この小説を開いて下さった皆様、ありがとうございます!
ちゃっす。生雀と申します。
普段、趣味で書き溜めていたお話を、この機にハーメルンさんで小説として加筆しながら執筆させて頂きました。(頂きます)
これが処女作なので色々とごちゃっ、としてしまう所もあるかもしれませんが、どうぞ気長に笑ってお付き合い頂ければ幸いです。
追記、私事で申し訳ないのですが、丁度今受験でなにかと忙しくて、更新の頻度が遅くなってしまうかもしれません。
できる限りで早めに更新していくので、何卒理解のほどお願い致します。
* * *
少女は無知だった。
少女は空想の中で広がる未知に憧れた。
けれど、中途半端に膨らんだ希望も、願望も
悪意無き大人の都合と、筋書きのために
少しずつ、少しずつかき消されていった。
これは、ある“冒険に憧れたかった少女”の話。
* * *
「た、隊長ーっ!!」
ドタドタと慌てた様子で部屋に駆け込んできた男に、部屋の奥に居た男がゆっくり振り返る。
「はぁ、なんだミカエル」
ため息をつく男に、ミカエルと呼ばれた男は息を整えながらもなお、慌てた様子のまま言葉を継ぎ答える。
「はぁ…また……はぁ…シャンス様が、居な…いですっ!…けほっ」
それを聞き男は顔をしかめる。
「あ?あぁ…また?ついこの前も勝手に部屋抜け出して怒られたばっかりじゃんかよ…」
その一方で、隊長と呼ばれた男は呆れたようにそう漏らし、少し考える動作をした後、すっと部屋の入口の方へ歩く。
「……隊長?」
男は入口付近に立っていたミカエルの肩をポンと軽く叩き、彼を見ずに
「報告ご苦労様。まぁ、俺が連れ戻しておくよ」
「…へ!?えっ、ちょっ、なにも隊長が直接行く必要はっ!……って…聞いてないですよね…」
一瞬言葉を詰まらせたミカエルに後ろ手をひらりと挙げ、男は廊下を歩いていった。
* * *
「政治」「商業」「学業」
三大事業の中心地と言われる、フランス南西部に位置する、物資と情報の街『ヴェーリン』
別名「王宮都市」
国民からの信頼厚き王と、その国王の統べる国軍最強と呼ばれる“フレイン軍”の守るこの都市に住む者達は、日常が安心と幸福に溢れ、悩みを知らない。
と、誰もが口を揃えるような平和で魅力的な街。
しかしここに、確かに悩み苦しむ少女がいた。
「母さん…どうしてお祖母ちゃんまで」
街外れの小さな丘の上、2つの慰霊碑の前にしゃがみこむ少女は静かに泣いていた。
暖かくも冷たくもない風が少女のセミロングの髪を揺らせば、その金茶の髪の隙間からちらりちらりと見え隠れする、青く澄んだライトブルーの双眸は悲しげにゆらいでいるようだった。
そんな少女と相対するように、目下の街は賑わいを絶やさず暮れかけた陽に包まれていく。
「……もう私は」
「やっぱりここか、シャンス」
呟きかけた言葉はしかし、突然現れた声にかき消された。
その声にさして驚くわけでもなく、少女はさっと立ち上がり、声の主を振り返る。
「あれ兄さん、今日は直接向かえに来てくれたの?」
「お前なぁ…いつも言ってるだろ?勝手に出歩くなって」
少女を“シャンス”と呼んだ男は苦笑いする。
つられるようにシャンスもにっこりと笑みをうかべる。
_______直後、男の背後の木のかげから微かな衣ずれの音。
「っ!?」
「……!」
それに瞬時に反応した二人。
が、兄より僅かに早くそこからのぞく光るものに気づいたシャンスが素早く懐から短剣を抜き、目にもとまらぬ速さでその木を切りつける。
勢いそのまま木をトンっと蹴りあげ、逆上がりのように体を上向きに一回転させ地面におりたつ。
「ふぅ……」
軽く息をつき短剣を鞘におさめ直す。
顔にかかった髪を耳にかけながら、シャンスは兄へ向き直り小首をかしげる。
「兄さんが私に遅れをとるなんて…らしくないわ」
「あ…あぁ、ごめんシャンス」
兄は気まずそうに頬を軽く掻き、たった今シャンスが切り倒した木に足を向ける。
「んー…また盗賊の残党か」
へし折られかけている木の下、足が半分押し潰された状態で気絶していたのは、衣服も所々破けてボロボロの格好をした、痩せこけた男だった。
兄の後を追い、シャンスも倒れる男の側に屈む。
おもむろに男の首元に手をやり、何かを確かめたようにすぐに手をもどす。
「どうするの?この男。まだ息はあるみたいだけれど…」
「そうだな…」
兄は倒れる男の押し潰されかけた足をちらりと見やる。
「後で隊の誰かに回収にこさせるよ。どうせこの状態じゃあ、自力で起き上がることもできないだろうしな」
「そう、じゃあ…帰ろう」
兄の言葉に深く反応することなくシャンスはすっと立ち上がり、王宮へと向かう帰り道を歩き出す。
「……。」
「____。」
並んだ2人の兄妹の間には、同じ年頃の街の少年少女のように弾んだ空気も笑顔もなければ、軽い世間話の1つや2つもありはしないようだった。
「最近…」
その沈黙を先に破ったのは兄の方だった。
切り出しかけた言葉に、シャンスは顔を斜め下に向けたまま相槌を打つ。
「…うん?」
「最近ここらの街の郊外で、さっきの奴みたいな盗賊の残党がよく現れてるらしいんだ」
「……へぇ、兄さんも大変だね」
若干の間を置きシャンスがそう返す。
「シャンス……お前も気を付けろってことだ馬鹿」
兄がペチンとシャンスのおでこにデコピンを見舞う。
「っあぁ…うん、そうね」
そこでやっとシャンスが顔を上げ、少し驚いたように兄の方を見た。
そんなシャンスに兄は薄く笑い、小さくため息を溢した。
「……。」
再び会話が途切れてしまう。
森の道には、兄の着ている軽装備の鎧のたてる少しの金属音と、2人の足音だけが静かに響く。
「ねぇ、レオ兄さん」
「なぁ、シャヌ」
2度目の沈黙を破り声をあげたのは、シャンスと兄がほぼ同時だった。
声が重なったことへの驚きに、まず2人共動きが止まる。
それから互いにゆっくりと目を合わせ、顔を逸らしたのは、しばらく呼ばれることのなかったその懐かしい呼び名が、思い出したくない記憶のどこかに触れたからだったのかもしれない。