木曾とそんな泊地   作:たんぺい

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第四話:木曾と海里提督の艦隊

「何から話したらいいんだろう、な」

 

ひとしきり絶叫した後は、理解の範疇を超えた事態に頭を抱えショート寸前の思考となって長椅子に横たわる木曾。

そして、ポツリとこう漏らした後、更に言葉を続ける。

 

「深海棲艦と艦娘、こんなのんびり談笑して仲も無駄に良さそうで…一体、何から突っ込みを入れるべきなのかがわかんねぇ……」

 

木曾は心から放心しつつ、目の前の異常事態について漏らした。

 

 

深海棲艦

 

それは闇に堕ちた艦の記憶の残滓。

艦娘と対になるように、世界に艦娘が生まれたと同時に現れた影の艦娘。

 

その姿は、可愛らしい女性の姿で統一された艦娘とはまるで異なり、

魚や鯨のような駆逐級や形容し難い化け物のような軽空母級、

あるいは、艦娘と同じように女性の姿を持った上級クラスの重巡洋艦や戦艦級ももちろん存在する。

 

そして、前述の通り、それすら遥かに凌駕して強烈な自我と強大な戦力を持った最上級、

それが姫や鬼と称される悪魔たちである。

また、戦艦級とされているが、レ級のみ鬼クラス以上の位置とされている。

 

彼ら深海棲艦の目的は全くわからない。

ただ、人や艦娘の反応を嗅ぎ付けたらどこからともなく沸いてくる。

 

人と艦娘の天敵にて、海の覇権を争って今なお戦う悪霊たち、それが深海棲艦と言った存在だ。

まして、ただでさえ、最下位クラスの駆逐級ですら油断ならない相手であるのに、

木曾の目の前に存在する深海棲艦は最上級とそれに次ぐニア最上級と呼べる2体だ。

 

 

そんな、危険の象徴たる、肝心のレ級と北方棲姫はと言えば

 

「ヒヨウ、キソッテノガナンカヘン」

「あー、ほっぽちゃんとれっちゃんにびっくりしちゃったのね」

「ほっぽ様、我々、一応敵ですし無理ない…デス」

 

その宿敵たる艦娘と全く争う様子を見せていない。

むしろ姉妹か何かと談笑するかのように語りかけている。

 

知らないものが見れば、あるいは北方棲姫の愛らしさから頬を緩ますような、

そんな光景ではあるのだが…

しかし、木曾からしたら北方棲姫もレ級も厄介な敵でしかない。

それが味方たる艦娘と仲良くしていると言う事は、木曾には流石に意味がわからない事この上ない話だった。

 

 

「驚いているようだね」

 

不意に、混乱状態の木曾で背後から声をかけたのは、先の白ずくめの男のものだった。

 

白い軍帽は海軍のマークが入った金のバッジが付けられており、

白い軍服は藍色のラインと肩とポケットに添えられた金刺繍が非常に映えている。

白いズボンはあえて何の装飾が無いが故に、逆に清潔感を演出している。

 

「なお、パンツも清潔感溢れる白のブリーフだ」

 

いや、知らんがな。

ってかナレーションに割り込むな。

 

「ああ、邪魔したようだね、失礼」

 

…。

この、ナレーションをも恐れず、割り込んでいくスタイルのこの男。

その名前は「海里護(かいり・まもる)」と言う。

 

海軍の士官学校を卒業し、艦娘の指揮の適正をみとめられ提督業務に就いた男だ。

しかも海外泊地の守護を任されたとなれば、それは非常に有能と言える話である。

 

 

そんな海里は、木曾に向かってこう続けた。

 

「僕の艦隊の友人に、どうにも納得がいかない様子だね」

「友人…深海棲艦が、か?」

 

木曾は視線をレ級と北方棲姫に向けながら言い放つ。

その、木曾の何気ない質問に海里は臆せず答えた。

 

「いかにも、まずは全てを説明する為に、私の第一艦隊を集結させてくれないかな?」

 

何故深海の話の為に第一艦隊のメンバーの話になるのか。

木曾には話の繋がりが全くわからないが、その言葉に従う事にした。

 

 

「まもちゃん提督に呼ばれてじゃじゃじゃじゃーんっ!阿賀野、参りました~!」

 

まず、執務室に入って来たのは、頭の緩そうな言動のセーラー服の女性である。

 

スタイルの良い黒髪ロングで白と赤の服と、飛鷹と共通点は多いものの、それがかえって飛鷹との差違を強調している。

アクティブな現代っ子風のくるくる回るような無駄な動き。

にこにこしながら、ウインクまでかます緊張感の無さ。

巨乳も、何か全体的な雰囲気のせいで、駄肉と言いたくなる要素になっている。

 

なんというか、飛鷹が箱入りの令嬢なら、彼女は怖いもの無しの変なアイドルと言うイメージだろう。

うざかわいいと言う言葉が、実にしっくり来る。

 

 

「はぁ…雲はあんなに自由なのに…あら?見知らない顔が有るわね?」

 

次に執務室に入って来た女性は、さっきの子とはまた別な雰囲気をしている。

 

一言で言えば辛気くさい、空気が何か重い。

ある意味深海棲艦以上の負のオーラを背負い、その瞳は虚空を見つめている。

整っている容姿で口元は笑っているのが、かえって妙に怖くなっている。

 

井戸から出てくる昔ながらの女の霊、木曾の第一印象はそんな感じだ。

 

 

「あらぁ、司令官さん?その人が大本営のエースさん?」

 

そして、更にやってきた女の子は妙にアダルティ。

 

セーラー服に身を包み、ピンクに染めた長い髪に気だるげな瞳。

髪をかきあげるその仕草には、何か媚びるような視線も添えている。

完全に体格は小学生の高学年程度な事が、かえってアンバランスなエロさを表現している。

 

ある意味数年後が空恐ろしい、そんな感想が見るもの全てに抱かせる感想だろう。

 

 

「はわわ、電が最後なのです!」

 

最後にやってきたのは、ザ・子供と言うべき感じの駆逐艦である。

 

明るい、しかしながら自然な髪色の栗毛。

全身から漂っている純朴そうな雰囲気。

そして、変にすれていない明るい口調。

 

さっきのエロ小学生の後で見ると、と言うかさっきの色物3人の後で見ると安心感が恐ろしく半端ない。

木曾は密かにそう思ったりした。

 

 

「ええ、これでみんな揃いましたね」

 

部屋にやってきた4人の艦娘を見届けたOL風の女性が、部屋を一瞥する。

 

おそらく、彼女がこの一行のまとめ役なのだろう。

穏やかな口調ではあるが、彼女の言葉を聞いた瞬間、場にいる艦娘全ての姿勢が正される。

仕事の姿勢もそうであった様に、真面目が服を着て歩いていると言うタイプなのだろう。 

 

身に纏った藤色の洋服も、よく見れば汚れ一つ付いていない。

木曾も思わず彼女の言葉に反応し、背筋を伸ばした。

 

 

「阿賀野、扶桑、如月、電、羽黒…そして、この飛鷹!提督に敬礼!」

 

最後に、飛鷹の掛け声でビシッと敬礼する六人の艦娘達。

実に海軍らしい光景である。

と言うか、であったのだが…

 

 

「うん、かっこつけるのは良いけど…お前らの敬礼は陸軍式な、間違ってんだよな…」 

「え…」

 

惜しむらくは、全員陸軍式で敬礼してしまっているせいで、

もう、なんというか台無しになっている。

木曾がたまらず突っ込んでしまったせいでもあるのだが、空気が急激に寒くなってしまった。

 

「まもちゃん、何で教えてくれなかったのよ!阿賀野恥かいちゃったじゃん!」

「阿賀野さん落ち着いて…えっと…陸軍に海軍にって、違いあるのです?」

「電ちゃんったら私に聞かないでよぉ、飛鷹さんは知っているの?」

「知らないってば、ってか羽黒に教わった通りにやってただけよ」

「おかしいですね…漫画だとこんな敬礼だったと思ったのですが…」

「鳥はあんなに上手に飛べるのに…」

 

 

なんだか、拳々服膺とああでもないこうでもないと言い出した艦娘達。

実に茶番と言う二文字がしっくり来る光景だ。

 

そんな、あまりにも海軍らしからぬ空気に流石に色々と我慢の限界だったのだろう。

木曾は拳をグーで握りしめると、手近にあったテーブルにガンッと殴りつけた。

 

いかに鷹揚な木曾とは言え、その実は見た目以上の屈指の武人である。

その武人たる木曾の放った怒気に、その場にいた全員が戦慄する事になった。

そのオーラの本気には、深海棲艦の2人すら怯む。

電と阿賀野に至っては既に泣き出しかけていた。

 

 

「お前ら、ふざけるなら余所でやれよ…って言うか、海里って言ったか?これを俺に見せたかったのか?」

「ああ、その通りだ」

 

その、木曾の何気ない一言にあっさり答えた海里。

木曾の怒りは一気にそこに向かった。

 

「あいつら、軍人の空気の欠片も無いだろう?敬礼の仕方すら、まるで知らないんだから」

 

しかし、木曾の怒りの視線を向けられても一切怯まずに海里は答える。

その言葉に、木曾は一瞬怒りを収める。

…その通りだと、納得出来てしまったからだ。

 

だが、そんな木曾に向かって次に出てきた海里の言葉に、木曾は更に驚愕する事になった。

 

 

「だからこそ、軍人じゃない普通の少女たちだからこそ、このリンガは深海の脅威から救われたのさ…ここでの敵との戦いは、全て終わったんだ」

「え…?深海の脅威が終わり……ええええええええ!?」

 

木曾は、今日一番の声で、絶叫したのである。


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