木曾とそんな泊地   作:たんぺい

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第六話:木曾とリンガ泊地でのかつてのいざこざ

「最初は勢い以外の何物でもない建造から生まれたチームだったし、チームワークなんてなかったな」

「まあ、あんたがノリだけで組んじゃったと言うか、生んじゃった艦隊だしな…」

 

木曾に向かって笑いながら話す海里。

そして、やや真面目な口調になると、こう言った。

 

「うちの第一艦隊がチームとして完成されたのは…深海との本格的なかかわりが出来る前ぐらいだったか…」

そう言って、また長い長い過去を語り始めたのである…。

 

 

「これは…またか」

 

時はリンガ泊地での過去、ちょうど艦娘が6人揃い艦隊が結成されて。

それが2週間ほど経ち、海里のリンガ泊地の艦隊がしっかり始動した頃の話である。

上記の海里のセリフは、その第一艦隊が帰投した際に吐いたセリフであった。

 

 

その言葉通りと言うか、その艦隊はぼろぼろという有り様である。

無傷の艦娘は誰一人存在しておらず、ほとんどの艦娘は中破状態の怪我を負っている。

唯一、小破ですんでいたのは空母であるが故に最後方で陣取っている飛鷹ぐらい。

羽黒に至っては、下手すると死ぬ一歩手前と言う大怪我を負っていた。

 

それまでの戦いでも小・中破者が大量に出るわりにほとんど大した戦果をあげられず、いまだに深海棲艦相手のスコアすらとれていないこの泊地の艦隊の戦果としても、今回は特に酷い。

戦術的どころか、普通に敗北Dが付くような、ある意味見事な有り様である。

 

 

それが、例えば明らかに戦艦クラスの山が相手で火力で負けている相手と言うなら、無論わかる話だ。

そんな敗北の責任は、むしろ指揮を失敗し引き際を誤った提督一人のものであろう。

 

しかし、彼女ら艦隊の相手は軽巡洋艦クラス一匹に駆逐艦クラス2体と言う明らかに負けている要素が皆無な深海棲艦が相手だった。

そうなれば艦娘の落ち度と言うしかない、明らかに勝てる試合を選手のせいで落としたと言う話なのだから。

 

あるいは、初陣で浮き足立っていた艦隊なら言い訳はいくらでも出来るだろうが、この艦隊が戦っていたのは既に4度。

しかも、泊地周辺の、比較的危険性が少ない海域での戦績となれば、もはや意味がわからないレベルだったりする。

 

 

しかし、件の艦娘たちの表情は、どこか納得がいかないものでしかなかった。

まるで「自分たちのせいじゃない」と言いたいようだった。

…約一名を除いて。

 

ぼろぼろの姿のまま、最初に口を開いた艦娘は阿賀野である。

 

「まもちゃんて~とく!」

「まもちゃん!?」

「『まもる』だからまもちゃん提督よ、それはそうと!」

 

阿賀野の、妙なあだ名でよばれ狼狽える海里。

しかし、その次に出てきた言葉には、阿賀野ならず皆が思っていたであろう言葉を代表するかのように、

一同の表情が厳つくなる一言だった。

 

「電ちゃんを旗艦から外して!今すぐ!私たちもうたえられないよ~!」

 

 

その言葉に凍り付くように表情を青くする張本人の電と、口では阿賀野を諫めつつも顔は「良く言ったお前」と言い足そうな顔の、残りの艦娘たち。

そう、阿賀野の言うとおり、この艦隊の現場の指揮を取っていたのは旗艦を勤めていた電である。

 

司令部からの指示は作戦前に決定するものだ、作戦中は現場の艦娘自身が指示を出す。

司令官は超能力でも持たない限り現場の状態何かわからないのだから、細かい指示は艦娘のリーダー役しか艦隊を率いれないのだ。

 

要するに、この艦隊の惨状は、究極的には電ひとりの敗因と言う話になる。

 

 

それでも、何か自分たちより優れている艦娘が旗艦なれば、あるいは電の旗艦は納得がいく話である。

しかし、ぶっちゃけると海里のノリと年功序列と言う、あまりに雑な理由でざっくり決まった電の旗艦。

外せと言う阿賀野の欲求は、至極真っ当な言い分でしかない。

とうとう、旗艦の電では無く羽黒と言う大破で死にかけた同僚が現れたら、尚更であろう。

 

それは海里も、完全に理解していた…しかし

 

 

「それなんだがな…まだ、時期尚早だと思う」

 

海里の返事は、Noである。

それを受けて、阿賀野ならず艦娘たちが、電でさえ驚き絶句する。

そんな彼女達を一瞥しながら、海里は話を続けた。

 

「その話について、私は電に話を聞きたい…気になる事も有るしな」

「気になる?」

 

海里の言葉に頭を捻らせる阿賀野と、ビクっと背中を震わした電。

その電の態度に海里はある確信を抱きつつ、冷徹に言い放った。

 

「資料を見て気がついた事が有ってな…阿賀野の他に羽黒もまじえるが構わんな、ドッグでは高速修復材の用意も完了している」

「…わかったのです、電は、逃げないのです…」

「ならば、よし…解散!十五分後、呼ばれた者は執務室に集合!」

 

この通り、結成僅か二週間ながら、実に重々しいチームの問題が浮かび上がったのである。

 

 

そのドッグで向かう道中で、飛鷹は一言、電に声をかけた。

 

「私は…電の考えてる事、なんとなくわかるわ」

 

突然の話に電は目を丸くする。

まるでエスパーのような言い草に、電は焦って

 

「な、何をいってるのです?」

 

と、間抜けな反応を返す。

しかし、そんな電に向かって、飛鷹は優しい顔で構わずに話を続けた。

 

「阿賀野はああ言ったし私も思うところはあるけど…私は電ちゃんのやり方は、肯定するし嫌いじゃない」

「…」

「私は、あなた以上に戦いが嫌いなの…本当は客船や商船が仕事だったはずだから、だから、やりかたの是非はともかく電を尊敬しているわ」

「ありがとう飛鷹さん…そしてごめんなさい、なのです」

「謝るなら羽黒に…ね、あなたのわがままで、電をかばおうとして巻き込まれたのが大怪我の原因なんだから」

 

そう言って、すたすたと一人。ドッグに向かった飛鷹。

残された電は、悲壮な表情で俯くしかなかった。

 

 

そして、高速修復材による羽黒を含めた中破・大破者の怪我が完治するや否や、

疾風のように召集された艦娘は執務室に来ていた。

提督によばれなかった、如月も執務室に来ている。

 

そのことは海里はスルーしつつ、PCでプリントアウトしたいくつかの紙をホワイトボードに張りながら、

艦娘たちに話をはじめた。

 

 

「まずは、図を見てほしい…簡易的ながら、戦場となった海域の簡易な図だ」

 

そこに指されたプリントには、なるほど簡単な海域のイラストが張ってある。

岩礁地帯は茶色、他は青く塗っているだけのものではあるが。

 

「そして、次にこれが敵艦隊の動きだな」

 

次に海里が手に取ったのは、敵艦の移動経路の資料である。

そこに赤い凸を並べることで擬似的に敵艦の動きを再現する。

資料ではごちゃごちゃ書いてあるが…絵にすればわかりやすい、三日月状に、孤を書いて移動しているだけである。

 

「そして…肝心のうちの部隊の動き、今回は砲撃に限ってのみの資料を元に、砲撃の方向を計算した」

 

最後に、海里はマジックで、海域のイラストに砲撃が飛んだであろう方向を書いた。

 

視覚で見れば、まるで一発だった。

砲撃がギリギリ当たらないように道を作るように飛んでいる。

まるで、砲撃をかわすと、進行方向から無理なく真っ直ぐすすむだけでそのまま脱出が成功する様に。

 

無論、艦隊のみんなも薄々気がついていた事ではある。

しかしそもそも海上から敵を狙うことは難しい為、揺れや波の影響のせいで当たらないと思い込んでいた。

だが、資料として出されたら言い訳できない…電はわざと砲撃を外し、それを味方に強要していたのであった。

 

 

これにぶちきれたのは横で話を聞いていた如月である。

 

「電ぁ、あなた私たちを殺す気なの!?リーダーの癖に、何を考えてるの!」

「…っ、如月ちゃん…」

 

激昂する如月に何か言おうとした電だったが…

 

「はじめて合った時から、私は友達だって、信じてたのにぃ!」

 

如月の突き放すような、最上級のキツい言葉に、泣きながら顔を俯かせるしかない電。

更に如月に罵声をあびせられそうになる電であったが…それを止めたのは、意外にも、

今回の件で最大の被害者である羽黒であった。

 

「そこまで、如月ちゃんも言い過ぎですよ…多分、電ちゃんは敵艦だけじゃなくて、私たちの為にやった事ですから」

「え…!?」

「ちょ、羽黒さん何を…」

 

羽黒の制止は、まあ気の優しい羽黒のセリフらしいソレだろう。

しかし、電の自殺行為の強要が自分たちの為と言う、羽黒の言葉には阿賀野も如月も納得がいかない。

だが、羽黒はお構いなしに話を続けた。

 

「私たちと言うか…主に如月ちゃんと、飛鷹さんの為でもあったのよね」

「わ、私ぃ?何で飛鷹さんと私を…」

「敵艦をも救いたい、自分も誰かを殺したくない…でも、それ以上にほとんど先の大戦で血に塗れてない如月ちゃんや、血に濡れるハズじゃない生まれで戦士になりたくなかった飛鷹さん、その手を汚したくなかった…そんな所でしょうね」

 

にこやかに笑いながら電に語りかけた羽黒と、羽黒の説明に絶句する阿賀野。

如月も、電の暴走が自分のせいだと言われ思わず声を上げる。

 

「そ、そんな訳ないじゃない!そんな訳ないじゃないのよぉ…!」

「あら、もし電ちゃんのエゴで、手を汚さず自分勝手に深海を助けたいだけだったら…背中からみんなを撃つか、とっととリンガから逃げてますよ」

「え…あ、あああ……」

 

羽黒の言葉に、対に言葉を失った如月。

最後に羽黒は、電にこう告げた。

 

「みんなを裏切れない、リーダーだからこそ相談すらできない…だから、多分黒ギリギリのグレーゾーンの線での手段で如月ちゃんや飛鷹さんを守ろうとした、それは立派だと思ったから私は電ちゃんの盾になったわ」

「な…なのです!?」

「だから、私に申し訳ないなんて思わないでくださいね…一言ぐらい言ってくれたなら、ちゃんと電ちゃんの思いは受け止めてあげられるんだから」

 

 

そんな羽黒の言葉を受けて、ついにせきを切ったようにわんわん泣き出した電。

申し訳なさと後悔と、それから羽黒の優しさに、感情を鎮めることは直ぐにはできなかった。

 

落ち着いたのは、それから20分は過ぎてからのことである。

そして、掠れる声で、絞り出す様に本音を語った。

 

「ぢ…ちがう、ちがうのですよ」

「違う、やっぱり私…」

「羽黒さんの言うような、そんな綺麗な話じゃないのです…私、怖かったんですよ」

 

そこで無言になる電。

怖かった、とはどういう事かと、提督に促され、必死に言葉を考えて、また話を始める。

 

「私、私たちが前に模擬戦の訓練で砲撃をしてるとき…見ちゃったのです、的役の羽黒さんに砲を向けた瞬間に真っ青になるみんなの姿が…やっぱり、電は誰かに、生き物に向けて砲を撃つのは怖い、けど、誰かがそんな事をして手が震えるなんて…もっと嫌なのです!間違ってるのです!」

 

電ぁ…と、力無く如月が、電の名前を呼ぶ。

それは電の本音に気付かなかった罪悪感からか、電の姿があまりに痛々しかったからか。

そんな思いが、次の電のセリフから溢れる事になる。

 

 

「だから、実戦なんて、大嫌いなの…ですよ……」

 

そう言って、力が抜けた様にだらんとした表情になり…

そして、また、今度は無言で滝のように涙を流す電。

それを受けて泣き出してしまったのは…今度は如月と阿賀野であった。

 

「私ぃ、友達だと思って良かった…でも信じて…あげれなくてぇ……ごめんなさい、ごめんなさい……」

「私はもっと、酷い事いっちゃったよっ…リーダー失格なんて……みんなのこと、いっぱい考えてくれたのに…」

 

おいおいわんわんと、3人の美少女が顔を崩しながら泣き出して謝り合う中、

苦笑しながら、海里と羽黒は遠巻きにこの光景を眺めていた。

 

 

「やっぱり、司令官さんの言った通り、でしたね」

「ああ、わざと負けるにしろ戦果があまりにもおかしかったからなぁ…ならば電の気性を考えてみたら、なんとなく友達の為だと想像がついたのさ」

「話を纏めたら、実に電ちゃんらしい理由でしたね…」

 

くすくすと、笑い出す羽黒に向かって海里は最後に質問した。

 

「しかし…本当に、電に怒ってない…のか?」

「ムカ着火ファイヤーインフェルノ、ぐらいには」

「お、おう…」

「でも、司令官さん…アレみてくださいよ」

 

羽黒が指差した先には3人で笑い合う、さっきまで険悪な空気だったとは思えない、

電と如月と阿賀野の姿が有った。

それがなんだか可笑しくて…その場に居た全員が笑い出す。

 

そこにひょっこりと、飛鷹も加わった。

 

「あはは…出て行くタイミング逃しちゃったわ~」

「飛鷹さんも居たのです?!」

「いやあ、殴り合いになりそうだったら止めようと、隣の部屋でずっとスタンバってたのよね…」

 

決まり悪そうにぽりぽり頭をかく飛鷹に、みんなの視線が集まる。

より正確に言えばその背後霊のような艦娘に、であった。 

 

「みんな、楽しそうね…」

声の主は、今まで影も形すらみせない扶桑のものであった。

 

「扶桑さんもスタンバってたのです?」

「ううん…私はこういうノリ苦手だったし、怪我なんて日常茶飯事だから元々電ちゃんに全く思うところはなかったし…」

「だ…台無し過ぎるわぁ…」

「せめて口に出さないで欲しかったのです…」

 

扶桑の独白にげんなりする電と如月、ソレを見て扶桑は話を続けた。

 

「だから…喧嘩かしら?みんなが執務室で何かしてる間その辺の海上をぶらぶらしてたらね…」

「ン…フソウ、コイツラガナカマカ」

「変な子に懐かれて……何かひろっちゃったわ…」

 

そう、扶桑の横に居たのは…北方棲姫と言う、深海の姫であったのだ…。

 

 

 

「…って訳で、何か扶桑さんがカオスの元凶なのですよ!木曾さん!」

「…イイハナシダッタノニナー」

「リンガ過去編、次回で多分最終章なのです!」

「俺、次回まで出番少ないの確定かい」

 


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