不安はなんだ?

次回 邪悪

立ちふさがるは───漆黒の、牙狼───!?
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