主人と柑橘とあせび   作:ゆきひな

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五つ目の刻印の裏側

 暗い。そこは闇のように暗かった。光は無い。太陽も蛍光灯も蝋燭も月明りさえも無い。何も見えず、何もない。そんな空間はある一室だった。窓のない部屋。

 

「『シザー』は壊滅したようだな」

 地を揺るがすような男の低い声がその一室に響いた。

 

「いいのか、あれはお前のところの傘下だろ?」

 声変わりするかしないかぐらいの男の声がべつの方向から響いた。

 

「別にいいわよ。あんな下っ端組織の一つや二つ、代わりなんていくらでもいるわ」

 女の声がした。その声には呆れ以外の感情は篭っていなかった。

 

「……相手は“古の奇術師”。寧ろ、『シザー』程度の首で事を穏便に済ませられただけマシ」

 幼い少女のような子供の声が返ってきた。

 

「ソレデ、ヤツヘノタイショハドウスル? アノオトコノコトダ、スデニオレラノコトハカンヅイテイルハズダ」

 片言の言葉を話す男の声には、緊張の色がこもっている。

 

「……様子見」

「「「「同意」」」」

 片言の男の質問に6人目の少女が答えた。声に覇気が感じられない。物寂しい感じだ。そしてそんな中、7人目が声を上げた。

 

「おいおい、仮にもこのスラム街を統べてるお前らは何、弱気になってんだ? 大級組織の王よ、暗殺集団の長よ、闇社会の首領よ。俺達が恐れるに足る男か、あれは」

 ちゃらん、ちゃらんと金属同士がぶつかり合う音と共に、やけに挑発的な男の声が場を支配した。

 

「『リバース』の長か」

 低い声の男は口を開いた。

 

「貴様が“古の奇術師”に対し、どのような評価を下そうが貴様の勝手だが、我らもあの男に対する評価がある」

「そしてよ、私達はあの男を超危険人物と見ている」

「……全員の総意」

「つまり、分かるよな? 俺達の言いたいこと」

「ムダニヤツヲシゲキスルナ。ムコウガテヲダサナイカギリ、コチラハカンショウシナイ」

「私達は組織であって、個では無い。そこをもう少し考えるべき」

 忠告とも取れる六人の発言を受けてもなお、その男は姿勢を崩さなかった。

 

「組織であって、個ではない、ねぇ。俺もお前らも組織の前に個だぜ? 個が集まっての集団だ。集団の中には、俺みたいに虎視眈々とあの男の首を狙いたい奴だっている。そんな奴がお前らの組織にいないと言い切れるか?皆が穏健派なのか?違うよな。中には過激派だっているんだぜ? もしかしたらそれは少数かもしれないし、お前ら以外の全員かもしれない。可能性としてはありだろ? まぁ、ようするにだ、俺は考えを変えるつもりは無いということだ。ただ、今すぐにあの男と戦争を起こそうって訳じゃない。それこそ今は様子見、準備期間さ。ちゃんと策は用意するし、あの男を引きずり出す演出も、過激派が参戦しやすい環境もな。それなりに善戦してやるよ」

 男の饒舌な話にその場にいる6人は口を挟むことが出来ずにいた。

 

「まぁ、お前らも参加したくなったら勝手に入れ。と言っても無理矢理にでも巻き込ませてもらうがな」

 ゾクリと六人の背筋に悪寒が走る。刹那、ヒュンという風切り音と、その後に何かが地面に叩きつけられる音が響いた。

 

「あっぶねー。いきなりだもんな。まぁ、俺を仕留めようとしたその判断、嫌いじゃないぜ。最も相手が俺ってのが悪かったな」

「……」

 ガサゴソと暫し音がなったが、やがてその音もなくなり、無音になる。その様子を残りの5人は声を出せず、身動き一つ出来ずに時が過ぎるのを待つしかなかった。

 

「と、いうわけだから俺を殺すも生かすもご自由に。じゃあな」

 かっかっと部屋の出口に男が歩く音が聞こえる。ギィーとドアが開くとともに外の明かりが部屋を僅かに照らし、その男の横顔を映す。くすんだ銀髪を肩にかかるぐらい伸ばしたその男は何かを思い出したように、部屋の中に顔を向けた。その時の顔は、酷く子供じみていた。

 

「言い忘れてたが、組織名『リバース』今日限りで変更だ。新しい名は……」

 

 

 

 

 

 

 

「『新時代の幕開け』だ!!」

 

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