間は少し空きましたが、なんとか書き終えることができました
3月に入ってからほぼお休み、という状態だったのですが、いざまとまった休みを取れると、普段やれない他の事をしたくなってしまってなかなかこちらを進めることができず…
ようやく今週に入って本気で取り組み始め、本日、ニコ生で旧白滝駅の模様を1日中見ながら完成させました
えぇ、4月まで暇なんです
さて、それでは今回も暖かくどうかよろしくお願いいたします
ある真夏のお昼時
ミンミンと鳴く数多の蝉の声と、ザーッと打ち寄せる波の音に囲まれながら、戦艦金剛と呼ばれている私は木陰に工廠から取ってきたシートを敷き、適当に持ち出してきた書類に手を就けていた
ただ、このとてつもなく暑い気温に木陰だけでは耐えられるはずもないので、これまたわざわざ工廠から延長ケーブルを牽いてきて扇風機も回している
もちろん、ニーソと振り?は脱いで
頭おかしいだろ
そんな感想を持つ人もいるでしょう
私だってそう思っている
ではなぜ、私は屋外でこんなバカみたいな事をしているかというと、それは数十分前のお話
いつも通りのなんて事もない業務をしていたら、なんと! あの提督達が私のことを褒めちぎり倒し、思ってもいないであろう事をつらつらと述べ、乙女の感情を辱めさせてきたのだ
もてあそんできたのだ!嘲笑ってきたのだ!
そんな訳で執務室に居ずらくなった私はこうして逃れてきたのである
はぁ…暑い…死ぬ…
…まぁ今なら割と死んでもいいかな
てか、何故私がこんな目に合わなきゃいけないのよ
確かに百歩譲って、非があるのは私だけど、え?本当に崇めたおします?
なんだかんだでスルーしてくれるじゃん
今日もいつも通りスルーしてくださいよ!提督!
それとそれに乗っかるな!柿崎さん!妹!
ふぅ…それもそうだけど、1番問題なのは
何ゆえ私はここに来てまでも律儀に仕事片付けているんだろ
「ガバッと取ってきた紙束の中にたまたま今日の仕事も混ざってた!ラッキー!」
じゃねぇーよ!数分前の私!
…悲しいかな 社畜が身に染み過ぎて、仕事することが当たり前になっちゃってる
学生時代はいかに楽して稼げるかを研究してたのに、いざ社会に出たらこれですよ
びっくりだよね、デスクワークと戦闘を掛け持ちするなんて日が訪れるなんて
マダオ(まるでだめな美人なお姉さん)になるはずだったのにー!
よし!もうここは現実逃避してSiriで遊ぶとしよう!
「Okey Google How big is an ostrich egg?(ダチョウの卵の大きさは?)」
「Ostrich eggs are approximately 6~7 inches in diameter(直径約15~17cmです)」
…ふっ、うだうだしてないでさっさとある分片付けちゃおっと
一周回って、今起こっている現状を素直に受け入れ、仕事を片付けた方が自分の為だと分かり、私はうつ伏せになって再び書類に手を着け始めた
風に飛ばされないようにバインダーにしっかりと挟み、1枚1枚丁寧に素早くさばいていく
慣れというものは本当に恐ろしいもので、日常生活で仕事中が一番時間を忘れられる行事となり、今もこうしてさらさらと仕事をこなすことで、お昼ご飯という大切な存在をすっかりと忘れていた
「…金剛さん」
そんな時、突然何かがぴとっと私の背中を触れ、それと同時に聞き覚えのある落ち着いた声が頭の後ろから聞こえた
「っ!…What…や、弥生?」
「あ…いきなり…すみません」
不意に触られた驚きで慌てて振り返ると、そこにはいつの間に来たのか、駆逐艦の弥生が座っていた
そのステルススキル、夜戦にぴったりだね!
「大丈夫ヨ
それよりどうしたノ? 皆でfishingしてたんじゃ」
「はい、でも…もう終わりました
それで、工廠に釣竿を返しに行ったら、ケーブルが伸びていたので、辿ってきたら、金剛さんが…居ました」
「Oh!なるほどネ!」
どうりでこんな人が来ないような場所にたどり着いた訳だ
そりゃ人間誰でも、普段は無い不自然に伸びているケーブルがあったら辿りたくなるよね
私も人生という名の不安定なケーブルをいつも辿ってます!
…ちょっと何言ってるのかよく分かんないけど
「金剛さん………ここで、仕事してたの?」
弥生は私にここに来た理由を話し終えると、私の周りをざっと見回し、色々疑問が浮かんだのか、いつもより長く沈黙したあと、そう1つだけ質問してきた
ちなみに、弥生の手はずっと私の背中に置いてあって少しくすぐったい
「そうヨ~ たまには青空deskもいいかな~っと思ったのデ~ス」
その質問に即座に浮かんだ嘘で応える
流石に年下の子に、自分で「崇めろ」って言って、本当に崇められて恥ずかしくなって逃げて来たとは言えない…
「へぇ、金剛さん…らしいですね」
「Thanks?」
すると、褒めてるとも貶してるとも受け取れる返事が返ってきた
まぁ、こういう類の返しは8割残念な方だけどね
そんなことより、そろそろお腹を満たしたくなってきたし、戻りましょう
弥生もお昼時だから引き上げてきたのだろうし
そう思い身体を起こそうと腕に力を入れると、私の背中にある小さな手もそれに負けじと力が加わるのが感じられた
「…」
「…弥生?」
まるで起き上がることを阻止するかのような行為
普段見られない弥生の主張に、一瞬何か怒ってるのかな?と怖さを感じたものの、顔を見る限りそうでもないらしい
名前を呼んで何がしたいのか弥生の要求を促すと、小さな駆逐艦はその口をゆっくり開ける
「…金剛さん…その…」
「どうしたノ? ワタシに出来ることはthe bestを出すヨ~?」
それでも少し躊躇うので、大丈夫だよ、という意味を込めてニコニコと言う
すると、ようやく背中にある手の力は弱まった
その代わりに、何故だか弥生の顔はほんのりと赤くなったけれど
恐らく弥生の態度から察するに、望月達と喧嘩しちゃったから仲直りするきっかけを作ってほしい、とかそういう類の相談なんじゃないかな?
分かる分かる、そのぐらいの歳だとよくあるわよねぇ
喧嘩しても自分から謝りたくない、あっちが謝るまで許さない、とか
私も小さい頃はそうだったし
懐かしいなぁ、それで一時期クラスの半分を敵に回してたわ
自分の幼稚さ故に引き起こした悲劇
人は体験して学ぶというけれど、嫌なことを体験し過ぎるとこんな人生になってしまうから注意しようね!
ふふふ、今でも忘れられない悪夢の1つ~♪
…っと、そんな事はどうでもいいのよ
今は弥生の相談にのることが最優先事項なんだから
「…あの…金剛さん」
自分の数あるトラウマの1つを思い出して憂鬱になる私に反して、弥生はようやく意を決したらしい
顔をやや赤らめながらも少し嬉しそうにまた話し始めた
だから自分の事は二の次に優しく応える
「何ですか~?」
「…その、背中に乗っていい…ですか?」
「…」
「…」
「…What?」
ただ、弥生の要求は私が想像していた事と少しもかすりもせず、より斜め下を行っていた
…は?え?そっち?そっちですか?いやどっち?
…背中に乗りたい?え?背中に乗りたい?
「あ…やっぱり、駄目?」
「…」
少しの間、本当に弥生が何を言っているのか意味が分からず、頭の中で停電が起こり、言葉の大渋滞が発生した
「…」
「…あ、ハイ…金剛は大丈夫デース」
けれど、それも直ぐに頭の中の警察官が交通整理を始めてくれたので思考が巡るようになり、弥生の要求もOKに
流石私の頭の中の警察官!対応が早くて的確!
「っ!…ぁ、ありがとうございます」
すると弥生は少し口角がつり上がったかと思うとそれも即抑え、一言お礼を言ってうつ伏せの私の上に乗った
さらに続けて体を伸ばし、私と同じくうつ伏せの状態になる
…これ、なんか猿の親子みたいなんですけど
テレビとかでよく見る猿なんか、自分の子供をこうやって背中に乗せて移動してるよね?
ん?もしかして、弥生は私のことを心の底ではお母さんだと思ってたりする?
確かにこの鎮守府では黒姫さんに続いてお母さん属性が強いキャラクターではあるけど
…弥生の母、悪い気はしない
「…落ち着きます」
「そーデスカ?」
「はい…暖かくて…心地いい」
…暖かいのは私の体温というよりも、真夏で熱せられたからだと思うんだけど
うん、しかも弥生が乗ったせいでより暑くなったし
でも私の心はそれよりも温かいから許す
あと、単純に今の甘えてくる弥生可愛いし
…
それから数十分
特にこれといった会話を交わすことなく、だらだらと時間は流れていった
夏の暑さと弥生の暑さでいくら戦艦といえども限界が近づき、あ、私これで死ぬんだな、と悟りを開きかけた頃
タッタッタッと草を勢いよく踏む音が聞こえてきた
「…お迎えが来たようデース stairway to heaven(天国への階段)」
こんな身だから、ずっと戦闘で死ぬんだとばかり思ってたけど、まさかこんな人に説明のしにくい死に方をするなんて
人生何があるか分からないなぁ
…だから面白い
「? お姉さま?何を仰ってるんですか?
確かにお昼ご飯のお迎えですけれども」
がしかし、分かってはいたけれど当然その足音は死神様のものではなく、もっと身近な人のもの
「…Oh!その声は霧島デスネ!」
私の可愛い妹の1人、眼鏡代表霧島だった
「はい、お姉さま
…えーっとお姉さま、今のそのお姉さまの状況に、私はツッコミを入れるべきなのでしょうか?」
背中のブツで後ろにいる霧島の顔は見えないけれど、声のトーンと台詞からして、「え?真夏のこんな日に何してるの?この人」と呆れた表情をしているに違いない
分かってる、お姉さんだってこの状況は明らかに常軌を逸しているって自覚しているから
「大丈夫ヨ~ ワタシも自覚はありマ~ス」
「…そうですか、それは少しだけ安心しました」
あれよね ずっと思ってたけど、私達姉妹の中で一番の常識人って霧島だよね
私はもちろん論外だし、比叡と榛名は本当はいい子だけど、私が介入すると少し暴走するし
その点、霧島は私に対しても冷静にツッコミ入れてくれるから色々と成立する
霧島様様だわぁ
「霧島、come here!」
「?なんですか?お姉さま」
そう思うと、無性に霧島を可愛いがりたくなったので、早速妹を手の可動範囲まで呼び寄せた
思い立ったら即実行!
でも物事を思慮せずに行動すると、お姉さんみたいになっちゃうから注意ね!
「ここでしゃがんでくだサ~イ」
「あ、はい」
その私の呼び寄せに躊躇せず素直に来てくれる妹4号
その可愛い頭を、体勢が悪いながらもそんなことはお構い無しに、自分の欲望のままサラサラと丁寧に撫で始めた
「お、お姉さま?!
どうしたんですか?!熱中症ですか?!」
すると霧島は、普段のぐへぇ、とした反応とは違い不安そうな声を発して、私のことを本気で心配するようなリアクションを示す
ただね、霧島さん
口調と言い回しは確かにそうなんだけど、それと対称的なその口角が上がったお口は一体何なのですかね
それだとまるで、本当は姉が死ぬのが嬉しい、みたいになっちゃってるよ
…それともそれが本心?
「I'm fine ただ撫でたくなっただけヨ~」
「そ、そうですか それは良かった…じゃなくて!
お昼ご飯なんです!お昼ご飯!
皆待ってますから早く片付けてください!」
散々おかしな事が続いていたせいで、当初の目的をすっかり忘れていたようだった
けれど、ようやく思い出したらしい
私の手を頭から振り払い、さらに腕をブンブンと振りながら、そう訴えてくる
…可愛い
「Oh sorry 霧島 ワタシは直ぐに行きマ~ス
だから霧島は先に行っててくだサ~イ」
「いえ、私もご一緒します
お姉さまの背中の子もいますし、1人では大変でしょうから」
「…き、霧島ぁ!」
やだ!何この頼れる完璧っ子!
流石艦隊のアイド…頭脳!霧島!
もう貴女が長女だよ!今日この時間から私は長女の座を降りることにするよ!
霧島型四番艦、金剛デース!姉妹艦の榛名には、頭脳は負けないわっ
「弥生 ほら、起きて お昼ご飯の時間よ」
言って霧島は弥生の体をサスサスと動かして起こす
「…ん いつの間に…寝てた」
私のように究極に寝起きが悪くはない弥生はパッと目を覚まし、いそいそと私の背中から降りた
続けてようやく解放された私も起き上がり、そそくさと後片付けを始める
霧島の手伝いもあって1分程で全て終了し、往路とは違い3人で工廠まで歩き始めた
その道中
「霧島ー?」
「なんですか?お姉さま」
「ふふ、大好きヨー!」
なんだか改めて色々と助けられているなぁ、1人じゃダメダメだなぁ、と感じた私は、ふと霧島に直球でそう感謝の意を伝えた
「…私も大好きですよ、お姉さま」
言われた本人は一瞬えっ、という顔に固る
けれどまたすぐにいつもの霧島の顔に戻り、同じように返してくれた
「…それと、さっきの続き、また後でお願いします」
しかもそれに続けて、ちょっと顔を赤らめながら、ぼそぼそと口にする
ん?さっきの続き?さっきの続きとは…
あぁ、頭撫でるやつかな?さっきって言ったらそれ以外思い当たらないけど
…まさか私を辱めさせたあの儀式じゃないよね?
「…姉妹でラブラブ、するのはいいけど…他でやってください」
「「ラブラブじゃないわっ!」」
私と霧島の間に挟まれて歩いている弥生は、突然のこのユリユリした環境に一言不満を言って、ひょいと間から抜け、私の空いている側へと位置を変えた
そう、ラブラブじゃない
ただ燃料補給をしているだけよ
ほら、私甘党だし
…
工廠にシートやら扇風機やらを置いて書類だけ持ち、さぁ食堂へ行くぞぉ!
本来なら皆も待っていることだし、そうしたいのだけれど、いざ食堂の目の前まで来ると午前中のあの事が頭を巡り、扉を開けることをうぅ、と躊躇ってしまう
現在、その様子を隣に居る霧島と弥生に不思議そうに見られているのだった
「…霧島、ワタシはworkがあるから後で食べるネ~
だから皆と先に食べていてくだサ~イ」
そんな訳で、なんとか逃げ出そうと思い付いた口実を述べる
「…お姉さまは確かに仕事をきちんとこなしますけど、そこまで仕事熱心ではないですよね?
それにお姉さまは秘書艦ですよ?
普段中々会えない仲間の方々との食事をすっぽかすのですか?」
「…」
けれど世の中そう上手く事は流れない 私の場合特に
妹に至極真っ当な反論をされ、言葉に詰まる一応現時点でまだ姉の座にいる私
とある論文によると、ある意見に対して反対意見と賛成意見をぶつけると、8~9割の確率で賛成意見が勝つらしい
今回は皆とお昼を食べる、という提案に、常識人が賛成・私が反対という陣になっている
オッケー!勝てるはずがない!
これ以上粘ったところで何の意味もないし、皆も空腹で待っているんだろうからもう諦める!
それにあれよ 提督と柿崎さんの存在を空気にすれば問題ないのよ
そうすれば気にならないしね?
よしそうとなれば、提督と柿崎さんは空気 提督と柿崎さんは空気 提督と柿崎さんは空気 提督と柿崎さんは空気…
「Okey 行きましょ」
「あ、はい 分かりました」
意を決し、扉のドアノブを手前に引く
ゆっくりと開けて、まず先にレディファースト(私も立派なレディだけど)ということで霧島と弥生に行かせる
2人が入室したところで、私も1歩踏み入れ室内をパッと見渡すと…
柿 矢 能 文 皐
[ ]
提 ○ 霧 弥 望
「…」
その絶望的な状況に、踏み入れた足が再び止まってしまった
ねぇ、おかしいでしょ 絶対仕組んでるよね?
そうとしか思えない配列なんですけど
(…凄い可愛いけどな! …全てを兼ね備えた理想の人! …もう天使!)
うぅ…また悪魔の囁きを思いだしちゃった…
やだ…帰りたい…
「金剛、何してるんだ? 皆待ってるんだぞ?
…というかなんで顔真っ赤なんだよ」
ようやく登場してきたと思ったらすぐに立ち尽くしてしまった私に、そう言い詰める張本人
もう!誰のせいだと思ってるのよ!
私だってさっさと昼食を楽しみたいわよ!
てか顔赤くないし!真っ青だし!
…こういう時は漫画とかでは自然数を数えて落ち着くのよね
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15…
うん、なんか違う気がする
じゃああれよ!戦後の米大統領!
これで落ち着くはず!
ト ア ケ ジョンソン ニク フォー カ レー ブッ クリ ブ オで「Yes!We!Can!」
「「…」」
「…」
唐突に始まった私の演説に、見事にシーンとなるこの部屋
誰も一言も喋らず、ただひたすらに私に視線を向けてくる
…終わったわぁ 人生終了だぁ
完全に私頭おかしい人じゃん 街中にいる近寄っちゃダメな人じゃん
ダメ!けんちゃん!指指さないの! の人じゃん
…もういい、どうにでもなれ
結果的に落ち着きを取り戻すという目標は達成
演説を終えた戦艦は1人トボトボと肩を落として歩き、ようやく席に着いた
「…金剛 疲れてるなら無理しないでいいから」
そんな私に提督は心底心配そうな顔をしてそう勧めてくる
でもそれが逆につらい
「ワタシは大丈夫デース だから早くしましょ」
「いや、大丈夫な奴は顔真っ赤にしながら涙目にはならないだろ…
…まぁいいならいいけどさ
じゃあいただきます」
「「いただきます!」」
「…いただきますデース」
そしてさようなら
…
数分前とは打って変わってワイワイガヤガヤと賑やかな食堂
最初はひたすらパスタを巻いていた私も、巻き巻きしている間に平静になり、今は主に能代達と会話を交わしている
「そっか、金剛さんってきのこ派なのね
…私はたけのこ派ですけど」
「やったー!金剛さん仲間ね!
うちの鎮守府だと能代と阿賀野姉ぇだけなんですよ…
分からず屋の巣窟だわ」
「そっちこそ!たけのこの良さが分からないなんて、まだまだ子供ね!」
この世に「きのこ」と「たけのこ」の双方が存在する限り止むことはないこの論争
そんな果てしない戦争が能代の売り言葉によって開いた
「子供じゃないわよ!能代の方が年上ですぅー!
たけのこなんて、分解出来ないのに何がいいのっ
一通りしか食べ方ないじゃない
きのこはねぇ、チョコとビスケットを分けて食べられるのよ?!」
「Well,食べ方がいっぱいあって、きのこの方がbetterネ~」
「それならもういっそのこと、チョコレートとビスケットを買ってそれぞれ食べればいいじゃないですか」
能代&私の派閥に異議を唱える矢矧
確かにそれは正論ではあるけれど、この場合間違いだ
「Your thought is poor(矢矧の考えは残念ね)
Chocolateとbiscuitsをそれぞれ買って食べたって、それはただのchocolateとbiscuitsっていうfoodネ~
きのこはdivideしてもきのこデ~ス」
「『矢矧の考えはおかしい
チョコレートとビスケットをそれぞれ買って食べても、それはチョコレートとビスケットという別の食べ物であって違う物
きのこは分けてもきのこに変わりない』とうちの金剛は述べてます」
「そーよ!そーよ!」
「えぇ…」
あ、わざわざ通訳してくれてありがとうございます、提督
でもなんでわざわざ日本語で話したはずの部分まで翻訳しているのでしょうか
「ん?でもたけのこは分けられないのがいいんじゃね?
あのサクサクはきのこじゃ味わえないよ」
「そ、そうよ!」
「そうね、私もたけのこ派です」
と、ここで思わぬところから援護射撃が飛んできた
この2人は基本的に私と対立することはないのに、今回に限り珍しくこの無限ループの争いに敵側として参戦してくる
「柿崎さんと霧島がenemy(敵)だなんて!
ワタシはがっかりネ~
そんな風に育てた覚えはありまセ~ン」
「え?がっかりされるようなことなの?
てか育てられてないし いや、でも育てられたいです
金剛ちゃんのひも希望!」
「きのこはなんと言いますか、雑なんですよね
その点、たけのこはしっかりしてると言いますか、たけのこの方がお金かかってる感があっていいです
あ、あと、私もお姉さまに養われたいです」
そんなたけのこ派にわざとらしくやれやれ、とジェスチャーをし、なんだか勝ち誇った様子の柿崎さんと霧島と矢矧を残念そうな顔で見つめてやった
あと私は2人とも養う気はない
「矢矧!毎晩毎晩提督とたけのこをお互い『あーん』しあってるからって調子にのらないで!
能代は阿賀野姉ぇと「き・の・こ!」でやってるから勝ちですっ!」
そこに半ば嫉妬のような報復を送る能代
いや、それは色々間違ってる気が…
あと後半、なんか卑猥に聞こえたのは私だけだろうか
「は、はぁ?! そんなこと!してな…くはないけど…毎日はしてないわ…
そんなことより!こちらの提督さんはどっち派なのかしら?」
顔をほんのり赤らめながら完全に否定しないところがなんとも可愛い
敵ながら少し羨ましい てかズルい
そんな乙女の矢矧が矛先を変えようと、それまで黙って観ていた我らが提督に話を振った
「あ?俺?俺はそうだな…初心に戻って考えると
…きのこだな」
「てーとくぅ! そうだと思ってたネ~!」
この大事な戦力が味方につく、それは即ち、この場ではきのこ派が勝ったことを示し、私は無意識に提督の右腕をパシッと掴み、ブラブラと揺らして小躍りし、勝利の歓喜に浸った
「提督ずるい 俺もやられたい」
「お姉さま 私もお願いします」
「やったわ! どうよ!矢矧!」
「え?そうね…
でも帰ったらきのこがアウェイだし、一時の勝利ぐらい味あわせてあげる」
「金剛…」
能代が勝利を叫び、矢矧が負け惜しみの声を上げ、柿崎さんと霧島は謎な要求をする中、私は提督の一声ですぐにハッと我に返った
…なんで私はたかがこんな小さな戦いに勝ったぐらいでこんなにはしゃいでいるんだろ
負けるのが嫌いな小学生かっ
ぶっちゃけ、きのこもたけのこも同じ割合で食べてるし、よく考えたら言うほどキノラーでもなかったわ
あれば食べる、その程度じゃん
やだ!なに数秒前の私!あんなに熱く語っちゃって
にわかにも程がある
人は冷静になると頭がしっかりと働くようになる
私は熱くなって握っていた提督の腕からそっと手を離し、姿勢を改め、再び何事もなかったようにパスタを巻き始めた
その時、一瞬だけ提督が残念そうな顔をしていたのには、この優しくて美人なお姉さんは突っ込まないでおくことにする
今後関わりにくくなるのも嫌だし
…
食事を終え各々散り、柿崎さんと提督の3人で執務室にいる
私は業務終了時刻に帳尻を合わせるためにちょこまかと休憩を入れ、今は丁度枝毛を探していたところ
現代科学って凄いわね 余計な細部まで人間そっくりになってるし
枝毛とかなんで艦娘にできちゃうのよ 誰得?
駄目だって分かってるけどついつい分けたくなっちゃうじゃん!
あぁあ!枝毛探すのに夢中になって仕事に手を付けられなくなっちゃった!
これ科学が悪いんだからねー!私のせいじゃないもんねー!
「それでさぁ、なんで陸上自衛隊だけ軍にならないと思う?金剛ちゃん?」
適当に仕事をさぼる理由と責任を見つけ出したそんな時
見計らったように柿崎さんが何の脈略もなく突然ぽんっとそう話を振ってきた
当然、柿崎さんも上官である以上、無下にも出来ず私は髪の毛をいじることを止めて、柿崎さんの方へ顔を上げた
あ、ちなみに、私のアホ毛はアホ毛のくせして意外と優秀で、今のところこれまで一度もその箇所で枝毛を見つけたことはない
これ、金剛豆知識ね
「…Am 単純にarmyとしては必要ないからじゃないデスカ?
深海棲艦を退治してるのはair forceとnavyだから」
ただ、その話題は私もこの世界に来た当初、疑問に思っていたこと
だから適当にあしらうことはしないで、それなりに考えて返した
まぁ確かに、空海を軍にするならついでに陸も軍にしてもおかしくはないと思うけど
提督に聞いても「知らない」って言われたし、じゃあいいやって放置してたけど、掘り返されるとやっぱり気になりはする
…ん?もしかして、わざわざこんな話題を振ってきたぐらいだから柿崎さん、何か知ってる?
だとしたら是非ともお聞きしたい
「確かにそれもあると思うよ でも俺はこう考えてる
第二次大戦前の二の舞を踏まないようにしてるんじゃないかって」
「…陸軍が暴走しないようにってことか?」
柿崎さんが言うと、提督も私と同様に手を止めて話に乗ってきた
「その通りです!
ほら、第二次大戦前の陸軍って頭逝っちゃってるじゃないですか
政治に介入しちゃいけないのに公然と入ろうとするし、気に入らない人がいれば何食わぬ顔して暗殺するし、 猶存社とかいうテロ組織とも手組むし
内閣は止めろって言ってるのに中国に進軍する
にも関わらずあまり強くない
だからその教訓として、今の政府は軍にしたくないんじゃないかって」
め、珍しい!
柿崎さんが超まともな事を言ってる!
あくまで柿崎さんの見解(←これ重要)によるものだけど、結構理にかなってるし
なるほどなるほど、確かに言われてみればその線の可能性も大だわ
実際はその頃の日本の事情は複雑怪奇で、全部が全部陸軍が悪い訳ではないし、陸軍の中でも反対意見の人はたくさんいたけど
やっぱり一番印象が強いのは陸軍の悪行で、それがまた起こるかもしれない、という懸念があってもおかしくはない
柿崎さんがそこを俎上に載せるなんて
うん、凄いよ!この私をここまで惹きつけるとは!
「ほぉ、お前にしてはえらくきちんとした意見だな
今日辺り雷でも直撃するんじゃないか?」
「心外ですねぇ、俺はいつでもまともですよ」
「それはもっと自分をobjective(客観的な)に見た方がいいネ~」
それはない、と私はすぐにツッコミを入れる
それに対して柿崎さんはたわいもない事と判断したらしく、フッと一回ムカつく笑いを見せた
もし今私が艤装を展開していたら、間違いなく35.6cm砲で撃ってるのに
惜しい!
…まぁでも提督が言う通り、この人は決してまともな人ではないけれど、別に悪い人でもない
口ではセクハラしてくるとはいえ、実際に一線を越えてくるようなことはしないからそれなりに尊敬はしてるけどね
なりよりパフェ作ってくれるし♪
「ううんっ!
ってな訳でですねぇ、俺なりに色々考えた結果ですが…」
そしてわざとらしく咳払いをして場を整え、柿崎さんは再び語りだした
不思議とその顔は溌剌としているようにも感じられる
そんな柿崎さんを2人して次に何を言うのかと注目する
「金剛ちゃん!」
「んー?」
「その二の腕と生足を触らせてください!」
「「…」」
…さて、じゃあそろそろ仕事に取りかかろうかな
流石に休憩してばかりじゃ提督に怒られちゃうし
さぁさぁ仕事♪仕事♪
「えー!無視?!無視ですか?!
俺、結構良いこと言ったよね?!」
「…いや、どこがだよ」
提督の言う通りよ
一体何をそんなに愕然とすることがあるのよ
当たり前でしょ?
一瞬でも好感度が上がったさっきの自分がバカらしいわ
尊敬?いえ、軽蔑の間違いでした
そういえば今更気づいたけど腕から外した振り、垂らしたままだった
ニーソに関しては工廠に置きっぱだし
後で取りに行かなきゃ
いや、でもそもそも真夏にニーソっておかしくない?
汗で凄く足が気持ち悪くなるのよね
制服で規定されてるから仕方ないけど
…そんなこと言ったら、提督も制服真面目に着てないし、この際私も履かなくていいんじゃ…
「えー…ダメ?金剛ちゃん?」
「No way! 何故良いと思うのデスカ?」
「なんとなく 触ってもいい気がしたから」
私が不満を頭の中で漏らしていると、柿崎さんは無視では諦めず、再度お願いしてくる
触りたい理由はもちろん不純なもの
あぁ…もう駄目だこの人
憲兵さんに差し出してこようかな…
最後まで初期メンバーでずっと一緒に居られないで残念
提督の願いが早くも崩れ落ちそうだよ
「ちょ、金剛ちゃん? どこに電話するつもり?」
「もちろん、policeデース」
「あ、すいませんでした 二度と口にしません だからその手を離してください」
私の警告に素直に柿崎さんは即刻従った
土下座も加えて
…部下に土下座する上司ってどうなのよ
どこかの銀行か、ここは
そういう残念なところがなければきっと彼女だって出きるだろうに
「パフェがunpleasant(不味い)だったら許さないわ」
「あ、あんぷり…あん…とにかく頑張ります」
しっかり伝わったかどうかは怪しいけれど、とりあえず頑張ってくれるらしい
でもこの人のことだし、人生には失敗していてもパフェ作りには失敗しないはず
結果許すことは目に見えている
いくらセクハラ発言されても結局許しちゃうこの性格も、味覚と同じく甘党だなぁ
…うん、ちっとも面白くないね
締めを考えるのも難しいのよ
…
夕方の鎮守府
窓から夕日が差し込みオレンジ色に染まる執務室
夕方になったとはいえ気温が下がることもなく、相変わらず冷房はかかったまま
この鎮守府はソーラーパネルなので、資源不足のこの世界でも電気は使いたい放題だ
加えて明石が作った波による発電機も設置されているので、売るほど余っている
それはさておいて、今は私1人で黙々と仕事をしているので、この部屋はキーボードを打つ音と冷房の静かな音しか聞こえない
提督はどこに行ったのやら
もう30分以上帰って来ない
…下痢かな?知らないけど
それにしても、誰に監視されてるわけでもないのにきちんと仕事をするなんて…
あぁ…世も末だわ…
こういうの、紺屋の白袴っていうんだっけ
ん?でも、そうすると私のやりたいことってなんだろ?
そもそも私って何の為にここに居るんだろ?
私って誰?
…やめよう
こんな哲学的な事を考えるは私の柄じゃない
「teaでも飲みマスカ」
頭の中がゴチャゴチャとしてきたので、気分転換にと私は席を立ち扉の前まで移動した
そしてドアノブを回し扉を開け一歩踏み出すと
「てーとく…」
丁度こちらに向かってくる提督が見えた
その瞬間
頭の中にピキッと電…稲妻が走る
こ・れ・は!仕返しのチャーンス!
ふふふ、キター!午前中の復讐だぁ!
思いついたら即決行(最近の座右の銘ね)
ということで、慌てて秘書席に戻り、一番下の引き出しからクラッカーを取り出す
なんでこんな所にこれがあるのかは知らないけれど、こないだ偶然見つけ、そのままにしていたのが幸をそうした
いざ出陣、とクラッカーを1つ手にしてドアの横で待機
提督がドアを開けて入ってきた瞬間
パーン!っと驚かす謀りだ
…提督の驚いた顔を想像すると自然と胸がバクバクと踊りだす
あの提督のびっくりした顔を拝めるなんて♪
ふふふ、早くっ♪早くっ♪早くこーい♪
自作のおかしな歌を頭の中で歌いながら待つこと数十秒
ついにその時が訪れる
ドアノブが周り、ドアが引かれる
そして、小さな足が一歩踏み入れたその瞬間
パーン!
静かな仕事部屋に、大きな音と火薬の匂い、カラフルなテープがパッと散った
「 「キャッ!!」」
それと同時に響く複数の幼い声
…複数?幼い声?
あれ?うちの提督っていつ幼女に分割したんだっけ?
提督特有の仕様かな?
…な訳ないでしょ 明らかにやらかしたやつよね、これ
逆に提督が幼女に分割するルートっていうのもありっちゃありだけど
はぁ…それよりも、これでお仕置きルート確定ね…不幸だわ…
「マジで死ぬかと思ったぁー…」
「…大丈夫?、もっちー」
「まぁ、驚いたけど、大丈夫じゃない?」
「他人事だなぁ」
そうは言ってもこれは完全に私が悪い
自分の直近の未来の不幸は置いておいて、それよりもこの珍事に対して素早く丁寧にお詫びをしなくては
「Oh…sorry…てーとくだと思ってたネー…まさか望月達が来るとは…
怖がらせてごめんね?大丈夫?」
しっかりと足を曲げて弥生達の背丈に合わせて謝る
「俺を驚かす為ねぇ…まったくこの秘書艦は…」
すると、ようやく当初のターゲット、野生の提督が現れた
どうする?金剛ーたたかう
にげる←
ぼうぎょ
どうぐ
どの選択肢も論外なんだけど、それでも 一番有力とされる「逃げる」は後々さらに事が悪化しそうだし
うん、これは選択肢外だけど「諦める」が妥当だね
ほら、よく「組織の枠を超えろ」って言うでしょ
「ボクは別に大丈夫だけど」
「んー、あたしも大丈夫だと思う」
前にいて、もろに衝撃を受けた望月と皐月の2人はテープを頭に被ったまま、それでも何でもないといった感じに許してくれた
本当に寛容で有り難い
「そうか じゃあこの愚艦の行為のお詫びとして、これ買ってきたから皆でどうぞ」
言って提督は手に持っているビニール袋に手を突っ込む
そして中からハーゲンダッツのアイスを4つ取り出し、それを4人にそれぞれ渡した
ほぉ~ 提督はこれを買いに席をはずしていたのね
まぁそれよりも、愚艦って…
いくらなんでもそんな言い方ないでしょ…
さすがに悲しくなるわよ…
「「おぉ~!!」」
4人は私のメンタルが崩壊しかけるのとは対照的に、嬉しそうにアイスを受けとる
ここの世界では以前程ではないにしろ、未だに物資が乏しい状況はあまり変わらず、このハーゲンダッツも私の世界よりも値段はかなりお高め
弥生達が喜ぶのは無理もない
ちなみに、私もまだこの世界に来てから1度も食べたことはない
でも、元々ハーゲンダッツよりもスーパーカップとかMOWとか雪見だいふくの方が好きだし
今だって別に羨ましいなんて…そんなこと全く思ってない
…羨ましくなんてないんだから!
「勝浦の司令官っ! 本当にボク達がもらっていいの?」
「あぁもちろん ほら、溶けないうちに食べちゃいな
弥生、食堂に案内してあげて」
「あ、はい…あの、ありがとうございます」
「「ありがとー!」」
いつになくニコニコ顔のクチクカンズ
ちょこっとお礼をするやいなや、すぐにその速力を生かして廊下をかけて行った
すると当然、執務室に残るのは私と提督の2人だけ
冷房で冷えているこの部屋に、良くない空気が流れる
あ、霊的なとかそういうのじゃなくて
「…」
「…」
やだなー 怖いなー 怒られたくないなー
自分が悪いとはいえ、やっぱりこれからお説教を喰らうと思うと耐えられない
強がってるけど、実は意外とメンタル弱いのです
「私達親友だよ!」って関係よりももろいのです
だから、今朝師匠を観察して得た金剛のスキルを使って咎めを回避しようと思います
必殺!シュン………(¨)(‥)(..)(__)
「…お前…それはズルいぞ 何も言えないし、逆に俺が悪役になってるじゃんか」
「…でも、そもそもてーとくが、私をshame(恥をかかせる)するからヨ?」
「ん?俺がいつお前に恥をかかせた?」
提督は本気で思い当たる付しが無いらしく、なにがなんだかさっぱりと言った顔をしている
そんな提督に、今度はムーと演じてみせる
「Oh my! 午前中のこと忘れたノ?
ワタシのこと、よって集ってお世辞を並べマシタ!」
「…あぁ
でもそんな事を言ったらお前が最初に『崇めろ』とか言ったからだろ
その前に、あれ、お世辞でもなんでもなくて本心だし」
「うー! But!ワタシも本当に言うとは思わなかったネー!
だからてーとくが悪いのデース!」
半ば小学生のような言いぐさだけど関係ない
今はとにかくあちらに非を擦り付けなければ
というか、本心ってなんだし
そんな嘘わざわざつかなくてもいいのに
「あーうん、そうだね 悪い」
「あ、はい…」
提督は、私が思っていたような苦言を呈す気は意外なことに無いようだ
想像していたよりもあっさりと引いてくれた
勝ったとはいえ、さすがに拍子抜けである
「そんなことより、ほれ 早くしないとアイス溶けちゃうぞ」
そしてさらに、私の恥を『そんなこと』で適当にすっ飛ばし、持っていたビニール袋からハーゲンなダッツのアイスを1つ取り出す
「ん」
「…ワタシにくれるノ?」
「そりゃもちろん さっさと受けとれ」
言って提督はそれをひょいと軽く投げ、宙に舞ったアイスを私は受け取った
「あーあと、これもついでに買ってきたから食べな」
さらにこの男の人は袋から1つのケーキを取り出して、今度は投げずに手渡しで丁寧に渡してくる
「…モンブラン? なぜ?」
「いや、たまたま1つだけ売れ残っててな
そういや以前、お前が『モンブランが好き』みたいなことを言ってたような言ってなかったような記憶があったから買ってきた
スーパーの安物だけどね
それと、それはそれしかないから弥生達には秘密でお願い」
いつもよりやや早口で理由述べて、提督は何かを誤魔化すように早々と自分の席に戻った
そしてスプーンを取り出し、アイスの蓋を開ける
…提督って人は
たらしだなぁ
自分でさえ、いつ言ったのか覚えていないセリフをご丁寧に覚えていてくれて、それを恋人でもないのにわざわざ買ってくるなんて
しかも私知ってるんだから
提督が行ったであろうスーパー
この時間にこの無名のモンブランが売り切れるはずがない
提督よりも通っている私を騙すなんてアマアマだよ
まったくまったく…
これでこの人のことを好きになるほど軽い女じゃないけど、それでも好感度は誠に遺憾ながら上がっちゃう
「てーとく」
「ん?」
「ありがとうございます
…てーとく I will never die as far as you live(提督がいるのなら、私は絶対に生きてみせるわ)
Please keep to wait here(だからこの場所で待っててね)」
「…そうだな」
提督は顔を赤らめて、そう一言だけ呟いた
そんな提督に吊られて私も遅れて熱くなる
…ギャー!私なに宣っちゃってるの?!
らしくない!こんなの私らしくない!こんなセリフ言うキャラじゃないし!
なんか不意にポロっと漏れちゃったけど
あ゛ぁー、これ黒歴史だぁ!夜、枕で悶えるやつだぁ!
提督も提督で何真剣に受け止めて顔赤らめてるのよ!
初めて見たわ!初見!
…ってあれ?
その時、提督の顔を見て、その流れで提督の手元、つまりアイスを見た
カップはなんてこともない普通のバーゲンのそのやつだけれど、中身
そう、その中身が既に半分しか残っていないことに気がついた
提督はたった今、蓋を開けたばかりだ
それなのに、もう半分しかないのは…
明らかにおかしい
途中で食べた、という可能性はこの人ではまずあり得ない
私じゃあるまいし
「てーとく、なんでもう半分しかないノ?」
私、気になります!
とまではいかないけれど、不思議ではあるので、それとなく聞いてみることに
「ん?あーこれね
なんか鎮守府の門を入ったら野良犬がいたから
執拗にくっついてくるし、あげてきた」
すると、横川さんの返答は、びっくりぽんな非日常的で昭和的なものだった
まぁそれよりもまず、犬にアイスって与えて良いものなんだっけ?
「Wow 面白い話ネ~」
「面白い?」
「Yeah まず、野生の犬なんてまだいるのデスネ!
あと、人になついているのも面白いデ~ス」
さらに指摘するのなら、鎮守府の門の中にいるのも面白い話だけどね
…これは恐らく、朝の牛乳の件が絡んでいそうだけれど、それはまた後でそれとなくこの金剛様が解決することにしよう
「確かに、言われてみればそうだな」
「ふふーん じゃあそんなてーとくは…」
理由も判明したことだし、今はこの至福の一時を味わいたい
けれど、提督がアイス半分だけで、私がアイスとモンブランの2つじゃあフェアじゃないよね?
じゃあどうする?
A.モンブランは半分だけ頂ければいい
ということで、私は競歩で一度食堂へ向かい、そこからナイフとお皿を持ち出して執務室にまた戻る
戻るとすぐにナイフでモンブランの山を切り分けて、提督の元にそれを置いた
「いや、なんでだよ 怖いわ」
当然、提督は心底不思議そうに、若干引きらがら問ってくる
『怖い』は心外だけれど
「ワタシはまだ『頂いた』とは言ってまセ~ン
だからまだそれはてーとくのヨ~ ワタシのものじゃないデ~ス
『Why?』と言われても困りマ~ス
ワタシは半分だけ…
いただきます」
少し無理がある理論ではあるけれど、ひねくれ者の私としては直接言いたくない
だからこうして適当に誤魔化して無理矢理モンブランを半分押し付けてやった
そしてささっと自分も席について、まずハーゲンなダッツさんからいただく
「お前は本当に…なんだかなぁ」
久しぶりのハーゲンさんとモンブランの味に頬っぺたが膨らんだ
比喩的にではなく、物理的に
夏なのに、この部屋だけなんだか春のような一時
提督はいつまで経っても顔が赤かったけれど、熱中症にでもなったのかな?
でも、もう春でも夏みたいな気温だし、大して変わんないかっ
…
23時
LINEを交換し、夕食も共にした能代達第12護衛隊を見送ってから数時間経った
別れ際、矢矧に「金剛さんはやっぱり金剛さんだ」だと言われた
そのセリフから推測するに、能代達、少なくとも矢矧とは過去1度会ったことがあるようだ
それもただすれ違ったとかそういうレベルではなく、結構話し合うような仲
矢矧達は恐らく私が記憶を失ったと聞いているはずで、だからこんなことを言ったのだと思うのだけれど…
ただ、残念なことに、正確には私は金剛ではない
確かに金剛から「僕と契約して…」
じゃなくて「代わりに金剛となって」的なことを言われた
だからこうして金剛の見た目で金剛として職務を全している訳だけれども、やはり根本的な箇所は違う
矢矧達が望んでいる「金剛」ではもうない いない なれない
生きている間に、今後も会うであろう過去の金剛を知っている人達
今はなんとかバレずに生活しているけれど、仮にもし、金剛が金剛ではないとバレたとしたら、どうなる?
その人は秘密にしてくれるのか?
はたまた
拷問 実験 解体 廃棄
不安で胸いっぱいだ
能代達を見送った桟橋で夜風に吹かれながら、そんなことを考えながら1人座っていた
すると、そんなネガティブな考えを裁ち切るかのように、後ろからカツカツと誰かが近づいて来た
「こんな所に居たのか バカが『パフェ出来た』とさ」
「Oh!わざわざありがとーございマ~ス!てーとく!」
振り向くと同時に、その足音の人は私にそう告げる
薄暗くてはっきりとは見えなかったけれど、提督はニコニコとしていて、そんな笑顔で少しだけだけれども不安は和らいだような気がした
提督はすぐに役目は終えた、とばかりにすぐに回れ180°をして、建物へ戻ろうと歩き始める
まぁ、起こるか分からない未来のことについてあれこれ考えるのはやめよう
今はただ
全身全霊全力でパフェを味わう!それしかない!
よーい!どん!のクラウチングスタートで駆け出して、 提督の背中に追い付き、追い抜かす前にテンションがハイになった私はその肩を
とんとん
と叩いて人差し指をセットする
当たり前だけれど、振り向いた提督の頬に私の指がぷにっと刺さる
あら、意外と柔らかい♪
「なっ!」
「Trick! お先デ~ス!」
そしてそのまま、提督の反応も見ずに、だだだっと食堂まで全力疾走で突き進んでいった、単純極まりない私である
…
「♪♪♪~」
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とはよく言ったもので、今はあれだけ深く刻まれた午前中の恥も忘れ、食堂でひたすらパフェを食し堪能している
もう本当に頬っぺたが落ちそうなくらい甘っ甘で美味しい!
昼間のアイスといいモンブランといい、このパフェといい私今日で死ぬんじゃ?
でも、それでもいい!キャー!パフェだ!キャー!
「そこまで喜んでもらえるとは…やったね!
トプ画にしよっと」
言って柿崎さんはスマホを取りだし私のことを無許可で撮ったけれど、そんなことは今はどうでもいい
好物を味わっている時の金剛さんは、その事以外のことはどうでもよくなる傾向にある
これが野生の世界だったら間違いなく死んでるな、私
「ただいま~!!!」
と、そんな気分が高揚している状態の中
こちらも高揚しきっている人物が帰ってきた
「あ、提督 ただいま戻りました」
黒姫さんと明石
もっとも、今の黒姫さんは黒というよりも赤、赤姫さんだけれど
主に顔が
「くっさ!お前今日は合コンじゃないだろ? なんでそんな酒飲んでるんだよ?」
提督が指摘した通り、今日は明石を連れてただお買い物をしてきただけのはず
失敗した合コン帰りならまだしも、なんでこんなに酔っているんだろ?
というか、失敗する前提で話を進めている提督も私もどうかと思うけれど
「あぁそれなんですけど…
たまたま黒姫さんの同級生だという人と会ってしまいまして、それが運の尽きと言いますか…
その人が結婚して今度結婚式を開くことになったらしくて…」
「そーよ!どーせ私は生き遅れですよぉーだぁ!」
「「なるほど」」
アラサーになっても彼氏1人出来ない自分の前に現れた幸せ野郎もといアマ
飲みたくなる気持ちも分からなくはないけれど…
でも飲み過ぎはダメ!絶対!
何故なら酔った黒姫さんは超面倒くさいから!
「金剛ちゃ~ん、何食べてるの~?お姉さんにも一口ちょおだい!」
「O Oh…どうぞ」
当然といえば当然だけれども、その面倒な人に真っ先に目をつけられてしまった
それはもう回避できないどうしようもないことなので言われるがまま、パフェの容器を差し出す
けれど、何か気にくわないのか、お姫様は首を横に大きく振る
「違う!あーん、よ あーん!」
め、面倒くさ!
さっきは幸運なんて思ったけど、やっぱり不幸だったわ
今日1の楽しみだったパフェタイムを取られるなんて
…不幸だわ ああ不幸だわ 不幸だわ
「…黒姫さん あなたの分のパフェもすぐに作りますから、金剛ちゃんは解放してあげてください」
しかし、予想外の救世主登場で状況は一変する
なんとあの柿崎が!黒姫さんの為にパフェを作るというのだ!
「うー…皆私をいじめてくる…未婚の私をいじめてくるー」
柿崎さんの説得に黒姫さんは私の左右の肩を掴み、ユラユラと揺らして涙声で、そう拒否する
あ~揺らされてる~ 揺らされてるだけに、金剛のいいとこ見せちゃおうかな
「面倒くさっ」
「…これはちゃちゃっと作ってしまう方が早いですね
金剛ちゃん、もう少し我慢できる?」
「仕方ありまセ~ン ワタシは大丈夫ヨ~」
なんとか状況を打開しようと柿崎さんはさっさと調理場へと入り、パフェ作りを始める
その間、目の前にあるのにも関わらずおあずけにされた状態の私は、姫を膝に乗せてあやしている
…まるで介護みたい
「うふぉー 金剛ちゃんの足だぁ!お腹だぁ!おっぱいだぁ!おっぱいだぁ!」
「…なぜおっぱいだけ二度言うノ」
「あ!ズルいですよ!それは私のです!」
…明石、素面だと思っていたそなたも酔っておられるのか
この巨万の富は誰のものでもない、私のよ
っていうか、人前で揉むな 否、人前じゃなくても揉むな
「…ふぅーん 金剛さん、とうとうそっちの世界に行っちゃった?」
そんな中、なんともタイミング悪く望月が登場
黒姫さんに対面で胸を揉まれているいかがわしい場面をちょうどそこだけ限定で視られてしまった
「…違うのヨ これは色々あったのデース」
「もっちー! もっちーも参戦する?」
「いや、大丈夫」
けれど、ここまでくると最早泰然自若で、望月にレズだと認識されても強く否定することも面倒くさい
でもね、望月
そんな可哀想な人を見る目で私を見ないで
「はい、出来ましたよ 黒姫さん
だから金剛ちゃんを解放してあげてください」
そして案外すぐに出来上がったパフェ
柿崎さんはそれをテーブルに置いて、黒姫さんに促す
「んー」
「なんですか?」
「んー」
それに対して酔っぱらいの貧乳大和撫子は、常時では考えられない反応を見せた
あの、天敵であるはずの柿崎さんに両手を差し出している
それはつまり抱っこしろ、の合図
よほど同級生の結婚がショックだったのか、とうとう柿崎さんに甘えるほど落ちるとは
※別に私は柿崎さんのことは嫌いではない
「…怒らないでくださいよ」
柿崎さんが黒姫さんの要求通り、抱き上げる
お陰さまで、私はようやく解放されパフェターイム!
抱っこされた黒姫さんはケタケタと笑って、昼間のクールビューティーとはギャップが甚だしいけれど、そんな黒姫さんを介抱する柿崎さんも特段嫌がってはおらず、この2人のペアも案外良いかもね
もう2人共フリーなんだし、そのまま付き合っちゃえ!
「レズ姉さん」
「誰がレズ姉さんデスカ!」
「レズ姉さん 先に部屋に行ってるから、早く来てね」
私の否定にまったく耳を傾けない本日の一緒に寝る相手、望月は、一方的にそれだけ伝えて食堂から出ていってしまった
はぁ…こりゃ後で貢ぎ物でもして誤解を解かなきゃなぁ…
「金剛さん!それで、私はいつ金剛さんの胸を揉めばいいのでしょうか?」
「いつでもダメデース!なんでワタシがrequireしたみたいになってるノ!」
改めて思ったけど、この鎮守府はまともな人がいない!
常識人だと思ってた黒姫さんと明石は酔うと私の胸を無性に揉みたがることが判明したし、ここまでくると私って結構まともな方じゃない?
ほら、文武両道 才色兼備 八面六臂じゃん?
…「自重しろ」ね、分かってます
まぁ楽しいからなんでもいいけど
個性が全く違う人達が集い、毎日全く違う日々を過ごしている今現在
パフェを味わいながら、なんとなく幸せだなぁ、そう感じた
皆違って皆いい
こんにちは♪こんにちワン
ありがとう♪ありがとウサギ…
…そういえばなんで、ありがとウサギだけ尋常じゃなくブサイクなのかしら
悪意を感じるわよね