1ヶ月とちょっと振りの更新ですね
この1ヶ月色々と飛び回っていた関係で暇が出来ず、しかも暇が少しあっても内容が思いつかないということで、更新が遅くなってしまいました
さて、内容ですが今回もややシリアスになってたりなってなかったりします
そしてここまで書いてきてなんですが、個人的にシリアスって好きではないので次回からは普通の日常になるかと思います
また、ここまで明らかに他の艦娘達の登場が少ないので、そこもしっかりと考慮しようと思います
次回の更新も恐らく1ヶ月以上先になるとは思いますが、今後とも宜しくお願い致します
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響あり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰のことわりをあらはす 奢れる人も久しからず 唯春の夜の夢のごとし たけき者も遂には滅びぬ 偏に風の前の塵に同じ
この中学生の時に無理矢理覚えさせられた平家物語の一節
世の中にある全てのことが変わっていき、例えその時に権力や権威を持っていようがいつかは廃れてしまう
簡単に要約するとこんな感じだ
それで私が何を言いたいのかというと、世の中結局何をどう頑張ってもどうせ無駄になってしまうということだ
例え一所懸命勉強して働いてお金を稼ぎ、結婚をして家庭を築こうが、一瞬の事故で全て無くなってしまう
二十数年積み上げてきた努力がたった一台のガソリン車であっけなく潰されてしまったのだ
まさに風の前の塵と同じように
どうせそんなことになるんだったらもう頑張る意味はないんじゃないか
必要最低限のことだけやっていればいいのではないか
この一週間、私はそう思い過ごしてきた
けれどそんな生活をしていたおかげで、無駄に皆の心配を集めることになってしまった
現にこうして休暇を取らされてお出かけしているのである
そういうわけで私は生き方を少し変えてみることに
与えられた仕事はもちろんきちんとこなす
食事も摂る
会話もする
ポジティブな感情も表に出す
表面上は元の明るい金剛
だけど欲はない
人間、もとい艦娘であるならばあるはずの、なにかしたい、なにか欲しいという感情を捨てた
それでも周りがそんな明るい金剛を望むのならそれでいい
周りが楽しければいい
自分がなんだっていうんだ
どうせ一国の小さな歯車の1つに過ぎないんだから
さて、そんな少し変化を遂げた私は吉祥寺のとあるお店にいる
二人用テラス席の向こう側には本日の相方の霧島がいて、今は空になったお皿を前に鼻歌を吹かしている
「~♪」
ご機嫌そうでなによりだ
そんな霧島を見ながら、私はまだ半分ばかし残っている冷たいお茶を少しだけすすった
まぁなんというか、矛盾するようになっちゃうけど、たまにはこんな何もせずにぼーっとする時間もいいものかもしれない
流石に毎日毎日書類ばっか見ていたら目が腐ってしまうし、こうして妹で目の保養をするぐらいだったら私の掟にも反しはしないだろう
可愛い可愛い妹
花や緑も見ているよりもよっぽど妹の整った顔をみている方が目が癒される
「あっ!お姉さま!」
とここで、"ガラッ"と唐突にその対象物が立ち上がった
「そういえば私、調べましたよ!」
そう言い、そのまま席を離れわざわざ私の隣までやってくる
「…何をデスカ?」
でた!日本人の悪いところ!
何でもかんでも省略したがる系ね
突然「いきなり調べましたよ!」と言われてもこちらは何が何だかさっぱりだ
「お姉さまの昔の髪の結び方です!」
「…ワタシのhairの結び方?」
昔の結び方といったら例の理論が分らないあの結び方だよね?
え?あれって調べたら簡単にできるものなの?
というか、なんてキーワードで調べたら検索に引っかかったのよ
「はい、ちょっと頑張りますね」
霧島は許可をだしてもいないのに、早速私の髪をちょこまかといじりだした
というか許可以前の問題として一応ここ、飲食店なんだけどね
テラスで今は私達以外お客さんいないし、問題ないといえば問題ないかもしれないけど
ただ、道行く人にこんなところを見られるのはちょっと恥ずかしい
傍からみたらこれってただのレズカップルじゃない?
やだあの人達、平日の昼間っからいちゃついて 良いご身分だこと
とか思われてたりするのかな
思われてないか
「うーん…こうしてこうして…」
当の霧島は、そんなことはお構いなしに夢中になって私の髪に手を施す
その動き方は美容師のごとく、練習でもしたのか妙に手慣れている
…まぁ妹が満足してくれるのならそれでいっか
どの道、今更霧島を止めることなんてできないだろうし
でも霧島のことだ 私達姉妹の中で一番知的な子だし任せていても問題ないでしょう
「…あっ」
そう考えた矢先、私の期待を速攻で裏切る、できれば聞きたくなかった声が発せられた
「…今『あっ』って言いましたカ? 言ったデスよね?」
「いえ…あっ、今日も天気がいいなぁ~なんてっ!
それにしてもお姉さまのアホ毛は今日も絶好調ですねっ!」
そして手を腰に当て指を空に向けて、てへっと一言
「Cloudyネー!
あと、アホ毛言うなデース!」
言い訳が雑すぎっ!
今日は朝からずっと曇ってたでしょ!お日様1回も見てないよ!なんなら雨が降りそうなぐらいだよ!
いくら感情がないといってもこれはツッコまざるおえない
それと、私だって好きでアホ毛を育ててるわけじゃないし
どんなに梳かしてもこの部位だけピンっと張っちゃうのよ!
金剛になって3日で諦めさせられたんだから…
まったく、人の苦労も知らないで…
でも、テヘっていうの可愛いから許す
「…すみません でも本当に大丈夫です あと少しで終わりますので」
言うとさっきよりも真面目な顔をして、再び私の髪に手を伸ばしてきた
それからは黙々と作業を続け2、3分程経過し、仕上げにと、霧島は自分のバックからカチューシャを取り出して私の頭に付けてきた
カチューシャをバックに入れてたってことは今日絶対にやる予定でいたんだね
別になんでもいいけどさ
「完成しました!」
かれこれ10分ぐらいかけて、霧島の霧島による霧島のための私の髪イジリは終了した
早速スマホのインカメラで自分を見てみると、そこに映し出された私の髪は確かにあの金剛の髪型
「Wow!すごいネー!よくできましたねぇ~」
とここで、びっくりしてみせる
が、演技をしてるからといって全く驚いていないわけではない
この技術は素直にすごいと感心してしまう
本人ですら無理なこんな理論が分らない髪型を仕上げるなんて、流石艦隊の頭脳こと我が妹
「でもお姉さまは昔、毎日この髪型だったんですよね?」
ひとまず満足そうにしていた霧島だったけれど、ふと私が今この髪型に出来ないことを不思議に思ったのか、そう疑問を投げかけてきた
「そうみたいデース でもやり方忘れたネー」
「…そんな日常的なことって忘れるものなんでしょうか」
霧島の言い分は至極当然で全く反論ができない
眼鏡をかけている人が眼鏡を忘れた、みたいなことだもんね
…たまに霧島、忘れてることあるけどさ
ただ1つ反論があるとしたら、それは正確には忘れたじゃなくて、単にその当時は私じゃないから純粋に分らないだけ、ということ
だけどそんなことは言えるはずないので適当に茶化す
「それがワタシヨー!」
うん、誠に残念なことを言っているのは十二分自覚している
それでも金剛らしくわざと胸を張ってふふーんと勝ち誇ってみせた
「お姉さまは頭が良いのか悪いのかよく分りませんね…」
そんな私を見て予想通り、はぁとため息をついて呆れられてしまった
ほら、金剛ってこんなキャラじゃなかったっけ?
いたずらして適度に仕事さぼって残念な発言をして
…違うか
よく考えたらそれ、金剛じゃなくてまんま私だわ
いや、いたずらに関しては別に好きでしていたわけではないんだけどさ
まぁ…それでも今までの自分の振る舞いを改めて思い出してみると、相当残念な子だったのね
そりゃ姉の威厳なんてなくなるわけだ
逆によく今も「お姉"さま"」なんて様付で呼ばれているなぁとさえ思う
権お姉さまってことかな…
…ねぇ?本当に私この世界で必要?
以上のように相当使えないと思うんだけど
はぁ…首の後ろに人生の終了スイッチでも付いていないかしら
それでささっと消える
終了スイッチ君のはどこにあるんだろ~教えてあげるよ~君の~終了スイッチ~
…つくづく終わってるわ、私
「それはそうとこれからどこに行きましょう か」
割と久しぶりにそんなクソみたいな妄想をしていると、席に戻ってまた頬杖をしている霧島が問ってきた
「I think…」
昼食を食べ終わって現在時刻は1時とちょっと
だいだいのことはやろうと思えばまだやることが出来る時間帯だ
けれど、その肝心のやりたいことが何も思いつかない
なにせ欲しいものも行きたい場所もないから
うーん…まさかここにきて無欲無利があだになるとは…
とはいえ、ここ吉祥寺なら普通にぶらぶらしているだけでも楽しめるといえば楽しめる
まだまだ行っていないお店もあるし公園もあるし
だけど流石にそれだけで時間を潰すのには限界がある
それ以前に、ずーっと意味もなく歩き回るのは逆に疲れてしまうし飽きてしまうもの
結果、他にも行き先を決めなければならない
…仕方ない
ここは霧島の気持ちになって考えて みようかな
そうすればなにかしらヒントが見つかるかもしれないし
私は霧島 推定23歳 金剛お姉さまの妹です
今日は朝からお姉さまとお出かけ
渋るお姉さま(問題児)を無理矢理ひっぱり出して電車に乗せました
電車に乗るとすぐにお姉さま(無能)は寝てしまい、私は1人ずっと外を眺めていました
お姉さま(辞書)が起きたのは夢の国の前…
夢の国の前…夢の国の…夢の国…
「夢の国に行きマスカ?」
その手があった!
あそこなら何も考えずに時間が経過するし、妹を楽しませるという点においてもベストな回答じゃない!
…私の思い出?そんなの知らない
「…夢の国って朝見たあそこのことですか?」
「Yes あそこのことヨー」
私のその提案に聞いた妹は瞬きも止め、そこだけ時間が止まったように動かなくなる
それから数秒後程経過して再起動したのか、眼鏡越しに目をパチパチ!っとさせた後、勢いよく私の両手を握りしめてきた
「お姉さま!大好きです!付き合ってください!」
「…Thank youネー?」
とあるなんでもない平日の今日、私は妹から告白を受けました。
女の子からの告白は6回目です。
そのうち3回が妹、もう1回は黒姫さん、あとの2回は…。
「あっ!でもその前にどこでもいいので小物が 売っているお店に行きたいのですが…」
満面の笑みだった妹はまたも表情を変え、モジモジしながら不安そうな顔をして尋ねてきた
感情表現豊かねぇ霧島さん
まぁいざあそこに行くと言っても、今からだと6時からのチケットまで待った方がお得な気がするので時間はそこそこある
しかも他にあまり良い案が思いつかない私にとって、こういう風に行きたいところを言ってくれるのはむしろありがたい
だから断る理由がない
「時間はまだありマース だから大丈夫ネー」
「本当ですか! じゃあ早速行きましょう、お姉 さま!」
目の前でオーケーサインを出してあげると、モジモジが止みパーッと一気に表情が明るくなった
そして言うとすぐに鞄を持ちあげて立ち上がる
「OK~ ゆりかごから墓場まで付いて行くヨ ~」
「墓場までですか…悪くはないですね」
お互い冗談をかわしてお会計をするためにレジへと向かった
どうだろう?表面上は元の関係性に戻せたかな?
…
お昼時を過ぎた街はいくらか静かになった
私の目の前を通っていく人は今はほとんど暇をもてあそばしている主婦ばかり
いいですねぇ暇そうで
さぞかしお高いATMが侍らしていらっしゃるのだろう
さて、普段そんな日常とは程遠い戦場に身を置いている私は1人、とあるお店の前に立っている
はい、霧島の買い物待ちです 外で 1人
なぜお店に入らないで外で待っているのかというと、それは10分程前のお話
”
当然、私も我が妹と一緒にお店に入ろうとしたけれど一歩足を踏み入れるやいなや
「お姉さまは外で待っていてください」
と、いきなりハブリを宣告された
「…なぜデスカ?」
「いえ…なんとなくです」
この数10分でなにか嫌われるようなことをした のだろうか
ふむ、と考えるも何も思いつかず、外で何もしないで待っているのは嫌だったので応戦はしてみた
「ワタシも行くネー」
「…大丈夫です、すぐ終わりますので
それでも宗教上の理由でどしても私についてこないと死んでしまうというのであれば仕方ないですけど」
どういうことよ…
そもそもそれってどんな宗教なの
もしかして1日複数回決まった時間に霧島がいる方向に向かって土下座しないといけないのかな?
やだ、結構厳しい系の一神教なのね
「…分かったネー そこまで言うのなら出てくデース」
”
とまぁこんな感じでお店から追い出されたお姉さまなのである
「…」
そして案の定暇な訳だ
すぐに終わると言っていたくせにもう既に10分経ってるし
もうお姉ちゃん疲れたよ、身体も心も
ともあれ霧島が戻ってくるまではいくら暇でも帰ることも寝ることもできない
そもそも私には主導権なんてないし
姉なのに 姉なのにね
「…」
…仕方ないからここは何か暇つぶしになるようなことでも考えようかな
そうそう、宗教で思い出したけど私が前の世界でまだ学生をしていた時のこと
その当時H○y S○y J○○pが世の中で流行っていたらしい
友達が「H○y S○y J○○pの中で誰が一番好 き?」という質問をしてきたことがあった
バラエティーとかニュース系は見ていたけれど、そういった類に全く興味が無かった私は「…跳ぶ?」と答え
「え?」
「え?」
となったことがある
いやだってそうでしょ
「よぉ!跳べって言え!」っていうフレンドリー且つ命令なんじゃないの?
その命令自体意味分かんないけどさ
確かにね!知らなかった私も悪かったかもしんないけどさ!
…まぁこれ以上なんか言うと、本当にとある宗教団体から追われる身になりそうだから終わりにしよう
「お姉さま!お待たせしました!」
と、丁度よいタイミングで肩にバックをかけた霧島がお戻りになった
そしてニコッと笑顔を見せ、そのまま何事もなかったかのように私の横につく
当然これだけ長い間お店にいたのだからなにか買ったのだろうけど、その品物はバックの中に入れられたのか確認することができない
「お待たせされたデース で、何を買ったノ?」
霧島が何を買ったのか
全く気にならないといえば嘘になるので、決まり文句のようにそう尋ねる
「うーん…今は内緒です」
けれど素直に教えてくれることはなかった
そりゃわざわざ私を追い出してまで買ったものなのだから、そうなるとは思っていたけど
…あれ?
「今は?」
「はい、今は教えられません
でも鎮守府に戻ったら必ず教えます!」
今はダメで鎮守府に戻ったらオーケーなもの…
何それ…全く見当がつかない
というか、結局教えてくれるなら今教えてくれたっていいじゃない けち
そうはいっても今の私は物事に対してどうしても、絶対という程の興味関心事はない
でも霧島がいる手前、いつもの金剛を演じないといけないので、教えてもらえなかったことに対して一応つーんと拗ねてみせた
「そーデスカ じゃあ行くヨー」
そう言い、私は霧島を置いて早歩きでアーケード街を進みだす
「あ!お姉さま!ちょ、ちょっと早いですぅー!」
続いてバタバタと霧島もやってきた
その顔はやや困ったような顔をしている
それでも相変わらず私の横から離れようとはしない
「…お姉さま拗ねてますか?」
「拗ねてないネー」
「…ごめんなさい…今はダメなんです
でも!絶対に後で見せますから!」
「別に大丈夫ヨー」
「えぇ?!…」
肩が当たりそうなぐらいの距離で歩く霧島は、私の応えに罪悪感があるのか、顔は笑みを浮かべながらもやや俯いてしまった
…やばい ちょっと拗ね過ぎた、よね?
…霧島を楽しませに来てるのに逆に気を遣わせてどうするのよ
本当に使えない、私
「だ、大丈夫ヨー霧島! 鎮守府で見せくれればいいデース!」
わざと大きく手振りをしながら本当は大丈夫だよーということをアピールする
すると急に霧島は「ふふ」と、俯きながらも笑い出した
え…なに…
「ふふ…私は大丈夫ですよ、お姉さま」
何が面白いのかわからないけれど一頻り笑い、しばらくしてようやく顔をあげてそう言う妹
「そ、そーデスカ?」
「はい だから大丈夫ですよ
そもそも悪いのは私ですからね」
そして眼鏡の縁をちょこっと上げ、今度はニコッと爽やかに笑いをあげる
うん、可愛い可愛い
ただそんな霧島を見ているとさらに私は罪悪感に苛まれるんだけどね
「OK~ じゃああそこに行きマスカ」
そうはいうものの今は自分の心情なんてどうでもよくて、周りに合わせることが優先
ということでまだ少し早いかもしれないけれど、夢の国に向かうことを提案した
なんだったら一旦降りて葛西臨海公園に寄ればいいし
「はい!お姉さま!」
あまり天気がすぐれなく空は少し暗い
それでも私の隣を歩く霧島は明るくて、今の私には少し眩しく感じる
そんな妹と共にアーケード街を抜けて駅の階段を上がり、そのまま私達はホームへと向かった
…
「霧島ー?大丈夫デスカー?」
「あぁ…はい…なんとか…」
勝浦まで行く最終電車が終点に着いたのは日付が変わってちょっとの頃
たくさんはしゃいだ霧島は電車の中では終始私の肩に頭を乗せて寝ていた
おかげさまで私は寝ることが出来ず、蘇我から勝浦までの約1時間ちょっとの間、何をするでもなくずっと起きていた
そんな訳でとんでもなく眠い
あと疲れた
それとよくよく思い返してみたら、今日って休暇なんだよね?そうよね?
…なんで疲れが増してるんだし
しかも明日…今日の朝からまた仕事でしょ?
まぁなんでもいいけどさ
そんなことよりも早く鎮守府に帰らないと
霧島も限界は近いようだし
「霧島~鎮守府まで我慢ヨー」
「はい…霧島は大丈夫です…」
つらそうな霧島の手を引っ張って誘導しながら駅舎を出る
たくさんのお土産を持ちながらいつもより少しゆっくり歩き、静まり返った田舎の街道を進む
そのまま私達は何事もなく順調に街道を歩き、しばらくして鎮守府へと続く細い住宅街に入る
そして歩くこと数分、ようやくトンネルが見える所までやってきた
さて、このトンネルだけれど、正直この時間は出きることなら通りたくない
なんというか、怖い話とかに出てきそうなそんな不気味さを放っているからである
駆逐艦の子達に関しては歩いてここを通る時、絶対に私達の手を握り締めて離さない
だから、0時を回ったこの時間のトンネルを通らないといけないと思うと、あぁ…とどうしても気分が落ち込んでしまう
別に幽霊とかそういった類は全く信じてないけれど、如何せん私が幽霊みたいな存在だから何とも言えないし…
まぁ何にしてもここを通らないとすごく遠回りをして帰らなくちゃいけなくなるし、早歩きでさっさと抜けますか
1人心に決めて隣の霧島をフォローしながらやや足を早める
そしてトンネル入口まであと少しというところで、ある意味幽霊よりたちが悪そうな奴がいるのが見えた
「Oh…Just my luck…(不幸だわ…)」
トンネルの前にいるのはチャラい風貌の2人組の男達
典型的な残念な部類の人種そうだ
お願いだから絡まないでください
お願いだから絡まないでください
お願いだから絡まないでください
この時間にこの場所で絡まれるのは非常にダルいです
そう心で何度も唱えトンネルに近付くも
「あれ?君達こんな時間にどうしたの?」
「もしかして俺らを探しにきた感じ?」
見事に期待を裏切られ、話しかけられてしまった
「…」
そうは言っても必要以上に杞憂することもない
もしただの普通のナンパなら目も合わせないで無視しちゃえば切り抜けられるし
「あ、無視する系?」
「ちょっと待ってよー」
が、こいつら
私が嫌いな本当に面倒くさいタイプの方の奴らだった
私達が無視をしてそのまま通り過ぎようとすると、片方の男が急いで進路に立ちはだかってわざわざ止めてきたのだ
そんな男達の対応に私は慌てて霧島を後ろに隠す
「君達こんなトンネルを通ろとしてるの?
俺達が車で乗せていってあげよっか?」
「そうそう、危ないしね~」
ケタケタと気持ち悪い笑いをあげながらそう言う
ちぇっ だからこういうのは嫌いなんだ
頭が良くてチャラい人達は論破するか、逆に話していて楽しくなることもあるけど、バカでチャラい人って言葉が通じないからなぁ…
…まったく、ブラックコーヒーにカカオ90%以上のチョコを入れるぐらい最悪
「どくネー 邪魔ヨー」
私は顔に感情を表すことなく、お得意の無表情で男達に言い放つ
「ん?君外国人なの?日本語変じゃない?」
「うわっマジだ ウケるっ」
顔に感情を出すことなくお得意の無表情で男達に言い放つも、返されたのはそんなこと
何もウケねーよっ
「…お姉さま」
「大丈夫ヨ~ 早く行きマスカ」
後ろに居る霧島が手を握り締めてきたので、安心させるために私は優しく握り返し、妹には明るい声でそう諭した
そして男達の方は埒が明かなそうなので、言った通り霧島を後ろにやりながら抜けようと試みる
しかし
こちらがいくら拒絶しても男達は諦めようとはしなかった
いざトンネルへ入ろうと横を通ると、近くにいた1人の男に右肩を掴まれる
「っ!」
反射的に私は右手で男の胸の真ん中辺りを叩きつけてしまった
「っぐあ!!」
もちろん、陸でも人間よりやや力が勝る艦娘の攻撃にただでは済まされず、その男は胸を押さえてうずくまる
あっ…しまった…
防衛とはいえ私から手を出してどうするのよ…
これじゃあもっと事が面倒な方向に進んじゃうじゃない…
「おい!何しやがるんだ!!」
案の定、それを少し離れた所から見ていたもう1人の男がこちらへと向かってきた
はぁ…まずい…
走って逃げられればいいけど、海ほどのスペックを陸地で発揮することはできない
つまり追いつかれる可能性も大いにある
しかもトンネルという逃げ場ない所ときた
あーもうっ!
…霧島だけでも逃がさないと
「Leave!(私を置いて逃げて)」
男達に伝わらないように、あえて英語で後ろにいる霧島に伝える
「え、でもお姉さま…」
もちろん素直に従うはずがなく渋る妹
「Don't worry I'll come(大丈夫 私もきっといくから)」
だから私は優しくそう告げて、ギュッと再び霧島の手を握りしめてあげる
霧島は一瞬俯いたものの何か決意したのか、直ぐに顔をあげて小さく「必ず戻ります」とだけ呟き、そして私の後ろから勢いよく飛び出してトンネルの中へと向かっていった
…まぁ実現するか分からないからwillを使ったんだけどね
流石にそこまで教えてなかったから分からなかったかもしれないけど
「あ、おい!待て!」
当然、あれだけしつこい男は逃がそうとはしない
だから私はこの男を止めようとするも
「Freeze!」
「は?氷?」
伝わらなかった
いや、なんでそうなるのよ…
せめて凍るでしょ
「行くなデース!」
「…え?じゃあ君1人で相手してくれるの?
ふぅー!」
…俄然こんな奴らに可愛い妹を汚されるわけにはいかなくなった
今すぐにでも銃撃…いや、砲撃したいぐらいだ
でも下手に男達を退治することもできない
艦娘が一般人に手を出したとなれば上が黙っているはずがないし
良くて提督の左遷、悪くて鎮守府解体
もちろん私は有無を言わさず解体されるだろう
別に私が解体されるのは問題なんかないけど、私なんかの問題で提督や皆に迷惑がかかるのは申し訳なさすぎる
うーん…どうしたものやら…
まったく世の中は上手くいかないことばかりだ
「お姉さんっと」
そうこう今後の流れを頭の中で考えていたら、私はすっかり手を加えたもう1人の男のことを忘れてしまっていた
つまり
「ギャっ!」
後ろからガバっと両腕を捕まれて身動きが取れなくなってしまい、逃げるどころの話ではなくなってしまった
それに加えて何故だか体から急に力が抜け、地面に呆気なく崩れ落ちる
「はっ、さっきまでの威勢はどこにいっちゃったのかなー?」
「…」
へ?な、なんで?
何で力がでないの?
「おー腰抜かしちゃったのかな?可愛いところあるじゃんっ」
嘘でしょ
こんな大事なところで腰抜かすって
普段こんなのよりももっとイカレている連中と命かけて戦っているのに
こんなのに、こんなのに負けるなんて…
「いいから早く連れてこうぜー
こんな可愛い子なんてめったに拝めないし」
「そうだな」
言うと私の後ろにいる男が私の腕をひっぱり上げる
もちろん力が全く入らない私はこんな男達に触られるのなんか嫌なのに、全く抵抗が出来ない
「…離すネー」
「離してほしいなら振り解けばいいだろ~」
「抵抗しないってことは連れてってほしいってことだよな」
街灯の光が頼りない林の中、風で揺るれる枝の葉が擦れる音と共に、男達のケタケタとした笑い声が響きわたる
こんな奴らにこれから自分は汚されてしまうのか
そう考えると鳥肌がたつ
いや、でもその前に力が元に戻れば助かるかもしれない
そしてこいつらを消し去ることも可能だろう
でもそれは同時に私の人生の終了でもある
一般人を艦娘が殺したとなればどんな理由であれ解体は免れない
例え体をいじられてもだ
つまりどっちみち、私には未来がないみたいだ
…まぁ確かにこの一週間私が望んでいることではあるけど、こんな形でそうなるとは
神様は相当私のことが嫌いみたいだね
はぁ…
それにしても本当に…本当にくだらない人生だったなぁ
いいけどさ、もう何でも
恐怖も嫌悪感も無くなった私の心を表すかのように、顔は昨日までと同じような普通の無表情から生気のない機械のような無表情になった
「あれ、顔死んでるよ?
もう俺達を受け入れたってことかな?」
「あぁそうみたいだな」
バカな男達は自分達の都合のよいように解釈していく
自分達の未来がどうなるかも知らずに
よし、決めた
この男達をやってから私も消える
妹を怖がらせた罪は重いよ 私の中の大逆罪にあたるからね
でも、やるにしてもせめて提督達に迷惑がかからないように色々隠蔽しないと
うん、力が戻るまでに考えておこう
どうしよっかなぁー
(ちょっと待つデース!)
と、その時だった
頭の中でいつも聞いているような感じの声が響いた気がした
は?え?何?何今の?
とうとう幻聴まで聞こえるぐらい私頭おかしくなっちゃった?
うわっ…いよいよ末期じゃん…
(幻聴じゃないネー ワタシヨー! 金剛型一番艦金剛デース!)
いやーはっきり聞こえるよ 金剛だってさ(笑)
マジカー終わってるなー
(平原!ちゃんと聞くネー!)
…ひ、平原?
前の世界の私の旧姓…どういうこと?
(ふふーん ちゃんとワタシも調べたデース)
…え?本当に…本当に金剛さんなの?
(もちろんヨ~)
…おぉそうなの
でもせっかく来てもらって大変恐縮だけど、もう私、というか貴女の身体があと少しで終わりそうなんだけど…
(それは大丈夫だと思うネー)
…大丈夫?
(Yeah すぐに分るヨ~)
「なんか黙っちゃったけど」
「あれじゃね 受け入れたんじゃない?」
「マジか オッケーじゃあ連れて行きますかね」
「おぉ、そうだな
…ってお前、おでこの赤い光なに?」
「は?赤い光?」
光?
見ると私を取り押さえている男が言うとおり、確かにトンネルの方に体を向けているもう一人の男のおでこに赤い光が照らされていた
「てか誰か人来たっぽいんだけど」
「うわ、マジで?」
そう言って男たちは私を抱えたままトンネルの方へと体を向ける
コツコツと響きが大きくなる中、視線を音の方向へ向けると確かに誰か1人こちらへと向かってくる人が見えた
しかも明らかにそこから赤い光が出されているのが分かる
これってもしかして…
「そいつを放せ」
それから数十秒も経たないうちに放たれた聞き覚えがある声
同時にトンネルの中から身に覚えのある1人の男が姿を現した
その手には銃が握られていて、顔は私が見たとこもない形相をしている
でもなんでだろう
不思議と少し心が休まった気がする
「なッ! こ、こいつ銃持ってやがるぞ!」
「落ち着け! 本物なわけないだろ!」
「…あ、あぁそうだよな」
提督の姿を見て男たちは一瞬たじろぐも、1人の男がそう言うともう1人の男もすぐに落ち着きを取り戻す
そして私を掴んでいない方の男がガツガツと提督の方へと向かってく
すると間髪入れずにシュポンっと、黒いガッツリとしたものから軽い音が発せられた
「…」
明らかに偽物ではない音が出たことに男達から生気が消え固まる
それに追い打ちをかけるように提督がライトを点け地面を照らすと、道路に銃弾がめり込んでいるのが確認できた
「分かったらさっさと散れ」
冷たく提督が言うと、固まっていた男達ははっと息を吹き返す
そして相当身にきたのか、何も言わずに背を向けて走り去って行ってしまった
「…」
男達がいなくなったことでこの場には提督と私の2人だけが残り、お互い口を開かないので沈黙だけが流れる
…提督怒ってるのかな 喋りだそうとしないし
…そりゃそうだよね
部下が問題起こしたら責任はトップの提督にいっちゃう訳だし、私なんかで飛ばされるなんて嫌に決まってる
迷惑をかけないよう振る舞っても迷惑をかけてばかりだ
「金剛」
闇夜の中、地べたに座り提督を見ながらそんな自嘲的なことを考えいると、なんの前触れもなく提督が私の名前を呼んだ
けれどそれ以上何かを喋ることはなかった
提督は黙ったまま私の横にきて静かに屈み、さらにそっと、私の頭に手をのせて優しく撫で始めてきた
「…て、てーとくぅ?」
「…」
「てーとくぅ!」
「…」
名前を叫んでも提督は一切撫でることをやめようとしない
私も私でとっくに力は戻っているのに何故か止めることができない
「…てーとく」
「…」
「…やめるネー…やめるデース」
「…」
なんで…なんでやめないのよ…
女の子の頭はデリケートなんだからそんなに気安く触んないでよ…
本当にやめて…お願いだから
「…ワタシ、怒りマスヨ…だから、やめて、くだサーイ…」
「…」
「…うっ…てーとく…怒るデース…」
「…」
やだ…この人の前なのに
今一番見られたくない人の前で…私…
「見ないで、くだサーイ…うぅ…」
「…」
「…ぅ」
「…」
「…でーどぐぅー!」
「…」
とうとう傷付いたダムが決壊してしまった
しかもよりにもよってこの人の前で
自分の感情を捨て自分の意志も捨てたはずなのに、提督に無言で撫でなれただけで崩壊するなんて
あぁ…ダメだ 止められない
…そもそも今私は何に対して泣いているの?
男達に襲われたことについて?
…いやそんなことじゃない
じゃあなんで?
…やめよう
今は何も考えずにちょっとだけ、ほんのちょっとだけ吐き出させてもらおう
「でーどぐぅー!」
…
「もう大丈夫か?」
「Yes もう大丈夫デース」
あれから数分経ち、ようやく私の涙も治まった
思っていたより溢れ出たのでとめるにとめられず、我ながらびっくりしている今現在
私が泣き止んで始めて提督は話しかけてきてくれた
顔を見る限り今のところ怒ってはいないようだ
「Sorry 見苦しいものを見せマシタ」
「気にするな むしろ俺は嬉しいぞ」
「…それは泣き顔ヘェチってやつデスカ?」
「っあ、アホか!そういうことじゃないわ!」
まぁ流れ的にそうですよねぇ
「まったく…でもお前が無事でなによりだ」
提督はそう言うとよっこらせ、と立ち上がり、私に手を差し出してきた
…え?
「何してる 早く帰るぞ」
「…ワタシも?」
「は?何を言ってるんだ 当たり前だろ」
え?提督はその銃で私を処分しにきたんじゃないの?
てっきりさっきの頭を撫でたのは最後の晩餐ならぬ最後の心地よさをくれてやろうって感じだと思ってたんだけど…
「…てーとくは私を処分しないデスカ?」
「いやなんでだよ」
「ワタシ必要ない子デスから」
「…ん?ちょっと待て…どういうことだ?」
提督は、は?という顔をしながら腰に手を当てて問ってきた
どうやら本当に私を処分しにきたわけではないらしい
あと関係ないけど、その顔少しむかつく
「…ワタシ問題ばかりヨー?」
「あぁそれは知ってる」
えぇ…肯定されちゃったよ…
ここって普通否定してくれるシーンだよね?普通は
いや、励ましてほしいとかそういう望みはないんだけどさ
これで私の存在価値マジで0らしいってことが判明しちゃったよ
「でもだ!」
がここで、私の思考を遮るように提督が続ける
「その問題をはるかに超える能力がお前にはある
仕事の出来も勿論だけど、鎮守府のお姉さん的振る舞いも誰にも真似できないしその他家庭的なこと、例えば料理もカレー以外凄く旨い」
「か、カレー以外?」
「あぁカレー以外だ
なんで高度な料理は出来て誰でも簡単にできるはずのカレーはいつも具がなくなるとか意味が分からない状態になるのかさっぱりだよ
というかそれはどうでもよくてだな
まぁなんていうか…個人的にめちゃくちゃタイプの女性、だし
なんなら今すぐにでも抱きしめたいぐらい
…そんな訳でお前は凄く必要な存在だから安心しろ」
…なに?私今告白されたの?
タイプだ、抱きしめたいって言った?
結構良い話するのかなぁとか思ってたけど、後半完全に個人的な欲望の話のたまわれましたよね?
え?この提督大丈夫?
「まぁ…後半は冗談だけど…
その、あれだ 男女の関係とかそういうことじゃなくて、ただ単純にどちらかがこの鎮守府を離れるまではずっと一緒にいてほしい
沈むとか殺されるとか、ましてや自殺とかするのはやめてくれ
自分勝手だとは思うけどそれでもお願いだ
ここを去るまでは何も失わずにお前を含めた皆の顔を見ていたい
それと俺はお前が必要だ、と言った後でなんだけど、自分の存在価値は他人が決めるもんじゃない、自分で決めるものだ
だから卑下するんじゃなく自分は価値があると思って生きろ
お前の場合実際価値高いんだし
…って誰かが言ってた気がする」
「…」
前言撤回
やっぱりこの人は…私の提督だ
この適当で素直じゃないところ
でもただ奇麗事を並べられるよりもはるかに心に届く
…今回は非常に遺憾だけど、私の負けかな
「あーそれともう1つ
Everything will be all right(全てうまくいくさ)
だからあまり考えすぎないで適当にやれ」
言うと提督は今度は私の手を掴んで体をひっぱり起こした
立たされた私は服の汚れも気にもとめずに、自然と提督の横に立ち並ぶ
…貴方がもし本当に私を必要としてくれるのなら、私は秘書艦としてちゃんと役目を果たすまでよ
…
鎮守府に着いた私は直に疲れを癒す為にお風呂に浸かった
駅に到着したのが既に0時を回っていたので、今はもう2時ちょいになってしまっている
それでもなんとなく寝ることが出来なかったので、思いつきで執務室に行くとそこには何故かお酒を飲んでいる提督がいて、平日の真夜中だっていうのに今は2人してお酒を堪能中
ただ、お酒が弱い私はたったグラス一杯のお酒をずっとちびちびと飲んでいた
それでももう顔が熱い
「てーとく~、お弁当ついてるネ~」
酔いもあってか、なんとなく提督のほっぺについていた焼きおにぎりの米粒を、ひょいと取ってあげた
ふふ~ん 提督も可愛いとこあるじゃ~ん
ほっぺにお米なんて小学生かいっ!
「…金剛、そういうのは好きな人にやるもの…」
そんな私の行為に対して提督は抗議しようと途中まで言いかけ、その口を噤んだ
「…そ~ね~、ワタシも好きな人がいればその人にやってマース」
…そうなんだよね~
こうして一応振る舞ってはいるけど、まだ根本的なことは解決してないのよね~
会うことはもう無理だって分ってはいるんだけどさ
でもやっぱりもう一度だけ会いたいなぁ…
「…」
「…」
それっきり会話が途切れてしまった
さほど大きくない部屋に流れる自分が造ってしまった沈黙
ばつが悪く、誤魔化すように先ほどと同じようにちびちびとグラスに手を伸ばす
お酒なんて普段飲まないのに、この気まずさには頼らざるおえない
あぁ~どうしよ
なんか気まずくなっちゃたなぁ…
さっきまでいい感じだったのに
そりゃその全てもの原因は私にあるんだどさぁ
…うーん…一旦酔い覚ましも兼ねて桟橋にでも行ってこようかな
「…ちょっと桟橋に行ってきマース」
「…あぁ」
止められるかな、と思いきや、提督は少し間をおくも了解してくれたので、私は立ち上がりドアへと向かおうとした
そして一歩踏み出した瞬間
バーン!という激しい音が目の前から響き渡る
「失礼しまーす!!!」
勢いよく開かれたドアからその音を作った張本人
一升瓶を握った真っ赤な顔の比叡が入ってきた
「お姉さま!ヒッ、お酒持ってまいりました!!!」
しかも相当出来上がっている為か、いつにも増してテンションが高い
比叡が酔っ払っちゃうとこんな感じなのかぁ
テンション高めの無駄に絡んでくるタイプねぇ
…やだ~ちょっと面倒くさそぉ
こういう人って飲みすぎてゲロリスト化するからなぁ…
しょうがないから介抱するとなんか勘違いされるし
でも比叡ならいっかなぁ
寧ろ喜んで介抱しちゃう!
「お前…めちゃくちゃ酒臭いんだが…」
「いや~ヒッ、ずっと飲んでまして~、ふふ、お姉さまとしれーが飲んでいると聞いたので来ちゃったー!ヒッ」
「明日も仕事だっていうのにどんだけ飲んでるんだよ…」
比叡の態度に提督は手をおでこに当てて呆れる
うん、確かにてーとくが言ったとおり、比叡が入ってきて急にこの執務室が臭くなったのよねぇ
お酒を飲むことは悪いことじゃないけど、程々にしないと人様に迷惑をかけることになるからね
ここは姉として注意しておきましょうかぁ
「比叡、お酒はほどほどにヨ~」
私は酔っ払っている比叡の元まで行き、頭をつんつんと突っついてそう注意を促した
すると、普段の何でも「はい」と答える比叡とは違い、むーっと唇を尖らせて抗議してくる
「だってーここずーっとお姉さま構ってくれませんでしたしー、もう私もしんどかったんでーついー」
「「…」」
ぽんっと何気なく投下された爆弾
この一言によって今までの酔いがはっと一気に醒まさせられた
…そうだった
都合良く忘れていたけれど、この数週間ずっと皆に迷惑をかけてきたんだった
その結果がこんな状態の妹を作った訳であって、私が注意するなんてとんでもないことだったんだ
なにが姉としてなんだか
姉が駄目だから妹がこうなってるのに
「…Sorry比叡」
本当にごめんなさい
もっとしっかりとした姉の方が幸せだったよね
「ふふふ、お姉さまー
あっお姉さまお酒飲みますかー?」
さっきまで突っついていた指を今度は頭にのせる
それから比叡の頭を撫で撫ですると、気持ち良さそうにデレーっとしてきた
そしてその状態のまま当初の目的であったお酒を勧めてくる
「ワタシは大丈夫ネー
でもちゃんとお話しは付き合うヨー」
せっかくの誘いだけど、そもそもお酒自体そんなに好きじゃないし、今は比叡の不満を解消させる方が先決だよね
そう考え私は比叡の飲みの誘いを断る
「そう言わずに飲みましょーよー」
それでも素直に引くことはなく瓶を押し付けてくる妹
私も私でその妹の為には引くわけにはいかないので瓶を押し返す
その結果…
「ワタシはもう飲み…ウグッ!」
「お、おい比叡!」
それは突然の出来事だった
撫でられて満足気だった比叡が、いきなり持っていた一升瓶をそのまま私の口に運んできたのだ
あまりに予想外のこと過ぎることだったので体がすぐに反応しない
戦艦比叡に押さえつけられながらごくごくと勢いよく喉を流れるお酒で、意識が途切れるのにはそう時間はかからなかった
…
…あれ?なんだか体が痛い
あと、ちょっと背中にちくちくした触感
というか私はいつ寝たんだっけ?
「…ん」
ちょっと不快感を味わいつつ目が覚めた
そして上半身を起こしそのまま周りを見渡すと、あるのは辺り一面に綺麗に広がる墓、墓、墓
と、後ろには金剛と男の人
それと区画整備された墓場には道路もあり、車が時折走っていく
その風景からどうやらどこかの霊園に私はいるようだ
そして初めて見たというよりは…
うん、間違いなくこないだ夢に出てきた霊園
もとい私の骨がある場所だね
ただこないだの夢の場所とは違い、今回は自分の家のお墓の前にいる
まぁだからといって何も嬉しくはないけれど
って、え?
後ろに金剛と男の人?
「Hey!平原~!やっと起きましたネ?」
「…」
…えー何で
なんで金剛がここにいるの?
そもそも私はなんでまたここにいるのよ
あと、隣にいる男の人は一体…
「…えっと…なに?」
「Um…あなたを助けに来たのかな?」
若干引き気味に質問した私に対して、そんなことは気にもとめないで答える金剛
その明るい顔はなんだかとても眩しくみえて、本当に私を救ってくれそうな女神様みたいに感じられた
「…助けるってどういうこと?」
「こういうことデース!ー
そこから女神様の長い長い話が始まった
半分何言ってるのか分からなかったので要所要所抜き出すと
①金剛(本物)は今はバルハラとやらに提督達と一緒に住んでいるらしい
②本来なら自分がやるべき仕事を私が就いていることを申し訳なく思っている
③そこでお悩みの貴方に良い処方箋を与えようと、私の望みを叶えるべく色々な準備をしていたそうな
ーだからアナタの会いたい人に会わせてあげるネー!」
「…私の会いたい人?」
私の会いたい人
私がここの世界に来てからずっと再会することを望んでいた人
もしかして…もしかすると…
「…お父さん?!」
「Oh!話が違うヨー!」
ううんっ
まぁ今のは冗談として
…いや強ち冗談でもないんだけど
「…ーー君?」
「Yes!その人デース!」
私が一番会いたかった人、ーー君
夢でも何回も見て、その度に叶うことなんかないんだと勝手に悲しくなって…
その私の希望を金剛が叶えてくれると言っている
ただそんなことは本当に可能なのだろうか
いくら非現実的なことが続いているからといって、なかなかすぐに呑み込む事はできない
「本当にそんなことできるの?」
「Yeah! ワタシに任せるネー!」
一応確認のためにもう一度問うと、そんなことなんてこともない、と言わんばかりの態度で返してきた
さらに金剛はあっ、と何かを思い出しのか続ける
「それと、これからは頭の中でワタシを呼べばいつでもやってきマ~ス
呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~んってやつデスネ!」
「そーなの…って、え!?
これからも私は貴方の身体で生きなきゃいけないの?!」
何故そういう重大情報をさらっと言うの
ていうかなに?私はこのままーー君に会った後成仏されるんじゃないの?
「Of course!」
「なんで?!貴方が元に戻るんじゃないの?」
「ワタシはもうそっちに行くことができまセーン
だからアナタに任せたいのデース」
えー…飴と笞の笞が大き過ぎやしませんかね…
私の願い1回と引き換えに人の人生を背負うって…
ニコポン宰相かいっ
「…私はこのまま死ぬことはできないの?」
「もちろんできるヨ~
But!アナタは今の鎮守府のみなさーんのこと嫌いデスカ?つまらないデスカ?」
「…」
金剛に痛いところをつつかれてしまった
勝浦鎮守府のメンバー
提督 黒姫さん 柿崎さん?
比叡 榛名 霧島
明石 睦月 如月 弥生 望月
確かに皆大好きだ
でもそれとこれとは関係なく、私が迷惑をかけているのもまた事実であって、私がいなくなればもっと円滑になるとも思う
「確かに嫌いじゃないしむしろ好きだけど…
でも皆に迷惑かけてるし、私がいなくなった方がいいのかなぁって」
私の考えを伝えると、金剛は呆れたようにはぁ…とうなだれ、私をじっと睨んできた
けれどたちまちに姿勢を戻し、ビシッと人差し指を指し向けて、今度は先ほどよりもやや強い口調で話し出す
「あなたは何考えてるデスカ? みなさんアナタを必要としてるに決まってマース
だから横川てーとくのideaで今日も霧島がデートしたデース
アナタが消えたらそれこそみなさんおかしくなっちゃうヨ?」
言うと金剛は私に近づいてきて私の目の前に立ち、ギュッとその暖かい手で私の冷たい手を握りしめてきた
その瞬間
私の頭の中に、沈んで眠っていた時の私を取り巻いていた状況がパっと流れてきた
私を引き上げようと必死になって海に潜っている一般市民
引き上げた私を全速力で沖縄の鎮守府まで運んでくれている仲間
入渠中の私をじっと待ってくれている友達
傷が治った私を船に乗せて片時も離れずに勝浦まで付き添ってくれた妹
そして寝ている私の元へ30分に1回は確認しにきてくれた提督
全く想像もしていなかった真実を知らされた
自分が思っている以上に自分は必要とされている
それも兵器としてではなくて人として
「アナタが辛いのは分かるネー
ワタシの代わりに重荷を背負ってるのも知ってマース
でもアナタにはこのまま死んでしまうのではなくて、ワタシとして生きてほしいネー
きっと辛さよりも楽しいの方が多く待っているとはずデスから
横川てーとくや比叡達との」
金剛は話終えると手を放し、その手を今度はお腹辺りの高さまで移した
そして優しく微笑む
…なんというか、正直下手な説得だと思う
もしこれが立てこもっている犯人に対する説得だったら失敗しているだろう
勿論今朝までの私にもだ
でも今は違う
今の私は新たに生きる希望ができた
確かに前の世界では死んでしまった
好きな人とも会えなくなってしまった
けれどもうそれは今からどうすることもできない過去のことだし、いつまでもくよくよしていたってしょうがない
前に進まないでどうするの
一度きり…まぁやりたいことやって楽しまなきゃ
そう決意し私は出された金剛の手を握りしめた
そして微笑み返す
「ありがとーネー!
何かあったらワタシもadviceするヨ~
あっ! my darling 何かありマスカ?」
と、ここでようやくずっと横に居た男の人が口を開こうとした
この人、どっかで見たことあると思ってたら上田提督か
なるほどなるほど
「…正直、職種柄辛い時の方が多いかもしれないだろうけど、私が金剛から聞いた限り貴方ならなんであろうと乗り越えられると思う
戦死した俺がとやかく言えることじゃないがな
…それと横川と仲良くしてやってくれ」
かつて日本1の鎮守府のトップであったこの人が、低い声でそうお願いをしてきた
あれ?
よくよく考えたら私が金剛として生きている間に、本物の金剛はこのイケメンで権力を持ち合わせていた提督といちゃいちゃうはうはしてるってことだよね?
えー…なんかやる気が…
…まぁ!私は!頼まれたとおり!普通よりちょっとかっこいい提督とやっていきますよ!
「…分りました」
「OK! ではワタシ達はそろそろ行くデース!」
言うと金剛はbayと手を上げて上田提督と共にこの場から去ろうとする
「え?! 行っちゃうの?!」
当然、帰り方もーー君との会い方も分らず、置いてけぼりにされてはたまったものではない私は慌てて止めにかかる
けれど2人とも笑ったまま「大丈夫ヨー」とだけ言うと、とっとと行ってしまった
大丈夫って言われてもなぁ…
何もだいじょばないんだけど…
約束通りーー君と会えるんだよね?ちゃんと帰れるんだよね?
流石に墓地で暮らすのは嫌だよ?
あーどうしたものやら…
「…ーー? ーー!」
お墓の前で1人途方に暮れている私
そんな中、遠くから微かに誰かが私の名前を呼んでいるのが耳に入ってきた
しかもある特別な声
幾度となく聞いてきたけれど、決して聞き飽きることはなかった声
もしかして本当に…
私は声がする方へと振り返った
そこにはまさにあの人の姿があって
「っ!」
無意識の下走りだし、気付くと私の体は特別なその人の体に抱きしめられていた
「会いたかった…ずっと会いたかったよぉ…」
「俺も…ずっと会いたかった…まさかまた会えるとは…」
そのまま私は何かを求めるかのように訳も分らず頭をこすりつけ、気づくと涙もぽたぽたと垂れていた
「まだまだ一緒にいたかった 結婚式だって挙げたかった それに約束した夢の国も行きたかったのに…」
「あぁ」
「ごめんなさい死んでしまって…本当にごめんなさい…」
もし会うことができたのならまず初めに言いたかったこと、つまり勝手に早々と死んでしまったことの謝罪を伝えた
もちろん、ガソリン車の運転手に非があるのは確かだけれども、それでも私が完全に悪くないといえばそれは違う
私だってあの信号待ちの時、次の日のことで上の空だったから
「ーーが謝ることじゃないだろ…あれは誰も防ぐことが出来なかった事件だよ」
「違う!私がいけなかったの…私がもう少し注意を払っていれば…浮かれていなければあんなことにはならなかった…」
「それも違うでしょ
あれは誰も予想出来なかった どうにもならなかったことなんだ
…だからそんなに悔やまないでくれ」
事故というものはいつでも突然なこと
誰も予測できなかったから起きる
そうはいっても何かしら防ぐことはできたはず
だったらどうにもならなかったとは言えないんじゃないかと思う
「でも…」
「そんなに自分を悪く言わない方がいいよ
自分を追い込み過ぎるとどんどん辛くなって耐えられなくなるよ?」
言うと優しく私の頭を撫でだした
「…相変わらず優しいのね
ーー君は本当にいつも優しい…いつもいつも…そんなところも大好きだった…」
あぁ…本当に大好きだった…
撫でられながらは私さらに力を強めて抱きつき顔を胸に押し付けると、もう堪えきれず嗚咽までも漏れてきた
それでも力が弱まることはなく、思う存分甘えた
…
それからどれくらい経ったのかは分からない
時折誰かが近くを通る足音が聞こえたけれど、誰1人として横を通る者はいなかった
私はというと、ようやく嗚咽が止み徐に腕の力を弱め、ーー君の顔を覗き込みながら口を開けた
「ーー君、私はこっちの世界で楽しんでるよ
ーー君もあっちの世界で楽しんでる?」
「え?あっちの世界?そんなのあるのか…
あ、えと、俺は今はようやく元に戻ってきたとこかな
ーーがいないのは大きいけど…」
「…そう でも元に戻ったのね」
私は涙を浮かべながらも満面の笑みを見せる
これから大事なことを言わなきゃいけないからね
「…じゃあこれは返さないと」
私はそう告げて、左手の薬指の大切な物をはずそうとした
「な、何してるの!?」
「だってーー君はそっちの世界でまだまだ長い人生があるでしょ?
だったら私はもういないのにーー君を縛り付ける権利なんてないわ
私もあなたを忘れるから、早く私を忘れて新しい恋をしてもらいたい
…だから返すの」
でも私の意志に反して、ーー君は指輪をはずそうとする私の手を慌てて止めてくる
「ちょ、ちょっと待って!
1回落ち着いて!どうした?!」
「ーー君だってそんなのしてたら別の子と結婚できないよ?」
「別にいいよ!もう忘れられないし!」
「でももうきっと会うことはできないよ?」
「それでもだ!」
「…」
「…」
それっきり2人の間に沈黙の時が流れる
お互いじーっと見つめ合い立ち続けながら
傍から見たら完全におかしな2人だ
しばらくして、なんだかこの状況が可笑しくなり、ふっと自然な笑いがこぼれてしまった
「ふふ、じゃあキスしてよ」
「じゃあってなんだよ…
何の脈略もなかったでしょ…別にいいけど」
「ーー君♪」
了承も得られたらところで猫なで声で名前を呼び、再び勢いよく飛びつき唇に唇をあてた
この時だけは絶対に離れないよう手で頭を押さえつける
今までに経験したことも無い異常な長さのただのレンチキス
それでもそれだけで私は十分だった
「ぷはぁ
やっぱキスっていいね♪」
「満足してくれたようでなによりです」
「あ、でももうちょっとだけ…」
久しぶりの再開に私の心は膨れてそれだけでは足らず、わがままでその後もお墓の前なのに数えるのも面倒なくらいキスをした
もう完全に私達はヤバいやつらだ
御先祖様も激オコだろう
「…うん、満足満足
最後くらい幸せを味わっても誰も文句言わないよね」
「いや、最後って…」
最後にまたとびきり長いキスをして、もう心残りは消えた
なんとなくだけれど、そろそろ戻らなければいけない気がする
だから私は自分の思いを伝える
「またーー君に会えて良かった、本当に嬉しかった
私はーー君が好き
でもやっぱりーー君はあっちの世界でもっと楽しむべきよ
過去は過去、今は今
いつまでも引きずってられない
だからこの指輪は返す
ーー君が幸せになってくれれば私も幸せだから
もし私がとんでもなくタイプっていうのなら私の妹と結婚すればいいよ
あの子は私よりは!少しスペックが劣るかもしれないけどオススメだよ?
私達が結婚するまではーー君のことタイプって言ってたし脈はあるよ
別に他の女の子でも構わないけど
あっ、なんなら私の弟でもいいよ?」
「いや、ちょっと待って
色々つっこみたいことがありすぎて整理がつかない
でもとりあえずーーの弟とは結婚しないから安心してくれ
渋谷区には行かないから」
ーー君は指輪を外すことをやっぱり止めようとしてきた
それを外すというこはつまり本当に終わりを示すからだろう
けれどここは私も譲れない
言った通り、長い人生があるのにいつまでも引きずらせるのは違う気がする
だからーー君が反論する前に決めなきゃ
「私のことは大丈夫だから安心して?
そもそも私はこうしてまたーー君と会えただけで満足だし、キスまでさせてもらったから
だからね?お願い
私のことを忘れてとは言わないけど、私に縛られるのは止めて
そんなつまらない人生を送ってほしくない
ーー君が銀座に行こうが六本木に行こがどんなに遊んでも怨むことなんてないから
これからは私を記憶の先端に置いてもっと楽しんで」
「…」
言いたいことを言い切った私の目にはもう涙はない
ーー君も何か言いたそうではあったけれど、私の真剣さが伝わったのか反論してくることはなかった
それからしばらくまた沈黙が流れた後、ーー君が徐に喋り始めた
「…ーーの気持ちは分かった 一応その指輪も受け取るよ
ただ!俺も忘れないからーーにも俺達が結婚したという思い出は忘れないでほしい」
「もちろん
そんな私達の行為の全否定はしない」
「分かった」
そうして私は左の薬指から指輪を外し手渡す
ーー君はそっとその指輪を受け取ると、大事そうにハンカチに包み、持っていた鞄の中へとしまった
よし、これで私のやり残したことは全て消えた
ーー君にも迷惑がかからずにすむだろう
安堵感で心の中でふぅとため息をつく
すると急に、今見ている私の手が薄れ始めた
「え!?あっ!ーー?!」
ーー君も気付いたのか慌てて私の肩を掴む
なんか去り方がお化けみたいでやだなぁ…
…
「…そろそろお別れみたいだね」
「…そう、みたいだな」
あれから時間が経つのは早かった
再び抱きしめられたら私の身体はさらに薄れていき、とうとうもう見えるか見えないかぐらいになってしまった
「…ねぇ?
最後に、本当に最後のお願いしていい?」
「なに?」
「頭をワシワシして…」
「…うん、そんなことでいいのなら喜んで」
私の要望通り、大きな手で頭を強く撫でられた
ついでにと、ほっぺをぷにっとされて、一瞬当時の日常みたいに感じられた
そんな喜びに、自然と小さい子供のような笑みがこぼれてしまった
「ーー君、私はーー君に愛してもらって幸せでした」
「…うん 俺もーーといて幸せだった」
「でももうお別れね
ーー君との思い出は一生大切にする」
「…俺もだよ」
「…今まで本当にありがとうございました」
「…こちらこそ、こんなのと結婚してくれてありがとう」
ーー君の言葉を聞き、私は最後に
「Good-bye forever」
と告げて、ーー君に頭を撫でられながら、意識が途切れた
…
うっ、気持ち悪い、頭痛い…
これ完全に二日酔いだ…
私は今、私室でベッドに座りこみ、二日酔いのせいで動けないでいた
もちろん、いざという時のためにビニール袋を持って
おかしいなぁ
提督と軽くお酒を飲んでただけのはずなのに途中から全く記憶がない
お酒はそこまで好きじゃないからそんなに飲むはずないんだけどな…
…でもその代わりに素敵な体験をしたことははっきりと覚えている
ーー君と会う
抱きしめてキスして頭を撫でられて
言いたかったことは全部言った
感触までも未だにしっかりと残っている
身体の状態は最悪だけれど、心はスッキリ爽快だ
…ふふ、ありがとう
最後まで私のわがままに付き合ってもらって
短い時間だったけど前のような時間を過ごしたようで楽しかったよ
大切な、大切な私の元旦那さん♪
…
さて、もう心の整理も出来たし皆に迷惑をかけたことを謝らなきゃね
とりあえず最初は妹達かな
私はなんとか気持ち悪いのを我慢して立ち上がり、妹達を探しに部屋を出た
謝りに行くのに、何故か心がウキウキしながら
…
「お姉さま、本当に申し訳ありませんでした
いくら酔っていたとはいえ、一歩間違えれば死んでしまうようなことをお姉さまにした私に、どうか罰をお与えください」
現在、榛名の部屋にいる
目の前には土下座する比叡と、それを囲むように立つ榛名と霧島
…謝りに来たのに何故か逆に謝られている
「わ、ワタシは大丈夫ヨ~、だから顔をあげるネ~」
「いえ!私がしたことは殺人未遂です!
だから罰を与えられるまで顔をあげられません!」
そんなこと言われても…うーん…
別に私は気にしてないし、寧ろ私がその行為をさせた原因だから比叡に罰を与える権利はないんだよなぁ…
でもこのままでは比叡は絶対に顔を上げないし…
「…」
…仕方ない、こうしよう
「比叡、少し顔をあげてくだサーイ」
「…お姉さま?」
私の言うとおり顔をあげた比叡
そのおでこに、ほんのちょこっとの力でデコピンをした
「ハイ!これで終わりにするネー!」
「…ヒェ?」
「大丈夫デスカ?」
「…お、お姉ざばぁ!」
すると比叡は急に泣き出し、私に飛びついてきた
「よしよーし、比叡、ワタシはもう大丈夫ヨー
榛名も霧島も迷惑をかけました
ゴメンナサイ」
当初の目的である謝罪をすると、2人は慌てて手を横に振る
「お姉さまが大丈夫なのであれば榛名達も大丈夫です!」
「そうです、お姉さま!だからどうか気にせず!」
「Oh…本当に素敵なmy sistersネー」
「いえ!お姉さまがいてこその私達です!」
続けて「あっ、それと」と言い眼鏡をクイっとあげる霧島
そして窓際からある何かを持ってきた
「これ、私達からのプレゼントです」
言うと霧島は見覚えのある紙袋を手渡してくる
受け取りさっそく開けてみると、中には青・黄・白色の3つ×2のシュシュと、迷彩色と赤色のリストバンドが入っている
「私が吉祥寺で買っていたものはこちらです
私達で何かお姉様が喜ぶものはないかと検討してこれらにしたのですが…」
これは手首に付けてってことだよね
うん、お姉さんめちゃくちゃ嬉しいよ!
これなら何も気にせず半袖着られるし、何よりこの可愛い妹達からのプレゼントって
「…もうあなた達」
「「…え」」
「…みんな大好きヨー!!!ありがとーデース!」
一瞬怒ったと思ったのか、ややしょぼんとした顔になった榛名と霧島だったけれど、次の一言で一気にぱぁっと明るくなる
「あ、それからお姉様」
さらに霧島は何かを言おうとしてコホンっと咳をする
それを見て榛名も同じくコホンっとわざとらしく咳きをして
「「お帰りなさい!お姉さま!!!」」
2人に迎えられた
だから私も答える
「ただいまー!」
※提督が撃った弾はその後柿崎さんがちゃんと回収しました