Apocryphaのバーサーカーとアサシンはこんなに可愛い 作:大小判
並行世界を運営する魔法使い、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが実在するに当たり、並行世界の存在は確立されている。これより語られるのは無数に分岐する世界のうち、2つの世界の物語と1つの結末。
間桐臓硯が第四次聖杯戦争よりも以前に死去し、間桐雁夜を最後にマキリの魔導が途絶えた世界。
1970年。地球のマナが枯渇し、今までの魔術師は消え去り、新しい魔術師が誕生した世界。
群雄割拠なす。1994年、冬木の地に現れた一騎当千の英霊に立ち向かうは5代連ねた魔術の家、その次期当主と最弱のバーサーカー。2032年、月で繰り広げられた大戦と語られることのない裏側。飛び込むのは最弱の
これは絶望へ向かう物語ではない。各々にとってただ一人、生前に終ぞ救われることのなかった者を救う物語である。
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そんな彼の右手の甲に現れた3画の紋章――――令呪。すなわち、7人の魔術師と7人の英雄の殺し合い、聖杯戦争への参加資格。本来なら魔術師の最終目的である根源に至るため、万能の願望器である聖杯を餌に参加者を募る儀式だが、ヴァンの先祖の目的は根源に至ることではなく、愛妻の蘇生にあったという。魔術師としては異端ではあるが、2代目以降から魔術教会に胡麻を摺りまくった結果、今では時計塔でもそれなりの立場を持っている。
今年18歳になったヴァンも魔術を根源の為ではなく生活の糧とする魔術師だ。本来なら令呪などというものはこれを欲しがる魔術師に有料で譲渡するべきなのだが、現当主である父の鶴の一声により参加することとなってしまった。
『父さんと母さんもたまには二人っきりでラブラブ家デートをしたいのだ。ちょうどいい機会だし、しばらく日本の冬木で殺し合いをするといい』
性格が破綻しているとしか思えない。どこの世界に息子を戦場に放り込む親がいるのかと言いたかったが、それが自分の実の両親だと再確認して頭を抱えた。逆らおうにも相手は性格が破綻した現当主、気まぐれでその身に宿る魔術回路を墓まで持っていきかねない。次期当主として人生設計を終えているヴァンとしてはそれだけは何としても阻止しなければならない。
「クソ親父め……ちくしょう」
かくして、実にアホな理由の為に聖杯戦争に参加することとなったヴァンだが、英霊の触媒を手に入れる当ては一切ない。触媒なしで召喚する場合、召喚者と相性の良い英霊が選ばれるのだが、その英霊が強いかどうかは一切わからない。最悪の場合、戦闘が一切できないサーヴァントを引き当てる可能性もある。
人脈は己自身で作ることをモットーとする父を経由して触媒を手に入れることもできないため、英霊召喚の時点で大きな賭けに出る必要がある。そんなわけでヴァンがやってきたのは霊脈の上に建てられた工房の地下。石造りの狭い空間に水銀で描かれた魔法陣の前に立ち、ついに召喚の儀式が行われた。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」
「 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
「
「 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
かつてないほどに神経を尖らせ、僅かなミスも残さない。英霊の召喚の面倒な部分は聖杯がしてくれるが、召喚に失敗すればそのまま聖杯戦争の不戦敗が決定する。そうなった場合もまた、自分に家を継ぐ権利がなくなる可能性もある。そしてヴァンは生き残るためにもう一節詠唱を加える。
「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」
聖杯戦争に参加する英霊はそれぞれ7つのクラスに分別される。その中で彼が召喚するのは凶戦士のクラス――――バーサーカー。弱い英霊から言語能力及び理性を取り除くことによりステータスを底上げするスキル、《凶化》を付加することが出来る。問題としては魔力の消費が激しいというものがあるが、それについてはどうとでもなる。
要はどんな英霊が出てきても最低限ヴァンの身を守ることが出来るステータスを持つサーヴァントを召喚し、聖杯戦争を無事生き残ることが目的だ。聖杯自体は手に入るならもらう程度のもの。
「 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
暗い地下室が光で満たされる。収束するエーテルは圧倒的な魔力で人型をなし、やがて肉と化す。眩しさのあまりに目を瞑るが、そこに確かに存在する人知を超えた力を感じ取る。やがて光が収まり、ゆっくりと眼を開けるとそこには――――
「ウゥー……」
白いドレスを身に纏い、体の所々に機械の部品をつけた美しい少女がそこにいた。
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電子の迷宮の最奥で粗末な人形が崩れ落ちて行くのを岸波白野は見た。青い光と3つのステンドグラス。そこに 敗残者たちは亡骸を無残に晒していた。
そう、敗残者。この月で行われる聖杯戦争。128人の魔術師たち己の願いの為に英霊を召喚し競い合う戦争。電子の海で万能の願望機を奪い合う。伝説や神話をこの月の観測機収集し、ムーンセルは再現する。そしてコレはその聖杯戦争への参加資格を得る為の試練だった。
つまりは予選だ。地上から月へと赴いた無数の魔術師たちへの選別行為。仮初めの日常を与えられ、そこより脱しオートマタを近衛としてオートマタを撃退する。これはいうほど簡単ではなく、もう何人も、何十人も、あるいはそれ以上の夢を取りこぼした者たちが命を落としていた。
そして岸波白野もまたオートマタを使役し、そしてこの場で敗北した。
西欧財閥が管理する都市に住んでいた彼がこの戦場に立ったのはただの偶然だった。おそらく、もう一度同じことをやれと言われてもできないだろう。ではなぜ彼が参戦を希望したのか、それは現状からの脱却に他ならない。
徹底された管理のもと、不自由も争いもなく過ごしてきた。階級に応じた生活が保障されている、不安要素のない平穏な世界。ただしそれは裏を返せばどこにも行けず、未来も希望も幸せも無く、己の将来すら他人に定められるが故に、生きる実感すらわかない停滞した理想郷。聖杯戦争の存在を知って、初めて芽生えた自由への渇望。その結果がこれだ。
「――――」
諦めたくない。ただひたすらにそう願った。起き上がろうと全身に力を入れるが、体中に激痛が走り起き上がることもままならない。それでも、このままでは終われない。眼球は燃えるような痛み、五感は指先から失われていく。
(――――怖い)
この身を苛む痛みが怖い。感覚の喪失が怖い。周囲に転がる死体と同じになるのが怖い。何も成さずに終わるのが、何よりも怖い。
《――――生きたい?》
そんな時だった。どこか幼い、舌っ足らずの声が機能が失われつつある耳に届いた。湧き上がる激情は痛覚すら上回る灼熱となって白野の魂を奮い立たせる。
「――――生き、たい」
ここで死ぬのはおかしい。ここで死んだら、何のために理想郷から飛び出し自由を求めたのかが分からなくなる。怖いままでも、痛いままでも、岸波白野はもう一度立ち上がり、その上で考えなければならない。
なぜなら彼は、何一つ自分の手で未来を掴んでいないのだから――――!
《うん、分かったよ。契約しよう、マスター》
周囲のステンドグラスが正面の一つを残して砕け散る。軋む体を無理やり起こし、頭痛に耐えながら辺りを見渡す。部屋の中央にはいつの間にか、ぼうっと人型が浮かびつつあった。その外見は殆ど人間と変わらない。だがその本質は明らかに違う。白野が戦った木偶人形などとは比べ物にならない圧倒的な力。
「くえすちょん。――――わたしたちを招いたのは、あなた?」
実に際どい恰好をした、銀髪とアイスブルーの瞳が特徴の少女が白野に手を差し出す。その言葉に思わず頷くと、彼女は両手で白野を手を掴んで立ち上がらせる。すると彼の手の甲に3画の紋章――――令呪が浮かび上がった。
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方や、創造主にすらその存在を否定され、伴侶を求めて現れた
方や、堕胎によって命を絶たれた胎児の怨霊にして、英国を恐怖に晒した
悪によって善を明確とする反英雄たる彼女たちは、その伝承故に決して報われることはない。だからこれは、報われぬ者の未来を照らすための、運命の物語。
この作品における岸波白野は、原作とは違い正当な聖杯戦争の参加者です。