横川提督
階級 中将
年齢 30
趣味 寝ること
特技 基本的にできないことはない
性格 面倒くさがりや やや適当
その他
海軍には気付いたら入っていた
英語や中国語を話せ、兵器いじりも得意とする
そのスペックの高さからスピード出世するものの、本人は特にそういう類に興味がない
仕事以外は基本的に寝ている
黒姫
階級 少尉
年齢 29
趣味 金剛を愛でること
特技 機械いじり
性格 面倒くさがりや やや適当
その他
金剛love勢の1人 比叡とたまに金剛を取り合うほど
中高と女子校だったために男の人との付き合い方がいまだよくわかっていない
けれど結婚願望はあるので、休みの日にはよく合コンに行っている
常に結婚を前提に彼氏募集中
柿崎
階級 一等兵
年齢 25
趣味 ステーキ とにかくステーキ
特技 洋菓子作り 無線いじり
性格 面倒くさがりや 適当
その他
元々パティシエ志望だったために洋菓子作りはお手の物
たまにロシアンルーレットシュークリームを作っては艦娘達と楽しんでいる
黒姫さんとは天敵
現在彼女募集中
世の中には例え同じ物であっても、一度それに特定の名前をつけてしまうと、他の同じものとは全く別の存在として認識されるということがある
例えば桜の木
とある小学校に、グル―の桜と名付けられた一本の桜の木がある
その桜の木の見た目は他の桜となんら変わらず、ほとんどの人はただの一本だけ植えられているその桜の木に目もとめないだろう
けれどこの桜
第二次大戦が開戦してすぐに、ジョセフグル―大使という人が「この桜が咲く頃には平和が訪れているだろう」と、帰国の際に平和の願いを込めて植えられた桜の子孫である
実際にその桜は終戦後綺麗に咲き誇り、日米の平和と友好の証とされ大切に育てられてきた
残念ながらそのグル―が直接植えた桜は枯れてしまったけれど、その代わりとして、グル―の桜と名付けられた子孫が今も平和と友好の証として、大切に育てられている
このように、特定の名前というものはこの世界において非常に重要な役割を果たしているのだ
それは無生物である`軍艦`もまた同じである
名前が無ければただの兵器を積んだいち船でしかない
名前があるからそれぞれが特別な船になり、中には「No thank you」と言い、艦と運命を共にする人までいた
皆それぞれ個性があり歴史があるのだ
そんな軍艦の中の一つ、私”金剛”は台湾沖を航行していた
1944年11月21日
南方資源地帯の物資が届かなくなることを恐れた日本軍が、総力を尽くして戦ったレイテ沖海戦
たいした成果を得ることもできず、戦艦山城や扶桑、空母瑞鶴や瑞鳳といった強大な戦力を失った、とんでもない敗北の戦い
そこでの戦いに参加した私ももちろん無傷ではなく、損傷した体は至る所から悲鳴をあげていた
しかも、追い打ちをかけるように2時間前に命中した魚雷で老朽化した船体はさらに傷がつき、海水が入りどんどん傾いてきている
いやだ
沈みたくない
まだ戦える
長門や大和と頑張れる
榛名を残して沈めない!
絶対に日本に帰ってやる!
けれどそんな私の意志とは関係なく、いたずらに船体は今にも転覆しそうなぐらい傾いてきた
「金剛!沈むな!」
「日本までいける!」
「金剛ーーー!」
私に乗っているだれしもが金剛が助かることを望み、なんとかこれ以上傾くのを阻止しようと必死に応急修理を施す
しかし、それも虚しくついには機関停止
「総員退去 総員あがれ」
とうとう島崎艦長の決断で撤退命令が下された
それはつまり戦艦金剛の最後
1912年に海に浸かった大正の戦艦金剛は、32年という長い歴史に終止符を打つ
寒い
怖い
このまま終わるの?
戦争を最後まで見届けないで沈むの?
そんなのやだやだやだ!
私は戦艦金剛だ!こんなたかが魚雷で沈めない!
11月の早朝
空はまだ暗く海の水も冷たい
全く何も見えない暗い海に浮かぶ、もう何もすることができないただの塊
そして午前5時半すぎ
歩くこともできない程傾いてしまった戦艦が運命の時を迎える
弾薬庫が爆発
黒い煙が辺り一体を覆う
“金剛”は艦長と千何百人の乗組員と共に、そのまま冷たい黒い重油が漂う海の底に沈んでいった
…
「ッ!」
身に起きたとんでもない出来事に勢いよく上半身を起こす
沈んだ恐怖と船員達の壮絶な死に、未だ心臓がバクバクとうるさい
…どうやら久しぶりに悪夢をみていたようだ
その悪夢の中では体験したことがないはずの大戦時の金剛になっていた
よりにもよって沈む時のつらい場面
けれどもう夢から覚めたのだ
目の前にはいつもの光景が広がって…
ない?!
え?!ここはどこ?
…何で私は墓地にいるの?!
周りを見渡すと、あるのは辺り一面に綺麗に広がる墓、墓、墓
それと区画整備された墓場には道路もあり、車が時折走っていく
今いる場所の近くにはちょっとした森林があって、その中にあるベンチでは家族らしき人達が談笑しながらご飯を食べている
その風景からどうやらどこかの霊園に私はいるようだ
そして初めて見たというよりは不思議と、見慣れた感じがした
けれど、目覚めたらこの非日常的な所にいたという状況に整理がつかず、未だ頭が混乱する
それでもこのまま墓地にいるのも嫌なので、ひとまずこの場から去ろうと歩きだした
まったく、なんでよりにもよってお墓なんかにいるんだし
幽霊にしたって、今時お墓に現れるような古典的なものは聞かない
…そんなお墓に突然現れた私って古い人間ってこと?
いや、確かに20世紀少女ですよ
でも一応平成生まれのバリバリゆとりっ子だからね!
…そういえば今の子はもうゆとりじゃないんだよね
やだ、結局私、おばさんじゃん
「…」
…早く出口を探そう
頭の混乱をいつものようにバカなことを考えることで丸く治め、本格的に出口はどこかと探すために、ひとまず園内の道路へ出ることにした
すると、道路に一台の車が止まっている
ーー330
ナンバーを見てみると、そう書かれていた
ん?ーー? 私の住んでる地域のナンバーじゃん!
ってことは公道に出られれば帰れるのかな?
やっりー!
そう少し希望が見えたところで再び出口を目指す
しばらく歩きながら数あるお墓をちらちらと見ていると、お墓なのに何故か石でできた十字架があったり、鳥居があったりと、色々おかしなことになっているものがいくつかあった
そこはいかにも日本人という感じだ
そして、その後も結構な距離を歩いたのにも関わらず、なかなか出口が見えない
この霊園はどれだけでかいのか
歩くのもやや疲れてきた頃
何故だか道路から少し外れた所にある、1つのお墓に目がいった
最近お墓参りされたばかりなのか、供えられたら仏花がまだ綺麗に咲いている
なんの変哲もないごく普通のお墓
それなのに、私はそのお墓に吸い寄せられるように進みだし、ハッと気がついた時にはそのお墓の前に立っていた
ーー家之墓
…ってうちの家のお墓じゃん!
どうりで見覚えのある風景のはずだ
毎年お彼岸には行っていたから嫌でも覚えている
そうだそうだ、ここはーー霊園だ
よかったー、これで帰り道も分かる
…いや、ちょっと待って
本当に今更だけれど私は死んで艦娘になったはず
この世界にいるはずがない
…でも今ここにいるってことは、実は生きていたりするのかな?
うーん…
「ここのお墓参りですか?」
「ひっ!」
あまりに現実離れしたこの状況に思いを巡らせていると、突然、隣から知らない人に声をかけられた
場所が場所だけに思わずビクッとしてしまう
いや、そういう類は信じてないよ?
信じてないけど、お墓でいきなり話かけられたら奇声の1つぐらい発しちゃうよね
「あ、突然すいません」
「いえ…大丈夫です
…えーっとなんですか?」
「あぁ私は隣のお墓の家の者です
お墓が隣ということで今日もついでに掃除しようと思っていたら貴方がいらっしゃったので」
「はぁ」
そういえばおばあちゃんからそんな話を聞いたことがある
私は会ったことはなかったけれど、この人がそうだったのか
「それで最近、ーーさんのお孫さんが事故で亡くなられたそうで、そのお墓参りかなと思いまして」
「…」
…そのお孫さんって…私、だよね?
え?え?本当になんでここにいるの?
やっぱり死んでるよね、私
「…大丈夫ですか?」
「…大丈夫です
…その、事故って何があったんですか?」
それでも本当にその孫っていうのは自分であっているのか
実はまだ生きているんじゃないか
これはただ作りが似ているだけで、実は別の人のお墓なのではないのか
そう小さな希望を夢みて、敢えて事故の内容を聞いてみることにした
…でも何故だろう
聞いてはいけないと何かに警告されている気がする
「ニュースにもなったぐらい有名な事故だったのに知らないんですか?」
「…え、あ、はい
あの…しばらく外国にいたもので、帰国したらこのことを知ったのであまりよく分かってないんです」
「あぁなるほど、そうなんですか」
私が咄嗟にでた言い訳を言うと、ふむふむと、何か納得したように頷く自称隣のお墓の家の人
しばらくして、徐に口を開いて語り始めた
「…悲惨な事故でしたよ いまだに事故の痕跡が残っているみたいですからね
その事故っていうのはお孫さんが乗っていた車がガソリン車に当てられたみたいで…
不幸なことにその車が横転、炎上して、ガソリン車から漏れ出したガソリンにも引火して大爆発してしまったようなの
そんな事故だから遺体もほとんど形を留めてなかったららしくてね…
左手だけは状態が分かるくらい綺麗だったみたいで、お葬式に来たほとんどの人は左薬指につけていた指輪しか見せてもらってないらしいの
可哀想に、結婚式も決まっていたのにねぇ…
ーーさんがお孫さんの結婚式も見られるって、喜んでいた姿を今も覚えていますよ…」
「…」
その内容は、とても信じがたいおぞましいことだった
…なによそれ
形を留めてないって
私の証ってその指輪しかないの?
私ってそれでしか証明できないの?
なんでよ…私が何をしたっていうのよ…
なんでこんなことで死ななきゃならないのよ…
今まで必死に勉強して仕事して、それでやっとの結婚式だったのに…
その苦労もすべてパー
私の人生っていったいなんだったのよ!
…もうやだ
やだやだやだやだやだ!
早く消して!早く私を消してよ!
もうこれ以上惨めな思いなんてしたくない
消えてなくなりたい
全てを終わらせたい
受け入れられない事実に逃避し、気付いたら無意識に走り出していた
お墓の間を無我夢中で走って走って走り続ける
けれど、どんなに走っても景色は変わらない
通いなれたはずのこの場所
迷うわけがないのに抜けられず、ずっと同じところをループしている
それでも私は走り続けた
いつか終わらせられると信じて
しかし、結局どんなに走り続けてもそこから抜け出すことはできなかった
この世界から逃れることができない
私は一生縛られ続けるんだ
そんな絶望感で、とうとう足を止めてしまった
「…ふふ」
自然と空虚な笑いが漏れる
どんなに頑張っても報われることがない現実に、もう笑うことしかできない
最早何もしないでただ座っていることが一番なのではないかとさえ思う
そんな絶望に暮れる中、私を救ってくれそうな一つの希望が舞ってきた
目の前をある男の人が通る
それは大学時代からずっと一緒にいた愛しい人
卒業してから毎日寄り添っていた人
「…ーー君!!!」
思わぬ再会に興奮でつい大声で名前を叫んでしまう
また話したい
またギューッと抱きしめられたい
けれど、私の叫び声で--君は振り返ることも、まして足を止めることもしない
「ーー君?--君!」
私は慌ててまた走りだした
前を歩く大きな背中を夢中になって追いかける
でもなぜか追いつかない
それどころかむしろどんどん距離が離れていく
なんで?!どうして追いつかないの?!
「ーー君!--君!」
私の呼びかけに全く反応しない彼
そしてそのまま墓地からでていってしまった
それでも私は絶対に追いつこうと必死で彼のもとへ向かう
ようやく私が出口にたどり着いた時、道路の向う側の歩道にーー君が立っているのが見えた
やった!やっと追いついた!
いまから行くね!
そう思い道路を渡ろうとする
けれどそれを遮るかのように、横からブーッと、低いクラクションの音がした
「え?」
音の方を見ると、そこにはものすごい勢いで迫るガソリン車が
ドンっという鈍い音と共に意識を失った
…
なんか柔らかい
なんか暖かい
この感じ…確か…
ゆっくり目を開けると見覚えのある世界が広がっていた
薬品や包帯などが置いてある鎮守府の医務室
そこのベットにただ1人、ポツンと私はいた
窓から射す夕日が開けたばかりの私の目には少し眩しい
…あれ?何で私はここにいるのだろう
医務室にいるってことは何かそれ相応のことがあったのだろうけれど、その肝心の原因が何か思い出せない
確かイギリスに行ったことは覚えている
ベースを弾いて観光もして思いっきり楽しんで…
でもポーツマスを出たところで記憶がスパッと消えている
うーん、と少し目を閉じて考えるも、結局何も思い出せなかった
まぁでも追々思い出すことができるだろう
基本的に夏休みの宿題みたいな面倒なことは後回しにする私は、この件についても後で解決することにした
それはそうと、ここにお世話になるのはこれで2回目だ
前の流れと一緒ならそろそろドアがノックされて誰か入ってくるはず
私は寝たまま首だけドアの方に向けて待っていると、やがてドアのガラス越しに人影が写し出されるのが見えた
そのまま静かにノックされるのかなと思いきや、その人物はバンッ!と、ドアが壊れんばかりの力で開けて入室してくる
「お姉さま!!!」
全力で部屋に入ってきた比叡は、何の迷いもなく私のベッドに潜り込んできて抱きつく
「うぐっ…」
「お姉さま~♪」
「Oh no…ひ、比叡…苦しいネー…」
「お姉さま~お姉さま~この時を待っていましたよ~」
私の訴えは聞こえていないのか、はたまた聞く気がないのか、イカれた力で抱きつく比叡
ここぞとばかりに戦艦の力を最大限に発揮する
…こ、これ以上は無理…死ぬ
「Valhallaが見えるネー…」
「おい比叡…金剛を見ろ」
「何言ってるんですか指令
言われなくても見て…
お姉さま?!お顔が真っ青ですよ?!大丈夫ですか?!」
「いや、お前のせいだから」
遅れて入ってきた提督の一声でようやく解放された私こと金剛
妹によるバルハラ行きは今回は免れたようだ
「Thank you…助かりました」
「気にするな
俺だって妹に殺される部下なんて見たくない
それよりも体調は大丈夫か?」
呆れた顔で比叡を見ていた提督だったが、私を見るなり急に真剣な趣になって私の体調を尋ねてきた
その迫力に少し圧倒される
それでもそれは、私の体のことを気遣ってのことなのだろう
だるさも気持ち悪さもない
とりあえず体調は何の問題もなさそうだ
「No problemデスヨー?」
「そうか」
そう言うと自分のことのように満足気に頷く提督
…あなた本当にいい人ですね
普段イタズラばかりしている自分が申し訳なさすぎますよ…
「…じゃあ手首は…どうだ?」
けれど、提督の次の一言はよくわからなかった
ん?手首?
なんで体調を聞いた後に手首のことを聞くのかな?
手首も何の問題は…
ない、そう思っていた
けれど目に入ってきたのは包帯が巻かれた両手首
…あっ!
それを見た瞬間、あのひどい戦いの記憶が一気に頭に流れた
輸送船を守る為に皆で奮闘したこと
基隆でヲ級と戦ったこと
そして、沈んだこと
そう、私は沈んだはずだ
でもこうして息をしている
「…ワタシは沈まなかったノ?」
「あぁ、たまたま近くにいた漁師達がお前とヲ級の戦闘を見ていたそうでな
爆発の後お前が沈んでいくのを潜ってなんとか引き揚げたそうだ
…本当に奇跡だよ、お前は運がいい」
そうなのか…
この世界でも死んでしまう
もう絶対に駄目だと思っていた
でも生きている
助かって良かった、のかな
あれ?でもこの包帯は一体?
入渠すれば傷は治るはずなのに、何で手首だけ包帯が巻かれているんだろう?
「…その包帯は取らない方がいいぞ」
そんな疑問に答えるかのように提督が口を開いた
取らない方がいい
それはつまり、手首は見ない方が良いということだろう
けれど、生活していれば絶対に見なきゃいけなくなる
だったら今この場で見てしまおう
私が包帯を解こうとすると、あっと言い、顔を背ける比叡
あの比叡がその反応っていうのは、この下には相当なものがあるのか…
覚悟を決めて、スルスルと手首の包帯を垂らす
それにつれて白かったその部分が徐々に黒くなってきた
そしてついにそれは姿を現す
「ウッ…」
白い肌に出来ていた人の指くらいの黒い穴
ヲ級に空けられたものがそこにある
私は吐きそうになるのを必死に抑えた
これは幻想なのではないのか、実はドッキリなのではないのか
そう思いもう一度確かめるも、それは間違いなくある
「…toiletに行ってきマース」
そして、とうとう吐き気も耐えられなくなった私は、医務室を後にした
…
「ウゲェ…」
白い手首にある黒い穴
見れば見るほど吐き気を催し、これが今の自分の手首だ、という現実に最早吐くことは我慢できなかった
寝ている間、しばらく何も食べてなかったせいで出てくるものは胃液しかない
それでも吐き気は治まらない
その手首にできた気持ち悪い穴は、貫通こそしてないものの深さはよく分からない
触ってみれば分かるのだろうけれど、そんな勇気は私にはなかった
…なんでこんなことになっちゃったのかな
返す返す残念な私に、自然とネガティブなことばかり考えてしまう
せっかく楽しくなってきたこの世界での生活だったのに
本当に世の中は思い通りに行かないことばかりだ
幸せがあれば不幸もあるというのは分かる
でも私の場合、幸せと不幸が3:7な気がして、どうにも不幸ばかり体験しているような…
せっかくのこの幸せの象徴の指輪だって、こんな身体に付けられるのは嫌だろうなぁ…
…ん?指輪?
指輪というワードが何故か心に引っかかった
…なんだろう
何か私にとってもっと重要なことを忘れている気がする
…指輪は結婚の証
その指輪を付けている私は金剛という名前
金剛は魚雷で沈んだ唯一の戦艦
沈む=死
死…私は交通事故で死んだ
最後は形を留めてないってさっき夢で…
あ………思い出した 夢だ
…
「金剛さん…もう…一週間も部屋から出てこない…」
「そうね…沈んだことが相当ショックだったのかしら」
「うーん、あたしはそれだけじゃないと思うんだけどなー
横須賀の時は元気だったし、別に何かあったんじゃない?
司令官はどう思う?」
「…あぁ俺もそう思う」
駆逐艦達が言った通り、金剛はトイレに行ったと思ったら、それからずっと部屋に引きこもっている
部屋は鍵がかけられていて、誰であろうと開けるどころか返事さえない
食事も毎日3食部屋の前に置いていってはいるけれど、手をつけた痕跡は一度たりともなかった
手首に出来た傷がショックだったのか
いや、絶対にそれだけではないはずだ
望月が言ったように、他にも原因がある
ただ、その原因が俺には分からない
1つなのか2つなのか、はたまた100なのか
もしかしたら今まで溜まっていたものが沈んだことをきっかけとして、一気に爆発したのかもしれない
その原因は本人にしか分かり得ないことだから、俺がどうこう推測できるものではないけれど、でもこのまま何もしないのでは金剛は立ち直れないし、それに加えて皆の指揮も上がらない
金剛はうるさいしイタズラするしイラッとするしイラッとするしイラッとすることもあるけれど、でもなんだかんだでこの鎮守府で一番仕事ができ、金剛love勢を筆頭に一番愛されていると思う
たまに高いところにある資料を取ろうと、台があるのにわざわざぴょんぴょんと飛び跳ねて挑戦している姿は、俺でさえ可愛いと…
ううんッ
さて、そんな金剛をどうやって立ち直らさせるか
この一週間ずっとそのことに頭を使ったが、ほとんど解決策は浮かばなかった
本当に肝心なところで使えない脳みそだよ まったく…
…
「金剛お姉さま、お昼ご飯を持って参りました
よろしければお召し上がりください」
「…」
今日は霧島の声が聞こえた
もう一週間も誰かに食事を運んできてもらっている
私なんかの為にそんな労力を使わなくったていいのに
私も今は艦娘だ
燃料さえあれば別に食事なんかしなくたって生きていかれる
…最早生きたいなんて思ってないけれど
はぁ…もう無理 やっていけない
理不尽な事故で死んで、身体もぐちゃぐちゃになって誰にも見せられない姿で私の人生終了
こっちの世界に来たら来たでヲ級に殺されかけて、助かったと思ったら両手首に気持ち悪い痕ができている
…だから一週間なにもせずにただ生きる意義を考えたけれど、結局なにも見いだせなかった
…もうこれ以上やだよ
なんでここまで叩き潰されなきゃならないの…
どれだけ私を不幸にさせたいのよ
私がいけないの?
私が生きているのがいけないの?
…じゃあもう死ぬしかないじゃん
皆にこれ以上迷惑かけられないし
もういいんじゃないかな
私、限界だもん 仕方ないよね
一週間考えた結論としてそう決心し、ベッドから立ち上がった
しかし、これまた運悪く、足下にあった何かを踏んで滑ってしまう
よろっと転びそうになったので、本能で近くにあった引き出しの取っ手を掴んだ
けれど、その掴んだものが悪かった
引き出しはそのままスルッと棚から出てきて、結局私は盛大に転んでしまった
もう惨めすぎて出る涙もない
辺りに散乱する引き出しに入っていた色々なもの、もの、もの
せめてこれだけは迷惑にならないようにと片づけていたら、その中にあったある一枚の写真が私の心を動かした
恐らく横須賀鎮守府の提督であろう人と金剛の写真
手を繋いで中睦まじい光景
2人の指にはしっかりと結婚の証である指輪がされている
…忘れていた
この体は私のものじゃない、金剛のものだ
私はあくまで借りているだけ 私の体はもうどこにもない
じゃあ勝手に自殺する権利はないのでは?
それは自殺じゃなくて殺人行為になってしまう
つまり私は死ぬこともできないのか
…わかりました
金剛本人が帰ってくるその時まで生きればいいんでしょ?
色々と考えるのも面倒くさくなっちゃった
私のしょもない意思なんてもうどうでもいい
金剛が戻るまでただ単純に生き続けよう
…
「金剛、もう10時だぞ いつまで仕事するんだ?」
「でもまだいっぱいあるヨ?」
金剛が言うように、確かにまだまだ山のように書類が溜まっている
それもこれもあの事件のことで数週間仕事に手を着けなかったためにこうなってしまったのだ
これでも幾分マシにはなった方だけど…
「…別に今日終わらせる必要はないから大丈夫だ」
「そうデスカ」
ただそれだけ言うと、もう用事はないと言わんばかりに部屋を離れようとする
その後ろ姿は、何かの拍子でバラバラになってしまいそうな、もろくつらそうなものだ
その金剛だけれども、引きこもっていたはずなのになぜここにいるのか
それは先週のこと
その週はずっと、仕事に手をつけないでただ金剛をどうしようかと考え続けていた
その日も同じように気付いたらお昼も過ぎていて、そろそろ何か食べよう、そう思い立ち上がろうとしたその時だった
何事もなかったようにいきなり金剛が執務室に顔を出したのだ
あまりにも突然の出来事に、夢でも見ているのではないかと目を擦ってその現実を疑った
けれど、確かに金剛はいるものだから、やっと復活したのだと一瞬喜んだ
またいつも通り「仕事よりtea timeネー!」と言い出すのかな、そうしたら「バカみたいに寝てたんだから働け」と返す準備もした
けれども、当の金剛は何も言わずにいきなり仕事を始めたものだから、俺を含めてその場に居た人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔でしばらく金剛の様子をうかがっていた
その一週間ぶりに姿を見せた金剛は、無表情で、何も言わずに、紅茶も飲まずに書類をさばき続ける
誰かが話しかけても相槌しかしない
金剛から話しかけてきたと思ったら、それは業務事項
毎日毎日朝から晩まで席を離れるのはトイレに行くぐらいで、それ以外は書類整理をし続ける
比叡達が食事に誘っても、私は大丈夫ネーの一点のみ
今まで日替わりで変えていたヘアースタイルも、毎日ただ後ろを結ぶスタイルだけになってしまった
目の前にいるのは明らかに前の金剛と違う人物
そんな金剛の変化に皆愕然とした
特に金剛の妹達のショックは大きく、3人とも常に中破した時よりもやつれたように見える
…次はこの状況をなんとかしなければいけないようだ
「金剛、ちょっといいか?」
「どうしたノ?」
とにかくなんとかしようと思い、つい考えなしに呼び止めてしまった
「…」
だから次の言葉が出ない
なかなか喋りださない俺を見ても、金剛は表情を変えることなく話出すまでじっと待ち続けている
「…この後、夕飯でも一緒に食わないか?」
何か言わなきゃいけないプレッシャーで出たこの一言
普段だったら決して言うことはないこの台詞に、自分でも驚いた
「それは命令デスカ?」
「ッ!」
ただ、それ以上に、その金剛の一言に驚かされた
仕事以外は関わりたくないという意志表示
恐らくここで肯定すればちゃんと来て一緒に食事をするかもしれない
でもそれは仕事と割り切ってしょうがないから、ということだろう
俺はそんな強制的な関わり合いを望んでいるのではない
だから命令ではないと答える
すると金剛は何も言わずに結局部屋を出ていってしまった
…
「司令ー、もう私を解体してぇ…」
「…」
金剛が出て行った執務室
この現状を打破する解決策を1人で考えていると時間はすでに0時少し前
そこに私服姿の金剛の妹3人が入ってきた
3人共、表情はやはりすぐれない
そして入って来るなり比叡がこんなことを言い出すものだから、もうこの鎮守府も末期なんだと思ってしまった
「…何を言ってるんだ」
「お姉さまが分が不足する今、私は生きていけないです…」
「…比叡お姉さま…榛名もです」
「いや、ちょっと待て お姉さま分ってなんだよ」
てっきり真面目な話をするのかなと思っていたら、お姉さま分とかよくわからない成分の名前を発する比叡とそれに同調する榛名
前言撤回
この鎮守府はまだ寿命がありそうだ
「?司令は何をおっしゃられているのですか?
お姉さま分はお姉さま分ですよ」
霧島が首を傾げてさも当然のことにのように答える
うん それ説明になってないんだけどさ
「…それでそのお姉さま分とやらが無くなると何で生きていけないんだ?」
「私の89%はお姉さまでできているんです
これ以上お姉さま分が不足すれば私は動けなくなります
だからその前に解体してくださいってばぁ…」
…なんだその仕組みは
初耳だぞ
あぁでも、金剛が目覚めてから比叡達の入渠時間が何故か短くなったのはそういうことなのか?
なるほど、精神も傷を癒すのに一役買っているというわけか
そういえばテレビでそんなセラピーがあるとかないとか聞いたことがあった気がする
ん?でも89%だと?
「…ちなみに残りの11%はなんだ?」
「?それはもちろん榛名や霧島、司令達ですよ?」
「おぉ…意外だ 100%金剛のことしか考えてないと思っていた」
「失礼ですね!指令! ステレオタイプは良くないって言ってたの指令ですよ!」
ふんすとわざとらしく怒ってみせる比叡
他の人のこともちゃんと考えていたのかと、思わず感動してしまった自分がいる
…よし こんな風に冗談は言ってるものの本当は絶対につらいんだろう
これ以上この状況が続けばこの鎮守府は本当に滅びかねない
だったら提督である俺がもっとしっかりしないとな
じゃあどうするか
目を瞑り、今まで以上に灰色の脳細胞を稼働させて、本気で解決策を考える
金剛がああなってしまった原因はなんなのか
何が金剛を追いつめているのか
「…ちょっと3人でじゃんけんをしてくれ」
「「「え?」」」
けれど、どんなに考えてもやはり原因は分からない
もし簡単にわかるような悩みなら、金剛はああはならないだろう
それでも、少しでもそれを和らげることが出来るのであれば
きっと金剛は心を開いて何か話してくれるかもしれない
だったら
「司令?私が勝ちましたけど…」
グーの手で報告をする霧島
おっけー、じゃあ霧島で決まりだ
「よし、霧島
明後日お前と金剛に休暇を与えるから2人で出かけてきてくれ」
「「「え?!」」」
「「霧島!代わって!!」」