炎の少年~Only one Faith~   作:Aruki

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今回はちょっと短めです。
前回の最後のような男だけ、みたいなことにはならず、女の子は出てきます、やったー!


幕間 真と虚偽

 バタン。

 明が部屋から出ていった後、扉が閉まる音が支部長室に響く。

 その音を聴きながらその部屋の主、《KTF》日本中央支部支部長、久遠閃雅は微かに口許に笑みを浮かべていた。

 彼の親友である椎崎焔治、その息子の明が噂に聞いていたよりも立派に成長していたから。

 ーーではない。

 今、閃雅が浮かべている笑みはそんな暖かいものとはほど遠く、どこまでも冷たいものしかないような笑み。

 まるで、自分が描いた戦略通りに盤が進んでいる騎士のようだ。

 閃雅は誰かのために無償で人助けをするようなお人好しではない。

 だからこそ、先ほどまでの明との会話にもいくつか嘘が織り混ぜられている。

 楓から、明は勘がいいと聞いていた閃雅としては、その嘘が一つもバレなかったのは嬉しい誤算だった。

 もちろん、どこか明に不信がられたとしても誤魔化せる自信はあったが、それはそれで少々面倒だ。

 閃雅は座ったまま目をつむり、思考に没頭する。

 今回の『収穫』をもとに、これから誰をどう動かすか、その結果どのような事態が考えられるか、それを確認するために。

 しかし、数秒すると閃雅は細く目を開き、目線だけを部屋の右側の壁に向ける。

 そこには棚も机も何もない。ただ壁が直立するだけ。

 それでも閃雅は口を開く。

 

「盗み聞きとは、あまり感心しないな」

 

「あらー、やっぱり気付いてましたかー」

 

 すると、閃雅以外誰もいないはずの部屋の中から返事が返ってきた。

 その声の出どころは今閃雅が視線を向けている壁だ。

 そして声が響いた次の瞬間に、壁の一部がひとりでに動く

 いや、壁の向こう側から、声の主が壁に偽装された扉を開いたのだ。

 閃雅は、自分の予想通りの人物が、予想通りの調子で入ってくるのを見てため息混じりに苦笑いする。

 

「前から思っていたのだが、君は私のことを甘く見過ぎではないか? 楓くん」

 

「えー? そんなことないですよー。私の中の警戒者リストの1ページ目にあなたの名前は載ってますよー」

 

 部屋に入ってきた人物ーー楓は手帳の1ページ目を閃雅に見せながら言う。

 ちなみに閃雅の名前の下には『ニンジン』。その下には『セロリ』と書いてある。

 

「ははは! よく言うよ。現に君はその警戒相手にこうも簡単に『接近している』じゃないか」

 

「その台詞、魔力砲に乗せて返しますよー。あなただってこうも簡単に私に『接近させている』じゃないですかー。私のこと、舐めすぎじゃないですかー? あとギャグを拾ってくれない人は嫌いですー」

 

 楓の台詞に閃雅は肩をすくめる。

 その動作や会話の雰囲気はただ日常会話をしているように軽いものに見えるが、ある程度以上の実力者が今のこの状況を見れば卒倒するほど2人とも互いのことを警戒していた。

 それもそのはずだ、楓は閃雅のことをよく知る数少ない人物であり、閃雅も楓のことをよく知っているのだから。

 それこそ、互いの知られたくないことまでも。

 気を抜けば相手に貸しを作ることになり、かつ貴重な情報を取られる。結果、自分がどんどん不利になっていく。2人はそんな関係なのだ。常に相手の隙を窺っている。警戒するのも当然というものだ。

 

「それで、君から見て彼はどうだった」

 

 そんな互いの警戒を先に越えてきたのは閃雅だった。

 彼、というのはもちろん明のことだ。

 聞かれた瞬間、楓はニヤーッと笑う。

 

「面白い子ですよー。人間性もこれまでの人生もー。でもー、なによりも面白いのは私に向かって「嘘をつくのが下手」って言ってくれたことですかねー?」

 

「それは確かに面白いね。君に向かって嘘が下手だなんて......ということは彼自身は世界でもトップクラスの詐欺師ということなのかな?」

 

「まー、そうですねー。私結構自信あったんですけどねー。嘘つくのー」

 

 楓がショボンと肩を落とす。

 少し大袈裟な反応に見えるが、その言い分については閃雅も全面的に同意だった。

 この《KTF》、いや、おそらく世界単位で見ても嘘や虚術といった化かし合いにおいて楓と渡り合う人材を探すのは、不可能とまでは言わないが、あまり現実的ではない。

 そんな楓に対して明は「嘘が下手」なんてことを言ったのだから2人が笑みを溢すのも仕方がない。

 

「そんなことよりもー、私としてはなんで私に嘘をつかせたのかが気になるんですけどー?」

 

「それなら、先ほど明くんにも言ったようにーー」

 

「あー、違います違いますー。そんな表向きなものじゃなくてー、『本当の理由』の方ですよー」

 

 ニコニコ笑顔で楓が言う。

 閃雅もまた微笑む。

 

「......君ならもう気付いているだろう?」

 

「えー? こんな輝かしい20歳の女の子におじさんの思考をトレースしろー、なんて言われても無茶ですよー」

 

「君は本当に人を小バカにする子に関しては天才だね......」

 

 満面の笑みでバカにしてくる楓に、閃雅は苦笑いで返す。

 しかし笑うだけで閃雅はそれ以上話そうとはしない。

 その様子を見て楓は僅かにだが目を細めた。

 楓の見解では閃雅という人間は基本的にエゴイストだ。

 だから話して得になることなら躊躇いなくなんでも話すし、話してもなんの得にもならない、もしくは損になるようなことは絶対に話さない。

 そして楓の質問に答えないということは後者になる。

 得にならない、ということだけなら楓としてもそこまで興味は湧かないが、損になるから話さないということなら話は変わってくる。

 損になるから話さないということは、つまり何かしらの思惑があってそれがバレたくないということだ。

 しかもそれが閃雅ほどの人間になれば、かなりの規模の思惑である可能性が高い。

 それが分からないということはこちらに不利益になる可能性が高いから相手を探ってみよう、という考え方もあるが、そんなものよりも楓は単純に考えていた。

 

(この人の弱味を握れるなんてことそうそうないですからねー。これは是非とも手に入れたいですねー)

 

 と。

 楓としては、閃雅に貸しを作れるかもしれないというだけでも、相手の心中を探る理由になる。

 さぁ、どう料理しようかーー楓が脳内で閃雅を攻めるパターンを検討し始めた瞬間。

 

 

 

「まぁ、《KTF》のため、とだけ言っておこうか」

 

 

 

 閃雅が口にした言葉により、楓は先程とは違う理由で目を細める。

 閃雅の台詞は額面通り、《KTF》という組織のため、という意味ではない。

 それはこの組織の存在理由、そして立ち上げ理由でもある。

 それを知っているからこその楓の反応だ。

 ......これは割れそうにないな、そう思った楓は少し話題をずらす。

 

「じゃー、彼の親の話題をわざわざ出したのは彼を引き入れやすくするためですかー?」

 

「まぁね。彼のように疑り深い善人みたいなタイプは一度内側に入ってしまえば意外と脆い、というのは君も知っているだろう?」

 

(本当に嫌な人ですねー)

 

 そのためにわざわざ明の一番大事なものを話題に取り上げ、自分は味方だと認識させた。閃雅が言っているのはそういうことだ。

 今となっては、本当に閃雅と明の父親が親友だったのかさえ分からない。

 自分の目的のためには相手の大切なものだろうがなんだろうが利用する。それが久遠閃雅という男だ。

 確かに、楓も同種の人間ではあるが、閃雅のように誰でも彼でもというほど頭のなかが腐ってはいないと楓自身も思っていた。

 2人の間に奇妙な沈黙が訪れる。

 それは楓が責めるような視線を閃雅に向けているからではなく、閃雅が楓のことを自分と同種だと視線で言って嘲笑っているからでもない。

 ただ、2人の間の決定的な違いのために訪れた、奇妙な沈黙。

 そしてその沈黙は、10秒もしないうちに破られた。

 楓が入ってきた秘密の通路ではなく、正規の扉からノック音が響いたのだ。

 それと同時に閃雅は先程までとは違った視線を楓に向ける。

 これで話は終わりだ、とでも言わんばかりに。

 楓は内心でため息をつく。そしてそれを閃雅は了承と受け取ったようで、扉の向こうに「入りたまえたまえ」と声をかけた。

 

「失礼します。先日の事件について報告が......すみません、お話し中でしたか?」

 

「いや、大丈夫だよ。今ちょうど終わったところだ」

 

 入ってきたのは、閃雅の秘書をしている神田紗綾(かんださや)だった。

 紗綾は楓と同期で、楓とも仲が良い。黒髪ショートでつり目のクールなタイプな女性だ。

 中身も外見と同じように、凛とした真面目な性格で、少し真面目すぎるところが玉に傷、と楓は常々思っていた。

 

(容姿端麗なのにもったいないよねー。まー、かわいいー、とか言ってあげると照れるところがまたいいんだけどねー)

 

 紗綾の閃雅への報告が始まったところで楓は紗綾の隣を通って部屋を出ていく。

 本当は閃雅と話して疲れた心を紗綾を弄って解消したかったのだが仕方がない。

 と、そこまで考えたところで、ふとあることを思い付いた。

 

(......やっぱり、やられっぱなしっていうのは性に合わないしねー)

 

 思い立ったが吉日と言わんばかりに楓は後ろに振り返り、紗綾に小声で話しかける。

 話す内容はもちろんーー

 

 

 

「支部長さんの机の下ー、まーたおもちゃ持ち込んでるよー」

 

 

 

 ーー相手が最も嫌がる内容だ。

 閃雅もある意味、明が一番嫌がる内容を話したのだから何も悪いことはないだろう? 楓の目はそう語っていた。

 楓の言葉に紗綾は視線だけで礼を言うと、ゆっくりと、だが相手を威圧するように閃雅に近づいていった。

 それに対して閃雅はただただ怯えて体を震わすのみだ。

 

「あなたはまたこんなものを職場に持ち込んで!! これでもう何度目ですか!? 即刻処分します!!」

 

「す、すまん紗綾くん!! もう二度としないから、だからこれだけは、これだけは!!」

 

「問答無用です!!」

 

「あああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!??」

 

(......あとはしーらないっとー。私のお気に入りに手を出そうとするのがダメなんですよー)

 

 楓は少し軽くなったような気持ちで医務室に戻っていくのだった。

 

 




やっぱり大物、というのは書くのが難しいです。
しかもただ真面目な話だけをしているというのもなんか違う気がしますし......
次回でとりあえず説明祭りは終わりの予定です。
しかもギャグパートもやるので長めになる予定です。お楽しみ!
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