なんだかんだしているうちに気付いたら年が明けてしまい、恒例のガキの使いも終わっていました
この時期は毎年鬼のように忙しく、2月まで休みがない状況なので、また次回の更新も遅くなると思います
その代わり3月に入ればほぼ毎日が休みのような感じになるので、それまで少々お待ちくださいませ
そういえばつい数日前、スターウォーズの最新作が公開されましたね
恐らく家で見ることになると思いますが…
皆さんはスターウォーズで好きなキャラクターはいますか?
私はシャク・ティが好きなんですが、当然今まで同志に会ったことはありません
本編ではあまり登場しませんが、クローンウォーズ版のアニメのシャク・ティはかっこよくて魅力的なんですよねぇ~
…では、今年もよろしくお願いいたします
皆さんは普段、夢をどのくらいの頻度で見ていますか?
毎日見ている人
週3回ぐらいで見ている人
もしくはほとんど見ない人
それがリアルなものなのかファンタジー要素が強いものかということは関係なく、生きていれば誰でも1度は見るもの
ただ、どんな人であっても毎日夢の中で恣意的に起こされて、しかもティーパーティーをするなんてことはまずいないだろう
ここ最近の私みたいに
「平原~?ぼーっとしてどうしたノ?」
「なんでもない…」
おかしい 私は間違いなく寝ているはずだ
ちゃんと歯を磨き、軽く明日の仕事の内容確認をして、隣の睦月と共にお布団に入って目を閉じたはず
にも関わらず、現在、静かなアルプスの草原のような場所で金剛と2人きりでティーパーティーをしている
うーん…私は何で夢の中までも紅茶なんて飲んでるんだろ
しかも金剛(普段の自分)と
2週間も連続で
いやね?最初は別にいいかなー、楽しいなーって思ってたよ?
でも毎日毎日ずーっと夢の中で起こされるものだから、もうたまったものじゃない
「…ねぇ?何で毎日呼んでもないのに現れてるの?
呼んで現れるってルールじゃなかったの?
というか何故私が逆に呼び出されてるの?
話が違うじゃん」
改めて考えると少しイラッとしてきたので、鬱積した不満を14日目にしてようやく投げつけてやった
「ワタシがお話ししたいからかな?」
「…ちょっと表出ようか」
すると金剛の答えは、ずっと呼び出しているのだから何かしっかりとした理由でもあるのかな、と思いきや、そんなつまらないもの
マジか
そんな理由で毎晩私を叩き起こしているの?
えぇー…なんで私はこんな人になりたいなんて願っちゃったんだろう
「ここはもう外デスヨ?」
「…」
そして私が皮肉を込めて返すと、本当に私が言いたいことの意味が分からないのか、将又とぼけているのかは知らないけれど、金剛は「は?」という顔をしながらそう言ってきた
うん、しばく
「バァ!にゃ、にゃにするデェース!」
「え?」
てなわけで、お仕置きとばかりに金剛の両頬をぎゅーっとつまみ上げ、そのままぐいぐいとする
伸ばされている金剛の顔は限界まで横に広がっていて、でも相変わらず可愛いものだからさらに腹立たしい
そんな腹いせも加わった攻撃に金剛は口では抵抗するものの、物理的には何かしてこようとすることはなかった
やだ、貴女もしかしてドM?
「長いネー!」
けれどそのままムニムニを続けていると、しばらく経ってようやく私の手をガバッと引き剥がした
その顔はややムスっとしている
いやだって楽しくなっちゃったんだもん 仕方ないよね
それに私は悪くないし
もともとの原因は金剛なんだから
「いやね、いいのよ 週1ぐらいだったら
でも毎日起こされるのはちょっとさぁ…
そろそろ夢を見ないでぐっすりと眠りたいのよ
夜目を閉じて、目が覚めたら『はい朝でーす』って味わいたいの」
鬱憤も晴らしたとこで、また同じことが繰り返されないよう私は腕を組んでこの人でもしっかりと伝わるように、少し顔をしかめて伝えた
まったく、たまには谷より深く反省しなさい!
「Oh…sorry…」
するとようやく私の気持ちがしっかりと伝わったのか、金剛は肩を落としてシュンとなってしまった
どうやらあの年中無休で明るい戦艦でも反省することはあるらしい
それから金剛は黙り込んでしまった
「…」
「…」
えー…なんか逆に私が悪いみたいになっちゃてるじゃん…
なんでこっちが罪悪感に苛まれなきゃならないのよ…
だいぶ正論を言ったと思うんだけど
「…」
「…」
それ以降お互い口を開くことはなく、さぁーっと吹く風の音のみがこの場を支配する
はぁ…まぁ確かに話したいと思われることは素直に嬉しいし、私ももしかしたら一時の苛立たしさで言い過ぎちゃったのかもしれない
このまま夢が覚めるのも後味が悪くて嫌だし、今ちゃんと謝っちゃおう
その後もちらちらと金剛を観察していた私は、とうとう罪悪感の方が勝ってしまい、謝ろうと彼女の方に体を向けた
そして謝罪の言葉を出そうと口を開きかけたその瞬間
何を閃いたのか金剛は両手で勢いよく私の手をパッと握りしめ
「…I understand! 今度からonce a weekにしマース!」
そう高らかに宣言してきた
どうやら落ち込んでいたのではなく、彼女なりに妥協点を探していたらしい
「…」
…何もアンダースタンドしてないわよ!
貴女仮にも英国人ならunderstandの使い方知ってるでしょ!
そういうなんとなく分かった時はseeでしょうよ!
いや、それ以前になんか色々違うよね?
…それとももしかしたら全部わざとやってる?
だとしたら相当腹立たしいね!
でも可愛いから抱きついちゃう!
「ど、どうしたデスカ?」
「うぅ…もうなんでもない…」
「そ、そうデスカ」
突然抱きついたきた私に一瞬戸惑う金剛
でもすぐに落ち着きを取り戻し、子供をあやすかのように頭を撫でてきた
悔しいかな
もうすっかり抵抗する気持ちもなくなっちゃった
最初っから彼女のターンで最後もドーン!
これが金剛マジックかぁ…
…私も見習おっと
うんうん、と目の前にある金剛のお腹を見ながらいつ使ってやろうかと頭の中でシミュレーションをしていると、突然ピトっとそのリスペクトしている人の手が止まった
「アナタはなんだかワタシに似てる気がするのデ~ス」
そして急に止まったことにあれ?っと思っていると、金剛はそんなことを語り始めてきた
「…え?な、何が?」
「ンー…色々デスネ」
色々…
その色々を具体的に説明してほしかったんですけど…
シュンとしたかと思ったら今度はテンション高くなって、しかもやや真面目な雰囲気でいきなりそんなことを告げて…いくら何でも自由すぎやしませんかね
あとこれは全く関係ないけど「色々」とか「皆」「記憶にない」って言葉って本当に便利だよね
「学校で何勉強してきたの?」
「色々」
「皆持ってるって誰が持ってるの?」
「皆」
「どうしてこうなったの?!」
「記憶にないです」
えぇ、私もお世話になってます
「…そうね」
さて、金剛と似ているかどうかの話しだけれど、確かに私も似ているなぁって思う部分に心当たりはある
性格もそうだけど境遇も
おぉなるほど、だからこんなに懐かれている、のかな?
「だからワタシはloveヨ~アナタのことが
もちろんてーとくがbestデスけど」
「それはどうも」
やっぱりそうだったみたいだ
しかもlikeじゃなくてloveらしい
おっとー、最近私モテ期到来じゃない?
この数ヶ月だけでもう4回ですよ!4回!
ただ全部女の子っていうのがね、あれですけど
…提督のやつ?
あれはただ私を立ち上がらせるための励ましの言葉かなんかでしょ
…
結局いつもと同じように紅茶を堪能しながら駄弁っていると、ジリジリジリと頭の上の方からけたたましく音が鳴り響いてきた
活動しなければいけない時間になってしまったようだ
「Ohもうお別れデスネ~」
「うん、起きないと また来週だね」
「Okey~ またね~」
金剛はそう言うとバイバーイと片手を胸の辺りで大きく振って私を送り出してくれた
私もそれに応え小さくバイバイをしてから、現実の世界へ戻るべく目を閉じる
そういえば金剛はどうやって私を呼び出しているんだろう
いつもなんとなくこっちに来てるけど、よく考えてみたらツッコミ所満載だよね
…今の私自体もおかしな存在なんだけどさ
まぁ来週覚えていたら教えてもらおっと
さぁ起きなきゃ起きなきゃ
…
「…ん」
意識がまだ定まらない中、手探りで上の方にある目覚ましをガンっと止め、身を起こす
その一連の音に釣られて隣で寝ていた睦月は、目を覚ましぴょんと起き上がって猫のようにグーっと伸びたかと思うと、すぐにちょこんと小さく座った
「おはようございます、金剛さん」
「…ん…んん…」
「金剛さん?」
「…んー?…睦月?」
…ふぉー…睦月だー
ふふふ、小さくて可愛いー
「ふぁっ!こ、金剛さんっ!」
「…ふふふー睦月ー♪」
金剛こと私はというと、睦月のようにすぐに覚醒するわけではなく、寝ぼけてこれでもか!というぐらい力強くぎゅーっと抱きつく
元々寝起きが悪い方ではあったけれど、この2週間金剛(本物)に夢の中で起こされ続けている結果、さらに事は悪化している
だからこんな風に隣に人が居れば抱きついて固まるし、居なければそのまま二度寝してしまう
そんなわけで、このなかなか起きてこない、という現象が発生した初日、待ってました!と言わんばかりに[金剛をしっかりと起こそう]という名目で、毎日誰か1人一緒に寝よう、という企画が始動したのだ
けれど比叡、榛名、霧島、黒姫さんに至っては抱きつかれて「ぐへへ~」となったまま一緒に固まってしまうので、効果があるのかは疑問
ちなみに柿崎さんも寝たいと立候補したが、勿論柿崎さん以外の皆の反対で否決された
「こ、金剛さん 苦しいです…」
「…」
「金剛さん…」
「…Oh!睦月!sorry またやってしまったデ~ス」
そして睦月がその小さな体をぐらぐら揺らして抵抗すること1分、ようやく私も覚醒した
危ない危ない
危うく抱き締め殺すところだった
こんなことで捕まるのなんてアホらし過ぎる
こんばんは 7時のニュースです
今朝8時頃 千葉県勝浦市勝浦鎮守府内の一室で、駆逐艦睦月さん推定12歳が首を絞められ殺害されていたところを、訪問した睦月さんの家族が発見しました
容疑者は同じくこの鎮守府で暮らす住人、戦艦金剛推定26歳で、警察による取り調べによりますと、金剛容疑者は「記憶にないです」と述べ、容疑を否認しているようです
「おはようございます、金剛さん」
「おはようございますデ~ス」
改めて姿勢を正して朝の挨拶をしてきた睦月に対して、私もそれに応えてきちんと挨拶を返す
そしてお互い「ふふ」と笑顔を交わした
はぁぁぁ!て、天使がいるぅ!
なんだこの可愛い生物は!
毎日見てるけど、朝の起きたての笑顔も増して可愛いね!
いいなぁ~小さくて可愛くて
私なんて睦月ぐらいの歳の頃なにしてたっけ
…確か近所の男子2人と塀登ったり鬼ごっこしたりして、毎日アクロバティックに遊んでたんだけど、しばらくしてその2人に告白されて断って関係が崩れて、男女の関係って怖いなぁって子供ながらに悟ったんだっけ
…やだ、可愛いさの「か」の字もないじゃない
「金剛さん?」
そんな暗黒の過去を振り返って、急に黙りこくってしまった私を不思議に思ってか、睦月が若干躊躇いながら声をかけてきた
「…な、なんでもないネ~」
おっと、また自分の世界に耽っちゃった
笑顔だった年上のお姉さんが急に真顔で黙り込んだらそりゃ怖いよね
堪忍堪忍
さて、現在時刻は7時とちょっと過ぎ
朝食は8時からだからまだまだ暇はある
着替えるのも後でいいし、いつもの如く紅茶でも飲…まないでたまにはココアでも飲みますかな
「睦月~ココアでも飲みマスカ?」
「はい!飲みたいです!
…およ?紅茶じゃないんですか?」
私が睦月に飲みたいか否か聞くと、迷うことなくすぐさまYESと答える
けれど答えてからいつもの紅茶ではなく、ココアという部分に引っかかったのか、続けて疑問を投げかけてきた
「Um…そういう気分なのヨ~」
そうなんだよね~
流石に朝昼夕晩夢の中と飲み続けてたらいくら美味しいとはいえ流石に飽きちゃった
「そうなんですかぁ
でも、睦月は金剛さんが淹れてくれるものならなんでもいいのです!」
「それは良かったデ~ス」
睦月の意見も聞いたところで、私はベッドから降りて棚からココアの粉末とカップを取り出し、それを机に置いた
それから部屋を出る前に、机の上に置いてある小箱から赤色のリストバンドを取り出して、包帯が巻いてある手首にそれを付ける
「少し待っててくだサ~イ」
そしてお湯と牛乳を得るために、保温ポットを片手に持ち、睦月を1人残して部屋を後にした
…
パタンっと丁寧にドアを閉め、朝日が差し込む明るい廊下を1人進む
あと1時間もすればバタバタと騒がしくなるのだろうけれど、今は鳥の声のみが小さく聞こえるだけでまだ静寂している
そんな静まり返った廊下をやや急いで歩いていると、後ろの方からパタンっと同じようにドアが閉まる音が聞こえた
「お姉さま!」
さらにそのドアの音に続いて、るん♪とした声が耳に入る
お、その声と呼び方は榛名かな?と思い足を止め振り返ると、予想通りそこには私の可愛い妹が立っていた
「榛名~Good morning~」
ちなみに起きたての榛名は少しほわほわとした顔をしているので、毎度会う度に死にそうになる
そういうわけで、平然としているように見える私だけれど、実は今瀕死状態なのです
「おはようございます!お姉さま!」
そんなことはつゆ知らず、妹2号は挨拶を返すとすぐさまたたた、と私の側までかけて来た
ぐはっ!
「これから紅茶飲むのですか?」
「…No…今日はココアヨ~」
さらに追い討ちをかけられたことにより、いよいよキュン死しそうになるもなんとか持ち直して妹の顔を見た
…いや死因がキュン死ってねぇ
戦艦ーー 享年ーー歳 殉職
戦艦ーー 享年ーー歳 殉職
戦艦金剛 享年26?歳 キュン死
戦艦ーー 享年ーー歳 殉職
…まだ事故死の方が納得いくわ
「え?ココア、ですか?
…珍しいですね 何かあったのですか?」
私の応えに榛名は睦月と同様に不思議に思ったらしく、まるで宇宙人でも発見したみたいな驚いた顔をする
「なんにもないデース ワタシだってtea以外も飲むネ~」
そうだー!いくら紅茶好きにさせられた私だって、毎日毎日紅茶を飲んでるんじゃない!
イメージを壊すようだけど、実は間に普通のお茶とかココアも挟んでるんだからね!
ちなみに、全く関係ないけどコーヒーは嫌い
あんな苦い飲み物を飲んで何が楽しいのか私には理解不能
苦しい飲み物=珈琲
わざわざ苦味を味わうなんて皆ドMなんじゃないの?
…あれ?じゃあ私も飲ry
「そうなんですか…でもお姉さまが淹れたものであれば何でも構いません!」
榛名は私の答えに素直に納得したらしく、今度はニコニコっと幸せそうな顔を魅せてくれた
「…分りマシタ じゃあ行きマスカ」
うーむ まだ飲むかどうか聞いてはいないんだけど、いつの間にか決定事項にされてるなぁ
まぁ勿論喜んで淹れさせてもらいますけどねっ
それにそんな顔をされたら断ることなんてまずできないし、むしろ逆にこちらがプラスアルファーでお金を支払わないといけないぐらいの価値はある
榛名の笑顔、相場は一体いくらぐらいだろうか
仮にもし本当に1回の笑顔ごとにお金をとられるとしたら、もう破産する運命しか見えない
「はい!お姉さま!」
そんないつも通り妹バカの姉と通常運転の妹
この日常はいつまで続くのかはわからない
だからちょっとした何気ないことかもしれないけれど、あれ以降私はそんな一時さえも本気で楽しんでいる
ただ若干皆を好きすぎて時折理性が無くなりそうになるのは痛いところ
…
勝浦鎮守府の食事室
鎮守府なのだからさぞかし大きいのかと思うかもしれないが、実際はそうでもなく、意外にも厨房を除くと学校の教室ぐらいの大きさしかない
これが横須賀やお台場鎮守府といった、そもそも規模が大きな鎮守府であればそうなのかもしれないけれど、ここは海軍兵士が3人、艦娘も9人しか配属されていないので上は必要ないと思ったのだろう
その代わりに部屋が余ったり工廠が無駄に広いなど、何かと矛盾しているけれど
そんな食堂にお湯と牛乳を求めてやってきた姉と妹
扉を開けて中に入るとすでに先客がいて、2人仲良く何やら談笑している
「おはようデ~ス」
「おはよう 如月、望月」
「あっ、金剛さん榛名さん、おはよーっと」
「おはようございます」
私達の存在に気付くと2人は座りながらもきちんと体をこちらに向けて挨拶を返してくれた
如月も望月も私達と同様にまだ制服ではなく、半袖のTシャツにステテコという格好をしている
こういう姿の時は本当に、小学生か中学生ぐらいにしか見えない
だからこの姿だけ見た人は、まさかこの子達が海上で詳細不明の怪物と戦闘を繰り広げているなんて想像だにできないだろう
「紅茶ですかー?」
本日2度目の同じ質問
私の妹と同じく眼鏡をかけている望月がそう声をかけてきた
「違うわ、望月 今日はココアよ
そうですよね?お姉さま」
「Yeah その通りヨ~」
その質問に何故か聞かれた本人ではなく、榛名が代わって誇らしげに答えた
いや、霧島相手ならまだ分かるけど、なに駆逐艦の子達までにも、「私はあなた達よりもお姉さまのことを知ってるんだぞ」アピールしてるのよ…
少し大人気ないでしょ…
まぁでもそういう子供っぽさも含めて可愛いけどね!大好きだぁ!
「えっ?紅茶じゃないのですか?」
「おぉー金剛さんに一体何が起きたのかっ」
「何もないデ~ス ワタシだってtea以外も飲みマスヨ?」
そんな榛名の返しにこれまた驚かれ、本日3度目の反論をした
むぅ、そんなに私って紅茶しか飲まないイメージしかないのかなぁ
「そりゃそっか」
「金剛さんも紅茶以外も飲むわよね」
けれど、「私も紅茶以外の飲み物だって飲むんだぞー!」アピールをすると、これまた睦月と榛名と同じように拘泥するこなくすんなりと納得してくれた
こういう素直なところは本当に私としても有難い
有難すぎて毎日拝んじゃうぐらいにね
「如月と望月も飲みマスカ?」
てなわけで、これからココアを飲むことを宣言した手前、一応この2人にも飲むかどうか聞いてみた
「は~い 欲しいで~す」
「はいはーい、あたしもぉー」
「Okey~ちょっと待っててね~」
2人共元気よく手までも挙げて飲みたいと答えてくれた
よし、俄然やる気でてきたぞー!
お姉さん、気合入れてココア淹れちゃうからねー!
…えぇまぁ、ただ粉の入ったカップにお湯と牛乳を注ぐだけですけど何か?
「あ、あ姉さま 榛名、お湯沸かしてきますね」
如月と望月とのやりとりが一通り終わったところで、それまで隣で佇んでいた妹がニコっと微笑みながらそう告げて、たたたっと厨房へと入っていった
私も私で全てを任せるわけにもいかないので、榛名を追って、朝食を作っている最中の妖精さん達が働いている賑やかな厨房に入る
そうは言っても、今朝はいつもの紅茶と違い特に工夫もしないので、本当にお湯を沸かして牛乳を入れる作業のみ
だから榛名がお湯を沸かす仕事をしてしまうと、もう後は牛乳を取る作業しか残っていない
この仕事に対して2人は過剰だなぁ~ マルクスの資本論がうんたらかんたら、なんて考えつつ、牛乳を取るべく妖精さんにお邪魔するよ~と挨拶し、皆が使っている私的な小さい方の冷蔵庫を開ける
「…ン?」
するとびっくり 少し予想外の事態に思わず声が出てしまった
…おかしい 1Lの牛乳パックが1パックしかない
昨日の夜見たときは確か3本はあったはずなんだけど…
え?ここのみんなは揃って成長期なの?
提督とか180あるけどまさか200目指してるの?
…まぁそれでも幸い1本残ってるし、あとで買ってくればいいけど
と、まさか昨日買ってきたばかりの牛乳がもう残り1本しかないことに驚き戸惑いながらも、無いものは無いのでその残りの1本を取り出し、妖精さんの邪魔にならないように厨房から早々と出た
「如月~望月~、milk飲んだノ?」
そうは言ってもこの鎮守府で普段牛乳単体で飲む人なんて限られている
さっきは提督がどうたらこうたらなんて考えたけれど、実際に飲んでる人達は、睦月、如月をはじめとする駆逐艦勢か黒姫さんだ
だから念のために、今ここにいる容疑者の中の2人に聞いてみた
ただ別に犯人を探し出してどうこうしたいとかそういうことではないのだけれど
「えっ…えっーと、私は知らないわよ?
司令官じゃないかしら」
「あぁ~あたしも知らな~い」
「…そうデスカ」
どうやらドンピシャらしい
2人は私が質問すると、テンプレのように目をキョロキョロさせ、目を合わせないで答えてきた
ほうほう、流石成長期
牛乳の消費の仕方が違うね
…いや、よく考えろ金剛
例えそうだとしてもこの一夜にして約2Lを2人だけで消費できるものなの?
確かに黒姫さんなんかは毎日毎日「胸大きくするんだ」って言って500mlのパックを消費してるけど
…これは違うか
「金剛さん!」
そんなふうに色々思案していると、望月が唐突に私の名前を呼んできた
「どうしたノ?」
「あ、えと、…司令官のことどう思う?」
「てーとく?」
え、なに、いきなりどうした?
なんで急に提督の話なんか…ははーん これはあれだね
ばつが悪い時に話題を無理矢理逸らして忘れさせるやつね
たぶん私が牛乳の犯人だと疑ってるんじゃないか、ばれたら怒られるかもって思って話を変えようしてるんだ
うーん…別にそんなことで怒ったりしないんだけどな…
まぁでもとりあえず乗っかってあげるか
「どうって例えばなんデスカ?」
というわけで、話を聞くべく私は弥生の隣の席、つまり望月の斜め前の席に腰を掛けた
「う~ん…好きとか?」
「…それはないヨ~」
名案が閃きましたとピンっと人差し指を立たせる望月
おうおうおう、そうきましたか
ガールズトーク=恋愛話or悪口だからこうなるのは分からなくはないけど
…私が提督を好きになる?
ないない
そんなんじゃ私は落とせないぞ
「え~でもこないだ、トンネルの前で2人だけで金剛さん、司令官に頭撫でられて嬉しそうにしてるところ見ちゃったよ~?」
「いやだぁ、羨ましい~」
望月はこれでどうだ!と言わんばかりにニヤっと嫌な笑みを浮かべ、爆弾を落としてきた
それに如月も本心かどうかは分からないけれどそんな事を言って便乗する
「っ!ち、違うデース!あれは…ただ撫でられるのが好きなだけネー…」
流石にここにたどり着くなんて予想できず、思わぬ事態に動揺を隠すことができなかった
うわ…最悪
まさかあの場面を見られてたなんて
…本当はもうちょっと複雑な事情があったんだけど、そんなことは口が裂けても言えない!
っていうか提督に頭撫でられて喜んでないし!
第一、まだあれから2週間ぐらいしか経ってないのにもう別の人を好きになるとかどんな軽い女よ
…言い訳が既にビッチくさいけども
「え~本当に~?」
「そうヨ~ ワタシはloveな人はいまセーン」
「じゃあ私が金剛さんの頭を撫でたら、望月が見たような顔をするってことですよね?」
「…そーデスネ」
…まぁそういうことになっちゃいますよね
あっれ?いつの間にか形勢逆転してるんですけど
え?駆逐艦の子達にまでも弱い私ってなんなの
「じゃあ私に撫でさせてください」
「ン?いいヨ~」
言うと如月は私の方へ体を向けてきたので、それに応えるように私も体の向きを変えて頭を差し出す
特別な人以外の男の人に触られるのは嫌だけど、女の人、しかも自分より年下の子に触られるのには全く抵抗はない
そして如月は私の頭に手を乗せて、そっと撫で始めた
「…ン」
自分よりも小さな手がてっぺんから前へ、てっぺんから前へと繰り返し流れ、次第に心がふわふわと浮いていくような感じに包まれる
ふぁ…き、気持ちいい…
なんかこう、体の力が抜けていっちゃう…
「おぉ…本当だ あの時と同じ顔だ
目細めて口角つり上がって」
「…金剛さん、参りました」
自分よりも小さな子に頭を撫でられて脱力する戦艦金剛こと私
下手をすれば通報されるレベルの絵だろう
そしてこの時、私は最早本来の目的も牛乳の件も頭からすっかり消えていて、思いっきり望月の思惑にはまっていた
「お姉さま!」
それからしばらくして、榛名に呼ばれたことでようやくはっ!我に返る
「…お姉さま、お湯沸きました
…お楽しみのようなので榛名、先にお姉さまの部屋へ行ってますね」
「…ちょ、ちょっと待つネー!」
顔を上げると如月の後ろにポットを持った妹がいて、その顔は口を尖らせムスッとし、何故だか少しご機嫌ななめ
そして榛名はそういうとそそくさと立ち去ろとしたので、慌てて私も立ち上がりその背中を追う
「榛名は大丈夫です だからお姉さまはそのまま遊んでいても結構です!」
「は、榛名ー! お願いだから行かないでくだサーイ!」
「…あちゃー、あたし達のせいだよね」
「そ、そうね…誤魔化すとはいえやり過ぎちゃた
あぁ~でも金剛さん可愛かった これがギャップ萌ってやつかしら
…あれじゃあ私が勝てないわけよね」
「…とりあえずあたし達も行こっか」
部屋を出る間際、そんな会話が入ったような気がしたけれど、榛名のご機嫌を取るのに必死だった私は全く気にも止めなかった
そしてその後、榛名にココアを淹れ、更に頭を撫でお姫様抱っこまでして接待をしたのは言うまでもない
…なんだこれ
…
時刻は9時ちょっと前
朝食を食べ終えお顔のメンテナンス、着替えと髪のセットをしっかり終え、今は執務室の秘書艦の席にいる
因みに、本日の髪型は霧島色の青いシュシュで斜め後ろサイドにまとめた髪を肩より前にもってくる形
相変わらず自分で金剛の髪型に出来ない私は、こうして妹達から貰ったシュシュを最大限に利用している
一応霧島に教えてもらいはしたけど、ねぇ
無理よ、あんなの
逆に出来る方がおかしいでしょ
うん、だから私が出来ないのは当たり前よ、当たり前
いつまで経っても上達しない自分を正当化したところで、私は壁に打ち付けられている一つのボードをなんとなく見た
そこには誰が何をしているかがわかるように配置が刻まれていて、秘書艦欄にはしっかりと「金剛」の名のプレートが掛けられている
最近になってその「秘書艦」という役職が誇らしくなり、ついついニヤッとしてしまうのは内緒の話
そしてボードによると本日の休暇が黒姫さんと明石
任務 比叡、榛名、睦月、如月
待機 霧島、弥生、望月
電波塔(本) 柿崎
となっている
そういえば比叡と榛名って組み合わせ、初めて見たなぁ
いつもは私+榛名 比叡+霧島か4人全員 もしくは私以外の3人って組み合わせだからね
だからどうしたって話なんだけど
さてさて、もうあと少しで9時になるから提督が入ってくるはず
目をボードからドアの方へ移し、なんとなく前髪が気になったので1人クシクシとしていると、”コンコン”とドアがノックされ、”ガチャ”と開けられた
「相変わらず早いな 別にギリギリでも怒らないのに」
入って来たのはもちろん白い軍服を着た提督
ではなく、下は制服、上はYシャツと軽い服装の横川さん
一応提督とはさっき食堂でも会ったので、顔を会わせるのは本日2度目
だからと言って執務室に入ってその第一声は提督としてどうなのだろうか
それ以前の問題としてその服装もどうかと思うけど
「ふふーん! ワタシは超真面目さんデスから!
どこぞのてーとくとは違うのデ~ス」
なので私は提督と違って真面目だよー!とアピールする
「はいはい 減給減給」
「はいっ?!」
すると返されたお言葉はまさかの減給宣言
いや、おかしいでしょ!
なんで私の方が正当なのに減給されなきゃならないのよ!
そもそも論として、給料なんて貰ってないから始めっからボランティアだけどね!
えぇ、命懸けてボランティアしてますとも
「嘘だよ嘘」
「嘘もなにもワタシ達はsalaryなんて貰ってないネー!」
「確かにそうだけど、欲しいものも休暇も与えてるんだから大きな不満はないだろ?」
「う…そ、そうデスけど…」
く、そうきたか
提督が言ったとおり、確かに欲しいものがあればお金貰えるし、休暇も貰える
世間一般的に考えたら、この鎮守府は割とホワイトな部類に入るかもしんないけど
…上司がねぇ
「まぁ何を考えてるのか知らないけど、お前は休暇の日に限ってイタズラしちゃわざわざ働いてるけどさ」
痛い所を突っつかれ言葉に詰まった私に、続けて提督は苦笑しながらそう言う
…ありゃ 気付かれてたのか
…私だって好きでイタズラして休暇を潰してるわけじゃないんだけどさ
ただ本当に運がないことに休暇の日に限って、あぁなっちゃうのよね…
そんなことより、この事がこれ以上掘り下げられるのはあまりよろしくない
だから私は同じく休みを使わない提督へと話題を変える
「…それはてーとくもヨ
ワタシはアナタがお休みしてるところ、見たことがありまセ~ン」
「…いやだって趣味とか特にないし、他に何もすることがないからね」
言って提督はふぅと空のため息をし、ようやく一段落と自分の席へと座った
おぉ…よく分かんないけど地雷踏んじゃったみたい
さっきまで楽しそうに私をイジメてきたくせに、急にしょげちゃった
このままではとても仕事がやりにくいので、ここで金剛さんによる趣味の提案ターイム!
提督にとりあえず片っ端から興味を持ちそうなことを挙げていって、今後の提督の生活に華を咲かせるこの企画
もし何か提督に良い趣味が見つかったら、提督の中の地雷が1つ除去できるし、今日の仕事もやりやすくなるしで一石二鳥!
よーし、ここはirobotのように頑張るぞ!
「てーとく!Hobbyがないなら造りましょう!
Warshipはどうデスカ?」
「いや、別に俺は趣味なんて欲しいとは思ってないんだが…
あと、船とかお前らが居るのに、何故またわざわざ趣味にしなきゃならないんだよ」
「Oh確かにそうデスネ~
てーとくはワタシ達みたいなcuteなgirl of warshipをworship(崇拝)してますからね」
「待て それも否だ」
提督の返事もろくに聞かずに、私は次の案を考え始める
言われてみれば毎日船と一緒に暮らしてるんだから、改めて船を趣味にするっていうのはおかしな話
ってことは、提督の仕事に関連しない事柄、且つ提督が好きそうなこと、且つすぐに出来そうな簡単なことがいいってことね
でも考えてみたら、今までしっかりと提督を見たことがなかったから、提督が好きそうなことっていっても何も思いつかないや
うーん…なんだろ、提督が好きそうなこと
「…」
「…」
おっ、そういえばこないだ、私の紅茶と料理が好きとかなんとか言ってた気がする
紅茶作りとか超お手軽に出来るし、これ結構いいんじゃない?
「てーとく、tea作りとかどうデスカ?」
「いやー紅茶作りとか、お前以上に美味しく仕上げる自信ないし
もうお店のでさえ美味しく感じないのに、まして俺の作る紅茶なんて美味しい訳ないじゃん
あと、ついでに作るクッキーとかパイね
紅茶と合わさって最早テロレベルだよ
責任取ってもらいたいぐらいにね」
「…」
私の半分適当、半分本気の提案に、いつものトーンと真顔でそう言う提督
…へ? い、今、私の作った紅茶とかクッキー美味しいって言った?言ったよね?
…ふふふ そうかそうか 美味しいと思ってくれてたのか~
なら素直にいつも言ってくれればいいのに、このツンデレめ!
まぁなんて言っても、私が淹れてる紅茶は茶葉にただ注ぐだけじゃなくて、更に一工夫二工夫してますからね!
よし、こうなったら気合い!入れて!頑張ります!
「ちょ、ちょっと待っててくだサーイ!
直ぐに作ってきマース!」
美味しいと言われ有頂天になった私は、仕事をほっぽりだして食堂へ向かうために執務室を出ようとした
「あ、おい!仕事…お前なら直ぐに終わらせられるか
なんでもない、いってらっしゃい」
そして出る間際、提督に一瞬制されるも、何か納得したのか直ぐに許可が下された
こうして平日の朝だっていうのに単純な私はクッキーと紅茶を作り始めるのであった
…
「えーこれより出航前の最終確認を行う」
時刻は10時少し前
こんがりと綺麗に焼けたクッキーと、冷たい紅茶の匂いが充満する執務室
そこでは、比叡率いる護衛隊が民間船護衛任務へと向かうべく、最終確認が行われている
私と提督の前に比叡達4人が横一列に並び、形はそれなりに軍人らしいけれど、提督の恰好といい私達の顔の緩みきった感じといい、本当にこの人達が国を守ってるの?と疑問を投げかけられてもおかしくないはないだろう
「比叡、榛名、睦月、如月
以上4名第13護衛隊は、本日ヒトマルサンマル時より、勝浦湾沖にて第12護衛隊から民間船8隻を引き継ぎ、その民間船8隻を無事仙台港まで護衛せよ
なお、敵艦を確認した場合は交戦を避け、やむ終えず交戦をするようであれば、民間船を近くの港へと避難させること
以上
あとこれ、仙台港周辺の海図と道中の基地のチャンネル
港着いたらすぐに仙台鎮守府に行っちゃって大丈夫だから、よろしくね」
「ワタシからはbiscuitsネ~」
提督が色々な紙束を比叡に渡して一通り儀式は終わったので、私は出来上がったばかりのクッキーを袋に入れたものを4人それぞれに手渡した
「「おぉ~!」」
4人共それを嬉しそうに受け取ってくれたので作った甲斐があったものだ
「危なくなったら迷わず撤退するのヨ? ちゃんと帰ってきてまたtea partyしましょ」
「「はい!」」
そして私も毎回言っている決まり文句みたいなことを言ってこの最終確認は終了
あとは出航するだけだ
「じゃあ金剛、お見送りお願い」
「Yes,sir じゃあ行きましょう」
言って部屋を出ようと比叡達の横を抜けようとすると、ガバッと両腕を満面の笑みを浮かべた比叡と榛名に掴まれる
これもある種の恒例行事みないなもので慣れはしたけれど、非常に歩きにくい
というかドア開けられないし
戦艦の2人がこんな状態で、駆逐艦の睦月と如月はというと、2人はそれを見越しているのか「分かっていますよ」と言わんばかりにニコニコしながらドアを開けてくれた
…姉ながらなんとも恥ずかしい
もうどっちが年上なのか分からないね
まぁ幸せだからいいんだけどさ!
…
4人の姿が見えなくなってから数十分、私は未だ桟橋の上にいる
4人が心配だからとかそういう理由ではなく(勿論心配じゃないわけではない)、比叡達に民間船の輸送任務を受け渡し、間ができた第12護衛隊を一時的に迎えるためだ
送られてきた情報によるとメンバーは能代、矢矧、皐月、文月の4人
彼女達はこの鎮守府で少しの間休憩し、その後夜には一度東京湾へと引き返し、そこから別の民間船の護衛任務に就いて自分達の鎮守府へと戻って行く予定だ
戦闘しない時の私達艦娘は通常、こんな風に末期の旅客列車を牽く機関車みたいな使い方をされている
恐らく上は行ってすぐ戻って、行ってすぐ戻ってという風な使い方をさせたいのだろうけれど、私達も生物であるし、反乱などを恐れてそんなことはさせられないのだろう
「おっ」
暇だったので終始そんなことを考えていると、視界に4人の姿が入ってきた
報告通り、見た感じ4人とも傷はなく、入渠する必要もないみたいだ
よし、じゃあ分かりやすく手を振って誘導しますか
おーい、と私が4人に向かって腕を使い大きく手を振ると、向こうもそれに応えて手を振り返してくれた
誘導するつもりで手を振ったのに、振り返してくれるなんて、金剛、ちょっと嬉しい
…そういうば能代、矢矧が任務に就いているってことは、残っているのは阿賀野と酒匂ってことだよね?
…あちらの鎮守府は大丈夫かしら
…
「四日市鎮守府所属、第12護衛隊旗艦能代です 短い間ですがよろしくお願いします」
「勝浦鎮守府所属、金剛デ~ス こちらこそよろしくネ~」
あれからさらに十数分、ようやく到着した12隊が桟橋を上がり、ただいま自己紹介中
4人の態度から恐らく過去に会ったことはないのかな?
「同じく四日市鎮守府所属、矢矧です」
「皐月だよっ」
「文月ー あっ、望月達どこ~?」
「ん? 望月と弥生ならあっちの堤防でfishingしてるヨ~」
普段なかなか会うことが出来ない姉妹とよっぽど会いたかったのだろう
文月は上がってきてからずっと辺りをキョロキョロとしている
皐月も文月程ではないけれど、控えめに辺りを見回している
「本当? じゃあ皐月、行こぉ~」
「ま、待ちなさい! 先にこちらの提督さんに挨拶してからでしょ!」
2人は、私が弥生達が居る方向を指差しして教えてあげると、すぐにタッと走りだそうとした
そんな2人を慌てて止めようとする矢矧
けれどこの2人は私達と違って姉妹なのに離れ離れになってしまっていて、毎日会うことはできない
もし仮に私が比叡達と離れ離れになってしまうとしたら、そんなのは絶対に嫌だし受け入れられない
そんな状況をのんで過ごしているのだから、今日ぐらい羽目を外しても誰も文句は言わないだろう
「大丈夫ヨ~矢矧 てーとくは何も言いまセ~ン
だから皐月も文月も行っていいデスヨ?」
「お?ありがとう金剛さん じゃあボク達は行かせてもらうよ 行こっか文月!」
言うと皐月と文月はタタタっと全速力で走っていってしまった
…若いっていいなぁ
私はもうあんなに全力で走ることなんてできないよ
…いや、私だってまだ世間的には若いけどねっ
ただちょっとボロがでてきていると言いますか…
「すいません金剛さん 我が儘を言ってしまって」
その若い2人が行ってしまった後、それよりは少し年上の2人は申し訳なさそうにペコペコと頭を下げてきた
「ほ、本当に大丈夫だから! さ、さぁてーとくの所に行きましょ!」
「「わっ!」」
頭を下げられるのはあまり私のキャラに合わない
というか謝られるのは好きではないので、この状況を変える為に2人の手を引っ張って謝罪を断ち切った
2人は最初こそ戸惑っていたものの、私がニコニコっと微笑むと、ようやく2人とも笑顔になってくれた
そこで私は手を離して、提督に2人を会わせる為に執務室へと案内する
ほら、私って案外いい人でしょ?
…
数十分前と同じ様にクッキーと紅茶の匂いが漂う執務室
ただ朝とは違い、矢矧、能代、それに柿崎さんが加わって随分と賑やかになった
矢矧と能代には「客室で休んだらどうか」と提案はしたのだけれど、2人共何故だか「ここで私達の様子をみたい」と言ってきたので、拒否する理由もないし、希望通り執務室のソファーでクッキーと紅茶を召し上がってもらっている
柿崎さんは…しらね
でも一応パソコンを使ってるし、仕事はしているみたい
かく言う私はというと、例の眼鏡をかけて新しく導入した自分専用のパソコンを使い仕事をしている
ちなみに今やっている仕事の内容はというと、いつぞやに会った秘書のポールさんから送られてきた日本語の文書を英語に訳して送り返す、というもの
ポールさんからの依頼はこれで2回目で、あの時ちゃっかり私が渡したメアドが何気に有効活用されている
報酬に関してはただ訳すだけの寝ながらでもできる作業(人はそれを視力検査という)だし、そもそも軍人の身なので断ってはいるのだけれど、向こうはそれでは納得いかなかったのか、一昨日、膝までの長さの結婚式で着るような青いドレスが送られてきた
勿論箱を開けた時、なんて反応をすればいいのか困ったことは言うまでもない
さてさて、今回は何やら新しい製品の紹介についてみたいだ
少し専門的過ぎて、数か所どういう感じに訳せばいいのか分からないところがある
ふむ、下手に訳して失敗は出来ないしちゃんと調べますか
確かこの機械については前この部屋の本棚に…あった!
…でも一番上の棚にあるなぁ
…ふむ、これは私への挑戦状だな
というわけで、私は目的の本を取るべくよいしょと立ち上がり、本棚の前へと向かった
しかし本があるのは一番上の棚
私、金剛の身長ではギリギリ飛び跳ねても届かない位置にある
その為にご丁寧に脚立も用意されてはいるのだけれど
…それを使ったら負けでしょ!
「ん!ん!んー!」
いざ挑戦!と、勝負に負けられないので、ぴょんぴょんっとジャンプをして本を取ろうと励む
がしかし、どんなに頑張ってもギリギリで取ることができない
んー!もう!あとちょっとなのにー!
ここまできたら絶対自分の力で取りたいけど、あと少しのところで取れないこの何とも形容しがたい気分!
「…金剛さん、なんで脚立を使わないのかしら」
「きっと何か考えがあるのよ、矢矧 静かに見守っていましょ」
「あー金剛ちゃんのスカートが舞ってるのに中がギリギリ見えない! くそうっ!」
後ろで何か不審者の声が聞こえたような気がしたけど、今はそれどころじゃない
勝つか負けるかの女の勝負なのよ!
…ちょっとなに言ってるのかよくわかんないけど
「ほっ!ほっ!んー!」
…
戦艦金剛はその後も1分ぐらい粘って飛び跳ねた
けれど結局取れず
体力も精神力も削れてしまい、とうとう今はジャンプもしないで本棚に寄りかかり、ただ右腕を伸ばして背伸びをしているだけの状態に
「…」
…マジでバカだなぁと自分でも思っています、はい
「お前って奴は…」
すると後ろの方からガラっと椅子を引きずる音がし、さらにコツコツとその声の主がこちらに向かってきて私の横に立った
そしてあっさりと目的の本を取ってしまった
「なんでお前は脚立を使わないんだよ…」
その人物は呆れながらそれをほいっと手渡してくれる
「…てーとく…勝負にloseしちゃったじゃないデスか!」
それに対して、私は渡された本を両手で受け取り、胸の前に添えてこう言ってやった
「えー…」
親切にも本を取ってくれた提督は、私のこのまさかの反応に、呆れを通り越して最早いつものように返すことは出来ないみたいだ
嘘です 嘘ですよ、提督
「冗談ネ~ 本当は感謝してマ~ス thank you!」
流石にここで感謝しない程愚か者ではない
わざわざ私の為に仕事を中断してまで取ってくれたのだから
だから私は続けてすぐに、ありがとうの意を込めてふふっと満面の笑みを浮かべた
「はわっ!」
「ううっ…」
「…俺、今なら死んでもいい」
「…お前…ずるいわ」
「ん?」
なんか皆の顔が赤くなっているような気が…
まぁいいや 本も得たし早く仕事に取りかかろーっと
「矢矧、こうやって提督をおとすのよ」
「そ、そうね…
って別に私は提督のことなんか好きじゃないわ!」
「またまたぁ~ こないだ酔ったふりして提督に抱きついてたじゃない」
「あ、あれは本当に酔ってたわよ!」
「はいはい、今はそういうことにしとくね」
「もう!」
私が再び椅子に座り、カタカタとキーボードを打ち始めると、執務室から会話が無くなる
けれどそれからしばらく経過しても、この仕事部屋にはクッキーや紅茶とはまた違う、甘い空気が流れるのだった
…
お昼になる少し前
矢矧と能代は客室に行ってしまい、今執務室にいるのは提督と柿崎さんと私の3人
鎮守府の中でもずば抜けてふざけた3人だけど、それでもそれぞれ仕事をしているので会話は無く、キーボードを打つ音や紙をめくるだけが流れる
さーてさて、例のポールさんの依頼はというと、流石ハイスペックな私!
ものの数十分で見事に完成させ、あとはこれを送るだけ
宛先にポールさんのメアドを入れて、はい、送信っと
よーし、これで一つ仕事が片付いたぞー
…まぁこれって私的な仕事に過ぎないからこの鎮守府の仕事はまだなに一つも片付いていないんだけど
じゃあささっと鎮守府の仕事も終わらせ…おや?
と、自分の今の状況が把握できたところで、今送ったばかりなはずのポールさんから返信が届いた
はや!え?今送ったばっかりでしょ!
絶対私が送ったやつ読んでないで適当にテンプレ貼って送ってきてるでしょ?!
…でもないがしろにできない相手だし、読まないわけにはいかないから一応見ておきますか
なになに?
━やあ、金剛 元気にしているかい?
今回も翻訳の仕事ありがとう
私は君のそれでとっても助かっているよ
下手な翻訳家に頼むよりも正確だからね
今回も勿論、報酬として何か贈るから楽しみしておいてね
あ、そうそう 報酬といえばこないだ贈ったドレスはもう届いたかい?
君に似合うと思って贈ったのだけれど
きっとそれを着て君の提督…いや違ったね、君の夫に見せてあげたら絶対に楽しいことになると思うよ
応援しているからね!
それと、最近日本の国会の前や主要な鎮守府の前で軍反対デモが起きてるらしいじゃないか
君達が巻き込まれてしまうのではないかと心配でね
くれぐれも気を付けて
最後に、3ヶ月後にドイツとイタリアの艦がそっちに行くらしいじゃないか
私は日独伊三国同盟が結ばれるのではないかと不安だよ(笑)
そうなったらイギリス艦の君がしっかりと止めてくれよ
それではまた翻訳してもらいたい物が出来たら送らせてもらうね
続く? ━
「…」
いやーなんて言ったらよいのやら
非常にツッコミどころ満載でもあり、途中とんでもなく重要な事が混じってたり
ていうか、最後のTo be continue?って、続ける気満々なのね
まぁとりあえず今はツッコミは置いておいて
え?なに、ドイツ艦とイタリア艦が来日するの?
その情報全く知らないんだけど
でも第三国の元外相の秘書が知っているぐらいだからもう有名なニュースなのかな?
だとしたら何で当事国のそこそこ地位のある提督の秘書が知らないのよ
…まぁそれもまた後で提督に聞くとして
問題は軍反対デモですよね~
半年前ぐらいから活発化してるみたいだけど、私からするとあれはただのお馬鹿さんの集まりにしか見えないのよね
海軍も陸上自衛隊と同じく自衛隊に戻せ!
アメリカ、オーストラリアと軍事同盟を結ぶな!女の子を戦場で戦わせるな!
でも深海棲艦から守れ!大陸の国から守れ!
ってね
別にいいのよ、自分の意見をいくら言っても
ただ、何故その意見を通す為に国を運営する人達と同じステージに立つ努力をしないのかなぁ
この世の中は支配者と被支配者で構成されてるんだから、自分の意見通したきゃ勉強してこの国のトップの大学に入るか、物理的な力を使ってひっくり返すしかないんだからさ
道路で叫んでるだけじゃなくて、もうちょっと頭をお使いあそばせたらよろしいのに
その大学だって今はAほでもOけー試験始めたんだしさ
それか早い話議員になっちゃえばいいのよ
寝て旅行行って泣いてるだけで年収うん千万いくんだし、人気の党に入ってれば投票率低いし何もしないでも勝手に連続当選して、辞めてからもずーっとお金が入るんだから
こんなおいしい仕事は他にないよね
…やだ、私も軍辞めてそっちにいっちゃおうかしら
この容姿だし、「可愛い過ぎるスーパーカリスマ国会議員」として成功すること間違いないよね!
まぁどこかしらの段階で抹消される気がするけど
…話を戻して、ひとまず現時点でこの鎮守府の前で起こってないけど、仮に起こるようだったら対策をうたないとだね
駆逐艦の子達や妹達に何か危害が加わったら嫌だし
でも、今日も望月達は近所のおじいちゃん達と魚釣りをしているぐらいだから、大丈夫だとは思うけど
さーて、それじゃあ提督にドイツ艦のことについて聞かないと
もし本当のことだとするなら、今までなんで黙ってたのか問い詰めなきゃだし
「てーとくー」
「ん?なに?」
私が声をかけると、提督は手を止めてちゃんと私の顔を見てきた
「GermanとItalianの船が来るって本当デスカ?」
「あーそうらしいね」
「そうらしいねって… なぜそれをワタシに言わないノ!」
ポールさんが教えてくれた情報はやはり本当だったようで、提督もちゃんと知っていたようだ
そんなそこそこ重大なニュースを秘書の私に教えてくれなかったことへの非難の眼差しを向けると、提督はやや申し訳なさそうに頭をかく
「わざわざ教えるまでのことじゃないかな~と思ってまして」
「大きなnewsネー! もう!てーとくのこと見損なったデース」
まったくまったく、秘書艦なんだからもう少し色々なことを伝えてくれもいいじゃない
仕事もちゃんとこなしてるし、それなりに提督に仕えてるんだしさ
「…なんだかworkがだるくなってきたデース
艦娘休養 経費節減、ワタシもfishingしてこようかな~」
「本当にごめんって 次からちゃんと細かい情報も伝えるから」
「ふーん 別にいらないヨー ワタシはてーとくの信用が無いみたいデスから」
うんうん、人と人との関係は信用が無きゃ成り立たないからね
1回信用を無くしたら、そう簡単には取り戻すことなんて出来ないんだから!
「…あーあれだ 今夜柿崎にパフェ作らせるから」
「俺っすか?! 確かに金剛ちゃんの為ならいくらでも作りますけど」
考えが甘いよ!
そんなパフェで私のご機嫌取りをするなんて
私はそんな甘甘のパフェで釣られるような安い女じゃないんだからね!
「ちゃんと次からは言ってくだサーイ
それとパフェはバニラアイスにホイップクリーム沢山と上からチョコクリームでお願いしマース♪
I have a sweet tooth♪(私は甘党よ)」
「オッケー! 任せてといて!」
「ふふ~ん♪ 柿崎さんのパフェ、久しぶりで楽しみネ~♪」
柿崎さんは元々パティシエを目指していた人だし、その類については本当に頭が上がらない
柿崎さんは勝浦鎮守府の間宮だからね
あーでも最近少し太ももがむっちりしてきた気が…
それにお腹もほんのちょこっとだけど出てきた気がするのよね…
…でもパフェは譲れない!
…そうだ!明日っから絶対ダイエット始める!
そうよ、だから今日は大丈夫よね!
「あ、そうだ 来月といえば、来月この地域で避難訓練があるみたいなんだけど、金剛と柿崎と明石に行ってもらいたいんだけど」
と私のテンションが今日一だったところで、再びテンションが下がる事柄を提督が告げてきた
「俺はオーケーですよー」
「…ワタシはその日…物忌みデース」
「なんでお前だけ生きてる時代が違うんだよ」
私の拒絶に提督は呆れながらそう返す
…いや、貴方呆れる資格無いですからね
どうせあれでしょ、自分が行きたくないからって押し付けてるやつだよね
私知ってるんだから
提督がそういう類の事に参加するの嫌いなの
だってそういうところは私と同じニオイするもん
「…まぁいいデスけどっ」
そうは言ってもパフェも食べられることだし、一応自分の身分も弁えてますからね
えぇ、喜んで行かせてもらいますとも
あぁあ、自分の嫌なことを押し付けてくる人が上司だなんて…不幸だわ
「おう、ありがとう それと急で悪いんだけど、明後日護衛任務に就いてもらっていい?
本来就くはずのやつが入渠しちゃったみたいでさ」
「Well…それは大丈夫ヨ~ ワタシ達にしかできないことだからね」
「ありがとう 詳しいことはまた後で伝えるよ」
言って提督はグッジョブ!と親指をたてると、伝えるべきことはそれで全て伝え終わったのか、元のように仕事を再開し始めた
私も柿崎さんに一言パフェのことについてお礼をしてから、押し付けられた役目に蟠りを残しつつも鎮守府の仕事に手をつけ始めた
しかしそれから1、2分
”コンコン”とドアがノックされ来客がやってきたことにより、私の手はまたも止まるのだった
「失礼します」
”ガチャ”とドアが開けられ、姿を見せたのは我が妹、霧島
「司令、郵便物が届きました」
そう言うと霧島はそのいくつかの封筒を提督に差し出す
提督はそれを受け取り一つ一つ丁寧に確認していくと、ある封筒が目に入った瞬間、その手をピタリと止めた
「ん?なんだこれ?」
「どうしたノ?」
「あ、いや、これなんだが…」
この提督を困惑させるものとは一体どんなとっぴなものが届いたのか
はて、と気になった私は立ち上がり提督の元まで行く
すると提督は躊躇いなくそれを渡してくれたのでそれを見ると
ん?これは…
「Germanデスね 送り主はBismarckだそうネー
これ開けてもいいデスカ?」
「あぁ、いいけどお前ドイツ語読めるのか?」
「Yeah German,Frenchとa littleだけどSpanishも話せるヨ~
あとJapaneseもね!」
言って私はふふーんと胸を張ってアピールした
そうそう、こんなくだらない人間だけど意外とスペックは高いんです!
なんてったって金剛ですからね!
まぁ元々6ヶ国語話せる先生と出会って、その人を目指して勉強してたからなんだけどさ
当然無理だったけどね
しかも私死んじゃったからその努力全部無駄になっちゃったし…
…うわぁ、なんだか無性に死にたくなってきた
「おぉ! 流石お姉さま!」
「え、なにそのスペック…」
「…」
こんな風に勝手に自爆した私だけれど、妹が尊敬の眼差しを向けてきてくれたことでドンっとテンションが下がることはなく、いつもの調子で姉として?どうだ!とピースを返した
対して提督はというと、真顔という一番反応に困る顔をしている
…いや、なんか反応してよ 1人誇らしく胸張ってバカみたいじゃない
「…お前、本当に金剛か?」
相変わらず真顔の提督がようやく発した言葉
それは少し私を動揺させるものだった
「…やですね~てーとく ワタシはおはようからおやすみまで英国で生まれた帰国子女の金剛デース!でfamousな金剛ヨ~
それ以上でもそれ以下でもありまセーン
Do you understand?」
あちゃー…このことは言うべきじゃなかったかな…
確かに数カ国語話せる艦娘ってなんなのって話よね
お前もっとやるべきことがあるだろって
「…あーそのムカつく感じ、金剛で間違いないな
あとinfamousの間違いだろ」
「…てーとく、ワタシのこと嫌いですカ」
ただその反省はどうやら杞憂だったようで、提督はまたいつものなんでもない顔に戻った
余計な言葉を添えて
…なによその判断基準
ムカつくからお前は金剛だって、絶対私のこと嫌いよね?そうよね?
それに悪名高くないし
…別にいいけどさっ
「そんなことはないぞ お前の評価は結構高いつもりだけど
ただ、頭が良すぎるっていうのはそんなに良いことばかりじゃないぞ
お前なら俺が何を言おうとしているのか分かるだろうけど
ま、せいぜい気を付けてくれよな」
「Okey ちゃんと弁えるヨー」
ほどほどに頭が良い人は飛び抜けて頭が良い人よりも好かれるこの世の中
ソースは私
自分より頭が良い後輩はなんか嫌い
だからついつい少しお馬鹿さんを可愛いがっちゃうのよねぇ
そんな一般の人でさえそうなのだから、軍なんて尚更だ
しかも私達は艦娘というよく分からない未知の生物
上からしたらそんな生物が自分達よりも頭が良いと分かったら絶対にほっときはしないだろう
幸いなことに、現時点で私は頭の良さと普段の行いのバカさが良い感じに中和されてるから目を付けられていないけれど、もしこのことがバレたら確かにややこしいことになることは間違いないね
やっぱり艦娘として生きるのは大変だなぁ
…でも今まで我慢してた分、自慢したくなっちゃうのよ!
まぁまだ金剛として生きたいから自重しますけども
「おう、じゃあその手紙読んでくれない?」
「はいはーい 読みますね?
━私はヴィルヘルムスハーフェン所属の戦艦ビスマルクよ
もう知ってるとは思うけど、今度横須賀鎮守府に行くことになったの
確かそちらの鎮守府に英国産のこんどう?こんとう?こん…まぁなんでもいいわ、そんなのが居たわよね
故郷から離れて暮らして可哀想だから、もし暇だったら、この私がしょうがないから行ってあげてもいいのよ?
その時は古いおばさん戦艦に新しい超弩級戦艦の威力を味わせてあげる
じゃあそれまでこんとうが待てるか分からないけど、でも楽しみにしていてちょうだい
またね~
※返事待ってます━
…ってあのク○女ーーー!!!」
「お、おう そんなことが書いてあるのか」
「なんと言いますか、色々凄い方みたいですね」
「いやーなんだか面白そうな人だね」
訳し上げると3人とも抱いたことは同じだったのか、苦笑して私が持っている手紙を見ていた
私は私で苦笑では済まされず、ムキー!と今日一の怒りが爆発する
なんなのこの戦艦!
わざわざ手紙まで送って喧嘩売ってきやがって!
しかもドイツ語で!
日本に送るんだから日本語で書け!
もしくはせめて英語にしないさいよ!絶対英語使えるんだろうし
あームカつく!
もう何が一番ムカつくって、私はおばさんなんかじゃねぇーよ!
お姉さまと言いなさい!お姉さまと!
「てーとく! 異国船打ち払い令出しましょう!」
「だから何でお前だけ生きてる時代が違うんだよ
しかもその法度が出された原因はお前の国の船だからな
お前も砲撃されるぞ?
っていうか内容からしてお前のこと好きなんじゃない?
最後に『返事待ってます』とも書いてあるし」
「好き、デスカ?」
むむむ、確かに言われてみれば、小学生の男子が好きな女子に実は好きなんだけど素直になれなくてついつい出ちゃう悪口、みたいな感じのように見えなくはないかもしれない
例えそうだとしても、生憎私はノーマルだから受け入れることは出来ないけど
てかその前に、私をおばさん呼ばわりした時点で可能性0だけどね!
「だから手紙送ってあげれば?」
「No thank you! ワタシは負けまセーン 『おばさん』って呼んだ時点でkrieg(戦争)ネー!」
最初こそ付き合ってくれた提督だったけれど、私の怒りにこれ以上付き合ってられないと思ったのか、はぁ…とわざとらしくため息をつき、再び仕事を始めだしてツッコミも入れてくれなくなってしまった
そうなると1人で怒っているのも馬鹿らしくなり、流石に頭も冷めてくる
「…てーとくはもっとワタシを崇め給へデース」
ただその代わりに、今度は何も擁護してくれない提督にムーっと思わず冗談混じりの不平が出てしまった
するとそんな私の発言に提督はピタリと再び手を止め、顔をこちらにしっかりと向けて口を開けた
「あぁ、超崇めちゃうわ
金剛頭良い!料理上手い!超可愛い!
な?柿崎?」
「もちのろんですよ!
金剛ちゃん超可愛い!ヤバい可愛い!恐ろしいほど可愛いよー!
そうじゃない?霧島ちゃん」
「えぇそうですね
お姉さま!お姉さまは世界一の素敵なお姉さまですよ!お姉さま以上の素敵なお方はこの世にはいません!
ですよね?指令」
「…え、えちょ、ちょっと、どうしたノ?」
提督の口から出てきた言葉は私が予想だにしなかったもの
た、確かに崇めろって言ったのは私だけどさ、まさか本当に乗ってくるとは…
嘘だろうとは思うけど、直接言葉にされるとなんというか滅茶苦茶恥ずかしい…
「どうした金剛?顔めちゃくちゃ赤いぞ?
そんなとこも凄い可愛いけどな!流石金剛!
皆をまとめるスキル、女性としてのスキル、学問のスキル、全てを兼ね備えた理想の人!
高い所にあるものを飛び跳ねて取ろうとする姿とかもう天使!
な?柿崎」
「や、ワ、ワタシはそんな人じゃないデース…」
提督は悪い笑顔を浮かべ、思ってもいないであろうことをつらつらと並べてくる
悪口でなく一応誉め言葉である点がたちが悪く、自分のターンに持っていくことができない
「まったくですよ
この可愛さは反則!金剛ちゃんより可愛い人なんてこれまでも、これから先も見ることはないね
毎日髪型を変えてくるそのちょっとしたお洒落なんかもvery bestに可愛いよ!
ね?霧島ちゃん」
「わ、ワタシはそんなんじゃ…」
提督から柿崎さんへ渡されたトス
柿崎さんはそれを受け取って当然のように私にアタックしてくる
柿崎さんに指摘された髪型は、お洒落を意識して毎日変えていたわけではないので、その分余計に恥ずかしくなり顔が熱くなるのが分かった
「勿論です!
お姉さまなのに、褒められると意外にも恥ずかしくなっちゃうところとか凄く可愛いですよ!
朝も朝で寝ぼけてぼんやりとしているお姿は『お姉さま』という別の生き物みたいでキュンキュンしちゃいます!
それと、適当なようで実はいつもやることは100%きっちりとこなしていて、しかも自分が秘書じゃない日も陰でこそっとりとサポートしているお姿は尊敬してもしきれません!
お姉さま!大好きです!
ですよね?指令」
「は、あわ、いやち、違う、ワタシじゃ…」
もう無理もう無理もう無理無理無理無理無理
これ以上聞いていたら死ぬ てか死にたい!
早くこの部屋から出ないと!
でも一応仕事中だし何か逃げ出す手段は…は!
「Oh!I completely forgot!(あ!すっかり忘れてた!) 明石にこの資料を見せないとデース!」
と、そんな時
たまたま思い出した件をわざとらしく口に出して逃走を図ろうと試みる
「ん? 明石は今日は姫様とお出かけしてるけど」
がしかし、すっかり忘れていたけれど明石は今日休暇の日
にやにやした提督に言われてその事をはっ!と思い出した
でも今はそんなの関係ない!
「また忘れないうちに明石のdeskに置いてくるネー!」
そう無理矢理こじつけて、湯気が出そうな程熱くなった私は慌てて明石に渡すものとそうでない関係のない資料までもバサバサと取り出し、全力疾走で執務室を後にした
傍から見たら絶対に面倒くさいであろう私
そんな私をこうして構ってくれているんだから、なんだかんだで皆いい人達なんだろう
心の底でそのことに感謝しつつも、今はただ恥ずかしさでいっぱいで、蝉の鳴き声が響き渡る熱い廊下を、顔を真っ赤にしてただ走り抜けるのだった