炎の少年~Only one Faith~   作:Aruki

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長いです。下手したらSAOの方と通算で考えても一番長いです。



第3話 新たな一歩

「あ、深井さんお帰りなさい......ってなんで部外者を連れてきてるの!? ダメですよ、せめて気絶させてからじゃないと!!」

 

 気絶って......物騒だな。

 あの後迷った末、俺は奈菜について行くことにした。

 あのまま寮に戻ったりなんかしたら肩の傷を見られて間違いなく大騒ぎになるし、病院に直行しても最終的には警察沙汰になる。

 その時に『能力者にやられました』なんて言っても、ただ治療行程に精神カウンセリングが追加されるだけだ。

 奈菜についていけば肩の傷も手当てしてくれるって言うし、なにより、

 

『先輩は強くなりたいのだと思っていたのですが......違うんですか?』

 

 俺と接していて何をどうした結果そのような考えに至ったのかは分からないが、その言葉に心が一切揺さぶられなかったかと言われると言葉につまる。

 そして奈菜に言われたその言葉で着いていくことを決心し、奈菜が片腕突っ込んでいたあの不思議空間に入って抜けた先に俺よりも年下の女の子が立っていて、今のような状況になる。

 ま、まぁ、最悪治すだけ治してもらってらって、なんか変な集団だったら帰ればいいし? ......帰れるよな?

 そんな微妙な不安を飲み込みつつ辺りを見渡してみると、まぁ、当然と言えば当然だが、不思議空間を抜けた先は俺たちが先ほどまでいた公園ではなかった。

 どこかの建物の中の通路なのか、左手側には茶色がかったペンキが塗られたコンクリートの壁、右手側には上下の階が見える吹き抜け式の空間ができている。

 しかもどこを見ても人がいるのでかなり賑やかだ。

 中には俺と同い年ぐらいの人もいるせいで、今自分がいる場所が、町中のただのお店のように思えてくる。

 だが、先ほどの奈菜は、能力者組織と言っていた。

 ということは......ここにいる人たちはみんな能力者なんだよな。

 

「先輩は《能力者》に攻撃された被害者です」

 

「先輩って......この人のこと? どちらにせよここを知られるわけには......」

 

「大丈夫ですよ、先輩は確かに不信ではありますが、一応関係者ですから」

 

 俺が周りを観察している間にも二人の会話は進んでいく。あと奈菜、今の一言絶対余計だろ。

 さらに2言3言話すと、女の子の方が折れたらしく、こちらへどうぞ......とため息をつきながら歩き出した。

 医務室に案内してくれるらしい。なんか俺のせいで申し訳ない。

 でも、別に奈菜が連れていってくれればいいと思うんだけど......

 

「私、日本支部に来たのは今日なんです」

 

 俺の疑問が顔に出ていたのか、奈菜が補足してくる。

 なるほど、だから道が分からないわけか。

 

「では、行きましょうか」

 

「あぁ......って、そういえばさっきの男はどうしたんだ?」

 

 今まで気づかなかったが、いつの間にか奈菜が先ほどまで拘束していたはずの男がどこにもいなかった。

 

「さっきの人なら彼女に引き渡しましたよ」

 

 奈菜は前を歩く女の子を見て言う。

 

「彼女は空間を操る能力を使えるので、さっきの人は......まぁ、先輩も将来お世話になる牢屋のような場所に送ったと思いますよ」

 

「なぁ、それはギャグなんだよな? 今の俺自分の現在地もよく分かってないんだからそういうジョークやめてもらえませんかね?」

 

「さっき私たちがここに来るまでに通った《道》も彼女が作ってくれましたし」

 

 とりあえず俺の要望は届かないらしい。今さらか。

 なので他に気になったことを考えることにする。

 

「能力、いや魔法? ってのも色々あるんだな」

 

「確か確認されているだけでも500は越えていたと思いますよ」

 

「500ぅ!?」

 

 そりゃこんだけ人がいるわけだ......

 しかも奈菜はその後に、「その500から人それぞれ派生していくので本当はもっと多いですよ」とか付け加えていた。もう訳が分からない。

 俺があまりの途方のなさに愕然としていると、隣を歩いている奈菜が俺を観察するような目で見てくるーーってまたか。

 

「なんだ?」

 

「あの、さっきから気になっていたんですが......」

 

「着きましたよ」

 

 奈菜が何か言い書けると同時、前を歩く女の子が声をかけてくる。

 見るといつの間にか目の前には壁とは違う色の、白い扉があった。

 

「ここが医務室です。怪我の手当ては中にいる先生にお願いしますね」

 

 言うと、女の子は今歩いてきた道を戻って戻っていったかと思うと、不意に途中でその体が消えた。

 一瞬驚いて声をあげそうになったが、奈菜がさっき言っていた能力を使ったのだろうと当たりをつける。

 けど、知ってて改めて見てもかなり驚くな......

 

「つっ......!」

 

 急に右肩に鋭い痛みが走る、どうやら時間をおいたせいで奈菜の応急手当の効果が切れてきたようだ。

 傷がこれ以上悪化しないうちに早く診てもらおうと扉をノックする。

 

「はーい、どうぞー」

 

「失礼しま......うわ」

 

 扉を開けた瞬間、場合によっては失礼とも取れる声が出てしまった。

 でもそれも仕方ないと思う。扉の先にはこれでもか、というほどにまっピンクな空間が広がっていた。

 ベットもピンク、壁もピンク、椅子やカーテンもピンクと、正直目が痛くなる。というかこれって、医務室としていいの? ちょっとしたラブホみたいな雰囲気になってるんだけど。いや、行ったことないけどさラブホ。

 ......はっ! もしかしてこれもなにかの能力だったり、なにか特殊な効果があったりするんじゃないだろうか!?

 そう思って奈菜を見るとーー奈菜も目が痛いのか、目をショボつかせていた。

 俺の予想は外れたようである。めっちゃ恥ずかしい。

 

「って、あれ?」

 

 そういえば、先生は?

 もう一度医務室のなかを見回すがやはり目に入ってくるのはピンクばかりで、俺と奈菜以外には誰もいない。

 でも、さっき声が中から返ってきたし......

 

「あー、こっちよこっちー」

 

 すると部屋の奥の方から妙に間延びしたような声が聞こえてくる。

 見ると奥にひとつだけカーテンが閉まっている空間があったようだ。部屋のなかがまっピンクすぎて気付けなかった。

 俺たちはカーテンの前まで移動し、シャーっとカーテンを開ける。

 一瞬開ける前に一言声をかけた方が良かったかとも思ったが、もう遅い。

 

「......なにやってんですか?」

 

 カーテンの向こうにいた相手は初対面、しかも年上っぽいのに態度が悪くなったのは許してほしい。

 だって、仕方がないじゃないか。

 何しろ、医務室の先生だと思われる女性がベットにうつ伏せで寝転がりながら左手には携帯ゲーム、右手にはペンを持ってかるてらしきものを書いており、極め付きには口に棒状のお菓子をくわえていたのだから。

 しかもこの人、着ている服(ナース服?)もまっピンクだし......

 これで髪もまっピンクなら全身まっピンク統一されているところだったが、髪だけはロングの黒だった。

 

「んー、見ての通りお仕事してるよー?」

 

 いや、どう好意的に解釈しても仕事しているようには見えないんですけど......

 

「日本人は勤勉とはよく聞きますが、まさかいくつもの作業を同時にこなすだなんて......すごいですね」

 

「奈菜これ違う。これ悪い例だから」

 

 確かにここまでいくつものことを同時にできていることはすごいと思うが、こんな残念な方向のものを日本の一般常識だと思ってほしくない。

 俺が奈菜を止めつつ呆れていると、軽快な電子音が部屋に響く。

 

「やったー! ノーミスクリアー成功ー! と、同時にお仕事終了ー!」

 

 叫ぶと同時女性は、バン、とゲーム機とペンをベッドに叩きつけ、お菓子は一気に食べる。

 さっきの電子音はゲーム機からだったようだ。

 そしてそのまま頭まで布団を被りーーって、おいおい!

 

「いや、ちょっと寝ないでください!!」

 

「うーん、なによー。おねーさんは疲れてるんだから寝かせてよー!」

 

「ちゃんと仕事しろよ!?」

 

「もーう、血の気多いなー。アドレナリン分泌されすぎじゃないー?」

 

「むしろ傷口から放出しまくりだよ!!」

 

「おー、今の上手いねー」

 

 うがーーーーーーーー!! ああ言えばこう言う人だな!! 初対面でこんなにイラついたのは初めてだっつの!!

 しかも声が間延びしているせいで余計に小バカにされているような気がしてくる。

 頭を全力でかきむしりたくなるが、肩が上がらないので我慢する他ない。

 

「賑やかですね」

 

 今まで黙っていた奈菜には再び訂正を入れておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、脱臼と裂傷ー、その他ってところだねー」

 

 結局頑張って女性ーー楓さんを起こして(ベットからは降りなかった)今は俺が椅子に座って肩を見てもらっている。

 検診の際、今は肩が上がらないこともあって服を脱ぐは辛いのでどうやって脱ごうかと頭を捻っていたのだが......

 

「あの、本当に服の上から見ただけで分かるんですか?」

 

 楓さんが「脱がなくてもいいよー、分かるから」と言ったときは驚いた。

 しかも人目見ただけ。触診もなし。とうところでさらに驚いた。

 ......本当、能力者だったりなんだったり、ここは人外ばっかりだな。

 

「うーん、まー、もう何千人とみてきたからねー。君が女の子の前でどうしても脱ぎたいって言うのなら止めないよー?」

 

「言いません!!」

 

「先輩......それはさすがに通報されますよ」

 

「だから言ってないじゃん!?」

 

 俺と奈菜のやり取りをよそに、楓さんは少しは俯いて考える素振りを見せる。

 ......この人はあれだ。典型的な喋らなければモテるタイプ。

 服装はともかく、顔の造形は少し童顔ではあるが非常に整っていて、こういった何か考えているときのように落ち着いているときは大人びてそれこそ美人だ。

 ......どうでもいいけど、こういう医務室やら保健室やらというのは美人の女性がやる、というきまりでもあるのだろうか? いや、本当にどうでもいいんだけど

 

「風音ー、扉のとこにいるのは知ってるからこってきてー」

 

 顔をあげた楓さんが出入り口の方へ声をかけた直後、ガタン、という何かが扉に当たるような音と、人の驚き声が同時に聞こえてくる。

 それから待つこと約10秒、慎重に扉を開けるような音が聞こえ、誰かがこちらに歩いてくる。

 そしてベットの前のカーテン辺りまで来ると。

 

「お姉ちゃん、来たよ......」

 

「おー、風音来たねー。っていうかこっち来なよー」

 

「でも......」

 

「もー、相変わらずだねー、風音の人見知りー。まー、とにかく彼ー、肩の傷酷いからよろしくねー」

 

 風音、と呼ばれた女の子がカーテンの向こうで小さく唸るのが聞こえてくる。

 彼女は楓さんに言われて俺を見るーーが、俺と目が合うなり小さく悲鳴をあげて目を逸らしてしまった。

 そりゃあ、確かに顔は言い方じゃないけど......ちょっと傷つく。

 

「俺って、そんなに顔怖いかな......?」

 

「そんなことないですよ。ブルドックといい勝負できますよ先輩は」

 

「それ、フォローになってないからな?」

 

「はい、初めからする気ないですし」

 

 ......冗談だよな?

 相変わらず表情がよく分からないので本心なのか建前なのか分かりづらい。

 でも、さすがにブルドックレベルではないはずだ......多分。

 

「あ、あの......」

 

「あ、うん」

 

「その......肩の治療するから、ここに肩当ててくれないかな......?」

 

 風音が自分が握っているカーテンを指差す。

 

「ん、了解」

 

 ......それにしても、顔半分をカーテンで隠して話すその姿はちょっとシュールだ。

 顔半分と上の服しか見えないが、出ている部分だけでも可愛いタイプの顔だということが分かる。

 髪は少し茶髪がかった黒でショート。身長的には奈菜の方が低いはずなのだが、そのおどおどした仕草のせいか風音の方が年下に見える。

 あと何気に安心したのは、風音が着ている服はピンク色一色でもなければ、ナース服でもなく、普通の服だったことだ。

 楓さんに続いて妹の服まで一色コーディネートとか残念すぎるし。

 言動から楓さんとは姉妹らしいが......なるほど、確かに外見『は』少し似ているかもしれない。外見『は』。

 とりあえず俺は彼女の指示通りカーテンに近づいていく......のだが、1歩、また1歩と近づくごとに風音がビクビク震えているのを見ると、、精神的にかなり辛い。帰ったら整形しよう、そんな考えが脳のなかを駆け巡るぐらいには、ぐすん。

 そしてそんな風音の姿に業を煮やしたのか、もーう! と楓さんは立ち上がると(楓さんが立った!!)、風音が隠れているカーテンに近づき、

 

「そんなことだからいつまで経っても人見知りが治らないんだよー!!」

 

 そう言って一気にカーテンを引いた。

 それはつまり風音が今まで隠れていたカーテンがなくなるということで。

 それはつまり俺から風音が丸見えになるということで。

 それはつまり......

 

「っっっっっきゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 

 人見知りらしい風音が俺と正面から向かい合って悲鳴をあげるということだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終的に、なぜか奈菜に俺と風音の間に入ってもらって菜奈の後ろから風音が俺に手を伸ばす(どうも触れないと能力を使えないらしい)形になった。

 この謎の体勢に非常にツッコミたいのだが、すでに実行されているのでタイミングを逃してしまった。

 しかも横目で見ると、唯一の傍観者である楓さんは椅子に座ってなんかニヤニヤ笑ってるし......

 せめてもの救いとして奈菜と反対側を向くことで、なんとか至近距離で向かい合わせになることを防げたことだけど......

 

「それでもこれはちょっと......」

 

「ちょっと、動かないでください先輩」

 

「わ、ごめん......」

 

 立って治療を行うわけにもいかないので俺たちは今座っている。

 ......ベッドの上に。

 構図としては、ベッドの端に俺、真ん中に女の子座りで奈菜、奈菜を挟んで向こう側に風音だ。

 つまり、奈菜と異常に近い。単純計算で風音の腕の長さの半分程度の距離しかないわけだ。

 身動ぎするだけで肘とかが当たったり、その際に奈菜の小さな声が聞こえてきてしまうほど近い。

 しかも残念なことに俺はこんな状況で冷静にいられるほど女の子にも慣れてはいないのだ。

 ぶっちゃけて言えば......なんか後ろから良い香りとかが漂ってきてヤバイっす。

 あと後ろからの殺意溢れる視線にも慣れてない。人って視線だけでも死ねるんじゃないだろうか?

 そんなリアル天国と地獄のせいで俺の精神力がもうガリガリ削られているわけです。......まじで困った。

 

「じゃー、風音が治療している間に私がいくつか質問するから答えっていってねー」

 

「ちょっと待て、事の元凶!! あんあたがこの体勢でやれって言ったんだろうが、放置するな!!」

 

「えー、だって面白映像は見れたしー。もういいかなってー」

 

「勝手すぎる!?」

 

「先輩うるさいです、風音先輩が震えているじゃないですか」

 

 しまった、声が大きすぎた。

 

「ごめん風音!」

 

「う、うん......」

 

 こんなに近くにいるんだから風音が怯えていることぐらい気付いてもよかったのに......迂闊だった。

 これからは気を付けないと。

 だから「わー、明君最低ー」とか言ってくる楓さんも頑張って無視しないと。ツッコんではダメだ。

 

「じゃー、まずーーー」

 

 しかも俺が反応しなかったらしなかったで自然と質問始めるし......本当にマイペースな人だな。

 楓さんの質問が始まると同時に風音による治療が始まる。彼女は治癒魔法が使えるらしい。

 その効果は高く、始まった瞬間から湯船に浸かったような少し体温が上がる心地のよい感じが肩回りに広がり、開始5分で肩の痛みが打ち身程度になるほどだった。

 

「私よりもお姉ちゃんの方がすごいんだけどね......」

 

 とは、奈菜と風音の会話のなかでの風音の台詞だ。

 だが、風音のこの治癒能力も十分すぎるほどすごいと思う。その、能力者たちの常識というのはいまいち分からないが、少なくとも電気ショックによる痛覚の強制麻痺を発生させる真後ろの女の子よりもすごい。いや、奈菜に感謝してないわけではないけど。

 素直に賛辞のつもりで二人の会話に口を挟むようにそう言って、風音が悲鳴をあげてしまったのは俺の失敗だった、申し訳ない。

 あと奈菜に後ろから肘鉄を脇腹に入れられたのも俺の失敗だった。ちくしょう。

 そして質問の方は、何を聞かれるのかと少し身構えていたのだが、俺の予想に反して楓さんが聞いてきたのは普通の病院で診断書に書くようなことだけだった。

 俺がそのことに少し驚いていると。

 

「まー、KTFって一応国家機関だしー、この辺はちゃんとしないとねー」

 

 とのこと。

 言われてみて改めて気がついたが、確かにそうだ。

 まだ、ちょっと変な集団の集まり、という可能性が残っていたが、よくよく考えるとこんなに大きな建造物(全長は未だ分からず)が国にばれずに、しかも国の力を借りずに存在できるわけがない。

 

「さてー、質問事項はこれで終わりだよー」

 

「こっちももうすぐ終わるよ」

 

 時間が経過したことと、奈菜との会話でだいぶ緊張が解けたのか、風姉の声からは先ほどまでの余裕のなさは感じられない。

 ......まぁ、俺が話しかけたりしたら一発で逆戻りなんだろうけど、なんか悲しい。

 

「じゃー、治療が終わるまで世間話でもしようかー」

 

「別に良いですけど......俺、能力者の世間話なんて分からないですよ?」

 

「はははー、明君、面白いこと言うねー。風音だって奈菜ちゃんだって学校通ってるでしょー? そんなに世界観は変わらないよー?」

 

 そういえばそうか。

 さすがに楓さんにも年齢を聞くだなんて愚行はしないけど、見た感じ風音とそんなに変わらないみたいだし、楓さんの言う通り世界観はあまり変わらないかもしれない。

 現に、奈菜とは朝普通に会話できたし。

 

「うーん、じゃーとりあえず私から聞くけどー......明君なんか変に慣れてないー?」

 

「慣れてるって......何にですか?」

 

「大抵の人は能力だとかー、能力者だとか言われたら普通は錯乱するか現実逃避するのにー、君にはそーゆーのがないんだよねー」

 

「あ、それは私も気になっていました。先輩は順応が早すぎます」

 

「あー......これでも結構驚いたりしてますよ?」

 

「驚く、で留まっていることがすでに異常なんだよー?」

 

 あちゃー、やっぱ本業の人には分かるのか。

 確かに、人間というのは自分が持っている常識と目の前で起こっていることが離れれば離れるほど、信じられなく、受け入れられなくなる生き物だ。

 それは自分が今まで積み重ねてきた常識というものが崩れるのを防ぐために信じられなくなるらしいが、それは積み重ねてきたもの次第で変わってくる。

 そう、今回の件で例えればーー

 

「まぁ、俺、《経験者》ですからねぇ」

 

 ーー俺のように、今まで積み重ねてきたものの中にそういった《非常識》が含まれている場合だ。

 そもそも、俺のなかでは能力だの魔法だのといったことは、あまり《非常識》ではないのだ。

 それはやはり過去に色々あったからなのだが......まぁ、今はそこはいい。

 だが、俺のような考えをする人はかなり少数派だということは分かっているので、少なからず楓さんたちも驚くと思っていたのだが......

 

「へー、経験者ってことは前にも襲われたことがある口ー?」

 

「えぇ......10年ぐらい前ですけど」

 

「やっぱりかー、なんかどこかで見たことのある顔だなーってずーっと思ってたんだー。思い出せないけど前にも会ったことがあるみたいだねー私たち。多分前にも私が怪我を見たことあるんだと思うよー」

 

 なんと、こちらが驚かされてしまった。

 前にそういう経験をしたのはもう10年ぐらい前なので詳しくは覚えてないが......

 でも、そうか、前にもこの人と......

 

「んー、どうしたのー? 急に俯いちゃってー」

 

「いや、なんか俺って、結構波乱の人生送ってるなー、と思って......」

 

「確かに2回も《能力者》に襲われるなんて波乱だねー」

 

 いや、それもだけど人生で2回もあなたみたいな人と出くわしたことに対して項垂れてただけです。

 そんな風に楓さんと話していると、奈菜が後ろから背中を小突いてきた。

 

「......先輩は《能力者》ではないんですか?」

 

「俺が? まっさかー」

 

 そもそも俺に奈菜たちのようななにか特殊な力があれば、さっきだってなにか応戦していただろうし、今こうして治療だって受けていなかったと思う。

 で、俺はか弱い人間だから今こうしているわけだし。

 ......まぁ、本当は近いものがあったりなかったりするんだけど。

 

「でも、さっきの男に対して力を使っていましたよね?」

 

 うぐっ。

 ちょうど今考えていたことを言い当てるように奈菜に言われて一瞬驚く。

 確かに、俺はあの男を攻撃する際、ちょっとした《力》を使った。

 でもそれは奈菜たちが使っているようななにか方向性のある《力》ではないので、黙っていたのだが......やはりこれもさすがは本業。すぐにバレてしまった。

 しかも俺の気まずさに目敏く気がついた楓さんが、ここぞとばかりに口を開いてくる。

 

「なるほどねー、おねーさん色々分かっちゃったー」

 

「......何がです?」

 

 嫌な予感はしつつも聞くより他にないので聞いてみる。

 すると楓さんは、ビシィ!! と俺に人差し指を向けてくる。

 

「君、多分親が能力者でしょー?」

 

 楓さんの言葉に俺を含めた楓さん以外の3人の空気がそれぞれ変わる。

 奈菜と風音は驚きに。俺はーー警戒に。

 俺は努めて声質が今までと変わらないように口を開く。

 

「なんでそう思ったんですか?」

 

「ふっふっふー、簡単なことなのだよワトソン君」

 

 いや、ワトソン君って......確かに俺の返しも悪かったけどさ?

 もうちょっと他に言い方はなかったのだろうか?

 そんな俺の微妙な空気など無視して楓さんは続ける。

 

「能力の経験者、君自身能力に近いものが使える、そうなったらもう、親が能力者としか考えられないからねー」

 

 まぁ、そりゃそうだろうな。

 この人たちの常識は知らないが、親が能力者なら経験者、能力が使える、というのは当然のように考えられる。

 特に能力が使えるという方。これは親に教わったと考えられるし。

 というのが俺の考えだったのだが。

 

「親が能力者だったら力が遺伝するしねー」

 

「へ?」

 

 楓さんから返ってきたのは俺の予想に反した言葉だった。

 え、この力って見たり習ったりすることで使えるようになるものじゃないの?

 俺のそんな反応に疑問を感じたのか、首を傾げて楓さんが聞いてくる。

 

「君ー、『こっち』のことどれぐらい理解してるのー?」

 

「えっと......」

 

 とりあえず朝にも考えていた世の中の人の《魔法事件》に対する考え、《非現実》に対する俺の考え、そして最後に、魔法や能力が実際に存在していることを俺が知っているということを楓さんにも伝えた。

 それに対して楓さんはフムフムと満足そうに頷く。

 

「こんなもんですけど......間違ってました?」

 

「ぜーんぜん、むしろ『こっち』側の人じゃないのにすごい理解力だと思うよー?」

 

「でも......なんだかちぐはぐな理解だね......」

 

 うーん、やっぱりそうなのか......

 父さんたちからも直接話を聞いた訳じゃないし、やっぱり風音が言ったように微妙、といった所なのだろう。

 

「まー、色々省いて説明するとねー、この世界にいる能力者っていうのは大きく分けて2種類なのー」

 

「公式の能力者組織に入っているか否か、です」

 

「でー、公式の能力者組織っていうのはー、大体が治安組織みたいなことをしてるんだー」

 

 楓さんとは奈菜が続けるように説明してくれる。

 公式の能力者組織、というのは多分ここ、《KTF》のような組織を指すのだろう。

 奈菜が俺のことを助けてくれたことが治安活動ということだろう。しかもそのあと連行とかもしてたし。

 

「じゃあ、俺のことを襲ってきたのは......」

 

「はい、後者です」

 

「まー、でもー、あの手の力を示したいだけのタイプは言うほど強くないから大丈夫大丈夫ー」

 

 楓さんが軽く言ったのに対して、俺は冷や汗をかく。

 あ、あれでも強くないのか......

 確かに奈菜はさっき瞬殺してたけどさ......

 俺が楓さんの言葉に唖然としていると、楓さんが、でもー、と付け加える。

 

「いくら弱くても君から見たら十分すぎるほど強いしー、君これから危ないかもねー」

 

「危ないって......なんでですか?」

 

「んー、簡単な話なんだけどねー。君みたいな弱い能力者っていうのはあーいう奴らに狙われやすいんだよー」

 

 狙われやすいって、なんで......と、そこまで考えて先程の映像が思考に浮かぶ。

 そういえばさっきの男、力を使いたいみたいなこと言ってたな......

 で、力を使う場合、ただの岩よりも生きた人間の方がいいように、ただの人間よりも少し力を持っている人間の方が自分の力が分かりやすいわけで......

 ってことは。

 

「腕試しにちょうど良いからですか?」

 

「おー! 本当に理解力高いねー。まー、もっと言うと力を誇示できるから、なんだけどねー」

 

「力を、誇示......」

 

 つまり、普通の人よりもちょっと強い俺を倒して、「どうだー、俺は強いだろう!」と言い張りたいというわけか。

 

「うんー。組織に属していない人たちにもコミュニティはあるからねー。多分今ごろは君の情報が無所属の人たちにいきまくってると思うよー。ちょうどいい獲物がいるぜーげへへー、みたいな感じでー」

 

「そうなったらもう展開は早いと思います。力はあるけど弱い先輩を倒して、少しでも名を挙げようと多くの能力者が襲ってきますよ」

 

 ......言いたいことはたくさんあるけど、マジですか? 俺今そんなに不味い状況なんですか?

 あと、さすがに弱い弱い連呼されるとイラッとくるんですけど。いやまぁ、事実なんですけどね?

 だが、そんなことよりも。

 

「それで、どうしてそんなことを俺に言うんですか?」

 

 そこだけはどれだけ考えても分からない。

 昔、《魔法事件》に巻き込まれたときも助けてもらったからーー今考えればそれも《KTF》だったのだろうーーから《KTF》が治安維持のようなことをしているのはなんとなく分かった。

 なのでもしも今回のようなことが再び起こっても、また俺を助けに来てくれたりするのだろう

 だったらそれでいいじゃないか。

 楓さんが今言ったような情報は、守られる側には不必要なことだし、世間話なんて日常会話でなにも知らない一般人に伝えていい内容でもない。

 なので《KTF》側からすれば、「君は狙われている。が、私たちが守る」それだけで良いのだ。

 なのに楓さんは、わざわざ説明してきた。それはどういうつもりなのかーー

 楓さんは俺の質問にまた笑う。

 

「......へー、君ー、本当に面白いねー」

 

 その声や雰囲気は今まで通り少し人を小バカにしているように見えるが、明らかに空気が張り詰めている。

 どうやら、ここからが《世間話》の本題のようだ。

 楓さんは一度間を置き、咳払いする。

 そしてーー今まで通り軽い調子で言った。

 

 

 

「君ー、ウチに入らないー?」

 

 

 

「ウチにって......《KTF》にですか?」

 

「そー♪」

 

 楓さんに詳しく話を聞くと、俺が《KTF》に入れば組織の一員になるわけだからもしも襲われても簡単に守れるし大丈夫、しかも俺を襲ってきたらそいつを取っ捕まえれば良いとのことだ。

 なるほど、もとから俺を勧誘する気があったのなら、今まで楓さんが一つ一つ説明してくれていたのも納得できる。

 俺は身の安全が約束されて、楓さんたちからすれば無所属の能力者というある意味のテロメンバーを捕まえられる。確かに完璧な利害の一致だ。

 まだ一つだけ腑に落ちないことはあるが......まぁ、それはいい。

 一応奈菜と風音の様子を見るが、二人は少し驚いている。やはりこの二人は楓さんが俺を誘うことは知らなかったようだ。

 俺は楓さんは見つめ返す。

 

「あの、一つだけ聞いてもいいですか?」

 

「どうぞー?」

 

「......ここに入ったら、強くなれますか?」

 

 俺がここに来ることを決めたのには、体を治してもらう他にももう一つ理由があった。

 それは、

 

『先輩は強くなりたいのだと思っていたのですが......違うんですか?』

 

 という奈菜の言葉につられてだ。

 俺は強くなりたい。

 昔、《魔法事件》に巻き込まれたときに思い、願ったことだ。

 だが、その当時の俺は幼く、現実というものを知らなかった。

 そしてそれを時間の流れと共に知ることにより、俺は自分の願いが無謀であり、絵空事であることを知った。

 俺は、他人と少しだけ違うだけでテレビとかに出てくるようなヒーローなんかではないと。

 それが昨日までだ。

 しかし、それも今日で変わった。

 いや、思い直したという方が正しいかもしれない。

 俺はあの男に殺されかけたとき、強く願ったのだ。

 強くなりたいって。

 もう、なにもできないのはたくさんだって。

 

「うーん、強くなるっていうのは戦闘能力的な意味でー?」

 

「はい」

 

「そりゃー強くなれるよー? まー、君が強くなるのか先か、君が死ぬのが先かは分からないけどねー」

 

 死。

 そんな言葉が当然のように出てくる。それがここから先の世界。

 非現実。非日常的な世界。

 

「先輩が戦う必要性はどこにもありません。先輩が『こちら側』に来る必要性もどこにもありません......それでも、先輩は『こちら側』に来ますか?」

 

 最後に、奈菜がまるで試すかのように俺に問いかけてくる。

 ここから先は、まったくの別世界と考えていいだろう。

 俺が想像するよりも、さらに恐ろしい世界が待っているかもしれない。まさしく、闇のなかに入っていくといっても過言ではない。

 ここで断っても誰も怒らないし、誰も責めてはこないだろう。

 ......だが、ここで断れば、俺は取れる選択肢を取らなかったことになる。

 俺はもう、なにもできずに後悔なんてしたくない。

 だから、新たな一歩を踏み出すのだ。

 俺は確かな思いを込めて言う。

 

 

 

「強くなれるのなら、どこにだって踏み出してやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 このとき、いや、もしかしたら奈菜に助けてもらったあのときから、すべてが始まっていたのかもしれない。

 




説明会って難しいです。
しかももう少し続きそうです。
あと多分次回は新キャラ(女の子)が出てきます。やったね!
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