目覚めると金剛に…   作:mothership

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こんばんは、mothershipです

今回は少し過去の出来事について書きました
相変わらず「艤装どうなってるんだよ」等々ツッコミどころ満載ですが、愚作故、どうか軽くスルーでお願いいたします

さて、物語に行く前に諸注意です
今回の話は深海棲艦好きの方々には少々きつい話になっておりますので、そういうお方はぜひback spaceを押してもらえると幸いです
それに加え、金剛さんが多少暴言を吐きます
イメージを崩したくない方、金剛のそういうシーンを見たくない方も、back spaceへ

それでも構わない、というドMの方々は下手の横好きの作品ですが、今回もお付き合いください


過去

「んー? 横川さんとの出会いデスカ?」

 

「うん そういえば聞いたことなかったけど、いつ出会ったのかな~って思って

ほら、やたら押してくるじゃない?

だからよっぽど印象的だったのかな~ってね」

 

 

ここはアルプスの草原のような場所

サーっと心地よい風が吹く、ハイジとトライさんが暮らしていそうなあの静かな田舎の世界だ

ただし現実の空間ではない

私の頭の中で作り出された仮想の空間、とでも言うべきだろうか

いつからか、金剛とは毎度この場所で落ち合うことになっていた

 

「そーデスネ~  確かによく覚えていマ~ス」

 

私の要望、というか妥協で決まった1週間に1度の面会日

今日がちょうどその日だったので、私は夢の中なのに起こされて、現在、この場所にいる

大概会っても大した話をするわけでもなく、その辺のOLが話していそうなくだらない会話をいつもしているのだけれど、ふと、提督と金剛の出会いはいつなのか、何か特別なことがあったのか、等々興味が湧いてきたので質問してみることに

 

そして現在に至る

 

 

「へぇ じゃあ教えてよ」

 

「Hum いいですけど、長々くなっちゃうヨ?」

 

「長々くって… 別に構わないわ どうせ暇だし」

 

私の要求に少し金剛は考えるも、すぐにOKが出された

これで提督と金剛の過去が判るわけで、今後提督と関わっていく上でも何か役立つかもしれない

特に弱味を握るという点において

 

だから私は少しも聞き逃さまい、と紅茶を飲む手を止めて、改めて居住まいを正した

 

 

「Well じゃあ話しマ~ス

Hmm…何年前だっけ…でも確かbattleの最中デシタ

A long time ago in Io island far,far away…

Episode Ⅳ

The first contact」

 

「…なんでSTAR WARS風なのよ

しかも遥か彼方の硫黄島って…そこでもう若干ネタバレしてるし」

 

「Sh! 黙って聞いてなサーイ!

続けるヨ?…

 

 

 

「YES!やっとてーとくと会えマ~ス!

てーとくのcoolな顔を想像すると…

キャー!てーとくー!てーとくー!」

 

「そうですね、お姉さま 榛名も嬉しいです」

 

私、金剛は第3戦隊として榛名とタッグを組み、深海棲艦の台湾侵攻を阻止するという作戦を終えて、ちょうど横須賀へ帰港中だった

損傷も軽微ということもあり呉ではなく、現在の所属先、横須賀へと

 

「金剛さん…もう少し声を抑えてください

傷に金剛さんの声が染みて痛いです」

 

「Oh! 矢矧にはそんな機能があったのデスカ!

I`m sorry 気付きませんデシタ」

 

そしてもちろん、私と榛名、2人だけで侵攻を阻止することができたはずもなく

たった今、私に文句を投げてきた矢矧とそれを率いる第2水雷戦隊の能代

そこに所属する第17駆逐隊の浦風 磯風 浜風 雪風と

第21駆逐隊の朝霜 霞 初霜 時雨の合計12名と共に行動してきた

 

「矢矧ー、もしかして嫉妬してるのね!

澄ました顔して可愛いとこあるじゃん!」

 

「そ、そんなのじゃない! 能代姉こそ嫉妬してるんじゃないの?」

 

「いえ?能代には阿賀野姉ぇがいるから大丈夫よ?」

 

「あ、そう… そうだったわね…」

 

この戦いで初めて顔を合わせた矢矧と能代

彼女達は毎日のようにこうしてちゃかしあっているようだ

初日から矢矧に能代がちょっかいをかける、という流れがひっきりなしに続いている

 

私達姉妹とはまた違った仲のよさが見られて、暇潰しにはぴったり

でも!私達だって仲のよさじゃ負けないわ!

 

「榛名~?」

 

「はい、お姉さま? どうかいたしましたか?」

 

「I love you いつも大好きヨ」

 

「…は、榛名感激です! お姉さま!お姉さま!」

 

ふっふっふっ、どう?矢矧 私達の勝ちよ?

 

そんな思いで矢矧を見るも、期待していた反応とは違い、何故だか彼女は少し引いていた

え?どうして?

 

「矢矧さん達は見ていて楽しめますけど、金剛達はなにか、重さを感じて直視しずらいですね」

 

「そうじゃねぇ 金剛姉さんはなんというか、ちと残念じゃのぉ」

 

こちらは、人の事を残念呼ばわりする悪徳駆逐艦の浜風と浦風

矢矧達と違い、今まで長く共に戦ってきたせいか、最近全く遠慮せずに物事を言うようになってきた

 

「誰が残念デスカ!

ワタシは残念ではありまセ~ン

あのてーとくのハートを掴んだのよ?」

 

「そういう事を言ってしまうのが残念なのではないか?

私は別に構わんが」

 

…どうやら私は本当に残念な人らしい

あの磯風に言われてしまったらもう認めざる負えない

うーん…てーとくには「その性格も好きだ」って言われるのになぁ

 

 

 

「こちら横須賀の第3戦隊指揮官、上田だ

金剛、今大丈夫か?」

 

そんな暇な航海中

噂をすればなんとやら

突如私のダーリン、愛する提督から無線が入ってきた

もちろん、提督とお話できるだけで私の心はもうバックバク

 

「Hi!てーとく! 大好きデース!

それでいきなりどうしたノ?Weddingの日程ならまた後で決めましょ」

 

提督との結婚式かぁ…

憧れの白いドレスで提督と…キャー!

「私はお二人の結婚が成立したことを宣言いたします。

お二人が今、私達一同の前で交わされた誓約を、神が固めてくださり、祝福で満たしてくださいますように。」

…想像するだけで胸がぁ!胸がぁ!

 

「いや、違う 結婚式の話じゃない

任務の話しだ」

 

そんな夢ももろくあっさり壊され、「いや違う」の四文字の言葉ですぐに現実へと引き戻される

 

えっ、違うの?

てっきり我慢できない提督が早まって、公開で結婚式の設定をするのかとばかり思ってたけど…

なんだぁ つまらない

 

「…一応聞きマース でも聞くだけネー」

 

「おぉ、テンションの下がり方が著しいな

俺もできれば早く帰港させたいが、そうもいかなくなってな

 

…硫黄島に敵深海棲艦が侵攻してきたらしい

基地が壊滅的な打撃を受けたようだ」

 

「…それは本当の話デスカ?」

 

おふざけできたのもそこまで

次に耳に入ってきのはとても信じ難い情報だった

 

最近では日本領海に現れた、という話を聞いたことがなかったけれど…

もう現れないと思っていた

でも現に湧いてきてしてしまった

つまり、完全に慢心していたという訳だ

私だけではなく艦娘全体、いや、海軍全体が

 

「本当だ そこで戦闘後すぐの任務で申し訳ないが、そちらに向かってほしい

今近くにいるのが金剛達、お前らの艦隊と、5航戦の艦隊なんだ」

 

「…」

 

無線から聞こえてきた提督の声はいつになく深刻そうだ

一緒に聞いている榛名達の顔からも笑顔が消え、今は不安の色を浮かべている

 

愛している提督のお願いだから喜んで受ける、といきたいところだけれど、私はすぐには返事をせず、少し躊躇ってしまった

どうせ上官の命令には従わなければならないので、拒否することなんてできないのだろうけど、自ら引き受けるのと無理矢理受けるのとではやはりモチベーションが違う

 

「お姉さま?」

「金剛さん?」

「金剛姉さん?」

 

妹の榛名、矢矧と浦風に呼ばれて催促されるも、私は返事をせず考える

 

嫌な奴と思われても仕方ないけれど、正直な話、私は提督と妹達さえいれば他はどうでも良い、そう思っている

仮に提督と妹達の身に危機が起これば、それこそ飛んで助けにいくし、喜んで命を捨てることだってできる

極端な話、「死んでくれ」とお願いされたら自殺することさえ厭わない

だけど、それ以外の人達の危機となればそうはいかない

今現在、榛名は小破状態

硫黄島の基地を壊滅させるだけの戦力を持ち合わせている敵との戦闘に参加するのだから、最悪沈む可能性だってある

そんな戦いに参加させるには、それ相応の理由が必要だ

じゃないと納得できない

 

 

…なに?どんな理由だったら自分を納得させられる?

基地の人の命?

ーダメ、榛名の命の方が大切だ

 

愛する提督の命令?

ーダメ、自分が死ぬのなら問題ないけれど、妹の命と引き換えにはできない

 

日本の危機?

ーダメ、妹の危機よ

 

提督が悲しむ?

…なんで提督が悲しむの?降格?減給?

いえ、こんな事でそんな事になるはずはないけれど、でも悲しむかぁ…

 

「…てーとく?」

 

「なんだ?」

 

「そのbase(基地) or このoperations(作戦)には、てーとくのfriendは参加しマスカ?」

 

私が見つけ出した納得点、それは

もしこの基地に提督の友達が所属している、もしくは参加している場合、その人が死んだら提督は悲しむに違いない

結果、イチャイチャとか結婚式どころではなくなる

結果、悲しみが波及し妹達の士気が低下、まともな指揮が取れず轟沈する

そんな未来になるのなら、今、徹底的に榛名を守りながら戦う方がまだ望みはある

というものだ

 

 

 

「いるぞ、救出部隊の隊長、横川ってやつだ」

 

 

 

…オッケー 無理矢理だけど条件は整った

 

 

 

「Hey!てーとく!成功した暁にはご褒美期待してるヨー!」

 

「あぁ大丈夫だ 目一杯ナデナデしてやる」

 

よし、ご褒美も約束された

俄然やる気が出てきたぞー!

絶対に成功させてみせる!

提督のナデナデ………ぐふふ…

 

「…その言葉忘れちゃダメ!だからネ?

Okey 皆さーん! 硫黄島まで行きますヨ?」

 

そうなればさっきまでの自分の懸念は吹き飛ばし、今度は旗艦として自分のテンションを上げ、皆の士気を高める

それは誰も沈ませないようにする為

いくら提督と妹達の命だけが大切だといっても、仲間が沈んでいくことが全く悲しくない、といったら嘘になる

自分は酷い艦娘だけれど、最大限の努力はするつもりだ

 

 

「「了解!」」

 

 

 

「今現在、硫黄島の基地との連絡は途絶えている

最後の無線では死傷者が多数いるとの情報だ

そこでだ ヒトマルマルマル時より、作戦を開始する

作戦の内容はこうだ…

 

島の南側に第3戦隊、第2水雷戦隊、5航戦による囮部隊を配置する

私達の水上機を飛ばし状況を把握次第、5航戦が艦上機を飛ばし、制空権を確保

さらに残党を引き付けて私達戦艦と水雷戦隊で暴れ回る

その間に島の北側から輸送船を送り救出部隊を上陸させて生存者を回収する

 

提督から聞いた作戦をざっと要約するとそんな感じの内容だった

 

以上だ 何か質問はあるか?」

 

濃霧があればそんな大それたことをせずに、もっと楽に終わらせられるのだろうけれど…

残念ながら本日は晴天 雲1つない

皮肉なことに絶好の開戦日和というわけだ

こんな時、あの山城が居たらきっとこう言うに違いない

 

「不幸だわ…」

 

「…俺は感想じゃなく質問を聞いたのだが」

 

「金剛さん、まるで山城さんみたいなこと言いますね」

 

提督と矢矧、それぞれにツッコミを入れられるも、不幸なものは不幸なんだからしょうがない

よりによって囮だなんて

5航戦だから確か瑞鶴がいたわよね?

囮+瑞鶴=沈没

あまり明るい未来は見えない

 

 

でも

 

 

「I can do it! 絶対成功させてみせマース!」

 

ネガティブなことばかり考えていてもしょうがない

だから自分はできる、そう言い聞かせた

 

「この磯風も、全力で撃ち落としてみせる!」

 

「阿賀野姉ぇが待ってるからね 能代もやってみせるよっ!」

 

「金剛姉さんが本気じゃけん、うちもよう一生懸命やらんとのぉ!」

 

ただ、私が自分の気持ちを鼓舞させる為だけに言ったはずが、結果的に艦隊全員に流れ良い雰囲気となった

各々の気合いを入れる声が直接、又は無線から流れてくる

そんな中、その威勢を聞いてか、隣の榛名もこれから戦争だというのにニコニコと穏やかな顔をして私を見て、ガッツポーズをしてきた

 

…そんな顔されたら、何がなんでも守らなきゃいけなくなっちゃったじゃん

絶対、ぜーったい!この笑顔は誰にも壊させないわ!

 

「榛名? Are you OK?」

 

「はい!お姉さま! 榛名はお姉さまの背中、いえ、お隣を死守します!」

 

「絶対デスヨ?沈んだらワタシも追っかけてビンタしに行きますからね?」

 

返事の代わりに、榛名は私に向かって大きく腕を使い、大きな丸を作ってみせた

 

…可愛い

 

 

「金剛も榛名も、相変わらず眩しい程ラブラブですね

そんなのでは提督が嫉妬してしまいますよ?

でも、少し羨ましいです」

 

「じゃあ浜風?雪風とラブラブする?」

 

「いえ…それは大丈夫」

 

「わかったわかった

じゃあ作戦開始の位置まで移動してくれ

座標はーーだ 途中ーー ーー ーーを中継してくれ

5航戦はもっと後方ーーに待機するはずだ

無線は◯◯ なおこれから先、作戦開始までは無線は封鎖する

作戦開始後は使って構わないが、くれぐれも救出部隊の存在は語るな

作戦開始はヒトマルマルマル

…健闘を祈る」

 

結局いくら待っても質問が飛んでこなかったので、待ちくたびれたらしい

私の旦那さまは浜風と雪風の会話を遮って、そう最終確認を伝達してきた

 

「健闘を祈る」

愛する人に祈られちゃったら、その期待に応えるしかないなぁ

成功の対価は頭ナデナデ…ワンワン…

うふぅ♪十分過ぎるよぉ♪

 

おっと、今はデレてないで引き締め引き締め

 

旗艦の私は周りの子全員を見回して顔を合わせ、確認をとる

見ると皆コクっと頷いてくれた

だから私達はせーので一斉に応える

 

 

「「了解!」」

 

 

 

 

5 4 3 2 1

 

発艦!

 

 

時計の長針が12を示し、10時ジャストをお知らせしてくれた

 

その瞬間

 

私、榛名、矢矧、能代のそれぞれのカタパルトから一斉に零式水上偵察機が飛び立った

火薬式のカタパルトから放たれた偵察機はそれぞれ、敵艦がいるであろうと予想される地点へと向かう

 

頼りにしてるよ

そんな願いがこもった4機は、次第に目では確認できない距離にまで行ってしまった

 

「大丈夫、ですよね?」

 

「この幸運の女神、雪風がいるからきっと大丈夫!」

 

浜風がポツリと漏らした不安に、その姉である雪風が軽く返す

雪風らしいといえば雪風らしく、浜風とは対照的にいつでも明るい雪風

そんな彼女らしい妹への励ましだと思う

言われた浜風は一言、「そう、だよね」と呟きうんうんと頷いて、今度は水上機が飛んで行った空を見上げた

 

 

 

それから数分

私の偵察機から有力な情報がもたらされた

 

(金剛さん!金剛さん!

敵発見だよ!空母ヲ級2隻 軽空母ヌ級4隻 駆逐艦イ級4隻 計10隻!

位置はねぇ ーー!

ワタシの存在も気付かれたよう!)

 

ーーかぁ

思ったより東側にいるわねぇ

…それはそれで仕方ない あれこれ考えるよりも私達も東側に移動しよう

 

(わかった!

じゃあ急いで帰還して!ただ、戻る場所はーー

こちらに来ないでそこで落ち合いましょ)

 

(はーい!)

 

軽い返事と共に、妖精さんは交信を終了させた

 

妖精さんが言うには空母2隻と軽空母4隻がいると

空母群が想定以上にいてちょっと面倒くさそうだけど、戦艦がいないだけマシと考えましょう

空母の方が飛行甲板さえ叩き潰せば、それはもうただのおもちゃの的でしかないからね

さて、早くこの情報を皆に伝えなきゃ!

 

「皆さーん!敵のlocationが分かったネー!

ーーデース!

敵は空母2 軽空母4 駆逐イ4

だからワタシ達ももう少し東のーーまで移動するヨ?」

 

「「了解!」」

 

まだ私達の行動を把握されてはいけないので、直接近くにいる子に無線を使わず、そう伝える

それが伝言ゲームのように後ろの時雨まで伝わるのを確認してから、私はそこに移動する前に、もう1つだけ

今度は雪風にのみ話かける

 

「雪風 今のことを5航戦の人達に伝えてきてくだサ~イ

その後は可能なら、こちらに戻ってくれると助かりマ~ス

できますか?」

 

「はい!分かりましたー!」

 

二つ返事で了承してくれた雪風は、面舵いっぱいで右に急旋回し、私達の後方に控えている5航戦の元へ全速力で進んでいった

 

そして私達も、仲間の水上機と敵の航空機を迎える為、移動を開始する

 

(両弦、前進、第五戦速!)

 

「第五戦速!」

 

「「了解!」」

 

擬装で働いている妖精さんも慌ただしくせこせこと働き始め、いよいよ始まっちゃうなぁ、とふつふつ実感が湧いてきた

輪形陣の形を保ったまま、各々が右に舵をとって東へと進む

 

段々と速度がのってきて、受ける風の抵抗も強くなる

30ノットで飛ばす艦が11隻、輪形陣が前後に2つ

空から見たらきっと美しい光景なのかもしれない

けれど、生憎今の私達は船の身

そんな光景を見ることは不可能だ

もっとも、擬装を外したら普通の女の子に変わりないから、飛行機かなにかに乗りさえすれば空も飛ぶことができるけれど

 

でも私の場合、それは提督との新婚旅行までお預けだ

 

…新婚旅行…ビーチで水の掛け合いっこ

てーとくー!人前でそんなに触っちゃ駄目よ~

 

 

 

ブォーンと音を起てたプロペラ機の編隊がいくつも私達の上空を飛んで行く

それは翔鶴と瑞鶴から発艦したもの

その飛んでいったもののほとんどが零戦52型

敵空母を攻撃するのではなく、敵艦上機をやる気満々のようだ

 

だからといって、翔鶴・瑞鶴には申し訳ないけれど、この戦力で敵航空機を全て叩けるはずはない

必ずやいくつか漏れだしてこちらに攻めてくるに違いない

それを迎え撃つ為にも、私達も手早く準備を進める

 

面舵で船体を相手から見て真横に位置付けし、4基8門の35.6cm砲を敵が来るであろう方面に向ける

そして左舷にある全ての砲の準備をとりあえず真っ先に整えた

 

「皆さーん!用意はいいデスカ?

敵はワタシ達の北ーーからやってきマ~ス」

 

そしてここでようやく無線封鎖解除

敢えて敵の位置を言うことで、これを聞いているはずの救出部隊にも敵の位置を伝達する、という役目を果たす

さらに深海棲艦が傍受していると仮定し、「ワタシ達の北」というワードをのせる

思慮する脳みそがなければ単純に私達が自分達の南側にいるだろう、と考えるはずだ

そうなればもう私達の勝ちは決まったも同然

目的の囮には成功したことになる

その後はただひたすら蹴散らすのみ

 

「榛名はいつでも大丈夫です!」

 

「能代も大丈夫でーす!」

 

「なに、この磯風に任せておけば何も問題ない」

 

私が聞くまでもなく皆準備万端のようだ

無線から流れてくる声は元気そのもの

距離が離れて顔は見ずらくなったけど、なんとなく皆の顔も声に比例してにこやかに見えた

 

さて、じゃあとくと暴れてみせましょう

 

 

 

(敵戦闘機、射程圏内侵入!35.6cm砲4基1番砲門発射!)

 

私が予想していたよりは遅く、50機近い敵機の編隊が現れた

どうやら推測よりも翔鶴らの戦闘機部隊が奮闘してくれたっぽい?

 

私と榛名はすぐさま戦艦の特性を生かし、三式弾を打ち上げる

 

(2番砲門発射! 続けて次弾装填! 左舷全砲門捕捉次第撃ち方始め!)

 

ドーン!ドーン!と轟音が辺りに響き渡り、刻々と時が進むにつれその音も段々と数が増す

私達戦艦に加え、能代・矢矧、軽巡による15cm連装砲

さらに駆逐艦達の12.7cm連装砲

合わせて11隻の艦が次々と装填、発射 装填、発射を繰り返すため、先程までシーンとして静かだった海上から、もう轟音が絶えることはない

音を消す方法はわずか2つ

相手を殲滅させるか、させられるかだ

 

「我金剛! 両弦 前進 第五戦速!

艦攻確認! 魚雷に気を付けてくだサーイ!」

 

「「了解!」」

 

敵機は主に私達戦艦と軽巡を狙って飛んでくる

その飛び回る様子はまるでストーカーのようで、追い払っても追い払っても付きまとう

 

ストーカーされるのは提督だけで十分よ

むしろストーカーされる為にストーカーするまでなんだから!

私のストーカー力を舐めないでいただきたい

ふふ~ん!私は食らいついたら離さないわっ!

だーい好きなんだから!

 

…だから、提督をストーカーする為にもいち早くこんな不毛な戦いを終わらせなければいけない

しかし、当然といえば当然だけれど、そう簡単に事が進捗するはずもなく…

 

「9時の方向から艦攻3機×4 続いて参ります!お姉さま!」

 

「我金剛!取舵いっぱい!

榛名!主砲1番基に通常弾、2番基に三式弾を装填してくだサーイ!」

 

「分かりました!」

 

次々と現れる敵機

戦闘機は私達戦艦に関してはさして問題にはならない

けれど、魚雷を積んだ艦攻となるとそうもいかず、魚雷に対してトラウマが残る私にとっても、装甲が戦艦よりも薄い駆逐艦にとっても決して侮れるものでもない

 

熱心に私に付きまとうストーカーさん

邪魔よ 早く消えてちょうだい

 

「我能代!両弦 後進 微速!」

 

私、金剛 榛名 浦風 浜風 磯風が艦攻に向かって舵を切るのに対して

能代 矢矧 朝霜 霞 初霜 時雨は後進することで魚雷を回避しようと考えたらしい

ただ、車は急には止まれない、と言うけれど、船はそれ以上に急には止まれない

 

「痛いじゃないか!」

「きゃっ!」

 

だから躱せない魚雷も当然あって、状態の良かった時雨と初霜が中破してしまった

 

(左舷副砲、駆逐艦達を狙う敵機を狙って!)

 

「榛名!砲門を3番目に来る真ん中のfighterの顔に合わせてくだサーイ!

せーのでFireするヨ?」

 

「はい!お姉さま!」

 

私達の艦隊は、どうやら私が1本当たっただけのようで皆無事な顔をしている

そう 私だけが当たった

 

…痛い

もし提督がそばにいたら、飛んで泣きついてよしよししてもらわないといけない痛さよ

でも提督じゃなく榛名が居るから、姉として弱音は吐かない

そんな姉、みっともないもの

 

痛みを腕を噛むことでなんとかこらえ、次の作戦のタイミングを窺う

 

今、榛名に指示した理由はこうだ

1 2番目の魚雷は躱した

でもまだ3 4番目の艦攻が残っている

だからこれの3番目の真ん中の敵機を照準に、私と榛名、両方から同時に砲撃を始め、砲弾同士をうまい具合に当てて強い衝撃を作り敵機を落とす、又は散らそうという試みだ

確率はあまり高くはないけれど、0じゃない

私達姉妹で何度か演習中成功させたこともある

ただ実戦で行うのは初めてで少し緊張するけれど

 

ベストなタイミングを見計らって…

 

「今よ! fireー!」

「撃ちます!」

 

榛名と合わせて35.6cm砲4基8門からドドーン!と弾が出る

目に見えない速さで飛んでいった弾は直ぐに爆音と共に消えた

そして目の前一帯に広がる黒い煙

これが何を意味するかというと

 

「お姉さま!成功しました!」

 

そう、成功したのだ

奇跡?いえ、実力よ 榛名のね

 

「榛名、さすがワタシの妹デ~ス

ワタシの弾に上手にcalculateしてshell(砲撃)してくれマシタ」

 

「いえいえ、榛名なんてただ撃ち上げただけです!

お姉さまのタイミングが完璧だったからこそ当たったんです!」

 

「No 榛名のsupportがなきゃダメでした」

 

「そんな!榛名なんて大したお役にもたてず…

 

「お取り込み中悪い

でも、こちらは何とかなったが、あちらは苦戦を強いられているようだぞ」

 

榛名と私、お互い恩を送り回していると、ポンっと磯風からの横やりが入ってきた

言われた通り、確かに私達に向かってくる魚雷を積んだ艦攻は消え失せたけれど、見れば能代達に向かっていく艦攻は今にも急降下して魚雷を投下しようとしている

 

「OK! こちらのfighterはとりあえず無視して、あちらの艦攻を狙ってくだサーイ!」

 

「「了解!」」

 

私の指示と同時に、「待ってました!」と言わんばかりの勢いで一斉に磯風、浜風、浦風から砲弾がとばされた

駆逐艦達の方がよほど私よりも周りを見ているわけだね

 

「我金剛!取舵いっぱい!」

 

「「了解!」」

 

(主砲全基三式弾を装填した後、水雷の手前に散らして!

左舷全砲門は矢矧達を支援し、艦攻を中心に!

逃げていくものは無視!

右舷全砲門は引き続きこちらの戦闘機を落として!)

 

私も駆逐艦に続いてすぐさま能代達の支援を開始した

私達を無視して通り過ぎて矢矧達に当てようとする艦攻に一斉に攻撃を仕掛ける

 

しかし、なかなか当たらない

どんなに撃っても艦攻を落とすことはできず、当たるのは何故か戦闘機ばかり

逆にわざと当たりにきてるんじゃ?と思う程で、2機も戦闘機だけ撃墜した

 

そんなものだから、艦攻から投下された魚雷が速度を落としている能代・矢矧に見事なまでに命中

艤装から煙と火を噴きはじめた

 

「Shit! 大切な仲間がっ!

能代・矢矧、傷が深いのでしたら離脱してくだサーイ!」

 

2人を見た感じ、状態はお世辞にも良好とは言えない

だから撃沈を避ける為にも離脱を勧めたのだけれど…

 

「いえ、私達はまだいけます!

ねっ?能代姉?」

 

「もちろんよ! だから心配しないでください、金剛さん!」

 

と、こんな風に断られた

 

出来ることならとっとと撤退させたい、これが本音だ

けれど、私と榛名が小破

駆逐艦達は小、中破状態と状況が芳しくないのも確か

軽巡が2隻も抜けるのは相当な痛手となる

今は艦攻も引き返して、戦闘機だけになったけど…

 

…どうする?

奇跡を信じて戦わせるか、嫌われる覚悟で怒鳴り散らし撤退させるか

 

…本当にこういう選択を迫られるから、旗艦なんかなりたくないっ!

って思うわ

提督に信用されるのは心の底から嬉しいけど、私はそんなに強い艦娘じゃない

妹が沈まされる程ではないにしろ、仲間が目の間で沈んでいくのは心が痛むし、初期の頃に仲間が沈んでいった光景は今でも心に強く焼き付いている

 

 

…やっぱり撤退しかないかな

 

 

そう考え始めたその時だった

ふと、遠くを眺めると、南の方面からいくつかの飛行機の群れが見えてきた

さらに、反対側の北の空からも、5航戦のと思われる編隊が近づいてきているではないか

 

そのまましばらく敵機と応戦しつつその編隊を待っていると、北から現れた20機ほどの零戦52型がなんと、私達の上空で敵機を掃除し始めた

戦闘機による空中戦が勃発

先程までムカつくぐらいこちらに機銃を撃ってきた戦闘機も私達に構ってはいられなくなったらしい

私達も慌てて砲撃を止め、25mm機銃だけで丁寧にお相手をする

 

そして南からの編隊は主に彗星 流星の艦爆機

それからそれを護衛する零戦によるもの

こちらは私達をスルーして北の空に向かっていったけれど、いよいよ敵空母を狙いに行ったということだ

 

「金剛さーん!お待たせしましたー!」

 

それに加え、雪風もようやく登場

少し遅い気はするけれど…

でも、雪風と戦闘機が加勢してくれることで、こちらの問題も解決するという訳だ

 

「能代、矢矧!2人は5航戦の元へ下がってくだサーイ!

ここはもう十分ネー!」

 

「でもまだ私達は…」

 

「でももなにもありまセーン!

あなた達はもう無理です!これ以上ここにいたら死にますヨ?!

もし自分達が沈んだ責任は取れマスカ?!

あなた達が惚れたcommander…司令官の悲しみはどうするノ?!

あなた達の代わりはこの世にはいまセーン!

そういう事を考えてから言ってくだサーイ!

それでも残ると言うのなら、ワタシはもう知らないネー」

 

ふぅ…提督と妹の為に死ねる、っていう信念を持ち合わせている私が言えた義理じゃないんだけど、ここまで言わないと彼女達を説得するのは無理ね

でも、我ながら凄くクサイ台詞だと思うわ

…はぁ、こういうの日本のことわざで確か、穴があったら入りたいっていうのよね

私の場合、ドーバー海峡があったら飛び込みたい、かしら?

やだ、それただの自殺♪

 

「…分かりました」

 

私の説得が功を奏し、なんとか思い留まってくれた能代と矢矧は、出せるだけの速度を出して南へと向かって行った

それを追い掛けるかのようにいくつかの敵機が進路を変えようとするも、ここにきて未だ1機も撃墜されていない精鋭の零戦によって華麗に阻止される

 

おぉ、想像以上に練努が高い

さすがは5航戦 先月まで組んでた1航戦にも劣らない実力だぁ

それと今は関係ないけど、私たぶん、加賀に嫌われてる

 

 

 

その後、燃料の関係で帰っていった零戦

この部隊のお陰で残った敵機も約10機のみとなり、しかもその10機も執拗に追いかけ回された為か、かなり低空を飛び北の空へと戻っていった

恐らく、もうあの10機も帰ることは出来ないだろう

 

しかし、こちらの状態も芳しくなく

私は小破 榛名が中破

駆逐艦の子達のほとんどが中破、または大破していた

でも雪風は無傷

 

もしこれで、敵第2波が飛んできたら、私達は間違いなく終わる

だからさっきの艦爆の攻撃が成功していることを願うしかない

それと、救出も

 

「金剛姉さん、どうする?」

 

「Hmm…すぐに戻らなきゃデース But!まだあれが…」

 

「それにしても、いくらなんでも遅すぎないか?

結構な時間は稼いだはずだぞ?」

 

磯風が言う通り、遅い 遅すぎる!

もう救助されていてもおかしくない時間よ

何をもたついているのかしら

 

…あぁ!もう!これ以上は無理!限界よ!

 

「てーとく!まだデスカ!こちらはもう無理ネー!」

 

この艦隊の状況でここに居たら壊滅する

堪えきれなくなった私はとうとう提督に無線を繋げた

 

「本当に申し訳ない!

ほぼ救助し終わったらしいんだが、どうしても生きているはずの1人が見つからなくて…

それを探しに横川が残ってるみたいなんだけど帰ってこないらしい」

 

えぇ…そんな状況…

…本当にその人生きているの?死んだから見つからないんじゃないの?

居るか居ないか分からない人の為に、私達が犠牲になってるの?

というか、横川って人、確か提督の大切なお友達よね?

…もうーーー!

 

「F○ckin' stupid!もう我慢できまセーン!

大破してる子がいるネー!

中破の子も皆、5航戦と一緒に離脱させマース!

そしてワタシがその1人を助けるネー!

だから救助部隊はとっとと下げてくだサーイ!

そうすれば彼女達のdutyも終わりですから!」

 

「気持ちはわかるが、レディとしてその言葉は使わない方が…

まぁ今そんなことどうでもいいな

ちょっと待ってろ 俺が責任をもって交渉してくる」

 

「…てーとくー!」

 

さすが私の提督!話が分かる人!

こういう融通が利く人がお偉いさんになればもっと良い世界が作れるのに

早く本当の提督になってくれないかなぁ~

呉でも、舞鶴でも、横須賀でも、私は提督が提督になる場所にならどこまででも付いていくわ!

 

「金剛も金剛で凄いけれど、司令官さんも金剛の司令官さんね

金剛が熱くなるのも分かった気がする」

 

「羨ましのぉ うちもぶち金剛姉さんの恋を応援するけん

頑張り~」

 

「ふふふ~ そんなこと言って、てーとくを奪うのはダメ!だからね~♪」

 

台湾から帰港中は私のこと「重い」とかなんとか言ってたような気がするけど、一気に印象が変わったわね

羨ましがられちゃった

これはつまり…理想のカップルってことかしら?!

そうよね!きっとそう!

そりゃこの世で1番カッコいい提督が旦那様なんだから、1番のカップルに決まってるわ!

でも単にカッコいいだけじゃなくてねぇ、とーっても親切なの!

先月なんか!後ろ歩いていたのに、私の為に素早く前に出て来てドアを開けてくれたり、出航前も………

 

 

「………金剛! 話がついた!」

 

「…ハッ! そ、そうですか てーとくのparentsと会うのデスネ?」

 

「そんな話してない

えっと、今から5航戦をそちらに向かわせる

合流したのち共に帰還してくれ

救助部隊も今撤退させた これで任務終了だ」

 

完全に自分の世界に入り込んでいたせいで、どれくらい経ったか分からないけれど、提督からのラブコールで現実の世界へと引き戻された

因みに、妄想の中では既に子供が2人いる…可愛い姉妹だ

 

「Yes,sir!

…って、あれ?まだ救助されてない人は?」

 

私がぼやけていたせいかもしれないけれど、今提督から聞いた話では、その人について何も語られていなかった

 

「あぁ…その人は諦める 上も死んでいると判断したようだ

これ以上被害を拡大しないためにもな」

 

「…」

 

いや、ぼやけていたからではなかった

提督が告げてきたのは残酷なお知らせ

 

確かに私もその人を助ける為に多数を犠牲にすることについては文句を言った

…でも、今の今までその人の救出時間を稼いできたのに、そんな簡単に諦めちゃうの?

その人だって、私のように好きな人だっているだろうに

家族がいるだろうに

まだ生きている可能性があるんでしょ?だったら…

 

「No!way! ワタシが行きマース!1人で行きマース!」

 

「いやお前、何を言ってるんだ?」

 

本当に何を言ってるんだろう

こんなの私の信念に反するのに

でも何故だか行かなきゃいけない気がするの

 

「皆は即帰しマース でもワタシはその人を助けに行くネー

Refusal(拒否)は許しまセーン 今のワタシは誰も止められないヨ?」

 

「…」

 

「「…」」

 

提督からの返事はない

周りの皆も何も言わない

あの雪風さえ黙ってシーンとしている

急に辺りは波・風の音しか聞こえなくなった

 

「…分かった ただし、30分だ それ以上の捜索は認めない

俺はお前を失いたくないから

その代わり、生きて帰ってきたら何でもしてやる」

 

そんな自然が支配する場に、1分程して提督から返事がきた

その内容は、普段の私であれば嬉しすぎて気持ち悪くなるような台詞だったはず

しかし、今回に限っては冷静に重く受け止めた

 

「任せてくだサーイ!ワタシはあなたのwifeデスヨ?」

 

「そうだったな」

 

「Yeah! それでは、またあとでね~」

 

「あぁ」

 

提督の許可も取れたので、私は1人面舵で進路を変え救出へと向かおうとした

でも、その前に

 

「皆さーん!今から旗艦は榛名になりマ~ス

榛名のcommandをしっかり聞いてくださいネ?」

 

「お姉さま! …榛名もご一緒することは出来ないのでしょうか?」

 

「この艦隊から榛名までいなくなったら誰がまとめるノ?

ワタシは榛名を信じているから、浦風達を任せるのデ~ス

できますよね?」

 

しばししどろもどろしていた榛名

けれど覚悟を決めたのだろう

コクっとわずかに頷いて旗艦を引き継ぐことを受け入れてくれた

 

さっすが我が妹!

分かる子に育ってくれてお姉ちゃん嬉しいわ!

 

「Don't worry すぐに戻るわ」

 

(対空・水上電探共に感度良好

左舷 使用可能15.2cm砲3基 12.7cm砲2基 25mm連装6基

右舷 15.2cm砲1基 12.7cm砲2基 25mm連装4基

主砲4番基応急修理中)

 

(分かった 思ったよりやられてるわね 主砲は引き続き修理を頼むわ

両弦 前進 最大戦速

目的地硫黄島 無線接続、無効化)

 

「Good bye」

 

最後にそう小さく口にして、進み始めた

無線は切ってしまったため今の言葉も伝わらなかったに違いない

けれど、後ろからガヤガヤと複数の声が耳に入ってきたので、私はカッコをつけて後ろを振り向くことはしなかった

例えそれが妹の声だと分かっていても

 

 

 

 

目的地、硫黄島には数十分で着いた

道中潜水艦に遭遇することもなく、無事着岸施設であっただろう場所に着岸

艤装を消して上陸を果たす

過去何度かこの島に寄港したことがあったけれど、もう今のこの島にはその過去の面影はない

 

上陸してしばらく歩き、硫黄島の基地に到着

そこでまず目の前に入ってきた光景は廃墟

というよりも辺り一面に広がる瓦礫の山

建物といえるものが僅かしか残っていない

所々火が燃え上がっていて、捜索が難航したのもここに来て理由がようやく分かった

 

…これは厳しいわね

想像以上の悲惨さだわ 私の名前がつけられた岩もあって好きだったんだけどなぁ

復興するにも相当な時間がかかりそうね

 

さて、どうしよう

どこから手をつければいいのかしら

とりあえず、まだ建物が残っている箇所からかな?

 

そんなわけで、私はとりあえず1番近くにある建物の中へと入っていった

当然人っこ1人おらず中も薄暗い

胸の内ポケットからペンライトを取り出して照らすことで、なんとか視界を確保する

崩壊するかもしれない危険性もあるけれど、そんなことは気にも止めないで、机の下や機械の裏などあらゆる所を探し回る

 

「…っ!」「…ひぃ!」「てーと…?」

 

探している際

何かが落ちる音や自分で物を踏む音でびっくりすることが多々あったが、それ以外特段何かあることもなく

結局残っている建物もあと1棟になってしまった

時間も残り僅かで、ここにいなければもう可能性は低い

 

提督に楯突いてここに来たからには絶対に見つけだしたい!

でも、微妙になってきたなぁ…

このまま成果無しに帰ったら提督に嫌われちゃうかなぁ…

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

「っうにゃっ?!」

 

もう諦めかけていたそんな時だった

後ろから突然、声をかけられた

まさか私が残っているはずの人に声をかけられるなんて予想だにせず、自分でもどこから発声したのか分からない悲鳴が漏れた

 

「あ、いきなり悪い」

 

声をかけてきた人は提督より若い男の人

見た目は提督ほどではないにしても、そこそこな顔をしている

念のためもう一度言う 提督ほどではない

 

「いえ、大丈夫デース …あなたが残された人デスカ?」

 

「いや違う 俺はその人を探す為に残っている

そう考えると残された人で間違いはないけどな」

 

「…Really?」

 

え?確か救出部隊は引き上げたはずじゃ?

なんでこの人はまだ残ってるの?

 

「こんなところで嘘ついてどうするんだよ 本当だ

そうそう、俺は救出部隊の横川 君は?見たところ上田さんの所の艦娘っぽいが」

 

「YES!その通りネ~ ワタシはてーとく所有の金剛デ~ス!

てーとくの良いおもちゃだよ?

っと、そんなことより!

何故撤退してないノ?そう言われたはずデスガ」

 

「ん?そりゃ確かに生きているからな、その人

信号も入って、声も生で聞こえたし

その人をおいて行くわけにはいかないだろ」

 

言ってその横川さんと名乗る人は、まっすぐある瓦礫の山を指さした

どうやら検討はついているらしい

それなら話は早い

 

「じゃあ早く行きましょ」

 

「いや、今は無理だ」

 

「Why not? 早くしないと死んでしまいますヨ?」

 

「あぁ、俺もそうしたいのは山々なんだが…

ほら、あれを見ろ」

 

その人は続けて別の方向を指さす

それに従いその方向を注意深く見てみると、そこには信じられない光景があった

陸にはいないはずの、いや、私達が陸に上がれるのだからおかしいことではないけれど

でも今まで見たことがなかった光景

 

 

「…深海棲艦?!何故ここに?!」

 

 

 

堂々と佇む深海棲艦、空母ヲ級が1隻

そこにはいた

 

 

 

「正確な理由は分からない でもちょうど俺があの人の居場所を突き止めた時には既にいた

恐らく、あの人が発した救出を願う信号に引き寄せられたんじゃないかと推測はしているけど、定かじゃない

何分待っても動かないし、途方に暮れていたんだよ」

 

 

さっきまで私達が戦っていたやつ?

やけに傷付いているからそうかもしれないけど

 

なんにしても状況は最悪という感じね

時間が経てば経つ程、救助を待っている人は弱まっていくだろうし

でもヲ級は動かないらしい

陸上であのクソビッチがどれ程の力を発揮できるか分からないけど、私の第6感が警報を鳴らしているのは分かる

あいつは危険だ

素では勝てない、と

 

 

「Okey横川さん circumstance(状況)は分かったネ~

それで、何かplanはあるんデスカ?」

 

「あるといえばある ただ成功するかどうかは分からないけど

やつらは人工の兵器は効かない

だったらそれを逆手にとって、自然のものだったら効くかもしれないと考えた

だからさっきまでサソリやらアリやらを探して、その毒をこのナイフに塗りたくってきた

これを刺してやつの息の根を止めたいところだけど…」

 

「O,oh…凄い、わ」

 

や、ヤバイよ この人!

提督のお友達の中にこんないかれた人がいるだなんて…

提督を説得して別れさせた方がいいかしら…?

 

「でだ 今からやつを引き付けてこれを刺してくるから、君は隠れて見ていて

もし失敗したら逃げてくれて構わないし、可能なら彼女を救出してやってほしい」

 

「彼女? その人はあなたのgirl friendデスカ?」

 

「ん?違うよ 会ったことも、勿論話したこともない

もっと言うなら顔も分からない」

 

何故か得意気に語る提督のお友達

 

そんな見ず知らずの人の為に命をかけようとしているの?、この人は

信じられない

やっぱりおかしい、この人

いや、でも今ここに来ている時点で私も十分おかしいか

 

 

「じゃ、会えたらまた後で」

 

私の返事も聞かず、横川さんはすたすたと建物の壁を伝いながら歩き始めてしまった

当然、1人残される私

 

このまま何もせずにあの人に任せるのもなんか釈然としない

でも、私が今どうこう出来ることもないし…

 

「No ワタシも一緒に行くしかないヨ」

 

けれど考えつめた結果、自分も初対面のあの人のことを信じてついていくことにした

慌てて私も横川さんを追い、壁を伝う

ゆっくり進む横川さんに対して、その背中にはすぐに追い付くことができた

 

「いや、なにしてるの?」

 

「んー?ワタシも一緒に行くネ~」

 

「なんでだよ 失敗するかもしれないんだぞ?

そうなったらもう駄目になるだろ」

 

そう言って横川さんはこれ以上行かせないと、シッシッと私のことを追いやろうとする

 

「ワタシはあなたを信じマ~ス 大丈夫ヨ~

きっとsuccessしマ~ス」

 

でもそんなことでは動じず、微笑みながら私はそう言い返した

そんな私に横川さんは一度わざとらしくため息を漏らし、続けて一言「分かった」とだけ言って、私の同行が許可されることになった

 

「死んでも知らないからな」

 

「I will never die as far as my darling lives(提督がいるから、私は絶対に死なないわ)」

 

「…どうやら噂どおりの艦娘のようだな

じゃあ行こうか」

 

提督のお友達は再び歩き出した

そして建物の角まで来ると手をグーにしてお互い決して音を立てず止まる

一度振り向き、しーっと口に指を当てるジェスチャーをすると指を左方向にツンツンとして、すぐそこに目標がいることを教えてくれた

 

 

いよいよ作戦開始だ

さっきは偉そうに「成功する」なんて言っちゃったけれど、正直完全に不安を拭いきることはできない

自然と心臓がバクバクするのをなんとか止めようと服の上から胸を押さえたが、大した成果も得られず

 

横川さんが足下にあった石を複数個右手で広い上げ、それを持ちながら左手のグーをパーにした

それが1本づつ折れていく

 

 

5 4 3 2 1

 

 

 

カタッカタタタタタ

 

 

 

小指が折れるのと同時に石が投下された

空いた横川さんの右手は、今度はナイフへと向かう

 

たぶんこの人はヲ級を待ち伏せし、角から現れた瞬間をやるつもりなのだろう

でも、もし仮に少しでも大回りされてしまったらこの作戦は失敗する

その時は私が艤装を展開して助けてあげればいい

陸なんかで主砲を撃ったら私は衝撃で死ぬことは間違いないだろうけれど、提督のお友達が助かるのなら提督は喜ぶに違いない

 

…おぉ!それなら私の信念に基づくことになるじゃん!

 

 

そして待つこと数十秒

いや、体感的には数十分にも感じられた今日1番の緊張の時間

 

 

 

クソビッチは現れた

 

横川さんの狙い通りに

 

 

 

視界に捉えたその瞬間

何の迷いもなく横川さんはヲ級にナイフを突き刺した

お見事なまでに傷口を狙って

 

 

 

「ヲ゛ッ?! バァーーー!」

 

 

 

人工物は通用しない

だから横川さんはよくヲ級を観察して、覚えた傷口の箇所を狙ったのだろう

5航戦の戦闘機がさっきの戦闘でつけただろう傷口に

 

刺されたヲ級はまるで人間であるかのように悶え始めた

その様子を確認した後、横川さんと私はすぐさま走って来た道を引き返す

 

「やりました!」

 

「おう!そうだな!やったな…っておう?!」

 

お互い成功の喜びに浸りながら走っていると、突然横川さんから奇声が上げられた

何かと思い振り向くと、横川さんのうしろ

つまりヲ級から、まさに尋常ではない光が発せられようとしていた

 

 

「Shit!」

 

 

とっさの判断で後ろの横川さんの袖を目一杯引っ張り転ばせ、その上から自分の身体を被せた

 

それと同時に聞こえた爆発音、続く爆風

それにコンクリートの壁が耐えられるはずもなく、壁際にいた私達に見事に吹き飛んでくる

 

 

「「あ゛ぁーーー!」」

 

 

今度の悲鳴は私達の番だった

コンクリートの塊が爆風と共に私の身体の隅々に当たる

それでも人間の横川さんを守ろうと服を掴み、被さった状態をなんとか保つ

体験したことがない激痛を、提督の顔や妹達の顔を走馬灯のように思い浮かべながらなんとか耐え忍んだ

 

…てーとく 比叡 榛名 霧島 私頑張ってるよ

どう?凄いでしょ? 私、戦艦なんだからっ

だから…だから帰ったらいっぱい、いい子いい子してね

それぐらいのご褒美が無いと…泣きそう…

 

 

衝撃が消えるまで、そう長くはなかった

 

風が止み、顔を上げて辺りを見渡すと、さっきまで隣にあった建物は無惨な形になっていた

私達が先ほどまで会議していた場所には新たにその建物の瓦礫でできあがった山が建ち、もしあと少し早く走っていたら、流石の私も死んでいたに違いない

服はボロボロで身体も傷だらけになってしまい、とてもじゃないけど提督に見せられるような格好じゃなくなってはしまった

でも、命があるだけ不幸中の幸いったやつだ

 

 

よいしょ、で立ち上がり涙を擦って、ほとんど意味なんか無いけれど、パンパンと提督から貰った服の埃を払い落とす

 

 

「横川さん?大丈夫デスカ?」

 

さて、肝心の提督のお友達、横川さんだけれど、私が退いたのに一向に立ち上がろうとしない

目は見開いているし顔も動いているのに、どうしたのかと疑問に思い、尋ねると…

 

 

「ヤバイ…両足逝った 骨折した」

 

 

だそうだ

 

 

それもそのはず、私が守ったのは上半身のみ

わりと生きているのが不思議なぐらいの衝撃だったので、足が骨折しているぐらいの負傷はごく当たり前

むしろ骨折で済んだことに感謝しないといけないレベルだ

 

「ふふ しょうがないですね~

掴めマスカ?」

 

だから、再び私は腰を下ろして横川さんに背中を向けた

そう、理由は単純 おんぶをする為

 

普段は絶対に提督以外の男の人に身体を触らせないよう努めている

けれど、今日は色々とイレギュラーな事が続いているせいもあってか、気の迷いというものが発動していたのかもしれない

 

でもこれは特例よ、特例

今後も提督以外の男の人に私の身体を触らせることなんてないわ

提督だったら時間と場所を弁えてさえくれればどこでも触っていいけど!

いや、むしろ触ってほしい!

 

「ん、何から何まで悪いな…」

 

「大丈夫ヨ 早く行きましょ

それよりもあなたはどうして知らない人を助けるノ?」

 

横川さんが肩を掴んだことを確認し、無傷の足の付け根を支えて不恰好なおんぶをした

さらにここにきて、この人に会った時から疑問に思っていたことをぶつけてみる

 

「そんなの、同じ仲間だからに決まってるじゃん

それにほら、君だって見ず知らずの俺をこうして助けてる訳だし」

 

…いやそうだけど、私の場合少し違うと言いますか

…確かに言われてみればそうなんだけど

うーん…

 

結局その疑問はさらに深い疑問になっただけで解決することなく終わり、歩き続けること1、2分

敵がいなくなったことで当初の目的、救出を求めている人が埋まっているという瓦礫の山までやってきた

そして一度横川さんを下ろし、瓦礫をどかし始める

重いパネルやらなんやらをどかすと、わりとすぐにその人の姿が見えたのだけれど、その人物の容姿に思わず手が止まる

 

 

綺麗なお人形さんみたいな顔

日本では大和撫子って言うんだっけ?

そんな美しい人が、瓦礫の中から海軍の制服を着て現れたのだ

 

 

「大丈夫デスカ!しっかりしてくだサーイ!」

 

思わず見とれるもすぐに我に返り、声を投げ掛ける

ついで生きているかどうか脈に指を当てると、脈はしっかりと打っていた

生きていると分かり、さらに声を何度もかけて身体も強く揺さぶる

 

「…ん…ん?………ここは…私は…?」

 

「ワタシは金剛デース!あなたを助けに来たネー!

あなたの名前は?」

 

「…私?…私は…黒姫、です………」

 

彼女は一度意識を取り戻して応答するも、再び瞼を閉じてしまった

これは一刻を争う事態のようだ

 

 

(無線、有効化!)

 

 

敢えて切っていた無線を繋ぎ直し、提督に硫黄島の現状報告と救助ヘリの要請

さらにこれから帰る旨を知らせて切った

 

本当はもっと沢山お話したい

でも私もそこまでばかじゃない

黒姫さんと名乗る女性の命を救うため、その後も教わった応急措置を施し続ける

それは結局ヘリが来るまで行った

その後、海軍の人達が黒姫さんと横川さんを連れて飛び立ったことで私はようやく解放

晴れて自由の身になれた

 

 

なぜ一緒にヘリに乗らなかったかって?

そんなの当たり前じゃない

提督を心配させたくないもの

ヘリに乗せられるほど重症なのか?!ってね

 

 

 

ようやく全ての任務を終え、途中でわざわざ迎えに来てくれた駆逐艦の子達と共に横須賀に入港

桟橋に近づくにつれ、提督や妹達、それに提督や提督がわざわざ出迎えてくれている姿が見えた

それだけで疲れが一気にぶっ飛び、全速力で突っ込みたくなるのをなんとか抑え込む

そして陸に上がる為に桟橋につき、ぽんっと足を着けるやいなや

 

「Burning Love!」

 

今度こそ全力で提督の元まで疾走し、飛び付いた

服や肌のボロボロさは結局気にもとめずに

 

「うおっ! 仮にも戦艦なんだからもっと力加減をだなぁ…」

 

「お姉さま!本当に心配でカレーも喉を通りませんでした!」

 

「お姉さま 入渠の必要は…今は大丈夫そうですね」

 

比叡と霧島、2人の顔を提督に抱きつきながら眺め、「やったよ~!」とVサインを送る

さらに「あとでいっぱいお話ししましょ」と言うと、妹達はコクっと頷いて一歩引いてくれた

こういう気の利くところ、本当に自慢の妹達だ

 

さてさて、じゃあこれからは…

 

 

「てーとく!てーとくー!ナデナデは?!ナデナデは?!」

 

「分かった!分かったから!とりあえず離せ!

『時と場を弁えろ』って言ったのお前だろ!

あとおいこら、柏崎!写真を撮るな!」

 

「いや、だって上田さん、これから提督に昇進したら偉くなるじゃないですか?

その時この写真を脅しにお金でも巻き上げられるかなぁと思いまして」

 

キャー!写真に撮られてる!

あとで貰いにいかないと!

 

周りの人達のことはほとんど、いや全くと言っていいほど気にも留めず、欲望のままに提督を抱き締める

提督は照れ屋さんなのか一所懸命剥がそうとするけれど、艦娘の力を舐めてもらっては困る

剥がそうとする提督に逆らって、私は頬を擦り付けてマーキングしてやった

 

「1ヶ月振りのてーとくの温もりを感じマ~ス

ふふ~てーとくのloveでいっぱいネ~

Oh!そういえばてーとく、『なんでもしてやる』って言ってマシタ!」

 

「あ?そんなこと言った…「言いマシタ!絶対に言ったヨ!

ワタシずっと考えてたんだから!」

 

「そうなの…で、何?決まった?リプトン1年分かな?

そうそう、俺の願いは早く離れてほしい、なんだけど」

 

「そんなpoorな願いじゃありまセーン!」

 

リプトン1年分って

そんなふざけたことでこんな重要な機会を逃すはずないでしょ

 

提督と一緒に寝る、とか

提督と英国に行く、とか

提督と結婚式を今月中に執り行う、とか

色々したいこと、悩んだけど…

 

「てーとくが提督になった時、ワタシを絶対に秘書艦というものにしてくだサ~イ

呉でも、舞鶴でも、ここでも、ワタシはてーとくの側にずっーといたいのヨ

Will you promise me?(約束してくれる?)」

 

やっぱりこれしかない

 

どれもその場その場のしのぎでしかないような気がして、将来性があまりないように感じる

だけどこの約束ならもう提督とずっと一緒にいられることは確定できるはず

航海中、そう結論付けた私はこのお願い事にする、と決めていた

 

「…あぁ、もし成れたらね

…それよりも、大丈夫か?そんなボロボロで

痛かったな、辛かったよな?

ごめんな、こんな辛い目に合わせて」

 

「…てーとくー!もう絶対絶対ぜーったい離さないわ!

I do! do! do! love you!」

 

ここにきて何故か急に心配してくれる提督

 

今の今まで私を剥がそうと必死だったのに、いきなり態度を一変させて頭を撫でてくるなんてっ

…このツンデレさんめっ!もう本当に大好き!

提督とずっとずっと一緒にいられる約束も取り付けたし!

…うぅやばい、嬉しすぎて泣きそう

 

提督が約束してくれて、さらに別の約束の頭を撫でられる、も果たされ、私はふっと泣きそうになるのを隠す為、顔を胸に強く押し付けて抱きつく

その間ひたすら提督は、その大きな手で頭を撫でてくれた

 

「…今だけ特別に、もっと甘えてもいいんだぞ?」

 

言われるがまま、結局安心して泣いてしまうのを強制停止させることもできず、小さく胸の中で涙を流してしまった

 

 

その間約10分ほど

 

 

 

「恥ずかしいネー…」

 

「俺はこんな珍しい金剛も見られてよかったけどな」

 

ようやく落ち着きを取り戻し、涙も抑えられたので抱きつく力を弱めた

 

このところ戦闘が続いて嫌なことも多々あったけど、こうして帰ったら提督も妹達も居て、その顔が見られるだけですぐに心が休まる

今後もこの笑顔が守れればいいなぁ

と、今更テレる提督の顔を、今度はニヤニヤと観察しながら心の中で深く思った

 

 

 

「以上デ~ス」

 

「いや、そんな軽く言われても反応に困る

貴女の闇とか信念とか、知りたくなかったところまで語りやがって」

 

横川さんとの出合いを聞いただけなのに、まさかの別のストーリーも混じっている、言われた通りの長編物語だった

しかものろけ満載

積載量考えてほしいわっ

 

 

…でも少し残酷、よね

この約束がなければ、もしかしたら死ぬこともなかったかもしれないのに…

未来を知っている分、つらい

でも彼女はそんなことは思っていないのかケロっとしてるし、気にしてない、の?

 

「良い思い出デ~ス 思い出せて良かったヨ」

 

「それはなにより 私は聞かなきゃよかったって思ってるけど」

 

満足そうにそう言う金剛に私は敢えて不満を返す

でもニコニコしてなんだか楽しそうな彼女に、本気で恨むことはできなかった

 

そんなこんなしているうちに、頭の上の方からジリジリと不快な音が聞こえてきた

 

「Oh!もうこんな時間デスカ!」

 

「誰のせいよ… でも楽しかった

1週間後も楽しみにしてるわ」

 

「そーねー それじゃあsee you!」

 

金剛に手を振られ、目を閉じる

本日の活動時間になったようだ

 

はぁ…憂鬱な朝を迎えるかぁ…

それとうちの提督とこれから会うわけだけれど、結局弱みなんか握れなかったし、いつも通りイジメられるだけの日になるんだろうなぁ

 

…それも決して嫌ってほどでもないんだけどさっ

でもいつか絶対に、立場を逆転させてやるんだから!

尻に敷いてやる!

 

 

 




この頃の金剛の胸内ポケットには、懐中時計とペンライト、提督の写真が入っている
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