Apocryphaのバーサーカーとアサシンはこんなに可愛い 作:大小判
1994年 凶戦士と花
小鳥の囀りさえ聞こえてくる爽やかな朝。実家のリビングでパンを齧りながらヴァンは目の前の光景を憮然とした表情で眺めていた。
「本当に可愛いわ、バーサーカーちゃん。英霊ってみんなこんなに可愛いのかしら? 私もこの子みたいな娘が欲しかったわ~…………あんな可愛くない息子じゃなくて」
チラリと、ヴァンを見ながら呟く母。
「ははははは。もしこんな可愛い娘が生まれていたら、もう嫁には出せんな! うん、父さんもこんな可愛い娘が欲しいな…………あんな不細工な息子じゃなくて」
チラリと、ヴァンを見ながら呟く父。
頭を撫でられたり惜しみない賞賛を受けながら自分と同じくパンを食べるサーヴァントと、そのサーヴァントを引き合いに出しながら、実にねちっこく息子をディスってくる両親。猛烈に反論したくはあるが、今この両親には何を言っても意味をなさないことを理解できてしまったヴァンはそっぽを向いて一心不乱に朝食を胃に流し込むことしかできなかった。
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ヴァンは自室でバーサーカーを題材とする小説を読みふけっていた。
サーヴァントを召喚してからすでに数日が経過した。召喚されたのが可憐な少女の姿をした英霊であることもさることながら、マスターの能力としてバーサーカーのパラメーターを認識した時は愕然とした。
筋力:C+ 耐久:B 敏捷;C 魔力:C 幸運:B 宝具:C
あえて悪い言い方をすれば弱い。狂化ランクもDと低い数字であるためステータスもほとんど上がっていない。サーヴァントの強さは積んだ年月が多ければ多いほど、知名度が高ければ高いほど、マスターの魔術師としての実力が高ければ高いほど、それに応じて強くなる。確かにヴァンはまだ1流とは言い難いが、このステータスの低さは知名度や積んだ年月によるものだとも考えられる。そう思い至ったヴァンはバーサーカーの真名を調べてみると、更に驚きの事実が発覚した。
彼女の真名はメアリー・シェリー作『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』に登場するフランケンシュタインの怪物。
ハリウッド映画等を機に知名度が広まった英霊で、1800年代初期に生まれた神秘としては比較的新しい部類に入る。初めは花嫁の方かと思ったが、
重ねた時代が薄ければ確かにこのステータスの低さも納得がいく。だが実際問題、聖杯戦争の参加者は本気で優勝を目指していることは容易に想像できる。であるならば、相手が世界的に有名な大英雄、神代の勇者などをサーヴァントとして召喚している可能性は極めて高い。故に、彼女が此度の戦争で勝ち抜くことは不可能に近い。
だが着目すべき点も多い。まず第一に彼女の宝具である戦鎚、《
第二に、ランクこそDと低いもののスキル《虚ろなる生者の嘆き》。狂化の際に発動するこのスキルは、相手の思考能力を奪い、抵抗力のない者は心肺機能すら奪われる。おそらくサーヴァントにはさほど通用しないだろうが、人間であるマスターには通用する者もいるだろう。
第三に、狂化ランクの低さゆえの思考力。言語能力を奪われ、複雑な思考に耐えられないものの、このバーサーカーはこちらの言葉を確実に理解し、幼児レベルの意思疎通が可能。戦闘で役立つかは疑問だが、コミュニケーションが取れるに越したことはない。
何はともあれ、これから共に戦っていく者同士、互いの相互理解は必要である。バーサーカーとはいえ……否、バーサーカーであるからこそ、明確な意思を持つ相手なら尚更だ。反抗されれば令呪を使わざるを得ない。聖杯戦争が始まるまでまだ半年近くある。十分な時間だと判断し、ヴァンはバーサーカーを探しに部屋を出た。
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ヴァンの実家は広い庭を擁する割と大きな洋館で、その庭には母が半ば趣味で管理する大きな花壇がいくつも存在する。そのうちの一つ、海外から種を取り寄せて育てた大輪の向日葵が並ぶ花壇に彼女はいた。真夏の照りつける太陽の下、母が購入した白いワンピースと麦わら帽子を身に纏い、向日葵を1本鋏で切り取っている。
「それ、切り取って大丈夫なのか?」
「……ゥー」
頷くバーサーカー。母に切り取って良しと言われたのだろう。
「花……好きなのか?」
「ウゥー」
再び頷く。狂化ランクが低いためか、どうやら自分の好きなものの区別がつくらしい。思い返してみると、朝食のパンにつけるジャムも、イチゴから作ったものを好んで使っていたように思う。
こうして改めてバーサーカーの姿を見てみると、彼女が持つ独特の雰囲気と白いワンピースは良く似合っていた。自身の宝具の影響か、はたまたこれも好みの問題か、バーサーカーは実体化を好んでいて、マスターであるヴァンも特に気にすることもなかったため、召喚されてからずっと実体化したままだ。彼女のことをやけに気に入っている両親が一般人のいる街へ連れ出すのにサーヴァントとしての戦闘服だと目立つからと購入したのだが、バーサーカーの容姿はまさに美少女のそれであり、簡素なデザインが彼女の美しさをより引き立てていた。
体の至る所にある大きな装飾は認識阻害の魔術で一般人にはばれない。それをいいことに街へ連れ出そうと画策する母に、『霊体化すればいいんじゃね?』と言ってみたところ、父に呆れと侮蔑の視線を向けられた。
『まったく、なぜお前は淑女の心を理解しない? それでは紳士の風上にも置けないぞ?』
まぁ、確かにバーサーカーは英霊である前に女性である。伝承を見る限り、その心も英雄としてではなく個人としての側面が強いのだろう。であるならば、偶然得た二度目の生を謳歌したいと思うのは当然かと、ヴァンは彼女の行動を可能な限り容認した。やはり魔術師としての感性に欠けるが、不思議と悪い気はしない。
「なんだったらバーサーカー、自分で花を育ててみるか?」
なら、この位のことをしてもいいだろう。しばし頭を傾げていたバーサーカーは、ヴァンの言葉の意味を理解したのか、再三頷く。人に恩を売るのは4代続く家伝の一つであり、彼女の細い手を取りエスコートしたのは若く未熟な紳士の矜持だった。
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初めて見る街をもの珍しそうに眺めるバーサーカーをつれ、大通りを進むヴァン。時折バーサーカーの美しさのせいか、一緒にいるヴァンに突き刺すような男性の視線を感じるが、それはあえて無視する。はぐれないように握る彼女の手の熱さを感じながらあるいていると、不意にバーサーカーが足を止めた。
「どうした? 何かあったか?」
「ウィー……」
彼女の視線の先に目を向けると、そこにはアイスクリームの移動型店舗が道の脇に停めてあった。客の子供やカップルの声が気になったのだろうか、彼らの手に持つものを興味深そうに虚ろな目で追っている。サーヴァントは現世で活動するに必要な最低限の知識を聖杯から与えられているが、さすがにアイスクリームのことまでは知らないのかもしれない。
「あれはアイスクリームって言って、冷たいお菓子だな。食ってみるか?」
「……ウゥ……」
ヴァンはシャーベットアイスを、バーサーカーにはとりあえずイチゴのアイスを手渡しておく。アイスを齧るヴァンを真似するように一心不乱にアイスに齧りつく様子を見る限り、どうやら気に入ったようだ。
その時、ふとヴァンの目に2人の男女が映る。自分たちと同じようにアイスを食べながら、仲睦まじそうに語り合う様子からカップルであることが窺える。
(もしかして、俺とバーサーカーって傍から見ればカップルなんじゃね?)
彼女いない歴
「バーサーカー、お前もうちょっと綺麗に食べることを覚えようか。頑張って」
「……??」
アイスで口元や手がベタベタになったバーサーカーの為、アイス屋に水を貰いに行くヴァン。持ってきたハンカチが今日一日使い物にならないことが確定したこの光景は、カップルというよりも認知症患者と介護士と言った方がしっくりきた。
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母の行きつけの花屋に到着すると、バーサーカーの足取りが軽くなった。手を放すと花の前に立ってジッと見つめる彼女に苦笑しながら、しばしその光景を眺めることにした。
「ここの花は売り物だからな、間違っても傷をつけるなよ」
「ウゥー」
頷くのを確認する。花屋というだけあって、その種類は家の花壇よりも断然多い。中には数十ポンドもするものもある。植物は魔術の世界でも広く研究されている分野であり、フランケンシュタイン家の魔術に少なくない影響を与えている。それゆえの花壇なのだが、どうやら女性には実用性よりその外観を重視する場合が多い。女性だから花が好きというのは安直かもしれないが、少なくともバーサーカーに花がよく似合う。
「おーい、そろそろ花の種を選ばなくていいのか?」
眺めること30分は経過しただろうか。このまま何も言わなければ延々と眺めていそうなバーサーカーを軽く催促する。英国紳士たるもの淑女の買い物には時間の糸目をつけないものだが、あいにく何の予定もないわけではない。
「……ゥー……」
専門店だけあって、この店は花の種子の種類も豊富である。思考能力は高いが、それはあくまでも
次回はアサシンちゃんの話です。