マクセル・ストーリー 作:納屋
精霊の国へと繋がる街道を走る、一つの荷馬車。それを汗を拭いながら走らせる青年がいた。荷台にはたくさんのリンゴが積まれていて、それを見張る役なのか1人の男が一緒に乗っていた。
精霊の国、ワリーツは精霊が住んでいるという。しかしそれを見ることは、人間には不可能だった。というのも精霊は質量を持たず、思念体として存在しているからだった。
青年はワリーツの門番に馬車に乗ったまま話しかけ、通行を許可された。ワリーツに入国するその前に、青年は荷台の男性に金貨を二枚渡した。金貨を受け取ると、男性はお辞儀をして精霊の国の入り口で待っていた子供と一緒に歩き去った。
青年は門番に一礼した後、村長との商談のために馬車をゆっくりと走らせた。
青年は村長の家の応接間で、村長と向かい合って話していた。間を挟む机の上には、リンゴの入った箱が置かれていた。
「いやはや、マクセル君も父君と代わり映えなく仕事をするようになったな」
「いえ、まだ父には及びません。こうして商談をできるのも、村長さんのおかげですよ」
マクセルは商品のリンゴを手に取り、それをまじまじと見つめる。
それを見て、村長は目尻にたくさんのシワを作り、微笑んだ。
「……そのリンゴで、君の町が商人の町として発展したんだったな。君の父君が交易品として持ちかけたのが始まりだった」
「僕の住む町……今のウェンドットがあるのも、父のおかげだと思います。けれど、村長さんがこうやって交易を続けてくれているおかげでもあります」
「……君は、本当に成長したのだな……」
村長は席を立ち、窓の外を見つめた。応接間からは、公園の様子がよく見える。
感慨深く公園を見つめる村長を、マクセルはじっと見つめていた。
「……それで、村長。あの話なのですが……僕にはまだ難しいです」
それを聞いた村長は視線を公園からマクセルに移す。その目は微笑んでおらず、真剣になっていた。
しばらく両者が見つめあった後、ふう、と村長は息を吐いた。
「……まあ、そうだろうとは思ったよ。この話はすぐに進めていいような話ではないからな」
「はい。少なくとも、ウェンドットと南の村の了承を得ない限りは……」
「その口ぶりだと、ウェンドットからはまだ了承を得られてないのだな」
マクセルは言葉に詰まる。村長はマクセルに近づき、元の席に座った。何も言えないマクセルを見て、村長は和かに微笑んだ。
「そんなに緊張することはない。デリケートな問題だからな、これは」
「でも、いずれ必ず話を通してみせますので」
「……やはり、君は父君に似ているよ。期待しているよ」
「……はい。ありがとうございます」
村長とマクセルは握手を交わし、互いに微笑んだ。
「リンゴの納品書と代金はメイドに持たせている。帰るときに受け取るのを忘れずに」
「わかりました。ありがとうございました。……では、失礼します」
マクセルは村長に深くお辞儀をして、応接間から出た。
メイドから納品書と代金を受け取り、外に出たマクセルは強い日差しによってしかめっ面になる。
村長の家の前に停めていた馬車の馬の首を撫でていると、荷台から物音が聞こえた。
不審に思い、確かめようとしたら中からリンゴを持った1人の男が飛び出てきて、マクセルを見るなり逃げ出した。
「あ、っ……おい待て、ドロボウ!」
マクセルはリンゴを盗んだ男を追いかけ、広場を通り抜けた。
広場を駆け抜け、路地を駆け抜け、どこかの家の庭を駆け抜け、いつの間にかワリーツの中央まで来ていた。
ここには古くからワリーツに存在している大樹エデンがある。
その根本に、リンゴ泥棒が立っていることに気づいた。
「おい、お前……もう逃がさないぞ!」
マクセルは走り寄り、泥棒の衣服の一部を掴んだ瞬間に眩い光が辺りを包んだ。
マクセルは不意に目を閉じてしまった。光が収まり、目を開けたときにはそこに泥棒の姿はなかった。
代わりに、大樹の周りにふわふわと浮かぶ、手のひらほどの大きさの人型の何かが浮かんでいた。
「え……あれは、精霊……?」
マクセルの目には、精霊が見えていた。
この出来事から、マクセルの壮大な旅が始まる。
マクセル・ストーリー
初めて投稿させていただきます。
つたない表現、文章ですが精一杯書かせてもらいます。