木曾とそんな泊地   作:たんぺい

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第十二話:木曾と如月と限界

木曾・飛鷹・レ級が己の思いをさらけ出し、木曾自身が反省する、丁度その最中。

一方、執務室では海里と以下数名は、無言で立ち尽くすしかなかった。

 

 

思えば、海里を含めてと言う話ではあるが…

情を持って「叱られる」と言う経験は、久方ぶりだった気もする。

それは、確かに、彼らの在り方を見つめ直すきっかけとなった。

 

 

最初に、海里が口を開く。

 

「いままで済まない…私は、自惚れて、甘えすぎていた…」

 

そう言って頭を下げ、己の思いを口に出していく。

 

「私は本当は提督なんてガラじゃない男だ、ただ地位と金の為だけに海軍に入ったハズが……いつの間にかこうなった、だが、私は提督として一人前の在り方を知る前にお前たちが戦いを鎮めてくれて、それで満足してしまったんだ…そして、お前たちの力を知る前に、下手したら堕落させてしまったみたいだ…」

 

 

男としても提督としても、最低だ。

 

海里は、そう占めると、土下座してひれ伏した。

 

 

だが、艦娘たちも当惑するばかりである。

 

それは当然ではあるだろう。

本来なら自分たちが悪いのに、戦いの深い知識も無いこの自分たちの上司を土下座までさせてしまった。

しかしなんて声をかけたら良いのか、それすらもわからない。

 

そんな中、くすくすと小さく笑いながら声を上げるのは、扶桑であった。

 

 

「木曾さんが…基礎トレーニング……ウフフ、いけるかしら」

 

こんなタイミングでダジャレかよ、と全員が倒れる中、扶桑は更に続けた。

 

「ダジャレで笑い飛ばしでもしないとやってられないわ…私たちの情けなさのせいで、木曾さんを徹夜させて、今も提督さんを土下座までさせている、そんな事ってある?…星はあんなに輝いてるのに…」

 

 

扶桑の言葉を受け、その瞬間執務室の空気は変わる。

それは、なんというか、リンガ泊地では今までなかったものであった。

そして、意を決したかのように艦娘たちは次々声を上げた。

 

 

「まあ、阿賀野のダイエットにもなりそうだし、ちょっと頑張りますか!」

 

と、まず阿賀野が

 

「如月たちの輝く本気、見せてあげる!」

 

と、次に如月が

 

「言われっぱなしはガラじゃないのです!電たちは本気、見せてあげるのです!」

 

と、電が

 

「最強の力を手に入れて、最強のフィールを手に入れてやりましょう!」

 

と、最後にデュエリストなブラック・フェザー=サン…もとい、羽黒が

それぞれ気合いを入れて、扶桑の発破に答えるのであった。

 

その後、木曾たちと落ち合ったみんなは頑張るから見とけ、と言う中で、

さっきはあんまりだったと木曾は何度も頭を下げる。

 

レ級と飛鷹はそんな姿をみてなんだかおかしくなってくすくす笑い合う。

 

木曾が本当に、リンガ泊地の仲間になったような、そんな日であった。

 

 

 

そして、その翌日。

 

木曾の提案通り、基礎練習の軽い導入として、トラックの長距離走を行う次第になった。

木曾に勝てたら間宮で好きなモノを奢り、しかも木曾にハンディが付くとなれば、

なんというか、先日見せたやる気とは違う、妙にどす黒い…とまではいかないが汚いやる気にあふれるリンガ泊地のメンバー。

 

しかし…

 

「キソー!モットハヤクハシレー!」

「へいへいほっぽちゃん…お前ら置いてくぞ!」

 

ほっぽを肩車しながら、えっほえっほとランニングしている木曾。

それを先頭に、リンガ泊地の艦娘のメンバーが後を追うように走っている。

しかし、木曾がほっぽを肩車しながら先頭を走る姿を見て、なんとか追いついた羽黒は思わず声を上げる。

 

「何で私たちより重いものをしょって、私たちより速いんですか…」

「そりゃ、お前…慣れだ、羽黒」

 

ぜえぜえ、と息を切らしながらの羽黒の指摘に涼しい顔で答える木曾。

そして、顔色飼えずこう言った。 

 

「艤装のエンジンの故障を想定して、大本営だと50キロぐらいある土嚢を背負って10キロ近く走らされるデスマーチとか有るしな、ほっぽちゃん抱えて平地で、それもトラックで何もない3キロぐらいの道のマラソンならへーきへーき」

 

 

マジでか、と言った表情になる艦娘たち。

平気なのは、当の木曾と肩車されているほっぽぐらいである。

 

そして、記録を伸ばさせるためか、ただウォームアップが終わったからか。

木曾はほっぽを抱えたまま、艦隊の誰よりも速く先頭を切って走っていく。

全員が、唖然とするしか無い。

 

「あかん、あの人言うだけのこと、あるわ…」

 

阿賀野に至っては、先日見せたやる気はどこへやら。

心が折れたかのような声でつぶやき、がくんと肩を落としたのである。

 

 

そして、その10分後弱であろうか。

 

一人ゴールを先に決めた木曾が、ついてこれず周回遅れになりかけて、ひーひー言っている艦娘たちを見ながら呟く。

 

「やっぱり…なぁ」

「ヤッパリ?」

 

木曾の何気ない呟きに反応するほっぽ。

木曾は視線を最後尾に目を向けて、その答えを示した。

 

「如月、だ」

「キサラギ、アイツダケ、アルイテルナ」

 

見ると、そこでは、心が折れながらも走る艦娘たちの中で、

一人よろよろと歩いて、なんとか最後尾の扶桑の背中を追っている如月の姿があった。

 

 

マラソンは如月の到着を待って、木曾のゴールから約20分ほどして終了する事になった。

 

そして身体を休めさせるため、一時間ほどの休止を取らせ解散させる中、

木曾は一人記録をとりながらごちる。

 

「やっぱり…もしかすると、如月は駄目かも……」

「如月ちゃんの、どこが駄目なのです!」

 

しかし、その呟きは、電に聞かれてしまった。

如月への嫌みか、とムッとする電。

だが木曾は、如月の事じゃない、と笑いながら答えると、電に向かってこう言った。

 

 

「ああ…駄目なのは如月本人じゃない、渡した個別メニューの事だよ」

「…昨日の、アレなのです?」

 

 

先日渡したと言う木曾の個別メニュー。

基本的に簡単な、最長一時間もしないトレーニングのメニューではあったが。 

寝る前に行うぐらいの練習でも出来るような、場所と時間をわきまえなくてもそれなりに大丈夫な筋力トレーニングと、柔軟体操のメニューであった。

更に言えば、本人の適正に合わせて、微妙に内容を一人一人変えていた。

そんな代物である。

 

 

「そう、どうにもあの子は体力が少ない…先天的に筋力が少ないのか、少なくとも今の段階で電たちと同じトレーニングをすると…下手したら、骨に来て成長阻害を引き起こしたり疲労骨折をおこしかねん」

「骨折?!一大事なのです!」

「まあ、それは極端だけど、普通に筋肉や関節を痛める可能性が有るなぁ…」

 

木曾はそう言って、思案する。

自身の組んだメニューのせいで、それはかわいそうだよな、と考え込む。 

成長期でも、子供向けの訓練の調整は難しいな…と、明日にでも神通と相談しようかと木曾は言うと、

電の頭をなでながらこう占めた。

 

「やっぱり、電は仲間思いの良い奴で、強いよ」

「そ…そんな事は無いのです!私はこの泊地の一番の先輩なんだから、友達の心配は当然なのです!」

 

二人は笑いながら、そう言ってすぐお互い頑張ろうと笑い合い、これからの事に語り合っていくのであった。

 

 

一方、とうの如月はと言えば…焦っていた。

 

はじめから、自分が何でも出来るとは考えては居なかった。

大本営のエースだった木曾もちろん、羽黒や阿賀野と言った、自分より大人の艦娘より動けるとも、

そんな事は思ってすら居ない。

 

しかし、如月にとって電は別である。

友人であり、同じ駆逐艦であり、なにより本当のところで言えば、ライバルだと思っている。

少なくとも、友人だからこそ、完全な風下に立ちたいと思っている相手じゃないのだ。

 

だが、結果は果たして、残酷に出た。

如月の完全敗北と言っていい、少なくとも体力勝負ではそうであった。

今のままでは駄目だ…心の中でそう想い、密かに燃え上がる。

 

「如月の本気、みんなに見せてあげるんだから…!」

 

そう小さく呟くと、木曾に渡されたプリントにかかれた通りのストレッチを行いながら、休憩時間中もトレーニングの手を休めないのであった。

 

 

それからと言うもの、その日以降の如月は変わったと言っていい。

 

その日の午後に行われたウェイトトレーニングは自分と同じ体重以上のものを選んで羽黒に止められたり。

その日以降、食事を飛鷹や扶桑と同じ量を頼み嘔吐しかけたり。

その日の夜にも阿賀野のダイエットを兼ねたランニングに付き合って、ただでさえ疲労困憊で疲れた身体に追い討ちを食らって気絶しかけたり…。

 

「どうして、こうなるのよぉ…」

 

 

まあ、人生、そんなものと言うか、意気込みだけでは空回りする訳ではあるが、

とにかく、如月は木曾と電の心配はつゆ知らず、一人頑張ろうとしているのであった。

 

 

とはいえ、異変の足音は、如月の身に確実に迫って来ているのであった…。

 


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