炎の少年~Only one Faith~   作:Aruki

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よし、今回は前回ほど長くないです。なかなか文字数が纏まらなくてすいません......



第4話 紋章

「よし! もう動いていいよー」

 

 風音の治療を終えたという報告とともに楓さんが言う。

 それに応じてベッドから立ち上がり、恐る恐ると右肩を回してみる。

 

「......お、おぉー!! すげぇ、全然痛くない!!」

 

 正直またあの激痛が走ったらどうしようと怖かったりしたのだが、そんなもの無用の心配と言わんばかりに俺の右肩は軽かった。

 さらに勢いをつけてグルグルと回してみるが、もちろんなにもない。

 それどころか元よりも軽くなった気さえする。

 まるで右肩のパーツを新品に取り替えたみたいだ。すげぇすげぇ。

 風音にお礼を言おうと顔を向けると、風音はまた怯えたように奈菜の後ろに隠れてしまった。

 

「あ、ごめんな。また大声だして......でも、本当にありがとな、風音」

 

「あ、いや......その......どういたしまして」

 

 風音は俺のお礼を俯きながらではあるが受け取ってくれた。

 やはり多少は怖がらせてしまったが、ちゃんとお礼を受け取ってもらえたことは嬉しい。

 さて! 怪我も治ったことだし、治ったことだし......どうしよう?

 本当ならこのまま帰るつもりだったんだけど、そういうわけにもいかなくなったし......

 

「じゃー、傷も治ったことだしー、儀式にいこっかー?」

 

「儀式?」

 

「うんー、まー、《KTF》のメンバーである証を受け取りにいくことだよー。奈菜ちゃんもまだだったよねー?」

 

 コクりと奈菜が頷く。

 

「じゃー、一緒に行ってもらおっかー。ってことで風音案内よろしくねー」

 

 言うやいなや楓さんはまたベッドに飛び込むと、そのまま布団を被ってしまった。

 もちろん、案内を丸投げされた風音からすればたまったものではない。

 

「ちょっと、お姉ちゃん困るよ......!」

 

 風音は必死に楓さんを説得しながら体を揺するが、楓さんはそれ以上動く気配がない。

 ......風音も大変そうだなー。可哀想に......

 と言っても俺になにかできるわけではないですが。

 そんなとき、ピピッという電子音がどこかから響いた。

 

「ん~?」

 

 楓さんは音に対して鬱陶しそうに唸りながら布団のなかをゴソゴソと探るような動きをすると、中から何か小型の機械を取り出す。

 楓さんがそれを何度か操作すると、急に楓さんの顔の前に小さなウィンドウが出現した。

 よくは見えないが、そのウィンドウにはなにか文字が羅列されているようだ。

 楓さんの視線が右に行ったり左に行ったりを何度か繰り返した後。

 

「奈菜ちゃーん。君が捕まえた男ー、ちゃんと無力化したってー」

 

「そうですか。よかったです」

 

 無力化? と俺が首を傾げていると、奈菜が小声で能力の使用を制限することだと教えてくれる。

 

「でもー、回りに被害を出すのはほどほどにって管理部の人怒ってたよー?」

 

「......すいません」

 

「まー、現場じゃないと分からない状況とかってあるし仕方ないと思うけどねー」

 

 楓さんは小型の機械をベッドの脇に放りながら言った。

 なんか大変そうだな。やっぱり戦うって言っても色々あるんだな。

 ......ん、被害?

 そういえば、朝学校で品川が何か言ってたような......

 それにさっきの男も......

 そこまで考えて俺の思考のなかで情報同士が繋がった。

 

「あーーーー!! もしかして朝の《魔法事件》の焦げ跡って......」

 

「君が言ってるのが空き地のことなら多分奈菜ちゃんのことであってると思うよー?」

 

 やっぱり。

 品川が言っていた一直線の焦げ跡っていうのも、多分奈菜の電撃か何かでできたものだったのだろう。

 さっきの男も「朝から付きまといやがってぇ!」的なこと言ってたしな。

 

「じゃあ、奈菜が朝言ってた用事ってのは......」

 

「......朝、先輩が気にしていた方向にあの男がいましたから。それと人の行動を詮索しないでください、ストーカーですか」

 

 ......ごめんなさい。

 それにしても、あの時の変な気配ってあの男のものだったのか。ものだったのか。

 ていうか、本当に人がいたのか。俺はてっきり気のせいだとばかり......

 

「じゃー、私は本格的に寝るから風音よろしくねー。あと奈菜ちゃんもこれで案内5回目なんだからそろそろ覚えてねー」

 

 瞬間、ビクゥ!! と音が聞こえそうなほど奈菜が固まったような気がした。

 そして楓さんはもう言うことはなにもないとばかりに、それを皮切りに本当に一言も話さなくなった......寝付きいいな。

 あ、そうだ。

 

「楓さん」

 

「くー」

 

 今時「くー」なんて言いながら寝る人はいませんよ楓さん。

 

「......まぁ、寝てるのならそれでいいです。でもとりあえずこれだけは言っておきますよ」

 

 会話しているときからずっと気になっていたことがあったので、一応言っておこうと思う。

 

 

 

「楓さん、嘘つくの苦手みたいですからあまり言わない方がいいですよ」

 

 

 

 これがずっと気になっていたことだ。

 さっきの楓さんの話、筋が通っているようで実際は通っていない。

 《KTF》からすれば、俺が《KTF》に入らなかったとしても俺を守ることはできるからだ。

 俺が狙われているのなら、結局俺になにも言わずにマークしてればいいだけのことだ。

 いや、それどころか俺が《KTF》に入ってしまえば、本当は俺を襲ってくるはずだった奴らまで襲ってこなくなる可能性まである。

 それなのに、どうして俺を勧誘してきたのかは分からないが、楓さんにも何か事情があるっぽかったし、まぁ、いい。

 そして俺の言葉には、当然のように楓さんは反応なし。

 

「じゃあ、その......行こっか」

 

 風音の言葉に返事をして、医務室から移動を開始する。

 ふと思ったのだが、今日の俺の本来の予定は高校の入学式だけだったはずだ。それがえらく遠いところまで来てしまったものだ......

 こう、案内されてばかりだと余計にそう思う。

 そんなことをなんとなしに考えていると、奈菜が俺の隣に並んできた。

 その様子は少し俯いていて表情が伺えない。

 

「あの......違いますから」

 

「えっ、何が?」

 

「その......これで案内が5回目だということがです」

 

 あー、なんかさき楓さんがそんなこと言ってたな......

 あれ? じゃあ、もしかして朝も......

 

「朝、あの男を追ったけど帰り道が分からなくて遅れた、とか?」

 

 隣からボフン、という音が聞こえてきた気がする。が、奈菜を見ても俯いているだけでなんの変化もない。

 

「だから、人の行動を詮索しないでください。怪我をした人を助けたというのは本当です......ただちょっとだけ知らない道に入ってしまっただけで......」

 

 少し小声になった気がする声で奈菜が説明してくる。

 声の調子から、奈菜がかなり恥ずかしがっているのは、今日あったばかりの俺でも分かった。

 うーん......触れてほしくないのなら説明しなければいいのに。

 ただ、恥ずかしそうにするその姿は、奈菜も俺と同年代だというのをはじめて実感させるには十分なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから風音に案内されること10分。

 廊下を歩いたり扉をくぐったりしたが、俺たちはまだ目的地にはついていなかった。

 ていうか、この建物でかすぎだろ!? 窓がないせいで外の様子は全く分からないが、こんなに大きな建築物が日本のどこかに建てられるとは思えないのだが......

 それも何かの能力でどうにかしているのだろうか?

 

「なぁ、奈菜。奈菜たち......ていうか俺も奈菜たちが使える不思議な力のこと《能力》って言ってるけど、さっきの男は《魔法》って言ってたよな。なにか違いってあるのか?」

 

「特にはないです。強いて言えば使う本人が自分の力をどのように認識しているのか、というぐらいです。例えば宗教が根強い力を持っている地域では《魔法》、先進国のような技術発展が著しい地域では《能力》という感じです」

 

「じゃあ、本質的には同じものなわけか......」

 

「そうです。私の故郷の方では《魔法》という表現の方が多かったのですが......風音先輩。ここがどうなっているんですか?」

 

「えっと......日本支部では一応《能力》っていう言い方で統一してるよ」

 

 顔半分だけこちらに向けながら風音が答えてくれる。

 本質的には変わらないものなら世界中で統一すればいいのに......って、これは無理か。科学が発展した地域に《魔法》なんて言っても無理があるし、逆もまたしかりだ。

 こっちの世界でもこういった認識の齟齬ってあるんだなぁ......いやまぁ、当たり前だけど。

 俺がそんなことを考えていると、前から誰かの視線を感じたので顔を上げる。するとそれに応じるように風音が慌てて顔を逸らしてしまった。俺がなにかしたわけでもないが、少し申し訳ない気持ちになる。

 でも、本当にこの風音とあの楓さんが姉妹っていうのは未だに信じられないな。

 似てるのなんてそれこそ顔と身長ぐらいで......あれ?

 風音を後ろから見ていると、妙な既知感に襲われた。

 この後ろ姿、どこかで......

 

「なぁ、風音」

 

「ひゃい!?」

 

 俺の呼び掛けに。そのまま垂直跳びでもするのかと言いたくなるほど体をピンと硬直させる風音。

 あぁ......またやってしまった。

 

「ごめんな? 急に声かけて......ちょっと気になることがあってさ」

 

「い、いや......あの、それで......?」

 

「あぁ......風音、俺と前にどこかで会ったことないか?」

 

「へ......?」

 

 俺の問いかけにポカンとした顔になる風音。

 あれ? 俺なんか変なこと聞いーーてはいるな、確かに。

 すると隣にいる奈菜が風音の代わりに口を開く。

 

「気付いていなかったんですか?」

 

「......何が?」

 

「風音先輩、私たちと同じクラスですよ」

 

 くらす......クラス?

 それって、学校の?

 

「って、うぇっ!? マジで!?」

 

 奈菜の言葉に驚くのと同時に思い出す。

 そうだ、この風音の後ろ姿。入学式の列で見たんだ。

 そう、あのときは確か2列で風音は俺の1つ斜め前にいた。

 1つ斜め前というのは、少し角度が変わるだけで顔が見えたりもするので意外と背中しか見えない自分の目の前の人物や顔を向けなければ見えない隣にいる人物よりも目につく。そんなこんなで俺は入学式の時なんとなくとだが風音に目が行っていた。

 その際にも、今のように斜め後ろから風音の豊満な胸に目が吸い寄せーー

 

「ーーグフッ!」

 

「きゃあ!?」

 

「......先輩、なにやっているんですか? 急に自分の顔を殴ったりして。自分の顔に嫌気でもさしたんですか?」

 

「いや、ちょっと虫がな......」

 

 ハハハと笑って誤魔化す俺。

 ごめんなさい。俺だって男の子なんです。大きいおっぱいとかあれば無意識に目が行っちゃうんです。

 しかも無意識のうちに拳に《力》集めてたせいで頬が超痛い。

 そんなことをしながら歩くこともう10分。前方に今までくぐってきた扉とは明らかに雰囲気の違う扉が見えてきた。

 近づくにつれて、雰囲気が違うのは扉だけではなく、廊下そのものだということが分かる。

 今まで歩いていた廊下の壁が病院などによくある真っ白な壁だったのが、今は白い壁に壁画? 紋様? のようなものが描かれていて、妙な圧力がある。

 そして扉の目の前まで来ると、そこは開いた巨大な立方体の空間になっていた。

 扉は高さだけでも7~8メートルはありそうで、それに合わせるように部屋の天井も高い。

 しかも扉は灰色の石でできているせいか、余計に物々しさに拍車をかけている。

 ていうかこれ、扉じゃなくてもはや門なんじゃ......

 

「この先か......」

 

 こんな門の先で行うのだ。儀式っていうのは相当壮大なものなんじゃ......

 

「あの......儀式はここでやるよ......?」

 

「へ?」

 

 俺がこの門の先にある光景に考えを馳せていると、風音が若干申し訳なさそうに言ってきた。

 あれ、ここ? この奥になんか仙人っぽい人がいたり、声も出ないようなすごい物が置いてあったりしてそこで儀式をするんじゃなくて?

 正直、こんなにすごい門をくぐれなくて少し残念。

 はぁ、と心のな中でため息を溢していると、それに被るように隣からも小さくため息のような音が聞こえてきた。

 驚いて奈菜の方を見るが、表情はいたって無表情。

 なんだ、この胸の高鳴りを共有できる仲間がいるかと思ったのに......

 

「なぁ、風音。この奥ってどうなってるんだ?」

 

「えと......噂では《KTF》の何かの秘密があるとかって言われてるけど......」

 

「秘密かー」

 

 まぁ、十中八九がどこが出所なのかも分からない詮なき噂なのだろう。

 が、噂だろうがなんだろうがそんなことを言われると探検したくなるのが男の子だ。誰だって一度はあると思う、不思議で謎で、なにも分からない物や場所を暴きたいという欲求。

 探検したいな~。

 俺がそう思うと同時に、また隣からため息が聞こえた気がしたので振り向くが、奈菜が俺とは反対方向を向いているだけだ。

 気のせいか。

 

「あの、そろそろ儀式をしなきゃなんだけど......」

 

「あ、そっか。ごめんごめん」

 

 そうだった、俺たちはここに儀式とやらをしに来たんだった。

 あまりに少年心をくすぐられるものだからすっかり忘れていた。

 

「で、どうすればいいんだ?」

 

「うん......まずは扉に手を当てて」

 

 風音の指示に従い、俺と奈菜は巨大な門に手のひらを当てる。

 うわ。触ってみて分かったけど、この門、彫りとかものすごく細かいな......

 奈菜も同じようなことを思ったのか、扉を興味深げに見ている。

 

「それで......扉に触れている手に魔力を集めたら終わり」

 

「手に魔力って......俺、魔力だとか能力って使えないんだけど......」

 

「いえ、魔力にも多くの名称があります。心の力だとか、エネルギーとかです。だから魔力以外でも自分の力ならなんでも大丈夫だと思います」

 

 そうですよね? と奈菜が聞くと風音が頷いた。

 俺も「そっか」と返す。

 まぁ、とりあえずひと安心だ。ここまで入団拒否です、とか言われたら残念すぎる。

 ていうか、俺のこの力って、魔力でもあったんだ......俺、いつの間にか人の枠組みから一歩踏み出しちゃってたよ。あ、今更だったわ。

 俺は扉に触れている右手にいつもの要領で力ーー魔力を込める。

 その瞬間、バチィッ! と何かが弾けるような音が2つ同時に鳴り響いた。

 

「うわっ! っとっと! ......なんだこれ?」

 

 右手の甲を見ると、金色の線で描かれた何かの紋様が刻まれていた。

 奈菜の方を見ると俺同様に右手の甲に刻まれているようだ。

 とりあえず適当に擦ったりしてみるが、取れる気配はまったくない。

 あえてもう一度言おう......なんだこれ?

 すると俺の疑問に奈菜が答えてくれる。

 

「それがここ、日本支部の紋章です」

 

「これってなにかに使うの?」

 

「支部によって紋章の形状は違います。日本支部の紋章を刻んでいればこの施設に自由に出入りできるようになります」

 

「へぇ、会員証みたいなものか。でも、奈菜と俺ってこの紋章ないのにさっきここに入ってきたよな?」

 

「あれは加奈の能力を使って入ってきましたから」

 

 加奈、というのは多分俺たちがここに入ってきて最初に道案内してくれたあのテレポート女子のことだろう。

 つまり、これがあればまたあの時みたいに「気絶させてからじゃないと~」とか言われなくなるわけか。なるほどー。

 紋様を眺めていると、次第に輝きが薄くなっていき、最後には完全に消えて見えなくなってしまった。

 

「紋章は出したいときに手の甲に魔力を集めれば出てくるから......」

 

 ほー、何気に常時展開じゃないのは嬉しいかも。

 もしそうだったら町とかを歩くときは、わざわざ手袋とかして手隠さないと駄目だしな。

 しかも夏場に手袋着用とか、それは地獄すぎる。

 目の前にそびえ立つ巨大な門を再び見る。

 でも、これで儀式も終わりか。まったく儀式らしくはなかったが、まぁそれはいい。

 そんなことよりも......あぁ、やっぱりこの中って入らせてもらえたりしないのかな?

 

「あの、このあとは施設内を案内しろって言われてるんだけど......」

 

「えっ、でもいいのか? 風音もまだやることあるんじゃ......」

 

「今日は......もうないから」

 

「お願いしてもいいですか、風音先輩。明先輩と一緒は非常に嫌かもしれませんが」

 

 奈菜の言葉におずおずと頷く風音。

 えっと、風音さん。その頷きは案内してくれることに頷いてるんですよね? 俺と一緒の方じゃないですよね? 

 はぁ......それとなく風音を俺から離そうと思ってたんだけどなぁ。風音、俺のこと怖がってるし。

 といっても、案内なしにこの迷宮みたいな施設を迷わずに歩けるわけはないし......奈菜も俺同様戦力外だし。

 でも......

 風音に目を向ける。

 怯えたように逸らされる。

 ......俺の精神衛生上にも悪いんだよなぁ。

 

 




すいません、今回は新キャラを出せませんでした......
やろうと思えばできないこともなかったのですが、文字数がちょっと最長記録更新しそうだったのでここで切らせてもらいました。
次回こそは出てきます。
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