まぁ、楽しいですけど。
廃ビルの中は予想通り、ジメッとしていて薄暗かった。
しかも使われなくなってかなり経っているのか、壁や床もかなり痛んでいて、少しでも衝撃を加えるとたちまち崩れ落ちてしまいそうだった。
もちろん電気など通っていないし、むしろ電気が通っていたらどこかで漏電して火事になってしまいそうだ。
......こんなところで戦って、本当に大丈夫なんだろうか?
俺がビルの中を観察していると、前を行く彩歌声をかけて来る。
「それにしてもアッキー、予想以上に落ち着いてるね。やっぱり経験者だから?」
「うーん、どうだろ? もちろん頭の中じゃかなり緊張してるけど、2人がいるから大丈夫って、どこか安心してるのかもな」
「先輩......またですか......」
「なははっ、それは信頼に答えないとねっ。うおー、燃えてきたー!!」
声に合わせて両腕を上に突き上げる彩歌。
あの、気合いを入れるのは結構なんだけど、お願いだから相手を挑発するような大声は止めてほしいんですけど。俺さっき緊張してるって言ったよね? これ以上緊張すると倒れちゃうよ? さらに足手まといになる自身あるよ?
彩歌が盛り上がっているなか、今度は奈菜が俺の隣まで来て小声で話しかけてくる。
「......彩歌先輩はあんな風に言っていますけど、先輩自身も気を抜かないでくださいね。もしかしたら、っていうことがないとは言い切れないんですから」
「それって、奈菜たちよりも強い奴がいるかもってこと?」
「さぁ? ただ、絶対にありえない、なんてことはないだけです。それこそ.....今日、先輩が死ぬ可能性だってあるんですから」
奈菜の雰囲気に飲まれて、ゴクリ、と唾を飲み込む。
もちろん、その可能性は自分の中でも認識はしていた。
だが、自分で認識しているのと、他人に指摘されるのは全くの別物のようで、奈菜の言葉は予想以上に俺に重くのしかかってきた。
そこで自分が折れてしまわぬよう、少しでも自分を鼓舞しようと奈菜を真っ直ぐと見返す。と、その瞬間あることに気がついた。
奈菜の目だ。
「......ありがとな」
「? 何がですか?」
「心配して言ってくれたんだろ?」
奈菜の目はいつものような澄ました目ではなく、かと言って俺をおちょくってくるような目でもなく、ましてや戦闘中のような何かを決意しているような真っ直ぐな目でもなかったのだ。
それは俺が今まで見たことのない目。おそらくだがそれは、誰かを心配するときの奈菜の目、なんだと思う。
だからこそ、ありがとうだ。
俺の言葉に目を見開いた奈菜は、すぐさまいつも通りのため息をついた。
「先輩って基本頭の中お花畑ですよね。私はただ気の抜けた人がいると戦闘中邪魔だから言っただけです」
「そうなんだ? じゃあさっきのありがとうはいつも助けてくれたことに対してにするかな」
「なっ......」
これもまた珍しい。奈菜が少し困った顔になっている。
今日はどうやら吉日のようだ......まぁ、このあとにこれでもかってぐらいに嫌なこと起きそうで怖いけど。それを気にしたら負けだ。
それにこれ以上奈菜をからかうと電撃が飛んできそうなので止めておく。
奈菜の言う通り、気ぃ引き締めなきゃだしな。
「配置についたー?」
『はい、予定通りつきました』
「よぉしっ! じゃああとは作戦通りによろしくね」
『はい』
会話が終わり、彩歌は奈菜との通信を切る。
俺は今、彩歌と共に廃ビルの1階、西側の一室にいた。
それに対して奈菜は同じく1階の東側の部屋にいる。
部屋、と言ってももう使われていないビルなので、置いてあるものは何もなく、ただの薄暗く広い空間になっていた。
広さは学校今日の教室よりも少し広いが、当然隠れるような場所もないので、俺たちは部屋のど真ん中に突っ立っているだけだ。
「ねね、アッキーちょっといい?」
「どうした?」
もしかして作戦に何か変更があるんじゃないかと思って、神経を全力で彩歌の話に注ぐ。
だが、彩歌の口から出てきた言葉は俺の予想と180度反対のものだった。
「アッキーはなーちゃんのこと好きなの?」
「......は?」
「アッキーはなーちゃんのこと好きなの?」
「え......は?」
「アッキーはーー」
「いや聞こえてるよ!? じゃなくてなんで今そんな話になってんの!?」
「だってさー、アッキー、な~ちゃんに色々言われても全然嫌そうな顔しないし」
「嫌そうな顔はしてるぞ......一応」
ただあまりに露骨に表情に出すと奈菜から反撃が来るから出していないだけで。
「それにかえちゃんが言ってたんだ。女の子に異常に優しい男子は9割以上が誰か好きな子がいるって」
あの人はまた......なに言ってんだ?
そんな完全に自分の目線からしか見てない男子像を彩歌に押し付けんなよ......
というか、最近あの人、全部の物事後ろの方で操ってない? しかも俺のこと小バカにするためだけに。
そんなことはないと分かってはいるが、楓さんなら本当にあり得そうなので怖い。
まぁ、とにかく。
「それ、楓さんの勝手な考えだから気にしなくていぞ......」
「なーんだ、つまんないの」
そう言うと、もう興味が別のものに移ったのか、彩歌は部屋のなかをフラフラしだした。
こいつ......自分から話振ってきたくせに。まぁ、痛くもない腹を探られても何も出てこないけどさ?
ただ、なんとなく今回は彩歌の奔放さに食らいつきたくなった。もしかしたら初めての戦闘でテンションが妙なことになっているせいかもしれない。
俺、戦闘前になに考えてるんだろ? と思わなくもなかったが、、気にしないことにした。彩歌の相手をしようと思うと、こちらも童心に帰らなきゃやっていられない。これ大事。
なので俺はわざと彩歌を煽るように聞く。
「じゃあ、彩歌は誰か好きな相手いないのかよ?」
「私? うーん、そうだなー......」
そのまま彩歌は天井を見つめるようにして考え出すが、その表情は次々と変わるだけで返事はなかなか返ってこない。
これには少し驚いた。彩歌は学校でも《KTF》でも、その明るい性格のお陰か男子と一緒にいる場面もよくあるから、誰か1人ぐらいはすぐに名前が出てくると思っていたからだ。
「うーーーーーーーん......かざちゃんとか、なーちゃん、かなちん好きだよ?」
「いや......そりゃあ友達だからだろ。大体、彩歌が俺に聞いたのだって同性じゃなくて異性じゃん」
「あ、それもそうだね。じゃあーー」
すると彩歌は天井に向けていた視線を、そのまま今度は俺に向けてくる。
「ーー男の子だったらアッキーかな?」
小首を傾げていつも通りの調子で言ってくる。
その告白めいた言葉に一瞬鼓動が跳び跳ねたりはしたが、彩歌の雰囲気が本当にいつも通りだったので、俺はため息をつくことですんだ。
こいつ......本当に子供だ。こういうことホイホイと言ってるといつか痛い目に逢うんじゃないだろうか? まぁ、そういうオープンなところが彩歌の良いところではあるんだろうけど......
でも、今の雰囲気からして、もしかして恋愛というものをしたことがないような疑いまで出てきたんだが......
今の彩歌を見ているとそんな心配と疑問が出てくる。
まぁ、かくいう俺も、そういう経験ってほとんどないのだが、それでも彩歌ほどではないと思う。
「お前な......loveとlikeの違いって分かるか?」
「え、なにか違うの?」
「それが分かるようになるまでお前はまだ子供ってこと」
「えー! ぶー」
俺の言葉に納得がいかないとばかりに頬を膨らませる彩歌。
その仕草はやはりいつも通りの子供っぽい彩歌のものだった。
......まぁ、こいつはこれでいいのかもな。
考えてみれば大人っぽい彩歌、というのは非常にらしくない。
そんな風に考えた瞬間だった。
ガァァァァァァァアアアアン!! という何かを床に叩きつけたような音が鳴ったかと思うと、次の瞬間には天井が割れ、瓦礫が俺たち目掛けて降りかかってきた。
その突如現れた異様な光景に思考が止まる。それがこの場において致命的なミスだと分かったのは瓦礫が自分の頭の目前に迫ってからだ。
っ! まずい!!
「アッキー、こっち!!」
俺がせめて身を固めようとするよりも早く、俺は彩歌に無理矢理引っ張られて倒された。
それとほぼ同時、瓦礫が床に衝突し、耳が壊れそうになるほどの重低音が廃ビル内に響く。
今この場に他に誰かがいれば、俺たち2人は死んだと間違いなく思われただろう。
しかし、俺と彩歌はそんな予想に反して、瓦礫の脅威からは完全に逃れていた。
「おぉ......」
俺と彩歌は光のドームのようなものに包まれ、そのドームが降ってくる瓦礫をすべて弾いていたからだ。
すごい......
確かに事前に天井が壊されたときにはこんなドームを出すと彩歌から伝えられていた気はするけど......まさか瓦礫をここまで大量に受けてもびくともしないとは。
こういうところを見せられると彩歌の実力を再認識させられる。
ただ......
「あの、彩歌さん?」
「へっへー、どうアッキー、すごいでしょ?」
うん、これはすごい。俺もこんなことができるようになりたいと心から思う......が。
「あの、この体勢は......?」
咄嗟に腕を引っ張られたため体勢を整えられなかった俺は、後頭部を彩歌の胸にダイブさせ、体を彩歌の両足の間に挟まれるような形になっていた。
ここまで接近、というか密着すると彩歌の香りとか体の温度とかがーー
「へ? ......あっ、ごめんね。もしかして痛かった?」
「いや......あー、まぁ、それもある」
俺の言葉で現状は把握してくれたようだが、相変わらず彩歌の方にはあまり反応がない。
まずい、さっきまであんな話をしていたせいで余計に意識してしまった。さすがにこんな状況になると、いくら彩歌の反応がなくても彩歌も女の子だと実感せざるを得ない。
彩歌と触れている場所から伝わってくる柔らかい感覚は、彩歌もやっぱり女の子なんだと認識させるには十分なものでーー
って、戦闘中になに考えてんだてんだ!? 奈菜に言われた通り集中集中!!
すると天井が破壊されたため丸見えになった2階の真上の部屋から誰かが瓦礫の上に飛び降りてくる。
人数はーー2人。
「おいおい、今ので無傷かよ。めんどくせーな」
片方は金髪でいたるところにリングなどをはめている気だるそうな男。
「そうか? たまにはいいじゃねーか。弱いやつらをいたぶるってのもよぉ」
そしてもう片方はボサボサの黒髪で、肌も同じように浅黒く、やけに好戦的な笑みを浮かべている。
黒髪の方は右手w魔力で強化しているのか、微かにだが光を放っている。
どうやら俺と同じように体の一部を強化、今回の場合は右手を強化して2階の床をその右手で殴り、床を破壊して俺たちに降らしてきた、ということらしい。
まぁ、俺と同じ、とか言っても俺とは錬度全然比べ物にならないほどが高いみたいだけど。
「君たち......無所属だよね?」
俺から離れた彩歌が2人に向かって言うと、浅黒はニヤリと笑う。
「おーおー、誰かと思えばここらじゃ名高い《光姫》じゃないですか? 今日はどういったご用件で?」
浅黒は、これでもか、というほど慇懃無礼な態度で彩歌に話しかけてくる。どうも向こうさんはこちらの質問は無視する方針のようだ。態度悪いな。
それと《光姫》って......彩歌のことか? まぁ、確かに彩歌って黙って立っていれば姫って感じもするし、言いえて妙かも。
そして彩歌も相手の会話に乗るつもりなのか、相手の調子に合わせて話す。
「うーん。今日は君たちと戦うつもりはなかったんだけどね。なんか明らかにわざといやーな殺気振り撒いてたから、ちょっと注意に来たんだ」
「おっとー、それは失礼したな。以後気を付けるよ」
「うん。気を付けてよ」
「......」
「......」
場に沈黙が訪れる。
ニコニコ笑顔な彩歌に対して、浅黒男もニヤニヤ笑っている。
あの表情は間違いなく「以後気を付ける」なんてことはしないだろう。俺には分かる。なぜなら楓さんがよくする表情だからな。
そもそもこんな瓦礫を落としてきておいて、そんな簡単に引き下がるわけもなく。
小さな瓦礫が落ちて、音をあげる。
瞬間。
「まぁ、ちっと遊んでいけやぁぁっぁぁぁああ!!」
浅黒男は瓦礫を蹴って、こちらに一気に接近してきた。
その常識場馴れした膂力から、足に魔力を貯めてブースト代わりにしたのだろう。
「アッキー、行くよ!」
「あぁ!!」
それに対して俺と彩歌は構えをとり、浅黒をある程度引き付けーー後方に飛び退いた。
しかも彩歌はその際に、未だに瓦礫の上に残っている金髪男の足元を狙って光弾をばらまく。
「ちっ」
「おらぁ! 逃げんなぁ!!」
金髪男は跳躍することで光弾を回避し、浅黒男はからぶった拳を瓦礫に叩きつけながら怒鳴る。
全員何の苦労もなく今の行動をしていたが、彩歌が放った光弾は俺だったら間違いなく直撃していたし、浅黒の攻撃は事前に彩歌と取る行動を決めていなければ当たっていたかもしれない。
これが、現場の世界。
互いが相手をしようと本気で倒そうとしている世界なのだ。
......怖くないか、と聞かれれば今すぐ逃げ出したいと答える自信がある。だが、それでは何の意味もないのだ。
一つ一つの現象が恐ろしいが、それで震えていてもなにもできない。
俺は男たちを倒す『作戦』開始の合図として、手の中に握りこんでいた通信機を操作し、奈菜にコールを2回送る。
次の瞬間。
メキメキメキ!! と、先ほど天井が崩れたときよりもさらに大きい音が廃ビルの中に響いた。
それに応じて廃ビルの対角線上に割るかのように床や壁が隆起していく。
いや、正しくはその床や壁の中に含まれる鉄筋やワイヤーによって、だ。
これが彩歌発案の作戦だ。
まず、先ほどまでのように俺たちが3人で固まっていると、相手は間違いなく出てこない。
それは奈菜と彩歌が2人いるだけで、相手は勝ち目なしと判断して隠れるか逃亡するからだ。
だが、奈菜と彩歌が別れれば話は別だ。
しかも能力覚醒すると、相手の魔力の安定具合や量がある程度近づけば分かるようになるらしいので、相手は俺の力のなさを把握していることになる。
そうなれば、俺たちが2人と1人に分かれれば、相手は足手まといの俺がいる方へ人数を割いて、俺ともう1人を潰しに来る。
そこで今度は俺たちがどう分かれるか、が重要になってくる。
組み合わせとしては俺と奈菜か、俺と彩歌の2パターンだ。
だが、俺がいる方に相手が人数を割いて来るのなら、今回は後者だ。
理由は戦闘スタイル。
奈菜は苦手なタイプがないオールラウンダーだが、彩歌は多対一での戦闘を得意としているとのこと。
そして今回奈菜は相手が合流、逃亡しないように廃ビルを分断する役割がある。その作業を俺を庇いながら2人相手に行うのは、不可能ではないが、成功率は下がる、と奈菜は言っていた。
それならと、今回は俺と彩歌が組み、今の結果だ。
奈菜の方は1対1で負けるわけがない。問題としては多対一を得意とする彩歌が俺のことを考慮しながら戦えるのか、というところだが、さすがにそこまで俺のことを面倒見てもらうわけにはいかない。
つまり、その部分は俺の頑張りどころだ。
「くっそ、なんだってんだよ!?」
浅黒男が突然の廃ビルの変化に混乱し、怒鳴りながらも彩歌に殴りかかる。
単純な行動だがさすがは能力者。それだけで自動車の突進並みの威力を誇っているのが分かる。
だが。
「はぁっ!!」
「ぐっ......てめぇ!!」
俺は彩歌に突進していく浅黒男の進行をずらすように横から殴り飛ばす。
俺の攻撃は彩歌たちに比べればまだまだ弱く、有効打を与えるには至らないが、それでも頭に血が上った奴相手に一撃を喰らわすことぐらいはできるしはできるし、その相手の進行方向を変えることもできる。
そしてそれは、相手が彩歌に時間を与えることに繋がる。
「いっくよー!!」
掛け声と共に、宙に浮かぶとレーザーのようなものや光弾を体の回りにいくつも出現させ、それをばらまき浅黒男と金髪男を同時に攻撃する彩歌。その攻撃一つ一つが、俺が訓練でかわしていた弾よりも速く、狙いも正確だ。
しかも俺のことを考えてくれているのか、俺が立っている位置には一つも攻撃が流れてこない。
奈菜と彩歌の模擬戦闘は見たことがあったけど、ここまでの範囲攻撃は見たことがなかったので内心かなり驚く。
「まだまだぁ!!」
そして彩歌は弾幕を撒きながら浅黒に接近していく。
今まで辛うじて彩歌の弾幕をかわしていた浅黒男は、弾幕を放ち続ける彩歌が近づいてきたことによりさらに激しくなった弾幕の回避は無理と踏んだのか、逆に彩歌に突進していく。
そのまま接近戦に持ち込もうものなら、弾幕によって手数がほぼ無限である彩歌の圧勝だろうが、金髪男の方がそうはさせない。
彩歌がばらまく弾幕を後方から打ち落としているのだ。
その際に使用している能力はーー電気。
どうやら金髪男の方の能力は奈菜と同じ電気系統のようだ。
こうなると、俺がすべきなのは......
彩歌が考えていた作戦には、ここからの筋書きは一切ない。彩歌は彩歌の、奈菜は奈菜のすべきことをして、俺はその場で臨機応変に動け、ということだ。
どこぞの主人公なら、こんな場面なら彩歌が放っている弾幕の中に果敢に突っ込んでいくのかもしれない。だがとても残念なことに俺がそれを決行すればすれば3秒で血だるまになるだろう。
それなら......
彩歌と浅黒男が接近戦をしているのをよそに、金髪男のお陰+もともと弾幕が広がっていない場所を掻い潜り、俺は金髪男に接近していく。
金髪男は彩歌の弾幕に手一杯で、俺には気がついていない。どうやらやはり俺は戦力には数えられていないようだ。ちょっとショック。
ちょうど弾幕が来ない場所まで移動し、俺は瓦礫の中から手頃な石を拾う。
そして俺はそれに少し魔力を加え、そのまま金髪男に向かって全力で放り投げる。
石はきれいな放物線を描いていきーー金髪男に当たる直前に弾幕で弾かれた。
「......面倒な」
そのせいで金髪男に俺の位置が気づかれたが、まぁ、いい。
今俺がすべきことは、このダウナー系金髪男の集中を俺に向けること。
別に俺が金髪男を倒す必要性はどこにもない。
大事なのは、この男の弾幕が少しでも乱れて、彩歌と浅黒男の戦闘がよりよく進めるよう仕向けること。
俺は再び石を拾い、金髪男に向かって投げる。
実はこれ、俺の魔力を通しているので、直撃すればハンマーで思いきりぶん殴られたぐらいの威力があったりする。
相手も能力者なので、当たれば一撃で倒れる、なんて甘いことにはならないと思うが、それでも完全無視できるほどの低威力でもないはずだはずだ。
ということで、目指すはメジャーリーガーと言わんばかりにどんどん投げ込んでみよう!
当たりはしなくともいいので俺は何度も何度も石を投げる。
「......ちっ」
するといい加減金髪男もしびれを切らしたのか、俺に向かって電撃の線をいくつか放ってきた。
数は3つ。
これならかわせる!!
俺は3つの電撃を、身を捻り、ステップで避け、石をぶつけて軌道を反らすなどして全て回避する。
まだまだ余裕とは縁がないが、俺もこれぐらいならかわせるようになってきた。
そして再び投擲開始。
「......おい根黒!! お前一人で《光姫》相手してろ! 俺は先に雑魚をやる!」
「あぁ!? んな奴相手になにしてんだよになにしてんだよ!!」
「うっせぇ!! 少し時間稼いでろ!!」
金髪男の命令を聞いて浅黒男ーー根黒とかいう奴は彩歌から距離をとってヒットアンドアウェイに切り替える。
それに対しで金髪男は、一気に俺に接近してくる。
まぁ、雑魚だのなんだの一言申したいことはあったけど、クールぶった金髪男を怒らせられたので良しとしよう。
本当なら今この場面、金髪男から後先考えずに逃げ出したいところなんだけど......いかんせん彩歌の弾幕が飛び交っているのでそんなにすぐには逃げられない。
「アッキー、30秒お願い!!」
彩歌は俺に叫ぶと、一気に根黒を追い詰めるように接近していく。
おそらく彩歌のことだから本当に30秒すれば根黒を倒してこっちに応援に来るだろう。
それに、お願い、とか言いつつも、いつの間にか彩歌の弾幕は俺を守るように俺の回りを旋回していた。
どうやら俺の動きに合わせてついてきてくれるようだ。
しかもそれ以外の弾幕は未だに根黒と金髪男に向かって放たれ続けている。
彩歌の弾幕が俺の周りを囲い始めたお陰か金髪男の接近は止まっていた。まぁ、相手もわざわざ弾幕の塊に突撃しようとはしないだろう。
それにしても......彩歌、根黒と戦っているのに何でこんなにも全体を把握して動けるのだろう?
まぁ、どっちにしてもそれは今考えても仕方がない。ここまで彩歌が助けてくれているんだ。
30秒......頑張ってみるか!
俺はもう何度目かも分からない石の投擲をした直後、金髪男に向かって駆け出す。
石は少しでも相手が行動を迷ってくれればと思って投げたのだが、金髪男は右に小さくステップしてかわし、そのまま俺に向かって電撃を放ってくる。
「くっ......」
全力で走りながら相手の攻撃をかわすのは初めてだったが、なんとか電撃を掻い潜る。
そして金髪男の前に飛び出る。
金髪男は俺の攻撃、もしくは俺が纏っている彩歌の弾幕を嫌ってか、俺から距離を取る。
だが相手もさすが。金髪男は下がりながらも俺に電撃を放ってきた。
先ほどよりも至近距離から放たれた電撃。
これはかわせない。そう認識した瞬間、俺の回りを飛んでいた弾幕が向かってくる電撃の前に飛び出て、盾となって電撃を防いだ。
お、おぉ......この弾幕、自動防御機能とかあるんだ......
俺が唖然としている間にも、金髪男の攻撃は俺に向かって飛んでくる。
が、それもまた彩歌の弾幕が防いだ。
俺は今のように自動防御弾幕有り。
それに対して金髪男には彩歌の弾幕が流れ込んでいる。
......ここまでのハンデがあっても、まだ俺にはキツいこの状況。本当に自分の力のなさが嫌になってくる。
それでも、金髪の注意を彩歌から逸らすにはもう石の投擲だけじゃ足りない。
それなら......攻めるしかない!
俺は再び金髪男に接近していく。
金髪男はまた電撃を放ってくるが、かわせるものはかわしかわし、かわせないものは彩歌の弾幕の迎撃機能に任せる。
金髪男は、俺の攻撃射程に自分が入った瞬間、また後方に下がる。
どうやらとことん距離をとって戦うつもりらしいが、さすがにそう何度も逃がしたりはしない。
金髪男が後退したその場所は、さまざまな瓦礫が積み重なったその上。
その位置なら追撃可能だ。
俺は瓦礫の下の方から飛び出ている鉄骨を、魔力を込めた拳で全力で殴る。
すると、てこの原理で俺が殴った鉄骨の、逆の先端が一気に跳ね上がり、金髪男が立っている瓦礫そのものが宙に浮く。
鉄骨を殴った右拳が死ぬほど痛いが、今は気にしている場合ではない。
金髪が体勢を崩している、今がチャンスだ。
俺は跳び上がり、金髪男との距離を詰める。
金髪男はまだ体勢を整えていない、いける!!
「はぁぁあ!!」
俺は右拳を引き絞り、一気に振り抜く。
そして、肉と肉がぶつかり合う鈍い音を響かせながら、俺の拳は金髪男の顔面を殴り飛ばした。
今のは完全に入った。これなら少しぐらいは怯んでーー
「らぁっ!!」
「ぐっ......ばふ!?」
だが、俺の予想に反して金髪男はすぐさま俺の腹に蹴りを入れてきた。
どうやら彩歌の防御弾幕は、相手本人には当たらないようになっているらしく、相手が近すぎると防御効果が薄いようだ。
いや、そもそも今の完全に俺が油断していた。
しかも金髪男の反撃はまだ終わっていない。
異種返しのつもりなのか、俺が先ほど使った鉄骨を磁力で操っているのか宙に浮かせ、そのまま一気に俺に向かって射出した。
っ! これは喰らったらヤバい!!
俺は宙で可能な限り体を捻って鉄骨をかわそうとする。
なんとか直撃は免れたが、鉄骨は俺のすぐ隣を通過する際、俺の左腕を引っかけていき、その勢いで俺は瓦礫だらけの床に叩きつけられる。
今の鉄骨はあまりの質量のせいで彩歌の防御弾幕でも防ぎきれなかったようだ。
俺はすぐさま立ち上がるが、不意に激痛が走り左腕を見る。
......とりあえず折れていることは間違いないとして、中の筋肉やら血管がズタズタにされていないことを祈る。
しかし参った。まさかあそこで反撃してくるとは......
こっちはずっといっぱいいっぱいだってのに、左腕もこんなんになっちまったし......
でも、まだ動ける。
彩歌から30秒お願いと頼まれたんだ。
ならせめてその時間までは動いてみせないと!
俺は痛みを堪えるため歯を食い縛り、再び金髪男に向かって走り出す。
30秒経過まで、残り10秒。
光野彩歌は攻めあぐねていた。
だがそれは相手が強いだからとか、相性が悪いからだとかそんな理由ではない。
『やりすぎないよう攻撃する』のが難しくて、攻めあぐねていた。
実際のところ、彩歌か奈菜、どちらか1人がいれば相手3人を倒し、捕縛するぐらいのことは容易い。
それほどの実力差があるのだ。
(でも、かえちゃんにこういう時はできる限りアッキーに戦うチャンスをあげてって言われてるんだよなぁ)
楓が明のことを気に入っているのは彩歌も気づいている。
彩歌自身も、先ほどの会話通り明のことを気に入っているからだ。
「ふっ!」
彩歌は根黒の行く手を塞ぐように光弾で攻撃し、同時にその光弾と挟み撃ちにするようにレーザーで追い討ちをかける。
もちろん、止めは指さない程度に。
その間にも、彩歌は明の戦いっぷりを横目で見る。
正直、明はこれ以上ないぐらいに善戦している。
彩歌が援護しているとはいえ、まだ能力覚醒に至っていない明が能力者と渡り合っているのだ。
それはナイフを持った小学生が機関銃や大砲をフル装備している戦車に立ち向かっていくほどの実力差があるはずだ。
そんな状態で明はもうかなりの時間戦っている。これを善戦と言わずになんと言おうか?
だがそれはあくまでも善戦。善戦=勝利には繋がらないのが現実の非情なところだ。
現に、明は先ほど金髪男の攻撃を受け、左腕に致命的な傷を負っている。そんな状態では明がやられるのも時間の問題だろう。
それでも、明は逃げない。
どれだけ絶望的な状況になっても明は現状を打破しようともがき続けている。
そんな行動が、戦闘歴ほぼ皆無である明ができるだなんてどうかしている。
そんなところが明のすごいところで、面白いところだ。彩歌はそう思っていた。
だが。
「はぁぁっ!」
「くっ......そ!!」
金髪男が放った、今までとは比べ物にならないほどの電撃を明は彩歌の弾幕だけでは防ぎきれないと考えたのか、近くに転がっていた巨大な瓦礫を迫り来る電撃の前に盾のように突きだし、それに当てることで威力が落ちた電撃をなんとかいなしていた。
しかし、それを金髪男も読んでいたのか、自分が放った電撃に少し遅れるような形で自分も明に接近し、電撃をいなしたことで無理な体勢になっているなっている明に一撃いれようとする。
至近距離。彩歌の防御弾幕も機能しない距離だ。
しかしその瞬間、彩歌が先ほど宣言した30秒が経過した。
明はついに30秒稼ぎきったのだ。
(ここまでかな。アッキーやっぱすごいねっ!)
彩歌がにこりと笑うと同時、その体が急に輝きだした。
《ライトニングギア》
彩歌が得意とする技のひとつだ。この技は相手にダメージを与えることを目的とした攻撃系のものではなく、自分の体や他人の体にかけることで能力を変化させる
その効果は、本人が使う能力《光》の性質を自分の体に付加させる、というものだ。
そしてその付加する性質、それはーー高速化。
根黒が得体の知れない技を使った彩歌を警戒しようとするよりも早く、彩歌は根黒の懐まで高速移動し、その腹に拳を一撃叩き込む。
その一撃で根黒の意識は完全に沈み、それを確認した彩歌は再び超高速で移動し、今度は明と金髪男の間に割って入る。
彩歌がそれほどに移動しているにも関わらず、金髪男の攻撃はまだ明には着弾していなかった。
それほどまでに彩歌が速い。
彩歌は明を横目で見ると、ギリギリ彩歌の動きを目で追えたのか、明が驚いたかになっていた。
それを見て、彩歌は楽しそうに笑う。
「アッキー、お疲れさま」
彩歌は自分の背後にいる明に言うと、金髪男に止めの一撃を叩き込んだ。
やっぱり今回結構迷走している気が......
まぁ、そんな話はいいですね。今回明くんのデビュー戦でした。初めての癖になんかめちゃくちゃ戦えてね? というのはそれなりに理由があったりしますのでご安心を。
まぁ、それでも本人はかなり余裕なかったりしっちゃかめっちゃかしてますけど。
次回は......後日談?かな?