好き 作:たまご
バイトから施設に颯人が、帰り着いたのが10時30分過ぎだった。
玄関の近くに食堂があり颯人は、昼食を食べてから何も食べていないため、お風呂より先に腹を満たすコトにした。食堂の出入口に入ったと同時に、TVを見ていた指導員が颯人の存在に気付く。
「お疲れ様、今から夕食温めるね」
「うん」
近くのテーブルに座りTVを見る。最近流行りの恋愛ドラマが放送されて、内容は幼なじみの男女が高校生になり付き合っていくというベタなモノだ。
あまりドラマを見ない颯人にとっては、どうでも良くチャンネルを替えようとした時に、彼女が喜びそうなプレゼントを選ぶシーンが流れ替えようとしたが、手が止まってしまった。
「(もし、あの中で選ぶとしたら……)」
颯人が今、TVの中に映っている物で凛にプレゼントするならと真剣に考えてしまっていた。
笑った時の顔を考えただけで、胸がドキっと高鳴りゆっくり息を吐き出す。すべての息を吐き出した時に、「お待たせ」と声がして遅めの夕食が目の前に出された。
「い……いただきます……」
凜のコトを考えていた時に指導員の声が聞こえて、違う意味でドキドキした颯人は口一杯にご飯を入れる。その様子を見ていた指導員は、颯人に聞こえないように「やっぱり、普通の高校生ね」と言っていた。
ーー☆★☆★ーー
予習や復習が終わった凛は、1枚の写真を手にとってベッドに横になる。
「今日ね、いつも話している原崎くんと話したんだ。初めて笑った顔に胸がキューンってなって……か、かわ、可愛いって思った……」
本人が目の前にいる訳でもないのに凜の顔は、真っ赤になりあたふたしている。当然、写真の中にいる人物がそれを見て笑う訳がないが、凛は写真を見て落ち着き「そ、そんなに可笑しいかなぁ」と言う。
毎日欠かすことなく凛は、寝る前に写真に話しかけて寝るのが日常になっている。話す内容は、学校の話しだけで家族のコトはそんなに話していない。
「ーーって由衣に言われちゃった。今日も学校は楽しかったよ、お母さん!」
背景が桜の木で一杯になっていて、その中心に凛そっくりの女性が微笑んでいる写真に向かって、「お休みなさい」と言って眠りに就く。
ーー☆★☆★ーー
学校に着き自分のクラスに入ると、クラス全員とは言わないが、一部の生徒は落ち着きがない様子だった。クラスに友人がいたら自分から話し掛けるが、颯人は関係ないと席に座る。
黒髪の癖毛の少ないサラサラした髪の毛が特徴の男が、颯人に近付き楽しいコトがあったのか、ニコニコした顔で話し掛けてくる。
「おはよう! ねぇ、明日から何する?」
颯人にそんなコトを言って来たのは、優太で本当に楽しそうな顔をしていた。
「……バイト」
「いや、バイトでも午前中か午後には終わるだろ?」
「終わらないよ、1日あるから」
5月の上旬にある大型連休、通称GWが明日からあるというコトで、生徒たちは明日からの休みで落ち着きが無かった。でも、颯人からしたら1日バイトして多くの収入を得ようとしていた。
「もしかして、GW中ずっとバイト?」
「そうだよ! 将来の為に今の内から貯めてた方が良いだろ」
「しっかりしてんな! まぁ、俺も欲しいモンとか買いたいモンあるけど、そこまで頑張るコトは出来ないなぁ」
「別に頑張ってないよ」
そう言って颯人は、自分の席から立ち上がりトイレに行くと言い出ていった。
両親が他界してなく親子3人で生活していたならば、颯人は必死にバイトをしていなかったと感じており、普通の家庭への憧れが強くなっていた。
「(つーか、普通の家庭ってどんな感じなんだ?)」
父親が物心つく前に亡くなり、母親と過ごした僅かな記憶しかなく普通の家庭がどんな感じなのか、少し分からなかった。
「(……まぁ……今はまだ早いし良いか……)」
もし、自分が家庭を持つとしたらと考えていると、凜のコトが頭を過り色白の顔が少し赤くなる。最近、少しだけでも凜のコトを考えたら、胸が高鳴り少し呼吸が乱れてしまう。
この自分の変化に「変態か俺は」と思ってしまう颯人だった。
颯人が凜のコトを考えている頃、凜のクラスでも落ち着きのない生徒が何人かいた。
「おはよう、凛」
「おはよー、何か男子は朝からスゴいね!」
「GW中に何するかで盛り上がってるからね……で、GW中はどうなの?」
由衣はGWの話の中で、凛に颯人とは何かの約束をして会うのか聞いたが、凛には伝わってなく「えーと、運動する時間が増えるだけだったと思う」と答えた。
「いや、そうじゃ無くて! 原崎くんと会う約束とかしたの?」
「は、原崎くん……と会う約束……?」
「うん! 原崎くんと会って2人で遊んだりとか」
「でも、原崎くんはバイトで忙しいと思うよ」
凜の言葉通りに颯人と放課後話していると、バイト先から電話が来てすぐにバイトに行ってしまう。
もう少し一緒にいたいと凛は思うが、好きな人と過ごせる時間だけでも幸せだと感じるコトがある。
「凜のためならきっと時間空けてくれると思うよ」
「……本当に空けてくれるかな?」
「大丈夫だよ!」
少し自信がないが、友人が力強く「大丈夫」と言ってくれるコトに自信がついたのか、少し頷き「ちょっと、聞いてくる」と教室から出ていった。