木曾とそんな泊地   作:たんぺい

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第十九話:木曾と残して行くものとやって来るもの

デートをしよう。

 

 

そんな木曾からの言葉を聞き、食堂内に集まった者達からざわざわと色めき立つ。

 

仲良しさんなのですと電は笑い、阿賀野と如月はきゃーきゃー言いながら騒いでいる。

扶桑はあらあらと笑い、海里も驚きつつも、仲良きことはなんとやらという表情である。

レ級に至っては情熱的だナ!とツッコミを入れ、羽黒は無言で写メのムービーを録画しだす始末である。

 

デート、ナニソレ、オイシイノ?と、変わらなかったのはほっぽだけだった。

 

 

さて、当の木曾と飛鷹はと言うと…平然と、会話を続けていた。

 

「うーん、またボウリングでも行く?汗流しても良い日和よね!」

「なんでまた天気良いのに室内スポーツなんだよ…てか、お前ガーターばかりだっただろ!」

「あら、別に勝負したいんじゃなくて、遊びたいだけだもの…あんまり気にしてないかな?」

「…それならそれで、得意なスポーツ選べよ…」

 

 

などと、実にナチュラルなデートのプランのディスカッション。

なんだか歯の浮くようなセリフもお互いに飛び出していくにつれ、リンガのメンバーも何となく理解した。

…こいつら、自分たちの知らない間にデートを重ねていやがるな、と。

 

そのあたりを羽黒がたまらずツッコミだした結果、特に何事も無かったかのように木曾は答えた。

 

 

「ああ、何か飛鷹が一緒に呑みに行きたいとかって…みんなに出会ってすぐぐらいだったか、そう言い出して、それからは外出許可をもらっては時々街に出たりしたのさ」

「だって、木曾ってば土地勘も何も無いでしょ?だから、時々私が一緒についていってあげたのよ!」

「…お前、酒好きの癖に弱いから、潰れたら大変だったな…」

 

なによう、なんだとう、と、もう犬も食わない感じでいちゃいちゃしだす二人。

胸焼けして、流石の羽黒すらげんなりしだす中、如月がとうとう、とんでもない質問をかました。

 

 

「ち…ちゅーとか、そんな事はしてないわよねぇ…」

 

やりやがった、という空気になる一同ではあったが、当の木曾と飛鷹はと言えば…

 

「うーん、どうだったかなぁ…」

「まさか、酔いつぶれてる私にしてないわよね?」

「それならそれで、狙っても良かったな…」

「この、へーんたい」

 

クスクスと何事も無かったかのように笑い出す。

しかし、質問した如月はと言えば、駄目ぇ!と声を上げてこう叫ぶのであった。

 

 

「で、デートしてちゅーなんてぇ…赤ちゃん、出来ちゃうじゃないのぉぉ!」

 

 

流石にこのセリフには、木曾も泰然とした態度が崩れひっくり返り、レ級は飲んでいた水を噴水のように吹き出して、みんなも頭を抱えるしか無かったが。

平然としているのは、木曾さんと飛鷹さんの赤ちゃんならかわいいのです、とやはり呑気な電と飯の事だけで頭がいっぱいなほっぽだけであった。

 

 

ここからは余談として。

 

艦娘は兵器として「建造」されて、それらを操る少女として権限する。

ここで、今更ながら電と如月の事を「子ども」的に扱っているが、稼働年月を考慮したら電が最年長で次点で如月、羽黒・扶桑・飛鷹・阿賀野がほぼ四つ子に近い。

しかし、この泊地の電と如月は子ども扱いされており、自他共に不満はあまり出てはいない。

 

ソレはそのはずで、艦娘として権限した少女は、見た目に合わせて精神年齢と知識をもらって現れるとされている。

まあ、下手に見た目は子ども頭脳は大人な早熟な艦娘なんて提督も扱いに困るだろうし、逆に見た目大人なのに赤ちゃんみたいなのが来られたらもう困るってレベルではないだろうから仕方ない。

 

…つまり、見た目どおり、十歳ぐらいの電と如月が、そういった知識に疎く、提督たちに何気なく質問する事は流石に自然なわけで。

提督に「赤ちゃんは、仲良しな二人がデートしたり付き合ったりして、ちゅーしたら生まれる」などと言ったごまかしを信じてしまう事は、まあ、自然な話ではあった。

 

 

さて、それからというもの。

 

如月が、あんまりにもデートなんてまだ早いからだめだだめだと喚いてしまい、お互いに顔を見合わせる木曾と飛鷹。

 

…デートという言葉自体は、お互いものの例えだったのだが、如月と電にはまだ早かったか

と少し反省する。

なので、木曾は、ならばみんなで遊びに行こうと誘い、如月も電もほっぽすら、顔をパッと華やかせるのであった。

 

 

「てか、阿賀野、木曾さんに遊びに誘われたこと無いよ~、飛鷹さんばかりずるい!」

「…いや、飛鷹以外を誘おうとしたら、飛鷹拗ねるからさ」

「やっぱりデートじゃないですか!」

「あらあら…」

 

 

さてさて、それからというもの。

 

食事を済ませた一行は、木曾と海里持ちの資金を持って、大きな自然公園へと向かった。

そこは大型の雑木林を持った、小さな野球場ぐらいの広さはある公園であり、近くには小川が流れている。

近くには、なんともちゃちいがジェットコースターのような乗り物の施設が揃っており、一種の遊園地という方が近いのかも知れない。

 

そんな、緑が眩しい呑気な場所で、みんなは思い思いに遊んでいた。

 

電がギリギリジェットコースターの身長制限に引っかかったせいで号泣しつつ、悔しさを晴らすかのごとくゴーカートを飛ばしたり。

如月が陽向を避けて木陰で小説を読み始めたり。 

阿賀野が秒で昼寝を開始して、大きないびきをかきはじめたり。

扶桑とレ級が、ほっぽの木登りや滑りだいの直滑降を心配そうに見ながら、保護者として心配したり。

海里がパンイチで小川を泳ぎ出したり。

 

羽黒に至っては上半身をサラシ一枚でほぼ全裸という格好の中、どこで手に入れたのか、薬莢のベルトを身体に巻きつけて、大型のエアガンを担ぎ、サングラスで日差しを遮りながら、下半身はアーミー的な迷彩柄のズボンを履いていた。

…ってこれはなんだよ。

 

 

「乱暴!怒りの羽黒です!鶯谷提督さんありがとうございます!」

 

積極的にネタを拾うスタイル自重しろよ!

…鶯谷提督様、本当に申し訳ありませんでした。

 

「来いよベ○ット!銃なんて捨ててかかってこい、です!」

 

それコマンド○だよ!

 

 

さてさて。

 

そんな、みんなが思い思いに休息を楽しむ中で、飛鷹はやはり木曾の隣でベンチに座っていた。

 

クスクスと、しかしみんなの事をどこか遠巻きに見ている飛鷹。

そんな彼女に向かって、木曾はたまらず声をかけた。

…お前は、なぜ輪に入らない、と。

 

それに対し、飛鷹は何も答えない。

ただ、みんなが嫌いな訳ではない、むしろ大好きだと思っている、そう木曾に伝え無言を貫いた。

 

 

静寂が二人の間に流れる。

 

 

それから10分ぐらいした後か、飛鷹から、ふいに木曾に向かって質問する。

自分たちの事は、好きになってくれたか、と。

 

木曾は、ああとだけ答え、また静寂が二人の間を覆う。

 

 

だが、少しずつ、少しずつではあるが、静寂の間隔は狭まっていく。

 

楽しい事が、いっぱいあった。

苦しい事も、いっぱいあった。

痛かったり、辛かったり、でも充実した数ヶ月だった。

そんな愚痴を、思いを、そして出会ってから紡いだ喜びを、二人は吐き出しあった。

 

二人だけの時間の中で、二人だけの会話が続いた。

 

 

そして、飛鷹は、ついに…木曾が居なくなるのが寂しい。

そんな本音を、口に出そうとして…呑み込んだ。

 

そういったら、きっと木曾は困った顔をするだろうから。

 

 

だって、自分たちがリンガの人間なように、ほっぽやレ級が深海でリンガの深海棲艦のように、

木曾はきっと…リンガの人間ながら、大本営の人間なのだから。

 

自分たちが独り占めしたら、きっと駄目なんだろう。

飛鷹はそう考えていた。

 

 

だから、せめて今だけは、二人でいる時だけは独り占めにしたい。

…なんとも矛盾しているが、きっと飛鷹の木曾に対する独占欲はそんなとこから来てるのだから。

飛鷹だけが木曾を呼び捨てにしているのも、きっときっかけはなんであれ、そんな思いから来てるのだろう。

 

 

そして、飛鷹はそんな思いすら飲み込んで…そして、口を開いた。

 

 

「私、頑張るから……」

「何をだい?」

「木曾が忘れないぐらい、素敵な艦娘になれるよう、頑張るから…!」

 

 

一瞬、木曾は目を見開き…

こんな濃厚な連中、二度と忘れるか…そう吐き捨てた。

 

そして、飛鷹は立ち上がり、皆が遊んでいた方向へと足を向ける。

 

 

ああ、こいつへの心配は、もしかしたら杞憂だったのかな。

木曾は昼過ぎの微睡みに身体を任せ、ふわぁと、大きな欠伸をした。

 

 

 

そんな事があった同時刻、リンガ泊地沖300キロ洋上。

一隻の海軍の輸送船がリンガ泊地へ向けて、走っていた。

 

その船内にて。

 

一人の少女が、声を上げて船内の寝室へと向かった。

曰く、今日のおにぎりは自信作です!…と。

 

 

その声を聞いて、5人の室内にいた人間の内4人がげんなりした顔を見せる。

…たが、屈託なく、食べて食べてと、子犬のような表情で言う彼女の期待は裏切れず…全員が、

意を決して口に運んだ。

 

果たして…

 

 

「まっず!お前何入れたでち!?」

「苦い!ってか…なんだこれ!」

「ぶっふぉ…なんれすぅ?」

「く…沈みません、教え子の心使いに……やっぱり無理ぃ!」

「あら、ありがとうございます」

 

 

 

約一名をのぞき大不評である。 

たまらず、全員から中身はなんだよと聞かれ、そんな少女は実に屈託なく説明をはじめた。

 

「はい!皆の栄養を考えて、冬中夏草と高麗人参と、あとプロポリスなんて隠し味に入れました!」

 

…どこで手に入れただろうというスタミナ漢方のオンパレード。

大ブーイングの嵐である。

 

「お前馬鹿じゃないでちか!?」

「栄養ドリンクじゃないんだぞ!おにぎりの具にするな!」

「身体が、なんか熱いのに寒いれすぅ…」

「…一般常識から、教えないと……」

 

不評だった4人からダメ出しを喰らう中、一人だけ平然とした、その女性は4人を諫めるとこう言った。

 

「止めなさい、この子は私たちへの心使いを…我々が友人へとあう為に、身体の事を考えてやったのです」

 

 

彼女のフォローに、感涙する少女。

少女に向かって鉄のような微笑みを崩さないまま…その女性は口を開いた。

 

 

「そう、木曾…皆の昔の隊長であり阿武隈の先達の人にあう、そのための活力作り、そうですね、阿武隈」

「は、はい!赤城さん!」

 

 

そう、彼女たちは、赤城と阿武隈…そして、左から、伊58と武蔵と雪風と神通という面々である。

木曾のかつての居場所には阿武隈が収まった、新生1番隊の隊員たちであった。

 

 

 


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