マクセル・ストーリー 作:納屋
リンゴ泥棒を逃してしまったマクセルは、ふわふわと飛ぶ精霊に怯えながらも広場に戻った。
広場に戻った時、荷台に乗せていた重要な書類も無くなっていることに気付く。
その書類はリンゴ泥棒が一緒に持って行った、とマクセルに告げる一人の風の妖精。名前はシルムと言った。
マクセルはシルムに感謝を述べ、泥棒を追うべく馬車を走らせた。
マクセルの周りで、何かが起きようとしていた。
あれから一ヶ月後ーー
北東・ヴォルケン山脈
息を切らし、後ろを何度も振り返りながら一生懸命走っている火の妖精がいた。
追手がいないことを確認して、その妖精は岩場の陰に隠れる。
「おい、フリント!」
疲労で項垂れている時に声を掛けられ、ハッとするフリント。そこには仲間の火の妖精がいた。
「良かった……! 無事だったか!」
「ああ、なんとか……早く領地に戻ろう。空模様が怪しくなってきた」
「やつら、雨乞いを始めたのか」
「そうらしい。だから、ここから早……」
目の前にいた仲間の妖精の胸を、先の尖った氷が貫いていた。
その場に膝から崩れ落ちる仲間の妖精。次第に炎になり、燃え尽きた。
その後ろから、水の妖精が現れる。
「く、くそ……っ!」
フリントは悔しいが仲間の遺灰を残したままその場から逃げ出した。
後ろから追いかけ、執拗に攻撃してくる水の妖精。それに苦戦しつつもうまく逃げ続ける。
しかし逃げた先は行き止まりだった。そり立つ壁がフリントを足止めする。
「くそ、どうにかして…!」
「もう無駄だ」
すぐ後ろまで迫った水の妖精。手には水の球が握られている。
フリントも手に火の球を握るが、状況は不利。水と火じゃ、明確な有利関係が出来上がっていた。
「そのちっぽけな火でどうするつもりだ? 族長様が雨乞いをしてくれたから天候もこちらの味方。大人しく死を受け入れるんだな」
「ああ……わかった。大人しく死んでやる……ただし、お前と一緒にだ!」
フリントは握った火の球をおもむろに口の中に押し込み、飲み込んだ。するとフリントの身体は赤く変色し、熱く燃え出した。
「お前……! くっ!」
この辺りの地形が変わってしまうことを心の中で詫び、フリントは安らかに目を閉じた。
だが、フリントに死は訪れなかった。まだ生きている不思議にフリントは驚き、目を開ける。
そこには、元は水の妖精であったと思われる水たまりと、一人の青年がいた。
そしてその青年は、フリントの胸に手を当てていた。どうやら、フリントの中にある熱エネルギーを吸い取っているらしい。
「うぐ……熱……っ」
「お、おい何してるんだ!? と言うより、お前は俺のことが見えるのか!?」
「君が水の妖精に襲われてるのを見て、見過ごせなかった……だから、助けた」
「助けたって……無茶するよ、ただの人間なのに」
「へへ、まあ……もう大丈夫と思う。だんだん熱さも収まってくる」
フリントは驚いた。ただの人間にここまでできるとは思っていなかったからだ。
それに、水の妖精をどうやって息絶えさせたのか。
「ありがとう、本当に……どうお礼をしたらいいのか」
「いいよ、礼なんて」
「旅装をしているし、何かのために旅をしているんだろう? もし良ければ、その旅に同行させてくれないか?」
青年は少し考え込んだ。何か言葉を選ぶように話し始めた。
「えーと……こう、こんな人物を探してるんだ」
青年のあやふやな身振り手振りの説明と、口頭の説明でフリントはよく分からなかったが、そんな人物は見ていないと答えた。
あからさまに落ち込む青年を見て、フリントはあることを思いつく。
「良かったら、俺たちの領地に来ないか? 族長なら何か知っているかもしれない」
「本当か!? ……でも僕は見た通りただの人間だし、精霊の領域に人間が立ち入っていいのかな」
「君は俺の命の恩人なんだ。何が何でも通してみせる。……ところで、名前はなんて言うんだ?」
青年は思い出したような反応を見せ、慌てる。
青年はマクセルと名乗った。マクセルもフリントの名前を聞き、握手を交わした。
そしてマクセルはフリントの後をついて行き、火の妖精の領地に向かった。
どのようにしてマクセルが倒したのか?
マクセルの一ヶ月間の行動は?
これについては作中、あるいは作後に書きたいと思っています。