目覚めると金剛に…   作:mothership

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今更ですが、艦娘のスペックは大戦当時のものになっています
恐らく背中の艤装に収まらないと思いますが、そこは大目に見ていただければと思います

さて
今回の話の前半は完全に私の趣味です
あまり話の流れに関係ないので、飽きたら飛ばしていただいて構いません
ちなみにイギリス観光はだいぶ飛ばしました
機会があれば、別で書こうかと思っています

それと後半も後半で、あまり健全ではないシーンが出てきます
ご了承ください

それでは10話です


天国と地獄

ポーツマス軍港

ロンドンからやや南西の場所に位置する英海軍最古の歴史ある軍港

15世紀から使われており、現在でもイギリスで最も多くの艦娘が集まる非常に重要な場所だ

軍事関係だけではなく博物館もあり、戦列艦ヴィクトリーや装甲艦ウォーリアなどの展示品が見学できる観光地でもある

その軍港があるポーツマス市は産業革命時代、世界最大の造船業の地となり栄え、戦争で活躍したいくつかの船もこの場所を拠点とし戦っていった

また、私が大好きなバンド、Led Zeppelinの名前が入った飛行船ツェッぺリン(もちろん飛行船の方が先)が第一次大戦で爆撃をした場所でも有名だ

面白いことに舞鶴市と姉妹都市でもある

 

 

そんな軍港に足をつけた私達第91護衛隊は今まで共に航行してきた輸送船3隻と一時的に別れを告げて、数十人の人から出迎えを受けている

私達の制服に驚く人や写真を撮る人、それに艦娘らしき子までもこちらに好奇な視線を送る

 

 

「ようこそイギリスへ

とても大変な任務ご苦労だった

ジェームズ外交官一行を無事送ってくれたことに感謝する」

 

 

その中から1人のネイビーの軍服を着た男の人が私達の目の前に立ち、手を差し出しながら話しかけてきた

 

 

「わざわざ出迎えありがとう

人を守るのが私達の役目なので当たり前のことをしたまでよ」

 

 

私もそれに答えて手を差し出し握手を交わす

 

 

「流石日本の艦娘

日本の海は安全と言われるわけだな

そうそう自己紹介を忘れていた

私はポーツマス基地提督のラムゼイだ」

 

 

「私は勝浦鎮守府所属の戦艦金剛」

 

 

「とりあえず詳しいことはまた後でにして、傷を負った子がいるようだから先に船渠に案内するよ」

 

 

「私達が使っても大丈夫なの?」

 

 

「艦娘が人を守るのであれば私達だって艦娘を守るのは当然のことだろ?

だから気にしないでゆっくり入渠してくれ」

 

 

おぉなんだこの紳士の発想は

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「よし、こっちだよ」

 

 

「皆さーん 船渠に連れてってくれるみたいネー!」

 

 

「イギリスの船渠…いか程のものなのでしょうか」

「やったねー! おっ風呂!おっ風呂!」

 

 

ラムゼイ提督は私が91護衛隊のみんなに伝えたのを確認すると建物へと進みだした

ひとまず優しそうな人で安心だ

 

 

 

 

 

 

日が射す長い廊下に6人の足音がコツコツと響く

 

先頭には50歳ぐらいのいい感じに髭を伸ばした貫禄を感じさせるラムゼイ提督、それに続く私と千歳、青葉、磯風、浜風

 

傷を負わなかった私達は入渠してもしょうがないので、榛名達を船渠に入れたあと提督に案内されて応接室に向かっている

 

 

なんだかんだで勝浦鎮守府以外の基地に来るのは今回が初めてで、しかも国外の基地という新鮮な光景に思わずキョロキョロとしてしまう

 

庶民はどこへ行っても庶民には変わりないようだ

 

 

程なくして提督がある部屋の前で立ち止まった

重々しいドアの上にはRECEPTION ROOMと書かれていてここが応接室なんだと直ぐに分かった

 

流石歴史あるイギリスの基地の応接室というだけにドアさえも作りが凝っている

中ももの凄くしっかりとした部屋になっているのだろうか

 

 

「ここが応接室だよ」

 

 

ラムゼイ提督は一言言うとドアノブに手をかけた

 

 

「着いたみたいネ~」

 

 

「お~なんだか凄い所に来ましたね~

青葉の取材魂に火がつきます!」

「すごいドアだな お台場にはこんな所はないぞ」

 

各々が感嘆している中、ラムゼイ提督はドアを開けて私達を部屋の中へと招いた

 

 

「WOW!」

「「お~!」」

 

 

開けられたドア

部屋の中央には円いテーブルが4つと椅子があり、水色の壁には綺麗な額縁に入れられた絵、壁際には見るからに柔らかそうなソファーがある

部屋を照らすのは勿論シャンデリア

THEヨーロッパの部屋という感じだ

 

 

「本当にこの部屋を使っていいの?」

 

 

「あぁもちろん自由に使って構わない

寝室は別にあるから夜案内するよ」

 

 

「金剛金剛!

本当にこの部屋を使ってもいいんですか?」

 

 

「大丈夫みたいヨ~!」

 

普段鎮守府か海にいるかの大体二択なので、見慣れない装飾に今まで以上にキョロキョロする私含む日本の艦娘5人

 

 

「早く千代田にも見せてあげたいな~」

「ワタシも榛名に見せたいデース」

 

 

というか比叡と霧島にも見せてあげたかったな~

あの比叡のことだ

今頃ふてくされているんだろう

 

 

それにしてもこの装飾はすごい

うちの鎮守府もまぁ悪くはない

けれどこれを見てしまうと帰った時にあー…ってなること間違いないかな…

 

 

うちの鎮守府でもなにか真似できるものはないかと観察する

帰ってこっそり執務室をいじったら提督はどんな顔をするのか

 

 

 

…やってみる価値あるね!

 

 

 

よからぬことを考えていると悪い顔になっていたのだろう

ふと視線を感じたので横を見るとラムゼイ提督とばっちり目が合ってしまった

 

 

 

あぁ暖かい目で見られている

ずっと見られていたのか…

 

 

顔が熱くなるのを隠すように慌てて視線を逸らすと一枚の写真が目に飛び込んできた

 

数ある絵の中で一番小さいけれど一番高級そうな額縁に入れられた一枚の写真

 

 

 

…あれは!

 

 

 

「あの写真ってツェッペリンよね!?」

 

 

いつ撮られたのかは分からない古いものだけれど、生き生きとしたメンバー4人全員揃っているものがそこにはあった

 

突然の大声にびっくりしてこちらを見る5人

91部隊の皆は私が何を言ったのか分からないからか訝しげにこちらを見る

 

しかし彼だけは反応が違う

 

一瞬びっくりした顔をすると急に満面の笑みになりこちらに飛んできた

 

 

「ツェッペリンを知ってるのか!?」

 

私の手を両手で握りしめるラムゼイ提督

 

このギャップはちょっと可愛い

 

 

「もちろん!私が中が…いえ、前の鎮守府にいた時に知って1人でベースを弾いていたからね」

 

 

「おー!それはいいね!仲間が増えて嬉しいよ!

そうだ!私の部屋にいくつかあるから弾いてみない?」

 

 

「本当に!? ぜひ!」

 

 

キター!

ここにきて私すごくツイてない?

この世界に来てからイギリスに行かれてしかもベースまで弾けるなんて!

いや~あとで一気に不幸が来そうで怖いけど

 

さぁ~って、お言葉に甘えて弾かせてもらいましょうかね!

 

 

 

あ…

 

 

 

今まで熱くなっていて忘れていたけれど、ここにいるのは私だけじゃない

 

後ろを振り返ると、若干引きながら私を見る4人

完全にやらかしたみたいだ

 

 

「Sorry… 熱くなってました」

 

「いえ、大丈夫ですよ

それよりもやけに盛り上がってましたけど…」

 

 

千歳がこちらを伺うように質問をしてきた

割といつもテンションが高い私だけれど、やっぱり今のは尋常じゃなかったのだろう

 

という訳で一から理由を説明していった

勿論弾ける理由は濁す

 

 

最初は皆黙々と聞いてくれていたのが次第におぉーという感嘆に変わり、仕舞には青葉が目を光らせてハイハーイと手をあげて喋り出した

 

「金剛さん! ベースとやらを弾くべきだと思います!

…ふふ、いいネタゲット これは売れるぞー…」

 

おい青葉、心の声がだだ漏れだぞ

 

 

「金剛、私も見てみたいです」

 

 

「…Uh 大丈夫デスカ? どこにも行けなくなりマスヨ?」

 

「大丈夫です

どうせ榛名達は入渠中で今日はどこにも行けませんから」

 

 

「…でもワタシのわがままヨ?」

 

 

「気にしないでください

その代わりに明日以降観光案内してくださればいいので」

 

 

 

あれ?さり気なく観光案内押し付けられた?

 

 

 

…やるね浜風

 

 

けどしょうがないか

私のわがままに付き合ってもらうんだ

 

 

「…ありがとうございマス」

 

 

「皆の許可は得られたのか?」

 

 

「はい 皆優しいから」

 

 

「はは、そうみたいだな

よし、行くか」

 

 

ラムゼイ提督は一度全体を見渡すと頷きドアへと向かう

私達は彼について行き再び長い廊下に出た

 

 

 

 

 

案内されて着いた部屋

ドアを開けると応接室以上の驚きの世界が広がっていた

壁一面にはリッケンバッカーやグレッチを始めとするベースはもちろんのこと、ギターもあらゆる高級品が揃っている

もう老舗の楽器屋と言われても疑わないレベルだ

 

この提督はお金を全部これに注ぎ込んでいるのだろうか

 

 

驚きと感動で声も出ない中、青葉はずっとパシャパシャと写真を撮り続けている

 

 

「これがベースというものなのか?」

 

 

磯風がほーっと質問してきた

そのおかげでようやく私も口を開くことができた

 

 

「Yeah しかも高いものしかないネー…」

 

「ほう 大体いくらするんだ?」

 

「一番安いやつでも新品だと十何万しマース」

 

「…全部で間宮のアイス一生分くらいか」

 

いや、その例えはよく分からないし、おやつは余計なバルジがつくって言ってませんでしたっけ?

 

それよりも色々疑問がわいてきた

 

「これ全部あなたが買ったの?」

 

「もちろんだ 二十歳の頃から徐々に買っていたらこんなになってしまったよ」

 

「それにしても何故ここに置いてあるの?

家に置いておいた方が安全だし環境もいいでしょ?」

 

「あぁそうなんだけど家に置いていると『またこんな物ばかり買って』と嫁に怒られてしまうのでな」

 

 

 

…国を越えても男の人の趣味は理解されないのか

 

 

うちの家でも絶えずお父さん怒られていたし、私にも飛び火してきたものだ

幼稚園の時はおままごとしたりぶどう屋さんになりたいとか言ってたりしたのに、どうしてこうなったのかしら…

ってね

ごめんなさいね、なんか残念に育って

 

 

「それより自由に取って弾いてごらん」

 

「いいの?こんな高級なものなのに」

 

「大丈夫 こういうのは使ってこそ価値があるからね 飾っておくものじゃない

他の4人にももし良かったら私が使い方を教える、と伝えてもらえないか?」

 

 

 

…この人は本当に凄いなぁ

 

世の中には欲張って自分1人だけ良ければいいという人もたくさんいる

けれど彼は威張ることなく、例え外国人であろうと自分のものを分け与える

だからここの提督も務まっているのだろう

 

 

「てーとくがみなさんに使い方を教えてくれるみたいネー

好きなやつ取ってくるといいデスヨ?」

 

え!、と驚いた声を出した4人だったけれど、ラムゼイ提督が頷くのを見ると、やがて各々自分の好みのやつを探し始めた

 

よし、じゃあ私も探そーっと

うーん、愛用していたやつはあるかな

 

 

 

探し始めてかれこれ

これだけのものは見ているだけでも楽しい

どれも丁寧に磨かれているのか光が反射してキラキラしているし、弦に錆があるものは一つもない

一個一個じっくり観察していると一番端に見慣れたものがそこにあった

 

「提督、これ使っていい?」

 

「そんなのでいいのか? もっと色々あるのに」

 

「私はこれがいいの」

 

「そうか 君がいいのなら私がとやかく言う訳にはいかないな」

 

私が手にしたのはフェンダーメキシコのジャズベース

高1の時に中古ながら初めて自分で買ったベース

 

…正確には友達と出掛けたり服とかにお金が消えたので、半分は3年振りに復活した誕生日という制度を使って出してもらったんだけどね

 

さて、持ってみたのはいいけれどちゃんと弾けるのだろうか

最後に弾いたのはかれこれ2年前にライブをやった時だ

 

アンプにシールドを差し込んでいざ挑戦

 

最初はAre You Gonna Be My Girl

自然と心が弾むようなリズム

いつも手軽な練習曲として弾いていたので指が思うように滑らかに動いた

 

「おー久しぶりに聞いたな」

 

2003年の曲だけれど、ラムゼイ提督の反応からするにこっちの世界でも無事発表されていたようだ

弾きながら無意識に、初めてベースを買ってもらった時の思い出や最後のライブの思い出などが頭に浮かんできて、もう一度あちらの世界に戻りたい気持ちと、勝浦鎮守府の生活や周りにいる子達との日常を続けたい気持ちとが複雑に入り組む

 

 

 

…やめよう、今は面倒くさいことは抜きで

 

 

 

気分を変えるように曲を変える

ツェッペリンのデビューアルバムに収められた1曲

Good Times Bad Times

 

3分にも満たない短い曲だけれどその3分弱ですごく神経を使ってしまう

その難しさは、私がこの世で2番目に尊敬するこの曲の作曲者の1人、ジョンポールジョーンズが、自分で書いた曲の中で最も難しい曲のなかの一つと語ったぐらい

私も中学生の頃、2回目のベースソロがなかなかできずにむきになって練習した

 

 

 

そんな難しい曲のおかげか、弾くことだけに集中したので少しだけ気を紛らすことはできた

 

 

ふぅ…こんなものかな

 

 

一人満足して顔を上げると、5人の目がこちらに向けられていることに気がつく

 

 

…なんか恥ずかしいんですけど

 

 

「グットタイムズバットタイムズできるのか!?」

 

ラムゼイ提督が教えていた手を止めて再びびっくりした顔で問ってきた

 

「え、ええ 有名なものはだいたい弾けるはずよ」

 

「本当か!?」

 

そう言うとふむと考えこむ提督

その姿はだいぶ様になっている

 

1分程してようやく口を開けた

 

「よし、明明後日出発前に軽くライブをやってみないか?」

 

 

 

…え?

 

 

「ライブ?」

 

 

「そうライブだ

うちの基地には私が布教した仲間がいてな

ギターは私、ドラムにハーミーズ、ボーカルに私の同僚、そしてベースに金剛

どうかな?」

 

 

…どうかなって言われてもねぇ

というかハーミーズがあのはじけたドラムを叩けるという驚き

 

 

私は一瞬乗りかけた

ただ今ここに来ているのは私だけではない

明日明後日は皆と観光に行くと約束したし練習する時間もない

 

 

「ごめんなさい 凄く魅力的な提案だけれど皆もいるし練習する時間も無さそうだから」

 

 

「…そうか、それは残念だ」

ほんのちょっと残念そうな顔したラムゼイ提督だったけれど、すぐにもとの趣のある優しい顔に戻った

 

 

うん、これでいいんだ

もしライブなんてやってしまったら思い出が全部蘇ってしまって耐えられないかもしれない

 

 

それに…

 

 

 

「また機会があれば頼むとするよ」

 

 

 

バンドメンバーと約束したんだ

 

 

 

「ええ、機会があれば…」

 

 

 

この4人でしかやらないと

 

 

 

 

 

明くる日

 

朝食を終えた私達は基地の車に乗せてもらいバッキンガム宮殿の前に来ていた

 

「6時に迎えにくるからそれまでにいるように」

 

軍の人と別れていざ観光

 

休日ということもありそこそこ人がいる

4月下旬のイギリスは日本の4月と違いまだまだ少し寒い

そのためか宮殿前を行きかう人たちも厚着をしている人が多い

 

勿論私達も例外ではない

 

そんな中、私は浜風に目をとめていた

 

白いシャツの上にはネイビーのボタンの止められていないカーディガン、下はピンクのハイウエストのスカートにいつものようにタイツ

 

なにより制服でも目立つ2つの爆弾が、この私服でさらに強調されてとんでもないことになっている

 

 

…もしかして私よりもある?

 

 

「…お姉さま、胸に手を当てられてどうなさったのですか?」

 

「な、なんでもないヨー!」

 

 

少しの間、確認するように自分の胸を触っていたのを妹に指摘され慌てて手を放す

 

 

「…ふふ、青葉いいもの撮っちゃいました…」

 

 

な!撮られた!?

よりにもよってとんでもない奴に!

 

 

「青葉!今すぐそれを消すネー!」

 

 

「駄目ですよ、金剛さん 諦めてください」

 

 

急いで青葉のカメラを奪おうと手を伸ばしたけれど、青葉はひょいっと逃げてそのまましばらく追いかけっこ

 

 

「金剛、青葉 やめてくれ 私達まで恥ずかしい」

 

 

磯風の声に足を止めてふと周りを見ると、通行人からの視線がすごかった

 

 

 

 

…やだ もう生きていけない

 

 

 

恥ずかしさで肩を落とすと誰かに肩をトントンと叩かれた

 

 

「金剛、いちいち青葉を気にしていてもしょうがないですよ

せっかくのイギリスを楽しみましょう」

 

 

「…浜風、アナタのせいネー 」

 

 

「えぇ!私ですか!?」

 

 

「もういいデース、早く行きましょう」

 

 

「浜風、どんまい」

「あーあやっちゃった」

「そういう時もありますわ」

 

完全に八つ当たりした私に続いて千代田、鈴谷、熊野が浜風に声をかけて進む

そして榛名達も来て最後に取り残される浜風

 

 

「えっ、ちょっと!なんで私!?」

 

 

そう叫ぶとようやく走ってこちらへとやってきた

 

その流れのままバッキンガム宮殿のチケット売り場まで行きチケットを買い、セキュリティーチェックする場所へ

そこでイギリス軍から支給されたカードを見せるとすんなりと通してもらい中に入ることができた

 

ただ宮殿内はセキュリティーの関係で撮影は禁止

カメラをしまうよう言われたのに青葉が少し渋ったので、私が「仕舞わなかったら殺すと言ってる」と言うと顔を青くして急いで鞄に入れた

 

宮殿内での青葉は本当に青葉なのか、というぐらい静かだったとか

 

まぁ確かに外国は日本と違って怪しい人には平気で銃をぶっ放すからね~

 

てか私達って銃で死ぬのかな…

 

 

 

 

 

 

様々な部屋や展示品を見学

もちろん近衛兵との記念撮影をしてバッキンガム宮殿を後にし、ちょうどお昼時になったのでセントジェームズパーク近くにあるお店でテイクアウトして、公園のベンチで食事を摂っていた

 

ただし問題が1つ

 

「ちょっと青葉、きついですわ」

「青葉、マジきついんですけど」

 

「いや、なんで私だけなんですか…」

 

今使っているベンチはおよそ6人用

対する私達は9人

4、5に別れて座っているので5人の方はギリギリなのだ

 

だから私と千歳は席を譲ろうと提案するけれど

 

「やっぱりワタシ立って食べマース」

 

「ダメです!お姉さまが立つなら榛名が立ちます!」

 

「じゃあ私が立つわね」

 

「ダメよお姉!、千歳お姉が立つなら私が立つわ!」

 

このようにして妨げられてしまう

 

 

なんなんだこの妹達は…

 

 

このままでは埒が明かないので黙って立ち上がり池の近くまで移動した

 

「あ!お姉さま!」

 

すると榛名も私を追って隣にやってくる

池を目の前にして姉妹で並んでご飯

 

 

あまり普段と変わらないような…

 

 

「お!いい絵ゲットです!」

と後ろではさっきまで邪魔者扱いされていた青葉が元気よく叫ぶ

 

「お姉さま、榛名はお姉さまとこうやって一緒にいられて幸せです」

 

当の榛名はそんなことは気にもとめずに恥ずかしいセリフをふっかけてきた

 

だから本当にこの妹は…

 

笑顔を向ける妹にありがとうの意を込めて頭を撫でてあげた

するとさらにデレーっとするこのダメっ子

 

しょうがないな~もう

 

「榛名、アーン」

 

私は持っていたサンドウィッチを榛名の口元まで運んだ

 

それをぱくっと食べる榛名

 

 

し、死ぬー…

 

 

「…金剛さん、榛名さん、日本では姉妹で結婚できませんよ」

 

姉妹でゆりゆりしていたら、とうとう写真を撮っていた青葉に呆れられてしまった

 

呆れた青葉がベンチに戻ると、その代わりに浜風が隣にやってきた

 

「金剛は本当に榛名が好きなんですね」

 

「YES! 妹達はワタシの生きがいデース!

Oh! 浜風もやりますカ? アーン」

 

「え、いえ私は…えーっと…うーん…では」

 

浜風は最初こそ軽く抵抗したものの、すぐに榛名と同じようにぱくっとサンドウィッチを食べた

 

 

 

神様、私はもうお腹いっぱいです

 

 

 

 

 

しばらく皆で和気あいあいしていると、ある1匹の生物がひょいっと顔を出し、事態を変える

 

「あ!リスですわ!!」

 

熊野の一声で全員がそちらへと顔を向けた

確かに熊野の言うとおり、1匹のリスがこちらの様子を伺うように座っている

 

ここセントジェームズパークには奈良の鹿のように野生のリスがそこらに生息する

日本ではあまりない光景に思わず触りたくなる観光客もいるだろう

 

ただやつらは見た目と違い意外と攻撃してくることがある

 

私はかつて大島に行った時、餌をあげようと餌の乗った手袋をした方の手を差し出したのに、何故か反対側の手袋をしていない指を噛まれるという体験をした

それ以来、野生の小動物には近づかないようにしている

 

 

だから今も離れて観察しているわけなのだけれど、そんなことは知ったこっちゃないかのように熊野はリスと戯れていた

 

そのリスも何の警戒心もないのか熊野の膝に乗っかる

 

次第に仲間が増えてきて、10匹ぐらいのリスの集団が熊野を取り巻く絵に、なんだか熊野もリスのように見えてきた

 

普段の制服も髪もリスと同じような色しているし

 

 

あれ?熊野ってもしかしてリス出身?

 

 

しかし、その幸せそうな時間も長くは続かなかった

 

 

「キャァー!」

 

 

「どうしたの!熊野!?」

 

突然の熊野の悲鳴

鈴谷が慌てて熊野の方へ行くとリス達は逃げ去る

 

そして熊野は悲鳴の理由を答えた

 

 

「ゆ、指を噛まれましたわ…」

 

 

…熊野、お前もか

 

 

「熊野、これ使って」

 

と、ここで見た目からして女子力が高そうな千歳が消毒液とバンドエイドを差し渡してひとまず事態は収拾

 

こうしてなんだかんだ濃い昼食を済ませた私達は、さらに水鳥を見たりして公園をあとにした

 

その後、ウエストミンスター寺院やエリザベスタワー、地下鉄に乗って大英博物館などを見学してその日の観光は終了

 

軍の車に乗せてもらい帰る道中

皆歩き疲れたのかすやすやと気持ちよさそうに寝ている

 

隣には榛名と磯風

両手に花とはまさにこういうことなのかな

 

今2人がどんな夢を見ているのか、それは私にはわからない

楽しいことなのか、嬉しいことなのか、はたまた悲しいことなのか

 

私はこの世界に来てからしばらくの間、前の世界の夢ばかり見ていた

褒められたり怒られたり、楽しんだり悲しんだりした実際に経験したこと

その夢を見る度に悲しい気分になった

泣いたのを隣で寝ている妹にばれないように早く起き、涙をふく毎日

 

けれど最近はあまり見ることもなくなり穏やかに眠れるようになった

きっとこの子達のおかげだろう

 

私の手を握る2人の寝顔を見て、私も車の揺れに眠気が誘われ、そのまま夢の世界へと入っていった

 

 

 

 

 

 

3日目の観光も気が付くとすぐに終わってしまい、はや出発日

 

朝食を済ませて今は出発前の最終確認中

 

各々艤装を展開して砲塔を取り外したり電探の感度を確かめたりするなど整備を行っている

 

私も往路でお世話になった35.6cm連装砲と12.7cm連装高角砲、25mm機銃をそれぞれ取り外して、どこにも問題ないか丁寧に確かめる

どこかにひびでも入っていたら大変だし、陸奥みたいに突然爆発なんてことになったら死は免れない

自分の砲塔で死ぬなんてまっぴら御免

だから緊急の場合を除いて出撃前には毎回必ずこうして点検をしてから出ている

 

本当は明石に見てもらうのが一番良いことだけれど、贅沢も言ってられない

自分でできる限りのことを行うのも軍人?艦娘として大切だからね

 

それにこの作業は嫌いではない

大きいプラモデルをいじっているようで楽しい

 

何よりプラスチックにはない重みがあって自然と心がウキウキしてしまう

 

 

 

…傍から見たら気持ち悪いな私

 

 

さて、全部問題なかったのでそれぞれ元の位置に戻す

本物の戦艦と違って、一個一個はそれほど重くないのでクレーンを使うなんてこともなく手で設置できる

そういうところは非常に便利でありがたい

ただ流石に陸上で艤装全部を持ち上げるとなると、私達では歯が立たないのでクレーンを使うことになるんだけどね

 

全部もとに戻して完成っと

 

その艤装に腰を合わせて、今度は艤装を消す

 

 

…しかしいつ見てもよくこんなものが私達の腰に載せられて、しかも自由に動かすことができるなぁ、と不思議に思う

これを思いついた人は徹夜明けでおかしなテンションだったのだろうか

 

じゃなきゃ普通想像だにしない

 

 

まぁそのおかげでこうして戦えるわけだし感謝はしているんだけど

 

 

やることが無くなった私は周りを見渡した

奥の方には戦列艦ヴィクトリーや装甲艦ウォーリアが役目を終えて停泊している

この船たちも一昔前は私達のように戦地に送られ、様々な戦いを経験してきたのだろう

深海棲艦がいなくなったら私もこのように生き延びられるのか、はたまた解体されてしまうのか

それともその前に沈没してしまうのか

 

その将来の予想は全くつかない

 

だからしばらくは流れに身を任せようと思う

 

1度きり…2度きりの人生だ 楽しもうじゃない

 

 

と、もうそろそろ旅立ちの時間

 

 

たった4日間だったけれど、とても充実したイギリスだった

ベースも弾けて観光もできて本当に人生を凝縮したみたい

 

次来るときは平和な時代だろうか

 

そこへコツコツと足音が聞こえてきた

ネイビーの軍服をきた男の人、ラムゼイ提督だ

 

提督はやぁ、と手をあげて話かけてきた

 

 

「準備はできたかね?」

 

 

「はい、全て終わったよ 

それとありがとう 4日間お世話になったわ」

 

お辞儀をして提督に感謝をする

 

 

「こちらも楽しかった 君ともっとツェッペリンを語りたかったよ

そうだ、イギリス海軍に移籍するっていうのはどうだい?」

 

笑いながら冗談を言う提督

その顔は少し少年のようにも見えた

 

 

「私がイギリスに残ったらイギリスの海が平和になりすぎて提督クビになっちゃうわよ?

そうしたらツェッペリンどころの話ではなくなるわ」

 

だから私も笑いながら冗談で返す

 

 

「そりゃ大変だ だったら君には帰っていただかないとね」

 

 

「えぇ でもまたイギリスに行くことがあればその時はよろしくね」

 

 

「あぁ いつでも待っている」

 

 

そう言って最後に私と提督は握手を交わした

 

 

そしていよいよ出発の時

 

輸送船と旅客船の長い汽笛で出航

 

何人かの海軍の人と艦娘に見送られてイギリスを後にした

 

 

 

 

 

 

ポーツマスを出航してから数日

再びで深海棲艦と出会うことはなくシンガポール、マレーシアを経由して順調過ぎる航海をしていた

 

けれど南シナ海に入ると事態は一変

 

近くにいた熱帯低気圧が台風に変わったとの連絡を受け、台湾の馬公で足止めをくらっている

 

「台風とかマジテンション下がるんですけど…」

「湿気で髪が広がりますわ…」

 

どんどん波も高くなり風も強くなると、不平を嘆く声も多くなった

雨は海面を強く打ちつけ、風に晒されている船は大きく揺れる

 

流石にこの天候で外にいるのは嫌だったので、船の中に入れてもらい皆で暖をとっていた

けれど、雨と湿気でじめじめした空気に不快感は隠せない

 

確かに台風は嫌だけど個人的には深海棲艦に出会うよりましかなと思う

これで深海棲艦が出現するというダブルパンチがきたら発狂しちゃうね

流石に台風となればいくらあの深海棲艦でも現れないとは思うけど

 

 

とフラグを立ててみる

 

 

 

 

…本当に現れたりしないよね?

 

 

 

 

 

 

激しい雨風が吹き荒れている最中、雲がない晴れ間が近づいてきた

遠心力と気圧の差によって生じた力の均衡した地点、台風の目

 

今までの暴風雨が嘘だったかのように静まり返る

 

「静かになったな」

「そーねー、怖いぐらい静かデース」

 

台風のせいで今いる港には人どころか車さえ走っていない

まるで私達だけが別の世界に飛ばされたかのよう

 

 

「そうですね 不気味な静けさですね」

千歳が空を見上げで呟いた

 

私もそれにあわせて空を見上げた

 

 

 

 

 

あれから2日経ち、馬公を出た私達は台湾の基隆付近を航海していた

 

台風は通り過ぎ、雨は弱まったけれど依然として風は強い

波も高いけれど航海できない程ではないのでゆっくりと進む

 

 

 

「あ~禿げちゃう~」

と鈴谷は先程から無線で嘆いていた

艤装をしていれば濡れないから禿げるはずはないんだけどな…

 

 

「お姉さま!安心してください、榛名はお姉さまが禿げても尊敬し続けます!」

 

そんな鈴谷に私の妹が乗っかる

 

いや、なんで禿げること前提なんだし

そんな尊敬いらんわ!

 

 

「千歳お姉禿げないよね?髪白いけど…」

 

「な、何を言ってるのよ!

禿げるわけないでしょ!禿げるわけないでしょ…」

 

 

「「…」」

 

 

千代田も冗談半分で言ったつもりだったのだろう

けれど千歳が予想以上に落ち込んでしまったために空気が少し重くなった

 

隣にいる浜風も自分の頭が気になるのかクシクシしている

 

「それにしても風弱まらないネ~」

 

だから話題を変えるために適当に天気のことをフってみた

 

「そうですね、もしかしてこのまま悪いことでも起こるのでは」

 

 

…まさかね、やめてよ浜風

そんな偶然あるわけ

 

 

「電探に飛行物体の反応!深海棲艦のものと思われます!」

 

榛名が叫ぶのと同時に私の電探でもしっかり確認できた

 

 

 

 

…不幸だわ

 

 

 

電探でとらえた敵の飛行物体の数は約40

西からこちらへ真っ直ぐ飛んできている

 

40機ということはヌ級2隻かヲ級1隻

普段であればそれ程脅威的なことではない

 

けれど今は状況が違う

 

風が強いのでこちらから戦闘機をだすことができない

そもそも今こちらが保有している戦闘機の数は往路の戦闘の損失で合わせて30機にも満たないのだ

 

というかこの風の中で戦闘機を出すってどういうことよ!

 

 

「金剛さん!私と千代田は輸送船と基隆港へ行きます!お任せできますか?」

 

 

戦闘機を出せないので今回は戦艦と重巡、そして駆逐艦で対処する

その千歳の判断に異議はない

 

 

「任せてくだサーイ! みなさん行きますヨ!」

 

 

「「了解!」」

 

 

「私達は近くに仲間がいないか問ってみます!」

 

 

ちとちよ達と別れを告げててぐんぐんと加速していき荒れた海を突き進む

 

海を駆け抜けてしばらくして敵機との距離も縮まってきた 

あと少しで交戦

 

今回も絶対に輸送船に近付けさせない! 

 

と意気込んでいた

 

 

が、また事態が急変

 

 

「え?」

 

 

誰からともなく発せられた声

 

それもそのはず

突如として敵機がUターンしたのだ

 

 

「お姉さま!」

 

 

どうしてだ どうして引き返したんだ

もしかして罠を張っているのか

だとしたらこのまま行くのは敵の思う壺

 

けれど私達が引き返したところで相手が素直に食い下がるとは考えられない

 

 

「このまま進みマース!」

 

「「了解!」」

 

だったらその罠にのってあげるだけだ!

 

 

 

 

 

敵機を追い基隆沖付近までやって来た

 

 

 

どこまで私達を引きつける気なのか

あまりちとちよと離れ過ぎるのはよくない

 

もうそろそろ引き返そうかと検討していたその時

敵機が再度Uターンしこちらに迫ってきた

 

 

「敵機航空機接近!私とお姉さまで前衛に出ます!5人は後方支援お願いします!」

 

「「了解!」」

 

 

目標捕捉!

今度こそやってやる!

 

 

「Fire!」

「榛名!全力で参ります!」

 

 

雨が降りしきる空に、いくつかの弾が花火のように放物線状に舞う

風が強く目標位置よりややずれて零式通常弾は散った

前方を飛んでいた2機ほどが回転しながら海に落ちていったが、依然として残った敵機はこちらに迫ってくる

 

航空戦力に対して戦艦と重巡と駆逐艦だけなのは不利は当たり前

だけれどこの条件で戦うしか選択肢がない中いかに勝利を導くか

 

「続けて参ります!」

 

榛名の掛け声と共に第二弾発射

今度は後方からもあげられた

 

そして再び放物線状に舞う

 

 

しばらくこうしてこちらからの一方的な攻撃を繰り返していたのが、敵機接近で防御もせざる負えなくる

 

敵は主に爆撃機と雷撃機

こちらを攻撃する気満々ということか

 

 

25mm機銃で応戦しつつ回避行動をとり合間をぬって通常弾をあげる

 

海から空に大量に放たれる弾は不謹慎かもしれないが少し綺麗に見えた

 

 

「こんな痛み……」

「しまった!こんなところで航行不能になるわけにはいかない」

 

敵もやられてばかりではなきもちろん攻撃してくる

 

爆撃機から放たれた爆弾に当たり駆逐艦達が中破

 

「金剛!三式水中探信儀が壊れた!」

「私もです!」

 

「被弾した!?」

「きゃぁっ!な、何をするんですの!?」

 

さらにどんどんと小破が

 

 

どうしよう…

普段なら絶対にここで撤退する

 

 

…とりあえず駆逐艦の2人だけでも撤退させるか

 

 

「お姉さま!前方!雷撃機!」

 

 

へ?

 

 

思考に耽っていると目の前に雷撃機が放った魚雷が迫っていた

 

 

「あぁあっ!」

 

 

それにまんまと当たる私

 

なんとも情けない小破だ

 

 

負けないとばかりに後ろから機銃を撃ってやる

1機に当たりすぐに落下

もう1機は取り逃がしてしまった

 

その1機は母艦へ戻っていく

その雷撃機が戻るのはわかる

 

けれどそれだけではなく、まだ装備をしているものも何故か引き返していく

 

「諦めたのか?」

 

徐々に航空機の音が消え、さらに風も弱くなり辺りが静かになる

 

 

「そうだといいデスネ」

 

 

そう願いたい

けれど何故か心が騒ぎ立てる

 

 

「念のために偵察機をだしてみますか?」

 

青葉の提案に頷くと、私は偵察機をイメージしてカタパルトに設置し1機発艦させた

 

ぐんぐんと高度を上げた零式水上偵察機は敵機を追うようにして姿を消した

 

私達の間に沈黙が続く

 

あぁ嫌な空気…

 

早く帰れないかな 

 

 

偵察機が飛び立ってしばらくしてようやく一報が入ってきた

そしてその情報は私達を驚愕させるようなものだった

 

 

戦艦タ級2隻 重巡リ級2隻 駆逐艦4隻

それがこちらに向かってきている

 

 

今の私達では太刀打ちできない相手がその先にいる

 

ん?

 

陸の方にもう1隻の船がいることを電探が示した

これは…?

 

 

「金剛、どうしますか?」

「お姉さま…」

 

榛名達に呼ばれて意識も戻す

 

 

これは撤退という選択肢しか選べないよね

誰かが轟沈なんてありえない

 

今から逃げれば逃れられるか?

 

 

 

「金剛さん!千歳です!」

 

 

そんな悩ましい状況で千歳から無線が入ってきた

 

 

「今そちらに向かっています!沖縄本島からも航空支援が来るようです!」

 

その内容はとても喜ばしいもの

私達の表情は一気に明るくなる

 

 

よし!これでいける!

本島からの応援が来るまでなんとか耐えれば勝てる!

例えもしこの無線が傍受されていたとしたら敵は逃げてくれるかもしれないし

 

 

俄然やる気がでてきたぞー!

 

 

「さあ、青葉もやる気でたぞ!」

「さてさて、突撃いたしましょう」

 

皆の指揮もあがり空気がよくなる

 

 

 

がここで私は重要なことに今更気付いた

 

 

 

空母は?

航空機がいるってことは絶対に空母がいるはず

 

 

 

…もしかして陸に近付いている船ってヲ級!?

 

 

最初から私達を輸送船から離すことが目的なら…

今の無線が聞かれていたら…

 

 

輸送船が危ない!

 

 

「磯風!浜風!ワタシについてきてくだサーイ!!

輸送船が危ないかもネー!」

 

私が叫ぶとびっくりする6人

 

「戦艦は榛名達に任せマース!」

 

「は、はい!」

 

榛名に頷いてみせてUターンし急いで加速する

その横に磯風と浜風が付き輸送船がいる基隆港へ

 

 

く!そういう罠だったのか!

 

 

とても単純でそんな罠に引っかかった自分がなんとも間抜けだったか思い知らされる

 

 

早く千歳達に知らせなきゃ!

 

 

急いで千歳達に危険を知らせるモールス信号を送ろとしたその時

 

まるでそれを邪魔するかのように後ろからきた何かが私を襲った

 

衝撃で思わず海面に尻を着けてしまう

 

 

 

「Shit!Torpedoにやられたデース!」

 

 

潜水艦からの2発の魚雷に当たり中破 

これで電探と無線機が故障

 

情けなくて少しの間立てないでいると、磯風が目の前にやってきて手を差し伸べた

 

 

「金剛!潜水艦はこの磯風と浜風に任せろ」

 

 

「Are you kidding!? 2人共中破して…」

 

 

「大丈夫です! 私達はやれます!」

 

 

磯風と浜風の真剣な眼差しに一瞬たじろぐ

陸では本当に戦闘をしているのか疑ってしまうようなかわいい顔をしている2人

けれど今目の前にいる2人は闘志に燃えていた

 

お世辞にも100%勝てるとは言い難い

 

でも仲間を信じないでどうする

 

第一私だって今の状態は最悪だ

 

だったらこの2人を信じて頼ってもいいのではないか

 

じゃあ…

 

 

「分かりました でも無理はしちゃNO!だからネ!」

 

「任せておけ!」

「任せてください!」

 

2人に感謝と尊敬の意を込めて敬礼し、私はその場をあとにした

 

 

 

 

 

2人と別れて数分

基隆港までやってきた私は困惑していた

3隻の輸送船と1隻の旅客船は何事もなく停泊している

 

けれど最後に確認した時は謎の1隻は確かにこの港へと向かっていた

念のために船員に何か来なかったか、と聞いても何も来ていないとの返事

 

おかしい 私の勘違いではないはず

 

でもヲ級の姿はない

 

確認のために辺りを捜索してみることに

陸に沿って一か所一か所防波堤や海岸を回る 

しかしどこにもヲ級の姿はない

 

 

やっぱり私の勘違いだったのかな…

 

 

自分に自信が持てなくなり、これで最後にしようと少しくぼみがある海岸に入った

けれどここも同じように姿はない

 

 

「ここもいないネー…」

 

 

思わず独り言まででてしまった

もう電探もないしこれ以上あてのない捜索は無駄かもしれない

皆の所に戻って戦いに加わろう

そう思い沖の方に体を向け足を進めようとした

 

 

 

その時

 

 

 

「グッ!!!」

 

 

突然体に強い痛みが走り海面に体が打ち付けられた

一瞬のことでよくわからなかったけれど首の下を何かで思いっきり殴られたらしい

 

痛みで押さえながらもがいていると、今度は仰向けにされ胸倉を掴みあげられた

 

 

「フフ…ヒトリツカマエタ…」

 

 

「ッ!」

 

 

徐にに顔をあげると目の目にいるのはまさしく私が探していたヲ級だった

 

 

「…コノゴロ…オマエタチ…コロセナカッタ…デモイイノミツカッタ」

 

 

「な、何を言って!」

 

 

「アンシンシロ…スグニハコロサナイ

オマエヲイタメツケテ…オマエノナカマヲヨビヨセテカラダ…」

 

 

「そんなの安心で…

 

グガァ! ゲホっゲホっ」

 

 

お腹に強烈な痛みが走って口から赤と透明な液体が飛び出す

 

 

「…マダダ」

 

 

「もうむ…ギャァ!」

 

 

今度は頬に衝撃がきて顔が強制的に右を向く

口と鼻から血が垂れてきているのは肌の触感で分かる

 

 

「フフフ…イイコエダ…ナンドキイテモアキナイ」

 

 

その後も何度も繰り返される暴力

私をもののように殴り続ける

お腹も顔も呼吸する度に痛みが伴うぐらいに

 

 

最早まぶたを開けていることもやっとになり、だんだんと意識が朦朧としてきた

 

視界がはっきりしない

 

 

「…センカンハソンナモノカ…シカタナイ…コレデドウダ」

 

 

ヲ級がそう言った次の瞬間

掴まれていた両手に今までにない激痛が走る

 

 

「ア゛ァッー!!!」

 

 

「フフ…ギソウガキエテルゾ…デモイシキハモドッタロウ?」

 

 

手首が!手首が!手首が!

穴が!!!

 

 

「アナガアイテ…キレイニナッタゾ…アクセサリーミタイデ…イイジャナイカ」

 

 

ヲ級の指が手首にめり込み、穴が開いた

幸い貫通はしていないけれど黒い液体の流れが止まらない

 

もう完全に力が出なくなって重力に従う

 

 

 

しかしヲ級はただ笑うだけで一向に離してくれなかった

 

 

なんでよ…

もう十分痛めつけたでしょ…

もう早く殺してよ!もういいでしょ…

 

 

自然とダムが崩壊しボロボロと涙が溢れる

 

 

「フフ…モウゲンカイカ

…オット…ナカマガキタヨウダゾ」

 

 

…仲間?

 

 

「「金剛ー!」」

 

 

…この声は磯風と浜風

 

ぼんやりと声の方向を見ると、僅かながら鬼の形相でこちらに向かってきている2人の姿が確認できた

 

 

潜水艦を無事やったのか…

流石だなぁ…

 

 

「オマエヲオトリニシタカイガアッタ…アラタナエサガアラワレタ」

 

ヲ級も2人の方を見ると更ににやっと笑みを浮かべる

 

 

「っ!」

 

 

駄目だ、来ちゃ駄目だ

死ぬのは私だけで十分だ

あの笑顔は守らなきゃいけない

来ちゃ駄目だ来ちゃ駄目だ来ちゃ駄目だ

 

 

「来ちゃダメデース!!!」

 

痛みをこらえて出せるだけの大声で叫ぶ

いきなりのことに驚いて止まる2人と、おや?とこちらを向くヲ級

 

「こちらに来ては行けまセーン!

今すぐ引き返して逃げてくだサーイ!」

 

「で、でも金剛怪我をして…」

 

「ワタシなら大丈夫ネー」

 

「大丈夫な訳ないだろ!その怪我でなに…」

 

「さっきワタシはあなた達を信じマシタ!

だから今度はワタシを信じてくだサーイ」

 

「いや、でも…」

 

なかなか引き下がらない2人に、最後に優しく微笑みかけた

血も涙もでてきっと無様な笑顔なんだろう

 

 

「ワタシはあなた達2人も大好きでした」

 

「「ッ!」」

 

そんな私を見てようやく磯風は体を沖の方へ向けた

 

「磯風!?」

 

「今度こそ絶対に守りぬくと決めた!

でも磯風達だけでは無理だ、それではまた金剛が沈む

だからすぐに助けを呼ぶ! それまで絶対に待ってろ金剛!」

 

 

磯風が叫ぶと一気に加速し始めた

それに慌てて続く浜風

 

 

…大丈夫、皆が来る頃にはこのヲ級はきっといなくなる

 

 

そして私も

 

 

「フフフ…ホントウニヤツラハクルノカナ

ナカマナンテモノハ…ナイカモシレナイゾ」

 

いや、あの子達は絶対に帰ってくる

だからそれまでにこいつを始末しなきゃ

 

方法はある

後はタイミングだけだ

 

「アナタはSo pitifulネ~ 仲間がいなくて」

 

「フッ…ナカマナンテ…コノヨニハ…ソンザイシナイ」

 

話す度に痛みが襲い意識が飛びそうに

けれどあの子達を守るためにあるだけの力を振り絞って挑発する

 

「アナタはバカデース 大バカネ~ バーカバーカ」

 

そう言って思いっきり使える足でヲ級を蹴る

 

 

「フフフ…マダソンナチカラガアッタノカ…フッミテイロ…ソノタイセツナナカマガ…メノマエデコロサレルトコロヲ」

 

 

すると私は空中を舞った

ヲ級が私を空に放りあげたのだ

 

 

…チャンスはここしかない!

 

 

最後の力を振り絞って艤装を展開する

それによって手首は痛みが伴うながらも動かせるようになった

 

 

ここにきて初めて驚いた顔をするヲ級

 

 

そのヲ級にイメージして現れた提督特製の手榴弾を投げつけてやった

 

 

「コンナニンゲンノヘイキ…ワタシニツウヨウスルハズナイ」

 

 

確かにそれだけでは大した威力はない

 

 

…だけどこれなら

 

 

空中で思いっきり体を捻らせて右側の砲塔を切り離し、砲塔はそのまま遠心力でヲ級に飛んでいく

 

弾薬が詰まった砲塔が手元で爆発したらどうなるか

 

 

…ふふふ

答えは陸奥だ!

 

 

サバーン!と勢いよく着水してそのまま沈む私

 

直後、目の前を爆音と共に赤く燃え上がる炎が見えた

 

それに遅れて黒い塊がどんどん落ちてくる

 

 

人間を甘くみたね

人間だってやられっぱなしじゃない

日々進化している

その内深海棲艦なんてぱぱっと片付くような時代がくるかもしれない

 

…でもその時代も見られそうになくて残念

 

爆発の時に艤装は消え、今は生身

手首から黒い液体がオーロラのようにヒラヒラと舞うのが見える

 

 

ふふ…もう時間がないみたいだ

 

…もう一度提督とバカをやりたかったなぁ

比叡に抱きしめられたかったなぁ

榛名を膝枕したかったなぁ

霧島に英語を教えたかったなぁ

1人1人をもっと知りたかったなぁ

 

 

 

そしてこの世界でまだ生きたかった

 

 

 

 

浅瀬のはずなのに海が暗くなってくる

それにまぶたが上がらない

つまりそういうことだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリガトウゴサイマシタ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…ごう…!)

(おね……しっか…)

(……ん!いし……をとり……)

 

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