木曾とそんな泊地   作:たんぺい

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第一話:木曾と別れと出会い

「あれが、リンガ…」

 

艦娘輸送専用の特殊大型輸送船の一室。

軍用の輸送船と言う事で、娯楽施設もなにもなくただハンモックに揺られる事ぐらいが楽しみの船旅の、

その終わりにて自分の新しい始まりの地になるリンガ泊地。

それが自室の窓から見えたことからか、木曾は先週の送別会について改めて思い返していた。

 

 

時は提督のリンガ泊地の話を聞いた翌朝、午前4時も回らぬ木曾の自室から始まった。

 

「木曾が左遷ですって!?提督は何を…」

「ふ、ぁ…赤城、赤城さん落ち着いて」

 

 

木曾の自室に、何故か赤城が木曾をがくんがくん振り回しながら問い詰める。

ただでさえ早い海軍の朝の起き抜けに、開口一番の話でコレである。

 

赤城は責任感が強く真面目な性格であるが天然で思い込みも強く、ショックを受けると暴走しやすい。

どこから仕入れた情報か木曾が隊から外れ海外泊地に飛ばされると知り、だまってられなかった様だ。

そこで、木曾の部屋で事態の張本人に話を聴きに来た、と言う流れである。 

 

……しかも、黙ってられなかったのは赤城だけでは無いらしく

 

 

「木曾!提督の横暴からリンガに飛ばされるとは何だ、何が起きている?!」

「木曾さん、何故海外泊地に逃避行の計画なんて…」

「木曾さん!リンガ泊地に流刑って聞きましたぁ!どういう事ですかぁ!」

「木曾っちがまるゆに手を出して憲兵に海外の営巣へ送られたって生々しい話、嫌いじゃないでち!」

 

1番隊みんな、木曾の部屋に来た。

 

 

「とりあえず真面目な話だから落ち着けみんな、後、でっちは説教」

「でち?!」

 

木曾は荒ぶる仲間たちを諫めつつ、ゴーヤは一発木曾と神通にしばかれつつ。

木曾は提督から聞いた今までの事実を説明する。

 

 

リンガ泊地が、今危険に晒されている事。

それは日本全体の危機、世界の危機に直結する事。

リンガ泊地を調査する必要がある事。

その事が出来るのが、木曾しかこの鎮守府にしかいない事。

 

最初こそ隊長の離脱の噂に色めき立った同僚達は、その張本人からの話を理解するにつれて、

揃って青くなったのは言うまでもない話だった。

 

 

「何故…木曾が……」

そんな絶句する仲間の中で最初に口を開いたのは、木曾の付き合いのいちばん長かった赤城である。

 

「俺の話を聞いてたな赤城、適任が…」

「そうではなく、貴女一人で何ができますか!私にも覚えが有りますが一人で何でも出来ると思って安請け合いしないでください!」

「そんなつもりで受けた話かよ、この任務に俺と組めるやつが今は1番隊にいないだろ」

「なれば…3番隊か4隊の誰か、陽炎や名取でも…そうだ、時雨!時雨が良いわ!彼女を貴女の護衛に…」

 

勝手な青写真を語り、一人で盛り上がる赤城。

そんな彼女を諫める為に、木曾は冷たく言い放つ。

 

「赤城、隠密任務の先行要員に複数でぞろばら出て行って何になる?馬鹿と、高雄辺りは言うだろうな」

「くっ…ですが……」

「作戦は殲滅や防衛ではなく調査だけ、ヤバくなったらとんぼ返りするなら、むしろ仲間が居た方が邪魔になりかねん」

「う……」

「そもそも提督の勅命だ、提督の意向に逆らうのは愚かだ…赤城らしくないな、何故作戦に噛みつくのさ」

 

木曾のわざとらしい物言いに、まるでかみ殺すかの様な声でうなり睨みつける赤城。

そんな赤城をフォローするかの様に、武蔵たちが横から口を出す。

 

「お前は、死にに行くのと同義だろうが!友達が、仲間が止めるのは当たり前だ!」

「そうです…私の教え子たちなら、護衛を貸し出します!」

「木曾さん一人が危ないのはおかしいれすぅ!」

「ゴーヤだって、一人で飛ばされるの嫌でち!木曾っちもそうじゃないの?!」

 

参ったな。

そんな仲間たちの話を聞いて木曾が抱いた感想がソレだった。

 

本当は木曾は説明は提督に任せ、黙ってリンガに出て行くつもりだった。

しかし、何故だか情報が漏れたせいでコレである。

泣きそうな、怒った様な顔で木曾を質問攻めにしようとした、愛すべき仲間に木曾は応えたかった。

 

「本当に、本当はリンガが怖くて仕方ない…死にたくなんて、死地なんて行きたくないよ」

「木曾!だったら提督に今すぐ言え!無茶な作戦なんて…」

「ありがとう武蔵、でも、さっきいったろ…俺だけしかできない仕事なんだ、誰も巻き込めない」

「………!」

「それにな、提督は俺を一番信頼しているって言ってた…裏切れんさ」

 

 

そんな木曾の独白に、皆も更に沈黙する。

だが、しばらくの後に1番隊のメンバーにも泣きそうな顔をキリッと無理やり切り替えて、木曾へと答えた。

 

「言って無駄ですか、ならせめて生きて帰ってください、約束しなさい木曾」

「出来れば、酒呑める五体満足でな」

「木曾さんの好きな日本酒の瓶、わたしが探しますから…」

「ええ、雪風をおいていくのは禁止れすから」

「とっととそんなひっどい任務終わらせるでち!木曾っちならオリョクルよりすぐでち!」

 

仲間からの激励、やはりこいつらと組めて良かったと思う木曾。

そんな有り難く…優しい言葉に涙ぐみそうになりながら、礼を言った。

 

「ありがとう皆、そして…」

「そして?」

 

一拍置いて、木曾はみんなに質問する。

 

「リンガ行きの情報漏らしたの提督じゃないよな、だれだよ」

「ワレアオバ」

「…執務室を盗聴してやがったな、青葉ワレェェェェェェ!」

 

同僚たちの返答に、一人絶叫する木曾であった…。

 

 

 

その日の晩に執り行ってくれた、提督や同僚達の木曾の為の送別会。

木曾もふくめ、武蔵に神通に2番隊隊長の那智や4番隊の伊19と言う蟒蛇が樽2つ3つは酒をかっくらい。

赤城を筆頭に、3番隊の日向や長門と言う戦艦やそれについてくる空母たちと言う、フードファイター並の大飯ぐらい。

そいつ等を満足させるだけの、そうじゃない駆逐艦達をも楽しませるだけの豪華な和洋折衷の高級料理の山々と、それを用意できたその会場…

すべて資材と資金は青葉が出してくれたのは言うまでもない。

 

宴会が終われば、何故だか真っ白になっていた青葉は、きっとまあそれとは関係無い話だろう。

 

 

「…今となってはそんな馬鹿も懐かしいな」

 

時を、また現在にもどしつつ。

そんな一人ごとを漏らしながら、木曾はリンガ泊地とやらを改めて観察する。

 

 

小さな港に立てられたら泊地ではあるが、なかなかどうして立派な施設だったりする。

本館たる司令部は煉瓦造りの2階建て、上品な臙脂色と紅い屋根のコントラストが美しい。

それでいて嫌みにならないサイズも、木曾の好みでもある。

 

別館たるドッグや工匠施設もしっかりできており有事の際に迅速に対処出来るだろう。

海軍提携チェーン店「間宮」も揃っており、周辺施設もなかなか悪く無い。

発進を兼ねた船着き場も港そのものを取り込んでおり、艦娘たちの発着もスムーズに行っていけるだろう。

 

惜しむらくは、山に四方を囲まれ街のアクセスが悪そうなことと、港のクレーンに付いた巨大修理バケツの意味不明さぐらいだ。

 

「要するに、MMDで良くある『鎮守府』セットじゃないか」

 

木曾よ、何のことやら。

 

 

それはそうと、木曾は新たなる自分の城に思いを馳せながら。

自分の過去を胸に、後に木曾は生涯忘れ得ぬ記憶となる4ヶ月の『任務』に向かって行くのだった…。

 


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