ブラック★ロックシューター・THE・WAR 作:イビルジョーカー
人間の少年と怪物の少女の旅というものは、色々と波乱万丈で、しかし同時に華々しいもの
でもあった。そんな日々を続けて3年。いつしか怪物の少女は命を奪うという行為に抵抗を
感じるようになり、少年に恋慕を抱くようになりました。少年も、段々と変わっていく彼女
を嬉しく思い、少女と同じ思いを抱くようになっていきました。
ただ一緒に過ごす、その全てが二人にとっての日常となり始めた頃。二人の前に二つの異形
が現れました。彼等は怪物の少女と同じ世界からやって来た……怪物の少女の同族でした。
東の大都市区画の中央エリアに位置する『東大都市区画防衛本部』。その広大な一室にて、
クロワの精鋭と統率者による重要な会議が開かれていた。
「みんな、集まってくれてありがとう。今回の議題は厳重に保管されていたゴールドソーの
第三の眼と右腕がハクトによって奪取されてしまった事。そして今、私達が対処しなければ
ならない問題について。以上をもってみんなの案や意見を聞きたいと思ってる」
円卓を取り囲むように座する12人によるクロワの精鋭たち。一騎当千の実力を誇る彼等が
この場に招聘された以上、事は非常に拙い局面を迎えているということに他ならない。
「ホワイトがゴールドソーの『第三の眼』と『右腕』を手にして、次に必要になるのが『左
腕』になる。それは『装置』の最後の鍵になるもの……だから、それがあると『予想されて
いる場所』へと向かう可能性が高いわ」
「問題はその『予想されている場所』が、かの名高き『エーテルス・ヴァトリシア』である
と言うことだな」
ブラックの言葉にストレングスがそう話を繋げる。
『エーテルス・ヴァトリシア』は、東西南北四つに分かれた大都市区画とは別にあるもう一
つの大都市区画の呼び名である。その総面積は東京都の半分しかない四つの大都市区画とは
違い、東京都の二倍を誇る広大さを有している。そして古くからハクトとクロワの戦いに介
入することはなく、その存在意義は『新たなるハートレスの誕生と育成』にあり、両派閥の
戦争とはまったく縁のない世界が構築されていると言っても過言ではない。
「うん。でも私達が深刻な事態として受け止めるべきは、第三の眼と右腕が奪われたことで
この東と北の大都市区画のエネルギー不足が徐々に始まっていると言う事。今まではその両
方をエネルギー精製機関として利用していたことで、都市全体を機能させていた。けどそれ
が奪われた以上、都市の完全的機能停止は避けられない」
「それならまだ良い方で候。だが、我々はそのエネルギーをクリーンな食糧として来た面も
ある。都市機能の停止だけでなく我々一同餓死の共倒れ……なんてことも有り得る」
少し冗談めかしてスライザーはそう言うものの、その声音には今後先の未来に対する不安が
僅かながらに滲み出ていた。ハートレスはれっきとした生命体であり、一個の生命を維持す
るにはそれなりのエネルギーが必要となる。
かつてゴールドソーが四つ全ての大都市区画を統治していた時代では、食糧は全て彼女自身
のコアが放出する強大なラックワイトエナジスを材料に精製・増幅するシステム装置を使用
していたことで、その栄華を誇っていた。
そしてゴールドソーの亡き後、ブラック★ロックシューターが先代の遺言に従い彼女の『右
腕』とその額に隠された『第三の眼』を切除し、システム装置のエンジンとして流用。それ
により食糧は勿論、兵器や武器の開発など様々な用途に使えるクリーンエネルギーをクロワ
の領域である東と北の大都市区画中に滞りなく分配することが可能となった。
しかし、そのエンジンが敵の手に奪われた。
ゴールドソーの『右腕』と『第三の眼』は、エネルギー装置のエンジンとしてだけではなく
、とある特殊な装置の鍵としての用途を持っていたのだ。
それがハクトに眼と腕を奪取させる理由を生んでしまい、結果がこれだ。
守り切ること叶わず無残な敗北の二文字を飾ってしまった。
「温存されたクリーンエネルギーは5778年分ほど大量に備蓄されています。ですが限り
がありますし、それを兵器の開発や武器の生産にも充てるとなると……」
「もつ物も持たなくなる、か」
デッドマスターからの情報にストレングスが呟き、この場の皆が同じ考えを心中に浮かばせ
る。有限でない限り必ずエネルギーは底を尽き、無くなれば飢え死ぬだけ。文字通り壊滅は
時間の問題だ。
「………ねぇ、一ついいかな? ハクトは……ホワイト☆ロックシューターの奴は何でアレ
を盗んでいったの? なんかアレは鍵だどうとか言ってたけど……」
恐る恐ると言った様子でチェリオットが手を上げながら質問する。一部の精鋭らは余計な事
を言うな、という厳しい視線を彼女に送るがブラックはそんな彼等を目で諌めチャリオット
の質問に何処か重々しく答えた。
「チャリオットの言う通り、ゴールドソーの『第三の眼』と『右腕』は三つある鍵の二つ。
『次元転移渡航装置』……通称『ワールドヴィレッジ』のね」
彼女の言葉に精鋭たちが騒然と驚愕の声を上げた。無理もない、『そんなものはもはや無い
』と思っていたからだ。平和主義者の先人たち自らが『術式』や『機械装置』として生み出
し、最後には何者かに悪用されぬよう、そしてこれ以上の悲劇を作らせないようにと闇に葬
ったのだ。
だが、葬った筈の過去の遺物が何故有るのか。そしてそれを起動させる為の鍵が何故ゴール
ドソーの部位の二つなのか。あまりにも疑問が尽きない。
「私の母ゴールドソーは、このクシロロとは違う次元空間に存在する地球という場所に赴く
つもりでいたの。人間であった父と自分がそうであったように『人類とハートレスの共存共
栄に基づく世界』……そんな理想実現の為にね」
ブラック★ロックシューターこと、ステラは完全なハートレスではない。その半分は人間で
あり、つまりハートレスの母であるゴールドソーと人間であった父『ギブソン』の間に生ま
れた双子の姉。
そして、その妹は今やハクトを率いてクシロロを統一支配し、地球に存在する人類と言う種
を根絶しようと目論む白き少女ことホワイト☆ロックシューター。
二人は双子で、ゴールドソーはその双子の母親だったのだ。無論そのことについて驚く者は
誰一人としていない。クロワ内では精鋭のみならず、一般戦士でも知っていることだからだ
。
「ゴールドソーは万が一の事を考えて、あくまでも修復可能な範囲内でワールドヴィレッジ
を壊した。直せる技術を有するのはゴールドソー以外にいなかったから」
「でも、ホワイトの言葉から察するにそれを完全に修復したみたいですね」
「うん。デッドマスターの言う通り。ハクトが既に何らかの手段をもってして装置の修復を
万全なものにしたとしたら……未曾有の脅威が人類を襲い蹂躙してしまう」
「ちょっと待って下さい。ようは奴等、違う世界に行くってことですよね?」
ふと、声が上がった。
声を上げたのは白く長い髪をポニーテールに束ね、黒と紫のラインが入った白衣とその下に
黒のノースリーブインナーに短パンを履いた格好の少女だった。
彼女の名は『ジャクネス=ハック』。
精鋭の中では戦闘のみならず、様々なアーマメント術式の系統においての権威を誇り、その
思考の使い方と発想にはブラックを含むクロワの仲間達が何度も助けてられている。そんな
彼女が何を言うというのか。ブラックは少し興味を持って聞き耳を立てた。
「うん。そうだけど?」
「そして今、我々のエネルギー不足問題という観点から考えてワールドヴィレッジを奪取す
ると言うのはどうでしょう。異世界なら我々のエネルギー問題を解決する物が見つかるかも
しれませんよ?」
「なっ!」
「ふざけるな。そんなもの、どうやって奪い取る気だ? 一体何処にあるのか、その所在地
の情報さえ掴めてないのに……そんなこと夢のまた夢というものだぞ」
デッドマスターを含む諸々の精鋭陣が二度目の驚愕の声を再び上げ、同時にストレングスが
その考えを夢想などと言って切り捨てたが当然だ。無理夢想と断言するのも分かる。
情報も無しに目的の装置を奪取するというのは、絶対に不可能だ。
戦いにおいて必要なのは敵側の正確な情報。それを把握し戦略戦術・策などを用いて始めて
戦うことができる。故に情報のない戦いなど、もはや決定的な負け戦も同義だ。
「うん! そうしよう!」
しかし何と言うことか。ブラックはこともあろうに『良し』と言う判決を下してしまったの
だ。これには流石の精鋭たちも動揺し、またストレングスも同じだった。
「ばっ、バカかお前は! いいかよく考えろ! こっちは情報も無ければ策も何も無し!!
そんなナイナイ尽くしの状況で一体何が出来ると言うんだ?!」
本当に感情が薄いのだろうか。そう思わせるほどに明らかな激情を言葉に乗せて放つストレ
ングスに、とうのブラックは何処行く風と言わんばかりの飄々と、そして堂々とした態度で
対応する。
「情報が無いなら集める。戦略・戦術・戦法が無いなら頭をフルに使って練り出す。どうと
言うことなんてない当たり前なことだよ? ストレングス」
「うぐっ……」
「それに、ハックが何も考えずにそんなことを言うわけない。話は最後まで聞かないと」
まさに正論で、当然で、非常に当たり前なことを言い伏せられて、渋々ストレングスは黙る
他なかった。ハックの考えは実に単純なものだったが、非常に的を得ていた。別世界へ渡る
のであれば、当然それだけ大量のエネルギーが必要になる。その大量のエネルギーを賄う物
こそゴールドソーの三つの部位である『右腕』、『第三の眼』、そして『左腕』。
装置を起動させる為の鍵にして、無尽蔵のエネルギーを生み出す動力源であればこそ、その
発生したエネルギーはある種の強大な力場となり、周囲一帯を崩壊させかねない。そこで必
要となるのが『地盤』だ。
強固な地盤でエネルギーの力場を一定水準で安定させる必要が有るが、そのような場所はこ
のクシロロ世界において二つか一つと限られている。加えて『万が一事故が発生しても本元
である大都市区画の西と南に何ら影響を及ぼさない』というのも立地条件に入る。
地盤が固く、万が一の事態が起きたとしても本元に影響が出ない理想の場所……そんな所は
ブラックの中で一つしか思い浮かばない。
「『カスタロット・インフィス』。そこしか考えられない」
白黒マス目の大地が永遠と続くクシロロの地表は、何もそれだけと言うことはない。刺々し
い鋼鉄に似た物質で出来た木々が群生していることもあれば、紙の様な物質で形成された岩
が星の数ほど所々あったりと。
このクシロロ世界は、人間の常識観点では色々と理解できない不思議がオンパレードに存在
している。
『カスタロット・インフィス』もその一つだ。
そこは一つの場所であり、同時に『深遠の闇』と恐れられている。クシロロの大地にぽっか
りとその口を開き、縦幅が77km。横幅250kmと言う大規模を有する。冗談にも程が
あると言わんばかりの大きさだが、これ以上のものはそれが何であれ、確実にこのクシロロ
に存在している。
こんなものは所詮、序の口に過ぎないのだ。
「何をモタモタしている! ペースを上げろ! あともう少しで修理は完全に終わる!!」
そんな穴の中に広がる延々とした闇の中で一つの声が響き渡る。ハクトの幹部『航空将官バ
ード・スラッシャー』だ。ここでは彼女の指揮監督の下でワールドヴィレッジの修復作業が
着々と進められていた。
カスタロット・インフィスの大穴の底は一面砂場になっており、そこには20mほどの高さ
を有する筒状の物体が屹立し、大小様々な四角いボックスが筒を取り囲むように配置され、
筒状の物体とボックスを幾多のケーブルが繋いでいた。
その傍らではハクトの作業員がせっせとパーツを運び回線を繋げ、破損した箇所の修復をし
ていた。
「にしてもアレだな。これほどの誉れ高き任を担わせるということは、やっぱりホワイトの
奴、私の優秀さを嫌でも認めてるってことよね」
「……随分と高慢な自論だな。バード」
三つの円柱の上に設置された四角形の床の『監視台』に立ち、そんなことをのたまうバード
を窘めるように言うのは、その背後に浮遊した状態で座する『管理元帥ザハ』。
その存在に改めて苛立ちを覚えながらも、バードは堂々とした態度でザハを睨む。
「文句があるのか? ふんッ。自分が私等幹部を総括する大幹部の地位にいるからって調子
に乗ると、どんなやつに足元掬われるか分からないぞ?」
「ご忠告感謝しよう。しかし、私はあくまで至極当然のことを言ったまで。その驕りは身を
滅ぼすぞ」
「チッ!」
皮肉を巧く皮肉で返されたバードは舌打ちをし、着々と修理が完了しつつあるワールドヴィ
レッジに視線を戻し見据える。
その眼には、ホワイトに似た野望の情念が渦巻いていた。
「(今に見てろ。いずれ私がホワイト☆ロックシューターの奴にとって代わってやる!)」