木曾とそんな泊地   作:たんぺい

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第八話:木曾と深海棲艦のこれから

木曾は、長々とリンガ泊地における話を聞かされて、完全に白眼を向いてしまっていたが…

その中で、思考を整理しはじめる。

 

海里の話は理解は追い付かないが…納得はできる話の内容ではあった。

臆病さと仲間意識から全く戦意が無い艦隊、そして敵を思いやり戦うことをついに放棄した、優しき娘達。

その優しさを貫いたら、心を深海棲艦に通じさせたと言う話である。

 

 

これは、例えば青葉や秋雲あたりに話したら…面白おかしく脚色しつつ、広め出すだろうな。

そんな事をぼーっと、考えていながら、とりあえず木曽は大本営の提督や1番隊のみんなにどう報告しようか纏めようとして…

 

 

無理だと、木曾は脳内で結論付けた。

 

 

戦闘を投げ出した艦隊?

それを深海が理解した?

そんなゆるい空気が、周囲に伝わってるのか、のんびりまったりした泊地?

 

誰もが信じるわけが無いし、万が一信じたら…おそらく、相当酷い事になるだろうと言う事は予想が付く。

 

 

そもそも、目の前にいる、リンガの艦隊が深海棲艦に対してノーガードを貫けたのも、深海そのものに全く恨みが無いことと敵対しなかった事が原因だろう。

 

非戦的な温厚な新人提督の下に、奇跡的に極端に非好戦的な艦娘が揃ってしまったと言う事も、和平成立の原因と言える。

 

 

翻って、自分たちはどうなんだろう…と考えてみる。

 

自分たちは…数多の深海を沈めてきて、艦娘を沈められてきた。

木曽の目の前で心配そうな顔を見せた北方棲姫にも、直接顔をあわせたこと無い(木曽達1番隊は、AL/MI当時北方棲姫のいた場所とは逆を攻撃していた)木曾ですら思うところは少なくない。

 

幾度となく刃を交えた、ほっぽのお目付役だろうレ級だったら尚更である。

 

 

1番隊で、最も温厚な木曾ですらこうなんだから、他のメンバーなら、と言うか殆どの大本営の所属艦隊やその指揮官なら…尚更の話である事は、当たり前の話だ

 

それを、「対深海棲艦への最適解がノーガードぶらり旅ですから、今すぐ武装解除し和平の席を作れ」なんて…駄目だろう、誰がそんな無神経な事が言えるだろう。

そんな事を言うには…遅い、仕方ないとは言え、自分たちは奪いすぎて、そして奪われすぎていると言う話だ。

 

 

それに、かつて、脅威と化す前に潰しに行った北方棲姫の生存…そんな事を伝えたら、恐らくは、再殺の指令が来るだろう事は明白だった。

 

それを、誰が喜ぶのだろうか…嬉しい人間なんて、どこにも居ないだろう。

殺す側の艦隊も、殺される側の深海も…そして、何よりもリンガ泊地のみんなが、不幸にしかならない。

木曽はそんな事を、ほっぽの頭を何気なく撫でながら考えていた。

 

 

ならば、どうすれば最適解なのか…と頭を働かせたが、木曾には明白な答えは出なかった。

 

大本営のエースの一角と言う立場上、何もなかったなどという嘘も大本営に言えぬ。

しかし、本当の話を語った所で嘘つき呼ばわりされるか、

…最悪、リンガ泊地の皆が築いた、自分たちには決してできなかったその全てが台無しになるのだから。

 

はあ、と大きなため息を吐いた後、深呼吸した木曽は、自分たちの全てを正直に打ち明ける事にした。

なんとなくではあるが…木曽には、そうしたいと思っていたし、そうすることが正解だと感じたからだ。

 

一人で悩むより、このリンガのみんなと答えを考えてみたくなったのだ。

 

 

「すまないな…実は、俺は、お前たちのリンガ泊地の、深海との繋がりとの調査と……最悪の場合、『処分』を頼まれて、お前らの泊地へ来たんだ」

 

だから歓迎される立場ではない…そう言っていきなり開口して頭を下げた後、自分へ下された命令の事を話したのである。

 

平たく言えば、深海とこの泊地がつながっているのなら、最悪泊地ごと消さねばならぬ。

その真偽の調査の為の先遣部隊として、覆面調査員じみた役を任されたのが木曽なのであった。

 

その事は…無論、本来は秘密だろう。

とは言え、念押しされた訳でも、「秘密を守れ」と言及された訳でもないと苦笑しながらリンガ泊地のみんなに伝える。

…最早、とんちのレベルでは有るのだが、とも自分で付け加えることも忘れなかったが。

 

 

兎に角、木曾にとっては大本営からの命令は絶対ではあり嘘のつきようもないし、

しかし本当の事もリンガ泊地の事を考えれば伝えられない事も…

周囲には伝わるにつれ、困惑が広がった。

 

 

そもそも、不釣り合い過ぎる木曾の来訪は、そのこと自体はリンガ泊地のメンバーも不自然に感じていたためか、来訪の理由については誰も異議を唱えなかったが…

 

それはそれとして、それを真っ正直に伝えてきたことや、弱小の海外泊地の立場であるリンガの事を優先しての発言だった事。 

そして、下手をすれば、大本営そのものを敵に回すような発言には、誰もが困惑するしかなかったのだから。

 

しかし、そんな視線すら意に介さずに、木曽は最後にこう締めくくった。

 

「…お前らは軍人としては失格さ、自分の感情も殺すことは出来ず敬礼一つマトモにできやしない……だけど、人としては嫌いじゃないから、やり方もこの空気も嫌いになれないから、なら『軍人』じゃ無くて、ただの艦娘の先達として向き合ってみたくなってな…だから、嘘はお前らに吐きたくはなかったのさ」

 

そう言って、改めてぐしゃぐしゃとほっぽの頭を撫でつつ、優しい声色で言う。

 

「深海の連中も…まあ、ここに居るうちは敵とは思わない事にする、話は通じるらしいしな」

 

 

そんな木曽の態度を見て、最初に声をかけたのは飛鷹であった。

 

「…改めてありがとうね、本当は、私たちはなにされても文句が言えない立場なのに」

「…飛鷹か、別に礼は言われる筋合いも無いだろう」

「そんなこと無いわ…それでね、木曾、思ったことが有るの」

 

飛鷹の『考え』、それは木曾の思考の外にあるものであった。

 

「嘘もつけない、でも本当の事も言えない…ならいっそ、もっと大きなニュースをでっち上げてカモフラージュしたら良いのよ!」

「…カモフラージュ作戦、まあ、悪くはないけどどんなニュースを……」

 

当惑する木曾。

まあ、古典的な手ではあるが悪くない。

しかし、深海棲艦をかくまってるなんて軍法会議もののニュースをカモフラージュする手なんて、どうすんのと言う話である。

と言うか、ほぼ、この場に居る全員が思ったことだろう。

 

しかし、飛鷹は、そのことは予想済みとばかりな表情を見せると、

くるっと、急にレ級の方に顔を向け、にやりとした表情で語り出した。

 

「例えば…れっちゃんに一肌脱いで貰えれば、一瞬よ」

「な…なんデス?」

「例えば…そうね、『リンガ泊地に存在するデータを元に、ついに大本営所属艦の木曽が深海棲艦の戦艦レ級をろ獲に成功!』…とかどう?」

 

…やりやがったこの馬鹿!と言う感想が頭をよぎり、ブーッと吹き出して驚くレ級と木曽。

しかし、そんな二人には意に介さずに、飛鷹は話を続ける。

 

「これならさ、うちの泊地で深海棲艦が彷徨いてたって噂の表向きの答えにもなるし、れっちゃんもうちで正々堂々と歩けるわ!」

「…いや、それは、お前…今度はただ単にレ級が大本営に引き渡されかねんだろ……」   

「第一、本当にろ獲した訳じゃないから、データ渡せとか言われたらすぐウソがわかると思うのデス……」

 

しかし、飛鷹の無茶なアイデアに突っ込みを入れる二人。

それに、うーんと考えこむと、今度は飛鷹に如月が助け舟を出した。

 

 

「つまり、大本営がわからないなら、アイデアとして悪くない訳なのよねぇ」

「…まあ、それは」

 

確かにな、と木曾は思う。

しかし、まずそれが難しくてだめなんじゃ…と考えたら横から電と阿賀野が更に口を出す。

 

「じゃあ、レ級さんがうちから離れられない理由を付ければいいのです!」

「それか、レ級さんを大事にしないといけない理由をでっち上げちゃうとかっ!」

「だから、それが…」

 

木曽の当惑も頂点に達し、ヒートアップするリンガの面々。

とりあえず、ストップをかけようと、一言声をかけようとした瞬間…今までだんまりを決め込んでいた扶桑が急に叫ぶ。

 

 

「ファミチキくださぁぁぁぁぁい!」

「今関係ないだろ!ファミマでやれェェェェェェェェ!」

(…ファミチキく……はぁ、風はあんなに爽やかなのに……)

(直接脳内に…!ってかやるなら最後まで頑張れよ……!)

 

扶桑の脈絡の無いボケに、思わず全力投球で突っ込む木曾。

そんな木曾を見て、横にいた羽黒はしみじみ言った。

 

「ウチにはボケか天然しかいなくて、純粋なツッコミ要員がレ級さんしかいなかったから助かります!」

 

…わりと真面目な話をしていたはずなのに、どんどん空気がギャグになる。

木曽はついに頭を抱えこんでしまった。

 

「…自覚してるなら、自制してくれ……」

「やだぷー、シリアスな場面じゃないならボケ楽しいのですー!」

「しまった、やっぱこの泊地アウェイだ!」

 

フリーダム過ぎる艦隊のメンバー怒ることを通り越して若干涙目にすらなる木曾。

ツッコミのタイミングを微妙に逃して、さっきからオロオロするレ級。

後、あーでもないこーでもないと、真面目な風な話をしながらボケ倒しにいこうとする残りのメンバー。

後、話に飽きてゼロ戦のおもちゃであそびだすほっぽ。

 

 

そんな木曽達を見て、いきなり閃いた、とばかりに海里が口を開いた。

 

「良いアイデアが閃いた!木曾さん、私に任せてくれ!」

「…アイデア?」

「ああ、最高のアイデアさ!…爆発すれば良い」

「何が?!」

「誰がダ!?私カ!私デス!?」

 

海里の爆発と言う単語に、木曾は吹き出し、レ級はおびえ出すのであった……!

 

 

 

3日後、大本営1番隊詰め所にて。

 

「大変れすぅ!赤城さん!阿武隈さん!」

 

木曽が抜けた穴を埋めるため、阿武隈を交えて新生1番隊としての練度を鍛えるため。

赤城の指導の元、阿武隈は夜通し特訓を繰り返していた。 

 

そんなおりに、調子外れな雪風の声が響く。

 

何事かと、目を白黒させる阿武隈とぎろりと雪風を睨む赤城。

二人は雪風に冷たく話す。

 

「雪風ちゃん…急に、どうしたの……今忙しいの!」

「くだらない用事なら、今すぐ立ち去りなさい、雪風」

「くだらなくなんて無いれす、木曾さんのニュースれすから!!」

 

しかし雪風の放った、木曾と言う単語に色めき立った二人。

二人の目の色が急に優しさの光を見せると、雪風のニュースとやらに質問した。

 

「木曾先輩のニュースですか、何があったんです?」

「木曾は…まだ連絡もよこさないですからね、心配してたのですよ……それで?」

 

しかし、二人へ聞かされた言葉は、予想外と言うレベルでは無かったのである。

 

「はい!…木曾さん、リンガで戦艦レ級をろ獲したそうれす!」

「…え、木曽先輩ちょ……何やってんの!?」

「『大本営がレ級の引き渡しを欲求した途端、爆発すると言う返答がかえってき来た』って書いてるれす!」

「ば…爆発?何が、何が爆発するのですか!」

「木曾さんが、何故か爆発する……らしいれす!」

 

なんでそっちが爆発するんだぁぁあと言う阿武隈と赤城のツッコミが、詰め所に響き渡るのであった…。

 

 


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