阿武隈と言う娘はとても優秀だった。
戦時では4番隊で長く活躍した後、1番隊の木曾の後任に抜擢される。
そこで、更に赤城と神通の肝いりの弟子として、鍛えられた。
また、終戦後はアイドルとして華麗に転身する。
そのかわいらしい容姿に似合わず高い運動神経。
真面目でまっすぐな裏表が無い性格。
更に演技もまだまだ体当たりだが、吸収力抜群と言う事で、TVの華として活躍している。
…ただし…
「…ハーイ、じゃあ、阿武隈ちゃん、このお寿司屋さんの感想言ってみようか!3、2、1!」
「…あ、はい!この新しく出来た涼風さんと戦艦棲鬼さんプロデュースの『深海寿司』!深海直送新鮮なネタが自慢のお寿司屋さんです!私のオススメは…粉の抹茶とガリ、でーす!」
「オイちょっとカメラ止めて!せめてサイドメニューでさあ…」
凄い、天然さんである。
悪気は無いし、わざとらしさが無いために、わりと世間には受け入れて貰ってるが…ボケ方が酷い。
ただ、天性の可愛らしさからか、愛される才能の一つではあった。
現役時代も、赤城や神通が特にそういった所をなんだかんだ言って可愛がっていた。
さて。
そんな彼女は、今、CS限定ながら一本のレギュラー番組を持っている。
その名も『阿武隈ちゃんチャレンジ』。
簡単に言えば、散歩系…だろうか。
良くある、タレントさんが地方の街の名所や商店街のお店を、ゲストと一緒にぶらぶらするアレである。
で、今回の街の場所とゲストはと言えば…
「私のお師匠さんで、この地のリンガ泊地の事務員さんをしてます!神通さんです!はい、皆さん拍手拍手! 」
「ちょ、ちょっと待って阿武隈、どういう事なのぉぉぉぉ!?」
件のカオスの街リンガ、そしてゲスト枠が泊地から無理やり拉致されてきた神通だった。
「…確かに、リンガ泊地とその周辺をテレビのロケ地にするとは聞きましたよ!でも貴女が来るなんて聞いてないし、そもそも私を出すとかもっと聞いてないですよ!」
「…そういうと思って、私しっかりアポ取りましたよ!武蔵さんに!」
「アイツ今どこに居るのかわかんないでしょ!せめて木曾か赤城か飛鷹さんにアポ取りなさいよ!むしろ何で武蔵にアポ取れたのよ!」
「ってか、今テレビながれてますけど…尺、大丈夫です?」
「な、生放送!?馬鹿じゃないですか!?てか馬鹿じゃないの、コレ!」
「いえ、録画放送ですよ神通さん」
「カットされるに決まってるだろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
…そして、阿武隈ちゃんと言うか、『ゲストさんチャレンジ』と言う闇鍋企画と言う事でも話題だった。
さてさて、それから。
「…初手から、疲れました……ええ、覚悟決めましたよ、やりますよ…で、何するの阿武隈?」
「まずは…ご飯ですかね、この辺に美味しいレストランとか有ったら行こうかなって?」
「ああ、定番ですね…では、良いお店あるので、行きましょうか」
いわゆる、地元の穴場の食堂やレストランの紹介から始める事にした2人。
神通の案内で、良さげかつ値段も手頃なレストランに足を運ぶことにした。
「わーい、神通さん太っ腹!」
「…奢りませんよ、阿武隈」
「ちぇー、私の大好きな副隊長さんなのに、けちんぼさんです」
…他愛ないやりとりをはさみつつ。
白湯風の海鮮ラーメンや中華風蟹炒めが人気のフュージョン系の中華料理屋さんにて。
阿武隈が、じゃあいつもの一つ!だの、初めて入るお店の入店直後にボケながらも、
なんだかんだ料理をつつがなくつついた2人。
お腹が膨れたら、じゃあ運動と言う話になった。
「神通さんって得意なスポーツ…って私以上に動けるわ、師匠さんですし…」
「はは…結構なまっちゃいましたけどね、阿武隈こそ、好きなスポーツあるのかしら?」
「私は…夜のスポーツが大好きです!気持ちよくて、スッキリします!!」
…阿武隈の爆弾発言に、神通は頭から倒れた。
と言うか、カメラマンやADも一様に頭から倒れた。
阿武隈本人は…きょとんと、していた。
「何でみんなひっくり返ってるの?阿武隈普通の事しか言ってませんよ?」
「…オイ、ちょっとカメラ止めて、マジで止めて…このバカしばくので!」
「何でですか!夜のお風呂上がりの後に卓球やストレッチってすごく気持ちいいですよ!」
「言い方かなぁぁぁぁぁぁ!!」
神通は、また、胃痛に苛まれた。
それはさておいて。
2人は、腹ごなし代わりに、テニスコートを借りてテニスをする事になった。
美少女2人のテニスウェアからのぞく身体のぴっちりしたラインとスパッツの眩しさが健康的なエロスを…
「ナレーションさん、自重してください」
神通さんごめんなさい。
それはそうと、ギャラリーは当初、美少女2人の見せ物と言うか、そんな感じで人が集まっていたのだが、
しかし…彼らの認識は、直ぐに改められたのだ。
彼女達はあくまでも戦艦の英霊…2人にとってはお遊びレベルの普通のテニスでも、
一般人からしたら、人知を越えるテニスだった。
「行きますよ阿武隈、『神通ホームラン』!」
「ぐわぁぁあ?!」
阿武隈が空を舞い…
「神通さん見ててください!『108式波動球』!」
「きゃあ!?やりましたね!」
神通が空を舞い…
「でも、これでトドメです…『ブラックジャックナイフ』!」
「きゃあぁ!参りましたぁぁぁ!」
そして、トドメにやっぱり阿武隈が宙を舞った…って、テニスってそういうゲームじゃねえよ!
…その後、テニスコートも金網も穴だらけにして2人が出禁になりながら。
次は何すると言う話し合いの末、とりあえず街を歩いてから考えると言う話になり、地元の大きなショッピングモールへと、2人は足を向けた。
何を買うでもなく、ただ、ブラブラと。
2人の会話だけが、2人の花を添えていた。
「…神通さん酷いですよ、手加減ぐらいしてください…」
「はは…すみません、勝負事は熱くなるたちですので…」
「熱くなるタイプなら…ギャンブルしちゃ駄目ですね!私も、麻雀ですってんてんになってから、そう思うようになりました!」
「ちょ、ちょっと!身ぐるみはがされるぐらいお金を毟られたの!?駄目じゃない!」
「え…一度、ゴーヤさんと雪風さんとサンマで親睦会がわりの脱衣麻雀してただけですよぅ」
「脱衣麻雀かよ!それはそれで駄目でしょ!てかあんなペラペラの衣装の人に負けるの!?弱過ぎじゃ無いですか!?」
「…運50と運60」
「…そうですね」
…最後は、微妙に乾いた笑いにはなったものの。
そんなおり、ふと、阿武隈は聞いた。
今日は楽しかったか、と。
神通は…ものすごい微妙な表情をしたものの…ため息一つ吐いたあと、続けた。
「あー…まあ、めっちゃ疲れました、ええ無駄に疲れましたが…ごめんなさい、今日の阿武隈は近ごろの赤城より正直ひどかったですが……でもね、楽しかったです!後輩の元気な顔が見れてばかばかしいお話ができて、すごく楽しかった!それは事実ですよ」
そんな神通の言葉を聞いて、最初は泣きそうだった阿武隈だったが、子犬が尻尾をふるかのようにキラキラした目へと変わった。
そして、そんな阿武隈は、ぱしっと神通にくっつきながら礼を言った。
…ありがとう、大好きです、神通先輩!と。
そして、ふと、阿武隈は花屋に偶然目を向けた。
ダッシュでそのお店に向かい花束を渡す…そして
「一応、これで時間的に番組は終わりです!ありがとうございます、そしてわがままに突き合わせてごめんなさい…」
「あ、ああ…これは、その返礼代わりなんですね、綺麗ですよ阿武隈…ありがとう」
「…あと、とっても大好きなお師匠さんに、忘れられないプレゼント一個、です!」
阿武隈が神通をあすなろ抱きで抱きしめて…
神通の頬に、阿武隈の…柔らかいものが当たった。
そして、次の仕事がありますから~と、阿武隈は元気に去っていった。
その後、神通が番組から解放されてリンガ泊地に帰参したときに話を進めよう。
「ふふふ…阿武隈のクセに、生意気です」
開口一番、神通のこのセリフに、皆が一様に何事かと聞く。
その答えに対し、神通は嬉しそうに答えた。
「後ろから私を…不意打ちでぎゅっと抱きしめてね…」
「阿武隈ちゃん、大胆だな~」
「大好きって言いながら、私に囁いて…」
「阿武隈って情熱的ですね、今度、木曾に試してみましょうか…」
「ほっぺたに、その…やっぱり体が火照って来てしまいます!」
「…意外に純やね、神通」
神通がきゃあきゃあ身悶えしながら話す様を、飛鷹と赤城と木曾は驚きながら聞く。
そして、最後に神通はこうしめた。
「ええ…スッゴい大胆にプレゼントしてくれたんです!このカピバラさん人形のストラップ!限定品で、私買い逃してて…今度、何お礼しましょうか!」
3人は、こんなオチかよ!神通もわりと天然さんかよ!…と、ひっくり返ったそうな。